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序章
1 真紅の薔薇
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「んッ……いやッ……だめッ……あッ、あぁあああ……!」
壮絶な歓悦が背筋を舐め上げると、楪瑞紀は大きく仰け反りながらビクンッビクンッと総身を痙攣させた。全身を蕩かせるような望まない絶頂を極めて、黒曜石の瞳から溢れた涙が頬を伝って流れ落ちた。
官能の愉悦に硬直した裸身を解き放つと、瑞紀は崩れ落ちるように寝台に沈み込んだ。赤く上気した総身はビクッビクッと痙攣を続け、熱い喘ぎを吐く唇の端からはネットリとした涎が垂れ落ちていた。
「……おねがい……もう……ゆるして……」
背後から自分を貫いている男に、四つん這いにされたまま瑞紀は哀願した。白いシーツを握りしめる両手がブルブルと震えていた。
いったい今のが何度目の絶頂なのかさえ、彼女自身にも分からなかった。腰骨を灼き溶かすような壮絶な快感が全身を駆け巡り、鳥肌が沸き立った体はすでに痙攣が止まらなくなっていた。
(これ以上……続けられたら……おかしくなる……)
だが、男は瑞紀の腰を持ち上げると、ニヤリと笑みを浮かべながら動きを再開した。熱く太い物が再び肉壁を抉るように擦り上げながら、一気に奥まで貫いた。
「あぁッ……いやッ……やめ……あッ、あぁああ……」
何度も絶頂を極めた女体がその暴虐に耐えられるはずはなかった。瑞紀は抑えきれない嬌声を上げながら、イヤイヤをするように激しく首を振った。艶やかな長い黒髪が、白いシーツの上を舞い乱れた。
男はその様子を楽しむように見つめると、腰を引いて入口付近の天井部分を擦り上げた。女の急所を刺激され、瑞紀の声色が甘く変わった。その熱い喘ぎを聞くと、男は再び最奥まで貫いた。
「ひぃいいい! だめぇえッ! やめてぇッ……! ンアッ、アァアア……!」
ガクンッガクンッと裸身を痙攣させると、瑞紀は激しく絶頂を極めた。焦点を失った黒瞳からは随喜の涙が頬を伝い、濡れた唇の端からは白濁の涎が糸を引いて垂れ落ちた。大きく広げられたまま膝立ちにされた内股は、溢れ出た蜜液でビッショリと濡れていた。
「まだだッ! 存分に堪能するがいいッ!」
官能の愉悦に硬直している最中にも関わらず、男は律動を止めなかった。それどころか、より一層の激しさで瑞紀を責め続けた。男の物が抜き挿しされるたびに、淫らな音を立てて飛沫が散った。
「アッ、ヒィイイ……! だめぇえッ! やめ……あ、あぁあッ! 狂っちゃうッ! アッ、アァアア……!」
長い黒髪を振り乱すと、瑞紀は真っ赤に染まった顔を激しく振りながら本気で泣き叫んだ。絶頂の先にある極致感に何度も押し上げられ、その全身は痙攣と硬直を繰り返した。
男が背後から左腕をまわし、瑞紀の双乳を揉みしだき始めた。そして、硬く屹立している先端を摘まみ上げると、押しつぶすように捏ね回した。同時に、男の右手が瑞紀の叢をかきわけ、薄皮を剥き上げられ真っ赤に充血した真珠粒を摘まんで扱き始めた。その間も一瞬たりとも腰の動きを止めないどころか、その律動は徐々に激しさを増していった。
「いやぁああッ! もう、許してぇッ……! 死んじゃうッ……! アッ、アァアアッ……!」
最奥まで貫かれながら女の急所を同時に責められ、瑞紀は狂ったように悶え啼いた。峻烈な愉悦が腰骨を熱く溶かし、凄絶な官能が背筋を舐め上げて脳髄さえも熔解した。
次の瞬間、ガクンッと大きく仰け反ると、プシャアッと蜜液を迸らせてシーツに淫らな染みを描いた。
(し、死ぬぅ……!)
