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Chapter2 Vocal Contest 2021
>>10 audition description
しおりを挟むいよいよ、オーディションが始まった。
私達は、審査員の1人と思われる女性から、オーディションを開始するにあたっての流れや注意事項等の説明を受ける。
「面接は集団で行います。ランダムにグループを作ったので、まずは自分が何処にいるのかを確認してください」
女性はそう言うと、私達一人一人に書類を配った。
私はそれをチェックする。
そこには、3人の審査員と審査される側の人──つまり、私と菜々ちゃんを含めたいくつかのグループが記載されていた。
私と菜々ちゃんは、『青山(あおやま)秀三(しゅうぞう)ー4』という所にいる。そこの欄には、私達の他にも2グループ記載されていた。他の場所を見ても3グループ書かれている。1対3で行う集団面接……という事だろうか。
それにしても……、青山秀三?
何か、どっかで聞いたことあるような……。
どこで聞いたんだろう?
まあ良いや。
とりあえず私達は、この青山秀三という方に審査していただくのだろう。多分。
ふと、菜々ちゃんを横目で見ると、菜々ちゃんの書類を持つ腕がプルプルと震えていた。
どうしたんだろう……。寒いのかな?
そんなにクーラーの温度は低くないと思うけど……。
「──確認出来ましたか? 書類に記載されている様に、面接は1対3グループ……つまり、集団で行います。左から順に、『審査員の名前、数字1~4のどれか、3つのグループ』が記載されていると思いますが、この数字は順番です。1と書かれている方は1回目。面接に対する説明が終わり、準備が出来次第直ぐに面接を行います。1の面接が終わったら2、次に3……といった感じです」
……なるほど。
ってことは、私達は青山秀三さんに審査をしてもらうけど、4番目……つまり最終組ってことか。そして、やはり他2グループと一緒に集団面接で行われる様だ。
書類を見ると、青山秀三さんの他にもあと2人審査員が居るのだが、それぞれ他のグループを担当しているので私達とは関係無いらしい。1対3グループだもんね。
「面接時間は約20分です。それぞれが得意とする歌を歌い、審査員にアピールしてください。その後、こちらから簡単に質問をして面接は終わりです。合否発表は、全ての面接と判定が終わり次第、此処Bルームで行います」
約20分か……。
結構長いな……。
「次に待ち時間についてですが、履歴書を書いていただきます。判定は、面接と書類審査の2つで行う為です。履歴書の欄に自己PRがありますので、面接で補えない分は此処でカバーしてください。」
書類審査か。
まあ、普通あるよね……。
自己PR苦手なんだよな。どうしよう……。
「履歴書を書き終えたら、机の上にあるこの箱の中に入れてください。その後は、自分の順番が来るまで基本的に何をして頂いていても構いません。勿論、他者には迷惑をかけないでくださいね。真横に広い防音室がありますので、そこを使って声出し等を行って頂いても構いません。自分の好きな様に時間を使ってください」
あ。此処に来るまでに部屋が沢山あったけど、あの中には防音室もあったんだ……。
凄いなあ。このオーディションの為に、どれだけのお金をかけているんだろう。
まるでスターになった気分だ。
……んー。空き時間は、やっぱり防音室で声出しを行った方が良いよね。面接が本番だから、そこで歌う時の為に力を出しすぎてはいけないけど……。
「面接室は、Bルームを出て直ぐの階段を上った先にあります。沢山ありますので、書類をよく確認して間違えない様にしてください」
そう言われて書類をよく見ると、下の方に面接室と数字が書かれていた。
青山秀三さんの所は面接室『Bー3』と書かれている。これは確かにややこしそうだな……。間違えない様にしないと。
「面接時間は約20分ですが、それを4回に分けて行いますので、全体で計80分──約1時間20分かかると思われます。判定はその後、30分ほどで終わると思いますので、1時間50分──大目に見ても、今から約2時間後には合否結果を伝えます。4番目の面接が終わってそのグループが室内に戻ってきましたら、全員着席し、待機していてください。以上で説明を終わります。何か分からないことはありますか? 」
分からないこと……。
今の所特に無いけど。
私達は4番目に面接だから、自分の順番が来るまで履歴書を書いたりしながら待てば良いんだよね。面接室はBー3。面接が終わったら30分後には判定が分かるから、此処Bルームに戻って待機。
うん。大丈夫だ。
室内はシーンとしていて、誰一人質問する様子は無い。
女性はそれを見て、軽く頷いてから言った。
「それでは、履歴書を配ります」
私達は履歴書を受け取る。
高校受験の時に書いた様な物だと思っていたが、想像していたよりも結構細かかった。
チラッと何が書かれているのかを覗いてみると……、好きな食べ物?
