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第2章 櫻華の嵐
9 百合と薔薇
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(あんなに凄いセックス、いつ以来かしら……?)
西新宿署組織犯罪対策課に戻ってプラダのバッグを机に置くと、玲奈は火照った頬に手を当てた。体の芯では快感が埋み火のように残っており、いまだに子宮が疼いていた。黒いラペルラの下着の中で乳首が硬くそそり勃ち、秘唇が蜜液で濡れているのが自分でも分かった。玲奈は火の吐息を漏らすと、辛うじて自らを慰めたくなる衝動を抑え込んだ。
「姫川課長、例の件が絞り込めました。」
「ありがとう、報告して……」
臈長けた女の顔から一瞬で女豹の顔に戻ると、玲奈は目の前に立つ中西勇介を見つめた。組織犯罪対策課……通称、マル暴で、玲奈が目を掛けている若手刑事だ。たしか、年齢は二十八歳だったはずだ。今風の若い子らしく、ツーブロックにしたマッシュヘアを茶髪に染めていた。
「はい……。この三ヶ月間で新規契約された件数は、電気が八十一件、ガスが五十五件、水道が六十八件でした」
「やはり、電気が一番多いのね。オール電化の影響かしら?」
<一条組>の新事務所を探すにあたり、麗華は中西にライフラインの新規契約数を調査させていた。新しく事務所を開くのに、電気、ガス、水道は必ず必要だからだ。そして、その調査範囲は新宿自治区とし、期間は三ヶ月以内とした。<櫻華会>の跡目を狙っているのであれば、新事務所を新宿自治区内に置く可能性が高かったからだ。
「そうですね。そのうち、<櫻華会>の準構成員が契約した件数は、電気、ガス、水道ともに三件でした。<一条組>のものは、ゼロです」
「フロント企業はどうだったの?」
暴力団事務所や暴力団員は、新暴力団対策法により銀行口座を開設することができない。その上、新宿自治区では公共料金の支払いは、クレジットカードか口座引き落としのみだった。よって、銀行口座を持てない暴力団員は、生活インフラと契約するのもフロント企業かその従業員等の名義を利用するしかないのだ。
「<櫻華会>のフロント企業と思われるものは三社、<一条組>のものは二社ありますが、いずれも公共料金の法人契約はしていません。準構成員名義での個人契約だけですね」
「つまり、<櫻華会>の準構成員が新規契約した三件のどれかが、<一条組>の新事務所である可能性が強いってわけね」
これは、<櫻華会>の中に<一条組>に協力している者がいるという意味だった。
(獅子身中の虫がいるなんて、純一郎も大変ね……)
「その三件の契約住所ですが、二件は歌舞伎町の飲食店……正確には、居酒屋とキャバクラです。そしてもう一件が、<蛇咬会>の元フロント企業だった株式会社エンタープライズです。<蛇咬会>が弱体化した後、<一条組>が押収しています」
「その契約者の名前は?」
どうやら、当たりだったようだ。暴力団がフロント企業の役員や従業員を通じて、不動産販売や車の購入をするのは常套手段だ。今回の生活インフラの開設もその線が高かった。
「浅倉大地、二十九歳です。自宅住所は、新宿区大久保三の○の○です」
「すぐに、浅倉に任意同行をかけてッ! 拒否したら、多少荒っぽくても構わないわ。連続爆破テロの重要参考人として引っ張ってきてちょうだいッ!」
参考人と重要参考人では意味合いが異なる。両者とも取り調べを行うのは同じだが、重要参考人は犯罪を犯した被疑者として取り調べ後に逮捕する可能性が大きいのだ。玲奈の言葉に、中西の表情が変わった。
「はいッ! 二名連れて行きます! 佐野、今野、来いッ!」
課内を見廻すと、席で事務処理をしていた若い課員の名を中西が叫んだ。名を呼ばれた二人は、中西が玲奈と話をしていることに気づき、さっと席を立った。キャリア警視であり、<西新宿の女豹>との異名を取る玲奈の命令は、この組織犯罪対策課において絶対だったからだ。
「すぐに行ってッ! 引っ張ってきたら、取り調べにはあたしも同席するわ」
「はいッ、行ってきますッ!」
中西が若手二人とともに組織犯罪対策から急いで出て行った。その後ろ姿を見送りながら、玲奈はデスクの上に両肘を乗せて手を組んだ。
(仮にエンタープライズが<一条組>の新事務所だとしても、捜査令状を請求するほどの証拠がない……。そうかと言って、純一郎に新事務所の場所を告げたら<櫻華会>と<一条組>の内部紛争に発展してしまう」
しばらくの間、玲奈はどうするべきか考えた。自分が純一郎をまだ愛していることに気づいた玲奈は、彼を危険な眼に遭わせたくなかったのだ。
(水島麗華が誘拐されてからすでに三十二時間が経過していることを考えると、あまり猶予もないわ。やはり、高城さんの力を借りた方がいいわね……)
<一条組>は構成員三十三名の組織だ。それを圧倒できる戦力を有するのは、警察と自衛隊を除けば、<星月夜>だけだった。
<星月夜>統合作戦本部長である高城雄斗の顔を思い浮かべながら、玲奈はその美しい瞳に女豹の輝きを浮かべた。
「あいつが、中村雅成だ。以前にDV案件で締め上げたのを覚えてますかい?」
錦織雄作の視線の先にいる男を、瑞紀がオペラグラスで見つめた。
「忘れるはずないわ。トカレフを三発も撃ち込まれて、特注のドアを交換したんだから……。あのドア一枚で二十万円もしたのよ」
三ヶ月前、DVの被害を相談してきた妻からの依頼で、錦織が中村の素行調査を行った。そして、中村が<蛇咬会>のフロント企業の役員であることを突き止めたところ、その警告として<楪探偵事務所>は三発の銃弾を撃ち込まれたのだった。
その直後に七瀬美咲が誘拐され、瑞紀自身も<蛇咬会>に拉致されて凄まじい凌辱と暴力を受けた。美咲は<星月夜>の特別捜査官と錦織が助け出し、瑞紀は白銀龍成と西園寺凛桜によって救出されたが、二人とも長期入院する羽目になった。その間に、錦織が中村を脅しあげて離婚届を書かせ、DV案件は一応の解決を見ていた。
「あいつの鼻、分かりますか? 以前はあそこまでじゃなかったんで気づかなかったが、あれはコカイン中毒の典型的な症状ですぜ」
錦織の言葉に、瑞紀はオペラグラスで中村の顔を見た。鼻全体が真っ赤に爛れて、鼻血の痕が瘡蓋になっていいた。コカインを鼻からストローで吸引している者の症候に間違いなかった。それも、かなりの常習者の症状であった。
「売人として売りさばくうちに、自分でも手を出して抜けられなくなったってところね」
「まったく、バカなヤツだ。あそこまで行ったら、まず社会復帰なんてできねえぞ」
錦織の言葉に、瑞紀は<一条組>に拉致された水島麗華の顔を思い浮かべた。<櫻華会>若頭の神崎の話では、麗華もコカインか覚醒剤を射たれているとのことだった。その映像が届けられたそうだが、神崎は頑なに瑞紀に見せようとしなかった。その態度から瑞紀は、麗華が麻薬を射たれて凌辱されていることを察した。
(早く助け出さないと、麗華も間に合わなくなる……)
新宿駅南口のプロムナードに隣接した大型複合ビルに入っていく中村の背中をオペラグラス越しに見据えながら、瑞紀がエルメスのバーキンに右手を入れた。そして、ベレッタM93RMK2の存在を確かめると、錦織に告げた。
「中村が役員をしている株式会社エンタープライズは、あのビルの二十一階だったわね。まずは私が一人で行って状況を確認してくるわ」
「何考えてるんだ、所長ッ! エンタープライズは<蛇咬会>のフロント企業だぞッ! <蛇咬会>本部が潰れた今、エンタープライズがどうなっているのか知らねえが、いずれにしてもまともな会社じゃないッ! 危険すぎるッ!」
瑞紀の言葉に驚愕して、錦織が叫んだ。
「虎穴に入らずんば何とやらよ。向こうも女一人なら油断するだろうしね。それに、神崎さんは言っていたわ。この街でコカインを扱えるのは一条くらいだと……。あの中村がコカインの売人なら、必ず一条と繋がっているはずよ。その先に麗華がいる可能性があるなら、多少の危険なんて気にしていられないわ」
「しかし……」
錦織の言葉を遮るように、瑞紀が続けた。
「錦織さんは、念のためにこのことを龍成に連絡しておいて。そうすれば、何かあった場合に<星月夜>のバックアップが得られるわ。頼んだわよ」
そう告げると、心配そうな錦織の視線を背中に感じながら、瑞紀はエンタープライズの入っている大型複合ビルへと向かった。
そのビルは、「スカイタワーSHINJUKU」という二十八階建てのオフィス・商業施設複合ビルだった。地下二階から地上三階まではスーパーを始めとする様々な店舗が入っていた。そして、四階以上がオフィスビルとなっていた。株式会社エンタープライズは、その二十一階のフロアにあった。
「失礼します……」
エントランスの自動ドアを抜けた瞬間、男たちの視線が瑞紀に絡みついた。体の隅々まで舐めるように這う視線に背筋をゾッとさせながら、瑞紀は男たちの顔を見渡した。
エンタープライズには受付どころか衝立一つなく、いきなり事務所が広がっていた。そこに座る十五人ほどの男たちは、誰一人として堅気には見えなかった。チーマー風の若者から三つ揃いのスーツを着込んだ中年まで、全員が危険な雰囲気を纏っていた。
(少し軽率だったかな……?)
