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第3章 女豹の掟

9 愛人の因襲

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 プールの入口まで付き添ってきたアルビーナにナイト・ガウンを預けると、玲奈は全裸になってデッキチェアに座るレオナルドの元へ歩いて行った。イタリアの陽光の下で裸身を晒すのはさすがに恥ずかしく、右手で豊かな胸を左手で羞恥の源泉を隠した。

 レオナルドの周囲には、一糸纏わない五人の女がいた。金髪碧眼の白人、褐色の肌をしたインド系、チャイニーズなど国籍や人種は様々だったが、いずれもハリウッド女優に勝るとも劣らない美女ばかりであった。彼女たちに共通していたのは、その瞳に諦めと媚びが映っていることだった。

 ビーチパラソルの影でデッキチェアに横たわるレオナルドを、二人の女が大きな団扇で扇いでいた。冷えた飲み物を口移しに飲ませている女もいた。サンオイルを乳房に垂らし、ベーカーの体に塗りつけている女もいた。そして、レオナルドの股間に跪き、長大な逸物を咥えて奉仕している女もいた。
 ここでは紛れもなくレオナルドが王で、彼女たちが愛人アマンテであった。

(何なの、これは……? あたしにも、あんなことをさせるつもりなの……?)
 女たちの嬌態に驚愕しながら、玲奈は愕然として立ち止まった。玲奈に気づいたレオナルドが、ニヤリと笑いながら告げた。
「来たか……。皆、紹介しよう。昨夜から愛人アマンテにしたレナだ。皆の名はおいおい覚えればいい。レナ、ここへ来い。カメーリア、レナと替われ」
 懸命に口戯フェラチオをしていた女性が、喉元まで咥えていた男根を吐き出して立ち上がり、レオナルドの左横に退いた。

「いやよ……」
 セミロングの髪を振り乱しながら、玲奈が首を振った。拉致されて男たちに無理矢理されたことは何度かあったが、玲奈はまだ自分からフェラチオをしたことは一度もなかった。自尊心プライドの高い玲奈には、自ら男根を口に含むという行為に大きな抵抗があったのだ。愛する純一郎のモノでさえ、玲奈は咥えたことがなかった。

「ほう……。まだ自分の立場が分かっていないようだな……」
 レオナルドがニヤリと笑みを浮かべながら、冷酷な眼差しで玲奈を見つめた。その蒼青色アイス・ブルーの瞳に秘められた凶暴性に、玲奈はビクンと震えた。それは紛れもなく本物の野獣だけが持つ殺意に他ならなかった。

(この男に逆らったら、殺される……)
 玲奈は蒼白な表情でレオナルドを見つめると、ゆっくりと彼の股間に跪いた。そして、右手で天を仰ぐ巨大な逸物を掴むと、大きく口を開けて咥えた。
(大きい……。顎が外れそう……)
 レオナルドのは片手では掴みきれないほど太く長大だった。この巨大なモノで昨夜自分は狂わされたのだと思うと、玲奈のがジンと熱くなった。玲奈は上目遣いにレオナルドを見つめながら、ぎこちなく舌を使って首を振り始めた。

「何だ、その動きは……。やり方もろくに知らないのか?」
 玲奈の稚拙な口戯フェラチオに、レオナルドは満足しなかった。彼は右手で玲奈の後頭部を掴むと、強い力で玲奈の頭を引き寄せて喉奥までを突き刺した。
「ぐえッ……! ぐほッ……! んくッ……! げほッ……!」
 激しく頭を上下させられ、呼吸困難に陥りながら玲奈が嘔吐えずいた。苦しさに涙が溢れ、白い頬を伝って流れ落ちた。

(息が……できない……!)
 あまりの息苦しさに、玲奈はレオナルドのを吐き出そうとした。だが、強靱な力で頭を押さえつけられ、喉の奥まで何度も蹂躙された。それはフェラチオではなく、凌辱に他ならなかった。玲奈は文字通り、レオナルドの巨大な逸物で口を犯されたのだ。