かつて経験したことがないほどの超絶な歓悦が全身を駆け巡り、瑞紀の意識を灼き溶かした。限界を遥かに超える極致感に、瑞紀は呼吸さえも満足にできなかった。
大きく見開いた黒瞳は凄まじすぎる恍惚に焦点を失い、赤く染まった目尻からは随喜の涙が頬を伝って流れた。噛みしめた奥歯をガチガチと鳴らしながら、濡れた紅唇からツッツゥーッと糸を引いて涎が垂れ落ちた。
「くうぅ……ッ!」
瑞紀の凄まじい締め付けに耐えきれず、男が欲望のすべてを解き放つように彼女の中で爆ぜた。その熱さを感じた瞬間、瑞紀は総身を仰け反らせながらビックンッビックンッと激しく痙攣した。そして、全身を弛緩させるとグッタリと首を折って失神し、白いシーツの波間に沈むように崩れ落ちた。
真っ赤に染まった裸身はビクンッビクンッと痙攣を続け、股間からは男の放った白濁がドロリと糸を引いて溢れ出た。閉じた長い睫毛は震え、目尻から流れ落ちる涙は頬に幾筋もの痕を残した。せわしなく熱い吐息を漏らす唇からはネットリとした涎が垂れ落ち、白いシーツを淫らに濡らした。
左胸に彫られた真紅の薔薇が、官能の愉悦に翻弄され尽くした女の末路を妖しく彩っていた。
「いやあぁあッ!」
自分の悲鳴で、瑞紀は目を覚ました。全身にびっしょりと汗をかき、鼓動が激しく高鳴っていた。
(夢……? そんな……。あれから六年も経つのに……)
六年前、十八歳の時に瑞紀は犯罪組織に拉致監禁されたのだった。五日間にわたる監禁の間に瑞紀は処女を散らされ、凄まじい凌辱を受け続けた。その時の悪夢をいまだに見続けていた。
瑞紀の父親は製薬メーカーの社長だった。その規模は小さかったが、優秀な化学者を数多く雇い入れた新薬の開発に意欲的な企業だった。その新薬の製法や臨床データなどのエビデンスを奪うため、ライバル企業が非合法組織を使って瑞紀を拉致したのだった。
父親の楪一也は犯人の要求を呑み、事件を警察へは届けなかった。その代わりに、アジア最大の総合警備コンツェルンである<星月夜>に勤める親友に瑞紀の救出を依頼したのだ。
<星月夜>は民間企業とは言え、元自衛隊員や外国の元軍人、元傭兵などが多数いる一種の軍隊組織であった。その主な業務は多発するテロの防止や要人警護など、多岐に及んでいた。
当時、<星月夜>の特別捜査部長をしていた高城雄斗は、楪一也の相談を受けるとすぐに選りすぐりのエージェントを派遣した。
瑞紀を拉致したのは、中国系マフィア<蛇咬会>の末端組織であった。構成員三十名ほどの組織は<星月夜>の精鋭部隊の奇襲を受けて壊滅し、瑞紀は拉致から五日後に救出された。
だが、その五日間で瑞紀は激しい凌辱を受けただけでなく、生涯消えない傷跡を刻まれたのだった。
(いやだ……乳首が硬くなっている……。あんな夢で……)
パジャマのボタンを外して胸元を広げると、白い乳房の頂きが硬く屹立し自己主張をしていた。同時に、下着がビッショリと濡れているのが自分でも分かった。
拉致された五日という時間は、瑞紀に女としての官能を刻みつけるには十分過ぎるものだった。純真だった瑞紀の躰は、セックスの悦びを知る大人の女へと変えられた。当然ながら、それは自らが望んだことでは決してなかったが……。
(それに、この刺青……)
硬く尖った左乳首の上には、真紅の薔薇が咲いていた。
それは、激しい運動や興奮状態、入浴などで血行が促進されると浮き出てくる顕現刺青と呼ばれるものだった。瑞紀を自分の女にした証として、<蛇咬会>の幹部が彫り師に命じて彫らせた特殊な刺青だった。
顕現刺青は吸着性の高い特殊なインクを使っているため、二度と消すことができないと医師に告げられた。この紅い薔薇を見るたびに、瑞紀は嫌でもあの悪夢の凌辱を思い出すのだった。
