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第7章 戦慄の悪夢
7 悪魔の嘲笑
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ムズンガルド大陸には、十三の国々がある。
大陸の中央部には、千七百年以上の歴史を持ち、広大な国土を誇るユピテル皇国があった。その大国の西側には、国土を隣接するイレナスーン帝国とレウルキア王国があり、東側には神聖デルディス公国とヴァネッサ連合があった。ユピテル皇国の北は国土の半分以上が凍土のアストリア共和国が存在し、南側は広大なレイズ海が広がっていた。
ムズンガルド大陸全体を見渡すと、イレナスーン帝国の西側にはウストルシア海洋連邦があり、その南側はナノラヴァ連合国が存在していた。
大陸の東側に目を向けると、神聖デルディス公国を北から東に覆う形で、スレイジュ国、マーラ連邦、ゾルヴァラタ神国、カナル公国があり、マーラ連邦の北側にはムーツェ共和連合があった。
これら十三の国々には共通する神話があった。ムズンガルド大陸に最初に文明を築いたと言われているユピテル皇国の建国神話である。
ユピテル皇国は一人の英雄によって創られた。その英雄の名はイシュタルと言い、現在のユピテル皇国の首都イシュタールというのは彼の名から取られている。
ユピテル皇国が建国される前のムズンガルド大陸は、暗黒大陸そのものであった。大陸の覇者は人ではなく、悪魔と魔獣であった。強大な魔力を誇る悪魔族は魔獣をも従え、人々はその恐怖と圧政に怯えるだけの卑小な存在に過ぎなかった。
悪魔には明確な階級が存在していた。それぞれの階級とその爵位を有する悪魔の名は次の通りである。
悪魔皇帝アモン=ヴェルゼリアス。
悪魔王ルシファー=エゼキエル。
悪魔大公メフィスト=アムドゥシアス。
悪魔公爵アルヴィス=アムドゥシアス。
悪魔侯爵ドゥルガー、ベリアル、ティアマト、エキドナの四柱。
悪魔伯爵ヴァラク、エリゴス、サタナキア、フルーレティ、デモゴルゴン、ベリトの六柱。
悪魔子爵十三柱。
悪魔男爵二十一柱。
これら悪魔を駆逐し、人々に希望と繁栄をもたらした者こそが、勇者イシュタルであった。彼は三人の仲間とともに、悪魔たちを次々と降していき、ついには悪魔皇帝アモンを次元の彼方へ追放した。
その三人の英雄の名はヴォルフォート、マカデミリア、サンドバークであり、現在のユピテル皇国における三大公爵家の遠い祖先である。
イシュタル自身はユピテル皇国の初代皇帝として皇国の版図を広げ、人々に平和と繁栄をもたらしたと伝えられている。
ムズンガルド大陸最強の魔道士であり、『妖艶なる殺戮』の二つ名で恐れられているクロトーは、三百年以上も昔に植え付けられた激甚な恐怖に震えていた。圧倒的な魔力でクロトーの両親を殺害し、彼女自身を凌辱して蹂躙した相手こそ、今目の前に立つ悪魔大公メフィスト=アムドゥシアスであった。
「あ……あ……ああぁ……」
ガクガクと全身を震わせ、美しい黒瞳から涙さえ溢れさせているクロトーを、アトロポスは驚愕の表情で見つめた。
「クロトー姉さんッ! しっかりしてくださいッ!」
「クロトーの姉御ッ!」
「クロトーばあちゃん!?」
バッカスとレオンハルトも、初めて眼にするクロトーの様子に驚きを隠せなかった。
「に……逃げて……」
「クロトー姉さん?」
「逃げなさい……あ、あたしが……この男を止めている間に、逃げなさいッ!」
クロトーはアトロポスの体を後ろに押しのけて、震える手で天龍の魔道杖をメフィストに向けながら叫んだ。