瑞紀も若い女性だ。十五人ものヤクザに囲まれて、恐怖を感じないはずはなかった。気が弱い女性なら失神してしまうほどの迫力なのだ。バーキンのバッグに右手を入れてベレッタM93RMK2のグリップを握ると、瑞紀はニッコリと微笑みながら近くの若い男に告げた。
「こちらに中村雅成さんがいらっしゃると思いますが、<楪探偵事務所>の楪が訊ねてきたと伝えて頂けませんか?」
「探偵事務所が専務に何の用だッ?」
二十代半ばくらいの金髪の男が、瑞紀の正面に立って凄んだ。中村はエンタープライズの役員だと聞いていたが、専務だったようだ。
「ちょっとこれの入手ルートについて聞きたいんですよ」
瑞紀はスキニー・デニムの尻ポケットから銀色の小箱を取り出すと、左手で掲げながら告げた。コカインの容器が入ったケースだった。そのケースを眼にした途端、男たちの表情が変わった。その驚愕と危険さに満ちた表情こそ、全員がコカイン密売に関与している証拠に他ならなかった。
「姉ちゃん、それをどこで手に入れた?」
三十代半ばの男がゆっくりとした足どりで瑞紀に近づいてきた。濃いレイバンのサングラスを掛けて、髪をオールバックにした男だった。仕立ての良さそうな紺色のスーツから、男がそれなりの立場の人間であることが分かった。
「以前にうちの調査員が、中村さんからプレゼントされたのよ。さっさと中村さんを呼んできてくれないかしら?」
「威勢のいい姉ちゃんだ。それをこっちに寄越し……」
男が言葉を途切れさせた。そして、両手を上げるとゆっくりと後ずさりを始めた。瑞紀がベレッタM93RMK2の銃口を男の目の前に突きつけたのだ。
「私、銃の腕には自信がないのよ……」
ニッコリと笑みを浮かべながら、瑞紀がM93RMK2の引き金を引いた。
ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
3点射特有の連射音が響き渡り、部屋の奥に掛けられていた大きな額に三つの弾痕が空いた。十五メートルほど先にある額には、「一条組」と漆黒の墨で大書されていた。その「条」の字の中央に、三つの弾痕が集弾されていた。
素人は十五メートルも離れたら、銃弾を人体に命中させることさえも困難だ。それを直径五センチ以内に三発もの銃弾を集弾させた瑞紀の腕前に、男たちは驚愕した。
「株式会社エンタープライズって<蛇咬会>の関連企業だったと思ったけど、いつから<一条組>のものになったのかしら?」
のんびりとした口調と裏腹に、瑞紀は頭脳をフル回転させていた。三ヶ月前、龍成たちがステルス・コブラで<蛇咬会>本部を壊滅させた後、新宿自治区における暴力団の勢力図も大きく変わったのだ。
新宿自治区における闇組織は大きく三つに分類される。その一つは<櫻華会>を中心とする日系暴力団だ。主に新宿駅を中心として、東は市ヶ谷、四谷周辺まで、西は山手通りまでをその勢力下に納めている。
第二の勢力は中国系マフィアだ。大久保駅、新大久保駅を中心として、山手線を境に新宿北西部を地盤としていた。<蛇咬会>や<玉龍会>はこの中国系マフィアの筆頭だった。
そして最後は高田馬場から早稲田、神楽坂、飯田橋一帯を根拠とするイタリア系シチリアン・マフィアだ。秘密結社とも呼ばれる血の掟に縛られた集団であり、その実態は厚いヴェールに包まれていた。
現在の新宿自治区では、<蛇咬会>の弱体化と<玉龍会>の壊滅によって、その版図が日系暴力団とシチリアン・マフィアに塗り替えられようとしていた。株式会社エンタープライズもその一つで、<蛇咬会>から<一条組>へとその管轄が変わっていたのだ。
「てめえ、よくも代紋を……」
レイバンの男が瑞紀に文句を言おうと凄んだ。だが、瑞紀がM93RMK2の銃口を向けると、再び両手を上げながら沈黙した。
「さっさと中村さんを呼んでくれないかしら? さっきも言ったけど、私は銃が苦手なの。腕を狙ったつもりが、心臓を撃ち抜いちゃうかも知れないわよ……」
瑞紀の言葉に、レイバンの男が額から汗を流しながらコクコクと頷いた。そして、横にいる金髪にうわずった声で命じた。
「は、早く、中村を連れて来いッ……!」
「は、はいッ……!」
金髪の男が、奥にある扉へと駆け出していった。その時、奥の扉が開いて、一人の男が姿を現した。そして、部屋中に響き渡る大声で叫んだ。
「何だ、今の銃声はッ……! てめえ、何もんだッ……!」
男が凄まじい目つきで、レイバンの男に銃を突きつけている瑞紀を睨んだ。
「あなたは……、九鬼ッ……! ということは、ここに麗華が……?」
麗華から聞いた一条天翔と九鬼雷銅の写真を、瑞紀は<星月夜>のデータ・バンクで確認していた。額の中央から左頬に掛けて大きな刀傷がある顔は、九鬼に間違いなかった。瑞紀はM93RMK2の銃口を九鬼に向けると、鋭い声で叫んだ。
「動かないでッ! 少しでも動いたら、九鬼を撃つわッ!」
周囲の男たちが、瑞紀の声で動きを止めた。中には机の引き出しを開けて拳銃を取り出そうとしていた男もいた。男たちの様子を視界の隅で確認しながら、瑞紀が九鬼に向かって訊ねた。
「水島麗華はどこッ……? ここにいるんでしょッ!」
「あの女の仲間か……? たった一人で乗り込んでくるなんて、女だてらにいい度胸だ。麗華に会わせてやる。ついて来いッ!」
M93RMK2を向けられてもまったく動じた様子も見せずに、九鬼が顎をしゃくった。そして、堂々と瑞紀に背中を向けると、ゆっくりと奥の扉を開けて中に入って行った。
「あなたも付いてきなさいッ!」
レイバンの男の背中にM93RMK2を突きつけると、瑞紀は彼を人質にして九鬼の後に続いた。男は両手を上げながら、蒼白な表情で瑞紀に従った。
(九鬼のあの余裕は何なの……? 人質を取っているのは私の方なのに……)
瑞紀の心に疑惑と不信が沸き起こった。九鬼の態度は、自分の優位を疑っていない者のそれであった。
その答えが、そこにはあった。その情景を眼にした瞬間、瑞紀は驚愕に大きく目を見開いて言葉を失った。亜麻色の髪を振り乱しながら、四つん這いにされた麗華が後ろから男に貫かれていたのだ。
