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第9章 獅子王と氷姫

2 水龍の革鎧(その1)

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 壮絶な快感が全身を走り抜けると、閉じた瞼の裏が白い閃光に包まれた。アトロポスは歓悦の極みを告げる声を上げながら、ビクンッビクンッと裸身を痙攣させた。そして、官能の愉悦に硬直した躰を弛緩させると、グッタリとバッカスの胸の上に倒れ込んだ。真っ赤に染まった目尻から溢れた涙が頬を塗らし、せわしなく熱い吐息を吐く唇の端からは涎が糸を引いて垂れ落ちた。

「おねがい……もう、ゆるして……おかしくなっちゃう……」
 全身の痙攣が止まらなくなり、アトロポスは熱い喘ぎを漏らしながらバッカスに哀願した。これが何度目の絶頂なのか、すでにアトロポスには分からなくなっていた。ただひとつ分かるのは、アトロポスが不用意に告げた言葉のために、バッカスに責められ続けていることだけだった。


 <闇姫ノクス・コンチュア>にイーディスの移籍が決まったことは、アトロポスに喜びと嫉妬の相反する感情をもたらした。気が合う女友達としての彼女イーディスと、未だにバッカスを想っている恋敵ライバルとしての彼女イーディスが、アトロポスの中では同居していた。そして、後者の存在が大きくなった時、アトロポスはバッカスにその感情をぶつけた。

「イーディスみたいな美人に言い寄られたら、バッカスもその気になるんじゃないの?」
「馬鹿言うな。そんなことあるはずないだろう?」
 最初はアトロポスの言葉を笑い流していたバッカスだったが、次第にその表情が険しくなっていった。
「イーディスとは何度も口づけを交わしているし、胸だって触ったでしょ? イーディスの胸って大きいから、嬉しかったんじゃないの?」

「口づけって、あれはお前がイーディスの腕を斬り落とすから、上級回復ポーションを飲ませただけだろう? それに、胸を触ったのは認めるが、媚薬で意識が朦朧としていた時だけだ」
「朦朧としていたくせに、触ったことはしっかりと覚えてるんだ?」
 アトロポスの激しい嫉妬に、バッカスはさすがにムッとした。
「俺が愛しているのはお前だけだ。言葉で言って分からないなら、その体に教えてやるよ」
 その結果、バッカスの激しすぎる責めにアトロポスが泣きながら許しを乞うことになったのだった。


「これ以上……されたら……死んじゃう……もう、ゆるして……」
 ビクンッビクンッと総身を痙攣させながら、アトロポスは本気で泣きすがった。寝台の横にあるサイドテーブルには、すでに三本のポーションの空き瓶が置かれていた。
「まだ、ポーションの在庫はたくさんあるぞ。イーディスの前で二度と馬鹿なことを言わないように、よく教え込んでやるよ」
 夜空が白むまでバッカスの責めは続き、凄惨とも言える官能地獄にアトロポスは何度も意識を失った。


「ん……?」
 喉元に冷たい感触を感じて、バッカスは目を覚ました。その冷たさが喉に押しつけられた白刃によるものだと気づいた瞬間、バッカスの意識は一気に覚醒した。
「動くと死ぬわよ、バッカス」
 一糸纏わぬ裸体を晒しながら、アトロポスの黒曜石の瞳が真っ直ぐにバッカスを見据えていた。その黒瞳に燃える激烈な怒りの焔が、バッカスを震え上がらせた。

「ずいぶんと好き勝手に人をもてあそんでくれたわね。二度とこんなマネ出来ないように、それ・・を斬り落としてあげましょうか?」
 <蒼龍神刀アスール・ドラーク>の切っ先がゆっくりとバッカスの体をなぞっていき、バッカスの股間で止まった。