「私を止めるだと? 大きな口を聞くようになったものだな、クロトー。たった三百年で私の恐ろしさを忘れたというのか? そうだと言うのであれば、思い出させてやろうか? お前の後ろにいる虫けらどもを殺してやることで……」
そう告げると、赤光を放つ紅眼でメフィストはアトロポスを見据えた。その瞳に秘められた想像を絶する力に、アトロポスは無意識にビクンッと震えた。
「あなたは、誰なの? クロトー姉さんがこれほど怯えるなんて……。姉さんに何をしたの?」
湧き上がる恐怖を強靱な意志で押さえ込み、アトロポスが黒曜石の瞳でメフィストを見据えた。
「私の名はメフィスト=アムドゥシアス。偉大なる悪魔皇帝アモン様から、悪魔大公の爵位を賜った者だ」
「悪魔大公メフィスト……!?」
ムズンガルド大陸に伝わる神話に登場する悪魔の名を聞いて、アトロポスが驚愕した。悪魔王ルシファーとともに、悪魔皇帝アモンの片腕として暗黒の歴史に名を連ねる原初の悪魔の一柱だった。
「今回の『風魔の谷』の異常事態は、あなたが引き起こしたのね。おそらく、前回の異常発生も……。何人もの冒険者の命を奪い、こんなに怯えるほどクロトー姉さんを酷い目に遭わせた。悪魔皇帝だか悪魔大公だか知らないけど、私はあなたを許せない!」
アトロポスの全身から漆黒の覇気が燃え上がった。壮絶な黒炎が沸き立ち、周囲の大気を震撼させた。
「ローズ、ダメッ!! メフィストの魔気はあんなものではないわ! 今のあなたでは、彼に勝てないッ! やめなさいッ!」
アトロポスが水龍の十倍以上と告げた覇気でさえ、メフィストが極力覇気を抑えた状態であることをクロトーは知っていた。彼が覇気を解放すれば、十五階層はおろか、『風魔の谷』それ自体が消滅してしまうとクロトーは考えていた。
だが、アトロポスはクロトーの言葉を無視すると、左足を大きく引いて居合の体勢に入った。天龍の革鎧の速度強化と筋力強化を最大の二百五十倍まで高め、<蒼龍神刀>に嵌められた宝玉に限界まで覇気を流し込んだ。
天龍の革鎧が漆黒の閃光を放ち、<蒼龍神刀>の刀身が闇色の覇気を纏った。
「ハァアアッ!」
裂帛の気合いとともに、アトロポスが漆黒の神刃を放った。五千倍まで増幅された超絶な覇気が、直径十メッツェを超える半円状の神刃となってメフィストに襲いかかった。四体の水龍さえも一閃の元に両断したアトロポスの神刃を、メフィストはニヤリと笑みを浮かべながら見据えた。
キンッ……!!
甲高い硬質音とともに、メフィストが張った闇の魔気に漆黒の神刃が弾かれた。角度を変えて飛翔した漆黒の神刃は、数百メッツェ先の岩肌に激突し、轟音とともにその地形を変えた。
「ほう……。我らと同じ闇属性か? 人間にしては珍しいものだ。だが、その程度では悪魔伯爵にも劣るぞ。もう少しまともな攻撃はないのか?」
「馬鹿な……! 四体の水龍さえ一閃した神刃だぞ!?」
メフィストの言葉に、レオンハルトが驚愕して叫んだ。アトロポスが放った漆黒の神刃は、槍士クラスSSであるレオンハルトの覇気の奔流さえも凌駕する威力なのだ。
「さすがに悪魔大公って言うだけあるわね。でも、これならどうかしら?」
アトロポスが両手で<蒼龍神刀>を上段に構えた。その全身から漆黒の火焔が噴出し、一気に二十メッツェ以上の高さに燃え上がった。その膨大な覇気が急速に<蒼龍神刀>に収斂していった。ブルー・ダイヤモンドの刀身が暗黒色に染まり、闇色の閃光を放ち始めた。
「ハァアアッ!」
裂帛の叫びとともに、アトロポスが一気に<蒼龍神刀>を振り抜いた。凄絶な闇の波動が凄まじい衝撃波となって大気を激震させた。直径十五メッツェを超える漆黒の奔流が、バチバチと黒い稲妻を放ちながら超絶な螺旋を描きながら一直線にメフィストに襲いかかった。
ズッドォオオーン……!!