「シャワーを浴びてこよう……」
ハァッと深いため息をつくと、瑞紀は気を取り直すように首を振ってベッドから降り立った。そして、クローゼットの中に置かれたチェストの引き出しを開けて下着とバスタオルを取り出すと、バスルームに向かって歩き出した。
壁に掛けられたアナログ時計の針は、午前五時四十分を指していた。この独身寮から勤務先である<星月夜>本部までは徒歩十五分の距離であった。シャワーを浴びて朝食を摂るには十分過ぎる時間だった。
「おはよう、ミズキ」
「おはよう、アラン……」
<星月夜>本部の八階にある特別捜査部に入ると、入口近くに座っていたアラン=ブライトが声を掛けてきた。元イギリス情報局員だった三十五歳のエージェントだ。瑞紀は笑顔を浮かべながら彼に挨拶を返した。
この特別捜査部には、瑞紀を含めて二十五人の捜査員が配属されていた。
<星月夜>は民間の警備会社であるが、その実情は軍隊に近かった。役職こそ本部長、統括部長、部長、課長と民間企業と同じであったが、上長の命令は絶対であり反論は許されなかった。その指揮命令権は警察以上であり、軍隊と同等と言っても過言ではなかった。非合法組織……マフィアや暴力団だけでなくテロ集団までも相手にするため、任務の危険性が非常に高く、命令違反はチーム全員の死に直結するからである。
部長を除く特別捜査部のエージェント二十五人は、それぞれがチームを組んでいた。四人組が二チームと三人組が三チーム、二人組が四チームである。それぞれのチームにはコードネームがつけられており、瑞紀が所属するツインは<準星>と呼ばれていた。先ほど声を掛けてきたアランは<炎龍>というカルテットのリーダーだ。
「白銀さんはまだ……?」
「見てないね。今日も単独捜査じゃないのかい? 君も大変だね」
アランがおどけたように両手を広げると、苦笑いを浮かべながら告げた。
瑞紀の相棒である白銀龍成は、この一週間で一度も特別捜査部に顔を出していなかった。先週の月曜日に彼と二人組を組むように命じられてから、瑞紀は初日に紹介された数分間しか彼と会っていなかった。
(何考えてるのよ、まったく……! こんなんじゃ、ツインの意味ないじゃないの!)
大きくため息をつくと、瑞紀は厳しい表情で窓際の部長席を見つめた。そこに特別捜査部長の藤井涼介の姿を認めると、瑞紀は部長席に向かって歩いて行った。そして、激しい口調で藤井に抗議を申し入れた。
「部長、今すぐ白銀さんとのツインを解消してください! そして、私を別のトリオかカルテットに異動させてください!」
だが、藤井は首を縦に振らなかった。それどころか、白銀を擁護する発言をしたのであった。
「白銀は<星月夜>のトップ・エージェントだ。彼が単独捜査をするのは、お前を一人前と認めていないからだ。自分の能力の低さを棚に上げて私の決めた人事に口を出すなど十年早い」
「しかし、白銀さんは……」
整った容貌に険しさを浮かべて瑞紀を睨みつけると、藤井は彼女の抗議を遮るように厳しく告げた。
「私はお前の銃の腕よりも、エージェントとしての白銀の実績を取る。お前が白銀の力になれないのであれば、この特別捜査部には不要だ。一ヶ月やる。その間に白銀が認める相棒になれ。もしなれなければ、お前には事務畑に廻ってもらう」
<星月夜>において、上長の命令は絶対だった。上長が「烏は白い」と言えば白いのだ。
「承知しました……」
瑞紀は不満を呑み込むと、右手の指先を真っ直ぐに伸ばしてこめかみにつけ、藤井に向かって敬礼をした。
(私の射撃よりも、白銀さんの実績の方が上だって言うの?)
