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終章
3 星月夜の女豹
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「おはよう、凛桜……。体は大丈夫か……?」
「龍成……、おはよう……。体に力が入らない……」
一晩寝たにも拘わらず、まだ全身に甘い痺れが残っていた。目覚めのキスを交わしながら、凛桜は昨夜の愛撫を思い出した。
龍成とのセックスは、凛桜を数え切れないほどの桃源郷に誘った。大きな瞳から随喜の涙を流しながら、凛桜は何度も絶頂を極めて悶え啼いた。「許して」という言葉を幾度口にしたのかさえ覚えていなかった。限界を超える極致感の奔流に、凛桜は自分が壊れてしまう恐怖さえ感じた。あれほどの快感を得たのは、初めてだった。
「あんなに感じたの、初めて……。凄かったわ……」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら呟くと、凛桜は龍成の胸に顔を埋めた。
「ずいぶんと乱れてたな。自分から腰を振りまくって……痛ッ!」
豊かな胸を押しつけながら、凛桜は龍成の脇腹をつねった。
「ばか……。誰のせいよ……。ホントに死ぬかと思ったんだから……」
「ハッ、ハッ、ハハッ……。悪かった。じゃあ、俺はそろそろ行くぞ。今日は非番だろう? ゆっくりと休んでいろ……」
再び口づけをすると、龍成がベッドから起き上がった。その鍛え上げられた逞しい裸体を見つめながら、凛桜が小さく頷いた。
「うん……。仕事が終わったら連絡して……。夕飯を作っておくわ」
「ああ、楽しみにしている。では、行ってくる……」
手早く衣服を身につけると、龍成が凛桜の頬にキスをしてから部屋を出て行こうとした。その背中に向かって、凛桜が声を掛けた。
「行ってらっしゃい、気をつけてね……」
龍成は振り返って片手を上げると、凛桜のマンションから出て行った。
(久しぶりのオフだし、服でも見に行こうかな……? 帰りに夕食の材料を買って、今日は龍成の好きなビーフシチューにしてあげようっと……)
倖せそうな笑みを浮かべながら、凛桜は右手をついてベッドから起き上がろうとした。だが、カクンと肘が折れて、凛桜はシーツの上に崩れ落ちた。まだ、手足に力が入らなかったのだ。
「まったく、こんなになるまでしないでよ……」
そう言いながらも、凛桜は倖せそうな笑みを浮かべた。全身の甘い痺れが、龍成に愛された証跡に他ならなかった。
(もう少し、休んでから行こう……)
再びベッドに裸身を横たえると、凛桜はゆっくりと瞳を閉じた。瞼の裏に、龍成の精悍な顔を思い描いた。
(龍成……愛してる……。この世界の誰よりも、あなたを愛しているわ、龍成……)
愛しい男の面影に抱かれながら、凛桜は安らかな寝息を立て始めた。
警視庁西新宿署の姫川玲奈警視が<楪探偵事務所>を訪ねてきたのは、その日の午後二時だった。瑞紀と玲奈にお茶を出して応接室から出て来た美咲が、錦織にこっそりと耳打ちした。
「雄ちゃん、あの二人、すごく怖い雰囲気なんだけど、何かあったの……?」
「気のせいだろ……? 何にもあるはずねえよ……」
そう告げながら、錦織は閉じられた応接室のドアを見つめた。
(<西新宿の女豹>と<星月夜の女豹>か……。新宿で一、二を争うおっかねえ女が火花を散らすところなんざ、絶対に居合わせたくねえな……)
神崎純一郎を巡って、二人の女豹が恋敵となったことを思い出し、錦織はブルッと全身を震わせた。
「今日はあなたに話があって来たの……。でも、その前にお礼を言っておくわ。ファヴィニーナまで助けに来てくれてありがとう。今こうして生きていられるのも、あなたたちのおかげよ……」
玲奈は瑞紀に頭を下げると、緩やかにウェーブが掛かったセミロングの髪を右手でかき上げた。その非の打ち所もない美しい仕草に、瑞紀は緊張しながら告げた。
「いえ……。私は大したことをしていません。龍成やアラン、純たちが……」
そこまで言って、瑞紀はハッとして言葉を止めた。玲奈の美しい黒瞳が鋭い光を浮かべながら瑞紀を見据えていた。
「純……ね。あたしがあなたに会いに来たのは、瑞紀と純一郎の関係を確認するためよ。純一郎があたしの初めての男だってことは話したわよね」
「はい……」
射抜くような視線で見つめられ、瑞紀はゴクリと生唾を飲み込んだ。<西新宿の女豹>の放つ圧力が、瑞紀を包み込んだ。
「十二年前、あたしたちは恋人同士だったわ。ある事情で別れてからずっと、あたしは純一郎を憎み続けたわ。そして、十二年という長い時間を経て、あたしたちは再会した。そして、あたしは純一郎に抱かれ、今まで抱いていた憎しみが愛情であったことに気づいた……」