大気を引き裂く轟音とともに、大地が激しく鳴動した。レオンハルトの覇気による水蒸気爆発さえも凌駕する破壊力が、メフィストのいた周囲の大地を大きく抉り取った。凄まじい勢いで降り注ぐ土砂と粉塵を、クロトーが障壁を張って防いだ。
「ば……馬鹿な……!?」
バッカスが驚愕のあまり濃茶色の瞳を大きく見開いた。その視線の先には、ダメージどころか傷一つないメフィストが薄笑いを浮かべながら平然と立っていた。
「今の攻撃が効かないなんて……!? クラスSSをも遥かに凌駕した覇気なのに……?」
大きく見開いた碧眼に恐怖さえ浮かべながら、レオンハルトが呆然と呟いた。
「あ……あ……あぁ……」
(三百年前と同じだわ……。みんな殺される……)
魂に刻まれた激甚なる恐怖に、クロトーは全身の震えが止まらなくなった。その美しい黒瞳からは涙が溢れて頬を濡らした。
当時、クロトーはエルフの里で暮らしていた。そこは、エルフの女王アストレアの偉大なる魔力で人界から隔離された次元の狭間にあった。
エルフの寿命は八百年から九百年と言われている。その年百七十歳になったクロトーは、人族で言えば十六、七歳に当たった。
エルフの里の人口は三百人ほどで、人族と違い衣食住すべてを自給自足していた。大地を耕して食物を育て、山に入っては果実や小動物を狩る生活を送っていた。人々の暮らしは質素であったが、貧富の差はほとんどなく、争いの少ない平和な日々を送っていた。
そのエルフの里に災禍が襲ったのは、女王アストレアが巡察に出ている時だった。ムズンガルド大陸には数箇所に同じような里が点在しているため、百年に一度アストレアはそれらの里を見て廻るのだった。巡察の期間は通常三、四年かかり、その間エルフの里は長老たちの合議で運営されていた。
クロトーの両親は五百歳代で、長老たちの中で最も若手であった。エルフの里において長老は、原則として五百歳以上で魔力が強い者の中から七人が選ばれた。女王アストレアを除けば、クロトーの両親は里で一、二を争うほどの魔力を有していた。
エルフの里は女王アストレアの偉大な魔力で、強固な結界に護られている。ある日、その結界が突然破られた。驚愕するエルフたちの前に、一人の男が姿を見せた。その男こそが、悪魔皇帝アモンの右腕である悪魔大公メフィストであった。
メフィストは三百歳以下の若いエルフの中から、魔力の強い者を差し出すように告げた。当然のことながら、エルフたちはその申し出を断った。メフィストは自分の命令に逆らったエルフを無造作に殺した。恐慌をきたしたエルフたちは、我先にと逃げ出した。エルフの里は未曾有の混乱に陥った。
騒ぎを聞きつけたクロトーの父アサエルと母ラフィールが、メフィストの前に立ちはだかった。怒りに燃えるアサエルとラフィールの光属性魔法による攻撃を、メフィストは笑いながらいなした。そして、クロトーの目の前で二人はメフィストに殺された。駆け寄ったクロトーに対する母ラフィールの最期の言葉は、「逃げて……」だった。
クロトーの内在する魔力量に気づいたメフィストは、彼女を攫っていった。それを止めようとした長老たちは全員がメフィストに殺された。メフィストがエルフの里を離れるまでのわずかな時間に、五十人以上のエルフが命を奪われ、二百人近いエルフが重傷を負った。クロトーは意識を奪われ、メフィストに拉致された。
メフィストが魔力の強いエルフを攫った理由は、悪魔皇帝アモンを復活させるためであった。千四百年前に勇者イシュタルによって次元の彼方に封印されたアモンを呼び戻すためには、イシュタルと同じ光属性魔法が必要だと考えたからであった。だが、両親の仇であるメフィストの命令を、クロトーはかたくなに拒み続けた。
長寿族であるエルフは、人族と違って性に対して淡泊だった。自らの寿命が長いエルフは、子孫を残す必要性をほとんど感じないからである。百七十歳であるクロトーも、今まで性交の経験は皆無であった。メフィストはそのクロトーを凌辱し、蹂躙し尽くした。それだけでなく、メフィストは部下たちに命じてクロトーにありとあらゆる辱めと拷問を与えた。徹底的な恐怖と諦念でクロトーを支配し、メフィストの命令に逆らえなくするためであった。
クロトーは何度も舌を噛み、自殺を図った。だが、その度にアルティメットヒールによって蘇生させられた。死ぬことさえ叶わないクロトーの地獄は、エルフの女王アストレアによって救出されるまで三年近くも続いた。その間にクロトーは、骨の髄までメフィストに対する恐怖を刻まれ続けた。
(またあんな目に遭うなんて……絶対に嫌よ……。助けて、アストレア様……)
全身をガクガクと震わせ、大粒の涙を流しながらクロトーはエルフの女王アストレアの名を心の中で叫んだ。
「クロトー姉さん、しっかりしてください! クロトー姉さんッ!」
(アストレア様、お願いします……助けてください、アストレア様……)
アトロポスに両肩を揺すられていることにも気づかず、クロトーは絶望の中で必死にアストレアに縋っていた。
パシッ……!