「ま、待て……、お、落ち着け、アトロポス……」
「私は落ち着いているわ。調子に乗ってるのは、どっちかしら?」
 氷のように冷たい声で、アトロポスが告げた。バッカスの全身から冷や汗が溢れだした。
「わ、悪かった……! 許してくれ……!」
「私のそのセリフを散々無視して責め続けたのは誰だったかしら? 前にも言ったはずよ。限界を超えて責められることは、女にとって拷問と変わらないって……」
 アトロポスはその美しい裸身に漆黒の覇気を纏っていた。その覇気が<蒼龍神刀アスール・ドラーク>に収斂しゅうれんしていき、ブルー・ダイヤモンドの刀身が漆黒の輝きを放った。

「に、二度としないッ! た、頼む……勘弁してくれ……!」
 百九十五セグメッツェの巨体が恐怖のあまりガタガタと震えだした。剣士クラスSSを凌駕するアトロポスの威圧を正面から受けて、バッカスはガチガチと歯を鳴らした。<蒼龍神刀アスール・ドラーク>の切っ先を突きつけられた股間は、可哀想なくらい縮こまっていた。

 しばらくの間、無言でバッカスの様子を見据えると、アトロポスはニッコリと微笑みを浮かべて<蒼龍神刀アスール・ドラーク>を左手に持った鞘に納刀した。そして、寝台に腰掛けると、バッカスの左頬に右手を添えながら囁いた。
「あんまり調子に乗らないでね、バッカス。次は本当に斬り落とすわよ」
 そう告げると、アトロポスはバッカスの唇に魅惑的な紅唇を重ねた。そして、すぐに唇を離すと、笑顔を浮かべながら告げた。

「お風呂に入ってくるわ。バッカスも一緒に入る?」
「い、いや……。ゆっくりと入ってきてくれ」
 全身に冷や汗をかいたまま、バッカスは無理矢理笑みを浮かべるとアトロポスに告げた。そして、寝室からアトロポスの後ろ姿が消えると、大きくため息をついた。

(本気で怒ったアトロポスを見たのは、いつ以来だ? あいつの言うとおり、少し調子に乗りすぎたな。気をつけねえと、本当に斬り落とされちまう……)
 SS級魔獣の水龍と対峙するよりも遥かに恐ろしい目に遭い、バッカスはブルッと巨体を震わせた。


「おはようございます、バッカスさん、アトロポス」
 約束の朝の六つ鐘にギルドの食堂に入ると、イーディスはすでに席に着いて鳳凰茶フェニックス・ティーを飲んでいた。彼女の目の前に並んで腰を下ろすと、アトロポスが笑顔で訊ねた。
「おはよう、イーディス。飲み過ぎなかった?」
「ちょっと頭が痛いけど、大丈夫よ。バッカスさんは顔色が悪いですけど、どうしたんですか?」
 イーディスが心配そうな表情でバッカスを見つめた。

「悪ふざけが過ぎたから、ちょっと注意しただけよ。ねえ、バッカス?」
 悪戯いたずらした子供を叱ったというような軽い口調で、アトロポスが言った。
「ああ……。何でもない。大丈夫だ」
(あれが、ちょっと注意・・・・・・か……?)
 もちろん、バッカスには、それを口に出して言う勇気はなかった。

「そうですか、それならいいですけど……」
 不審そうな眼差しでバッカスを見つめているイーディスに、アトロポスが言った。
「取りあえず、受付で移籍の手続きをして、武具屋を紹介してもらいましょう」
「武具屋? 何を買いに行くの?」
 アトロポスの言葉に、イーディスが首を傾げながら訊ねた。すでに一流の装備をしているアトロポスたちが、新たに必要とする武具など予想も出来なかったのだ。

「何って、イーディスの装備に決まってるでしょ? 今の革鎧で四大龍と戦ったら、死ぬわよ」
「よ、四大龍……?」
 アトロポスの言葉に、イーディスは美しい碧眼を大きく見開いた。昨日まで剣士クラスDだったイーディスは、四大龍はおろかB級以上の魔獣と戦った経験さえもなかったのだ。

「せめてバッカスの火龍の革鎧フレイムドラーク・ハルナスくらいの性能の物を着ておかないと、私たちも安心できないわ」
火龍の革鎧フレイムドラーク・ハルナスって……」
 イーディスはバッカスが着ている赤銅色の革鎧を見据えた。まさか、それが火龍の革鎧フレイムドラーク・ハルナスだったとは、今初めて知った。