「アッ、アッ、アァアアッ……! 純一郎ッ! 気持ちいいッ! また、イッちゃうッ! だめぇッ! イクぅううッ!」
ビクンッビクンッと総身を激しく痙攣させると、麗華は白い背中を大きく仰け反らせながら絶頂を極めた。官能に焦点を失った瞳から随喜の涙を流し、ワナワナと震える唇からはネットリとした涎が糸を引いて垂れ落ちた。歓喜の硬直から裸身を解き放つと、麗華はグッタリとシーツの波間に沈み込んだ。ハァ、ハァとせわしなく炎の吐息を漏らしながら、麗華はうっとりと倖せそうな表情を浮かべていた。その右腕に無数の注射痕を見て、瑞紀が麗華を犯していた男に叫んだ。
「麗華に何をしたのッ……! 答えなさい、一条天翔ッ!」
一条は猛りきった逸物を麗華から抜き去ると、瑞紀に向かってニヤリと笑いながら告げた。
「麗華を悦ばせてやっているだけだ。どうだ、この蕩けきった女の顔は……? コカインをキメながらセックスすると、女はみんなこうなる。お前にも試してやろうか、楪瑞紀……?」
「何で、私の名前を……?」
一条が自分を知っていることに、瑞紀は驚いた。彼とは面識がないはずだった。
「麗華を招待するのに、その交友関係くらいは調べてある。<星月夜>の元特別捜査官で、現在は女だてらに探偵事務所の所長をしているそうだな。ここに辿り着いたということは、なかなか優秀な探偵のようだ。だが、詰めが甘いな……」
そう告げると、一条は枕の下からS&W696を取り出して銃口を麗華の後頭部に押しつけた。S&W696はアメリカ最大の銃器メーカーであるスミス&ウェッソン製のステンレス拳銃で、44マグナム弾を六発装弾できる強力な回転式拳銃だ。有効射程距離は二十五メートルと短いが、その威力は9mmパラベラム弾とは比較にならないほど強大だ。至近距離から撃たれたら、麗華の頭部は半分以上が吹き飛び脳漿を撒き散らすのは確実だった。
「銃を捨てなさいッ! 撃つわよッ!」
「俺に引き金を引かせずに倒せると思うなら、撃ってみるがいい。ただし、この距離で俺が銃爪を引いたら、麗華は間違いなく即死するぞ」
ニヤリと余裕の笑みを見せながら、一条が告げた。瑞紀は両手でM93RMK2を構えながら、唇を噛んだ。一条との距離は五メートルくらいしかない。S&W696を持つ一条の右肩を確実に撃ち抜く自信が瑞紀にはあった。だが、その衝撃で一条が引き金を引く可能性を無視することはできなかったのだ。
「こいつは預からせてもらおう」
九鬼がゆっくりと瑞紀に近づくと、M93RMK2の銃身を上から握り締めた。瑞紀は一瞬抵抗しようとしたが、一条がカシャッという音とともにS&W696の撃鉄を起こすとM93RMK2から手を離した。
「これがベレッタM93Rか……。いい銃だ」
奪い取ったM93RMK2の銃口を瑞紀に向けながら九鬼が笑った。瑞紀は九鬼を睨みつけながら、悔しさに唇を噛みしめた。
「では、服を脱いでもらおう」
「誰がッ……」
瑞紀の抗議の言葉を遮るように、九鬼が続けた。
「たった一人でここに乗り込んでくるような女だ。他に武器を隠していないとも限らん。素っ裸になってもらおう」
「くッ……」
一条が麗華の白い背中をS&W696の銃口でゆっくりと撫で上げた。愉悦の痙攣を続けている麗華の体が、ビクンと震えた。その無言の脅迫に、瑞紀はゆっくりと衣服を脱ぎ捨て、淡青色のブラジャーとパンティだけの姿になった。羞恥のあまり顔を赤く染め上げて、両手で胸と股間を隠した。
「いい躰をしているな。こいつも取ってもらおうか?」
M93RMK2の銃身でブラジャーの右肩紐を外しながら、九鬼がニタリと笑った。瑞紀は恥辱のあまりキッと九鬼を睨みつけながら言った。
「私が裸になれば、麗華を解放するって約束しなさいッ!」
だが、瑞紀のその言葉を聞いた途端、一条が声を上げて笑い出した。
「何がおかしいのッ!」
「どれだけ自分の裸に自信があるんだ? たかが脱いだだけで麗華を解放するはずなどないだろう? せめて、自分が身代わりになって犯されるから、麗華を解放してくださいくらい言えないのか?」
笑いながら告げた一条の台詞に、瑞紀は唇が白くなるほど噛みしめた。一条の言葉は、瑞紀を凌辱すると宣言したのも同様だった。三ヶ月前の王雲嵐による凄まじい凌辱が瑞紀の脳裏に蘇った。
「どうした、楪瑞紀? 麗華を解放したいのなら、俺にお願いしてみたらどうだ?」
「私が……身代わりになるから……、麗華を……解放して……」
怒りと屈辱に燃える黒瞳で一条を睨みながら、瑞紀が告げた。それは、今の瑞紀にできる精一杯の抵抗だった。
「さて、それはお前の体を見せてもらってから決めるとしよう。早く全部脱げ。そして、両手を横にして脚を開くんだ。一切隠すことは許さん」
「くッ……」
羞恥と恥辱に顔を真っ赤に染めると、瑞紀はブラジャーのフロントホックを外して両手を抜いた。外気に晒された白い乳房がプルンと揺れ、淡青色のブラジャーが床に落ちた。瑞紀は腰をかがめると、パンティを下ろして両脚を抜き去った。柔らかそうな叢と羞恥の源泉が一条の眼に晒された。
「胸は麗華より少し小さいな。だが、形もいいし、乳首も乳輪も綺麗なピンク色をしている。悪くない……」
自分の裸身を舐め回す一条と九鬼の視線に、瑞紀は両手を握り締めながら横を向いた。恥ずかしさのあまり、気が遠くなりそうだった。だが、次に一条が告げた言葉に、瑞紀は全身を強張らせた。
「感度はどうだ? おい、加藤……。後ろからこってりと胸を揉んでやれ」
「は、はいッ!」
瑞紀の左横に立っていたレイバンの男が、突然の栄誉に顔を輝かせた。加藤は満面に笑みを浮かべると、瑞紀の背後に回って後ろから両手で豊かな乳房を包み込んだ。
「いやッ! 触らないでッ!」
瑞紀の拒絶の声は、一条がS&W696の銃口を麗華の後頭部に押しつけると止まった。加藤は涎を垂らさんばかりに笑みを浮かべると、瑞紀の乳房の柔らかさを味わうようにシナシナと揉み上げた。
(こんな屈辱……。口惜しいッ……!)