突然、右頬を引っ叩かれ、クロトーは呆然として目の前に立つアトロポスの顔を見つめた。
「クロトー姉さん、しっかりして! まだあいつに勝てる方法があります! 私に力を貸してくださいッ!」
「力を……?」
(そうだわ! この娘を私と同じ眼に遭わせるわけには、絶対にいけない! 同調すれば、あるいはメフィストを……!?)
「はいッ! クロトー姉さん、バッカス、レオンハルトさん! 全員同時にあいつを攻撃しましょう! 四人の持つすべての覇気をあいつにぶつけるんですッ!」
アストレアがクロトー、バッカス、レオンハルトの順に顔を見据えた。
「分かった、アストロポス!」
「ローズ、やってみよう!」
「待ちなさいッ! 同時に攻撃するんじゃないわッ! 全員、<蒼龍神刀>にすべての覇気を集束させなさい! 私たち三人の覇気を<蒼龍神刀>に同調させるのよ! ブルー・ダイヤモンドにはすべての属性に対する親和性があるわ! ローズの闇属性に、あたしたちの光属性と火属性を同調させて、攻撃するのよ!」
クロトーの言葉に、アトロポス、バッカス、レオンハルトの三人が同時に頷いた。
「ローズ、覇気を解放して<蒼龍神刀>に集束させなさい! 二人は私の合図で、すべての覇気を<蒼龍神刀>に注ぎ込みなさい!」
「はいッ! 行きますッ! ハァアアッ!」
アトロポスの全身から漆黒の火焔が燃え上がった。二十メッツェを超える巨大な黒炎が周囲を席巻した。
アトロポスが両手で握った<蒼龍神刀>を高々と頭上に掲げた。天龍の宝玉が黄色から漆黒に変わると、ブルー・ダイヤモンドの刀身が急速に黒炎を吸収して闇色の閃光を放った。
「みんな、覇気を解放してッ!」
クロトーの全身が直視できないほどの光輝に包まれた。右手で頭上に掲げた魔道杖の宝玉が、ムズンガルド大陸最強の魔道士の膨大な魔力を吸収し、凄まじいほどの閃光を放った。
「ウォオオ……!」
バッカスは雄叫びとともに火焔黒剣を上段に構えた。紅蓮の炎が全身から噴出し、アトロポスの黒炎に勝るとも劣らない大きさに燃え上がった。同時に、火焔黒剣の刀身が深紅色の覇気に包まれ、周囲の大気さえ焦がして燃え上がった。
「ハァアアッ!」
冒険者ギルド最強の槍士クラスSSが、神槍<ラグナロック>を右腰に構えながら一気に覇気を解放した。『焔星』の名に恥じない壮絶な火焔が、恒星の爆発の如く炎上した。バッカスの紅蓮の炎をさえ凌駕する巨大な覇気が、急激に神槍<ラグナロック>に収斂していった。神槍<ラグナロック>の穂先が深紅色の閃光を放ち、凄絶な破壊力を秘めた。
アトロポスを中心としてT字型に三人は展開していた。アトロポスの右側にバッカス、左側にレオンハルト、そして後方にクロトーがいた。それぞれが想像を絶するほどの覇気をそれぞれの武器に収斂させた。
「今よッ!!」
クロトーの合図で、三つの覇気の奔流がアトロポスの<蒼龍神刀>に向かって放たれた。
左右からは深江色の紅蓮の奔流が、後方からは直視できないほどの閃光を放つ光輝の奔流が……!