「よし、レナ……。俺の精を与えてやろう。全部呑み込めッ! 一滴も零すなッ!」
 絶世の美女に奉仕させている昂揚感にレオナルドが笑みを浮かべながら告げた。次の瞬間、レオナルドのが膨張すると、玲奈の口腔で一気に弾けた。熱い迸りが玲奈の喉奥を灼き、大量の精液が放たれた。
「ごふッ……! ぐふッ……! ぐえッ……! がはッ……!」
 玲奈が激しくせた。窒息しそうになり、玲奈は白い喉を鳴らしながら懸命に嚥下した。濃厚なの匂いと苦い味が口の中に広がった。

「げほッ……! ごほッ……! げふッ……!」
 レオナルドが逸物を引き抜いた途端、玲奈は激しく咳き込んだ。飲みきれなかった白濁が唇の端からドロリと垂れ落ちた。顔を真っ赤に染めながら涙を流し、唇から男の精液を垂れ流す美女の姿は、レオナルドの嗜虐心を十分に満足させた。

「一滴も残さずに全部飲めと言ったはずだぞ、レナ……」
 レオナルドの言葉に、玲奈がビクンと震えた。圧倒的な威圧プレッシャーを秘めた蒼青色アイス・ブルーの瞳に、玲奈は本能的な恐怖を覚えた。
「申し訳ありません……ベーカー様……」
 屈辱に唇を噛みしめながら、玲奈は謝罪した。玲奈の生存本能タナトスが、絶対にレオナルドに逆らうなと告げていた。

「まあ、いいだろう。今回は初めてだ。次は許さぬぞ」
「はい……」
(いつか、必ず殺してやるわ……)
 内心の激情を隠しながら、玲奈は再びレオナルドに頭を下げた。
「では、罰としてそこで自慰オナニーをしろッ!」
「なッ……!」
 レオナルドの命令に、玲奈は驚愕して眼を見開いた。

 玲奈にも自慰オナニーの経験は何度かある。だが、当然ながら人前でそんなことをしたことは一度もなかった。まして、ここにはレオナルドの他に五人の女がいるのだ。同性の目の前で自慰オナニーをすることは、レオナルド一人に見られるよりもずっと恥ずかしかった。

「どうした、早く始めろ……」
「くッ……は、はい……」
(人形になるのよ……。自尊心を持ったままでは、耐えられない。心を封じて、快楽だけを求めるセックス・ドールになるのよ……)
 玲奈はその場で両膝を立てると大きく脚を開いた。そして、左手で右の乳房を揉みながら中心にある媚芯を摘まんで扱きだした。鴇色の乳首が硬さを増し、鋭い快感を伝えながらツンと尖り始めた。

「んッ……くッ……あッ……んあッ……!」
 右手で叢をかき分けて花唇を撫で上げると、すでにそこは濡れていた。激しいフェラチオをさせられたことで、無意識に昂ぶっていたようだった。肉扉から溢れた愛液を指で掬い取ると、玲奈は最も敏感な肉の突起に塗り込み始めた。峻烈な快感に腰骨がビクンと跳ね上がり、抑えきれない嬌声が唇から漏れた。

「はッ……はぁ……あッ……くッ……はぁッ……!」
 胸から広がる愉悦が全身を甘く蕩かし、秘唇から迸る衝撃が腰骨を熱く灼き尽くした。玲奈は白い喉を仰け反らせながら、火の喘ぎを漏らし続けた。
(あたし、警視なのに……。こんな恥ずかしい姿を見られて……。でも、気持ちいい……。指が止まらない……)
 被虐の快感が、玲奈の心と躰を蝕み始めていた。快美の火柱が背筋を舐め上げ、閉じた瞼の裏側に白い閃光が瞬いた。全身に鳥肌が沸き立ち、白い肢体が赤く染まってビクッビクッと震えだした。

