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魔王の娘と幼馴染み 後

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魔王の娘と幼馴染

 勇者のいなくなった勇者の家では気まずい沈黙が落ちていた。マーナも勇者の幼馴染もどうしていいか分からずその場に立ち尽くしてしまっている。ちらりちらりとお互いを見ては唇を尖らしていた。
 俯きあってどうにもならなさそうな雰囲気があった。
 そんな中で一番に動いたのはマーナの方だった。ねえと幼馴染に声を掛けて幼馴染を見る。幼馴染は少し顔を上げてマーナを横眼で見ていた。何という声は固くてお世辞にもマーナのことを歓迎しているとは思えなかった。
 マーナがもう一度俯いてその唇を小さく震わせていた。肩もわずかに震えている。
「勇者様ってどんな人なのか教えてもらえませんか」
「はあ」
 小さな声。さらに下を向いてその視界の先には自分のつま先どころかお腹まで見ていた。そんな風にやっとマーナが言えた言葉に幼馴染は声を上げて驚いていた。マーナを見つめる目は驚いている所か嫌悪が見え隠れしていて。
「どんな人ってそんなこと分かっているから勇者の婚約者になったんじゃないの。なんでそんなこと聞いてくるのよ」
幼馴染の言葉はとげとげしいものだった。今日もお泊りして分かっているから好きなんでしょうとそう言われるのにマーナの肩は先ほどよりも大きく揺れて、その唇もまた大きくとがっていた。奥歯を噛みしめながら手が震えるのをこらえている。
 知らないわとマーナから小さな声が出ていた。
「勇者様のことなんて私何も知らないわ。私が勇者様を好きになったのはお父様と戦っている姿を見たからなんだもの。
 お父様よりもずっと弱くて何度もお父様にやられているのに、それでも何度でもお父様に立ち向かっている。どんな苦しい目に遭っても諦めずに戦っている。そんな姿を見て好きになったの。
 勇敢で世界がとても愛おしんでる。誰より世界を愛している。その姿を好きになっただけで勇者様本人のことなんて私は何も知らない。
 だから今知りたいんです。勇者様はどんな人なんですか」
 俯いていた顔が言葉の途中上がっていた。色違いの目は僅かに濡れて幼馴染を真っ直ぐに見つめる。教えてくださいと真剣に乞うマーナを幼馴染は苦虫をかみつぶしたような顔で見つめ、そして、
 嫌だとそう口にしていあ。
 取り付く島もないほど一刀両断であった。まーなのめは一瞬見開くがそうなる事が分かっていたのか、どうして何て言うことはなかった。
「子供相手に大人気ないことを言ってる自覚はある。今の態度だって最悪だって分かってる。魔王の娘だろうが何だろうが。子供なんだから優しくしてあげるべきだって思っているの。でもやっぱり無理。今の話を聞いてももっと無理になった。
 勇者はね貴方が思っているような人じゃない。もっとずっと苦しんでるの。苦しんで悲しんでそれでも平気な顔をして生きてる。私はそんな勇者に幸せになって欲しいの。それなのにあんたは魔王の娘って立場を利用して勇者の婚約者になった。平和のために勇者を生贄にした。勇者のことなんて少しも知ってない癖に。
 勇者の手前言えなかったけどもういい。言うわ。私はあんたの事が大嫌い。いいえ、憎いのよ」
 幼馴染の目がマーナを見る。その目は人を心の底から嫌うものがする目だった。だけどマーナにはその目を悲しむ権利さえない気がして、それが彼女には一番苦しかった。
 何も言えず立ち尽くして、それでマーナは迎えもういるから。大丈夫だからといって勇者の家から立ち去っていた。




 陰鬱とした魔王城の中、その中庭にあるマーナの遊び場に辿り着いたマーナ。そこにいた少年が嬉しそうに笑った。
「あ、お帰り。マーナちゃん。どうしたのだいぶ早いけど」
 だがすぐに首を傾けてみる。問われてもマーナはすぐには答えられなかった。口を閉ざして答えに惑う。大丈夫と少年はマーナに近づいてその手を握り締めてくれていた。マーナの幼馴染の大切な友達だ。その友にすがるようにマーナは体を預けていた。
「私ねどうしていいのか分からないの。勇者様が好きだった。でもそれは勇者様が世界を好きだと思っていたからなの。この世界を己のすべてを掛けて守る。そんな勇者様の傍にいたらお父様がどうしてこの世界を好きなのかが分かると思った。そしたら私だってこの世界を好きになれるんじゃないかって……。
 今は好きでも嫌いでもないからどうしたら好きになれるか知りたかったの。
 勇者様なら教えてくれるって……。でも勇者様はこの世界が嫌いなのかもしれない。私の選択は間違いだったのかも。どうしたらいいんだろう」
 マーナの声はとてもか細くて今にも泣きだしそうな声だった
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