「……」
玲奈の言葉に、瑞紀は黙って彼女の顔を見つめた。
「純一郎がファヴィニーナまで来てくれたことを聞いたとき、本当に嬉しかった。そして、彼が重傷を負ったことを知らされ、心臓が止まるかと思った。今のあたしにとって、純一郎は何よりも大切な男よ。あなたにとって、純一郎はどんな存在なのかしら?」
挑むような視線で瑞紀を見つめながら、玲奈が訊ねた。
「すべてです」
黒曜石の瞳で真っ直ぐに玲奈を見つめると、瑞紀が一切の躊躇もなく言い放った。
「すべて……?」
「はい。純は私のすべてです。大切だとか、愛しているとかは言うまでもありませんが、それ以上に純はすでに私の半身なんです。もし、彼を失ったら、私はすぐに後を追います」
「瑞紀……」
激しすぎる瑞紀の真情を聞かされ、玲奈は言葉を失って彼女の顔を見つめた。
「この三ヶ月間で、私は数え切れないほど純に愛されました。それと同じ数だけ、私も純を愛しました。すでに、純と私は一つなんです。純が麗華をまだ愛していることも、玲奈さんを大切に思っていることも知っています。それらを全部含めて、今の純なんです。麗華や玲奈さんに対する嫉妬がないかと聞かれたら、嘘になります。でも、私は純のすべてを受け入れます。何故なら、すでに純は私自身だからです」
黒曜石の瞳に燃えさかる激しい愛の炎に、玲奈は圧倒された。何者にも絶ち切ることができない確かな絆が瑞紀と純一郎の間にあることを、玲奈は思い知らされた。
「あたしの負けみたいね……。さすがに<星月夜の女豹>と呼ばれるだけあるわ、瑞紀……」
「玲奈さん……」
大きなため息をついた玲奈の顔を、瑞紀が見つめた。
「純一郎に伝えておいて……。たった今、あたしの奴隷から解放してあげると……」
「はいッ……!」
瑞紀が嬉しそうな笑顔を浮かべて、玲奈を見つめ返した。
「冷静に考えれば、警視庁の警視がヤクザの若頭と恋人同士になれるはずないわよね。瑞紀なら、極妻として<櫻華会>を仕切っていけるわ。がんばりなさい」
「ご、極妻って……」
ニヤリと笑いながら告げた玲奈の言葉に、瑞紀はカアッと顔を赤らめた。
「何を赤くなっているの? 純一郎と一心同体なんでしょ? あいつと添い遂げるってことは、<櫻華会>の姐さんになるっていうことよ。覚悟しておくことね」
「は……はい……」
(純と結婚したら、私が<櫻華会>の姐さんに……)
瑞紀は真っ赤に染まりながら、小さく頷いた。純一郎は近い将来、<櫻華会>の会頭になる男だった。その妻になると言うことは、彼とともに<櫻華会>を背負って立つ立場になることに瑞紀は初めて気づいた。
「それじゃ、あたしはそろそろ行くわ。純一郎のことは任せたわよ、瑞紀……」
「はい……。ありがとうございます、玲奈さん」
差し出された右手を握り締めながら、瑞紀が笑った。
応接室から出た玲奈を、瑞紀はエレベーターホールまで見送った。
「あいつが浮気をしたら、すぐに知らせなさい。あたしがブタ箱に放り込んであげるから……」
エレベーターに乗り込むと、玲奈が笑いながら告げてきた。
「はい、その時はよろしくお願いします」
「では、またね……」
「失礼します、玲奈さん……」
手を振る玲奈に頭を下げると、エレベーターの扉が閉まった。瑞紀はしばらくの間、閉じた扉を見つめていた。
(純と結婚するとか、<櫻華会>の姐さんになるとかなんて、どうでもいいわ……。私は純の側にずっといるだけでいい。純のことを、一生愛し続けるだけでいいわ……)
瑞紀は大きく頷くと、気持ちを切り替えて事務所の扉を押した。そこには彼女を待つ三人の部下たちの笑顔があった。
「瑞紀さん、姫川警視の用事って何だったんですか? 凄く恐い雰囲気でしたけど……」
大きな瞳を輝かせながら、美咲が興味津々といった様子で訊ねてきた。
「おいおい……。顧客の依頼は秘密厳守だぞ、姫……。興味本位で聞くもんじゃない」
「だって、雄ちゃん……」
プウッと頬を膨らませながら、美咲が錦織に向かって不満そうに告げた。
「心配しなくても大丈夫よ、美咲……。玲奈さんは私の後ろ盾になってくれることになったわ」
瑞紀の言葉に、錦織が驚いて眼を見開いた。純一郎との関係を知っている錦織は、玲奈が瑞紀を責めに来たのだと思い込んでいたのだ。
「オリさんも……、大丈夫です。ちゃんと話をして、玲奈さんには理解してもらいましたから……」
「そうですか……。あの<西新宿の女豹>を降すなんて、<星月夜の女豹>の方が一枚上手だったか……」
「ちょっと、変なこと言わないでください。そんなんじゃありませんから……」
瑞紀は笑いながら錦織に告げた。その様子を見ていた俊誠が、楽しそうな表情を浮かべながら訊ねた。
