Sing with friends

ゆうまる

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Chapter3

>>6 My traumatic past

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「おっ買い物~! おっ買い物~! おかーさんとおとーさんと一緒におっ買い物~! 」
「こらこら。あんまりはしゃぐと危ないぞ」
「だって~! 久しぶりだから嬉しいんだもんっ! 」

 あたしは綺麗な青空の下、両親と一緒に手を繋ぎながらショッピングモールへ向かって歩いていた。両親の手の温もりは凄く温かくて、何処か懐かしく感じるのは何故だろう……。

 後少しでショッピングモールだ。この横断歩道を渡れば、もう着く。

 着いたら何をしようかな? 欲しい物が沢山あるんだよね。この間テレビで流れていた可愛いお人形さんも絶対に欲しいし……。

 信号の色が青に変わった。
 あたしは、横断歩道を渡ろうと足を1歩前に出す。

 ──その時、

『キキキキーッ!! 』

 と、物凄く大きな音がした。

「危ないっ!! 」

 その瞬間、あたしはおかーさんに身体を強く押されて、歩道の端へと突き飛ばされる。

「いてててて……」

 一体何が起こったというのだろう?
 何でおかーさんは、急にあたしを……?

 あたしは、ギシギシと痛む身体をゆっくりと起こして、辺りを見渡す。

 するとそこには、おかーさんとおとーさんが傷だらけになって倒れている姿があった。すぐ近くには電柱に衝突している車も見える。

 その瞬間、あたしは全てを理解した。
 おかーさんとおとーさんは、車に轢かれそうになっていたあたしを、身を挺して守ってくれたのだ。

「おかーさんっ!! おとーさんっ!! 」

 あたしは、両親の元へ行く為に、急いで横断歩道を渡ろうとした。しかし、周りの人に『危ないから下がっていなさいっ! 』と強く言われて、引き止められてしまう。

「救急車をっ! 」

 知らないおじさんやおばさん達は、慌てて携帯を取り出したり、あたしのおかーさんとおとーさんの元へ駆け出したりしていた。

 そんな様子を見て、あたしは途端に頭の中が真っ白になる。

 ──あたしも行かなくちゃいけないのに……。

 あたしのせいだ。
 もし、あの時横断歩道を渡っていなければ……。

 隣にいたおばさんは、『大丈夫だからね』と言ってあたしを抱きしめるが、何が大丈夫なのか全然分からない。

 おかーさんとおとーさんは大丈夫なのだろうか?
 あたしは一体、この先どうしたらいいのだろう……。
 そんな不安が頭の中を駆け巡る。

 心配で堪らず、遠くからおかーさんとおとーさんの様子を見ていると、ずっと倒れたままで、ピクリとも動いていなかった。……このままじゃ、あたしは色んな感情でグシャグシャになって、押し潰されてしまいそうだ。

「──ッ、」
 
 思わずあたしが泣き叫ぼうとすると、場面は急に変わり、今度は両親とよく一緒に来た事のあるおばーちゃん家の目の前にいた。

 ……隣に両親は居ない。
 ただ1人、おばーちゃんがあたしの右手を優しく握ってくれていた。

「今日から、ここが菜々ちゃんの新しいお家だよ」
「新しい……、お家……」

 両親とよく一緒に来た事があるとは言え、それでも見慣れない家だった。ここには、おかーさんもおとーさんもいない。今日からあたしは、この家におばーちゃんと2人で暮らすんだ……。



♢



「──っ、」

 目が覚めると、あたし──如月(きさらぎ)菜々(なな)は一筋の涙をポロリと零していた……。目の前は天井が広がっていて、辺りはまだ少し暗い。布団の端に置いてある置き時計をチラリと覗くと、まだ午前の4時過ぎだった。

 ……今日も学校があるけれど、それにしても早くに目を覚ましてしまった。

「……」

 どうして、今頃あんな夢を見てしまったんだろう。
 あの夢は、間違いなくあたしの過去だった──。辛くて、悲しくて、ずっと忘れられないあの日。

 早くに両親を亡くしたとはいえ、やっぱり思い出はいつまでも記憶の中にあるし、ずっと寂しかった。おばーちゃんの事は大好きだし、勿論感謝してもしきれない。それでも……、この場におかーさんとおとーさんも居てくれたなら、どんなに幸せだっただろうか。

 ……おばーちゃんは今、入院している。健康な身体で、絶対にあたしの元へと帰ってきてほしい。独りぼっちは寂しいから……。

 あたしは涙を手で拭ってから、ゆっくりと身体を起こして、顔を洗いに洗面所へと向かった。……本来ならまだこんな時間なので、もう一眠りするところだったが、眠れなかったのだ。またあんな夢を見るかもと思うと怖いし。

「……ジョギングでもしてこよう」

 その後はシャワーを浴びて、朝食を食べて学校へ行く支度をして……。

 ……学校か。
 行きたくないな……。

 あたしは、『はあ……』と溜息を1つ深く零してから、重たい蛇口をひねった。
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