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魔王の娘と誕生日 後
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「な、なんで勇者様が」
大きく見開いた色違いの瞳。その瞳が大きく揺れて一瞬だけ泣き出しそうになっていた。勇者はそんなマーナを見て気まずげに頬を掻いた。
「スイレイ君にサプライズがしたいって頼まれて。それに俺もマーナちゃんの誕生日祝いたかったから来たんだけど……。
あ、そうだこれ。プレゼント、なんだけど」
手にしていたものを勇者が差しだす。綺麗にラッピングされた小さな箱。マーナは物言えずにその箱を受け取っていた。ありがとうと言おうと口が何度も開いているのだが、のどに詰まって言えずにいるのだった。
小さな肩が小刻みに震えている。
慌てて勇者はその肩を支えていた。どうしたのと声を掛けては肩や背を撫でている。スイレイも駆け寄って大丈夫といっていた。嬉しくなかったと問われてマーナの首は大きく横に振られた。違うと一杯一杯の声がマーナからでていく、。
「嬉しくて、本当にうれしくって……。勇者様ありがとうございます。勇者様に祝ってもらえるなんて思っていなかったので。ありがとうございます。
スイレイもありがとう。とっても嬉しい」
「良かった喜んでもらえて」
「なんか、逆に申し訳なくなるんだけど……。喜んでくれてありがとう。これからもよろしね」
ほっと二人は肩をなでおろしていた。勇者など今にも座り込みそうなほど安心してそれでマーナに微笑みかける。やっとマーナは落ち着いてきていてもう一度ありがとうと口にしていた。手の中の箱が少し歪む。
「あのこれ開けていいですか」
「うん。良いよ。あんまり豪華なものじゃないんだけど……。喜んでもらえると嬉しいかな」
「勇者様がくれたと言うだけで私にとっては宝物です」
恥ずかしそうに頬を掻く勇者。マーナはすぐに首を振ってそしてプレゼントの中身を見ていた。
マーナの目が見開いてきらきらと輝く。でも次の瞬間にはマーナは首を傾けていた。あのと勇者を見上げる。
「これは何ですか、勇者様」
「あれ、もしかして魔族は使ったりしないのかな。髪をまとめるための道具なんだけど……。背つめ難しいな。そうだ、マーナちゃん少しいいかな」
「はい」
問いかけたマーナに勇者は驚いていた。えっとマーナを見てからすぐに考え直して頭をかく。どうしようかと悩んだ勇者はマーナにお願いしていた。いいですけどといったマーナの髪に触れて素早い手つきでマーナの髪を結い上げていた。マーナが手にしている髪留めを使い固めていく。
できたよと笑ってから、あ、でもと勇者は困ったように鼻先をかいた」
「これだとマーナちゃんから見えないかな。ごめんね。俺こういう時どう説明していいかあんまりわからなくて」
「いえ、それはいいんですけど……」
「マーナちゃん凄くかわいいよ。似合っている」
マーナの手は髪留めに伸びていた。頭についてるそれを撫でていく。スイレイが笑っていてそれなら良かったと安心して微笑んでいた。
「ありがとうございます。勇者様。大切に使わせていただきます」
うんと頷いてから勇者は異様な殺気に気付いた。恐る恐るそちらを見る。正直見たくはなかった。何が起きているかなんて痛いほど分かっていたから。その場所では魔王がじっと勇者を見ていた。
無表情。表情の筋肉一つ動いていないが雰囲気としてはにらんでいるように感じる。そんな感じであるがやはり娘には甘い親ばかだ。その場にいた魔族たちを勇者たちの元に行かせないよう押しとどめていた。
「えっと、急にきてごめんなさい。マーナちゃんの誕生日だっているからその……」
勇者の声は先ほどよりずっととぎれとぎれで言葉を探していた。はあと魔王から出ていく吐息。顔の変化なんて欠片もないくせに相変わらず感情だけ如実に伝わってくる。
今は呆れていた。
「よくほいほいこちらの世界に来れるものだな。気味が悪くて寝込むぐらいの可愛げでもあったらどうだ」
「え」
魔王の言葉に勇者の目が丸くなった。
「そりゃあまあ、戦っていたのもあって嫌われてるんだろうなって恐ろしくはあるけど、別に気味が悪いとかは思ったことないけど……。まあ、確かにあっちの世界とは全然違うけど、こっちの世界はこっちの世界でちょっと気になったりするよ」
「……」
「勇者、さま」
何故か二人が驚いていた。マーナの色違いで大きな目と魔王の冷たい目が勇者を見てくる。はあとまた魔王がため息をついていた。
「折角のマーナの誕生日だ。お前を追い出すようなことはしないからその辺に居ろ。送っていくのも面倒だから泊まって明日は観光でもしてからかえればいい。その方がマーナも喜ぶだろう」
嫌そうながらそれも周りの魔族たちにそれでいいなと頷かせている魔王。マーナの瞳が輝いてすぐに笑みを作っていた。
「お父様、ありがとうございます」
「……今日は楽しむと言い。私は少々疲れたから休みに行く」
魔王は椅子から立ち上がって踵を返す。はいとマーナがお辞儀をして、勇者は大丈夫かと声をかけていた。当然とでも言えばいいのか魔王がそれに答えを返すことはなかった。
喧騒から離れた魔王は一人、足を止めていた。魔王城の廊下。窓の外を見れば見慣れ過ぎた景色が広がっていて魔王はその景色を睨むとそっと息を吐きだしていた。
