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第二章 氷麗姫と堅盾
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「おはよう。よく眠れたかしら?」
目を覚ますと、アルフィの美貌が目の前にあった。
「おはようございます……」
「昨日のティア、とっても可愛かったわよ」
そう告げると、アルフィは魅惑的な唇でティアに口づけをしてきた。
(昨日の私って……)
アルフィに女の悦びを教え込まれ、乱れまくった自分を思い出して、ティアは真っ赤に染まった。
「失神するほど気持ちよくなったのって、初めてでしょ?」
「はい……」
羞恥のあまり俯きながらティアが小さく頷いた。
「どうだった、感想は?」
そう告げると、アルフィは右手でティアの乳房に触り、優しく揉みしだいた。
「あっ……あ、アルフィ……女同士でこんなこと、おかしいです……あっ!」
乳首を引っ張られ、ティアが甘い声を上げて顎を反らせた。
「あたし、ティアみたいな可愛い娘、大好きなの。でも、こういうことすると、みんなパーティを辞めちゃうのよね。ティアは辞めないでね」
抗議をしようとしたティアの唇をアルフィが塞いだ。
柔らかいアルフィの舌が、ティアの口腔を舐め回した。
「ん……んぁ……んはっ……」
(これが、今までのメンバーが<漆黒の翼>を辞めた理由だったんだ……)
昨日、以前に何人かパーティメンバーが辞めてしまったとアルフィが告げていたことを、ティアは思い出した。
「アルフィ、やっぱりおかしいわ……女同士なんて……」
アルフィの唇から逃れるように、ティアは顔を逸らせながら告げた。
「人を好きになるのに、男も女も関係ないわ。ティアだって、昨日はあんなに悦んでいたじゃない?」
「それは……」
アルフィの指摘に、ティアが真っ赤に顔を染めた。
「それに、今だって……」
「あっ……!」
アルフィの右手がティアの叢をかき分けて、秘唇を撫で上げた。
「ほら、もうこんなに濡らしてる……」
アルフィは指で愛液を掬い取ると、ティアの目の前で親指と人差し指を付けたり離したりし始めた。ネットリとした透明な糸を引いていた。
「し、知らない……」
恥ずかしさのあまり、ティアは顔を背けた。
「ギルドに出かける前に、気持ちよくしてあげるわね」
そう告げると、アルフィはティアの両足を大きく開いて濡れた秘唇に指を差し入れた。そして、肉襞を抉るようにかき回しながら指を出し入れし始めた。
くちゅくちゅと卑猥な音色が響き始めた。
「あっ……だめ……やめて……あ、あっ、ああ……」
腰骨を蕩かすような愉悦が広がり、ティアは背筋を大きく仰け反らせた。
(だめ、流されちゃ……、でも、気持ちいい……だめ……)
「ティアが大好きなところも弄ってあげるわね」
アルフィは左手で肉の尖りを探し出すと、クルリと包皮を剥き上げた。
「ひ、ひぃあっ!」
峻烈な喜悦が背筋を舐め上げ、ティアは歓喜の嬌声を上げながら顎を反らせた。
ぐちゅっと音を立てて、愛液が一気に溢れ出た。
アルフィが剥き出しになった陰核を唇で啄むと、チューッと音を立てて吸い上げた。
「ひぃいい! だめぇ! それぇえ……!」
腰骨を灼き尽くすような官能の嵐に襲われ、ティアは総身をビックンッビックンッと痙攣させるとあっという間に絶頂した。
歓喜の頂点で硬直した裸体を脱力させると、ぐったりと弛緩した躰を寝台に沈ませた。
ビクビクと総身を痙攣させながら、凄絶な官能にトロリと蕩けたヘテロクロミアの瞳でティアはアルフィを見上げた。