「あッ、あッ……だめッ……! あッ、いやッ……あッ、あッ、あぁあッ……!」
 左手で右の乳房を激しく揉みしだきながら、指先で尖りきった乳首を摘まみ上げた。右手の中指と薬指を花唇に挿し込み、くの字に曲げながら天井部分Gスポットを擦り上げた。ピシャピシャッと音を立てて、恥ずかしい液体が飛び散りプールサイドの床を濡らした。

「あッ、あッ、あぁああッ……! だめッ、許してッ……! イッちゃうッ……! イクッ……!」
 玲奈が大きく仰け反りながら絶頂オーガズムを極めようとした瞬間、鋭い声でレオナルドが命じた。
「やめろッ……!」
 ビクンッと震えながら、玲奈が動きを止めた。まさに絶頂を極める直前だった。
(何で……! もう少しだったのに……!)

「どうした、レナ……? そんなに物欲しそうな顔をして? まさか、警視庁の警視ともあろう者が、俺たちに見られながら自慰オナニー愉悦アクメを貪るつもりじゃなかったんだろうな? 」
 ニヤリと笑いながら告げたレオナルドの言葉に、玲奈は恥ずかしさのあまりカアッと顔を赤く染めた。
「ち、違います……」
 囁くような小声でそう告げると、玲奈はレオナルドから視線を外して俯いた。

「そうだろう……。<西新宿の女豹>と呼ばれた女警視が、マフィアの目の前で自慰オナニーをしながら絶頂オーガズムを極めるなど、あるはずがない。では、続けろ……」
「くッ……!」
(こいつ、あたしを嬲り者にするつもりだわ……)
 レオナルドの思惑に気づくと、玲奈は恥辱に満ちた視線で彼を睨みながら自慰オナニーを再開した。

「んくッ……あッ、くッ……! あッ、あッ……あぁああッ……!」
 だが、玲奈の意志を裏切って、一度絶頂の直前まで昂ぶった女体はすぐに燃え上がり始めた。指を抜き挿しする秘唇からは卑猥な音色を奏でながら、愛液が飛び散ってプールサイドの床に淫らな模様を描いた。腰骨を灼き溶かすような愉悦が背筋を駆け上り、脳天を峻烈な雷撃が何度も襲った。
 玲奈は全身をビクンッビクンッと痙攣させながら、再び絶頂への階段を上り始めた。

(だめッ……! イッちゃう……! いやッ……! イクッ……!)
 閉じた瞼の裏でチカチカと閃光が瞬き、白い光が急速に広がった。紅潮した裸身をグンッと仰け反らせると、玲奈は絶頂オーガズムを極めようとした。その瞬間、再びレオナルドが制止の命令を告げた。
「やめろッ……!」
「あッ……あぁああ……」
 再び歓喜の絶頂を目の前にして、玲奈は動きを止めた。歓悦の頂点を極める直前で放り出され、玲奈の躰がブルブルと震えていた。

(そんな……非道い……。あと少しだったのに……)
 官能の愉悦に蕩けきった瞳で、玲奈がレオナルドを見つめた。真っ赤に染まった目尻から随喜と渇望の涙が溢れ、白い頬を伝って流れ落ちた。三十三歳の女盛りの躰は、絶頂オーガズムへの欲求に戦慄わなないていた。乳首は痛いほどそそり勃ち、花唇から溢れた蜜液は白い太股をビッショリと濡らしていた。

「どうした、そんなに不満そうな顔をして……? まさか、イキたいんじゃあるまいな?」
「違い……ます……」
 女の欲望を嘲笑うかのようなレオナルドの言葉を、玲奈は真っ赤に顔を染めながら否定した。だが、それが虚勢であることなど、誰の目にも明らかだった。

「そんなにイキたいのなら、イカせてやろう……。俺の上に跨がって、自分で挿れろ」
 天に向かってそそり勃つ長大な逸物を握りながら、レオナルドがニヤリと笑みを浮かべて告げた。昨夜、その鉄杭のような火柱で狂わされ、数え切れないほどの絶頂を極めさせられたことを思い出し、玲奈はゴクリと生唾を飲み込んだ。
(今、あんなモノを挿れられたら、あたし、絶対におかしくなる……)
 しかし、自分の意志とは裏腹に、ズキンッと子宮が疼いて愛液が溢れ出てきたのが玲奈には分かった。紛れもなく、玲奈の女体はレオナルドのを欲していた。

