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第1章 女豹蹂躙

10 女豹の眠り

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 新宿歌舞伎町の雑居ビル地下にあるスナック『再会リユニオン』の入口に、「本日貸し切り」と書かれた紙が貼られていた。七瀬美咲は右腕を絡めた男に先導されながら、店の中に入っていった。

「おッ、やっときたな、オリさん。遅えぞ……」
「いらっしゃい、錦織さん。お久しぶりです」
 カウンターでレミーマルタン・ナポレオンが入ったグラスを掲げながら、神崎純一郎が入口を振り返って笑顔を見せた。カウンターの中から、この店のママである大原琴音ことねが和服姿を披露しながら、肩で切り揃えた黒髪を揺らして頭を下げた。

「主役が遅れちゃダメですよ、オリさん。美咲も早く真ん中の席に座って……」
 瑞紀が入口まで迎えに出ると、二人の手を取ってボックス席の中央へ案内した。
「若い娘の買い物に付き合うのって、恥ずかしいったらありゃしねえ……。やっぱり、チョコレート買うようにはいかねえな……」
「チョコレートと一緒にしないでよ、雄ちゃん……。どうです、瑞紀さん。これ……?」
 強面の顔を真っ赤にして照れる錦織を幸せそうに見つめながら、美咲が左手を瑞紀に差し出した。

「凄く綺麗ッ……! リングのデザインも可愛いし、美咲によく似合ってるわッ!」
「えへ……。やっぱり、これにしてよかった。雄ちゃん、ぜんぜんセンスないんですよ……」
 左手の薬指にはめた0.3カラットのブルー・ダイヤモンドを見つめながら、美咲が嬉しそうに笑顔を浮かべた。
 今日は、美咲の退院祝い兼婚約披露パーティであった。相手は錦織雄作、四十二歳だ。美咲とは二十一歳差だった。参加メンバーは、美咲と瑞紀の救出作戦に協力してくれた者たちだった。

「まさか、美咲ちゃんとオリさんがくっ付くなんて、予想もしなかったよな。二十一歳差って犯罪ですよ、オリさん……」
「ばかやろう。そんなこと、俺が一番分かってらあッ! まだ刑事デカやってたら、自分で自分を捕まえてるさッ……」
 水島俊誠としまさが告げた言葉に、錦織が顔を真っ赤にしながら叫んだ。それを聞いて、周囲に笑いの渦が広がった。

「とにかく、おめでとうございます、錦織さん。美咲さんもおめでとう……」
「はぁ……、ありがとうございます、水島二佐……」
「ありがとうございますッ! 水島さんって、トシ君よりも渋くて格好いいですねッ!」
 そう言いながらも、美咲は錦織の左腕に腕を絡めて幸せそうな笑みを浮かべていた。

「新婦が新郎の前で他の男を褒めるもんじゃありませんよ、美咲さん」
「きゃッ! 新婦だってッ……!」
 笑いながら告げた水島の言葉に、美咲がはしゃいだ声を上げた。その横で、俊誠がボソッと呟いた。
「俺より親父の方が格好いいなんて、やっぱりおじさん趣味なんだな……」

「遅くなった……。錦織さん、美咲さん、おめでとう……」
「おめでとうございます、錦織さん、美咲さん……」
「おめでとう、錦織さん、美咲さん……」
「おめでとうございます、お二人とも……」
 龍成りゅうせい凛桜りお、藤木、そして水島麗華が次々と入ってきた。その中で、凛桜が錦織の隣に座っている水島に気づいて顔色を変えた。

「げッ……! 鬼二佐だッ……!」
 そう告げると、凛桜がクルンと踵を返して逃げ出そうと入口に向かった。だが、その首根っこを龍成に掴まえられた。
「げふッ! な、何するんですか、龍成ッ!」
「ばか、それはこっちの台詞だぞ、凛桜ッ! 水島二佐、すみません……」
 漫才のような二人の態度に、水島が笑いながら告げた。

「久しぶりだな、西園寺二尉……いや、元二尉か……。変わってないな、君は……」
 その眼が笑ってないことに気づくと、凛桜が慌てて水島に敬礼した。
「はッ! 西園寺元二尉、変わっておりませんッ!」
 淡いピンクのパーティドレス姿で敬礼をする凛桜を見て、皆が面白そうに笑いを浮かべた。だが、瑞紀だけは龍成の腕を取ると、彼の耳元に冷たい声で囁いた。