「その火龍の革鎧フレイムドラーク・ハルナスって、いくらしたんですか?」
 イーディスの革鎧は、金貨十五枚だった。それを基本に考えて、白金貨数百枚くらいするのかも知れないと予想した。
「たしか、四千枚割り引いてもらったのよね? 買値はいくらだったっけ?」
「二万四千枚だ。あの時はアトロポスが定価で買おうとして、驚いたぞ」
 笑いながら告げたバッカスの言葉に、イーディスが固まった。

「に、二万四千枚って……?」
「イーディスの場合は水属性だから、水龍の革鎧ヴァッサードラーク・ハルナスね。私の天龍の革鎧ヘルムドラーク・ハルナスと同じくらいかな?」
天龍の革鎧ヘルムドラーク・ハルナスはいくらだったの?」
 恐る恐るイーディスがアトロポスに訊ねた。

「これは五千枚割り引いてもらって、三万一千枚よ」
「サンマンイッセンマイ……」
 イーディスの言葉が、棒読みになった。驚愕のあまり、思考が追いついてこなかったのだ。
「まあ、水龍だと二万五千枚から三万枚くらいかな? 追加付与はしない方がいいわね。ザルーエクに戻った時に、クロトー姉さんにお願いしましょう」

「クロトーさんって、あの『妖艶なる殺戮ウィッチ・マダー』……?」
「二つ名は怖いけど、実際は凄く優しいから大丈夫よ」
「怒らせたら、ギルマスも涙目になるけどな……」
 バッカスが笑いながら言った。それを聞いて、イーディスはますます緊張した。
「取りあえず、移籍手続きをしに行きましょうか」
 笑顔で席を立とうとしたアトロポスを、イーディスが慌てて止めた。

「ちょっと待って、アトロポス。あたし、そんな大金持ってないわ! もっと安い鎧で十分よ」
「ダメよ、イーディス。<闇姫うち>は安全第一なの。今回は必要経費として、私が出すわ。あなたには水龍の革鎧ヴァッサードラーク・ハルナスを着てもらう。これは、リーダー命令よ」
 アトロポスの言葉に、バッカスが吹き出した。

「安全第一ね……。クラスAだった俺を火龍狩りに引っ張っていって、二十体以上のA級魔獣を一人で討伐させたのは誰だっけ?」
「うるさいわね。S級魔獣と火龍は、ちゃんと私が倒してあげたでしょ?」
「に、二十体以上のA級魔獣を一人で……?」
 二人の会話を聞いていたイーディスが、顔を引き攣らせた。クラスAにA級魔獣を一人で倒させるのなら、クラスSにはS級魔獣を倒させようと考えているのは聞かないでも分かった。

(<闇姫ノクス・コンチュア>に移籍したのは、間違いだったかも知れない……)
 移籍初日目にして、イーディスは自分の決断を本気で後悔した。


 ギルドの受付でイーディスの移籍手続きと、キャシーとマーサのギルド証に移籍料として白金貨千五百枚ずつを送金すると、アトロポスは受付嬢にお勧めの武具屋を訊ねた。
「武具屋でしたら、ギルドを出て大通りを左に行くと、『真龍の呼び声』というお店があります。三階建ての大きな武具屋なので、すぐに分かると思います」
「ありがとうございます。じゃあ、行きましょう」
 受付嬢に礼を言うと、アトロポスはバッカスとイーディスを連れてギルドを後にした。

 受付嬢の言うとおり、大通りを十タルほど歩くと右手に「咆吼している龍」が描かれた看板を見つけた。天龍の革鎧ヘルムドラーク・ハルナス火龍の革鎧フレイムドラーク・ハルナスを買ったザルーエクの武具屋『銀狼の爪』に引けを取らない大きな店構えだった。