闇色の輝きを放つ<蒼龍神刀>の刀身を包み込んだッ!
凄絶な闇と光と炎を纏った<蒼龍神刀>を、アトロポスが更に強化した。<蒼龍神刀>の宝玉によりその覇気を二十倍に増幅し、天龍の革鎧の速度強化と腕力強化を二百五十倍まで昇華させた。
「ハァアアッ!」
裂帛の気合いとともに、アトロポスが一気に<蒼龍神刀>を振り抜いた。五千倍に増幅した覇気が三つの巨龍となって放たれた。
光輝に輝く光龍……。
紅蓮の火焔に燃える紅龍……。
そして、闇の化身である漆黒龍……。
三体の巨龍が螺旋を描きながら一体と化し、超絶な奔流となって悪魔大公メフィストめがけて襲いかかった。
大陸の中央部には、千七百年以上の歴史を持ち、広大な国土を誇るユピテル皇国があった。その大国の西側には、国土を隣接するイレナスーン帝国とレウルキア王国があり、東側には神聖デルディス公国とヴァネッサ連合があった。ユピテル皇国の北は国土の半分以上が凍土のアストリア共和国が存在し、南側は広大なレイズ海が広がっていた。
ムズンガルド大陸全体を見渡すと、イレナスーン帝国の西側にはウストルシア海洋連邦があり、その南側はナノラヴァ連合国が存在していた。
大陸の東側に目を向けると、神聖デルディス公国を北から東に覆う形で、スレイジュ国、マーラ連邦、ゾルヴァラタ神国、カナル公国があり、マーラ連邦の北側にはムーツェ共和連合があった。
これら十三の国々には共通する神話があった。ムズンガルド大陸に最初に文明を築いたと言われているユピテル皇国の建国神話である。
ユピテル皇国は一人の英雄によって創られた。その英雄の名はイシュタルと言い、現在のユピテル皇国の首都イシュタールというのは彼の名から取られている。
ユピテル皇国が建国される前のムズンガルド大陸は、暗黒大陸そのものであった。大陸の覇者は人ではなく、悪魔と魔獣であった。強大な魔力を誇る悪魔族は魔獣をも従え、人々はその恐怖と圧政に怯えるだけの卑小な存在に過ぎなかった。
悪魔には明確な階級が存在していた。それぞれの階級とその爵位を有する悪魔の名は次の通りである。
悪魔皇帝アモン=ヴェルゼリアス。
悪魔王ルシファー=エゼキエル。
悪魔大公メフィスト=アムドゥシアス。
悪魔公爵アルヴィス=アムドゥシアス。
悪魔侯爵ドゥルガー、ベリアル、ティアマト、エキドナの四柱。
悪魔伯爵ヴァラク、エリゴス、サタナキア、フルーレティ、デモゴルゴン、ベリトの六柱。
悪魔子爵十三柱。
悪魔男爵二十一柱。
これら悪魔を駆逐し、人々に希望と繁栄をもたらした者こそが、勇者イシュタルであった。彼は三人の仲間とともに、悪魔たちを次々と降していき、ついには悪魔皇帝アモンを次元の彼方へ追放した。
その三人の英雄の名はヴォルフォート、マカデミリア、サンドバークであり、現在のユピテル皇国における三大公爵家の遠い祖先である。
イシュタル自身はユピテル皇国の初代皇帝として皇国の版図を広げ、人々に平和と繁栄をもたらしたと伝えられている。
ムズンガルド大陸最強の魔道士であり、『妖艶なる殺戮』の二つ名で恐れられているクロトーは、三百年以上も昔に植え付けられた激甚な恐怖に震えていた。圧倒的な魔力でクロトーの両親を殺害し、彼女自身を凌辱して蹂躙した相手こそ、今目の前に立つ悪魔大公メフィスト=アムドゥシアスであった。
