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第1章 女豹蹂躙
1 女所長
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「……アッ、アァアッ! だめッ……それぇえッ! おか……しくなるッ……! 凄いッ……! 気持ち……いいッ! また……イッちゃうッ! 許し……てッ! イクッ……イクぅううッ……!」
大きく裸身を仰け反らせると、瑞紀はビックンビックンッと激しく痙攣しながら絶頂を極めた。プシャァッと花唇から蜜液を迸り、濡れた膣壁が龍成の男を凄まじい圧力で締め上げた。
「くッ……出るッ……!」
その壮絶な締め付けに耐えきれず、欲望のすべてをぶつけるかのように龍成が爆ぜた。子宮口に叩きつけられた熱い滾りが、瑞紀を更なる官能の極致感へと誘った。
「ひぃいぃいッ……!」
美しい裸身をビックーンッと凄絶に痙攣させると、瑞紀は愉悦の奔流を貪るかのようにガクッガクッと硬直した。情欲に蕩けきった黒瞳から随喜の涙が溢れ、ツッツゥーッと頬を伝って流れ落ちた。熱い喘ぎを漏らす唇の端からは、トロリッと涎が糸を引いて垂れ落ちた。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
歓喜の硬直を解き放つと、瑞紀は全身を弛緩させてグッタリと龍成の胸に倒れ込んだ。その悦楽の凄まじさを物語るように、赤く染まった総身はビックンビックンッと痙攣を続け、左胸の真紅の薔薇は汗に塗れながら美しく咲き乱れていた。これが今日三回目の絶頂だった。小さな愉悦に達した回数は、瑞紀自身にも数えられなかった。
「凄く……よかった……。愛してるわ……龍成……」
龍成の男を自分の中に咥え込んだまま、瑞紀は彼の唇に魅惑的な唇を重ねた。そして、お互いの愛情を確認するかのようにネットリと舌を絡ませた。
「もう一回……するか……?」
「……だめよ……んぁッ……」
濃厚な口づけを交わして、龍成の男が力強さを取り戻してきた。それを名残惜しそうに抜き去ると、瑞紀は大量の欲望を受け止めたコンドームを丁寧に外した。そして、復活した男を左手で握りしめるとゆっくりと上下に扱きながら、愛おしそうに舌を絡め始めた。
「口で……してあげる……」
情欲に潤んだ瞳で龍成を見上げると、瑞紀は大きく口を開いて硬く屹立した龍成の男を咥えた。
(すごく大きい……。顎が外れそう……)
「んッ……んくッ……ん、んッ……ん、んくッ……」
長い黒髪を揺らして頭を振りながら、瑞紀は上目遣いに龍成を見上げた。
龍成が両手で瑞紀の豊かな胸を揉みしだき始めた。そして、硬く尖った薄紅色の乳首を摘まむと、コリコリと扱きながら引っ張ってきた。両胸から広がる甘い愉悦がゾクゾクと背筋を舐め上げ、胸の先端からは峻烈な快感が走って子宮をギュッと収縮させた。クチュッと音を立てて溢れ出た愛蜜が、トロリと糸を引きながら垂れ落ちてシーツに淫らな染みを描いた。
「んくッ……んッ……ん、んッ……んくッ……!」
全身を襲う官能の愉悦に逆らうかのように、瑞紀は頭を振る速度を速めていった。同時に左手で激しく男を扱き上げながら、随喜の涙を浮かべた黒瞳で上目遣いに龍成を見つめた。快感に耐えながら必死に口戯を続ける美女の姿に、龍成の男が痙攣するようにビクンッと震えた。
「くッ……! 出すぞ、瑞紀……!」
限界を告げる言葉に頷いた瞬間、瑞紀の喉奥で龍成が爆ぜた。喉を灼くような熱い滾りが迸り、瑞紀は黒瞳を大きく見開きながらその衝撃に耐えた。
「ん、くっ……んッ……かはッ……けほッ……」
懸命に喉を鳴らしながら熱精を飲み込む瑞紀を見て、龍成は満足そうな笑みを浮かべて男を引き抜いた。濡れた淡紅色の唇から、飲みきれなかった白濁がドロリと糸を引いて垂れ落ちた。
豊かな胸に垂れた精液を右手で拭い取ると、瑞紀は舌を出して愛おしそうに舐め上げた。そして、美しい眉を顰めながら、悪戯っぽく龍成を見つめて告げた。
「苦い……もっと甘ければいいのに……」
「甘いのは、瑞紀のここだけで十分だ……」
そう告げると、龍成は右手を濡れた瑞紀の花唇に這わせて、愛蜜を指で掬い取った。そして、人差し指と親指で粘り気のある糸を引きながら、見せつけるように瑞紀の顔の前に持ってきた。
「咥えているだけで、こんなに濡らしていたのか……? イヤらしい女だな……」
「それは……龍成が胸を触るから……」
自分が昂ぶっていた証拠を突きつけられ、瑞紀はカアッと赤面しながら顔を逸らせた。
「まだ時間はあるんだろう……?」
そう告げると、龍成は再び右手を瑞紀の花唇に這わせ始めた。クチャクチャと卑猥な音色が響き渡り、甘い愉悦が瑞紀の腰骨を蕩かした。
「だめよ……もう、行かないと……。みんなが……んぁッ……待ってるから……」
花唇を弄る指を両手で押さえつけると、瑞紀が官能に蕩けた瞳で龍成を見つめた。
「部下に仕事を押しつけて、自分は男とホテルでお楽しみか……? 悪い女所長だな……」
「その女所長を……三回もイカせた男の方が……ずっとタチが悪いわよ……」
長い黒髪を左手で押さえながら龍成に口づけをすると、瑞紀は名残惜しそうな表情を浮かべてベッドから抜け出した。
「シャワー、浴びてくるわ……」
「分かった。自慰するなよ……」
一年前、初めて二人で泊まったラブホテルで、瑞紀はマジックミラーであることを気づかずに浴室で自ら慰めている姿を龍成に見られたのだ。
「ばか……。今度見たら、殺すからね……」
笑いながらそう告げると、瑞紀はバスルームに入っていった。
<狗神会《こうじんかい》>に瑞紀が拉致され、凄まじい凌辱を受けてから一年が経っていた。その事件で瑞紀は<狗神会《こうじんかい》>会長の李昊天と二人の部下を射殺し、逃亡しようとしたシコルスキーS-107を撃ち落としてパイロットごと爆散させた。民間警備会社でしかない<星月夜>の特別捜査官だった瑞紀が、中国系マフィアとはいえ四人の人間を射殺したことは、本来許されるはずはなかった。
だが、瑞紀の救出作戦を実行するに当たって、龍成があらかじめ<星月夜>統合作戦本部長の高城雄斗から、非常時特別発砲権の許可を得ていたことにより法的責任は追及されなかった。これは自分や仲間の生命が危険だと判断した場合、相手を射殺しても罪に問われないという超法規的措置だった。龍成が瑞紀救出作戦の前に高城に面会を求めた理由は、この権利を得るためであった。
しかし、龍成は瑞紀が撃墜したシコルスキーS-107の爆発によって、左前腕を失ってしまった。現在の龍成の左前腕は、瑞紀の右腕と同じく超高性能義手だった。