瑞紀は唇を噛みしめながら、加藤が与える恥辱に耐えた。だが、豊かな乳房をこってりと揉みしだかれ、ツンと突き勃った乳首を扱かれ続けると次第に息が荒くなっていった。二十五歳の女体が女の弱点を責め続けられて、平静でいることなどできるはずがなかった。
「んッ……くッ……ん、んッ……くうッ……」
漏れ出そうな嬌声を噛み殺す瑞紀を見て、一条が楽しそうに笑った。
「感度も悪くなさそうだな。乳首が硬くなってきたじゃねえか。よし、九鬼、あれを使ってやれ」
「はい。楪瑞紀、お前が麗華の代わりになれるかを確認してやろう」
そう告げると、九鬼は部屋の隅にあった黒いボストンバッグから銀色の箱を取り出した。そして、蓋を開けて中にある物が見えるように瑞紀の目の前に掲げた。
「それは……ッ! いやッ……! やめてッ……!」
それを眼にした瞬間、瑞紀は蒼白になって首を激しく振った。だが、九鬼は長い黒髪を舞い乱す瑞紀の左腕をガッシリと握り締めた。
「お願いッ……! やだッ……! 許してッ!」
白い液体が入った注射器が、瑞紀の左腕に押しつけられた。そして、恐怖に慄く瑞紀を嘲笑うかのように、銀色の針が左腕に突き刺さった。チクンという痛みとともに、悪魔の溶液が瑞紀に注入された。九鬼がニヤリと笑いながら注射針を抜き去った瞬間、瑞紀の体が感電したかのようにビクンッと震えた。
(な、何これ……? 体が……?)
全身に鳥肌が沸き立った。神経を直接舐め回されているように、ゾクゾクとした感覚が急激に広がっていった。下腹部がカアッと熱を持ったように熱くなり、その熱が背筋を駆け抜けながら四肢の先端まで急速に浸透した。視界がボウッと霞み始め、吐く息が燃えるように熱くなるのが自分でも分かった。
「どう……だ……? コカ……インの……味は……? 感度……が数倍……に跳ね……上がる……ぞ……」
一条の声がスローモーションのように、ゆっくりと途切れながら聞こえてきた。視界が滲んでいることに気づき、瑞紀は自分が涙を流していることを知った。いや、涙だけではなかった。ワナワナと震える唇からは、ネットリとした涎が糸を引いて垂れていた。
(これ、やばい……。麗華は、こんなのを射たれたの……?)
そう思った瞬間、凄まじい衝撃が瑞紀を襲った。官能の愉悦、いや、歓喜の爆発とでもいうべき快感が全身を貫いたのだ。
「ひぃいいいッ……!」
美しい裸身を大きく仰け反らせると、瑞紀はビクンッビクンッと激しく痙攣して絶頂を極めた。
身構える暇さえもなく凄絶な快感が全身を駆け抜け、一瞬で歓喜の極みに駆け上らされたのだった。驚愕のあまり黒曜石の瞳を大きく見開きながら、瑞紀は圧倒的な愉悦の激流に裸身を震わせた。
(何、これ……? こんな、あっという間に……イカされるなんて……)
だが、それは一度きりではなかった。快美の奔流にガクガクと硬直している瑞紀を、再び壮絶な快感が襲った。
「あぁあああッ……!」
あまりの快絶に長い髪を振り乱しながら、瑞紀は再び絶頂を極めた。プシャッという音とともに、花唇から愛蜜が噴き出したのが自分でも分かった。
(そんな……胸だけで……)
後ろから加藤が瑞紀の乳房を揉みしだいたのだ。たったそれだけの刺激で、瑞紀は続けざまに二回も絶頂を極めさせられたのだった。
(こんなの……おかしく……なる……)
灼き溶けた意識でそう思った瞬間、より壮絶な快感に瑞紀は全身を硬直させた。ガチガチに尖り勃った乳首を、加藤が扱き始めたのだ。
「いやぁああッ……!」
自分の意志で我慢するなどという限界を遥かに超越した快感だった。脳が灼き溶けるほどの快絶に、瑞紀はビックンッビックンッと痙攣しながら絶頂を極めた。
シャアアーッという音を奏でて、花唇から黄金の水が虚空に弧を描いて迸った。かつてないほどの圧倒的な絶頂感に、瑞紀は立ったまま失禁してしまったのだ。
「立ち……ション……ベンしや……がった……」
「そんな……に気持ち……いいのか……、楪……瑞紀……?」
壊れたスピーカーから聞こえるように、一条と九鬼の会話が途切れながら響き渡った。だが、瑞紀にはすでに何を言っているのかさえ理解できなかった。次々と襲ってくる快美の火柱に全身を灼かれ、意識さえも快楽の炎に溶かされていたのだ。
「だめぇッ! ひぃいいいッ……!」
加藤の右手が柔らかな叢をかきわけて、羞恥の源泉をなぞり始めた。壮絶な快感が腰骨を灼き溶かし、背筋を舐め上げて脳天で弾けた。次の瞬間、ビクンッビクンッと総身を激しく痙攣させると、瑞紀は三度目の絶頂を極めさせられた。
加藤が慣れた手つきでクルンと突起の薄皮を剥きあげた。そして、真っ赤に充血した真珠粒をコリコリと転がしながら、愛蜜を塗りつけてきた。
「だめぇえッ! いやぁああ……!」
プシャアッと音を立てて、花唇から愛蜜が迸った。絶頂している最中にも関わらず、次々と加えられる淫撃に瑞紀は立て続けに歓悦の頂点へと押し上げられた。全身の痙攣は止まらなくなり、四肢の先端まで快感が走り抜け、脳髄さえもドロドロに蕩かされた。
「許してぇッ! 狂っちゃうッ……!」
一瞬の休みさえ与えられずに、瑞紀は絶頂と愉悦を繰り返した。すでに立っていることもできず、痙攣と硬直を続ける肢体を加藤に預けながら、瑞紀は絶頂地獄に陥っていた。
「お願いッ! もう、いやぁああッ!」
瑞紀の哀願の言葉を聞き入れずに、加藤が指を二本揃えて濡れた花唇へと挿し入れた。そして、鉤状に折り曲げると粒だった天井部分を擦り上げ始めた。同時に、反対の手で真っ赤に充血した真珠粒を摘まみ上げ、コリコリと扱きだした。
「私、壊れるッ! 死んじゃうぅうッ!」
「また、イクッ! 許してぇッ イグぅううッ……!」
プッシャアーッという音とともに、愛蜜が潮流となって噴出した。ビックンッビックンッと壮絶に震撼すると、瑞紀はガクッガクッと総身を硬直させた。想像を絶する快美の火柱が全身を灼き溶かし、脳髄さえもドロドロに熔解した。次の瞬間、ガクリと首を折ると、瑞紀は崩れるように床に沈みながら失神した。
「少し、純度が高すぎたか……?」
「そのようですね。麗華に使ったヤツの倍近い濃度でしたから……」
一条と九鬼がお互いに顔を見合わせながら笑った。そして、横たわる瑞紀の後ろで立っている加藤に一条が訊ねた。
「おい、加藤。お前、こいつとやりたいか?」
「い、いいんですか? 組長……?」
涎を垂れ流さんばかりの表情で、加藤がゴクリと生唾を飲み込んだ。
「ああ……。だが、今は駄目だ。その前に、面白いショーを見せてやる」
「百合ショーですか? 麗華にこの女を責めさせるつもりで……?」
「よく分かったな、九鬼。今のうちにこいつをベッドに拘束しろ。この真っ赤な薔薇を百合で責め抜くのも一興だ」
瑞紀の左胸に咲く真紅の薔薇を見下ろしながら、一条がニヤリと笑った。自分を待つ過酷な運命に震えているかのように、瑞紀はビクンッビクンッと裸身を痙攣させ続けていた。
西新宿署組織犯罪対策課に戻ってプラダのバッグを机に置くと、玲奈は火照った頬に手を当てた。体の芯では快感が埋み火のように残っており、いまだに子宮が疼いていた。黒いラペルラの下着の中で乳首が硬くそそり勃ち、秘唇が蜜液で濡れているのが自分でも分かった。玲奈は火の吐息を漏らすと、辛うじて自らを慰めたくなる衝動を抑え込んだ。
「姫川課長、例の件が絞り込めました。」
「ありがとう、報告して……」
臈長けた女の顔から一瞬で女豹の顔に戻ると、玲奈は目の前に立つ中西勇介を見つめた。組織犯罪対策課……通称、マル暴で、玲奈が目を掛けている若手刑事だ。たしか、年齢は二十八歳だったはずだ。今風の若い子らしく、ツーブロックにしたマッシュヘアを茶髪に染めていた。
「はい……。この三ヶ月間で新規契約された件数は、電気が八十一件、ガスが五十五件、水道が六十八件でした」
「やはり、電気が一番多いのね。オール電化の影響かしら?」
