Sing with friends

ゆうまる

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Chapter1 Our dreams and the future...

>>4 Someday here

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 今日は、ゆかり先輩とある場所へお出かけをしに行く約束をしている。

 ある場所って?
 それはまだ……、秘密。

「菜々ちゃん、気をつけて行ってくるのよ。今日は天気予報だと晴れだって言ってたけど……、雨が降るかもしれないからね。はい傘」

 身支度をしていると、おばーちゃんが傘を持ってやってきた。

「おばーちゃん、傘は要らないよー。お天気お姉さんも、降水確率0%って言ってたもん」

 今日は、こんなに雲一つ無い良い天気なのに……。あたしは傘を受け取らないで、支度の続きをする。

「……菜々ちゃん、0%っていうのはね、必ずしも0とは限らないの。0.1でも0%って表示されることがあるんだよ」
「え? 本当に? 」
「本当だよ」

 おばーちゃんはそう言って、あたしの手に無理やり傘を握らせた。

 ……とは言ってもなあ、おばーちゃん、たまに嘘つくことあるし。何より、周りに傘持って歩いてる人絶対いないだろうなあ……。

 ゆかり先輩とか、傘持ってるあたしを見て凄くびっくりしそう。

「……ふふっ」

 想像したら面白くて、思わず笑ってしまった。

 おばーちゃんは突然笑い出したあたしを見て、ぽかんとしている……。

 しまった、またやっちゃった。
 あたしの悪い癖。

 あたしはどうやら、小さい時からツボが浅いらしくて、ちょっとしたことですぐ笑ってしまうんだ。そのせいで、よく変わり者……だとか言われる事が多いんだけど……、まあ、今はその話はいいや。

 こんな話をしている場合では無い。

 早く行かないと、ゆかり先輩との約束に遅れてしまう。

「行ってくるね! 」
「あ、ちょっとっ! 菜々ちゃん、」

 急いで靴を履いていた所、おばーちゃんに呼び止められる。

「お弁当、忘れてるよ」

 おばーちゃんの手には、私がお昼にゆかり先輩と食べようと思って作っていたお弁当があった。

「あっ! 本当だ、ありがとうおばーちゃんっ! 」

 あたしはおばーちゃんからお弁当を受け取る。

 いけない。
 せっかく作ったのに、忘れてしまうところだった……。

「じゃあ、行ってくるね! 」
「行ってらっしゃい、気をつけてね」

 あたしはおばーちゃんに軽く手を振ると、玄関のドアを開けた──……。



 今日は、あたしが想像していたよりもかなり良い天気だった。気温も丁度良くて、日差しが眩しい。最高のお出かけ日和だ。

 ……基本あたしは雨女なので、こういうお出かけの日は大抵雨が降ることが多いのだが、この天気ならその心配は無いだろう。

 予定の時間より少し遅れてしまったな……なんて思いながら、いつもの公園に着くと、そこにはもうゆかり先輩がいた。

「すみません……、待ちましたか? 」
「ううん、私も今来たばかりだから大丈夫だよ」

 ゆかり先輩はそう言って微笑んでくれた。

 敬語で話しかけられていた頃の事が、今となってはもう懐かしい……。こうしてタメ口で話しかけられると、何だか『仲良くなったんだなあ』という感じがして嬉しくなる。

「んーっと。まだ時間あるし、どっかでご飯食べようか。菜々ちゃんは何が食べたい? 」
「あ、それなら」

 『作ってきたから大丈夫ですよ! 』と言うように、あたしは鞄からお弁当箱を取り出した。

 勿論、ゆかり先輩の分もちゃんと用意してある。だが、ゆかり先輩がどれぐらい食べる人なのか分からなかったので、一応多めに作ってきたつもりだ。

「え? 菜々ちゃんお弁当作ってきたの!? 」
「はい! ゆかり先輩の口に合うかどうかは分からないですけど……、上手く出来たと思うので、良かったら食べてください! 」

 あたしはお弁当箱の蓋をパッと開ける。

 中身は定番の物を詰めてみた。
 おにぎりや唐揚げ、卵焼きにたこさんウィンナー、その他もろもろ……。

「わあ!! 凄い!! 美味しそうっ!! 」

 ゆかり先輩はそれらを見ると、目をキラキラと輝かせだした。そしてその口からは、今にもヨダレが垂れそうだ。

「ありがとう菜々ちゃん!! それじゃあ、いただきますっ!! 」
「ふふっ。どうぞ、沢山食べてください」

 ゆかり先輩は箸を手に取ると、あたしが想像していた以上にガツガツとそれらに手を伸ばしだした。……多めに作ってきて良かったかもしれない。

「んん~!! 美味いっ!! 」

 ……良かった。
 ゆかり先輩の口に合うかどうか、ちょっと不安だったのだが、本当に美味しそうに頬張る姿を見てあたしは安心した。

「菜々ちゃん、料理も得意だったんだね!! 特にこの卵焼きなんて、丁度良い甘さで、凄く美味しいっ!! 」
「……ふふっ。ゆかり先輩、食べながらお話するのは意地汚いですよ」
「はーい」

