【ブルー・ウィッチ・シリーズ】 復讐の魔女

椎名 将也

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第7章 失った記憶

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「ここは……? 痛ッ……!」
 意識を取り戻すと、彼女は周囲を見渡した。その瞬間、突き刺さるような痛みを感じて、左手で頭を抑えた。額に包帯が巻かれていた。
(どこなの、ここは……?)
 歯を食いしばって激痛に耐えながら、彼女は改めて周囲を見渡した。

 豪華な装飾品が飾られた広い部屋だった。優に百平方メートルはあるだろう。豪奢な彫刻が刻まれた大理石の柱に沿って天井を見上げると、巨大なシャンデリアが視界に映った。視線を戻すと、白亜の壁には有名な油絵が飾られていた。横たわっていた天蓋つきの寝台や家具は優雅さと華麗さに満ちたデザインだった。だが、そのいずれにも見覚えはなかった。
(いったい、どうしてこんな所に……)

「……!」
 次の瞬間、凄まじい戦慄が彼女を襲った。彼女は愕然として、思わず両腕で肩を抱いた。
(そんな……バカな……!)
 激しい動悸で息が詰まりそうだった。我知らず、体が小刻みに震えていた。
「私は……」
 彼女は声を震わせながら呟いた。
「私は……、誰……?」
 記憶を……、全ての記憶を失っている自分に気づいたのだ。

(思い出せない……!)
 何かを思い出そうとすると、頭が割れる様に痛んだ。強烈な意志で激しい頭痛を抑制し、彼女は必死に記憶を呼び起こそうと試みた。
(何か、何でもいい、何かを……! 私の名前……職業……恋人……。何故、何も思い出せないの!)
 彼女はベッドから半身を起こし、震える自分自身を強く抱きしめた。

(クロス……?)
 彼女の脳裏に、一つの単語が浮かび上がった。それが何を意味するのか。自分の名前さえ思い出せない彼女にとって、どんな意味を持つ言葉なのか。
(分からない……。クロスって、十字架のこと……?)
 どんなに考えても、それ以上の言葉は思い出せなかった。

 彼女は寝台から下り立ち、窓際に歩み寄った。多少ふらつくが、記憶喪失以外の怪我はしていないようだった。
「クロス……」
 窓から夜景を見下ろしながら、再び彼女は呟いた。外は漆黒の闇だった。眼下には美しい輝きを放つ街並みが見えた。

(この部屋は十五階、いえ、二十階以上ね)
 この窓から見える範囲には、この建物よりも高い建造物は存在しなかった。
「なッ……!」
 窓に映った自分の顔を見て、彼女は驚愕した。無意識に左手で頬を撫でた。
 指先に感じた傷跡……。
 彼女の左頬には、約五センチにわたるy字型の裂傷があった。

(この傷……。普通じゃないわ!)
 彼女は鏡を探した。壁際にあるドレッサーを開き、彼女自身を映した。
 長い淡青色の髪、透き通るような白い肌。深い哀愁と強烈な意志を秘めたプルシアン・ブルーの瞳。そして、細く高い鼻梁と魅惑的なローズ・ピンクの唇。
 そこには、女神の彫像のような完璧な美貌を持つ女が映っていた。そして、その美しさを裏切るかのように、左頬にはy字型の裂傷が刻まれていた。

(ナイフじゃないわ。高熱を発する何かで火傷したような……)
 彼女は左手で裂傷をそっと撫でながら考えた。
(それほど新しい傷じゃない。今回の頭の怪我とは無関係だわ。どちらにしても、普通の社会生活で出来る傷じゃなさそうね……)
 彼女は、自分がまともな女ではないことに気づいた。少なくても、企業に勤めるOLなどとはほど遠い生活をしてきた女だと思った。

 全ての記憶を失っただけではなく、女性の命とも言える顔に大きな傷を見つけたのだ。普通の女性であればパニックを起こして当然である。その想像を絶する衝撃を、彼女は無意識のうちに抑制していた。余程の修羅場をくぐり抜けてきた人間でない限り、そのような芸当は不可能であるはずだ。