自分の攻撃のせいで龍成が左腕をなくしたことで、瑞紀は激しい後悔の念に駆られた。どうしても自分で自分が許せず、瑞紀は<星月夜>を依願退職した。瑞紀にとって最愛の龍成を傷つけたことは、自分自身が<狗神会《こうじんかい》>に凌辱されたことよりも遥かに重大な出来事だったのだ。
龍成と袂を分かった瑞紀は、退職金と貯金をはたいて事務所を開いた。それが、<楪探偵事務所>である。今の瑞紀は、三人の部下を持つ女所長であった。
龍成とは月に何度かこうして会い、食事をしたり体を重ねたりする関係だった。仕事柄ライバルになることもあったが、お互いを束縛しない恋人のような関係が続いていた。
「あ、瑞紀さん、お帰りなさい」
新宿駅西口のオフィスビルにある<楪探偵事務所>に戻ると、受付に座っていた七瀬美咲が読んでいたマンガを慌てて閉じながら笑顔で言った。
「ただいま……。錦織さんと俊誠君は?」
マンガには気づかない振りをして、瑞紀が訊ねた。
「オリさんは例のDV案件の調査です。今日こそ尻尾を掴んでやると鼻息を荒くして出て行きました。トシさんは……そう言えば、どこ行ったのかな? また、女の子をナンパしてホテルにでもしけ込んでいるかも知れませんね……」
笑いながら告げた美咲の言葉に、瑞紀はギクリとした。たった今、龍成とホテルに行っていたのは紛れもなく瑞紀自身だったからだ。
「まあ、いいわ……。悪いけど、お茶入れてもらっていいかしら?」
「はい。いつものでいいですか?」
「ええ、お願いね……」
分かりましたと元気よく答えながら、美咲はダージリンのファーストフラッシュを入れるためにキッチンに向かって行った。
インド紅茶には四月頃のファーストフラッシュ、五月から六月にかけてのセカンドフラッシュ、そして十月以降のオータムナルと、シーズンによって三種類の香りと味がある。中でも瑞紀は、春の若草や可憐な花々を思わせる香りのファーストフラッシュが一番好きだった。
窓際に置いた所長席に向かうと、瑞紀はお気に入りの大型ヘッドレスト付コンテッツア・チェアに腰を下ろした。瑞紀が事務所を開くときに最も力を入れて選んだのが、この総革張り製のデスクチェアだった。五十万円以上もしただけあり、しっとりとした滑らかな革の座り心地と、体を包み込むようなホールド感は言葉にできないほど素晴らしいものだった。
(<星月夜>を辞めて一番良かったのは、この椅子を手に入れたことかも知れないわね……)
「お待たせしました……」
美咲がロイヤル・コペンハーゲンのティーカップに入れたダージリン・ファーストフラッシュを運んできた。
「ありがとう……」
ニッコリと微笑んで礼を言うと、瑞紀は瑞々しい香りを楽しみながらカップに口をつけた。輝くような黄金色の液体を一口飲むと、緑茶に似た爽やかさが瑞紀の舌を楽しませた。
「美味しい……」
思わず笑顔で呟いた瑞紀の言葉を聞いて、美咲が嬉しそうに告げた。
「そうですよね! 瑞紀さんに教わって、あたしもすっかりファーストフラッシュのファンになっちゃいました。いただきます!」
ちゃっかりと自分の分も入れたティディベアのマグカップを持って、美咲は受付に戻っていった。苦笑いを浮かべてその後ろ姿を見送りながら、瑞紀は美咲との出逢いを思い出した。
七瀬美咲は、<楪探偵事務所>の最初の顧客だった。当時は開業したばかりで、まだ所員は親友の水島麗華の弟である水島俊誠一人しかいなかった。
美咲の依頼内容は、彼氏の浮気調査だった。瑞紀は最初、その依頼を断ろうとした。何故なら、瑞紀が探偵事務所を開いた理由は、<星月夜>で人手が足りなかったり、緊急度が高い調査を代行するためだったからだ。
しかし、美咲の話を聞いているうちに、瑞紀の気が変わった。美咲の彼氏である新城直人は、一言で言えば女の敵、二言で言えば人間のクズだった。新城は美咲の他に、五人の女性と交際をしていた。
女性と付き合うには、それなりに金がかかる。デート代やプレゼント費用を始め、自分の身だしなみを整えるための洋服代などだ。若干二十六歳でしかない新城が美咲を含めて六人の女性と交際することは、金銭的に難しいはずだった。
だが、新城がそれを可能にしている理由は、女性たちから金を貢がせていたからだった。甘いマスクと巧みな話術で女性の心を掴み、自分への好意が愛情に変わるのを見極めて金をせびるのである。約六ヶ月間の交際で、美咲は二十万円以上も新城に渡していた。大学生の美咲にとっては、かなりの大金である。美咲はそれを稼ぐためにキャバクラでアルバイトまでしていたのだ。
美咲の話では、新城の浮気を知ったのは彼のPCにあるデータを見たからだそうだ。隠しフォルダに多数の女性と性交渉をしている写真が登録されており、そこに多額の入金記録があったということだった。瑞紀がどのようにして隠しフォルダを見つけたのか問い質すと、美咲は平然とハッキングをしたことを認めた。彼女は高度なプログラミング技術を持っており、高校生の時にアメリカ国防総省のコンピューターにハッキングしたことを自慢げに告げた。
美咲は紛れもなくコンピューターの申し子であり、ハッキングの天才だったのだ。瑞紀は美咲の依頼を無料で受ける代わりに、<楪探偵事務所>で働いてくれるように頼み込んだ。浮気調査の依頼料は調査員の人数や日数にもよるが、二十万円から百万円程度必要だ。それを無料にすると言われ、美咲は喜んで瑞紀の申し出を受けた。現在、美咲をアルバイトとして雇っているのは彼女が現役の大学生だからだ。卒業後はそのまま<楪探偵事務所>の正式な調査員になってもらう契約を交わしている。
新城の浮気現場を押さえると、瑞紀は愛用のベレッタM93Rで彼を脅し、美咲が貢いだ二十万円を取り戻した。そして、美咲に二度と会わないという誓約書を書かせると、サバイバルナイフで新城の親指を切りつけて血判を押させた。新城は恐怖の余り失禁しながら、誓約を必ず守ることを何度も瑞紀に誓った。その一部始終を横で見ていた水島俊誠ことトシ君の態度が、その日を境に微妙に変わったことは気のせいだと瑞紀は思い込むことにした。
「ただいま……。お、所長、戻ってたんですかい? 姫、冷たいコーヒー入れてくれや。ビールでも構わねえぞ……」
「お帰りなさい。ビールなんて置いてませんよ、まったく……」
入口のドアを開けて入ってきた錦織雄作……通称、オリさんの言葉に苦笑いを浮かべると、美咲が席から立ち上がってキッチンに向かった。
