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魔王の娘の誕生日
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何気なく扉を開けた勇者は酷く驚いていた。そこにいたのは予想していなかった人物、マーナの幼馴染のスイレイだったからだ。
「え、スイレイ君。なんでここに、あれ、それに一人……マーナちゃんは」
驚いてあたりを見てさらに驚いて問いかける。スイレイがここに一人で来たことはなかった。何回か来たことはあってもいつだってマーナが一緒だったのだ。スイレイはそんな勇者を前にしてマーナちゃんには内緒ねと唇に人差し指をあてる。勇者はますます混乱した。
「内緒って」
「僕マーナちゃんの誕生日会に勇者様をお誘いに来たんです。サプライズ気っとマーナちゃんが喜ぶと思って」
輝く目が勇者を見上げてきた。ぜひ協力してください。そうスイレイは言う。誕生日と勇者の口からは音が漏れていた。そう言えばあれから一年が過ぎていたのだった。
魔界には祭りと言われるようなものはない。
そんなものを必要とするような場所ではつい数年前までなかったそんな魔界の中で唯一祭りと同じぐらい盛大に行うものがあった。それは魔王の娘、マーナの誕生日会である。
その日は魔界全土に住まう魔族が魔王城に集まり、マーナの誕生を祝う。普段は陰鬱とした魔王城が華やかに飾り付けられてそれで魔族たちが明るく笑って歌って踊る。
魔王のお膝の上に座ってにこにことマーナがそれらを見つめるのだ。
出し物がすべて終わった後、ありがとうとマーナがみんなに向かい笑う。そしてその後魔王がマーナの名前を呼ぶ。
お決まりの流れ。
魔族全員、魔王とマーナを見る。その目はらんらんと輝いてマーナの言葉を待つ。マーナが何かを言えばすぐに動きだそうと静かだがざわめいている。
「今年は何が欲しい」
魔王が一度唾を飲み込んでから聞いた。去年は散々だった。今年はと魔王は切実な目でマーナを見つめる。マーナはにこりと笑った。
「今年は、何もいりませんわ」
部屋の中が固まった。
ひゅうと冷たい風が吹きすさんで隅から凍っていく。なんだとと魔王から低い声がでる。
「今年は何もいりません。去年とてもすばらしいものをもらったので今年はもういいです。欲しいものもありませんから」
愛らしく笑ってマーナは告げる。部屋の温度はどんどん寒くなっていく。にこやかだった魔族たちは悲鳴を上げたりそりゃあないですよ。プレゼント贈りたかったのにと嘆いたりと騒がしくなっていた。何か欲しいものをと求めるがマーナはでも首を傾ける。
「もう欲しいものなんてないから……」
眉を寄せるマーナ。何かないのかと顔はいつもと変わらないのに悲し気な魔王が聞く。ふるふるとマーナの首は横に振られて。
あのと騒ぎの中で声を上げたのは小さな体のスイレイだった。手を天井に向けて真っ直ぐに上げて僕と己を主張している。魔王とマーナ両方の目がスイレイを見た。
「どうした」
「どうしたの」
二人が問いかける。マーナはスイレイを見つけ笑顔になっていた。
「僕マーナちゃんにプレゼント用意してきて」
「え? プレゼント」
部屋の中の視線がスイレイに集まる。基本的にプレゼントはマーナが言ったものをと決まっているので厳しい視線が多かった。おい何やっているんだと叱責もあるが、それは魔王が睨んで黙らせていた。マーナは少し考えてから笑顔になる。
「スイレイからのプレゼントなんて嬉しい。なに」
「これなんだけど」
ふいとスイレイが指を振るとスイレイの前にラッピングされた大きな箱が現れる。マーナは目を大きくしてその箱を見た。
「ずいぶん大きいのね」
「きっと喜ぶよ」
にこにことスイレイは笑う。自信ありげなその笑みにマーナは楽しみだと言ってプレゼントのリボンを解いていた。はらりと落ちて、そして箱も簡単に開いていく。
大きな箱の中から人の姿が現れて……