「西園寺さんと名前で呼び合ってるの? 随分と仲が良さそうね……。後できちんと説明してよね……」
 瑞紀の黒曜石の瞳に笑いの欠片も映っていないことに気づくと、龍成は背中に冷や汗を流しながら顔を引き攣らせた。その様子をジロリと睨むと、瑞紀は錦織と美咲に向き直ってニッコリと笑顔を浮かべた。今夜の瑞紀は、黒髪と同じ色をした漆黒のイブニング・ドレスで着飾っていた。ダイヤ型に空いた胸元が、白く豊かな胸の谷間を魅力的に強調していた。

「皆様お揃いになりましたので、これから錦織雄作、七瀬美咲の婚約パーティと七瀬美咲の退院祝いを始めさせて頂きます。私は本日の司会を務めさせて頂きます<ゆずりは探偵事務所>所長のゆずりは瑞紀です。よろしくお願いいたします」
 瑞紀が頭を下げると、全員から拍手が沸き起こった。それが静まるのを待って、瑞紀が続けた。

「本日お集まり頂いた皆様は、先日の七瀬美咲と私の拉致事件において大変ご尽力を頂いた方々です。ここに改めて私と七瀬からお礼申し上げます。お力添え、どうもありがとうございました……」
 瑞紀が深く頭を下げるのと同時に、美咲も席を立って瑞紀に倣った。

「本日お仕事の都合によりどうしても出席が叶わなかった<星月夜シュテルネンナハト>特別捜査部のアラン=ブライト特別捜査官エージェントから、お花が届いていおります。ご挨拶のお言葉と花束の贈呈を、新郎からのご指名で神崎純一郎様にお願いしたいと存じます……」
 神崎の立場を考慮して、瑞紀は彼の肩書きを伏せながら告げた。

「俺が……? ちょっと、オリさん、勘弁してくれ……。俺みたいなのがいるだけでも申し訳ねえのに、挨拶なんて……」
 突然の指名に、ガラにもなく神崎が慌てた。その様子を楽しげに見ながら、錦織が告げた。
「観念しろ、神崎……。この中で俺と一番付き合いが長いのがお前だ。いい挨拶を期待してるぜ」
「ちッ、瑞紀、てめえ、はめやがったな……」

「さあ、何のことでしょう? ママさん、お願いします」
 睨んできた神崎の言葉を聞き流すと、瑞紀がママの琴音に告げた。琴音がカウンターの下から預かっていたアランの花束を取り出し、神崎に手渡した。カサブランカとかすみ草の純白の花束だった。カサブランカの花言葉は、「高貴」と「純粋」だった。

「ああ……ただいま紹介にあずかった神崎純一郎だ。言葉遣いが悪いのは勘弁して欲しい。瑞紀……ゆずりは所長は、俺の立場を気にして黙っててくれたようだが、見たとおり俺は極道者ヤクザだ」
 今日の神崎は、真っ白なスーツの中に黒いシャツと白いネクタイを着用していた。その上、右目の横には五センチほどの縦長の刀傷があるのだ。本人の言うとおり、どこから見てもヤクザにしか見えなかった。神崎と初対面の美咲や凛桜たちは驚いた表情を浮かべていた。

「指定暴力団<櫻華会おうかかい>若頭……それが俺の肩書きだ。オリさんとの付き合いは十年にもなるが、別に癒着してたわけじゃねえ。刑事デカとヤクザの追いかけっこだ。俺がこの世界に足を突っ込んだ頃、本気で足抜けさせてくれようとした刑事がオリさんだった。あの時、言うことを聞いときゃ、こんなところまで落ちてなかったかも知れないが、今となっては後の祭りだ」
 その話は、瑞紀も知らなかった。<蛇咬会じゃこうかい>が絡む案件が増えてきた頃に、「毒には毒を」と言って錦織が神崎を紹介してくれたのだった。