 その時、部屋の入口にある重厚な木製のドアがノックされた。彼女は緊張してドアを見つめた。再びノックが響き渡った時、彼女は入室の許可を告げた。
「どうぞ……」
「失礼……」
 一人の男がゆっくりとした動作でドアを開き、部屋の中に入ってきた。二十代後半の金髪碧眼の男性だ。百八十五センチくらいの長身で、彫りの深い精悍な顔をした男だった。

「意識を取り戻したようだね。具合はどうだい?」
 男が微笑みを浮かべると、彼女の顔を真っ直ぐに見つめながら声をかけてきた。
「あまり良くないわ……」
 彼女には訊ねなければならない事が、山ほどあった。普通であれば、取り乱してもおかしくない状況である。しかし、彼女は無意味に取り乱すよりも、冷静に自分の置かれている状況を把握することを選んだ。

「腰掛けてもいいかい?」
 男が部屋の隅に置かれた応接セットを指しながら訊ねた。磨き抜かれた大理石の応接卓の両脇に黒い革張りのソファが並んでいた。
「ええ……」
 男がソファに座るのを待って、彼女も彼の向かい側のソファに腰を下ろした。

「まず、自己紹介をしておこう」
(自己紹介? ということは、私と初対面って事ね)
「私の名前は、アラン=アルファ=イリス。イリス聖王家の第一王子だ」
「……!」
(王子……? この男が……?)
 彼女は驚いて男を見つめた。そう言われると、男の所作にはどことなく品があるように感じた。

「ここは私の叔父、アルカディア公の所有する軍事要塞<アルカディア>の一室だ」
「軍事要塞……?」
 彼女が思わず呟いた。
「信じられないかも知れないが事実だ。次は君の番だよ。君は誰だ? そもそも、何故この要塞に潜入してきた?」

(潜入……? 私が……?)
 彼女は言葉に詰まった。
 自分の名前さえ思い出せない彼女が、アランの質問に答えられるはずはなかった。
「どうした? 答えたくないのか?」
 アランが微笑みながら訊ねてきた。

「答えようとは思うわ。たぶん、あなたは私を助けてくれた。でも、私があなたに言えるのは、『分からない』という言葉だけよ」
 プルシアン・ブルーの瞳で真っ直ぐにアランを見つめると、彼女は真剣な表情で告げた。
「どういうことだ?」
 当然のことだが、アランが怪訝な表情を浮かべながら訊ねてきた。

「知らないのよ、本当に……。いえ、正確に言うと、思い出せないのよ」
「思い出せないだと……? まさか……?」
「そう、記憶がないの。残念なのは、あなたと私が初対面らしいってことね。そうでなければ、私は自分の名前くらい知ることが出来たのだけれど……」
 彼女は小さくため息をつくと、無理矢理笑顔を浮かべながら言った。

「信じられん。だが、君が記憶喪失を装う理由がない。私の質問に答えたくなければ、黙秘か、もしくは嘘をつけばいい。記憶喪失を装って後でボロを出すよりはね」
 アランが彼女を見つめながら言った。彼の言う通りであった。記憶喪失などを装っても、必ずどこかで露見するはずである。

「思い出せることは何もないのか?」
 アランが改めて訊ねた。
「残念ながら、期待にそえないわ」
「ドクターを呼ぼう。ここの医療施設はかなり充実している。おそらく最新治療が出来るはずだ」
「その前に、教えて……。何故、王子であるあなたが叔父様……アルカディア公って言ったかしら……の軍事要塞にいるの? そして、その軍事要塞に潜入したかも知れない私に、護衛もつけずに一人で会いに来たの?」
 彼女がアランの顔を見つめながら訊ねた。仮にも一国の王子が不審な女性に一人で会いに来るなど、正気の沙汰ではなかった。

「記憶がないってことは、当然あのクーデターも知らないってことか……」
 アランはイリス宮殿に勃発した大規模なクーデターを逃れ、ここに身を隠すまでのことを簡単に告げた。彼女は驚愕のあまりプルシアン・ブルーの瞳を大きく見開きながら、アランの話を聞いた。