「あ……あ……ああぁ……」
ガクガクと全身を震わせ、美しい黒瞳から涙さえ溢れさせているクロトーを、アトロポスは驚愕の表情で見つめた。
「クロトー姉さんッ! しっかりしてくださいッ!」
「クロトーの姉御ッ!」
「クロトーばあちゃん!?」
バッカスとレオンハルトも、初めて眼にするクロトーの様子に驚きを隠せなかった。
「に……逃げて……」
「クロトー姉さん?」
「逃げなさい……あ、あたしが……この男を止めている間に、逃げなさいッ!」
クロトーはアトロポスの体を後ろに押しのけて、震える手で天龍の魔道杖をメフィストに向けながら叫んだ。
「私を止めるだと? 大きな口を聞くようになったものだな、クロトー。たった三百年で私の恐ろしさを忘れたというのか? そうだと言うのであれば、思い出させてやろうか? お前の後ろにいる虫けらどもを殺してやることで……」
そう告げると、赤光を放つ紅眼でメフィストはアトロポスを見据えた。その瞳に秘められた想像を絶する力に、アトロポスは無意識にビクンッと震えた。
「あなたは、誰なの? クロトー姉さんがこれほど怯えるなんて……。姉さんに何をしたの?」
湧き上がる恐怖を強靱な意志で押さえ込み、アトロポスが黒曜石の瞳でメフィストを見据えた。
「私の名はメフィスト=アムドゥシアス。偉大なる悪魔皇帝アモン様から、悪魔大公の爵位を賜った者だ」
「悪魔大公メフィスト……!?」
ムズンガルド大陸に伝わる神話に登場する悪魔の名を聞いて、アトロポスが驚愕した。悪魔王ルシファーとともに、悪魔皇帝アモンの片腕として暗黒の歴史に名を連ねる原初の悪魔の一柱だった。
「今回の『風魔の谷』の異常事態は、あなたが引き起こしたのね。おそらく、前回の異常発生も……。何人もの冒険者の命を奪い、こんなに怯えるほどクロトー姉さんを酷い目に遭わせた。悪魔皇帝だか悪魔大公だか知らないけど、私はあなたを許せない!」
アトロポスの全身から漆黒の覇気が燃え上がった。壮絶な黒炎が沸き立ち、周囲の大気を震撼させた。
「ローズ、ダメッ!! メフィストの魔気はあんなものではないわ! 今のあなたでは、彼に勝てないッ! やめなさいッ!」
アトロポスが水龍の十倍以上と告げた覇気でさえ、メフィストが極力覇気を抑えた状態であることをクロトーは知っていた。彼が覇気を解放すれば、十五階層はおろか、『風魔の谷』それ自体が消滅してしまうとクロトーは考えていた。
だが、アトロポスはクロトーの言葉を無視すると、左足を大きく引いて居合の体勢に入った。天龍の革鎧の速度強化と筋力強化を最大の二百五十倍まで高め、<蒼龍神刀>に嵌められた宝玉に限界まで覇気を流し込んだ。
天龍の革鎧が漆黒の閃光を放ち、<蒼龍神刀>の刀身が闇色の覇気を纏った。
「ハァアアッ!」
裂帛の気合いとともに、アトロポスが漆黒の神刃を放った。五千倍まで増幅された超絶な覇気が、直径十メッツェを超える半円状の神刃となってメフィストに襲いかかった。四体の水龍さえも一閃の元に両断したアトロポスの神刃を、メフィストはニヤリと笑みを浮かべながら見据えた。
キンッ……!!