一ヶ月前に開催された<星月夜>の射撃大会で、瑞紀は優勝をしていた。千五百人いるエージェントの中で、最も優秀な射撃手であることを証明したのだ。だが、藤井は瑞紀のシューターとしての腕前よりも、白銀の捜査能力を重視したのである。そのことは瑞紀の自尊心を大いに傷つけただけでなく、白銀に対するライバル心に火をつけた。
その日の午後、瑞紀は地下の射撃訓練場に行き、愛用のベレッタM93Rで射撃訓練を行った。
ベレッタM93Rは弾丸直径9mm、薬莢の長さ19mmのパラベラム弾が装填可能な対テロ用マシンピストルである。標準マガジンの装弾数は二十発で折り畳み式ストックも装着でき、単射、3点射の切替も可能なモデルとなっている。全長240mm、重量1,170gもあり、本来は女性に不向きな大型の銃だ。
だが、二年前の世界同時電子テロで右腕を失い高性能義手に代えた瑞紀にとっては、最も信頼できるパートナーであった。瑞紀の右義手の握力は三百㎏と、成人男性平均値の六倍以上もあるからだ。この義手は<星月夜>の技術開発部が最新クローン技術を駆使して製作したもので、人工的に培養された強化細胞から出来ていた。筋肉や血管さえも本物と変わらず、表面には産毛さえもあった。X線程度では義手と看破することさえ不可能であった。
もっとも彼女の右腕が義手だと知る者は、<星月夜>の中でもほとんどいなかった。亡き父親の友人であり、義手の取り付けを指示した統合作戦本部長の高城雄斗と、実際に接合手術を行った医師だけであった。
<星月夜>の地下にある射撃訓練場は、二十五メートル、五十メートル、百メートル、二百メートル、三百メートルと距離に応じた射撃エリアが設けられていた。それぞれの射座には自動採点装置が設置されており、標的に着弾した弾痕を検出して照準と弾痕のずれをモニターで確認できるようになっている。
瑞紀はベレッタM93Rの有効射程距離である五十メートルの小銃用射撃エリアに入ると、射撃用ゴーグルと防音イヤーマフを身につけた。そして、射撃用の革グローブを両手にはめると、装弾数二十発の標準マガジンを挿し込んで五十メートル先の標的に向けてベレッタM93Rを構えた。右手で銃把を握り、フォールディング・ストックは折り畳んだままで右手首を固定した。片手で撃つときには、この状態が最も照準が安定するのだ。
切替スイッチが単射になっていることを確認すると、瑞紀は引き金を引いた。ダンッという反響音を響かせて、9mmパラベラム弾が秒速372mの速度で射出された。標的のほぼ中央部に着弾したことを確認すると、瑞紀は続けざまにトリガーを引き絞った。二十発の弾丸が次々と標的を撃ち抜き、マガジンがあっという間に空になった。
視線を移してモニターを見つめると、瑞紀は満足げな笑みを浮かべた。直径四十センチの標的外縁部に当たると十点で中心に近づくほど点数が高くなり、中心部に着弾すると百点となる。マガジン一本分で二十発なので、二千点満点だ。モニターの数値は、1,875/2,000となっていた。自己ベストにはほど遠いが、悪くない点数だった。
瑞紀はベレッタM93Rを単射から3点射に切り替えると、新しいマガジンを装着して再び銃口を標的に向けた。3点バーストはトリガーを一度引くだけで三発の弾丸が発射される機構だ。開発から八十年も経過しているベレッタM93Rを瑞紀が使い続けている一番の理由は、この3点射機構だった。
ベレッタM93Rは一分間に1,100発という発射速度を誇るため、3点射機構は連射時の銃口の跳ね上がりによる命中精度の低下を抑えるとともに、弾丸の消費を節約してすぐに弾切れになる可能性を抑制していた。
また、ベレッタM93Rは自動拳銃としては旧型だが、逆に言えば設計が単純なため整備が容易で故障の確率も低かった。それに使用する9mm弾は最新の弾丸と比べると殺傷力や貫通力は劣るが、どこの国でも比較的入手が容易であった。
ダンッ、ダンッ、ダンッ……。
3点射による発射音が響き渡り、標的の中心部に9mmパラベラム弾が集弾した。連射の衝撃による銃口の跳ね上がりによって、初弾より二弾、三弾と着弾位置は上方に移っていた。だが、握力三百㎏の義手がそれを抑制し、初弾から三弾までの着弾距離は約十センチと驚異的な命中精度だった。