<一条組>の新事務所を探すにあたり、麗華は中西にライフラインの新規契約数を調査させていた。新しく事務所を開くのに、電気、ガス、水道は必ず必要だからだ。そして、その調査範囲は新宿自治区とし、期間は三ヶ月以内とした。<櫻華会>の跡目を狙っているのであれば、新事務所を新宿自治区内に置く可能性が高かったからだ。
「そうですね。そのうち、<櫻華会>の準構成員が契約した件数は、電気、ガス、水道ともに三件でした。<一条組>のものは、ゼロです」
「フロント企業はどうだったの?」
暴力団事務所や暴力団員は、新暴力団対策法により銀行口座を開設することができない。その上、新宿自治区では公共料金の支払いは、クレジットカードか口座引き落としのみだった。よって、銀行口座を持てない暴力団員は、生活インフラと契約するのもフロント企業かその従業員等の名義を利用するしかないのだ。
「<櫻華会>のフロント企業と思われるものは三社、<一条組>のものは二社ありますが、いずれも公共料金の法人契約はしていません。準構成員名義での個人契約だけですね」
「つまり、<櫻華会>の準構成員が新規契約した三件のどれかが、<一条組>の新事務所である可能性が強いってわけね」
これは、<櫻華会>の中に<一条組>に協力している者がいるという意味だった。
(獅子身中の虫がいるなんて、純一郎も大変ね……)
「その三件の契約住所ですが、二件は歌舞伎町の飲食店……正確には、居酒屋とキャバクラです。そしてもう一件が、<蛇咬会>の元フロント企業だった株式会社エンタープライズです。<蛇咬会>が弱体化した後、<一条組>が押収しています」
「その契約者の名前は?」
どうやら、当たりだったようだ。暴力団がフロント企業の役員や従業員を通じて、不動産販売や車の購入をするのは常套手段だ。今回の生活インフラの開設もその線が高かった。
「浅倉大地、二十九歳です。自宅住所は、新宿区大久保三の○の○です」
「すぐに、浅倉に任意同行をかけてッ! 拒否したら、多少荒っぽくても構わないわ。連続爆破テロの重要参考人として引っ張ってきてちょうだいッ!」
参考人と重要参考人では意味合いが異なる。両者とも取り調べを行うのは同じだが、重要参考人は犯罪を犯した被疑者として取り調べ後に逮捕する可能性が大きいのだ。玲奈の言葉に、中西の表情が変わった。
「はいッ! 二名連れて行きます! 佐野、今野、来いッ!」
課内を見廻すと、席で事務処理をしていた若い課員の名を中西が叫んだ。名を呼ばれた二人は、中西が玲奈と話をしていることに気づき、さっと席を立った。キャリア警視であり、<西新宿の女豹>との異名を取る玲奈の命令は、この組織犯罪対策課において絶対だったからだ。
「すぐに行ってッ! 引っ張ってきたら、取り調べにはあたしも同席するわ」
「はいッ、行ってきますッ!」
中西が若手二人とともに組織犯罪対策から急いで出て行った。その後ろ姿を見送りながら、玲奈はデスクの上に両肘を乗せて手を組んだ。
(仮にエンタープライズが<一条組>の新事務所だとしても、捜査令状を請求するほどの証拠がない……。そうかと言って、純一郎に新事務所の場所を告げたら<櫻華会>と<一条組>の内部紛争に発展してしまう」
しばらくの間、玲奈はどうするべきか考えた。自分が純一郎をまだ愛していることに気づいた玲奈は、彼を危険な眼に遭わせたくなかったのだ。
(水島麗華が誘拐されてからすでに三十二時間が経過していることを考えると、あまり猶予もないわ。やはり、高城さんの力を借りた方がいいわね……)
<一条組>は構成員三十三名の組織だ。それを圧倒できる戦力を有するのは、警察と自衛隊を除けば、<星月夜>だけだった。
<星月夜>統合作戦本部長である高城雄斗の顔を思い浮かべながら、玲奈はその美しい瞳に女豹の輝きを浮かべた。
「あいつが、中村雅成だ。以前にDV案件で締め上げたのを覚えてますかい?」
錦織雄作の視線の先にいる男を、瑞紀がオペラグラスで見つめた。
「忘れるはずないわ。トカレフを三発も撃ち込まれて、特注のドアを交換したんだから……。あのドア一枚で二十万円もしたのよ」
三ヶ月前、DVの被害を相談してきた妻からの依頼で、錦織が中村の素行調査を行った。そして、中村が<蛇咬会>のフロント企業の役員であることを突き止めたところ、その警告として<楪探偵事務所>は三発の銃弾を撃ち込まれたのだった。
その直後に七瀬美咲が誘拐され、瑞紀自身も<蛇咬会>に拉致されて凄まじい凌辱と暴力を受けた。美咲は<星月夜>の特別捜査官と錦織が助け出し、瑞紀は白銀龍成と西園寺凛桜によって救出されたが、二人とも長期入院する羽目になった。その間に、錦織が中村を脅しあげて離婚届を書かせ、DV案件は一応の解決を見ていた。
「あいつの鼻、分かりますか? 以前はあそこまでじゃなかったんで気づかなかったが、あれはコカイン中毒の典型的な症状ですぜ」
錦織の言葉に、瑞紀はオペラグラスで中村の顔を見た。鼻全体が真っ赤に爛れて、鼻血の痕が瘡蓋になっていいた。コカインを鼻からストローで吸引している者の症候に間違いなかった。それも、かなりの常習者の症状であった。
「売人として売りさばくうちに、自分でも手を出して抜けられなくなったってところね」
「まったく、バカなヤツだ。あそこまで行ったら、まず社会復帰なんてできねえぞ」
錦織の言葉に、瑞紀は<一条組>に拉致された水島麗華の顔を思い浮かべた。<櫻華会>若頭の神崎の話では、麗華もコカインか覚醒剤を射たれているとのことだった。その映像が届けられたそうだが、神崎は頑なに瑞紀に見せようとしなかった。その態度から瑞紀は、麗華が麻薬を射たれて凌辱されていることを察した。
(早く助け出さないと、麗華も間に合わなくなる……)
新宿駅南口のプロムナードに隣接した大型複合ビルに入っていく中村の背中をオペラグラス越しに見据えながら、瑞紀がエルメスのバーキンに右手を入れた。そして、ベレッタM93RMK2の存在を確かめると、錦織に告げた。
「中村が役員をしている株式会社エンタープライズは、あのビルの二十一階だったわね。まずは私が一人で行って状況を確認してくるわ」
「何考えてるんだ、所長ッ! エンタープライズは<蛇咬会>のフロント企業だぞッ! <蛇咬会>本部が潰れた今、エンタープライズがどうなっているのか知らねえが、いずれにしてもまともな会社じゃないッ! 危険すぎるッ!」
瑞紀の言葉に驚愕して、錦織が叫んだ。
「虎穴に入らずんば何とやらよ。向こうも女一人なら油断するだろうしね。それに、神崎さんは言っていたわ。この街でコカインを扱えるのは一条くらいだと……。あの中村がコカインの売人なら、必ず一条と繋がっているはずよ。その先に麗華がいる可能性があるなら、多少の危険なんて気にしていられないわ」
「しかし……」
錦織の言葉を遮るように、瑞紀が続けた。
「錦織さんは、念のためにこのことを龍成に連絡しておいて。そうすれば、何かあった場合に<星月夜>のバックアップが得られるわ。頼んだわよ」
そう告げると、心配そうな錦織の視線を背中に感じながら、瑞紀はエンタープライズの入っている大型複合ビルへと向かった。
そのビルは、「スカイタワーSHINJUKU」という二十八階建てのオフィス・商業施設複合ビルだった。地下二階から地上三階まではスーパーを始めとする様々な店舗が入っていた。そして、四階以上がオフィスビルとなっていた。株式会社エンタープライズは、その二十一階のフロアにあった。
「失礼します……」
エントランスの自動ドアを抜けた瞬間、男たちの視線が瑞紀に絡みついた。体の隅々まで舐めるように這う視線に背筋をゾッとさせながら、瑞紀は男たちの顔を見渡した。
エンタープライズには受付どころか衝立一つなく、いきなり事務所が広がっていた。そこに座る十五人ほどの男たちは、誰一人として堅気には見えなかった。チーマー風の若者から三つ揃いのスーツを着込んだ中年まで、全員が危険な雰囲気を纏っていた。
(少し軽率だったかな……?)