「姫川さんの彼氏を、瑞紀さんが奪っちゃったとか……? 女豹同士が男の取り合いなんてしたら、面白そうですね」
その言葉に、瑞紀が動きを止め、錦織が顔を引き攣らせた。
「え……? えッ……? ウソ……? ホントに……?」
二人の様子を見つめていた美咲が、大きな眼を輝かせながら満面の笑みを浮かべた。
「白銀さんって、姫川警視の彼氏だったんですか? それを瑞紀さんが奪い取ったんですかッ?」
「ち、ちょっと……違うわよ、美咲……」
瑞紀が慌てて否定すると、助けを求めるように錦織を見つめた。
「姫、チョコレートあげるから、向こうで食べようか……?」
「何言ってるのよ、雄ちゃん! 白銀さんと瑞紀さん、姫川警視の三角関係なんて、凄いメンツじゃないッ! 絶対に見逃せないわッ!」
興奮して叫んだ美咲を扱いかねて、錦織が困ったような視線を瑞紀に送った。
「美咲、勘違いしないで……。私の彼氏は龍成じゃないわ。彼とはもう何も関係ないわよ」
「それって、白銀さんと別れたってことですかッ!」
瑞紀の言葉に、今度は俊誠がパアッと顔を輝かせながら叫んだ。
「別れるも何も……もともと、龍成とは単なる相棒……」
「そういうことだ。瑞紀は白銀と別れて、俺を選んだ……」
突然、後ろから現れた純一郎が、瑞紀の肩を抱きながら告げた。
「純……! 驚かさないで……。いつ入ってきたのよ?」
「たった今だ……。迎えに行くって言っただろう?」
「そうだけど……」
二人のやり取りを呆然と見つめていた美咲が、ハッと我に返って訊ねた。
「俺を選んだって……? 瑞紀さんと神崎さんが……? そう言えば、ずっと二人でイタリアにいたんでしたよね?」
「そうだ……。三ヶ月間、ずっと一緒だった」
「ち、ちょっと、純……。あなたはずっと病院に入院してたじゃない?」
カアッと顔を赤く染めながら、瑞紀が純一郎を睨みながら告げた。純一郎はニヤリと笑みを浮かべると、美咲と俊誠に向かって言った。
「瑞紀は俺の女だ。そして、俺は瑞紀の男だ。覚えておいてくれ……。瑞紀、もう仕事は終わりだろう? 帰るぞ」
「待って、純……。みんな、これは……」
全員の前で堂々と恋人宣言をされ、瑞紀は耳まで真っ赤に染めながら動揺した。
「バカ……、神崎、やり過ぎだ……」
「瑞紀さんと神崎さんがそう言う関係だったなんて……!」
「そんな……。瑞紀さんが……」
三人の三様な態度に見送られながら、瑞紀は純一郎に手を引かれて事務所から連れ出された。驚きと恥ずかしさのあまり、言葉も出なかった。
「ちょっと、純……。あんな風に言われたら、私、恥ずかしくて明日事務所に行けないわ」
エレベーターに乗り込むと、瑞紀が純一郎の顔を見つめながら文句を言った。
「本当のことだ。別に隠す必要なんてないだろう?」
「でも……んッ……んぁッ……」
瑞紀の抗議の言葉を遮るように、純一郎が唇を塞いできた。そして、ネットリと舌を絡められ、濃厚に口づけをされた。
「もう……こんなところで……こんなキス……しないで……」
唾液の糸を引きながら唇を離すと、トロンと官能に蕩けた瞳で純一郎を見つめながら瑞紀が告げた。
「お前こそ、こんなところでそんなに物欲しそうな顔をするな……。俺のマンションに着くまで我慢していろ……」
「ばか……。物欲しそうな顔なんて、してないわ……。この、絶倫魔神……」
そう告げると、瑞紀は純一郎の左腕に腕を絡めて、豊かな胸を押しつけた。純一郎に抱かれることを想像し、秘唇が濡れているのが自分でも分かった。
純一郎の部屋は、<櫻華会>本部の近くにある七階建てのマンションの一室だった。最上階にある広いリビングに入ると、歌舞伎町の夜景が一望に見下ろせた。だが、瑞紀は夜景を楽しむ暇も与えられずに、真っ直ぐに寝室へと連れて行かれた。
「ちょっと待って、純……。シャワーを浴びさせて……」
「そんなもの、後で一緒に浴びればいい……」
そう告げると、純一郎は瑞紀の衣服を脱がし始めた。ラペルラの真紅のランジェリーだけにされた瑞紀が、恥ずかしそうに胸と股間を隠した。
「俺好みのイヤらしい下着だな。早く抱いてくださいって誘っているみたいだ……」
「そんなことないわ……。変なこと言わないで……」
薄いレース地のブラジャーからは白い乳房と薄紅色の乳首が透けていた。純一郎は瑞紀をベッドに押し倒すと、ブラジャーの上から豊かな乳房を揉みしだき始めた。
「あッ……、やだ……。だめッ……」
「何がイヤだ? もうこんなに硬くしやがって……。感じてるんだろう?」
ラペルラのブラジャーを突き上げるように、薄紅色の乳首がツンと突き勃って自己主張を始めていた。純一郎が嬉しそうに笑みを浮かべると、コリコリと指先で乳首を捏ね回し始めた。
「感じてなんて、ないわ……。あッ……いやッ……」