マガジン・リリース・ボタンを押して空になったマガジンを抜き捨てると、瑞紀は新しいマガジンを挿し込んで射撃訓練を続けた。射撃訓練場に3点射の発射音が反響し、自動採点装置の数値がめまぐるしく変わっていった。
「ふう……。少しはすっきりしたわ」
マガジン十本分(二百発)を撃ち終えた頃には、瑞紀は全身にびっしょりと汗をかいていた。射撃用ゴーグルと防音イヤーマフを外すと、瑞紀は右手にはめている革グローブで額の汗を拭った。
モニターに映し出された点数は、19,557/20,000であった。標的中心円命中率97.785パーセントと、射撃大会優勝者に恥じない成績だった。
「シャワーを浴びたら、今日はこのまま帰ろう……」
床に散らばった薬莢を拾い集め、残ったマガジンとベレッタM93Rを銃器保管金庫に戻して施錠すると、瑞紀は自分のロッカーから着替え用の下着とTシャツを取り出した。そして、それらをスポーツバックに詰め込むと、射撃訓練場を後にしてシャワールームへと向かった。
汗で下着のラインがくっきりと浮かび上がった黒いタンクトップの下で、真紅の薔薇が左胸に美しく咲いていた。
壮絶な歓悦が背筋を舐め上げると、楪瑞紀は大きく仰け反りながらビクンッビクンッと総身を痙攣させた。全身を蕩かせるような望まない絶頂を極めて、黒曜石の瞳から溢れた涙が頬を伝って流れ落ちた。
官能の愉悦に硬直した裸身を解き放つと、瑞紀は崩れ落ちるように寝台に沈み込んだ。赤く上気した総身はビクッビクッと痙攣を続け、熱い喘ぎを吐く唇の端からはネットリとした涎が垂れ落ちていた。
「……おねがい……もう……ゆるして……」
背後から自分を貫いている男に、四つん這いにされたまま瑞紀は哀願した。白いシーツを握りしめる両手がブルブルと震えていた。
いったい今のが何度目の絶頂なのかさえ、彼女自身にも分からなかった。腰骨を灼き溶かすような壮絶な快感が全身を駆け巡り、鳥肌が沸き立った体はすでに痙攣が止まらなくなっていた。
(これ以上……続けられたら……おかしくなる……)
だが、男は瑞紀の腰を持ち上げると、ニヤリと笑みを浮かべながら動きを再開した。熱く太い物が再び肉壁を抉るように擦り上げながら、一気に奥まで貫いた。
「あぁッ……いやッ……やめ……あッ、あぁああ……」
何度も絶頂を極めた女体がその暴虐に耐えられるはずはなかった。瑞紀は抑えきれない嬌声を上げながら、イヤイヤをするように激しく首を振った。艶やかな長い黒髪が、白いシーツの上を舞い乱れた。
男はその様子を楽しむように見つめると、腰を引いて入口付近の天井部分を擦り上げた。女の急所を刺激され、瑞紀の声色が甘く変わった。その熱い喘ぎを聞くと、男は再び最奥まで貫いた。
「ひぃいいい! だめぇえッ! やめてぇッ……! ンアッ、アァアア……!」
ガクンッガクンッと裸身を痙攣させると、瑞紀は激しく絶頂を極めた。焦点を失った黒瞳からは随喜の涙が頬を伝い、濡れた唇の端からは白濁の涎が糸を引いて垂れ落ちた。大きく広げられたまま膝立ちにされた内股は、溢れ出た蜜液でビッショリと濡れていた。
「まだだッ! 存分に堪能するがいいッ!」
官能の愉悦に硬直している最中にも関わらず、男は律動を止めなかった。それどころか、より一層の激しさで瑞紀を責め続けた。男の物が抜き挿しされるたびに、淫らな音を立てて飛沫が散った。
「アッ、ヒィイイ……! だめぇえッ! やめ……あ、あぁあッ! 狂っちゃうッ! アッ、アァアア……!」
長い黒髪を振り乱すと、瑞紀は真っ赤に染まった顔を激しく振りながら本気で泣き叫んだ。絶頂の先にある極致感に何度も押し上げられ、その全身は痙攣と硬直を繰り返した。
男が背後から左腕をまわし、瑞紀の双乳を揉みしだき始めた。そして、硬く屹立している先端を摘まみ上げると、押しつぶすように捏ね回した。同時に、男の右手が瑞紀の叢をかきわけ、薄皮を剥き上げられ真っ赤に充血した真珠粒を摘まんで扱き始めた。その間も一瞬たりとも腰の動きを止めないどころか、その律動は徐々に激しさを増していった。
「いやぁああッ! もう、許してぇッ……! 死んじゃうッ……! アッ、アァアアッ……!」
最奥まで貫かれながら女の急所を同時に責められ、瑞紀は狂ったように悶え啼いた。峻烈な愉悦が腰骨を熱く溶かし、凄絶な官能が背筋を舐め上げて脳髄さえも熔解した。
次の瞬間、ガクンッと大きく仰け反ると、プシャアッと蜜液を迸らせてシーツに淫らな染みを描いた。
(し、死ぬぅ……!)