「どう? 気持ちよかった?」
アルフィの言葉に、ティアは唇を戦慄かせながら小さく頷いた。腰から下が蕩けて溶けてしまったように感じた。
「夜にまた可愛がってあげるわ。食堂でダグラスと合流してから出かけましょう」
そう告げると、アルフィは寝台から起き上がり、衣服を身につけ始めた。
「まって……アルフィ……は、はぁ……うごけ……ない……」
目尻から随喜の涙を溢れさせながら、ティアがアルフィに告げた。細かい痙攣が続く躰には力が入らず、四肢の先まで甘く痺れていた。
「これを飲みなさい。中級回復ポーションよ。すぐに体力が戻るわ」
革の鞄から青い小瓶を取り出すと、蓋を開けてアルフィが渡してきた。
「ありが……とう……」
震える手で小瓶を受け取ると、ティアは一気に中身を飲み干した。
即効性という謳い文句に恥じず、躰の芯がポカポカと暖かくなり、急速に体力が戻ってきた。痙攣も治まり、手足の痺れもなくなった。
「お風呂でさっぱりしてきなさい。あんまり時間がないから、急いで入ってきてね」
寝台に腰を下ろしたティアの左頬に口づけをすると、アルフィが微笑みながら言った。
「はい……」
朝から乱れまくった恥ずかしさにティアは顔を赤く染めると、逃げるように浴室に走って行った。
一階の食堂に下りると、ダグラスは四人掛けの席で朝食を食べていた。
「おはよう、ダグラス」
「おはようございます」
アルフィとティアが挨拶をすると、ダグラスは笑顔を向けて言った。
「おはよう、よく眠れたか?」
「ええ、ぐっすりと寝られたわ。ねえ、ティア」
「は、はい……」
その言葉に、ティアは赤くなって俯いた。昨夜のことをダグラスに知られてしまうような気がしたのだ。
ダグラスとアルフィの付き合いは長い。二人でパーティを組んでから、すでに五年以上が経っていた。当然、ダグラスはアルフィの性格や好みを熟知していた。
(アルフィの奴、ティアに手を出したな)
ティアの態度からそう察したが、ダグラスはあえて何も触れずに話題を変えた。
「昇格試験までは、あと四日だ。練習になるような依頼でも受けておくか?」
「そうね、ちょうどいいA級依頼でもあればいいんだけど……」
アルフィは席に着くと、注文をするために手を上げて店員を呼んだ。
「朝のお勧めセットを二つお願いね」
「はい。かしこまりました。朝のお勧め、二つ入りまーす」
昨日の看板娘が大きな声で厨房に向かって叫び、そのまま他の客の注文を聞きに行った。
「A級依頼ですか? オーガキングみたいなのが相手なんですか?」
「まあな。俺とアルフィも手伝うから、S級依頼でもいいぞ」
「S級って……」
ダグラスの告げた台詞に、ティアは言葉を失った。
「どこの世界に、S級依頼をこなすクラスFがいるのよ?」
「確かにそうだな……」
アルフィの言葉に、ダグラスが笑い出した。その様子を見て、ティアも吹き出した。
「そう言えば、昨日のイーサンの言葉だけど、一人可能性がある剣士を思い出したわ」
笑いを収めると、アルフィが黒曜石の瞳に真剣さを映しながら言った。
「誰だ?」
「老師じゃないかな?」
「老師か……。なるほど、それならイーサンの言葉にも納得がいくな」
ダグラスが頷きながら答えた。濃茶色の瞳にも、真剣な光が浮かんでいた。
「老師って、誰なんですか?」
二人の様子から不穏な気配を感じ取り、ティアが訊ねた。
「剣聖ラインハルト……。ムズンガルド大陸で三人しかいない剣士クラスSSよ」
「け、剣士クラスSS……! それって、スカーレット姉さんと一緒……」
驚愕のあまり、ヘテロクロミアの瞳を大きく見開きながらティアが呟いた。
「スカーレット姉さん?」