錦織は警視庁西新宿署の組織犯罪対策課で活躍していた元刑事だ。<楪探偵事務所>を開くに当たってベテランの捜査員が欲しかった瑞紀が、<星月夜>統合作戦本部長である高城雄斗に相談し紹介してもらった人材だった。
年齢は四十二歳で刑事としての経験も豊富で、その仕事柄新宿のマフィアやヤクザにも詳しかった。組織犯罪対策課というのは別名をマル暴とも言って、主に暴力団などが絡む事件を取り扱う部署だからだ。探偵事務所を開いたとは言え、探偵業が初めての瑞紀にとってはこの上なく頼れる存在だった。
「お帰りなさい、オリさん。成果はどうでした?」
右手に持った新聞で襟元をパタパタと仰ぐ錦織の労うように、瑞紀が笑顔で訊ねた。
「やっぱりあの夫、ヤクザと繋がってやがった。それも自分自身が、タチの悪い中国系マフィア<蛇咬会>のフロント企業の役員だった」
フロント企業とは暴力団などに資金提供を行う企業のことを言い、企業舎弟とも呼ばれている団体のことだ。その役員や従業員は、資金提供先である暴力団などの準構成員だった。
「<蛇咬会>……。まったく、どこに行ってもその名前を耳にするわね……」
美しい貌に憂いの色を浮かべながら、瑞紀が大きなため息をついた。
<蛇咬会>は瑞紀にとって天敵とも言える存在であった。<蛇咬会>の関連組織によって拉致監禁され、気が狂いかねないほどの凄絶な凌辱を受けたことが二度もあるのだ。そのことは、瑞紀にとっていまだに忘れられない大きな傷となっていた。
「所長、<蛇咬会>と何かあったんですかい……?」
瑞紀の様子に眉を顰めなると、錦織が怪訝な表情で訊ねてきた。
「以前にちょっとね……。それよりも、そのフロント企業の名前は?」
「株式会社エンタープライズ……。表向きは輸入雑貨を取り扱う代理店ってことになってるんですが、奴らが扱っているのは雑貨なんて代物じゃありませんでした」
巌のような厳つい顔に真剣な表情を浮かべながら、錦織が告げた。
「まさか、麻薬……?」
錦織の態度から察して、瑞紀が訊ねた。元マル暴である彼がこれほど険しい表情を作るのを、瑞紀は初めて眼にしたのだ。
「覚醒剤、大麻、ヘロイン、コカイン……色々とやってるみたいです。もちろん、例の合成麻薬……<サキュバス>にも手を出してるようです」
「<サキュバス>……」
瑞紀が美しい眉を顰めて呟いた。
<サキュバス>は、<蛇咬会>が元締めとなっている合成麻薬だ。覚醒剤やコカインなどに比べて末端価格が安いために、ここ数年で若者たちの間で急速に蔓延していた。特に女性がこれを使われると正常な判断力を失い、性欲が急増してセックス・ドールのようにされることから、<女夢魔《サキュバス》>の名がつけられたとも言われている。
「所長、この事件は思っていたよりも危険ですぜ。深入りしないで、夫を脅しつけてDVをやめさせる念書でも取って終わらせた方がいい……」
「そうね……。美咲やトシ君たちは荒事に慣れていないし……」
難しい表情を浮かべて瑞紀がそう告げた瞬間……。
パンッ……パンッ……パンッ……!
三発の銃声が響き渡り、入口のドアに銃弾が撃ち込まれた。
「伏せてッ……!」
鋭い声で叫ぶと、瑞紀は執務机の上に置いてあるエルメスのバーキンを手に取り、机を背にして身を隠すように座り込んだ。そして、バーキンの中から愛用のベレッタM93Rを取り出すと、慣れた手つきで安全装置を解除した。
「美咲、隠れてなさいッ……!」
キッチンで悲鳴を上げている美咲に向かって声を張り上げると、瑞紀は机の横から顔を覗かせて入口の扉を見つめた。
耳を澄ませると、廊下を走り去っていく革靴の足音が聞こえた。その数から犯人は一人だけのようだった。
「どうやら、脅しのようだな……。逃げて行きやがった……」
瑞紀と同様に事務机を背にして座りながら、錦織が入口のドアを見据えて言った。その右手には、安全装置を外したワルサーPPKが握られていた。警視庁でも制式採用している二十二口径の小型拳銃だ。装弾数はマガジンの八発と薬室の一発で、最大九発である。
(さすが元マル暴ね……。頼りになるわ)
射撃の腕前までは分からないが、錦織の取った実戦的な行動を見て瑞紀は満足そうな笑みを浮かべた。
「オリさんはそのまま入口を警戒していてください。美咲は絶対に出てこないでッ……!」
よく通るメゾ・ソプラノでそう告げると、瑞紀は立ち上がって所長席の横の窓を開けた。七階から見下ろす大通りには、多くのビジネスマンやOLが歩いていた。地上までの距離は約二十メートルで、ベレッタM93Rの有効射程距離内だ。
(さすがにここで撃つと大騒ぎになるわね……)
ベレッタM93Rの銃口を天井に向けていつでも発砲できるようにしながら、瑞紀はビルの入口を見据えた。しばらくすると、黒いスーツ姿に濃いサングラスをした男がゆったりとした足どりで出て来た。走ったりして無闇に注目を浴びないのは、このようなことに慣れている証拠だった。
男は周囲を警戒しながら、路上に止められていた白いワンボックスの助手席に乗り込んだ。男を乗せるとワンボックスがウィンカーを点滅させながら甲州街道方面へと走って行った。
(練馬375 ”わ”8○△5か……。レンタカーね……)
左手に持ったオペラグラスでナンバー・プレートを確認すると、執務机に戻ってメモに走り書きをした。そして、左腕のリスト・タブレットを操作して龍成に連絡を取った。
「どうした、忘れ物か……? それとも今夜も……」
「銃撃を受けたわ」
龍成の戯言を遮るように、瑞紀が真剣な口調で告げた。
「怪我は……!?」
一瞬で龍成の口調が変わった。最初に安否を気遣ってくれたことに、瑞紀は口元を緩めた。
「無事よ。事務所のドアに三発喰らった。怪我人はいないわ」
「すぐ行く……」
短くそう告げると、龍成は通話を切った。<星月夜>からこの事務所までは、歩いて十分ほどの距離だ。走れば五分で到着する。その間に、瑞紀は銃痕を確認しようと席を立った。
入口のドアに突き刺さっていたのは、7.62mm弾が三発だった。このドアは事務所を開く際に特注した物だ。一見すると木製だが、貼り合わせた木の間にケプラー繊維を編み込んでいる防弾仕様だった。至近距離からマグナム弾の直撃を受けても貫通することはなかった。
7.62mm弾の着弾位置は、直径十センチ以内に集弾されていた。銃の取扱いに慣れている証拠だった。素人なら、二メートルも離れたら着弾位置に三十センチ以上のばらつきが出る。
銃痕を確認し終えて室内に戻ると、美咲が蒼白な表情で震えていた。普通の女子大生である美咲にとって、発砲事件など初めての経験のはずだった。
「心配しないで、美咲……。応援を呼んだから……」
