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魔王の娘と村
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「じゃあ、みんなはここで。また夕方に迎えに来てください」
にっこりとマーナは笑って従者たちに伝えていた。勇者のすむ村の外れ、人がいない場所だ。初めのころこそ勇者の家の前まで従者に送ってもらっていたが、村の人間が恐れているのが伝わってきて早いうちから一人で行くようになっていた。
従者たちは最後まで送っていくと嫌がっていたし、魔王もいい顔はしなかったもののお願いですとマーナが頼めば簡単に許してくれていた。父親という生き物は娘にはどうしたって強くなれないのだった。そして村の中を勇者の家まで一人で歩く。
マーナが歩いていると村の人はみんな家の中に隠れるか、そっぽを向いてマーナから遠のいていく。あからさまに恐れられさけられているものの何かされるわけではないのでマーナは気にしないようにしていた。
自分の存在が悪いのだと言う事はちゃんと分かっているから。それでも勇者の元へ向かうマーナはその途中はてと首を傾けていた。
村はいつもと変わらない。変わらないけど何かがいつもと違っていた。みんな恐れるようにマーナを見ている。その中には子供たちもいて、マーナは何が違うのか気付いた。
村の中にいる子供たちの手の中に見慣れぬものが握りしめられているのだ。祭りでみた明かりにも似ているがそれよりは少し小さい。それを子供たち全員が握りしめている。
何かあるのだろうかとマーナは首を傾けながら早足で歩く。村を一人で歩く時間はなるべく最小限に済ませるようにしていた。後で勇者様に聞こう。そう考えて一旦気にしないことにした。
そうだったけどマーナの足は途中で止まっていた。
ちょっとあんたと村人に呼び止められたからだ。呼び止めたのは恰幅の良い女の人だった。女の人は顔を青褪めマーナを睨みながら、こっちへおいでと手招きしていた。なにかしてしまったか。されるのか。悪い考えを咄嗟に頭の中回らせながらマーナは躊躇い勇者の家までの道を見た。
勇者の姿は見えない。逃げた方がいいのか。でもここで逃げたら何か言われてしまうのでは。
女が呼ぶ。迷った末マーナは女の元へ近づいていた。
なんでしょうかと微笑む。女はマーナをじっと見下ろしていた。荒い呼吸をしていて、落ち着けと言い聞かすように深呼吸をしようとしていた。二回三回やってもうまくいかなかったが四回目でうまくいって七回目までしてからこれと女はマーナの元に手を差し出していた。
その手の中にはマーナが不思議に思った子供たちが手にしていたものが握りしめられている。
まるで渡すようなそのしぐさにマーナは首を傾ける。これはと自然と聞いてしまって。ランプだよと女は答えた。受け取ってくれと言われてますますマーナは混乱した。何でと声が出るのに女はそう言う日なんだとぶっきらぼうに答える。
「そう言う日」
「ああ、これから日が落ちるのが早くなっていくからね、子供たちが無事に家に帰ってくるようにって祈りの灯りをあげる日なんだ。
あんたは魔物だけど子供だからね。やるよ」
大きな目が見開いて何度も瞬きをしてしまった。数分固まってからもう一度マーナはどうしてと呟いている。何で私にと女を呆然と見上げる。驚愕し過ぎて動かなくなったマーナを前にして女は仕方ないだろうと言っていた。
「勇者様にあそこまで言われたら……」
「勇者様……」
「ああ、勇者様が何か月か前ぐらいから魔族の子供にだけでも普通に接してあげてほしいってお願いしてきてたんだ。魔族を恐れる気持ちも許せない気持ちも分かる。だからっていつまでも怯えたり、怒りを向けたりしているだけでは折角戦争がなくなっても平和にはならない。またいつか同じことが繰り返されるだけ。だからここは新たな関係を模索してほしい。
無理と言われるのは分かる。でもせめて子供たちとだけは頼む。魔族の子供だろうと子供は争いに何も関係ない。争いで苦しめるようなことはなくしてあげて欲しいんだって。
始めはねそんなこと言われてもって思ってたけど、ずっと私たちになんか頭を下げてくるあの子の姿見てたらね……。子供に罪はないっていうのは分かることでもあるからね。
恐ろしいは恐ろしいけど、少しはこっちから歩み寄らないといけないのかねって。だからほら。受け取っておくれ」
マーナの手の中に小さなランプが転がる。もう一つマッチの箱も手のひらに落ちた。勇者様の元に返れるようにねなんて言って女の人はすぐさまマーナの元を離れていく。ごめんねなんて言われているのにマーナは一拍遅れてから顔を上げていた。
喉を詰まらせながらそれでも言葉を口にしていた。
ありがとうと。そう言っていた。
女の人の口元がわずかに歪んだように笑って、少し手を振って去っていく。
その姿を最後まで見送ってからマーナはランプをぎゅっと握りしめていた。一歩勇者の家へと歩いていく。何んだが胸がやたらと熱く一杯になっていた。
叫び出したいようなそんな衝動の中で勇者の顔がマーナの中にパンパンに膨れ上がっていて、ああとマーナは思った。
勇者様にすぐに会いたい。会ってお礼を言ってそれで、それで、
好きって言いたいってそう胸の中に広がっている。
ああ好きだと思った。勇者様が好きだとマーナは感じていた。