かつて経験したことがないほどの超絶な歓悦が全身を駆け巡り、瑞紀の意識を灼き溶かした。限界を遥かに超える極致感に、瑞紀は呼吸さえも満足にできなかった。
大きく見開いた黒瞳は凄まじすぎる恍惚に焦点を失い、赤く染まった目尻からは随喜の涙が頬を伝って流れた。噛みしめた奥歯をガチガチと鳴らしながら、濡れた紅唇からツッツゥーッと糸を引いて涎が垂れ落ちた。
「くうぅ……ッ!」
瑞紀の凄まじい締め付けに耐えきれず、男が欲望のすべてを解き放つように彼女の中で爆ぜた。その熱さを感じた瞬間、瑞紀は総身を仰け反らせながらビックンッビックンッと激しく痙攣した。そして、全身を弛緩させるとグッタリと首を折って失神し、白いシーツの波間に沈むように崩れ落ちた。
真っ赤に染まった裸身はビクンッビクンッと痙攣を続け、股間からは男の放った白濁がドロリと糸を引いて溢れ出た。閉じた長い睫毛は震え、目尻から流れ落ちる涙は頬に幾筋もの痕を残した。せわしなく熱い吐息を漏らす唇からはネットリとした涎が垂れ落ち、白いシーツを淫らに濡らした。
左胸に彫られた真紅の薔薇が、官能の愉悦に翻弄され尽くした女の末路を妖しく彩っていた。
「いやあぁあッ!」
自分の悲鳴で、瑞紀は目を覚ました。全身にびっしょりと汗をかき、鼓動が激しく高鳴っていた。
(夢……? そんな……。あれから六年も経つのに……)
六年前、十八歳の時に瑞紀は犯罪組織に拉致監禁されたのだった。五日間にわたる監禁の間に瑞紀は処女を散らされ、凄まじい凌辱を受け続けた。その時の悪夢をいまだに見続けていた。
瑞紀の父親は製薬メーカーの社長だった。その規模は小さかったが、優秀な化学者を数多く雇い入れた新薬の開発に意欲的な企業だった。その新薬の製法や臨床データなどのエビデンスを奪うため、ライバル企業が非合法組織を使って瑞紀を拉致したのだった。
父親の楪一也は犯人の要求を呑み、事件を警察へは届けなかった。その代わりに、アジア最大の総合警備コンツェルンである<星月夜>に勤める親友に瑞紀の救出を依頼したのだ。
<星月夜>は民間企業とは言え、元自衛隊員や外国の元軍人、元傭兵などが多数いる一種の軍隊組織であった。その主な業務は多発するテロの防止や要人警護など、多岐に及んでいた。
当時、<星月夜>の特別捜査部長をしていた高城雄斗は、楪一也の相談を受けるとすぐに選りすぐりのエージェントを派遣した。
瑞紀を拉致したのは、中国系マフィア<蛇咬会>の末端組織であった。構成員三十名ほどの組織は<星月夜>の精鋭部隊の奇襲を受けて壊滅し、瑞紀は拉致から五日後に救出された。
だが、その五日間で瑞紀は激しい凌辱を受けただけでなく、生涯消えない傷跡を刻まれたのだった。
(いやだ……乳首が硬くなっている……。あんな夢で……)
パジャマのボタンを外して胸元を広げると、白い乳房の頂きが硬く屹立し自己主張をしていた。同時に、下着がビッショリと濡れているのが自分でも分かった。
拉致された五日という時間は、瑞紀に女としての官能を刻みつけるには十分過ぎるものだった。純真だった瑞紀の躰は、セックスの悦びを知る大人の女へと変えられた。当然ながら、それは自らが望んだことでは決してなかったが……。
(それに、この刺青……)
硬く尖った左乳首の上には、真紅の薔薇が咲いていた。
それは、激しい運動や興奮状態、入浴などで血行が促進されると浮き出てくる顕現刺青と呼ばれるものだった。瑞紀を自分の女にした証として、<蛇咬会>の幹部が彫り師に命じて彫らせた特殊な刺青だった。
顕現刺青は吸着性の高い特殊なインクを使っているため、二度と消すことができないと医師に告げられた。この紅い薔薇を見るたびに、瑞紀は嫌でもあの悪夢の凌辱を思い出すのだった。