「は、はい……。み、瑞紀さんは、恐くないんですか……?」
声を震わせながら、美咲が訊ねてきた。濃茶色の美しい瞳に涙が浮かんでいた。
「恐いわよ。でも、銃撃を受けるのは初めてじゃないからね」
美咲を安心させるために笑顔で告げながら、瑞紀はベレッタM93Rの安全装置をロックした。その様子を見て、錦織が厳しい視線で瑞紀を見つめながら訪ねた。
「所長……あんた、その銃は……?」
ベレッタM93Rは、どの国でも市販されていない特殊な拳銃だ。装弾数は9mmパラベラム弾を標準マガジンで二十発。あらかじめ薬室に装填しておけば、最大で二十一発の銃弾を装填可能だった。
引き金を一度引くだけで三発の銃弾が発射できる3点射機構を有する対テロ用のマシンピストルである。この機構があるため、製造元のベレッタ社は93Rを法執行機関からの需要があった時にだけ生産し供給しているのだ。
「古巣の時から使っている相棒よ。この子がいなかったら、私は何度死んでいたか数え切れないわ」
微笑みながら告げた瑞紀の言葉に、錦織が固まった。それは、数え切れないほどの死線を乗り越えてきたと言っているのと同じだったからだ。
「所長……あんた、いったい……」
錦織の言葉は、荒々しく開けられたドアの音にかき消された。B&T USW P320を右手に持った龍成が駆け込んできた。
「瑞紀ッ……! 無事か……?」
瑞紀が龍成に連絡してから五分も経っていなかった。おそらく全速力で<星月夜>から走ってきたのだろう。四月だというのに、龍成の精悍な顔には滝のように汗が流れていた。
「怪我はないって言ったわよ……」
(こんなに汗だくになって……)
エルメスのハンカチを取り出して龍成の汗を拭いながら、瑞紀は微笑んだ。錦織たちの眼がなければ、彼に抱きついていたことは間違いなかった。
「あ、紹介しておくわ。こちらは私の元相棒で、白銀さん……。うちの捜査員の錦織さんとアルバイトの七瀬さんよ……」
「錦織です、よろしく……」
「白銀です。瑞……楪がいつもお世話になっています」
いつも通り瑞紀の名前を呼び捨てにしようとし、慌てて龍成が言い直した。事務所に駆け込んできた時に、大声で瑞紀の名前を叫んでいたのは無意識だったようだ。
「七瀬です……。白銀さんって瑞紀さんの……?」
興味津々といった様子で目を輝かせながら、美咲が龍成と瑞紀の関係を訊ねようとした。その横で、ゴホンッと錦織が咳払いをした。瑞紀は顔を赤らめながら美咲の言葉を聞き流すと、龍成に向かって告げた。
「撃ち込まれたのは7.62mm弾よ。おそらく、トカレフ……。今、調査している案件に<蛇咬会>が絡んでいるみたいなの。おそらく、これは手を引けという警告ね……」
「<蛇咬会>だと……!」
龍成が何を言いたいのか察すると、瑞紀はそれを遮るように報告を続けた。
「発砲したのは黒いスーツに濃いサングラスをした三十歳前後の男。共犯者が待機していた車に乗り込んで甲州街道方面に走って行ったわ。これがその車のナンバーよ」
オペラグラスで確認したナンバーのメモを瑞紀が渡した。それを受け取ると、龍成が訊ねた。
「警察は……?」
「連絡するつもりはないわ。<星月夜>で対応できる?」
「分かった……。後で鑑識課を手配する。あまり無茶するなよ」
「うん……。龍成も……」
瑞紀は龍成の眼を見つめながら頷くと、キスをしたい衝動を抑え込んだ。
「七瀬さん、こいつの射撃の腕は俺が保証する。千五百人の特別捜査官が参加した射撃大会の優勝者だ。銃を持たせたら、こいつに勝てるやつなんてそうそういないぞ」
まだ蒼白な表情をしている美咲を安心させるように龍成が告げた。その事実を初めて知った美咲は、驚愕の表情を浮かべた。
「射撃大会で優勝……? 凄い……」
「錦織さん、楪をよろしくお願いします」
美咲に向けていた優しい表情と打って変わって、龍成が錦織の顔を真剣な眼で見つめながら頭を下げた。その瞳に込められた意味に気づき、錦織が緊張しながら頷いた。
「分かりました……。どこまでできるか分からねえが、できる限りのフォローは約束します」
錦織の言葉に満足そうな笑みを浮かべると、龍成が瑞紀に向き直った。
「では、行く……。いつでも連絡しろ」
「ありがとう、龍成……」
龍成は強く頷くと、もう一度錦織に一礼して<楪探偵事務所>から出て行った。その後ろ姿を見送っていた瑞紀に、美咲が声を掛けた。
「瑞紀さん、白銀さんって瑞紀さんの彼氏ですか?」
言葉を飾らない美咲の質問に、瑞紀は助け求めるように錦織の顔を見た。
「姫……、おじさんがチョコレートあげるから、あっちで食べようか?」
「誘拐魔みたいなこと言わないでください。それより、どうなんですか、瑞紀さん?」
錦織のフォローを一蹴すると、美咲が目を輝かせながら近づいてきた。そのプレッシャーに思わず後ずさりしながら、瑞紀が告げた。
「ち、違うわよ……。一緒に仕事をしていただけ……」
「白銀さんって格好いいですね! 『瑞紀、無事か?』なんて汗だくで駆け込んできて……。あれって、絶対に瑞紀さんのこと愛してますよ。瑞紀さんも『龍成……』なんて呼び捨てにしてるし……。二人は恋人同士なんですよね?」
「そ、それは……相棒を組んでいたから……」
美咲に追求されると、瑞紀はついさっきまで龍成に抱かれていたことを思い出して、カアッと顔を赤く染め上げた。
「ただいまぁ……! ドア、どうしたんすか? 何か、刺さってるけど……?」
事態をまったく把握していない暢気な口調で、水島俊誠が事務所に入ってきた。
「お、おかえり、トシ君……。どこに行ってたの……?」
窮地を救われたように俊誠を見つめて、瑞紀が訊ねた。
「ちょっと、ルミネまで買い物に……」
「あ、トシさん、聞いてくださいよぉ……! 大変だったんですからッ……!」
銃撃を受けたことや瑞紀の彼氏登場のことを話したくて、美咲が俊誠に詰め寄った。
「二人とも、まだ仕事が残っているでしょ! 席に着きなさいッ!」
「えーッ……? でもぉ……」
「さっきの件については、私からトシ君に説明します! 美咲は仕事に戻るッ! トシ君は、こっちに来て……」
不満そうな表情の美咲を受付に追い立てると、瑞紀は俊誠を連れて応接室に入っていった。その様子を見ながら、錦織が厳しい表情を浮かべた。
(ただの女じゃないとは思ってたが、うちの所長、とんでもねえな……。ベレッタM93Rだと? ありゃ、拳銃なんて代物じゃねえぞ。そこらのサブマシンガンよりも高性能じゃねえか? それに、銃撃されても顔色一つ変えずに、あれだけ冷静に対処できるなんて……。あの歳でどれだけ場数を踏んでんだ……?)