瑞紀も若い女性だ。十五人ものヤクザに囲まれて、恐怖を感じないはずはなかった。気が弱い女性なら失神してしまうほどの迫力なのだ。バーキンのバッグに右手を入れてベレッタM93RMK2のグリップを握ると、瑞紀はニッコリと微笑みながら近くの若い男に告げた。
「こちらに中村雅成さんがいらっしゃると思いますが、<楪探偵事務所>の楪が訊ねてきたと伝えて頂けませんか?」
「探偵事務所が専務に何の用だッ?」
二十代半ばくらいの金髪の男が、瑞紀の正面に立って凄んだ。中村はエンタープライズの役員だと聞いていたが、専務だったようだ。
「ちょっとこれの入手ルートについて聞きたいんですよ」
瑞紀はスキニー・デニムの尻ポケットから銀色の小箱を取り出すと、左手で掲げながら告げた。コカインの容器が入ったケースだった。そのケースを眼にした途端、男たちの表情が変わった。その驚愕と危険さに満ちた表情こそ、全員がコカイン密売に関与している証拠に他ならなかった。
「姉ちゃん、それをどこで手に入れた?」
三十代半ばの男がゆっくりとした足どりで瑞紀に近づいてきた。濃いレイバンのサングラスを掛けて、髪をオールバックにした男だった。仕立ての良さそうな紺色のスーツから、男がそれなりの立場の人間であることが分かった。
「以前にうちの調査員が、中村さんからプレゼントされたのよ。さっさと中村さんを呼んできてくれないかしら?」
「威勢のいい姉ちゃんだ。それをこっちに寄越し……」
男が言葉を途切れさせた。そして、両手を上げるとゆっくりと後ずさりを始めた。瑞紀がベレッタM93RMK2の銃口を男の目の前に突きつけたのだ。
「私、銃の腕には自信がないのよ……」
ニッコリと笑みを浮かべながら、瑞紀がM93RMK2の引き金を引いた。
ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
3点射特有の連射音が響き渡り、部屋の奥に掛けられていた大きな額に三つの弾痕が空いた。十五メートルほど先にある額には、「一条組」と漆黒の墨で大書されていた。その「条」の字の中央に、三つの弾痕が集弾されていた。
素人は十五メートルも離れたら、銃弾を人体に命中させることさえも困難だ。それを直径五センチ以内に三発もの銃弾を集弾させた瑞紀の腕前に、男たちは驚愕した。
「株式会社エンタープライズって<蛇咬会>の関連企業だったと思ったけど、いつから<一条組>のものになったのかしら?」
のんびりとした口調と裏腹に、瑞紀は頭脳をフル回転させていた。三ヶ月前、龍成たちがステルス・コブラで<蛇咬会>本部を壊滅させた後、新宿自治区における暴力団の勢力図も大きく変わったのだ。
新宿自治区における闇組織は大きく三つに分類される。その一つは<櫻華会>を中心とする日系暴力団だ。主に新宿駅を中心として、東は市ヶ谷、四谷周辺まで、西は山手通りまでをその勢力下に納めている。
第二の勢力は中国系マフィアだ。大久保駅、新大久保駅を中心として、山手線を境に新宿北西部を地盤としていた。<蛇咬会>や<玉龍会>はこの中国系マフィアの筆頭だった。
そして最後は高田馬場から早稲田、神楽坂、飯田橋一帯を根拠とするイタリア系シチリアン・マフィアだ。秘密結社とも呼ばれる血の掟に縛られた集団であり、その実態は厚いヴェールに包まれていた。
現在の新宿自治区では、<蛇咬会>の弱体化と<玉龍会>の壊滅によって、その版図が日系暴力団とシチリアン・マフィアに塗り替えられようとしていた。株式会社エンタープライズもその一つで、<蛇咬会>から<一条組>へとその管轄が変わっていたのだ。
「てめえ、よくも代紋を……」
レイバンの男が瑞紀に文句を言おうと凄んだ。だが、瑞紀がM93RMK2の銃口を向けると、再び両手を上げながら沈黙した。
「さっさと中村さんを呼んでくれないかしら? さっきも言ったけど、私は銃が苦手なの。腕を狙ったつもりが、心臓を撃ち抜いちゃうかも知れないわよ……」
瑞紀の言葉に、レイバンの男が額から汗を流しながらコクコクと頷いた。そして、横にいる金髪にうわずった声で命じた。
「は、早く、中村を連れて来いッ……!」
「は、はいッ……!」
金髪の男が、奥にある扉へと駆け出していった。その時、奥の扉が開いて、一人の男が姿を現した。そして、部屋中に響き渡る大声で叫んだ。
「何だ、今の銃声はッ……! てめえ、何もんだッ……!」
男が凄まじい目つきで、レイバンの男に銃を突きつけている瑞紀を睨んだ。
「あなたは……、九鬼ッ……! ということは、ここに麗華が……?」
麗華から聞いた一条天翔と九鬼雷銅の写真を、瑞紀は<星月夜>のデータ・バンクで確認していた。額の中央から左頬に掛けて大きな刀傷がある顔は、九鬼に間違いなかった。瑞紀はM93RMK2の銃口を九鬼に向けると、鋭い声で叫んだ。
「動かないでッ! 少しでも動いたら、九鬼を撃つわッ!」
周囲の男たちが、瑞紀の声で動きを止めた。中には机の引き出しを開けて拳銃を取り出そうとしていた男もいた。男たちの様子を視界の隅で確認しながら、瑞紀が九鬼に向かって訊ねた。
「水島麗華はどこッ……? ここにいるんでしょッ!」
「あの女の仲間か……? たった一人で乗り込んでくるなんて、女だてらにいい度胸だ。麗華に会わせてやる。ついて来いッ!」
M93RMK2を向けられてもまったく動じた様子も見せずに、九鬼が顎をしゃくった。そして、堂々と瑞紀に背中を向けると、ゆっくりと奥の扉を開けて中に入って行った。
「あなたも付いてきなさいッ!」
レイバンの男の背中にM93RMK2を突きつけると、瑞紀は彼を人質にして九鬼の後に続いた。男は両手を上げながら、蒼白な表情で瑞紀に従った。
(九鬼のあの余裕は何なの……? 人質を取っているのは私の方なのに……)
瑞紀の心に疑惑と不信が沸き起こった。九鬼の態度は、自分の優位を疑っていない者のそれであった。
その答えが、そこにはあった。その情景を眼にした瞬間、瑞紀は驚愕に大きく目を見開いて言葉を失った。亜麻色の髪を振り乱しながら、四つん這いにされた麗華が後ろから男に貫かれていたのだ。