「世間じゃ虫けらよりも価値のない俺たちだが、一つだけ覚えておいてもらいたい。俺のシマであるこの歌舞伎町一帯に、絶対に麻薬ヤクは入れないッ! 俺の母親は父親によってヤク漬けにされて死んだ。ヤクを収入源シノギにしている連中ヤクザもいるが、<櫻華会>では最大の法度としている。この街でヤクを見かけたら、連絡して欲しい。俺が必ず潰してみせるッ!」
 思いもよらない神崎の宣言に、瑞紀は驚きに言葉を失った。神崎が麻薬を憎んでいた理由を初めて聞かされたのだ。

「それと、せっかくだからオリさんに一言だけ言いたいことがある。オリさん、てめえは俺たちヤクザよりタチが悪いぞッ! 四十二にもなって、二十一の嫁だぁ……? てめえの歳の半分じゃねえかッ! さっき、そこの坊主が言ってたが、誰か警察サツ呼んできて、オリさんをとっ捕まえろッ!」
 ニヤリと笑いながら、神崎が叫んだ。それを聞いて、錦織は恥ずかしさで顔を真っ赤にした。周囲の連中は、そんな錦織を見て楽しそうに笑い出した。

「て、てめえ……神崎……」
 錦織の文句を無視すると、神崎は美咲に近づいて花束を差し出した。
「美咲さん、こんなおっさんのどこがいいのか知らねえが、まあ悪い奴じゃねえ。幸せになんなよ……」
「はい……ありがとうございます、神崎さん」
 美咲が目に涙を浮かべながら、神崎から花束を受け取った。全員が神崎の挨拶に拍手を送った中で、錦織だけが恥ずかしそうに神崎を睨んでいた。


 パーティは神崎の挨拶を皮切りに、想像以上に盛り上がった。特に酒に酔った凛桜が例の調子で神崎に絡んだシーンは見物だった。凛桜は以前に<星月夜シュテルネンナハト>に来た早川義一の龍成に対する態度を思い出し、神崎に喰ってかかったのだ。

「あんたが神崎さんかい? あんたんとこの若いの……早川とか言ったっけ? ちゃんと教育しときなよ! あたしの龍成に舐めた口聞いてんじゃないってッ!」
「何だ、お前……? あたしの龍成……?」
 凛桜の言葉に、神崎は思わず瑞紀の顔を見つめた。ニッコリと微笑みを浮かべている瑞紀の頬がピクピクと痙攣し、黒曜石の瞳が危険な光を浮かべていることに神崎は気づいた。

「龍成はねえ、あたしのことを可愛いって言ってくれたんだぞッ! そんな龍成に対して、何だあいつの口の利き方はッ……!」
「おい、白銀……。こいつにそんなこと言ったのか……?」
 瑞紀が右手をバーキンのバッグに入れたのを見て、神崎が蒼白になりながら龍成に訊ねた。

「ああ……。頬っぺたをパンパンにして飯を食ってる凛桜の顔が、リスみたいに可愛いって言ったが……」
「リス……?」
 ちらりと瑞紀の様子を確認しながら、神崎はホッと胸を撫で下ろした。瑞紀の右手は、バーキンのバッグから離れていた。

「あたしと龍成はねぇ、二人でAH-10Sハイヤーに乗ってデートした仲なんだからねッ!」
「……」
(この女、とんでもねえな……)
 ハイヤーの意味は分からなかったが、龍成の寿命が近づいていることだけは神崎にも理解できた。瑞紀の右手が再びバーキンのバッグに入っていたのだ。

「おい、オリさん……悪いが野暮用ができたんで先に失礼する。美咲さんも悪いな……」
 神崎はカウンターから立つと、凛桜の左腕に自分の右腕を絡ませて立ち上がらせた。
「白銀、これは貸しにしておくぞ……」
「わ、悪い……。今度、埋め合わせをする……」
 背中から紛れもない殺気を感じ、龍成が顔を引き攣らせながら神崎に告げた。

「何すんのよぅ……離しなさいよッ!」
 凛桜の抗議を無視すると、神崎は店の中を見渡した。瑞紀を止められそうな人間を捜したのだ。だが、ベレッタM93Rを持った瑞紀を止められる人間など、この店の中には誰一人としていなかった。神崎は小さくため息をつくと、一人の男の上で視線を止めた。
(こいつに犠牲になってもらうしかねえッ……!)