(その上、民間軍隊と呼ばれる<星月夜>で、NO.1の射撃手だと……? それに、P320を片手に入ってきた白銀って男……。あれは所長に輪を掛けたとんでもねえ猛者だ。そんなのが所長の恋人だと……? さすが、あの<鬼元帥>が紹介した女だけあるな……)
<星月夜>で統合作戦本部長をしている高城の顔を思い浮かべながら、錦織はニヤリと笑みを浮かべた。
(こりゃ、当分退屈しそうにねえな……)
その考えが現実になることに、まだ錦織は気づいてもいなかった。
大きく裸身を仰け反らせると、瑞紀はビックンビックンッと激しく痙攣しながら絶頂を極めた。プシャァッと花唇から蜜液を迸り、濡れた膣壁が龍成の男を凄まじい圧力で締め上げた。
「くッ……出るッ……!」
その壮絶な締め付けに耐えきれず、欲望のすべてをぶつけるかのように龍成が爆ぜた。子宮口に叩きつけられた熱い滾りが、瑞紀を更なる官能の極致感へと誘った。
「ひぃいぃいッ……!」
美しい裸身をビックーンッと凄絶に痙攣させると、瑞紀は愉悦の奔流を貪るかのようにガクッガクッと硬直した。情欲に蕩けきった黒瞳から随喜の涙が溢れ、ツッツゥーッと頬を伝って流れ落ちた。熱い喘ぎを漏らす唇の端からは、トロリッと涎が糸を引いて垂れ落ちた。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
歓喜の硬直を解き放つと、瑞紀は全身を弛緩させてグッタリと龍成の胸に倒れ込んだ。その悦楽の凄まじさを物語るように、赤く染まった総身はビックンビックンッと痙攣を続け、左胸の真紅の薔薇は汗に塗れながら美しく咲き乱れていた。これが今日三回目の絶頂だった。小さな愉悦に達した回数は、瑞紀自身にも数えられなかった。
「凄く……よかった……。愛してるわ……龍成……」
龍成の男を自分の中に咥え込んだまま、瑞紀は彼の唇に魅惑的な唇を重ねた。そして、お互いの愛情を確認するかのようにネットリと舌を絡ませた。
「もう一回……するか……?」
「……だめよ……んぁッ……」
濃厚な口づけを交わして、龍成の男が力強さを取り戻してきた。それを名残惜しそうに抜き去ると、瑞紀は大量の欲望を受け止めたコンドームを丁寧に外した。そして、復活した男を左手で握りしめるとゆっくりと上下に扱きながら、愛おしそうに舌を絡め始めた。
「口で……してあげる……」
情欲に潤んだ瞳で龍成を見上げると、瑞紀は大きく口を開いて硬く屹立した龍成の男を咥えた。
(すごく大きい……。顎が外れそう……)
「んッ……んくッ……ん、んッ……ん、んくッ……」
長い黒髪を揺らして頭を振りながら、瑞紀は上目遣いに龍成を見上げた。
龍成が両手で瑞紀の豊かな胸を揉みしだき始めた。そして、硬く尖った薄紅色の乳首を摘まむと、コリコリと扱きながら引っ張ってきた。両胸から広がる甘い愉悦がゾクゾクと背筋を舐め上げ、胸の先端からは峻烈な快感が走って子宮をギュッと収縮させた。クチュッと音を立てて溢れ出た愛蜜が、トロリと糸を引きながら垂れ落ちてシーツに淫らな染みを描いた。
「んくッ……んッ……ん、んッ……んくッ……!」
全身を襲う官能の愉悦に逆らうかのように、瑞紀は頭を振る速度を速めていった。同時に左手で激しく男を扱き上げながら、随喜の涙を浮かべた黒瞳で上目遣いに龍成を見つめた。快感に耐えながら必死に口戯を続ける美女の姿に、龍成の男が痙攣するようにビクンッと震えた。
「くッ……! 出すぞ、瑞紀……!」
限界を告げる言葉に頷いた瞬間、瑞紀の喉奥で龍成が爆ぜた。喉を灼くような熱い滾りが迸り、瑞紀は黒瞳を大きく見開きながらその衝撃に耐えた。
「ん、くっ……んッ……かはッ……けほッ……」
懸命に喉を鳴らしながら熱精を飲み込む瑞紀を見て、龍成は満足そうな笑みを浮かべて男を引き抜いた。濡れた淡紅色の唇から、飲みきれなかった白濁がドロリと糸を引いて垂れ落ちた。
豊かな胸に垂れた精液を右手で拭い取ると、瑞紀は舌を出して愛おしそうに舐め上げた。そして、美しい眉を顰めながら、悪戯っぽく龍成を見つめて告げた。
「苦い……もっと甘ければいいのに……」
「甘いのは、瑞紀のここだけで十分だ……」
そう告げると、龍成は右手を濡れた瑞紀の花唇に這わせて、愛蜜を指で掬い取った。そして、人差し指と親指で粘り気のある糸を引きながら、見せつけるように瑞紀の顔の前に持ってきた。
「咥えているだけで、こんなに濡らしていたのか……? イヤらしい女だな……」
「それは……龍成が胸を触るから……」
自分が昂ぶっていた証拠を突きつけられ、瑞紀はカアッと赤面しながら顔を逸らせた。
「まだ時間はあるんだろう……?」
そう告げると、龍成は再び右手を瑞紀の花唇に這わせ始めた。クチャクチャと卑猥な音色が響き渡り、甘い愉悦が瑞紀の腰骨を蕩かした。
「だめよ……もう、行かないと……。みんなが……んぁッ……待ってるから……」
花唇を弄る指を両手で押さえつけると、瑞紀が官能に蕩けた瞳で龍成を見つめた。
「部下に仕事を押しつけて、自分は男とホテルでお楽しみか……? 悪い女所長だな……」
「その女所長を……三回もイカせた男の方が……ずっとタチが悪いわよ……」
長い黒髪を左手で押さえながら龍成に口づけをすると、瑞紀は名残惜しそうな表情を浮かべてベッドから抜け出した。
「シャワー、浴びてくるわ……」
「分かった。自慰するなよ……」
一年前、初めて二人で泊まったラブホテルで、瑞紀はマジックミラーであることを気づかずに浴室で自ら慰めている姿を龍成に見られたのだ。
「ばか……。今度見たら、殺すからね……」
笑いながらそう告げると、瑞紀はバスルームに入っていった。
<狗神会《こうじんかい》>に瑞紀が拉致され、凄まじい凌辱を受けてから一年が経っていた。その事件で瑞紀は<狗神会《こうじんかい》>会長の李昊天と二人の部下を射殺し、逃亡しようとしたシコルスキーS-107を撃ち落としてパイロットごと爆散させた。民間警備会社でしかない<星月夜>の特別捜査官だった瑞紀が、中国系マフィアとはいえ四人の人間を射殺したことは、本来許されるはずはなかった。
だが、瑞紀の救出作戦を実行するに当たって、龍成があらかじめ<星月夜>統合作戦本部長の高城雄斗から、非常時特別発砲権の許可を得ていたことにより法的責任は追及されなかった。これは自分や仲間の生命が危険だと判断した場合、相手を射殺しても罪に問われないという超法規的措置だった。龍成が瑞紀救出作戦の前に高城に面会を求めた理由は、この権利を得るためであった。
しかし、龍成は瑞紀が撃墜したシコルスキーS-107の爆発によって、左前腕を失ってしまった。現在の龍成の左前腕は、瑞紀の右腕と同じく超高性能義手だった。