「……ウィンディーネ。お前は今をどう思っているのだろうな」
大きく見開いた色違いの瞳。その瞳が大きく揺れて一瞬だけ泣き出しそうになっていた。勇者はそんなマーナを見て気まずげに頬を掻いた。
「スイレイ君にサプライズがしたいって頼まれて。それに俺もマーナちゃんの誕生日祝いたかったから来たんだけど……。
あ、そうだこれ。プレゼント、なんだけど」
手にしていたものを勇者が差しだす。綺麗にラッピングされた小さな箱。マーナは物言えずにその箱を受け取っていた。ありがとうと言おうと口が何度も開いているのだが、のどに詰まって言えずにいるのだった。
小さな肩が小刻みに震えている。
慌てて勇者はその肩を支えていた。どうしたのと声を掛けては肩や背を撫でている。スイレイも駆け寄って大丈夫といっていた。嬉しくなかったと問われてマーナの首は大きく横に振られた。違うと一杯一杯の声がマーナからでていく、。
「嬉しくて、本当にうれしくって……。勇者様ありがとうございます。勇者様に祝ってもらえるなんて思っていなかったので。ありがとうございます。
スイレイもありがとう。とっても嬉しい」
「良かった喜んでもらえて」
「なんか、逆に申し訳なくなるんだけど……。喜んでくれてありがとう。これからもよろしね」
ほっと二人は肩をなでおろしていた。勇者など今にも座り込みそうなほど安心してそれでマーナに微笑みかける。やっとマーナは落ち着いてきていてもう一度ありがとうと口にしていた。手の中の箱が少し歪む。
「あのこれ開けていいですか」
「うん。良いよ。あんまり豪華なものじゃないんだけど……。喜んでもらえると嬉しいかな」
「勇者様がくれたと言うだけで私にとっては宝物です」
恥ずかしそうに頬を掻く勇者。マーナはすぐに首を振ってそしてプレゼントの中身を見ていた。
マーナの目が見開いてきらきらと輝く。でも次の瞬間にはマーナは首を傾けていた。あのと勇者を見上げる。
「これは何ですか、勇者様」
「あれ、もしかして魔族は使ったりしないのかな。髪をまとめるための道具なんだけど……。背つめ難しいな。そうだ、マーナちゃん少しいいかな」
「はい」
問いかけたマーナに勇者は驚いていた。えっとマーナを見てからすぐに考え直して頭をかく。どうしようかと悩んだ勇者はマーナにお願いしていた。いいですけどといったマーナの髪に触れて素早い手つきでマーナの髪を結い上げていた。マーナが手にしている髪留めを使い固めていく。
できたよと笑ってから、あ、でもと勇者は困ったように鼻先をかいた」
「これだとマーナちゃんから見えないかな。ごめんね。俺こういう時どう説明していいかあんまりわからなくて」
「いえ、それはいいんですけど……」
「マーナちゃん凄くかわいいよ。似合っている」
マーナの手は髪留めに伸びていた。頭についてるそれを撫でていく。スイレイが笑っていてそれなら良かったと安心して微笑んでいた。
「ありがとうございます。勇者様。大切に使わせていただきます」
うんと頷いてから勇者は異様な殺気に気付いた。恐る恐るそちらを見る。正直見たくはなかった。何が起きているかなんて痛いほど分かっていたから。その場所では魔王がじっと勇者を見ていた。
無表情。表情の筋肉一つ動いていないが雰囲気としてはにらんでいるように感じる。そんな感じであるがやはり娘には甘い親ばかだ。その場にいた魔族たちを勇者たちの元に行かせないよう押しとどめていた。
「えっと、急にきてごめんなさい。マーナちゃんの誕生日だっているからその……」
勇者の声は先ほどよりずっととぎれとぎれで言葉を探していた。はあと魔王から出ていく吐息。顔の変化なんて欠片もないくせに相変わらず感情だけ如実に伝わってくる。
今は呆れていた。
「よくほいほいこちらの世界に来れるものだな。気味が悪くて寝込むぐらいの可愛げでもあったらどうだ」
「え」
魔王の言葉に勇者の目が丸くなった。
「そりゃあまあ、戦っていたのもあって嫌われてるんだろうなって恐ろしくはあるけど、別に気味が悪いとかは思ったことないけど……。まあ、確かにあっちの世界とは全然違うけど、こっちの世界はこっちの世界でちょっと気になったりするよ」
「……」
「勇者、さま」
何故か二人が驚いていた。マーナの色違いで大きな目と魔王の冷たい目が勇者を見てくる。はあとまた魔王がため息をついていた。
「折角のマーナの誕生日だ。お前を追い出すようなことはしないからその辺に居ろ。送っていくのも面倒だから泊まって明日は観光でもしてからかえればいい。その方がマーナも喜ぶだろう」
嫌そうながらそれも周りの魔族たちにそれでいいなと頷かせている魔王。マーナの瞳が輝いてすぐに笑みを作っていた。
「お父様、ありがとうございます」
「……今日は楽しむと言い。私は少々疲れたから休みに行く」
魔王は椅子から立ち上がって踵を返す。はいとマーナがお辞儀をして、勇者は大丈夫かと声をかけていた。当然とでも言えばいいのか魔王がそれに答えを返すことはなかった。
喧騒から離れた魔王は一人、足を止めていた。魔王城の廊下。窓の外を見れば見慣れ過ぎた景色が広がっていて魔王はその景色を睨むとそっと息を吐きだしていた。
「……ウィンディーネ。お前は今をどう思っているのだろうな」
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