 ゆかり先輩は、頬にご飯粒を付けながら頷いている。本当に分かっているのだろうか……。でも、あたしは凄く嬉しかった。『作ってきて良かったな……』そう思いながら、あたしもご飯を食べる。

 ゆかり先輩は、本当に犬みたいだ。見ていると、あたしまで笑顔になってしまう。

「ふふっ」

 幸せだな。
 暖かい日差しの下で、こうしてゆかり先輩と楽しくお話しながらご飯を食べれるなんて……。

 ちょっと前までは予想もしていなかった。ゆかり先輩と出会っていなかったら、あたしは今日も1人だっただろう……。

 今日のお弁当は、不思議といつもよりも凄く美味しく感じた──……。



「ふうー。菜々ちゃん、本当に凄く美味しかったよ! ご馳走様でしたっ」

 ゆかり先輩は満足そうにお腹をさすっている。
 
 本当は、沢山作りすぎてしまったので残ってしまうんじゃないか、等と心配をしていたが、そんな必要は無かったみたいだ。お弁当箱の中はもう、見事に空っぽだった……。

 ひょっとしたら、ゆかり先輩はあたしが思っているよりも、大食いなのかもしれない……!!

「それにしても、本当に美味しかったよー!! 菜々ちゃん料理人になれるんじゃない?? 」

 いくら何でも褒めすぎだ。……とはいえ、褒められて嫌な人はこの世に居ないだろう。

 あたしは、思わず口角を上げてしまう。

「あたし、両親がいないから……。おばーちゃんばかりに無理はさせられないって思って、ご飯はよくあたしが作ってるんですよ」

 ……だからかな。
 気がついたら色んな料理が作れるようになっていた。おばーちゃんも美味しいって褒めてくれているので、腕には結構自信がある。

「そうだったんだね……。だからこんなに美味しいんだね。毎日私のご飯作ってほしいくらいだよ」

 『あはは』とゆかり先輩は笑った。
 それに釣られてあたしも微笑む。

 ほんと、お弁当作ってきて良かったな……。

 

「そろそろ時間だし、行こっか」

 ゆかり先輩はゆっくりと立ち上がる。

 もうそんなに経ったのか。
 あたしは公園に置いてある大きな時計をチラッと見た。

 ゆかり先輩と出会ってから、時間が過ぎていくのが最近やけに早く感じる。それだけゆかり先輩と一緒にいるのが楽しいって事なんだろう。……今まで友達がいなかったから。

 ……友達?

 あたしとゆかり先輩はどんな関係なんだろう。友達……では流石に無いよね。知り合い、かな?

「菜々ちゃん? 」
「……あ、」

 ゆかり先輩の声が聞こえて振り返る。
 ……いけない。また自分の世界に入り込んでしまった。

「すみません……、ちょっとボーッとしちゃってました」

 『てへ』っと舌を出して誤魔化す。

 ゆかり先輩はキョトンとしていた。





「ここですよ、ゆかり先輩っ!! 」

 あたし達が暮らしている町……、いや、県からはかなり遠い、Blue&Moonが今回ライブを行う会場に漸くたどり着いた。

 約5時間という、想像していた以上に長旅だったので足が痛い。ちなみに電車や新幹線に乗る時間も多かったのでお尻も痛い。

 しかし、やっとここまで来たんだ……!!

 大きな会場、沢山の人だかり。
 あと少し時間が経てば、Blue&Moonを間近で見られるんだ!!

 そう思うと、居ても立っても居られなくなる。

「ゆかり先輩!! 早く早くっ!! 」
「わわっ。ちょっと待ってよ、菜々ちゃん~!! 」

 あたしはゆかり先輩の腕を掴んで、会場の中へと走り出した。





「……っと、ここですね」

 あたしは、チケットに表示されていた座席番号を確認してから席に座った。ゆかり先輩も続くように隣の席に座る。

 客席はワイワイと賑わっていた。

 後30分くらい経てば、Blue&Moonのライブが始まる。……いつもより楽しみだと思ってしまうのは、きっと隣にゆかり先輩がいるからだろう。


「私、ライブ会場って初めて来たから凄く驚いたな……。こんなに大きい所なんだね」

 ゆかり先輩は辺りを楽しそうに見渡していた。

「そうなんですよ。いろんな会場があるので、もちろんここよりずっと小さい所もありますけどね。Blue&Moonはそれだけ人気なんですっ」

 『えっへん』と胸を張ってみる。
 何でお前が……と突っ込みたくもなるが。

 あたしも、初めてこの会場に来た時はゆかり先輩の様に驚いた。
 会場の広さに感激したからっていうのもあったけど、こんなにも沢山のファンがいたんだって、なんか自分の事のように凄く嬉しかった。

 ……それに、いつかあたしもここで歌うんだって思ったら、それだけで言葉に表せないような胸の高鳴りを感じてしまう。

 この会場には、沢山の夢があるんだ……!!