自分の攻撃のせいで龍成が左腕をなくしたことで、瑞紀は激しい後悔の念に駆られた。どうしても自分で自分が許せず、瑞紀は<星月夜>を依願退職した。瑞紀にとって最愛の龍成を傷つけたことは、自分自身が<狗神会《こうじんかい》>に凌辱されたことよりも遥かに重大な出来事だったのだ。
龍成と袂を分かった瑞紀は、退職金と貯金をはたいて事務所を開いた。それが、<楪探偵事務所>である。今の瑞紀は、三人の部下を持つ女所長であった。
龍成とは月に何度かこうして会い、食事をしたり体を重ねたりする関係だった。仕事柄ライバルになることもあったが、お互いを束縛しない恋人のような関係が続いていた。
「あ、瑞紀さん、お帰りなさい」
新宿駅西口のオフィスビルにある<楪探偵事務所>に戻ると、受付に座っていた七瀬美咲が読んでいたマンガを慌てて閉じながら笑顔で言った。
「ただいま……。錦織さんと俊誠君は?」
マンガには気づかない振りをして、瑞紀が訊ねた。
「オリさんは例のDV案件の調査です。今日こそ尻尾を掴んでやると鼻息を荒くして出て行きました。トシさんは……そう言えば、どこ行ったのかな? また、女の子をナンパしてホテルにでもしけ込んでいるかも知れませんね……」
笑いながら告げた美咲の言葉に、瑞紀はギクリとした。たった今、龍成とホテルに行っていたのは紛れもなく瑞紀自身だったからだ。
「まあ、いいわ……。悪いけど、お茶入れてもらっていいかしら?」
「はい。いつものでいいですか?」
「ええ、お願いね……」
分かりましたと元気よく答えながら、美咲はダージリンのファーストフラッシュを入れるためにキッチンに向かって行った。
インド紅茶には四月頃のファーストフラッシュ、五月から六月にかけてのセカンドフラッシュ、そして十月以降のオータムナルと、シーズンによって三種類の香りと味がある。中でも瑞紀は、春の若草や可憐な花々を思わせる香りのファーストフラッシュが一番好きだった。
窓際に置いた所長席に向かうと、瑞紀はお気に入りの大型ヘッドレスト付コンテッツア・チェアに腰を下ろした。瑞紀が事務所を開くときに最も力を入れて選んだのが、この総革張り製のデスクチェアだった。五十万円以上もしただけあり、しっとりとした滑らかな革の座り心地と、体を包み込むようなホールド感は言葉にできないほど素晴らしいものだった。
(<星月夜>を辞めて一番良かったのは、この椅子を手に入れたことかも知れないわね……)
「お待たせしました……」
美咲がロイヤル・コペンハーゲンのティーカップに入れたダージリン・ファーストフラッシュを運んできた。
「ありがとう……」
ニッコリと微笑んで礼を言うと、瑞紀は瑞々しい香りを楽しみながらカップに口をつけた。輝くような黄金色の液体を一口飲むと、緑茶に似た爽やかさが瑞紀の舌を楽しませた。
「美味しい……」
思わず笑顔で呟いた瑞紀の言葉を聞いて、美咲が嬉しそうに告げた。
「そうですよね! 瑞紀さんに教わって、あたしもすっかりファーストフラッシュのファンになっちゃいました。いただきます!」
ちゃっかりと自分の分も入れたティディベアのマグカップを持って、美咲は受付に戻っていった。苦笑いを浮かべてその後ろ姿を見送りながら、瑞紀は美咲との出逢いを思い出した。
七瀬美咲は、<楪探偵事務所>の最初の顧客だった。当時は開業したばかりで、まだ所員は親友の水島麗華の弟である水島俊誠一人しかいなかった。
美咲の依頼内容は、彼氏の浮気調査だった。瑞紀は最初、その依頼を断ろうとした。何故なら、瑞紀が探偵事務所を開いた理由は、<星月夜>で人手が足りなかったり、緊急度が高い調査を代行するためだったからだ。
しかし、美咲の話を聞いているうちに、瑞紀の気が変わった。美咲の彼氏である新城直人は、一言で言えば女の敵、二言で言えば人間のクズだった。新城は美咲の他に、五人の女性と交際をしていた。
女性と付き合うには、それなりに金がかかる。デート代やプレゼント費用を始め、自分の身だしなみを整えるための洋服代などだ。若干二十六歳でしかない新城が美咲を含めて六人の女性と交際することは、金銭的に難しいはずだった。
だが、新城がそれを可能にしている理由は、女性たちから金を貢がせていたからだった。甘いマスクと巧みな話術で女性の心を掴み、自分への好意が愛情に変わるのを見極めて金をせびるのである。約六ヶ月間の交際で、美咲は二十万円以上も新城に渡していた。大学生の美咲にとっては、かなりの大金である。美咲はそれを稼ぐためにキャバクラでアルバイトまでしていたのだ。
美咲の話では、新城の浮気を知ったのは彼のPCにあるデータを見たからだそうだ。隠しフォルダに多数の女性と性交渉をしている写真が登録されており、そこに多額の入金記録があったということだった。瑞紀がどのようにして隠しフォルダを見つけたのか問い質すと、美咲は平然とハッキングをしたことを認めた。彼女は高度なプログラミング技術を持っており、高校生の時にアメリカ国防総省のコンピューターにハッキングしたことを自慢げに告げた。
美咲は紛れもなくコンピューターの申し子であり、ハッキングの天才だったのだ。瑞紀は美咲の依頼を無料で受ける代わりに、<楪探偵事務所>で働いてくれるように頼み込んだ。浮気調査の依頼料は調査員の人数や日数にもよるが、二十万円から百万円程度必要だ。それを無料にすると言われ、美咲は喜んで瑞紀の申し出を受けた。現在、美咲をアルバイトとして雇っているのは彼女が現役の大学生だからだ。卒業後はそのまま<楪探偵事務所>の正式な調査員になってもらう契約を交わしている。
新城の浮気現場を押さえると、瑞紀は愛用のベレッタM93Rで彼を脅し、美咲が貢いだ二十万円を取り戻した。そして、美咲に二度と会わないという誓約書を書かせると、サバイバルナイフで新城の親指を切りつけて血判を押させた。新城は恐怖の余り失禁しながら、誓約を必ず守ることを何度も瑞紀に誓った。その一部始終を横で見ていた水島俊誠ことトシ君の態度が、その日を境に微妙に変わったことは気のせいだと瑞紀は思い込むことにした。
「ただいま……。お、所長、戻ってたんですかい? 姫、冷たいコーヒー入れてくれや。ビールでも構わねえぞ……」
「お帰りなさい。ビールなんて置いてませんよ、まったく……」
入口のドアを開けて入ってきた錦織雄作……通称、オリさんの言葉に苦笑いを浮かべると、美咲が席から立ち上がってキッチンに向かった。
錦織は警視庁西新宿署の組織犯罪対策課で活躍していた元刑事だ。<楪探偵事務所>を開くに当たってベテランの捜査員が欲しかった瑞紀が、<星月夜>統合作戦本部長である高城雄斗に相談し紹介してもらった人材だった。
年齢は四十二歳で刑事としての経験も豊富で、その仕事柄新宿のマフィアやヤクザにも詳しかった。組織犯罪対策課というのは別名をマル暴とも言って、主に暴力団などが絡む事件を取り扱う部署だからだ。探偵事務所を開いたとは言え、探偵業が初めての瑞紀にとってはこの上なく頼れる存在だった。