口を滑らせたティアの言葉を聞き、アルフィが黒曜石の瞳に驚きを浮かべた。
ユピテル皇国の元帥であり、皇弟ロイエンタール大公の第一公女であるスカーレットを「スカーレット姉さん」などと呼ぶ者は、皇族以外にあり得なかった。
「あ……」
ティアは失言に気づくと、慌てて口を押さえてアルフィたちから視線を外した。
「なるほどね。あれほどの覇気を持っている理由は、そういうことなのね」
納得したようにアルフィは大きく頷くと、ティアのヘテロクロミアの瞳を真っ直ぐに見つめながら言った。
「ティア、その話はここでは止めましょう。夜にでもゆっくりと聞かせてもらうわ」
「……」
アルフィの言葉に、ティアは顔色を青ざめさせて頷いた。
「大丈夫。あたし、あんたのこと気に入ってるの。あんたが困るようなことは絶対にしないと誓うわ」
「ありがとう……アルフィ」
優しく微笑みかけてくれたアルフィの表情を見て、ティアはホッと胸を撫で下ろした。
二人のやりとりを黙って見守っていたダグラスが、雰囲気を変えるように告げた。
「話題を戻すぞ。アルフィの言うとおり、俺も老師の可能性が高いと思ってきた。『さすらいの剣聖』とも呼ばれるとおり、老師の居場所を把握することは難しい。逆に言えば、たまたま皇都に来ていることも考えられる」
「そうね。ギルドでイーサンを問い詰めましょう。もし試験官が老師なら、S級依頼くらい受けて覇気を自在に操れるようにしておかないと、一瞬で倒されるわよ」
アルフィがティアの顔をまっすぐに見つめながら、笑った。
「私、姉さんと何度か模擬戦をしたことがあるんです。でも、一合とまともに打ち合えたことなんて、一度もありません」
アルフィに正体がばれてしまったため、ティアはスカーレットの名前だけを伏せて正直に話した。
「あんた、冒険者登録する前に剣士クラスを持っていたんじゃないの?」
「はい。剣士クラスBでした。それでも、姉さんにはまったく敵いませんでした。私の本気の剣を、その場から一歩も動かずに片手で受け止められて、次の瞬間には吹き飛ばされているんです」
スカーレットとの壮絶な模擬戦を思い出すと、ティアは冷や汗を流しながら告げた。
「覇気を纏ったのね。たぶん、老師もそれをやるわよ。対策しておかないと、ダグラスの言うとおり一瞬で負けてしまうわ」
「でも、どうすれば……」
対策など思いもつかず、ティアが助けを求めるようにアルフィたちの顔を見つめた。
「覇気には覇気だ。覇気をぶつけ返すんだ。それで相手の覇気を相殺する」
ダグラスが微笑みながら告げた。
「覇気を相殺……。そんなことができるんですか?」
「俺が練習台になってもいいんだが、俺の覇気では老師に遠く及ばない。やはり、S級魔獣を相手にした方がいいな」
「それって、私にS級魔獣と戦えって言ってますよね?」
簡単なことのように告げたダグラスを、ティアが驚いて見つめた。
「危なくなったら、あたしたちが助けに入るわ。心配しないで」
「そんな気楽に……。S級依頼をこなすクラスFなんていないって言ってたのに……」
「あんた、クラスBだって言ったじゃない?」
楽しそうな笑顔で、アルフィが言った。その表情を見て、ティアは大きなため息をついた。
「分かりました。危なかったら、絶対に助けてくださいね」
「任せなさい。こう見えても、あたしは魔道士クラスSよ。危なくなったら、ちゃんと防御結界を張ってあげるわ。それに、死なれちゃったら、ティアのこと可愛がれなくなるじゃない?」
「あ、アルフィ……!」
ニヤリと笑いながら告げたアルフィの言葉に、ティアは顔を赤くしてダグラスを見上げた。
「そういうことだ。まあ、がんばれ」