「アッ、アッ、アァアアッ……! 純一郎ッ! 気持ちいいッ! また、イッちゃうッ! だめぇッ! イクぅううッ!」
ビクンッビクンッと総身を激しく痙攣させると、麗華は白い背中を大きく仰け反らせながら絶頂を極めた。官能に焦点を失った瞳から随喜の涙を流し、ワナワナと震える唇からはネットリとした涎が糸を引いて垂れ落ちた。歓喜の硬直から裸身を解き放つと、麗華はグッタリとシーツの波間に沈み込んだ。ハァ、ハァとせわしなく炎の吐息を漏らしながら、麗華はうっとりと倖せそうな表情を浮かべていた。その右腕に無数の注射痕を見て、瑞紀が麗華を犯していた男に叫んだ。
「麗華に何をしたのッ……! 答えなさい、一条天翔ッ!」
一条は猛りきった逸物を麗華から抜き去ると、瑞紀に向かってニヤリと笑いながら告げた。
「麗華を悦ばせてやっているだけだ。どうだ、この蕩けきった女の顔は……? コカインをキメながらセックスすると、女はみんなこうなる。お前にも試してやろうか、楪瑞紀……?」
「何で、私の名前を……?」
一条が自分を知っていることに、瑞紀は驚いた。彼とは面識がないはずだった。
「麗華を招待するのに、その交友関係くらいは調べてある。<星月夜>の元特別捜査官で、現在は女だてらに探偵事務所の所長をしているそうだな。ここに辿り着いたということは、なかなか優秀な探偵のようだ。だが、詰めが甘いな……」
そう告げると、一条は枕の下からS&W696を取り出して銃口を麗華の後頭部に押しつけた。S&W696はアメリカ最大の銃器メーカーであるスミス&ウェッソン製のステンレス拳銃で、44マグナム弾を六発装弾できる強力な回転式拳銃だ。有効射程距離は二十五メートルと短いが、その威力は9mmパラベラム弾とは比較にならないほど強大だ。至近距離から撃たれたら、麗華の頭部は半分以上が吹き飛び脳漿を撒き散らすのは確実だった。
「銃を捨てなさいッ! 撃つわよッ!」
「俺に引き金を引かせずに倒せると思うなら、撃ってみるがいい。ただし、この距離で俺が銃爪を引いたら、麗華は間違いなく即死するぞ」
ニヤリと余裕の笑みを見せながら、一条が告げた。瑞紀は両手でM93RMK2を構えながら、唇を噛んだ。一条との距離は五メートルくらいしかない。S&W696を持つ一条の右肩を確実に撃ち抜く自信が瑞紀にはあった。だが、その衝撃で一条が引き金を引く可能性を無視することはできなかったのだ。
「こいつは預からせてもらおう」
九鬼がゆっくりと瑞紀に近づくと、M93RMK2の銃身を上から握り締めた。瑞紀は一瞬抵抗しようとしたが、一条がカシャッという音とともにS&W696の撃鉄を起こすとM93RMK2から手を離した。
「これがベレッタM93Rか……。いい銃だ」
奪い取ったM93RMK2の銃口を瑞紀に向けながら九鬼が笑った。瑞紀は九鬼を睨みつけながら、悔しさに唇を噛みしめた。
「では、服を脱いでもらおう」
「誰がッ……」
瑞紀の抗議の言葉を遮るように、九鬼が続けた。
「たった一人でここに乗り込んでくるような女だ。他に武器を隠していないとも限らん。素っ裸になってもらおう」
「くッ……」
一条が麗華の白い背中をS&W696の銃口でゆっくりと撫で上げた。愉悦の痙攣を続けている麗華の体が、ビクンと震えた。その無言の脅迫に、瑞紀はゆっくりと衣服を脱ぎ捨て、淡青色のブラジャーとパンティだけの姿になった。羞恥のあまり顔を赤く染め上げて、両手で胸と股間を隠した。
「いい躰をしているな。こいつも取ってもらおうか?」
M93RMK2の銃身でブラジャーの右肩紐を外しながら、九鬼がニタリと笑った。瑞紀は恥辱のあまりキッと九鬼を睨みつけながら言った。
「私が裸になれば、麗華を解放するって約束しなさいッ!」
だが、瑞紀のその言葉を聞いた途端、一条が声を上げて笑い出した。
「何がおかしいのッ!」
「どれだけ自分の裸に自信があるんだ? たかが脱いだだけで麗華を解放するはずなどないだろう? せめて、自分が身代わりになって犯されるから、麗華を解放してくださいくらい言えないのか?」
笑いながら告げた一条の台詞に、瑞紀は唇が白くなるほど噛みしめた。一条の言葉は、瑞紀を凌辱すると宣言したのも同様だった。三ヶ月前の王雲嵐による凄まじい凌辱が瑞紀の脳裏に蘇った。
「どうした、楪瑞紀? 麗華を解放したいのなら、俺にお願いしてみたらどうだ?」
「私が……身代わりになるから……、麗華を……解放して……」
怒りと屈辱に燃える黒瞳で一条を睨みながら、瑞紀が告げた。それは、今の瑞紀にできる精一杯の抵抗だった。
「さて、それはお前の体を見せてもらってから決めるとしよう。早く全部脱げ。そして、両手を横にして脚を開くんだ。一切隠すことは許さん」
「くッ……」
羞恥と恥辱に顔を真っ赤に染めると、瑞紀はブラジャーのフロントホックを外して両手を抜いた。外気に晒された白い乳房がプルンと揺れ、淡青色のブラジャーが床に落ちた。瑞紀は腰をかがめると、パンティを下ろして両脚を抜き去った。柔らかそうな叢と羞恥の源泉が一条の眼に晒された。
「胸は麗華より少し小さいな。だが、形もいいし、乳首も乳輪も綺麗なピンク色をしている。悪くない……」
自分の裸身を舐め回す一条と九鬼の視線に、瑞紀は両手を握り締めながら横を向いた。恥ずかしさのあまり、気が遠くなりそうだった。だが、次に一条が告げた言葉に、瑞紀は全身を強張らせた。
「感度はどうだ? おい、加藤……。後ろからこってりと胸を揉んでやれ」
「は、はいッ!」
瑞紀の左横に立っていたレイバンの男が、突然の栄誉に顔を輝かせた。加藤は満面に笑みを浮かべると、瑞紀の背後に回って後ろから両手で豊かな乳房を包み込んだ。
「いやッ! 触らないでッ!」
瑞紀の拒絶の声は、一条がS&W696の銃口を麗華の後頭部に押しつけると止まった。加藤は涎を垂らさんばかりに笑みを浮かべると、瑞紀の乳房の柔らかさを味わうようにシナシナと揉み上げた。
(こんな屈辱……。口惜しいッ……!)