「何故、私に全てを話すの? 私はここに潜入したんでしょう。ということは、私がその反乱軍のスパイという可能性もあるはずよ」
「潜入したという言葉は適切じゃないかもしれない。正確に言えば、突然現れたと言った方がいい」
「どういう事……?」
 彼女が怪訝な顔をした。その表情を面白そうに見つめると、アランは彼女がこのアルカディア要塞に姿を現した時のことを話し始めた。


「王子、ご無事でしたか?」
 アルカディア公マルク=ブラインズが、部屋へ入ってくるなり叫んだ。年は五十代半ばで、白髪の混じったブロンズを短くカットした初老の男である。この男こそ、惑星イリスを統治するオーディン三世の実弟であり、惑星イリスの十二選帝候の筆頭を担っている重臣であった。

「叔父上、お久しぶりです。このようなこととなり、しばらくご厄介になります」
 アラン王子が頭を下げた。
「何をおっしゃられる。この<アルカディア要塞>はイリス宮殿が陥落した時のためにあるようなものだ。ご自分の領地とお思いになってお過ごしになると良い。それより、聖王と皇后は如何なされた? また、ロザンナ王女は?」
「父上と母上の生死は分かりません。妹は、反乱軍に拉致されたとの連絡が先程入りました」
 アランが、怒りとも屈辱とも言える激しい感情を抑制しながら答えた。

「そうか……。しかし、王子の無事だけでも確認できたことは、我々臣下にとってこの上ない僥倖だ。体制を立て直し、すぐさまイリス宮殿奪還の戦端を開こう」
 アルカディア公が力強く言った。
「私もそのつもりです。ただし、敵の戦力、目的、そして、ロザンナの安否が分かりません。それらの詳細な情報を得ることが肝要です」
「もちろん、それは……」
「先程、私の独断で一個小隊をクリスタル神殿に潜入させました。彼らの帰還を待ってロザンナの奪還計画を立てたいと思います」
 アランがソファに腰を下ろしながら言った。

「反乱軍の首謀者は誰なのだ?」
 アルカディア公もアランの向かい側のソファに腰を下ろして訊ねた。
「確認できているのは、アルツバイアー領主ハワード伯爵ただ一人です。もちろん、これ程のクーデターです。彼一人の力とは考えづらい。おそらく、彼の背後に別の人間が存在しているでしょう」
「ハワードだと! 奴が……?」

 ハワード伯爵は、アランとロザンナにとって、彼らの教育係を務めた聖王の信頼も厚い重臣であった。アルカディア公とは三十年来の同胞である。
「奴は三十年もの恩義を仇で返すつもりか!」
 アルカディア公が激昂して怒鳴った。

 その時……!

「……!」
 アランの左サイドの空間に異変が生じた。彼の視線が<それ>に釘付けとなった。
「何だッ?」
 アルカディア公も異変に気づき、その方向を見て叫んだ。
 この<アルカディア要塞>は幾重にも特殊シールドで覆われており、いかなる電磁波、ミサイル、細菌兵器等の侵入を阻止している。

 しかし……。
 今、彼らの目の前に<それ>は突然現れたのだ。
 空間が揺らぎ、そして蒼い光彩を放った。その光彩が、徐々に輪郭を形成していく。
「テレポートかッ?」
 アランは立ち上がると、腰のホルスターから愛用のXM595を抜いた。そして、セーフティを解除すると、素早く銃口を<それ>に向けた。

 光彩の中から、人の輪郭が現れた。
 淡青色の髪の美しい女性だった。
「誰だッ?」
 アランが鋭く誰何した。XM595の照準はその女性の心臓部に合わせている。
「待て、アラン王子。気を失っているようですぞ!」
「何ッ?」
 アルカディア公の指摘に、アランが驚いて言った。

 光彩が急激に薄れた。と、同時に天井近くに浮遊していた女性が床に落下した。
「大丈夫か?」
 アランがXM595の銃口を向けながら、ゆっくりと彼女に近づいた。
 淡青色の髪の女性は、うつ伏せのまま動く気配がなかった。彼女は額から鮮血を流していた。
「怪我をしている……。叔父上、救護班を呼んで下さい」
「分かった」
 アランの依頼を受け、アルカディア公がルーム・ヴィジフォーンを取った。その間、アランは油断せずに女性を観察した。