口元に笑みを浮かべながら言ったダグラスの表情を見て、昨夜のことを知られていると悟り、ティアは茹で上がったように全身を真っ赤に染め上げて俯いた。
冒険者ギルドに着くと、ティアたちは真っ先に掲示板に張られている依頼を確認した。三十枚くらい張られている依頼の中で、アルフィが一枚を指差しながら言った。
「これ、どうかしら?」
「ふむ。いいんじゃないか?」
アルフィが指した依頼内容を読んで、ティアは大きなため息をついた。
【S級依頼】
・依頼内容……木龍の鱗を三枚入手する
・対象……冒険者ランクA以上(複数パーティ可)
・期限……一ヶ月以内
・報酬……白金貨五十枚
「木龍って、あの四大龍の一つですよね?」
ティアが呆れたようにアルフィに訊ねた。
このムズンガルド大陸には数百種類の魔獣が存在しており、まだ発見されていない魔獣もいる可能性もあった。だが、龍が最強の魔獣であるという認識はどのギルドでも共通していた。
その中でも、特に凶悪な四種類の龍を、四大龍と呼んでいた。
天龍、水龍、火龍、木龍である。
木龍は四大龍の中では最も弱いとされていたが、それでも通常はランクSパーティが複数であたる最強クラスの魔獣であった。
「そうよ。老師相手に戦うつもりなら、木龍くらい倒せないと話にならないわ」
近所に買い物に行くような気軽さで、笑顔を浮かべながらアルフィが告げた。
「冒険者のクラスで言えば、木龍はクラスS相当だと言われている。本来ならクラスSS相当と言われる天龍を相手にするのがいいんだが、さすがに三人ではきついからな」
「はあ……そうですか」
ティアはこの二人に何を言っても無駄だということを悟った。剣士クラスFに木龍を倒させようとするなど、常識というネジが緩んでいるとしか考えられなかった。
「取りあえず、これ受注してきましょう」
そう告げると、アルフィは木龍の依頼書を掲示板から剥がした。それを持って、そのまま受付に歩いて行った。
「これ、受けるわ。手続きをお願い」
「はい、わかりました……!」
依頼書の内容を見て、受付嬢が動きを止めた。驚愕に目を大きく見開いて、アルフィの顔を見つめた。
二十歳くらいの美しい女性が、四大龍討伐の依頼書を出したのだ。受付嬢の反応は、当然であった。ダグラスは、掲示板の横から受付を見つめて笑いを堪えていた。
「どうしたの? 手続きをお願い……」
「あ、あの……この依頼、本当に受けられるんですか?」
「そうよ。ダメかしら?」
「いえ……その……。ぎ、ギルド証の提示をお願いします」
言葉を濁す受付嬢に、アルフィがギルド証を首から外して渡した。
そのギルド証を眼にした瞬間、受付嬢が驚愕して叫んだ。
「ひ、『氷麗姫』っ……! し、失礼しました!」
受付嬢が背筋をピンと伸ばし、緊張しきった状態で依頼を処理し始めた。それを見ていたティアが、隣に立つダグラスに訊ねた。
「『氷麗姫』って?」
「ああ。アルフィの二つ名だ。クラスA以上になると、ギルドから二つ名を与えられるんだ。ちなみに俺は、『堅盾』だ」
「『氷麗姫』に『堅盾』ね。何か格好いいな」
ヘテロクロミアの瞳に興味を浮かべながら、ティアが呟いた。
「ティアもクラスAになれば、二つ名をもらえるぞ」
「二つ名って、自分で付けるんですか?」
「いや、イーサン……ギルマスの好みだ」
ダグラスの答えに、ティアはイーサンの顔を思い浮かべた。
(イーサンさんって怖い顔してるけど、センスはあるみたいね)
イーサンが付けた二つ名を気に入らずに、アルフィが自分で『氷麗姫』と名乗ったことなどティアは考えもしなかった。
目を覚ますと、アルフィの美貌が目の前にあった。