「立派な武具屋ね。これなら、水龍の革鎧ヴァッサードラーク・ハルナスも置いてありそうね」
 笑顔でそう告げると、アトロポスは木製の重厚な扉を開けて中に入った。広い店内にはたくさんの人形マネキンが置かれており、そのすべてに鎧が装着してあった。一番近くにあった革鎧の値札を見ると、白金貨三百枚と書かれていた。

「一階から中級クラスの鎧が置いてあるわ。初心者用の鎧は見当たらないわね」
 アトロポスが首を捻っていると、四十代半ばくらいの男性店員が近づいてきて声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ。初心者用の鎧をお探しですか?」
「いえ……。普通は入口付近に初心者用の鎧が置いてあると思うのですが、見当たらないので何でかと思って……」
 疑問をそのまま口にすると、男性店員が笑いながら言った。

「私どもでは、初心者用の鎧を扱っておりません。一番安い中級鎧がこの辺りに展示されている物となります」
 客を線引きするような態度の店員に、アトロポスは眉を顰めた。
「では、高級鎧はどちらにあるのでしょうか?」
「高級鎧ですか? 失礼ですが、お客様のお歳ですと中級鎧の方がお似合いかと存じますが……」
 まだ十代に見えるアトロポスを見下すように、男性店員が笑顔を浮かべながら告げた。

「俺たちには高級鎧が似合わないとでも言いたいのか?」
 アトロポスを馬鹿にされ、バッカスがムッとしながら男性店員に文句を言った。
「いえ、滅相もございません。ただ、当店の高級鎧は貴族向けの物が多いので、それなりに高価な品となっておりますものでして……」
 強面のバッカスに凄まれて、男性店員が及び腰になりながら答えた。

「ちなみに、四大龍の革鎧はいくらくらいでしょうか?」
「四大龍ですか? 今は在庫を切らしておりますが、先日まで置いていた木龍の革鎧で白金貨六万八千枚でした」
 ザルーエクの『銀狼の爪』では、木龍の革鎧は白金貨一万五千枚から二万枚くらいだった。どんなデザインかは分からないが、明らかにぼったくりの価格設定だった。

「へえ、ずいぶんと高いんですね。私の鎧の倍以上だわ」
「倍……? お客様がお召しの鎧とは……?」
 店員の言葉に、アトロポスは闇龍の外套ナハトドラーク・ケープの前を開いて天龍の革鎧ヘルムドラーク・ハルナスを見せた。
「それは……!?」
天龍の革鎧ヘルムドラーク・ハルナスです。ザルーエクの店で買ったのですが、これでも白金貨三万一千枚でした。木龍がその倍以上もするとは、信じられませんね」

「うちの鎧はデザインが特殊ですので、その加工料が……」
「そうですか。でも、私たちが求めているのは、鎧の性能です。どちらにしても、四大龍の革鎧が置いていないのでは仕方ありません。失礼します」
 そう告げると、アトロポスは踵を返して店から出て行こうとした。

「どうせその天龍の革鎧ヘルムドラーク・ハルナスも偽物じゃないんですか? お客さんの歳でそんな高価な物が買えるはずないですしね……」
 捨て台詞のような店員の言葉に、アトロポスが振り返った。そして、ニッコリと笑顔を見せると、店員に向かって告げた。

「あまり客を見下さない方がいいですよ。私たちは三人とも剣士クラスの冒険者です。鎧の善し悪しを見抜く目くらいは持っています。何でしたら、こちらの店の一番高性能だという鎧を両断して見せましょうか?」
 アトロポスの言葉に、バッカスが大きくため息をついた。こうなったアトロポスを止めることは、バッカスには不可能だった。まして、今朝アトロポスに脅されたばかりである。
 イーディスは顔を引き攣らせて、ハラハラと成り行きを見守っていた。

「お客様こそ、当店の鎧を馬鹿にしないで頂きたい。今ある鎧で一番丈夫なガルーダの革鎧を持ってきます。もしお客様がその鎧に傷をつけられなかったら、謝罪して頂けますか?」
「はい。でも、両断しても弁償はしませんけど、いいですか?」
「構いません。少々お待ちください。鎧を持ってきます」
 売り言葉に買い言葉で、二人の間に険悪な雰囲気が流れた。バッカスは肩をすくめると、鎧を取りに行こうとした男性店員を呼び止めた。