「イヤです……」
 躰の疼きを抑えながら、玲奈が拒絶するように首を振った。その様子を蒼青色アイス・ブルーの瞳で見据えながら、レオナルドが玲奈を告げた。
「俺の言葉に逆らうのか、レナ?」
「くッ……」
 圧倒的な威圧を有するレオナルドに睨まれ、玲奈はゆっくりと彼の腰の上に跨がった。
(これは命令だから……仕方なく……。あたしは、こんなこと……望んでいない……)

 玲奈が左手でレオナルドのを掴むと、濡れた花唇に充てがった。そして、クチュッという音とともに、ゆっくりと腰を沈めた。
「あッ、あぁああッ……!」
 快美の火柱が肉襞を抉りながら最奥まで貫いた瞬間、壮絶な快感が玲奈の全身を襲った。灼熱が腰骨を灼き溶かし、背筋を震わせながら脳天で弾けた。目の前に閃光が瞬き、玲奈の意識を白い光輝が席巻した。

「あッ、ひぃいいッ……!」
 次の瞬間、ビックンッビックンッと総身を痙攣させると、玲奈は凄まじい絶頂オーガズムを極めた。大きく見開いた瞳からは随喜の涙が流れ落ち、ワナワナと震える唇からは涎の糸が垂れ落ちた。歓喜の愉悦にガクガクと震える玲奈の腰を、レオナルドが両手で掴んだ。

「何だ、挿れただけでイッたのか? イヤらしい女め……」
 そう告げると、レオナルドが玲奈の腰を持ち上げながら下から突き上げ始めた。天井部分Gスポットを抉られ、肉襞を擦り上げられ、何度も最奥まで貫かれた。
「あッ、あッ……だめぇッ……! いやぁあッ……! アッ、アッ、アァアアッ……!」
 絶頂中の女体を責め苛む圧倒的な愉悦に、玲奈は髪を振り乱しながら啼き叫んだ。全身の細胞が灼き溶け、意識さえもドロドロに熔解するほどの快感だった。

「あッ、いやあッ……! 許してぇッ……! おかしくなるッ……! あッ、あッ、だめぇえッ!」
 涙と涎を垂れ流しながら、玲奈が激しく首を振った。濃茶色ダーク・ブラウンの髪が、女の色香を撒き散らしながら乱れ舞った。
「おかしくなると言うのは、気持ちいいと言うことだろう? ならば、もっとおかしくしてやろう。カメーリア、小鈴シャオリン、手伝ってやれ……」
 レオナルドの言葉に、玲奈の左右にいた二人の女が頷いた。

「ひッ……! やめ……んッ……!」
 カメーリアと呼ばれた金髪碧眼の美女が、玲奈の唇を塞ぐとネットリと舌を絡め始めた。同時に右手で玲奈の右乳房を揉みしだきながら、ツンと突き勃った乳首を摘まんで扱き始めた。
 左側からは小鈴シャオリンが玲奈の左乳首を唇で啄んできた。そして、歯で甘噛みしながら、硬く屹立した乳首の先端を舌で転がし始めた。
 小鈴シャオリンは左手で叢をかき分けると、慣れた手つきでクルンと肉の突起の薄皮を剥き上げた。そして、真っ赤に充血した真珠粒クリトリスを指先で摘まみ上げると、コリコリと扱きながら愛液を塗りつけてきた。

「んッ……んひッ……ん、んくぅッ……! んッ、んはぁああッ……!」
(だめぇえッ! こんなの、おかしくなるッ! また、イクッ! いやぁあッ! イクぅううッ!)
 快美の火柱で天井部分Gスポットを擦り上げられ、子宮口まで何度も貫かれた。濃厚に舌を絡められ、乳房を揉みしだかれながら乳首を歯と舌で嬲られた。剥き出しにされた真珠粒クリトリスを指で摘まみ上げられ、途切れることなく扱かれ続けた。
 女の弱点を熟知した同性による責めと同時に、猛りきった男根に凌辱され続け、玲奈は半狂乱になって悶え啼いた。