「おはようございます……」
「昨日のティア、とっても可愛かったわよ」
そう告げると、アルフィは魅惑的な唇でティアに口づけをしてきた。
(昨日の私って……)
アルフィに女の悦びを教え込まれ、乱れまくった自分を思い出して、ティアは真っ赤に染まった。
「失神するほど気持ちよくなったのって、初めてでしょ?」
「はい……」
羞恥のあまり俯きながらティアが小さく頷いた。
「どうだった、感想は?」
そう告げると、アルフィは右手でティアの乳房に触り、優しく揉みしだいた。
「あっ……あ、アルフィ……女同士でこんなこと、おかしいです……あっ!」
乳首を引っ張られ、ティアが甘い声を上げて顎を反らせた。
「あたし、ティアみたいな可愛い娘、大好きなの。でも、こういうことすると、みんなパーティを辞めちゃうのよね。ティアは辞めないでね」
抗議をしようとしたティアの唇をアルフィが塞いだ。
柔らかいアルフィの舌が、ティアの口腔を舐め回した。
「ん……んぁ……んはっ……」
(これが、今までのメンバーが<漆黒の翼>を辞めた理由だったんだ……)
昨日、以前に何人かパーティメンバーが辞めてしまったとアルフィが告げていたことを、ティアは思い出した。
「アルフィ、やっぱりおかしいわ……女同士なんて……」
アルフィの唇から逃れるように、ティアは顔を逸らせながら告げた。
「人を好きになるのに、男も女も関係ないわ。ティアだって、昨日はあんなに悦んでいたじゃない?」
「それは……」
アルフィの指摘に、ティアが真っ赤に顔を染めた。
「それに、今だって……」
「あっ……!」
アルフィの右手がティアの叢をかき分けて、秘唇を撫で上げた。
「ほら、もうこんなに濡らしてる……」
アルフィは指で愛液を掬い取ると、ティアの目の前で親指と人差し指を付けたり離したりし始めた。ネットリとした透明な糸を引いていた。
「し、知らない……」
恥ずかしさのあまり、ティアは顔を背けた。
「ギルドに出かける前に、気持ちよくしてあげるわね」
そう告げると、アルフィはティアの両足を大きく開いて濡れた秘唇に指を差し入れた。そして、肉襞を抉るようにかき回しながら指を出し入れし始めた。
くちゅくちゅと卑猥な音色が響き始めた。
「あっ……だめ……やめて……あ、あっ、ああ……」
腰骨を蕩かすような愉悦が広がり、ティアは背筋を大きく仰け反らせた。
(だめ、流されちゃ……、でも、気持ちいい……だめ……)
「ティアが大好きなところも弄ってあげるわね」
アルフィは左手で肉の尖りを探し出すと、クルリと包皮を剥き上げた。
「ひ、ひぃあっ!」
峻烈な喜悦が背筋を舐め上げ、ティアは歓喜の嬌声を上げながら顎を反らせた。
ぐちゅっと音を立てて、愛液が一気に溢れ出た。
アルフィが剥き出しになった陰核を唇で啄むと、チューッと音を立てて吸い上げた。
「ひぃいい! だめぇ! それぇえ……!」
腰骨を灼き尽くすような官能の嵐に襲われ、ティアは総身をビックンッビックンッと痙攣させるとあっという間に絶頂した。
歓喜の頂点で硬直した裸体を脱力させると、ぐったりと弛緩した躰を寝台に沈ませた。
ビクビクと総身を痙攣させながら、凄絶な官能にトロリと蕩けたヘテロクロミアの瞳でティアはアルフィを見上げた。
「どう? 気持ちよかった?」
アルフィの言葉に、ティアは唇を戦慄かせながら小さく頷いた。腰から下が蕩けて溶けてしまったように感じた。
「夜にまた可愛がってあげるわ。食堂でダグラスと合流してから出かけましょう」
そう告げると、アルフィは寝台から起き上がり、衣服を身につけ始めた。
「まって……アルフィ……は、はぁ……うごけ……ない……」