「菜々ちゃんから借りたCD聴いてみたけど、凄く良かったよ。特に、『Beautiful night sea』だっけ。私好きだったなあ」
「良い曲ですよね~! その歌はBlue&Moonの中でも人気な曲の1つなんですよ。もしかしたら今日歌うかもっ! 」


 ゆかり先輩と話をしていると、時間が過ぎるのが本当にあっという間で、気がつくとライブ会場の灯りが消えていた。客席もさっきまで賑やかだったが、徐々に静まっていく。

 あたしは菜々ちゃんと顔を見合わせた。

 ……始まる!!

『──皆~!! 今日は、私たちBlue&Moonのライブに来てくれてありがと~っ!! 』
「わーっ!! 」

 焦点にライトが集まり、ファンの皆は歓声を上げた。もちろんあたしも。

『今日は私たちと一緒にいっぱい盛り上がろうね~!! 』
「おーっ!! 」

 そして、1曲目が流れ出す……!!





 君の笑顔を見ることで
 僕は幸せになれるから
 もっと頼ってよ 相談に乗るよ
 1人じゃないんだよ
 君が泣いてる姿は
 僕も見たくはないんだ
 もっと叫んでよ その苦しみを
 1人で抱え込まないで
 未来の事は誰にも分からないよ
 それでも言える確かな事
 『笑っていれば幸は来る』

 走って
 諦めないで その手を伸ばして
 僕が掴んであげるよ
 いつか
 君がその困難を乗り越えた時に
 笑える未来を
 一緒に作っていこう
 その日はすぐそこに

 幸せはすぐ側に







「──凄く良かったですね!! Blue&Moonのライブ!! ドキドキがまだ止まらないです!! 」

 楽しかったライブは、あっという間に終わってしまった。

 今の気持ちを例えるなら、あの有名なテーマパーク、ディスティニーランドから帰る時の様だ。もっと居たかったな……。凄く楽しかったな。ライブが始まる前に戻ってほしい。そんな気持ち。


「初めて生でライブを見たけど……、凄く楽しかったよ。素敵な曲も沢山知れたし。今日は、誘ってくれて本当にありがとね」

 ゆかり先輩は楽しそうに鼻歌を歌っている。

 ……本当に良かったな。
 ゆかり先輩と一緒にライブを見ることが出来て。本当に、凄く楽しかった。

 1人でライブに行くのが、今まで楽しくなかった訳では決して無い。それでも、今回ゆかり先輩と一緒に来てあたしは思った。1人より、誰かと一緒に見た方がずっとずっと楽しいんだ……。


 それに、今回ライブを見に来て思ったことがもう1つある。


「……あたし、歌手になるのが夢って、前に言ったじゃないですか」
「そうだね」
「改めて思いました。あたし、歌手になりたい!! こんな大きな会場で歌って、今のゆかり先輩の笑顔みたいに……、沢山の人を笑顔にしたいんですっ!! 」

 会場を出ていく人達は皆、幸せそうな、キラキラした笑顔を浮かべていた。もちろんあたしもそうだ。Blue&Moonの歌に、あたしは今まで何度も支えられてきたが……、こうして生で聴いて、改めて色んな感情を貰ったんだ。『明日も頑張ろう』という気持ちや、『辛い事もあったけど、挫けない』という気持ち……。

 歌の力は本当に凄い。
 あたしも、こんな風に誰かを幸せに出来たら……。改めて、そう思った。


「──なれるよ。菜々ちゃんなら」

 ……え?
 ゆかり先輩の突然の言葉に、あたしは思わずキョトンとしてしまう。

「私は菜々ちゃんの歌に救われたよ。『私は執筆が好きだ』そう思ったの。……菜々ちゃんがいなかったら私は夢を諦めてたと思う。だから、菜々ちゃんならなれるよ」
「…………」

 ……嬉しいな。
 そう言ってもらえると、それだけで何か胸がいっぱいになって。
 

「……ありがとうございます。ゆかり先輩」

 ゆかり先輩と出会えて、本当に良かったなって思うんだ──……。
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