「瑞紀、今回のお前の救出で、最大の功労者を知ってるか?」
「え……?」
 意表を突く神崎の言葉に、瑞紀が動きを止めた。
「あの坊主だッ……! あいつがいなかったら、今ここにお前はいねえぞッ!」
「トシ君……?」
 神崎の視線の先には、キョトンと顔を上げた俊誠がいた。

「おい、坊主ッ! お前がどれだけ瑞紀救出に貢献したが、本人によく教えてやれッ!」
「そ、そうだッ……! 水島君、そうしてくれッ!」
 神崎の考えを理解すると、龍成が慌てて同調した。
「俺ですか……?」
(もしかして、瑞紀さんの気持ちを振り向かせるチャンスをくれたのか?)
 自分が狼の前に引かれた羊だとは気づかずに、俊誠が神崎に感謝した。

「では、瑞紀……。悪いが先に帰るぞ。お前も一緒に来い……」
「ちょっと、離してってば……」
 凛桜の腕を引きずりながら、神崎は『再会リユニオン』から出て行った。
 こうして、凛桜は神崎にお持ち帰り・・・・・されたのだった。


「アッ、アッ……! いいッ! 気持ちいいッ! ひッ……、そこッ! だめぇッ! いやッ! また、イクッ! イッちゃうッ! 許してッ! イクぅううッ!」
 羞恥の源泉を最奥まで貫かれ、剥き出された真珠粒クリトリスをコリコリと嬲られ、豊かな乳房を揉みしだかれ、ツンと突き勃った媚芯を摘ままれると、瑞紀は裸身を大きく仰け反らせながら歓喜の絶頂オーガズムを極めた。プシャアーッという水音とともに、花唇から愛蜜が弧を描いて迸り、赤く上気した総身がビクンッビックンッと激しく痙攣した。

 官能に蕩けきった黒瞳からは随喜の涙が溢れて頬を伝って流れ落ちた。火柱のような喘ぎを放つ唇の端からは、トロリと糸を引きながら涎が垂れ落ちた。突き出した乳房の頂には、ガチガチに尖りきった淡紅色の乳首が快感にブルブルと震えていた。
 凄絶な愉悦を噛みしめながら全身をガクッガクッと硬直させると、瑞紀はグッタリと弛緩してうつ伏せになりながらシーツの波間に沈み込んだ。

「おね……がい……、もう、許して……。おかしく……なっちゃう……」
 シーツに涎の染みを描くと、ハァ、ハァとせわしなく吐息を漏らしながら瑞紀が哀願した。今のが何度目の絶頂オーガズムだったのか、瑞紀にはすでに分からなくなっていた。
「アッ……いやッ……そこ、だめぇッ! 動かないでッ……! アンッ、アッ、あひぃッ……!」
 長大な逸物で後ろから自分を貫く男を振り向くと、瑞紀は快感から逃れるようにフルフルと首を振った。長い黒髪が女の色香を撒き散らしながら、ゆらゆらと舞い乱れた。


 三ヶ月前……。
 凛桜は龍成が抱えてきた瑞紀の姿を眼にした瞬間、両手で口元を押さえた。ガックリと首を折り、長い黒髪を垂らしながら瑞紀は龍成の腕の中で意識を失っていた。その美しい裸身は血と痣に塗れ、白い内股は愛液と男の精液で汚されていた。それ以上に酷かったのは貌だった。左瞼と両頬は真っ赤に腫れ上がり、切れた唇からは血が流れ落ちていた。凄まじい暴力と凌辱を受けたことは、誰が見ても明白だった。

「ひどい……」
 それ以外の言葉が、凛桜の口からは出てこなかった。
「凛桜、星月夜総合病院まで直行してくれッ!」
「は、はいッ……」
 瑞紀を後部座席に乗せてシートベルトを装着すると、龍成は彼女の隣に乗り込んだ。二人が搭乗したことを確認すると、凛桜はステルス・コブラを緊急発進させた。二千二百七十五馬力ある二つのエンジンが四枚のメインローターを高速に回転させ、五トンもある機体が急速に上昇を始めた。