目尻から随喜の涙を溢れさせながら、ティアがアルフィに告げた。細かい痙攣が続く躰には力が入らず、四肢の先まで甘く痺れていた。
「これを飲みなさい。中級回復ポーションよ。すぐに体力が戻るわ」
革の鞄から青い小瓶を取り出すと、蓋を開けてアルフィが渡してきた。
「ありが……とう……」
震える手で小瓶を受け取ると、ティアは一気に中身を飲み干した。
即効性という謳い文句に恥じず、躰の芯がポカポカと暖かくなり、急速に体力が戻ってきた。痙攣も治まり、手足の痺れもなくなった。
「お風呂でさっぱりしてきなさい。あんまり時間がないから、急いで入ってきてね」
寝台に腰を下ろしたティアの左頬に口づけをすると、アルフィが微笑みながら言った。
「はい……」
朝から乱れまくった恥ずかしさにティアは顔を赤く染めると、逃げるように浴室に走って行った。
一階の食堂に下りると、ダグラスは四人掛けの席で朝食を食べていた。
「おはよう、ダグラス」
「おはようございます」
アルフィとティアが挨拶をすると、ダグラスは笑顔を向けて言った。
「おはよう、よく眠れたか?」
「ええ、ぐっすりと寝られたわ。ねえ、ティア」
「は、はい……」
その言葉に、ティアは赤くなって俯いた。昨夜のことをダグラスに知られてしまうような気がしたのだ。
ダグラスとアルフィの付き合いは長い。二人でパーティを組んでから、すでに五年以上が経っていた。当然、ダグラスはアルフィの性格や好みを熟知していた。
(アルフィの奴、ティアに手を出したな)
ティアの態度からそう察したが、ダグラスはあえて何も触れずに話題を変えた。
「昇格試験までは、あと四日だ。練習になるような依頼でも受けておくか?」
「そうね、ちょうどいいA級依頼でもあればいいんだけど……」
アルフィは席に着くと、注文をするために手を上げて店員を呼んだ。
「朝のお勧めセットを二つお願いね」
「はい。かしこまりました。朝のお勧め、二つ入りまーす」
昨日の看板娘が大きな声で厨房に向かって叫び、そのまま他の客の注文を聞きに行った。
「A級依頼ですか? オーガキングみたいなのが相手なんですか?」
「まあな。俺とアルフィも手伝うから、S級依頼でもいいぞ」
「S級って……」
ダグラスの告げた台詞に、ティアは言葉を失った。
「どこの世界に、S級依頼をこなすクラスFがいるのよ?」
「確かにそうだな……」
アルフィの言葉に、ダグラスが笑い出した。その様子を見て、ティアも吹き出した。
「そう言えば、昨日のイーサンの言葉だけど、一人可能性がある剣士を思い出したわ」
笑いを収めると、アルフィが黒曜石の瞳に真剣さを映しながら言った。
「誰だ?」
「老師じゃないかな?」
「老師か……。なるほど、それならイーサンの言葉にも納得がいくな」
ダグラスが頷きながら答えた。濃茶色の瞳にも、真剣な光が浮かんでいた。
「老師って、誰なんですか?」
二人の様子から不穏な気配を感じ取り、ティアが訊ねた。
「剣聖ラインハルト……。ムズンガルド大陸で三人しかいない剣士クラスSSよ」
「け、剣士クラスSS……! それって、スカーレット姉さんと一緒……」
驚愕のあまり、ヘテロクロミアの瞳を大きく見開きながらティアが呟いた。
「スカーレット姉さん?」
口を滑らせたティアの言葉を聞き、アルフィが黒曜石の瞳に驚きを浮かべた。
ユピテル皇国の元帥であり、皇弟ロイエンタール大公の第一公女であるスカーレットを「スカーレット姉さん」などと呼ぶ者は、皇族以外にあり得なかった。
「あ……」
ティアは失言に気づくと、慌てて口を押さえてアルフィたちから視線を外した。