甲高い硬質音とともに、メフィストが張った闇の魔気に漆黒の神刃が弾かれた。角度を変えて飛翔した漆黒の神刃は、数百メッツェ先の岩肌に激突し、轟音とともにその地形を変えた。
「ほう……。我らと同じ闇属性か? 人間にしては珍しいものだ。だが、その程度では悪魔伯爵にも劣るぞ。もう少しまともな攻撃はないのか?」
「馬鹿な……! 四体の水龍さえ一閃した神刃だぞ!?」
メフィストの言葉に、レオンハルトが驚愕して叫んだ。アトロポスが放った漆黒の神刃は、槍士クラスSSであるレオンハルトの覇気の奔流さえも凌駕する威力なのだ。
「さすがに悪魔大公って言うだけあるわね。でも、これならどうかしら?」
アトロポスが両手で<蒼龍神刀>を上段に構えた。その全身から漆黒の火焔が噴出し、一気に二十メッツェ以上の高さに燃え上がった。その膨大な覇気が急速に<蒼龍神刀>に収斂していった。ブルー・ダイヤモンドの刀身が暗黒色に染まり、闇色の閃光を放ち始めた。
「ハァアアッ!」
裂帛の叫びとともに、アトロポスが一気に<蒼龍神刀>を振り抜いた。凄絶な闇の波動が凄まじい衝撃波となって大気を激震させた。直径十五メッツェを超える漆黒の奔流が、バチバチと黒い稲妻を放ちながら超絶な螺旋を描きながら一直線にメフィストに襲いかかった。
ズッドォオオーン……!!
大気を引き裂く轟音とともに、大地が激しく鳴動した。レオンハルトの覇気による水蒸気爆発さえも凌駕する破壊力が、メフィストのいた周囲の大地を大きく抉り取った。凄まじい勢いで降り注ぐ土砂と粉塵を、クロトーが障壁を張って防いだ。
「ば……馬鹿な……!?」
バッカスが驚愕のあまり濃茶色の瞳を大きく見開いた。その視線の先には、ダメージどころか傷一つないメフィストが薄笑いを浮かべながら平然と立っていた。
「今の攻撃が効かないなんて……!? クラスSSをも遥かに凌駕した覇気なのに……?」
大きく見開いた碧眼に恐怖さえ浮かべながら、レオンハルトが呆然と呟いた。
「あ……あ……あぁ……」
(三百年前と同じだわ……。みんな殺される……)
魂に刻まれた激甚なる恐怖に、クロトーは全身の震えが止まらなくなった。その美しい黒瞳からは涙が溢れて頬を濡らした。
当時、クロトーはエルフの里で暮らしていた。そこは、エルフの女王アストレアの偉大なる魔力で人界から隔離された次元の狭間にあった。
エルフの寿命は八百年から九百年と言われている。その年百七十歳になったクロトーは、人族で言えば十六、七歳に当たった。
エルフの里の人口は三百人ほどで、人族と違い衣食住すべてを自給自足していた。大地を耕して食物を育て、山に入っては果実や小動物を狩る生活を送っていた。人々の暮らしは質素であったが、貧富の差はほとんどなく、争いの少ない平和な日々を送っていた。
そのエルフの里に災禍が襲ったのは、女王アストレアが巡察に出ている時だった。ムズンガルド大陸には数箇所に同じような里が点在しているため、百年に一度アストレアはそれらの里を見て廻るのだった。巡察の期間は通常三、四年かかり、その間エルフの里は長老たちの合議で運営されていた。
クロトーの両親は五百歳代で、長老たちの中で最も若手であった。エルフの里において長老は、原則として五百歳以上で魔力が強い者の中から七人が選ばれた。女王アストレアを除けば、クロトーの両親は里で一、二を争うほどの魔力を有していた。
エルフの里は女王アストレアの偉大な魔力で、強固な結界に護られている。ある日、その結界が突然破られた。驚愕するエルフたちの前に、一人の男が姿を見せた。その男こそが、悪魔皇帝アモンの右腕である悪魔大公メフィストであった。
メフィストは三百歳以下の若いエルフの中から、魔力の強い者を差し出すように告げた。当然のことながら、エルフたちはその申し出を断った。メフィストは自分の命令に逆らったエルフを無造作に殺した。恐慌をきたしたエルフたちは、我先にと逃げ出した。エルフの里は未曾有の混乱に陥った。
騒ぎを聞きつけたクロトーの父アサエルと母ラフィールが、メフィストの前に立ちはだかった。怒りに燃えるアサエルとラフィールの光属性魔法による攻撃を、メフィストは笑いながらいなした。そして、クロトーの目の前で二人はメフィストに殺された。駆け寄ったクロトーに対する母ラフィールの最期の言葉は、「逃げて……」だった。