尖りきった乳首から峻烈な快感が走り抜け、瑞紀は白い喉を仰け反らせて熱い喘ぎを漏らした。
「感じてないのなら、喘ぎ声なんて出すなよ。声くらい我慢してみろ……」
「喘いでなんて……いない……。んッ……くッ……はッ……んぁッ……」
瑞紀は唇を噛みしめると、漏れ出そうになる喘ぎ声を噛み殺しながら純一郎を睨んだ。
(純の奴……、玲奈さんのことに触れてこないなんて、絶対に何かを誤魔化そうとしているんだわ。素直に感じてなんてやるもんか……)
玲奈が<楪探偵事務所>を訪ねてきたことに気づいているはずなのに、純一郎は何も言わなかった。その態度を瑞紀は不審に思っていた。
「んッ……あッ……んぁッ……くッ……はぁッ……」
だが、熱い息とともに耳穴を舐られ、乳房を揉みしだかれながら乳首を扱かれると、全身がビクッビクッと震えて甘く蕩け出すのを抑えきれなかった。二十五歳の成熟した女体は瑞紀の意志を裏切って、純一郎の愛撫に敏感に反応し始めていた。
「我慢するな、瑞紀……。気持ちよければ、素直になれ……」
「我慢なんて……してない……あッ、いやッ……! 純こそ……私に……あッ、くッ……隠していることが……あるはず……んぁッ……!」
黒曜石の瞳に随喜の涙を滲ませながら、瑞紀が純一郎を睨みつけた。
「隠していること? 玲奈のことか? 声を我慢できたら教えてやるよ……」
そう告げると、純一郎は薄いレースのパンティの上から、濡れた秘唇に指を這わし始めた。
「ひッ……! そこ……いやッ……! んッ……くッ……だめッ……!」
腰骨を灼き溶かしそうな愉悦に、瑞紀は慌てて右手で口元を押さえた。そうしないと、恥ずかしい声が溢れ出そうだった。愛液が溢れ、真紅のパンティに黒っぽい染みが広がった。瑞紀はビクンッと総身を震わせると、白い顎を突き上げて大きく仰け反った。
「玲奈さんと……会ったのね……? んッ……くッ……だから、彼女が……あッ……来たんでしょ……ひッ……! だめッ……!」
薄い布地の上から、純一郎が敏感な突起を爪先で引っ掻き始めた。抑えきれない歓悦の波に全身をビクつかせながら、瑞紀は淫らに腰をくねらせた。純一郎はニヤリと笑みを浮かべると、コリコリと転がすように突起を嬲り続けた。
「玲奈は俺を愛していると言ってきた。だが、その気持ちには応えられないと告げたよ。そうしたら、あいつはお前のところに行くと言って出て行った。お前の気持ちを確かめに行ったんだろう……」
「それで、玲奈さんは……あッ、やめッ……! やめてッ! そんなに触られたら、話せなくなるわッ!」
純一郎の右手首を瑞紀は右手で掴むと、強引に秘唇から引き離した。握力三百キロの義手で握られた手首を押さえると、純一郎が顔をしかめた。
「手加減しろよ、瑞紀……。腕が折れちまう……」
「大事な話をしている最中に悪戯する方が悪いのよ……。玲奈さんは、純が私にとってどんな存在かを訊いてきたわ」
ジロリと純一郎を睨むと、瑞紀は真顔に戻って告げた。
「そうか……。それで、何て答えたんだ……?」
右手首を擦りながら、純一郎が訊ねた。
「私のすべてだと告げたわ。愛しているとか大切だとかを超えて、純はすでに私自身だと答えたわ……」
黒曜石の瞳に真剣な光を浮かべながら、瑞紀が言った。その眼差しの強さに驚いて、純一郎が訊ねた。
「俺はお前自身か……」
「そうよ……。純は私の半身……。もし、純を失ったら、私はすぐにでも後を追うって言ったわ」
「瑞紀……」
命さえ賭けた瑞紀の告白に、純一郎は言葉を失った。
「覚えておいて、純……。これは、私の本心よ。あなたが死んだら、私も生きていない。あなたを愛した女は、<星月夜の女豹>と呼ばれた女だってことを忘れないで……」
「分かった……。<櫻華の若獅子>と<星月夜の女豹>か……。命がけで愛し合うには、いいコンビだな……」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、純一郎は瑞紀の体を抱き寄せた。
「純……」
「俺も背中の聖観音に誓おう。万一、お前が死んだら、俺も生きてはいない。俺とお前は一心同体だ」
「純ッ……! 嬉しい、純……! 愛してるわッ!」
黒曜石の瞳から大粒の涙を流すと、瑞紀はその魅惑的な唇を純の唇に重ねた。お互いの熱情をぶつけ合うかのように、二人は濃厚な口づけを交わした。
お互いの衣服を脱がし合うと、二人は生まれたままの姿になって体を重ねた。ダブルクッションのベッドの上で、熱い息づかいと淫らな喘ぎを漏らしながら二人は愛を交わし始めた。
「瑞紀、今夜は寝かせないぞ。覚悟しておけ……」
「抱いて、純……。壊れるくらい、愛して……」
月明かりが差し込む寝室の中で、若獅子と女豹の愛の交歓が激しさを増していった。