(イクの止まらないッ! 狂うッ! 狂っちゃうッ! だめぇえッ! また、イクぅううッ!)
 凄絶な絶頂地獄に叩き込まれ、玲奈は痙攣の止まらなくなった肢体を大きく仰け反らせながら極致感オルガスムスを極めた。プシャアッという音とともに、秘唇から大量の愛液が迸った。快絶の頂点を極めた裸身をガクガクと震わせると、玲奈はガックリと首を折って失神した。それは紛れもなく絶頂オーガズムの奔流による蹂躙に他ならなかった。

 その壮絶な責めは玲奈が失神したにも拘わらず、ハレムの帝王が満足するまで続けられた。


「シチリアン・マフィアの店でベレッタをぶっ放してきただと……? 相変わらず、ぶっ飛んだ女だな……」
 瑞紀の話を聞くと、呆れたような表情で純一郎が告げた。深夜であるのにも拘わらず、何台ものパトカーがけたたましくサイレンを鳴らしながら歌舞伎町に向かっていた。この騒動の元凶が目の前に座る女であることを知ると、純一郎は面白そうに笑みを浮かべた。

「そんなことよりも、玲奈さんの居場所が分かったわ。彼女は、イタリアのシチリア島の西にあるファヴィニーナ島に捕らえられているらしいわ」
「何だと……!」
 瑞紀の言葉に、純一郎の表情が一変した。<櫻華の若獅子>と呼ばれるに相応しい、鋭い視線が瑞紀を真っ直ぐに見据えた。

「さっき調べたんだけど、東京からファヴィニーナ島までの直行便はないわ。シチリアの州都パレルモまでは乗り換え二回を含めて約十九時間半。パレルモからファヴィニーナ島まではバスとフェリーを使っておよそ四時間。つまり、移動だけで丸一日はかかるわ」
「<星月夜シュテルネンナハト>のヘリでは行けないのか?」
 龍成たちがステルス・コブラで瑞紀を助けるために、伊豆諸島の青島まで行ったことを思い出しながら純一郎が訊ねた。

「無理よ。ステルス・コブラの航続可能距離はおよそ八百キロ。東京からファヴィニーナ島までは直線距離でも一万キロ以上もあるわ。十数回も給油しながら飛ぶなんて、現実的じゃないわ」
「そうか……。では、一般の航空機を利用してファヴィニーナ島まで行くんだな? それならば、俺も一緒に行く」
 真剣な視線で瑞紀を見つめながら、純一郎が告げた。その瞳に込められた想いに、瑞紀は言葉を失った。

「神崎さん……」
「俺は麗華を助けられなかった……。そのことを、いまだに悔やんでいる。誤解するな、別にお前を責めているわけじゃない」
「……」
 水島麗華は瑞紀を助けようとして、<一条組>組長の一条天翔たかとに射殺された。だが、純一郎はそのことで、瑞紀を一言も責めなかった。

「麗華は俺にとって最愛の女だった。だが、玲奈も俺にとっては大切な女の一人だ。今度こそ、俺は俺自身の手で玲奈を助け出したい」
「神崎さん……。一つ訊いてもいいですか? あなたは麗華と玲奈さんの両方を愛しているんですか?」
 その質問は、瑞紀本人にとっても重要なものだった。龍成が瑞紀と凛桜を同時に愛しているのか、男は二人の女を同時に愛せる生き物なのかを知りたかった。