「シャワーを浴びてこよう……」
ハァッと深いため息をつくと、瑞紀は気を取り直すように首を振ってベッドから降り立った。そして、クローゼットの中に置かれたチェストの引き出しを開けて下着とバスタオルを取り出すと、バスルームに向かって歩き出した。
壁に掛けられたアナログ時計の針は、午前五時四十分を指していた。この独身寮から勤務先である<星月夜>本部までは徒歩十五分の距離であった。シャワーを浴びて朝食を摂るには十分過ぎる時間だった。
「おはよう、ミズキ」
「おはよう、アラン……」
<星月夜>本部の八階にある特別捜査部に入ると、入口近くに座っていたアラン=ブライトが声を掛けてきた。元イギリス情報局員だった三十五歳のエージェントだ。瑞紀は笑顔を浮かべながら彼に挨拶を返した。
この特別捜査部には、瑞紀を含めて二十五人の捜査員が配属されていた。
<星月夜>は民間の警備会社であるが、その実情は軍隊に近かった。役職こそ本部長、統括部長、部長、課長と民間企業と同じであったが、上長の命令は絶対であり反論は許されなかった。その指揮命令権は警察以上であり、軍隊と同等と言っても過言ではなかった。非合法組織……マフィアや暴力団だけでなくテロ集団までも相手にするため、任務の危険性が非常に高く、命令違反はチーム全員の死に直結するからである。
部長を除く特別捜査部のエージェント二十五人は、それぞれがチームを組んでいた。四人組が二チームと三人組が三チーム、二人組が四チームである。それぞれのチームにはコードネームがつけられており、瑞紀が所属するツインは<準星>と呼ばれていた。先ほど声を掛けてきたアランは<炎龍>というカルテットのリーダーだ。
「白銀さんはまだ……?」
「見てないね。今日も単独捜査じゃないのかい? 君も大変だね」
アランがおどけたように両手を広げると、苦笑いを浮かべながら告げた。
瑞紀の相棒である白銀龍成は、この一週間で一度も特別捜査部に顔を出していなかった。先週の月曜日に彼と二人組を組むように命じられてから、瑞紀は初日に紹介された数分間しか彼と会っていなかった。
(何考えてるのよ、まったく……! こんなんじゃ、ツインの意味ないじゃないの!)
大きくため息をつくと、瑞紀は厳しい表情で窓際の部長席を見つめた。そこに特別捜査部長の藤井涼介の姿を認めると、瑞紀は部長席に向かって歩いて行った。そして、激しい口調で藤井に抗議を申し入れた。
「部長、今すぐ白銀さんとのツインを解消してください! そして、私を別のトリオかカルテットに異動させてください!」
だが、藤井は首を縦に振らなかった。それどころか、白銀を擁護する発言をしたのであった。
「白銀は<星月夜>のトップ・エージェントだ。彼が単独捜査をするのは、お前を一人前と認めていないからだ。自分の能力の低さを棚に上げて私の決めた人事に口を出すなど十年早い」
「しかし、白銀さんは……」
整った容貌に険しさを浮かべて瑞紀を睨みつけると、藤井は彼女の抗議を遮るように厳しく告げた。
「私はお前の銃の腕よりも、エージェントとしての白銀の実績を取る。お前が白銀の力になれないのであれば、この特別捜査部には不要だ。一ヶ月やる。その間に白銀が認める相棒になれ。もしなれなければ、お前には事務畑に廻ってもらう」
<星月夜>において、上長の命令は絶対だった。上長が「烏は白い」と言えば白いのだ。
「承知しました……」
瑞紀は不満を呑み込むと、右手の指先を真っ直ぐに伸ばしてこめかみにつけ、藤井に向かって敬礼をした。
(私の射撃よりも、白銀さんの実績の方が上だって言うの?)