歓喜の極みを告げる女豹の嬌声が、夜空が白むまで何度も響き渡った。
「龍成……、おはよう……。体に力が入らない……」
一晩寝たにも拘わらず、まだ全身に甘い痺れが残っていた。目覚めのキスを交わしながら、凛桜は昨夜の愛撫を思い出した。
龍成とのセックスは、凛桜を数え切れないほどの桃源郷に誘った。大きな瞳から随喜の涙を流しながら、凛桜は何度も絶頂を極めて悶え啼いた。「許して」という言葉を幾度口にしたのかさえ覚えていなかった。限界を超える極致感の奔流に、凛桜は自分が壊れてしまう恐怖さえ感じた。あれほどの快感を得たのは、初めてだった。
「あんなに感じたの、初めて……。凄かったわ……」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら呟くと、凛桜は龍成の胸に顔を埋めた。
「ずいぶんと乱れてたな。自分から腰を振りまくって……痛ッ!」
豊かな胸を押しつけながら、凛桜は龍成の脇腹をつねった。
「ばか……。誰のせいよ……。ホントに死ぬかと思ったんだから……」
「ハッ、ハッ、ハハッ……。悪かった。じゃあ、俺はそろそろ行くぞ。今日は非番だろう? ゆっくりと休んでいろ……」
再び口づけをすると、龍成がベッドから起き上がった。その鍛え上げられた逞しい裸体を見つめながら、凛桜が小さく頷いた。
「うん……。仕事が終わったら連絡して……。夕飯を作っておくわ」
「ああ、楽しみにしている。では、行ってくる……」
手早く衣服を身につけると、龍成が凛桜の頬にキスをしてから部屋を出て行こうとした。その背中に向かって、凛桜が声を掛けた。
「行ってらっしゃい、気をつけてね……」
龍成は振り返って片手を上げると、凛桜のマンションから出て行った。
(久しぶりのオフだし、服でも見に行こうかな……? 帰りに夕食の材料を買って、今日は龍成の好きなビーフシチューにしてあげようっと……)
倖せそうな笑みを浮かべながら、凛桜は右手をついてベッドから起き上がろうとした。だが、カクンと肘が折れて、凛桜はシーツの上に崩れ落ちた。まだ、手足に力が入らなかったのだ。
「まったく、こんなになるまでしないでよ……」
そう言いながらも、凛桜は倖せそうな笑みを浮かべた。全身の甘い痺れが、龍成に愛された証跡に他ならなかった。
(もう少し、休んでから行こう……)
再びベッドに裸身を横たえると、凛桜はゆっくりと瞳を閉じた。瞼の裏に、龍成の精悍な顔を思い描いた。
(龍成……愛してる……。この世界の誰よりも、あなたを愛しているわ、龍成……)
愛しい男の面影に抱かれながら、凛桜は安らかな寝息を立て始めた。
警視庁西新宿署の姫川玲奈警視が<楪探偵事務所>を訪ねてきたのは、その日の午後二時だった。瑞紀と玲奈にお茶を出して応接室から出て来た美咲が、錦織にこっそりと耳打ちした。
「雄ちゃん、あの二人、すごく怖い雰囲気なんだけど、何かあったの……?」
「気のせいだろ……? 何にもあるはずねえよ……」
そう告げながら、錦織は閉じられた応接室のドアを見つめた。
(<西新宿の女豹>と<星月夜の女豹>か……。新宿で一、二を争うおっかねえ女が火花を散らすところなんざ、絶対に居合わせたくねえな……)
神崎純一郎を巡って、二人の女豹が恋敵となったことを思い出し、錦織はブルッと全身を震わせた。
「今日はあなたに話があって来たの……。でも、その前にお礼を言っておくわ。ファヴィニーナまで助けに来てくれてありがとう。今こうして生きていられるのも、あなたたちのおかげよ……」
玲奈は瑞紀に頭を下げると、緩やかにウェーブが掛かったセミロングの髪を右手でかき上げた。その非の打ち所もない美しい仕草に、瑞紀は緊張しながら告げた。
「いえ……。私は大したことをしていません。龍成やアラン、純たちが……」
そこまで言って、瑞紀はハッとして言葉を止めた。玲奈の美しい黒瞳が鋭い光を浮かべながら瑞紀を見据えていた。
「純……ね。あたしがあなたに会いに来たのは、瑞紀と純一郎の関係を確認するためよ。純一郎があたしの初めての男だってことは話したわよね」
「はい……」
射抜くような視線で見つめられ、瑞紀はゴクリと生唾を飲み込んだ。<西新宿の女豹>の放つ圧力が、瑞紀を包み込んだ。
「十二年前、あたしたちは恋人同士だったわ。ある事情で別れてからずっと、あたしは純一郎を憎み続けたわ。そして、十二年という長い時間を経て、あたしたちは再会した。そして、あたしは純一郎に抱かれ、今まで抱いていた憎しみが愛情であったことに気づいた……」
「……」
玲奈の言葉に、瑞紀は黙って彼女の顔を見つめた。