「お帰りなさい、オリさん。成果はどうでした?」
右手に持った新聞で襟元をパタパタと仰ぐ錦織の労うように、瑞紀が笑顔で訊ねた。
「やっぱりあの夫、ヤクザと繋がってやがった。それも自分自身が、タチの悪い中国系マフィア<蛇咬会>のフロント企業の役員だった」
フロント企業とは暴力団などに資金提供を行う企業のことを言い、企業舎弟とも呼ばれている団体のことだ。その役員や従業員は、資金提供先である暴力団などの準構成員だった。
「<蛇咬会>……。まったく、どこに行ってもその名前を耳にするわね……」
美しい貌に憂いの色を浮かべながら、瑞紀が大きなため息をついた。
<蛇咬会>は瑞紀にとって天敵とも言える存在であった。<蛇咬会>の関連組織によって拉致監禁され、気が狂いかねないほどの凄絶な凌辱を受けたことが二度もあるのだ。そのことは、瑞紀にとっていまだに忘れられない大きな傷となっていた。
「所長、<蛇咬会>と何かあったんですかい……?」
瑞紀の様子に眉を顰めなると、錦織が怪訝な表情で訊ねてきた。
「以前にちょっとね……。それよりも、そのフロント企業の名前は?」
「株式会社エンタープライズ……。表向きは輸入雑貨を取り扱う代理店ってことになってるんですが、奴らが扱っているのは雑貨なんて代物じゃありませんでした」
巌のような厳つい顔に真剣な表情を浮かべながら、錦織が告げた。
「まさか、麻薬……?」
錦織の態度から察して、瑞紀が訊ねた。元マル暴である彼がこれほど険しい表情を作るのを、瑞紀は初めて眼にしたのだ。
「覚醒剤、大麻、ヘロイン、コカイン……色々とやってるみたいです。もちろん、例の合成麻薬……<サキュバス>にも手を出してるようです」
「<サキュバス>……」
瑞紀が美しい眉を顰めて呟いた。
<サキュバス>は、<蛇咬会>が元締めとなっている合成麻薬だ。覚醒剤やコカインなどに比べて末端価格が安いために、ここ数年で若者たちの間で急速に蔓延していた。特に女性がこれを使われると正常な判断力を失い、性欲が急増してセックス・ドールのようにされることから、<女夢魔《サキュバス》>の名がつけられたとも言われている。
「所長、この事件は思っていたよりも危険ですぜ。深入りしないで、夫を脅しつけてDVをやめさせる念書でも取って終わらせた方がいい……」
「そうね……。美咲やトシ君たちは荒事に慣れていないし……」
難しい表情を浮かべて瑞紀がそう告げた瞬間……。
パンッ……パンッ……パンッ……!
三発の銃声が響き渡り、入口のドアに銃弾が撃ち込まれた。
「伏せてッ……!」
鋭い声で叫ぶと、瑞紀は執務机の上に置いてあるエルメスのバーキンを手に取り、机を背にして身を隠すように座り込んだ。そして、バーキンの中から愛用のベレッタM93Rを取り出すと、慣れた手つきで安全装置を解除した。
「美咲、隠れてなさいッ……!」
キッチンで悲鳴を上げている美咲に向かって声を張り上げると、瑞紀は机の横から顔を覗かせて入口の扉を見つめた。
耳を澄ませると、廊下を走り去っていく革靴の足音が聞こえた。その数から犯人は一人だけのようだった。
「どうやら、脅しのようだな……。逃げて行きやがった……」
瑞紀と同様に事務机を背にして座りながら、錦織が入口のドアを見据えて言った。その右手には、安全装置を外したワルサーPPKが握られていた。警視庁でも制式採用している二十二口径の小型拳銃だ。装弾数はマガジンの八発と薬室の一発で、最大九発である。
(さすが元マル暴ね……。頼りになるわ)
射撃の腕前までは分からないが、錦織の取った実戦的な行動を見て瑞紀は満足そうな笑みを浮かべた。
「オリさんはそのまま入口を警戒していてください。美咲は絶対に出てこないでッ……!」
よく通るメゾ・ソプラノでそう告げると、瑞紀は立ち上がって所長席の横の窓を開けた。七階から見下ろす大通りには、多くのビジネスマンやOLが歩いていた。地上までの距離は約二十メートルで、ベレッタM93Rの有効射程距離内だ。
(さすがにここで撃つと大騒ぎになるわね……)
ベレッタM93Rの銃口を天井に向けていつでも発砲できるようにしながら、瑞紀はビルの入口を見据えた。しばらくすると、黒いスーツ姿に濃いサングラスをした男がゆったりとした足どりで出て来た。走ったりして無闇に注目を浴びないのは、このようなことに慣れている証拠だった。
男は周囲を警戒しながら、路上に止められていた白いワンボックスの助手席に乗り込んだ。男を乗せるとワンボックスがウィンカーを点滅させながら甲州街道方面へと走って行った。
(練馬375 ”わ”8○△5か……。レンタカーね……)
左手に持ったオペラグラスでナンバー・プレートを確認すると、執務机に戻ってメモに走り書きをした。そして、左腕のリスト・タブレットを操作して龍成に連絡を取った。
「どうした、忘れ物か……? それとも今夜も……」
「銃撃を受けたわ」
龍成の戯言を遮るように、瑞紀が真剣な口調で告げた。
「怪我は……!?」
一瞬で龍成の口調が変わった。最初に安否を気遣ってくれたことに、瑞紀は口元を緩めた。
「無事よ。事務所のドアに三発喰らった。怪我人はいないわ」
「すぐ行く……」
短くそう告げると、龍成は通話を切った。<星月夜>からこの事務所までは、歩いて十分ほどの距離だ。走れば五分で到着する。その間に、瑞紀は銃痕を確認しようと席を立った。
入口のドアに突き刺さっていたのは、7.62mm弾が三発だった。このドアは事務所を開く際に特注した物だ。一見すると木製だが、貼り合わせた木の間にケプラー繊維を編み込んでいる防弾仕様だった。至近距離からマグナム弾の直撃を受けても貫通することはなかった。
7.62mm弾の着弾位置は、直径十センチ以内に集弾されていた。銃の取扱いに慣れている証拠だった。素人なら、二メートルも離れたら着弾位置に三十センチ以上のばらつきが出る。
銃痕を確認し終えて室内に戻ると、美咲が蒼白な表情で震えていた。普通の女子大生である美咲にとって、発砲事件など初めての経験のはずだった。
「心配しないで、美咲……。応援を呼んだから……」
「は、はい……。み、瑞紀さんは、恐くないんですか……?」
声を震わせながら、美咲が訊ねてきた。濃茶色の美しい瞳に涙が浮かんでいた。
「恐いわよ。でも、銃撃を受けるのは初めてじゃないからね」
美咲を安心させるために笑顔で告げながら、瑞紀はベレッタM93Rの安全装置をロックした。その様子を見て、錦織が厳しい視線で瑞紀を見つめながら訪ねた。
「所長……あんた、その銃は……?」