(何という美しさだ!)
 アランは今までにこれほど美しい女性を見たことがなかった。彼の妹ロザンナ王女も、イリス宮殿では最高の美女と呼ばれている。しかし、今、彼の目の前にいる女性は、神が最高の材料で作り上げた芸術品とも言える美しさをまとっていた。 
「……!」
 アランは彼女の両腕に引きちぎられた電子手錠を見つけた。
(何処からか逃亡してきたのか?)
 彼は銃をホルスターに納め、壊れた電子手錠を外した。

「これを分析班へ……」
 異変を聞きつけて入ってきた部下に、電子手錠を渡した。
「ドクター、彼女の手当を……。叔父上、使える部屋は何処ですか?」
 アランが医師団に指示を出しながら、アルカディア公に訊ねた。
「何処でも……。そうだ、第三ブロックの<ルアーの間>は如何かな?」

 <ルアーの間>はVIP専用の貴賓室であった。豪華な装飾品と最新設備を兼ね備えたアルカディア公自慢の部屋である。
「そこならば、美しいご婦人が目覚めた時にお気に召すでしょう」
「そうして下さい」
 アランは答えながら疑問を感じた。

(叔父上は、突然テレポートして来たこの女性に不審を抱いていないのか?)
 普通であればこのような場合、独房とはいかないまでも、それなりに監視できる部屋を与えるはずである。<ルアーの間>はVIP貴賓室である為、逆に外からの監視や潜入がほとんど不可能であった。
「では、私は<ルアーの間>の隣にある部屋で彼女の意識が戻るのを待つことにします」
 アランは、アルカディア公が何か言いかけるのを無視して断言した。


「君はESPだ」
 アランがティアのプルシアン・ブルーの瞳を真っ直ぐに見つめながら告げた。
「ESP……。あなたの話が事実だとすると、私はテレポートでこの要塞に現れたのね」
 テアの言葉に、アランが頷いた。

「私は、GPSに<銀河系最強の魔女>と呼ばれる強力なESPがいることを聞いたことがある。その魔女は、淡青色の髪にプルシアン・ブルーの瞳を持つ絶世の美女だそうだ。そして、左頬にはy字型の裂傷があるという……」
「……! その魔女が私……?」
 彼女は驚いて訊ねた。

「たぶんね。彼女の名前はテア=スクルト。確か現在は、GPSを脱走してA級指名手配を受けているはずだ」
「テア=スクルト……。A級指名手配犯……?」
 次々と明かされる自分の正体に、彼女は戸惑いを隠せなかった。
「驚かすつもりはないんだが、このニュースを見て欲しい」
 アランは恒星間TVのモニターをオンにした。

「……!」
 テアは愕然とした。
 そこには、彼女自身の写真が放映されていた。<緊急指名手配>の文字とともに……。
 ニュース・キャスターが早口でSHL大統領ロバート=グローバル氏暗殺事件について語っていた。
「そんな……!」
 テアは言葉を失った。

「これが事実かどうかは私には分からない。ただ一つ言える事は、君とこの魔女が同一人物だという事だ」
 茫然自失しているテアに、アランが告げた。
(私がSHL大統領暗殺の犯人……?)
(<銀河系最強の魔女>……?)
(A級指名手配犯……?)
 テアは強い自制力で落ち着きを取り戻そうと試みた。差し出されたコーヒーを飲もうと左手を差し出す。

「……!」
 左手でコーヒーカップをつかんだ途端、カップの取っ手にヒビが入った。
「気をつけた方がいい。君は覚えていないかも知れないが、君の左腕は義手だ。それも戦闘用に作られた最大握力五百キロの超高性能義手のようだ」
 アランがコーヒーを飲みながら告げた。
「義手……?」
 驚いてテアが自分の左腕を見た。