「純一郎がファヴィニーナまで来てくれたことを聞いたとき、本当に嬉しかった。そして、彼が重傷を負ったことを知らされ、心臓が止まるかと思った。今のあたしにとって、純一郎は何よりも大切な男よ。あなたにとって、純一郎はどんな存在なのかしら?」
挑むような視線で瑞紀を見つめながら、玲奈が訊ねた。
「すべてです」
黒曜石の瞳で真っ直ぐに玲奈を見つめると、瑞紀が一切の躊躇もなく言い放った。
「すべて……?」
「はい。純は私のすべてです。大切だとか、愛しているとかは言うまでもありませんが、それ以上に純はすでに私の半身なんです。もし、彼を失ったら、私はすぐに後を追います」
「瑞紀……」
激しすぎる瑞紀の真情を聞かされ、玲奈は言葉を失って彼女の顔を見つめた。
「この三ヶ月間で、私は数え切れないほど純に愛されました。それと同じ数だけ、私も純を愛しました。すでに、純と私は一つなんです。純が麗華をまだ愛していることも、玲奈さんを大切に思っていることも知っています。それらを全部含めて、今の純なんです。麗華や玲奈さんに対する嫉妬がないかと聞かれたら、嘘になります。でも、私は純のすべてを受け入れます。何故なら、すでに純は私自身だからです」
黒曜石の瞳に燃えさかる激しい愛の炎に、玲奈は圧倒された。何者にも絶ち切ることができない確かな絆が瑞紀と純一郎の間にあることを、玲奈は思い知らされた。
「あたしの負けみたいね……。さすがに<星月夜の女豹>と呼ばれるだけあるわ、瑞紀……」
「玲奈さん……」
大きなため息をついた玲奈の顔を、瑞紀が見つめた。
「純一郎に伝えておいて……。たった今、あたしの奴隷から解放してあげると……」
「はいッ……!」
瑞紀が嬉しそうな笑顔を浮かべて、玲奈を見つめ返した。
「冷静に考えれば、警視庁の警視がヤクザの若頭と恋人同士になれるはずないわよね。瑞紀なら、極妻として<櫻華会>を仕切っていけるわ。がんばりなさい」
「ご、極妻って……」
ニヤリと笑いながら告げた玲奈の言葉に、瑞紀はカアッと顔を赤らめた。
「何を赤くなっているの? 純一郎と一心同体なんでしょ? あいつと添い遂げるってことは、<櫻華会>の姐さんになるっていうことよ。覚悟しておくことね」
「は……はい……」
(純と結婚したら、私が<櫻華会>の姐さんに……)
瑞紀は真っ赤に染まりながら、小さく頷いた。純一郎は近い将来、<櫻華会>の会頭になる男だった。その妻になると言うことは、彼とともに<櫻華会>を背負って立つ立場になることに瑞紀は初めて気づいた。
「それじゃ、あたしはそろそろ行くわ。純一郎のことは任せたわよ、瑞紀……」
「はい……。ありがとうございます、玲奈さん」
差し出された右手を握り締めながら、瑞紀が笑った。
応接室から出た玲奈を、瑞紀はエレベーターホールまで見送った。
「あいつが浮気をしたら、すぐに知らせなさい。あたしがブタ箱に放り込んであげるから……」
エレベーターに乗り込むと、玲奈が笑いながら告げてきた。
「はい、その時はよろしくお願いします」
「では、またね……」
「失礼します、玲奈さん……」
手を振る玲奈に頭を下げると、エレベーターの扉が閉まった。瑞紀はしばらくの間、閉じた扉を見つめていた。
(純と結婚するとか、<櫻華会>の姐さんになるとかなんて、どうでもいいわ……。私は純の側にずっといるだけでいい。純のことを、一生愛し続けるだけでいいわ……)
瑞紀は大きく頷くと、気持ちを切り替えて事務所の扉を押した。そこには彼女を待つ三人の部下たちの笑顔があった。
「瑞紀さん、姫川警視の用事って何だったんですか? 凄く恐い雰囲気でしたけど……」
大きな瞳を輝かせながら、美咲が興味津々といった様子で訊ねてきた。
「おいおい……。顧客の依頼は秘密厳守だぞ、姫……。興味本位で聞くもんじゃない」
「だって、雄ちゃん……」
プウッと頬を膨らませながら、美咲が錦織に向かって不満そうに告げた。
「心配しなくても大丈夫よ、美咲……。玲奈さんは私の後ろ盾になってくれることになったわ」
瑞紀の言葉に、錦織が驚いて眼を見開いた。純一郎との関係を知っている錦織は、玲奈が瑞紀を責めに来たのだと思い込んでいたのだ。
「オリさんも……、大丈夫です。ちゃんと話をして、玲奈さんには理解してもらいましたから……」
「そうですか……。あの<西新宿の女豹>を降すなんて、<星月夜の女豹>の方が一枚上手だったか……」
「ちょっと、変なこと言わないでください。そんなんじゃありませんから……」
瑞紀は笑いながら錦織に告げた。その様子を見ていた俊誠が、楽しそうな表情を浮かべながら訊ねた。
「姫川さんの彼氏を、瑞紀さんが奪っちゃったとか……? 女豹同士が男の取り合いなんてしたら、面白そうですね」
その言葉に、瑞紀が動きを止め、錦織が顔を引き攣らせた。
「え……? えッ……? ウソ……? ホントに……?」