マーナの目がさらに見開いた。
「えっと。誕生日おめでとうマーナちゃん」
箱の中に入っていたのは勇者だったのだ
「え、スイレイ君。なんでここに、あれ、それに一人……マーナちゃんは」
驚いてあたりを見てさらに驚いて問いかける。スイレイがここに一人で来たことはなかった。何回か来たことはあってもいつだってマーナが一緒だったのだ。スイレイはそんな勇者を前にしてマーナちゃんには内緒ねと唇に人差し指をあてる。勇者はますます混乱した。
「内緒って」
「僕マーナちゃんの誕生日会に勇者様をお誘いに来たんです。サプライズ気っとマーナちゃんが喜ぶと思って」
輝く目が勇者を見上げてきた。ぜひ協力してください。そうスイレイは言う。誕生日と勇者の口からは音が漏れていた。そう言えばあれから一年が過ぎていたのだった。
魔界には祭りと言われるようなものはない。
そんなものを必要とするような場所ではつい数年前までなかったそんな魔界の中で唯一祭りと同じぐらい盛大に行うものがあった。それは魔王の娘、マーナの誕生日会である。
その日は魔界全土に住まう魔族が魔王城に集まり、マーナの誕生を祝う。普段は陰鬱とした魔王城が華やかに飾り付けられてそれで魔族たちが明るく笑って歌って踊る。
魔王のお膝の上に座ってにこにことマーナがそれらを見つめるのだ。
出し物がすべて終わった後、ありがとうとマーナがみんなに向かい笑う。そしてその後魔王がマーナの名前を呼ぶ。
お決まりの流れ。
魔族全員、魔王とマーナを見る。その目はらんらんと輝いてマーナの言葉を待つ。マーナが何かを言えばすぐに動きだそうと静かだがざわめいている。
「今年は何が欲しい」
魔王が一度唾を飲み込んでから聞いた。去年は散々だった。今年はと魔王は切実な目でマーナを見つめる。マーナはにこりと笑った。
「今年は、何もいりませんわ」
部屋の中が固まった。
ひゅうと冷たい風が吹きすさんで隅から凍っていく。なんだとと魔王から低い声がでる。
「今年は何もいりません。去年とてもすばらしいものをもらったので今年はもういいです。欲しいものもありませんから」
愛らしく笑ってマーナは告げる。部屋の温度はどんどん寒くなっていく。にこやかだった魔族たちは悲鳴を上げたりそりゃあないですよ。プレゼント贈りたかったのにと嘆いたりと騒がしくなっていた。何か欲しいものをと求めるがマーナはでも首を傾ける。
「もう欲しいものなんてないから……」
眉を寄せるマーナ。何かないのかと顔はいつもと変わらないのに悲し気な魔王が聞く。ふるふるとマーナの首は横に振られて。
あのと騒ぎの中で声を上げたのは小さな体のスイレイだった。手を天井に向けて真っ直ぐに上げて僕と己を主張している。魔王とマーナ両方の目がスイレイを見た。
「どうした」
「どうしたの」
二人が問いかける。マーナはスイレイを見つけ笑顔になっていた。
「僕マーナちゃんにプレゼント用意してきて」
「え? プレゼント」
部屋の中の視線がスイレイに集まる。基本的にプレゼントはマーナが言ったものをと決まっているので厳しい視線が多かった。おい何やっているんだと叱責もあるが、それは魔王が睨んで黙らせていた。マーナは少し考えてから笑顔になる。
「スイレイからのプレゼントなんて嬉しい。なに」
「これなんだけど」
ふいとスイレイが指を振るとスイレイの前にラッピングされた大きな箱が現れる。マーナは目を大きくしてその箱を見た。
「ずいぶん大きいのね」
「きっと喜ぶよ」
にこにことスイレイは笑う。自信ありげなその笑みにマーナは楽しみだと言ってプレゼントのリボンを解いていた。はらりと落ちて、そして箱も簡単に開いていく。
大きな箱の中から人の姿が現れて……
マーナの目がさらに見開いた。
「えっと。誕生日おめでとうマーナちゃん」
箱の中に入っていたのは勇者だったのだ
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