「あんた、悪いことは言わねえから、止めておけ。こいつの刀は普通じゃないぞ」
「オリハルコンだとでも言うのですか? そんな高価な剣を持てる歳には見えませんが……」
 男性店員の言葉に、バッカスは大きくため息をついた。そして、イーディスに視線を送りながら言った。

「イーディス。鏡月冰剣ミラレグラス・エスパーダを抜いて見せてやれ」
「はい、分かりました」
 そう告げると、イーディスは左腰に差した鏡月冰剣ミラレグラス・エスパーダを抜き放って男性店員に見せた。
「この細剣レイピアは、神聖ディアオリハルコンです。ちなみに、アトロポスの刀はこれ以上の性能ですよ」
 神聖ディアオリハルコンの刀身から放たれる白銀の輝きに、男性店員の顔色が変わった。

「馬鹿な……! こんな若い娘が、神聖ディアオリハルコンの細剣レイピアだと……!?」
「だから、客を舐めないでって言っているでしょう?」
 そう告げると、アトロポスが<蒼龍神刀アスール・ドラーク>を抜いた。ブルー・ダイヤモンドの刀身が、店内の灯りを反射して幻想的な輝きを放った。

「そ、それは……!?」
「ブルー・ダイヤモンドよ。ご自慢のガルーダの革鎧で本物かどうか試してみますか?」
「い、いや……それは……」
 驚愕のあまり目を見開いた男性店員を一瞥すると、アトロポスは<蒼龍神刀アスール・ドラーク>を納刀して踵をひるがえした。

「行きましょう、バッカス、イーディス。この店は私たちに合わないわ」
「そうみたいね」
 イーディスも鏡月冰剣ミラレグラス・エスパーダを納刀すると、アトロポスに続いた。
「ちなみに、あの<蒼龍神刀アスール・ドラーク>で、アトロポスは水龍の首も斬り落としたぞ。自慢のガルーダの革鎧がそうならなくてよかったな」
 ニヤリと獰猛な笑顔を浮かべると、バッカスもアトロポスたちの後を追って『真龍の呼び声』を出て行った。店の中に残された男性店員は、しばらくの間、茫然自失していた。


「まったく、何なのよ、あの店は……!?」
「失礼な店員だったわね! バッカスさんも止めないで、アトロポスにガルーダの革鎧を斬らせちゃえばよかったのに……」
 プリプリと怒りを撒き散らす美少女二人に、バッカスは肩をすくめながら告げた。
「そんなことしたら、ギルドに苦情が来るぞ。それより、イーディスの鎧はどうする? 別の武具屋を探すか?」

「そうね……。そうだ、クロトー姉さんに相談しましょう!」
「クロトーの姉御に……?」
 突然、叫んだアトロポスの言葉に、バッカスが驚いた表情で訊ねた。
「ほら、大きな街に着いたら魔道通信機を使って連絡をするように言われたじゃない? イーディスを仲間に加えたことを報告するついでに、お勧めの武具屋を紹介してもらうのよ!」
「なるほど。名案かも知れないな。クロトーの姉御なら、この街のことも詳しそうだし……」
 バッカスがアトロポスの意見に頷いた。

「魔道通信機って、何?」
 初めて聞く言葉に、イーディスが首を傾げた。
「クラスS以上の冒険者に使用が許されているギルドの秘密兵器よ。離れたところでも、ギルド支部や本部であれば会話が出来るの」
「そんな便利な物があるの?」
 イーディスが驚いて訊ねた。

「そうと決まったら、ギルドに戻りましょう」
 イーディスの質問に頷くと、アトロポスがバッカスを急かした。
「まったく、思い立ったらじっとしていない奴だな。仕方ない、イーディス、戻るぞ」
「はい」
 苦笑いを浮かべたバッカスが、イーディスを促してアトロポスの後に続いた。三人は急いで、冒険者ギルド・ダスガール支部へと大通りを走り出した。
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