二人の様子を見つめていた美咲が、大きな眼を輝かせながら満面の笑みを浮かべた。
「白銀さんって、姫川警視の彼氏だったんですか? それを瑞紀さんが奪い取ったんですかッ?」
「ち、ちょっと……違うわよ、美咲……」
瑞紀が慌てて否定すると、助けを求めるように錦織を見つめた。
「姫、チョコレートあげるから、向こうで食べようか……?」
「何言ってるのよ、雄ちゃん! 白銀さんと瑞紀さん、姫川警視の三角関係なんて、凄いメンツじゃないッ! 絶対に見逃せないわッ!」
興奮して叫んだ美咲を扱いかねて、錦織が困ったような視線を瑞紀に送った。
「美咲、勘違いしないで……。私の彼氏は龍成じゃないわ。彼とはもう何も関係ないわよ」
「それって、白銀さんと別れたってことですかッ!」
瑞紀の言葉に、今度は俊誠がパアッと顔を輝かせながら叫んだ。
「別れるも何も……もともと、龍成とは単なる相棒……」
「そういうことだ。瑞紀は白銀と別れて、俺を選んだ……」
突然、後ろから現れた純一郎が、瑞紀の肩を抱きながら告げた。
「純……! 驚かさないで……。いつ入ってきたのよ?」
「たった今だ……。迎えに行くって言っただろう?」
「そうだけど……」
二人のやり取りを呆然と見つめていた美咲が、ハッと我に返って訊ねた。
「俺を選んだって……? 瑞紀さんと神崎さんが……? そう言えば、ずっと二人でイタリアにいたんでしたよね?」
「そうだ……。三ヶ月間、ずっと一緒だった」
「ち、ちょっと、純……。あなたはずっと病院に入院してたじゃない?」
カアッと顔を赤く染めながら、瑞紀が純一郎を睨みながら告げた。純一郎はニヤリと笑みを浮かべると、美咲と俊誠に向かって言った。
「瑞紀は俺の女だ。そして、俺は瑞紀の男だ。覚えておいてくれ……。瑞紀、もう仕事は終わりだろう? 帰るぞ」
「待って、純……。みんな、これは……」
全員の前で堂々と恋人宣言をされ、瑞紀は耳まで真っ赤に染めながら動揺した。
「バカ……、神崎、やり過ぎだ……」
「瑞紀さんと神崎さんがそう言う関係だったなんて……!」
「そんな……。瑞紀さんが……」
三人の三様な態度に見送られながら、瑞紀は純一郎に手を引かれて事務所から連れ出された。驚きと恥ずかしさのあまり、言葉も出なかった。
「ちょっと、純……。あんな風に言われたら、私、恥ずかしくて明日事務所に行けないわ」
エレベーターに乗り込むと、瑞紀が純一郎の顔を見つめながら文句を言った。
「本当のことだ。別に隠す必要なんてないだろう?」
「でも……んッ……んぁッ……」
瑞紀の抗議の言葉を遮るように、純一郎が唇を塞いできた。そして、ネットリと舌を絡められ、濃厚に口づけをされた。
「もう……こんなところで……こんなキス……しないで……」
唾液の糸を引きながら唇を離すと、トロンと官能に蕩けた瞳で純一郎を見つめながら瑞紀が告げた。
「お前こそ、こんなところでそんなに物欲しそうな顔をするな……。俺のマンションに着くまで我慢していろ……」
「ばか……。物欲しそうな顔なんて、してないわ……。この、絶倫魔神……」
そう告げると、瑞紀は純一郎の左腕に腕を絡めて、豊かな胸を押しつけた。純一郎に抱かれることを想像し、秘唇が濡れているのが自分でも分かった。
純一郎の部屋は、<櫻華会>本部の近くにある七階建てのマンションの一室だった。最上階にある広いリビングに入ると、歌舞伎町の夜景が一望に見下ろせた。だが、瑞紀は夜景を楽しむ暇も与えられずに、真っ直ぐに寝室へと連れて行かれた。
「ちょっと待って、純……。シャワーを浴びさせて……」
「そんなもの、後で一緒に浴びればいい……」
そう告げると、純一郎は瑞紀の衣服を脱がし始めた。ラペルラの真紅のランジェリーだけにされた瑞紀が、恥ずかしそうに胸と股間を隠した。
「俺好みのイヤらしい下着だな。早く抱いてくださいって誘っているみたいだ……」
「そんなことないわ……。変なこと言わないで……」
薄いレース地のブラジャーからは白い乳房と薄紅色の乳首が透けていた。純一郎は瑞紀をベッドに押し倒すと、ブラジャーの上から豊かな乳房を揉みしだき始めた。
「あッ……、やだ……。だめッ……」
「何がイヤだ? もうこんなに硬くしやがって……。感じてるんだろう?」
ラペルラのブラジャーを突き上げるように、薄紅色の乳首がツンと突き勃って自己主張を始めていた。純一郎が嬉しそうに笑みを浮かべると、コリコリと指先で乳首を捏ね回し始めた。
「感じてなんて、ないわ……。あッ……いやッ……」
尖りきった乳首から峻烈な快感が走り抜け、瑞紀は白い喉を仰け反らせて熱い喘ぎを漏らした。
「感じてないのなら、喘ぎ声なんて出すなよ。声くらい我慢してみろ……」