青ヶ島ここから星月夜総合病院がある新宿自治区までは、直線距離でおよそ三百九十キロです。八丈島で給油を済ませているので、燃料は六十パーセント以上残っています。無給油でこのまま飛べますッ!」
 モニターに映った燃料タンクの残量を確認しながら、凛桜が告げた。
「そうか……。とにかく急いでくれッ!」
 ガクリと首を折って意識を失っている瑞紀の黒髪を優しく撫ぜながら、龍成が告げた。凛桜はチラリと後ろを振り返り、龍成の顔を見つめた。その表情は、今まで凛桜が眼にしたことがないほどの優しげな愛情に溢れていた。

(やはり、龍成はゆずりはさんのことをこんなにも……。ゆずりはさん、龍成のためにも必ず助けてあげるッ! あんたが元気になったら、絶対にライバル宣言してやるんだから死ぬんじゃないわよッ!)
 凛桜はステルス・コブラを最大速度で飛行させた。そして、本来であれば約七十分かかる青ヶ島・新宿間で、五十五分というコース・レコードを樹立させた。


 西園寺凛桜は女の瑞紀から見ても、魅力的な女性だった。
 年齢は二十七歳で、瑞紀よりも二歳年上だった。赤茶色の髪を襟元で短く切り揃えたボブヘアと、生命力に溢れてクルクルとよく動く大きな茶色い瞳が印象的な女性だ。小顔でくっきりとした目鼻立ちをしており、一言で言えばコケティッシュな感じの美女だった。

 その前歴はユニークで、陸上自衛隊の対戦車ヘリコプター部隊で数少ない女性ヘリ・パイロットをしていたと言う。しかも、パイロットとしての技量は超一流で、男性も含めたヘリ・パイロットの中で最優秀操縦士賞を授与されたこともあるそうだ。
 自由奔放で型破りな性格をしており、デートに遅刻しそうになったためにAH-1Zヴァイパーという戦闘ヘリコプターを無断で使って自衛隊を依願退職したらしい。早い話が陸上自衛隊をクビにされたようだった。

 <蛇咬会じゃこうかい>会長である王雲嵐ワン・ウンランに拉致され、激しい凌辱と暴行を受けた瑞紀は、星月夜総合病院に四週間入院した。そして、退院を翌日に控えた日の夕方、凛桜が初めて一人で見舞いに来た。

「体調はどう、ゆずりはさん……? あ、これ、お見舞いね。明日退院だって聞いたから、退院後に食べられるものがいいかと思って……」
 ビニールに入った抹茶色のそばを渡され、瑞紀は首を捻った。見舞い品として相応しいとも思えなかったし、包装もされていないままだったのだ。表面に貼られた白い紙には、緑色の草の絵が描かれており、大きな黒文字で「明日葉そば」と書かれていた。

「ありがとう……、西園寺さん。それから、助けて頂いたことも……本当にありがとうございました」
 もらったそばをベッドの横にあるカウンターに置くと、瑞紀は長い黒髪を揺らしながら凛桜に頭を下げた。

「気にしないで……。大変な思いをして辛かったでしょうけど、とにかく助け出せて良かったわ。これからはあたしもできるだけ力になるから、何かあったら相談してね……」
「はい……。ありがとうございます」
 暴行を受けたことよりも凌辱されたことの方が、瑞紀の心に遥かに大きな傷を残した。だが、意識を取り戻してからずっと龍成が愛情を持って接してくれたため、少しずつではあるが癒やされていった。

「今日は、あなたに宣戦布告に来たんだ……」
「宣戦布告……?」
 笑顔で告げた凛桜の言葉が分からずに、瑞紀は彼女の大きな瞳を見つめた。
「そのおそば、美味しいのよ。退院したら、ぜひ食べてみて……」
 宣戦布告と告げた次の台詞がこれだった。凛桜が何を言いたいのか、瑞紀にはまったく理解できなかった。

明日葉あしたばそばって言うのよ。八丈島の名産なんだって……。龍成と二人で八丈島に泊まったときに食べたんだけど、すごく美味しかったわ」
「え……? 龍成と……泊まった……?」
 大きな茶色い瞳で真っ直ぐに見つめてきた凛桜に、瑞紀は驚きのあまり言葉を失った。
(泊まったって……龍成と二人で……? どういうこと……? それに、今、「龍成」って呼び捨てた……)