 一見しただけでは本物の腕と見分けがつかなかった。産毛もあり、皮膚の下には毛細血管もあった。爪の先まで精巧に作られている。
「たぶん、最新クローン技術を駆使して作られたものだろう。私も医学班の報告を聞いて、自分の眼を疑ったくらいだ」
「……」
「しかし、その義手も君がテア=スクルトである何よりの証拠となるはずだ。余程の金持ちでもない限り、恒星間宇宙船が一隻買える程の莫大な金をかけて義手を作ったりはしないからね」

 アランはテアの義手の価値を告げた。彼の言うとおり、テアの左腕はGPSが科学の粋を結集して開発した強化細胞を培養して作られていたのだった。これは、通常のX線程度では見分けがつかないものである。逆に言えば、彼女の左腕を義手と看破したことからも、このアルカディア要塞の医療及び分析設備が、GPSに劣らず最新鋭のものであると言えた。

 テアは次々と明かされる自分自身を、極めて冷静に把握しようとしていた。アランは、彼女の様子を観察しながら驚嘆した。
(何て女だ! 記憶を失い、そしてSHL大統領暗殺の犯人だと告げられてもなお、パニックに陥っていない)
「あなた方は、私をGPSに引き渡すつもりなの?」
 テアのプルシアン・ブルーの瞳がアランを真っ直ぐに見つめた。

「君の正体を知った時、叔父上を含むこのアルカディア要塞の首脳陣はそういう意見だった。しかし、私は違う」
「……」
「私は君と取り引きしたい」
「取り引き……?」
 テアが怪訝な顔をした。

「君が本当にあの<銀河系最強の魔女>であるならば、今の我々にとって強力な切り札となる。簡単に言えば、我々がイリス宮殿を奪還する手助けを依頼したい」
「成る程ね。その間は、私の身の安全を保証するってわけね。でも、仮にイリス宮殿奪還に成功したとしたら、その後は……?」
 テアが淡青色の髪をかき上げながら訊ねた。
「君の活躍次第だ」
 アランが告げた。その言葉の裏にある意味をテアは読みとった。彼は、彼女を見逃す可能性を示唆しているのだ。

「私には選択の余地がないようね」
「交渉成立だな。君の安全は、私が責任を持って守ると誓おう」
 アランは太陽神ルアーの印を切った。
「ひとつ大きな問題があるわ」
「何だ?」
「あなたは私をESPだと言った。あなたの話が真実であれば、私はここにテレポートしてきたんでしょう?」

「そうだ」
「しかし、さっきから色々試しているのだけれど、今の私にESPは無さそうよ」
「どういう意味だ?」
 アランが驚いて訊ねた。
「そこのコーヒーカップを見て……」
 テアが、取っ手の割れたカップを見つめながらアランに言った。
「どう、動いた?」
 カップは微動さえしていなかった。

「記憶といっしょにESPも忘れたらしいわ」
 テアが微笑んで言った。美しいが、どこか淋し気な笑みだった。
「何だと……!」
 <銀河系最強の魔女>のESPに余程の期待をかけていたのだろう。アランは言葉を失った。
「どう、あなた方に協力したくても、期待にそえないかも知れないわよ」
 テアが残念そうに目を伏せながら告げた。

「……。ESPは期待はずれか……。だが、数限りない戦闘を生き抜いてきたブルー・ウィッチの力は無視できない」
「ブルー・ウィッチ?」
 テアが小首を傾げて訊ねた。
「言い忘れたが、<銀河系最強の魔女>は別名、青い魔女ブルー・ウィッチとも呼ばれている」
「青い魔女……」
 テアはその言葉に聞き覚えがないか記憶を探った。

(駄目だわ。何も思い出せない)
「よかろう。ESPは記憶さえ取り戻せれば、使えるようになるかも知れない。私は君を組むことを約束しよう」
 アランが迷いを振り切ったように、笑顔で言いながら席を立った。

『クロス』という言葉以外、全ての記憶を失った<銀河系最強の魔女>ブルー・ウィッチ。その彼女がSHL大統領ロバート=グローバル氏を暗殺したというのは、事実か、それとも何者かの罠か?
 アラン王子が退室した後、美しい魔女はアルカディア要塞の一室から惑星イリスの夜景を見つめていた。二つの月が漆黒の闇の中で、不吉な紅い輝きを放っていた。
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