「喘いでなんて……いない……。んッ……くッ……はッ……んぁッ……」
瑞紀は唇を噛みしめると、漏れ出そうになる喘ぎ声を噛み殺しながら純一郎を睨んだ。
(純の奴……、玲奈さんのことに触れてこないなんて、絶対に何かを誤魔化そうとしているんだわ。素直に感じてなんてやるもんか……)
玲奈が<楪探偵事務所>を訪ねてきたことに気づいているはずなのに、純一郎は何も言わなかった。その態度を瑞紀は不審に思っていた。
「んッ……あッ……んぁッ……くッ……はぁッ……」
だが、熱い息とともに耳穴を舐られ、乳房を揉みしだかれながら乳首を扱かれると、全身がビクッビクッと震えて甘く蕩け出すのを抑えきれなかった。二十五歳の成熟した女体は瑞紀の意志を裏切って、純一郎の愛撫に敏感に反応し始めていた。
「我慢するな、瑞紀……。気持ちよければ、素直になれ……」
「我慢なんて……してない……あッ、いやッ……! 純こそ……私に……あッ、くッ……隠していることが……あるはず……んぁッ……!」
黒曜石の瞳に随喜の涙を滲ませながら、瑞紀が純一郎を睨みつけた。
「隠していること? 玲奈のことか? 声を我慢できたら教えてやるよ……」
そう告げると、純一郎は薄いレースのパンティの上から、濡れた秘唇に指を這わし始めた。
「ひッ……! そこ……いやッ……! んッ……くッ……だめッ……!」
腰骨を灼き溶かしそうな愉悦に、瑞紀は慌てて右手で口元を押さえた。そうしないと、恥ずかしい声が溢れ出そうだった。愛液が溢れ、真紅のパンティに黒っぽい染みが広がった。瑞紀はビクンッと総身を震わせると、白い顎を突き上げて大きく仰け反った。
「玲奈さんと……会ったのね……? んッ……くッ……だから、彼女が……あッ……来たんでしょ……ひッ……! だめッ……!」
薄い布地の上から、純一郎が敏感な突起を爪先で引っ掻き始めた。抑えきれない歓悦の波に全身をビクつかせながら、瑞紀は淫らに腰をくねらせた。純一郎はニヤリと笑みを浮かべると、コリコリと転がすように突起を嬲り続けた。
「玲奈は俺を愛していると言ってきた。だが、その気持ちには応えられないと告げたよ。そうしたら、あいつはお前のところに行くと言って出て行った。お前の気持ちを確かめに行ったんだろう……」
「それで、玲奈さんは……あッ、やめッ……! やめてッ! そんなに触られたら、話せなくなるわッ!」
純一郎の右手首を瑞紀は右手で掴むと、強引に秘唇から引き離した。握力三百キロの義手で握られた手首を押さえると、純一郎が顔をしかめた。
「手加減しろよ、瑞紀……。腕が折れちまう……」
「大事な話をしている最中に悪戯する方が悪いのよ……。玲奈さんは、純が私にとってどんな存在かを訊いてきたわ」
ジロリと純一郎を睨むと、瑞紀は真顔に戻って告げた。
「そうか……。それで、何て答えたんだ……?」
右手首を擦りながら、純一郎が訊ねた。
「私のすべてだと告げたわ。愛しているとか大切だとかを超えて、純はすでに私自身だと答えたわ……」
黒曜石の瞳に真剣な光を浮かべながら、瑞紀が言った。その眼差しの強さに驚いて、純一郎が訊ねた。
「俺はお前自身か……」
「そうよ……。純は私の半身……。もし、純を失ったら、私はすぐにでも後を追うって言ったわ」
「瑞紀……」
命さえ賭けた瑞紀の告白に、純一郎は言葉を失った。
「覚えておいて、純……。これは、私の本心よ。あなたが死んだら、私も生きていない。あなたを愛した女は、<星月夜の女豹>と呼ばれた女だってことを忘れないで……」
「分かった……。<櫻華の若獅子>と<星月夜の女豹>か……。命がけで愛し合うには、いいコンビだな……」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、純一郎は瑞紀の体を抱き寄せた。
「純……」
「俺も背中の聖観音に誓おう。万一、お前が死んだら、俺も生きてはいない。俺とお前は一心同体だ」
「純ッ……! 嬉しい、純……! 愛してるわッ!」
黒曜石の瞳から大粒の涙を流すと、瑞紀はその魅惑的な唇を純の唇に重ねた。お互いの熱情をぶつけ合うかのように、二人は濃厚な口づけを交わした。
お互いの衣服を脱がし合うと、二人は生まれたままの姿になって体を重ねた。ダブルクッションのベッドの上で、熱い息づかいと淫らな喘ぎを漏らしながら二人は愛を交わし始めた。
「瑞紀、今夜は寝かせないぞ。覚悟しておけ……」
「抱いて、純……。壊れるくらい、愛して……」
月明かりが差し込む寝室の中で、若獅子と女豹の愛の交歓が激しさを増していった。
歓喜の極みを告げる女豹の嬌声が、夜空が白むまで何度も響き渡った。
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