「あたし、今度、龍成と相棒バディを組むんだ。この意味、分かるよね?」
相棒バディ……」
 瑞紀は龍成の言葉を思い出した。かつて龍成は、『俺にとって相棒バディとは、命がけで護り、愛する女だ』と言ったのだ。
「じゃあ、あたしは行くね。早く元気になってね、瑞紀ちゃん・・・・・……」
「……」
 愕然としている瑞紀に手を振ると、凛桜は颯爽とした足どりで病室から出て行った。

(どういうこと……? 龍成が西園寺さんを抱いたの……? 相棒バディって、いったい……)
 瑞紀の心に衝撃と驚愕と怒りとが湧き上がった。そして、カウンターに置いた「明日葉そば」を手に取ると、力任せにバキッと両手でし折った。
(龍成……、きちんと説明してもらうからねッ!)
 瑞紀は黒曜石の瞳に危険な光を浮かべながら、ベレッタM93Rが入ったバーキンのバッグを睨むように見つめた。


「もう、許して……。お願い……これ以上されたら、狂っちゃうわ……。アッ、アァアアッ……!」」
 ビクンッビックンと痙攣が止まらなくなった裸身を快感で仰け反らせながら、瑞紀が龍成に哀願した。

 退院前日に凛桜が「龍成と泊まった」と言ったのは嘘だと分かったが、龍成が彼女と相棒バディを組んだことは本当だった。だが、龍成に言わせると、単なる二人組ツインであり、瑞紀との相棒バディとは意味が違うそうだ。
 そう言われても、龍成と凛桜の仲が良いのは傍から見ても事実で、今日のパーティでも瑞紀は激しい嫉妬に駆られた。龍成の本当の気持ちを教えて欲しいと詰め寄った返事が、この壮絶なセックスだった。龍成は「俺がどれほどお前を愛しているか、教えてやる」と告げ、瑞紀をこの官能地獄に堕としたのだ。

「あッ……あぁあッ……!」
 ずるりと龍成のが瑞紀の中から引き抜かれた。肉襞を擦り上げられて、瑞紀は白い顎を突き上げながら喘ぎ声を上げた。
(やっと……終わった……。でも、すごく……気持ち……よかった……)
 ハァ、ハァと火のような熱い吐息を漏らしながら、瑞紀は官能に蕩けきった肢体をビクッビックンと痙攣させた。腰が灼けるように燃え上がり、羞恥の源泉から溢れた蜜液がシーツをビッショリと濡らしていた。

「何へばってるんだ? お楽しみはこれからだぞ……」
「え……?」
 瑞紀の腰を掴んで四つん這いにさせると、龍成がニヤリと笑った。そして、白桃のような尻の中心にある蕾を、指でコリコリと刺激してきた。

「ひッ……! やッ……! まさかッ……?」
 龍成の意図に気づき、瑞紀は蒼白になった。王雲嵐ワン・ウンランに教え込まれた尻穴アナルセックスの凄まじさを思い出したのだ。
「やだッ……! そんなとこッ……! やめてッ……!」
 龍成が猛りきったを瑞紀の秘蕾つぼみに充てがった。そして、メリメリっと音を立てながら押し入ってきた。

「ひぃいいッ! 痛いッ! 抜いてぇッ! 痛いッ……!」
 直腸に火柱を打ち込まれる激痛に、瑞紀は長い髪を振り乱しながら泣き叫んだ。両手でシーツを力一杯掴み、全身を真っ赤に染めて脂汗を流した。
「お願いッ! 痛いッ! 許してッ! アァアアッ……!」
「少し我慢してくれ……。紛らわせてやるから……」
 そう告げると、龍成の右手が叢をかきわけ、羞恥の源泉の上にある肉の突起を探り当てた。そして、慣れた手つきでクルンと剥き上げると、剥き出した真珠粒クリトリスをコリコリと扱くように嬲りだした。