「愛しているかいないかと聞かれれば、二人とも愛している。だが、麗華は俺にとって特別な女だ。あいつに代わる女は誰もいない。玲奈とは何度も寝ているが、愛情の深さというか、種類が麗華とは違う……。うまく言葉では言えないが……」
「そう……ですか……」
 何度も玲奈と関係を持ったと言う純一郎の言葉に、瑞紀は驚いた。麗華と付き合っているときにも玲奈を抱いていたのかを、瑞紀は訊ねたかった。だが、さすがにそこまで踏み込んだ質問はできなかった。

「お前が俺に玲奈のことを報告してきたのは、他に頼みがあったからじゃないのか? 玲奈を助けに行くために、ベレッタをシチリアに持ち込む方法を知りたいんじゃないか?」
 純一郎は話題を変えるように、瑞紀の考えを訊ねた。
「はい……。シチリアン・マフィアから玲奈さんを助け出すには、どうしてもこのM93RMK2が必要なんです。これをファヴィニーナ島……いえ、シチリアに持ち込む方法はありませんか?」
 瑞紀はここに来たもう一つの理由を純一郎に告げた。

「無理だな……。いくら<櫻華会>とは言え、自動拳銃マシンピストルを空港の税関チェックに引っかからずにイタリアへ送ることは難しい。まして、お前のM93RMK2は民間人の使用が制限されている特注品だ。イタリアの治安を考えたら、向こうで無事に受け取ることなどまずできないぞ。途中で誰かにパクられるのがオチだ」
 イタリアは世界でも有数にスリや置き引きが多い国だ。純一郎の言うとおり、仮にM93RMK2を送り届けることができたとしても、瑞紀が受け取る前に横取りされる可能性が十分にあった。

「そうですか……。でも、これがないと、玲奈さんを助け出すことは……」
「向こうで買ったらどうだ?」
 気落ちした瑞紀を励ますように、純一郎が提案した。
「え……?」
「M93系は民間向けに販売していないが、M92系であれば普通に売っているはずだ。3点射スリー・ポイント・バースト機能はないが、それ以外はM93RMK2と大きく変わらない。俺が事前に、知り合いのブローカーに話を通しておいてやってもいい」

 M93Rは、M92Fをベースとして3点射スリー・ポイント・バースト機能などを付加した制圧力の高い自動小銃マシンピストルだ。速射機能やマガジン弾数も多いため、製造元のベレッタ社が各国の法執行機関以外には製造や販売をしていない。逆に言えば、M93RのベースであるM92Fであれば、銃規制の厳しい国以外なら簡単に入手可能であった。まして、製造元のベレッタ社はイタリアのメーカーだ。
 純一郎の提案は、その意味において十分に考慮する価値のあるものだった。

「分かりました。それで、お願いします……」
「分かった。ブローカーには手配しておく。それから、チケットはこっちで用意してやる。最短の便を手配するから、場合によっては今夜になるかも知れないぞ」
「構いません。お願いします……」
 純一郎の言葉に頷きながら、瑞紀が告げた。玲奈を救出するのであれば、一日でも早いに越したことはなかった。

「白銀には話したのか?」
「いえ……。まだ……です」
 煮え切らない返事をした瑞紀を、純一郎が探るように見つめた。
「分かった。それも俺から連絡をしておいてやる。白銀に捨てられたら俺の女になるという約束は忘れてないだろうな?」
 ニヤリと笑いを浮かべながら、純一郎が告げた。瑞紀と龍成の間に何かあったことを、純一郎は見通したようだった。

「神崎さん……。それは……」
「まあ、いい。今は玲奈を助け出すことが優先だ。少しここで待っていろ。色々と手配してくる」
 そう告げると、純一郎は瑞紀を残して応接室から出て行った。
(龍成に……捨てられた……)
 瑞紀は純一郎が告げた言葉にショックを受けた。だが、龍成が瑞紀の代わりに凛桜を相棒バディに選んだことは、紛れもない事実だった。

「龍成……」
 純一郎の言葉によって、瑞紀は龍成と別れたことが実感を伴って理解させられた。そして、二人の関係が二度と元に戻らないことを思い知らされた。
 誰もいなくなった応接室に、瑞紀の嗚咽の声が漏れ出した。
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