好きな食べ物を知って、一体何になるというんだろう……。
「履歴書は全員行き渡りましたね。では、面接を始めます。準備がありますので、1番目の方は15分後には面接室にいる様にお願いします」
そう言って女性は軽く会釈をし、部屋を出て行った。
ドアが閉まった時、途端にフッと身体の力が抜けた。
「緊張したー……。あっ」
そして、それは思わず声に出てしまった。
一瞬『しまった』と思ったが、皆そうだった様で、静かだった室内からは徐々に話し声がチラチラと聞こえてきた。
良かったー……。
「ふふっ……。ゆかり先輩、緊張しましたね」
菜々ちゃんはそんな私を見て笑っているが、何か変だ。顔がひきつっているような、本心から笑っている訳では無いような……、そんな感じ。
緊張しているのかな?
そういえば、さっき菜々ちゃんの腕がプルプルと震えていたような……。
「どうかしたの? 」
菜々ちゃんの様子が気になって、私はさりげなく聞いてみる。
「ゆかり先輩……。青木秀三って知ってますか? あの人気歌手、〇〇等をプロデュースした超有名プロデューサーの事なんですが」
「……あーっ! なるほど! 何か聞いたことあると思ったよ! 」
超無知な私でも聞いたことあるレベルなのだから、相当有名な人なのだろう。
そういえば、テレビでも見たことがあるかもしれない。
「その人がどうしたの? 」
それ程有名なプロデューサーだから、そんな人に審査してもらうのが緊張する……とか?
しかし、菜々ちゃんは私が想像していた事とはまるで違う事を言ったのだ。
「ゆかり先輩……。Blue&Moonって、2人組の歌手のライブに前行きましたよね? 実は、その2人も青木秀三がプロデュースしたんです。青木プロダクションは、私がずっと所属したいと思っていた会社なんです……! つまり、そこに行けばBlue&Moonにも会えるってことなんですよ……っ! 」
「……っ!! 」
『Blue&Moon』
菜々ちゃんが、大好きでずっと憧れている歌手の事だ。
以前、菜々ちゃんは『Blue&Moonの様になりたい』と言っていた事がある。
青山秀三さんに認められれば……、菜々ちゃんは夢へ一気に近づけることになるのだ。
こんな奇跡みたいな凄いことがあっていいのだろうか……?
「それじゃあ、尚更頑張らないとね」
「はい! 勿論ですっ」
よく見ると、菜々ちゃんの瞳はキラキラと輝いていた。
もしかしたら菜々ちゃんは、緊張しているのでは無く、楽しみにしているのかもしれない。Blue&Moonをプロデュースした、超有名プロデューサー『青山秀三』を前にして面接出来る事を。
その時、1番目と思われるグループが立ち上がった。その趣は、見ているだけでこっちが緊張してくるぐらい固まっていた。
1番目だから、そりゃ当然かもしれない。心の準備をする時間が、圧倒的に少ない訳だし……。
『私達は1番目じゃなくて良かった』と思う反面、4番目も結構辛いのかもしれない。
長く緊張し続けなければいけないから……。
そして1番目のグループは部屋を出て行った。
──いよいよ1番目のグループの面接が始まる。
私はペンを握り締めて、履歴書に目を通した。
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