一ヶ月前に開催された<星月夜>の射撃大会で、瑞紀は優勝をしていた。千五百人いるエージェントの中で、最も優秀な射撃手であることを証明したのだ。だが、藤井は瑞紀のシューターとしての腕前よりも、白銀の捜査能力を重視したのである。そのことは瑞紀の自尊心を大いに傷つけただけでなく、白銀に対するライバル心に火をつけた。
その日の午後、瑞紀は地下の射撃訓練場に行き、愛用のベレッタM93Rで射撃訓練を行った。
ベレッタM93Rは弾丸直径9mm、薬莢の長さ19mmのパラベラム弾が装填可能な対テロ用マシンピストルである。標準マガジンの装弾数は二十発で折り畳み式ストックも装着でき、単射、3点射の切替も可能なモデルとなっている。全長240mm、重量1,170gもあり、本来は女性に不向きな大型の銃だ。
だが、二年前の世界同時電子テロで右腕を失い高性能義手に代えた瑞紀にとっては、最も信頼できるパートナーであった。瑞紀の右義手の握力は三百㎏と、成人男性平均値の六倍以上もあるからだ。この義手は<星月夜>の技術開発部が最新クローン技術を駆使して製作したもので、人工的に培養された強化細胞から出来ていた。筋肉や血管さえも本物と変わらず、表面には産毛さえもあった。X線程度では義手と看破することさえ不可能であった。
もっとも彼女の右腕が義手だと知る者は、<星月夜>の中でもほとんどいなかった。亡き父親の友人であり、義手の取り付けを指示した統合作戦本部長の高城雄斗と、実際に接合手術を行った医師だけであった。
<星月夜>の地下にある射撃訓練場は、二十五メートル、五十メートル、百メートル、二百メートル、三百メートルと距離に応じた射撃エリアが設けられていた。それぞれの射座には自動採点装置が設置されており、標的に着弾した弾痕を検出して照準と弾痕のずれをモニターで確認できるようになっている。
瑞紀はベレッタM93Rの有効射程距離である五十メートルの小銃用射撃エリアに入ると、射撃用ゴーグルと防音イヤーマフを身につけた。そして、射撃用の革グローブを両手にはめると、装弾数二十発の標準マガジンを挿し込んで五十メートル先の標的に向けてベレッタM93Rを構えた。右手で銃把を握り、フォールディング・ストックは折り畳んだままで右手首を固定した。片手で撃つときには、この状態が最も照準が安定するのだ。
切替スイッチが単射になっていることを確認すると、瑞紀は引き金を引いた。ダンッという反響音を響かせて、9mmパラベラム弾が秒速372mの速度で射出された。標的のほぼ中央部に着弾したことを確認すると、瑞紀は続けざまにトリガーを引き絞った。二十発の弾丸が次々と標的を撃ち抜き、マガジンがあっという間に空になった。
視線を移してモニターを見つめると、瑞紀は満足げな笑みを浮かべた。直径四十センチの標的外縁部に当たると十点で中心に近づくほど点数が高くなり、中心部に着弾すると百点となる。マガジン一本分で二十発なので、二千点満点だ。モニターの数値は、1,875/2,000となっていた。自己ベストにはほど遠いが、悪くない点数だった。
瑞紀はベレッタM93Rを単射から3点射に切り替えると、新しいマガジンを装着して再び銃口を標的に向けた。3点バーストはトリガーを一度引くだけで三発の弾丸が発射される機構だ。開発から八十年も経過しているベレッタM93Rを瑞紀が使い続けている一番の理由は、この3点射機構だった。
ベレッタM93Rは一分間に1,100発という発射速度を誇るため、3点射機構は連射時の銃口の跳ね上がりによる命中精度の低下を抑えるとともに、弾丸の消費を節約してすぐに弾切れになる可能性を抑制していた。
また、ベレッタM93Rは自動拳銃としては旧型だが、逆に言えば設計が単純なため整備が容易で故障の確率も低かった。それに使用する9mm弾は最新の弾丸と比べると殺傷力や貫通力は劣るが、どこの国でも比較的入手が容易であった。
ダンッ、ダンッ、ダンッ……。
3点射による発射音が響き渡り、標的の中心部に9mmパラベラム弾が集弾した。連射の衝撃による銃口の跳ね上がりによって、初弾より二弾、三弾と着弾位置は上方に移っていた。だが、握力三百㎏の義手がそれを抑制し、初弾から三弾までの着弾距離は約十センチと驚異的な命中精度だった。
マガジン・リリース・ボタンを押して空になったマガジンを抜き捨てると、瑞紀は新しいマガジンを挿し込んで射撃訓練を続けた。射撃訓練場に3点射の発射音が反響し、自動採点装置の数値がめまぐるしく変わっていった。
「ふう……。少しはすっきりしたわ」
マガジン十本分(二百発)を撃ち終えた頃には、瑞紀は全身にびっしょりと汗をかいていた。射撃用ゴーグルと防音イヤーマフを外すと、瑞紀は右手にはめている革グローブで額の汗を拭った。
モニターに映し出された点数は、19,557/20,000であった。標的中心円命中率97.785パーセントと、射撃大会優勝者に恥じない成績だった。
「シャワーを浴びたら、今日はこのまま帰ろう……」
床に散らばった薬莢を拾い集め、残ったマガジンとベレッタM93Rを銃器保管金庫に戻して施錠すると、瑞紀は自分のロッカーから着替え用の下着とTシャツを取り出した。そして、それらをスポーツバックに詰め込むと、射撃訓練場を後にしてシャワールームへと向かった。
汗で下着のラインがくっきりと浮かび上がった黒いタンクトップの下で、真紅の薔薇が左胸に美しく咲いていた。
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