「なるほどね。あれほどの覇気を持っている理由は、そういうことなのね」
納得したようにアルフィは大きく頷くと、ティアのヘテロクロミアの瞳を真っ直ぐに見つめながら言った。
「ティア、その話はここでは止めましょう。夜にでもゆっくりと聞かせてもらうわ」
「……」
アルフィの言葉に、ティアは顔色を青ざめさせて頷いた。
「大丈夫。あたし、あんたのこと気に入ってるの。あんたが困るようなことは絶対にしないと誓うわ」
「ありがとう……アルフィ」
優しく微笑みかけてくれたアルフィの表情を見て、ティアはホッと胸を撫で下ろした。
二人のやりとりを黙って見守っていたダグラスが、雰囲気を変えるように告げた。
「話題を戻すぞ。アルフィの言うとおり、俺も老師の可能性が高いと思ってきた。『さすらいの剣聖』とも呼ばれるとおり、老師の居場所を把握することは難しい。逆に言えば、たまたま皇都に来ていることも考えられる」
「そうね。ギルドでイーサンを問い詰めましょう。もし試験官が老師なら、S級依頼くらい受けて覇気を自在に操れるようにしておかないと、一瞬で倒されるわよ」
アルフィがティアの顔をまっすぐに見つめながら、笑った。
「私、姉さんと何度か模擬戦をしたことがあるんです。でも、一合とまともに打ち合えたことなんて、一度もありません」
アルフィに正体がばれてしまったため、ティアはスカーレットの名前だけを伏せて正直に話した。
「あんた、冒険者登録する前に剣士クラスを持っていたんじゃないの?」
「はい。剣士クラスBでした。それでも、姉さんにはまったく敵いませんでした。私の本気の剣を、その場から一歩も動かずに片手で受け止められて、次の瞬間には吹き飛ばされているんです」
スカーレットとの壮絶な模擬戦を思い出すと、ティアは冷や汗を流しながら告げた。
「覇気を纏ったのね。たぶん、老師もそれをやるわよ。対策しておかないと、ダグラスの言うとおり一瞬で負けてしまうわ」
「でも、どうすれば……」
対策など思いもつかず、ティアが助けを求めるようにアルフィたちの顔を見つめた。
「覇気には覇気だ。覇気をぶつけ返すんだ。それで相手の覇気を相殺する」
ダグラスが微笑みながら告げた。
「覇気を相殺……。そんなことができるんですか?」
「俺が練習台になってもいいんだが、俺の覇気では老師に遠く及ばない。やはり、S級魔獣を相手にした方がいいな」
「それって、私にS級魔獣と戦えって言ってますよね?」
簡単なことのように告げたダグラスを、ティアが驚いて見つめた。
「危なくなったら、あたしたちが助けに入るわ。心配しないで」
「そんな気楽に……。S級依頼をこなすクラスFなんていないって言ってたのに……」
「あんた、クラスBだって言ったじゃない?」
楽しそうな笑顔で、アルフィが言った。その表情を見て、ティアは大きなため息をついた。
「分かりました。危なかったら、絶対に助けてくださいね」
「任せなさい。こう見えても、あたしは魔道士クラスSよ。危なくなったら、ちゃんと防御結界を張ってあげるわ。それに、死なれちゃったら、ティアのこと可愛がれなくなるじゃない?」
「あ、アルフィ……!」
ニヤリと笑いながら告げたアルフィの言葉に、ティアは顔を赤くしてダグラスを見上げた。
「そういうことだ。まあ、がんばれ」
口元に笑みを浮かべながら言ったダグラスの表情を見て、昨夜のことを知られていると悟り、ティアは茹で上がったように全身を真っ赤に染め上げて俯いた。
冒険者ギルドに着くと、ティアたちは真っ先に掲示板に張られている依頼を確認した。三十枚くらい張られている依頼の中で、アルフィが一枚を指差しながら言った。