掛けるように勇者の家に行ってノックも忘れて扉を開ける。驚いた勇者はマーナの手の中にあるものを見てもっと驚いては自分が手にしていたものを見ていた。
にっこりとマーナは笑って従者たちに伝えていた。勇者のすむ村の外れ、人がいない場所だ。初めのころこそ勇者の家の前まで従者に送ってもらっていたが、村の人間が恐れているのが伝わってきて早いうちから一人で行くようになっていた。
従者たちは最後まで送っていくと嫌がっていたし、魔王もいい顔はしなかったもののお願いですとマーナが頼めば簡単に許してくれていた。父親という生き物は娘にはどうしたって強くなれないのだった。そして村の中を勇者の家まで一人で歩く。
マーナが歩いていると村の人はみんな家の中に隠れるか、そっぽを向いてマーナから遠のいていく。あからさまに恐れられさけられているものの何かされるわけではないのでマーナは気にしないようにしていた。
自分の存在が悪いのだと言う事はちゃんと分かっているから。それでも勇者の元へ向かうマーナはその途中はてと首を傾けていた。
村はいつもと変わらない。変わらないけど何かがいつもと違っていた。みんな恐れるようにマーナを見ている。その中には子供たちもいて、マーナは何が違うのか気付いた。
村の中にいる子供たちの手の中に見慣れぬものが握りしめられているのだ。祭りでみた明かりにも似ているがそれよりは少し小さい。それを子供たち全員が握りしめている。
何かあるのだろうかとマーナは首を傾けながら早足で歩く。村を一人で歩く時間はなるべく最小限に済ませるようにしていた。後で勇者様に聞こう。そう考えて一旦気にしないことにした。
そうだったけどマーナの足は途中で止まっていた。
ちょっとあんたと村人に呼び止められたからだ。呼び止めたのは恰幅の良い女の人だった。女の人は顔を青褪めマーナを睨みながら、こっちへおいでと手招きしていた。なにかしてしまったか。されるのか。悪い考えを咄嗟に頭の中回らせながらマーナは躊躇い勇者の家までの道を見た。
勇者の姿は見えない。逃げた方がいいのか。でもここで逃げたら何か言われてしまうのでは。
女が呼ぶ。迷った末マーナは女の元へ近づいていた。
なんでしょうかと微笑む。女はマーナをじっと見下ろしていた。荒い呼吸をしていて、落ち着けと言い聞かすように深呼吸をしようとしていた。二回三回やってもうまくいかなかったが四回目でうまくいって七回目までしてからこれと女はマーナの元に手を差し出していた。
その手の中にはマーナが不思議に思った子供たちが手にしていたものが握りしめられている。
まるで渡すようなそのしぐさにマーナは首を傾ける。これはと自然と聞いてしまって。ランプだよと女は答えた。受け取ってくれと言われてますますマーナは混乱した。何でと声が出るのに女はそう言う日なんだとぶっきらぼうに答える。
「そう言う日」
「ああ、これから日が落ちるのが早くなっていくからね、子供たちが無事に家に帰ってくるようにって祈りの灯りをあげる日なんだ。
あんたは魔物だけど子供だからね。やるよ」
大きな目が見開いて何度も瞬きをしてしまった。数分固まってからもう一度マーナはどうしてと呟いている。何で私にと女を呆然と見上げる。驚愕し過ぎて動かなくなったマーナを前にして女は仕方ないだろうと言っていた。
「勇者様にあそこまで言われたら……」
「勇者様……」
「ああ、勇者様が何か月か前ぐらいから魔族の子供にだけでも普通に接してあげてほしいってお願いしてきてたんだ。魔族を恐れる気持ちも許せない気持ちも分かる。だからっていつまでも怯えたり、怒りを向けたりしているだけでは折角戦争がなくなっても平和にはならない。またいつか同じことが繰り返されるだけ。だからここは新たな関係を模索してほしい。
無理と言われるのは分かる。でもせめて子供たちとだけは頼む。魔族の子供だろうと子供は争いに何も関係ない。争いで苦しめるようなことはなくしてあげて欲しいんだって。
始めはねそんなこと言われてもって思ってたけど、ずっと私たちになんか頭を下げてくるあの子の姿見てたらね……。子供に罪はないっていうのは分かることでもあるからね。
恐ろしいは恐ろしいけど、少しはこっちから歩み寄らないといけないのかねって。だからほら。受け取っておくれ」
マーナの手の中に小さなランプが転がる。もう一つマッチの箱も手のひらに落ちた。勇者様の元に返れるようにねなんて言って女の人はすぐさまマーナの元を離れていく。ごめんねなんて言われているのにマーナは一拍遅れてから顔を上げていた。
喉を詰まらせながらそれでも言葉を口にしていた。
ありがとうと。そう言っていた。
女の人の口元がわずかに歪んだように笑って、少し手を振って去っていく。
その姿を最後まで見送ってからマーナはランプをぎゅっと握りしめていた。一歩勇者の家へと歩いていく。何んだが胸がやたらと熱く一杯になっていた。
叫び出したいようなそんな衝動の中で勇者の顔がマーナの中にパンパンに膨れ上がっていて、ああとマーナは思った。
勇者様にすぐに会いたい。会ってお礼を言ってそれで、それで、
好きって言いたいってそう胸の中に広がっている。
ああ好きだと思った。勇者様が好きだとマーナは感じていた。
掛けるように勇者の家に行ってノックも忘れて扉を開ける。驚いた勇者はマーナの手の中にあるものを見てもっと驚いては自分が手にしていたものを見ていた。
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