瑞紀は唇を噛みしめながら、加藤が与える恥辱に耐えた。だが、豊かな乳房をこってりと揉みしだかれ、ツンと突き勃った乳首を扱かれ続けると次第に息が荒くなっていった。二十五歳の女体が女の弱点を責め続けられて、平静でいることなどできるはずがなかった。
「んッ……くッ……ん、んッ……くうッ……」
漏れ出そうな嬌声を噛み殺す瑞紀を見て、一条が楽しそうに笑った。
「感度も悪くなさそうだな。乳首が硬くなってきたじゃねえか。よし、九鬼、あれを使ってやれ」
「はい。楪瑞紀、お前が麗華の代わりになれるかを確認してやろう」
そう告げると、九鬼は部屋の隅にあった黒いボストンバッグから銀色の箱を取り出した。そして、蓋を開けて中にある物が見えるように瑞紀の目の前に掲げた。
「それは……ッ! いやッ……! やめてッ……!」
それを眼にした瞬間、瑞紀は蒼白になって首を激しく振った。だが、九鬼は長い黒髪を舞い乱す瑞紀の左腕をガッシリと握り締めた。
「お願いッ……! やだッ……! 許してッ!」
白い液体が入った注射器が、瑞紀の左腕に押しつけられた。そして、恐怖に慄く瑞紀を嘲笑うかのように、銀色の針が左腕に突き刺さった。チクンという痛みとともに、悪魔の溶液が瑞紀に注入された。九鬼がニヤリと笑いながら注射針を抜き去った瞬間、瑞紀の体が感電したかのようにビクンッと震えた。
(な、何これ……? 体が……?)
全身に鳥肌が沸き立った。神経を直接舐め回されているように、ゾクゾクとした感覚が急激に広がっていった。下腹部がカアッと熱を持ったように熱くなり、その熱が背筋を駆け抜けながら四肢の先端まで急速に浸透した。視界がボウッと霞み始め、吐く息が燃えるように熱くなるのが自分でも分かった。
「どう……だ……? コカ……インの……味は……? 感度……が数倍……に跳ね……上がる……ぞ……」
一条の声がスローモーションのように、ゆっくりと途切れながら聞こえてきた。視界が滲んでいることに気づき、瑞紀は自分が涙を流していることを知った。いや、涙だけではなかった。ワナワナと震える唇からは、ネットリとした涎が糸を引いて垂れていた。
(これ、やばい……。麗華は、こんなのを射たれたの……?)
そう思った瞬間、凄まじい衝撃が瑞紀を襲った。官能の愉悦、いや、歓喜の爆発とでもいうべき快感が全身を貫いたのだ。
「ひぃいいいッ……!」
美しい裸身を大きく仰け反らせると、瑞紀はビクンッビクンッと激しく痙攣して絶頂を極めた。
身構える暇さえもなく凄絶な快感が全身を駆け抜け、一瞬で歓喜の極みに駆け上らされたのだった。驚愕のあまり黒曜石の瞳を大きく見開きながら、瑞紀は圧倒的な愉悦の激流に裸身を震わせた。
(何、これ……? こんな、あっという間に……イカされるなんて……)
だが、それは一度きりではなかった。快美の奔流にガクガクと硬直している瑞紀を、再び壮絶な快感が襲った。
「あぁあああッ……!」
あまりの快絶に長い髪を振り乱しながら、瑞紀は再び絶頂を極めた。プシャッという音とともに、花唇から愛蜜が噴き出したのが自分でも分かった。
(そんな……胸だけで……)
後ろから加藤が瑞紀の乳房を揉みしだいたのだ。たったそれだけの刺激で、瑞紀は続けざまに二回も絶頂を極めさせられたのだった。
(こんなの……おかしく……なる……)
灼き溶けた意識でそう思った瞬間、より壮絶な快感に瑞紀は全身を硬直させた。ガチガチに尖り勃った乳首を、加藤が扱き始めたのだ。
「いやぁああッ……!」
自分の意志で我慢するなどという限界を遥かに超越した快感だった。脳が灼き溶けるほどの快絶に、瑞紀はビックンッビックンッと痙攣しながら絶頂を極めた。
シャアアーッという音を奏でて、花唇から黄金の水が虚空に弧を描いて迸った。かつてないほどの圧倒的な絶頂感に、瑞紀は立ったまま失禁してしまったのだ。
「立ち……ション……ベンしや……がった……」
「そんな……に気持ち……いいのか……、楪……瑞紀……?」
壊れたスピーカーから聞こえるように、一条と九鬼の会話が途切れながら響き渡った。だが、瑞紀にはすでに何を言っているのかさえ理解できなかった。次々と襲ってくる快美の火柱に全身を灼かれ、意識さえも快楽の炎に溶かされていたのだ。
「だめぇッ! ひぃいいいッ……!」
加藤の右手が柔らかな叢をかきわけて、羞恥の源泉をなぞり始めた。壮絶な快感が腰骨を灼き溶かし、背筋を舐め上げて脳天で弾けた。次の瞬間、ビクンッビクンッと総身を激しく痙攣させると、瑞紀は三度目の絶頂を極めさせられた。
加藤が慣れた手つきでクルンと突起の薄皮を剥きあげた。そして、真っ赤に充血した真珠粒をコリコリと転がしながら、愛蜜を塗りつけてきた。
「だめぇえッ! いやぁああ……!」
プシャアッと音を立てて、花唇から愛蜜が迸った。絶頂している最中にも関わらず、次々と加えられる淫撃に瑞紀は立て続けに歓悦の頂点へと押し上げられた。全身の痙攣は止まらなくなり、四肢の先端まで快感が走り抜け、脳髄さえもドロドロに蕩かされた。
「許してぇッ! 狂っちゃうッ……!」
一瞬の休みさえ与えられずに、瑞紀は絶頂と愉悦を繰り返した。すでに立っていることもできず、痙攣と硬直を続ける肢体を加藤に預けながら、瑞紀は絶頂地獄に陥っていた。
「お願いッ! もう、いやぁああッ!」
瑞紀の哀願の言葉を聞き入れずに、加藤が指を二本揃えて濡れた花唇へと挿し入れた。そして、鉤状に折り曲げると粒だった天井部分を擦り上げ始めた。同時に、反対の手で真っ赤に充血した真珠粒を摘まみ上げ、コリコリと扱きだした。
「私、壊れるッ! 死んじゃうぅうッ!」
「また、イクッ! 許してぇッ イグぅううッ……!」
プッシャアーッという音とともに、愛蜜が潮流となって噴出した。ビックンッビックンッと壮絶に震撼すると、瑞紀はガクッガクッと総身を硬直させた。想像を絶する快美の火柱が全身を灼き溶かし、脳髄さえもドロドロに熔解した。次の瞬間、ガクリと首を折ると、瑞紀は崩れるように床に沈みながら失神した。
「少し、純度が高すぎたか……?」
「そのようですね。麗華に使ったヤツの倍近い濃度でしたから……」
一条と九鬼がお互いに顔を見合わせながら笑った。そして、横たわる瑞紀の後ろで立っている加藤に一条が訊ねた。
「おい、加藤。お前、こいつとやりたいか?」
「い、いいんですか? 組長……?」
涎を垂れ流さんばかりの表情で、加藤がゴクリと生唾を飲み込んだ。
「ああ……。だが、今は駄目だ。その前に、面白いショーを見せてやる」
「百合ショーですか? 麗華にこの女を責めさせるつもりで……?」
「よく分かったな、九鬼。今のうちにこいつをベッドに拘束しろ。この真っ赤な薔薇を百合で責め抜くのも一興だ」
瑞紀の左胸に咲く真紅の薔薇を見下ろしながら、一条がニヤリと笑った。自分を待つ過酷な運命に震えているかのように、瑞紀はビクンッビクンッと裸身を痙攣させ続けていた。
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