「これ、どうかしら?」
「ふむ。いいんじゃないか?」
アルフィが指した依頼内容を読んで、ティアは大きなため息をついた。
【S級依頼】
・依頼内容……木龍の鱗を三枚入手する
・対象……冒険者ランクA以上(複数パーティ可)
・期限……一ヶ月以内
・報酬……白金貨五十枚
「木龍って、あの四大龍の一つですよね?」
ティアが呆れたようにアルフィに訊ねた。
このムズンガルド大陸には数百種類の魔獣が存在しており、まだ発見されていない魔獣もいる可能性もあった。だが、龍が最強の魔獣であるという認識はどのギルドでも共通していた。
その中でも、特に凶悪な四種類の龍を、四大龍と呼んでいた。
天龍、水龍、火龍、木龍である。
木龍は四大龍の中では最も弱いとされていたが、それでも通常はランクSパーティが複数であたる最強クラスの魔獣であった。
「そうよ。老師相手に戦うつもりなら、木龍くらい倒せないと話にならないわ」
近所に買い物に行くような気軽さで、笑顔を浮かべながらアルフィが告げた。
「冒険者のクラスで言えば、木龍はクラスS相当だと言われている。本来ならクラスSS相当と言われる天龍を相手にするのがいいんだが、さすがに三人ではきついからな」
「はあ……そうですか」
ティアはこの二人に何を言っても無駄だということを悟った。剣士クラスFに木龍を倒させようとするなど、常識というネジが緩んでいるとしか考えられなかった。
「取りあえず、これ受注してきましょう」
そう告げると、アルフィは木龍の依頼書を掲示板から剥がした。それを持って、そのまま受付に歩いて行った。
「これ、受けるわ。手続きをお願い」
「はい、わかりました……!」
依頼書の内容を見て、受付嬢が動きを止めた。驚愕に目を大きく見開いて、アルフィの顔を見つめた。
二十歳くらいの美しい女性が、四大龍討伐の依頼書を出したのだ。受付嬢の反応は、当然であった。ダグラスは、掲示板の横から受付を見つめて笑いを堪えていた。
「どうしたの? 手続きをお願い……」
「あ、あの……この依頼、本当に受けられるんですか?」
「そうよ。ダメかしら?」
「いえ……その……。ぎ、ギルド証の提示をお願いします」
言葉を濁す受付嬢に、アルフィがギルド証を首から外して渡した。
そのギルド証を眼にした瞬間、受付嬢が驚愕して叫んだ。
「ひ、『氷麗姫』っ……! し、失礼しました!」
受付嬢が背筋をピンと伸ばし、緊張しきった状態で依頼を処理し始めた。それを見ていたティアが、隣に立つダグラスに訊ねた。
「『氷麗姫』って?」
「ああ。アルフィの二つ名だ。クラスA以上になると、ギルドから二つ名を与えられるんだ。ちなみに俺は、『堅盾』だ」
「『氷麗姫』に『堅盾』ね。何か格好いいな」
ヘテロクロミアの瞳に興味を浮かべながら、ティアが呟いた。
「ティアもクラスAになれば、二つ名をもらえるぞ」
「二つ名って、自分で付けるんですか?」
「いや、イーサン……ギルマスの好みだ」
ダグラスの答えに、ティアはイーサンの顔を思い浮かべた。
(イーサンさんって怖い顔してるけど、センスはあるみたいね)
イーサンが付けた二つ名を気に入らずに、アルフィが自分で『氷麗姫』と名乗ったことなどティアは考えもしなかった。
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表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
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