ベレッタM93Rは、どの国でも市販されていない特殊な拳銃だ。装弾数は9mmパラベラム弾を標準マガジンで二十発。あらかじめ薬室に装填しておけば、最大で二十一発の銃弾を装填可能だった。
引き金を一度引くだけで三発の銃弾が発射できる3点射機構を有する対テロ用のマシンピストルである。この機構があるため、製造元のベレッタ社は93Rを法執行機関からの需要があった時にだけ生産し供給しているのだ。
「古巣の時から使っている相棒よ。この子がいなかったら、私は何度死んでいたか数え切れないわ」
微笑みながら告げた瑞紀の言葉に、錦織が固まった。それは、数え切れないほどの死線を乗り越えてきたと言っているのと同じだったからだ。
「所長……あんた、いったい……」
錦織の言葉は、荒々しく開けられたドアの音にかき消された。B&T USW P320を右手に持った龍成が駆け込んできた。
「瑞紀ッ……! 無事か……?」
瑞紀が龍成に連絡してから五分も経っていなかった。おそらく全速力で<星月夜>から走ってきたのだろう。四月だというのに、龍成の精悍な顔には滝のように汗が流れていた。
「怪我はないって言ったわよ……」
(こんなに汗だくになって……)
エルメスのハンカチを取り出して龍成の汗を拭いながら、瑞紀は微笑んだ。錦織たちの眼がなければ、彼に抱きついていたことは間違いなかった。
「あ、紹介しておくわ。こちらは私の元相棒で、白銀さん……。うちの捜査員の錦織さんとアルバイトの七瀬さんよ……」
「錦織です、よろしく……」
「白銀です。瑞……楪がいつもお世話になっています」
いつも通り瑞紀の名前を呼び捨てにしようとし、慌てて龍成が言い直した。事務所に駆け込んできた時に、大声で瑞紀の名前を叫んでいたのは無意識だったようだ。
「七瀬です……。白銀さんって瑞紀さんの……?」
興味津々といった様子で目を輝かせながら、美咲が龍成と瑞紀の関係を訊ねようとした。その横で、ゴホンッと錦織が咳払いをした。瑞紀は顔を赤らめながら美咲の言葉を聞き流すと、龍成に向かって告げた。
「撃ち込まれたのは7.62mm弾よ。おそらく、トカレフ……。今、調査している案件に<蛇咬会>が絡んでいるみたいなの。おそらく、これは手を引けという警告ね……」
「<蛇咬会>だと……!」
龍成が何を言いたいのか察すると、瑞紀はそれを遮るように報告を続けた。
「発砲したのは黒いスーツに濃いサングラスをした三十歳前後の男。共犯者が待機していた車に乗り込んで甲州街道方面に走って行ったわ。これがその車のナンバーよ」
オペラグラスで確認したナンバーのメモを瑞紀が渡した。それを受け取ると、龍成が訊ねた。
「警察は……?」
「連絡するつもりはないわ。<星月夜>で対応できる?」
「分かった……。後で鑑識課を手配する。あまり無茶するなよ」
「うん……。龍成も……」
瑞紀は龍成の眼を見つめながら頷くと、キスをしたい衝動を抑え込んだ。
「七瀬さん、こいつの射撃の腕は俺が保証する。千五百人の特別捜査官が参加した射撃大会の優勝者だ。銃を持たせたら、こいつに勝てるやつなんてそうそういないぞ」
まだ蒼白な表情をしている美咲を安心させるように龍成が告げた。その事実を初めて知った美咲は、驚愕の表情を浮かべた。
「射撃大会で優勝……? 凄い……」
「錦織さん、楪をよろしくお願いします」
美咲に向けていた優しい表情と打って変わって、龍成が錦織の顔を真剣な眼で見つめながら頭を下げた。その瞳に込められた意味に気づき、錦織が緊張しながら頷いた。
「分かりました……。どこまでできるか分からねえが、できる限りのフォローは約束します」
錦織の言葉に満足そうな笑みを浮かべると、龍成が瑞紀に向き直った。
「では、行く……。いつでも連絡しろ」
「ありがとう、龍成……」
龍成は強く頷くと、もう一度錦織に一礼して<楪探偵事務所>から出て行った。その後ろ姿を見送っていた瑞紀に、美咲が声を掛けた。
「瑞紀さん、白銀さんって瑞紀さんの彼氏ですか?」
言葉を飾らない美咲の質問に、瑞紀は助け求めるように錦織の顔を見た。
「姫……、おじさんがチョコレートあげるから、あっちで食べようか?」
「誘拐魔みたいなこと言わないでください。それより、どうなんですか、瑞紀さん?」
錦織のフォローを一蹴すると、美咲が目を輝かせながら近づいてきた。そのプレッシャーに思わず後ずさりしながら、瑞紀が告げた。
「ち、違うわよ……。一緒に仕事をしていただけ……」
「白銀さんって格好いいですね! 『瑞紀、無事か?』なんて汗だくで駆け込んできて……。あれって、絶対に瑞紀さんのこと愛してますよ。瑞紀さんも『龍成……』なんて呼び捨てにしてるし……。二人は恋人同士なんですよね?」
「そ、それは……相棒を組んでいたから……」
美咲に追求されると、瑞紀はついさっきまで龍成に抱かれていたことを思い出して、カアッと顔を赤く染め上げた。
「ただいまぁ……! ドア、どうしたんすか? 何か、刺さってるけど……?」
事態をまったく把握していない暢気な口調で、水島俊誠が事務所に入ってきた。
「お、おかえり、トシ君……。どこに行ってたの……?」
窮地を救われたように俊誠を見つめて、瑞紀が訊ねた。
「ちょっと、ルミネまで買い物に……」
「あ、トシさん、聞いてくださいよぉ……! 大変だったんですからッ……!」
銃撃を受けたことや瑞紀の彼氏登場のことを話したくて、美咲が俊誠に詰め寄った。
「二人とも、まだ仕事が残っているでしょ! 席に着きなさいッ!」
「えーッ……? でもぉ……」
「さっきの件については、私からトシ君に説明します! 美咲は仕事に戻るッ! トシ君は、こっちに来て……」
不満そうな表情の美咲を受付に追い立てると、瑞紀は俊誠を連れて応接室に入っていった。その様子を見ながら、錦織が厳しい表情を浮かべた。
(ただの女じゃないとは思ってたが、うちの所長、とんでもねえな……。ベレッタM93Rだと? ありゃ、拳銃なんて代物じゃねえぞ。そこらのサブマシンガンよりも高性能じゃねえか? それに、銃撃されても顔色一つ変えずに、あれだけ冷静に対処できるなんて……。あの歳でどれだけ場数を踏んでんだ……?)
(その上、民間軍隊と呼ばれる<星月夜>で、NO.1の射撃手だと……? それに、P320を片手に入ってきた白銀って男……。あれは所長に輪を掛けたとんでもねえ猛者だ。そんなのが所長の恋人だと……? さすが、あの<鬼元帥>が紹介した女だけあるな……)
<星月夜>で統合作戦本部長をしている高城の顔を思い浮かべながら、錦織はニヤリと笑みを浮かべた。
(こりゃ、当分退屈しそうにねえな……)
その考えが現実になることに、まだ錦織は気づいてもいなかった。
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