「やッ……! そこ、だめッ! アッ、アッ、アァアアッ……! いやぁあッ……!」
 尻穴アナルに火柱を入れられながら女の最大の弱点を責められると、峻烈な愉悦が腰骨を熱く灼き溶かした。白い背中が赤く染まっていき、全身にビッシリと鳥肌が沸き立った。
 龍成の左手が重たげに揺れている左の乳房を鷲づかみにした。そして、シナシナと揉み上げながら、ツンと突き尖った淡紅色の媚芯を指先で摘まみながら扱き始めた。同時に、直腸の肉襞を擦りながら火柱をゆっくりと抜き挿ししてきた。

「アッ、アヒッ……! あわわッ……! だめぇえッ……! ひぃいいッ……!」
 快美の火焔が全身に燃え広がり、瑞紀は恥ずかしい声が止まらなくなった。凄まじい快絶が下半身を灼き溶かし、ゾクゾクと背筋を駆け上がって脳天に雷撃を落とした。羞恥の源泉からは粘り気のある白い蜜液が溢れ、トロリと糸を引きながら垂れ落ちた。大きく見開いた黒瞳は官能に蕩け、随喜の涙が頬を伝ってツッツゥーと流れた。炎の喘ぎを奏でる唇は濡れ塗れ、ネットリとした涎が垂れ落ちてシーツに染みを描いた。

(凄いッ……! 気持ちいいッ! お尻なのに……! 気持ちいいのが、止まらないッ!)
「だめッ! イヤッ! お尻ぃッ! 熱いのッ! おかしく……なっちゃうッ! アッ、アヒィイイッ……!」
 ビクッビクッと瑞紀の裸身が痙攣を始めた。乳首はガチガチに尖りきり、真珠粒クリトリスは真っ赤に充血して大きく勃起していた。花唇から溢れた愛蜜はプシャップシャッと音を奏でながら飛沫となって飛び散り、白いシーツに淫らな模様を描いた。
 龍成が右手の中指と薬指を花唇に挿し込み、鉤状に折り曲げながら粒だった天井部分Gスポットを擦り上げた。同時に、親指と人差し指で真珠粒クリトリスを摘まみ上げコリコリと転がした。

「だめぇえッ! イクッ! お尻でッ! イッちゃうッ! 許してッ! イクぅううッ……!」
 ビックンッビックンッと激しく痙攣すると、瑞紀は生まれて初めて愛する男との尻穴アナルセックスで絶頂を極めた。プッシャーッという音とともに、大量の愛蜜が迸って虚空に弧を描いた。

「グッ! 出るッ!」
 凄まじい圧力でを締め付けられると、龍成は欲望のすべてを解き放つように熱い迸りを放出した。
「ひぃいぃいッ! 狂っちゃうッ!」
 その熱い衝撃を直腸の奥に感じた瞬間、凄絶な快感が瑞紀の脳髄を灼き溶かした。シャアァアーッという激しい水音とともに羞恥の肉扉から黄金の潮流が虚空に迸った。想像を遥かに超える極致感オルガスムスに、瑞紀が失禁したのだ。そして、涙と涎を垂れ流しながらガクッガクッと硬直すると、瑞紀はグッタリと弛緩してシーツの波間へと沈み込んだ。

 瑞紀の尻穴アナルからを引き抜くと、龍成はビクッビックンッと痙攣を続けている瑞紀の隣に体を横たえた。そして、火のような喘ぎと漏らしている瑞紀の裸身を優しく抱き締めた。
「どうだ、瑞紀……? 俺の気持ちは通じたか……?」
「ハァ……ハァ……ハアァ……」
 返事をしようと濡れた唇を開いたが、出てくるのは熱い吐息だけだった。言葉を紡ぎ出すことを諦めて、瑞紀は小さく頷いた。

「愛してる、瑞紀……。お前だけだ……」
 龍成が腕に力を込めて、瑞紀の体を抱き締めてきた。瑞紀は再び小さく頷くと、龍成の胸に顔を埋めた。
(大好き……龍成……。愛してるわ……。この世界の何よりも、あなたを……愛してる……)
 かつてない倖せに包まれて、瑞紀は瞳を閉じた。その目尻から随喜の涙がツッウゥーと流れ落ち、白いシーツに染みを描いた。

 愛する男の腕の中で、女豹は至福のひとときに身を委ねながら眠りについた。
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