クロトーの内在する魔力量に気づいたメフィストは、彼女を攫っていった。それを止めようとした長老たちは全員がメフィストに殺された。メフィストがエルフの里を離れるまでのわずかな時間に、五十人以上のエルフが命を奪われ、二百人近いエルフが重傷を負った。クロトーは意識を奪われ、メフィストに拉致された。
メフィストが魔力の強いエルフを攫った理由は、悪魔皇帝アモンを復活させるためであった。千四百年前に勇者イシュタルによって次元の彼方に封印されたアモンを呼び戻すためには、イシュタルと同じ光属性魔法が必要だと考えたからであった。だが、両親の仇であるメフィストの命令を、クロトーはかたくなに拒み続けた。
長寿族であるエルフは、人族と違って性に対して淡泊だった。自らの寿命が長いエルフは、子孫を残す必要性をほとんど感じないからである。百七十歳であるクロトーも、今まで性交の経験は皆無であった。メフィストはそのクロトーを凌辱し、蹂躙し尽くした。それだけでなく、メフィストは部下たちに命じてクロトーにありとあらゆる辱めと拷問を与えた。徹底的な恐怖と諦念でクロトーを支配し、メフィストの命令に逆らえなくするためであった。
クロトーは何度も舌を噛み、自殺を図った。だが、その度にアルティメットヒールによって蘇生させられた。死ぬことさえ叶わないクロトーの地獄は、エルフの女王アストレアによって救出されるまで三年近くも続いた。その間にクロトーは、骨の髄までメフィストに対する恐怖を刻まれ続けた。
(またあんな目に遭うなんて……絶対に嫌よ……。助けて、アストレア様……)
全身をガクガクと震わせ、大粒の涙を流しながらクロトーはエルフの女王アストレアの名を心の中で叫んだ。
「クロトー姉さん、しっかりしてください! クロトー姉さんッ!」
(アストレア様、お願いします……助けてください、アストレア様……)
アトロポスに両肩を揺すられていることにも気づかず、クロトーは絶望の中で必死にアストレアに縋っていた。
パシッ……!
突然、右頬を引っ叩かれ、クロトーは呆然として目の前に立つアトロポスの顔を見つめた。
「クロトー姉さん、しっかりして! まだあいつに勝てる方法があります! 私に力を貸してくださいッ!」
「力を……?」
(そうだわ! この娘を私と同じ眼に遭わせるわけには、絶対にいけない! 同調すれば、あるいはメフィストを……!?)
「はいッ! クロトー姉さん、バッカス、レオンハルトさん! 全員同時にあいつを攻撃しましょう! 四人の持つすべての覇気をあいつにぶつけるんですッ!」
アストレアがクロトー、バッカス、レオンハルトの順に顔を見据えた。
「分かった、アストロポス!」
「ローズ、やってみよう!」
「待ちなさいッ! 同時に攻撃するんじゃないわッ! 全員、<蒼龍神刀>にすべての覇気を集束させなさい! 私たち三人の覇気を<蒼龍神刀>に同調させるのよ! ブルー・ダイヤモンドにはすべての属性に対する親和性があるわ! ローズの闇属性に、あたしたちの光属性と火属性を同調させて、攻撃するのよ!」
クロトーの言葉に、アトロポス、バッカス、レオンハルトの三人が同時に頷いた。
「ローズ、覇気を解放して<蒼龍神刀>に集束させなさい! 二人は私の合図で、すべての覇気を<蒼龍神刀>に注ぎ込みなさい!」
「はいッ! 行きますッ! ハァアアッ!」
アトロポスの全身から漆黒の火焔が燃え上がった。二十メッツェを超える巨大な黒炎が周囲を席巻した。
アトロポスが両手で握った<蒼龍神刀>を高々と頭上に掲げた。天龍の宝玉が黄色から漆黒に変わると、ブルー・ダイヤモンドの刀身が急速に黒炎を吸収して闇色の閃光を放った。
「みんな、覇気を解放してッ!」
クロトーの全身が直視できないほどの光輝に包まれた。右手で頭上に掲げた魔道杖の宝玉が、ムズンガルド大陸最強の魔道士の膨大な魔力を吸収し、凄まじいほどの閃光を放った。
「ウォオオ……!」
バッカスは雄叫びとともに火焔黒剣を上段に構えた。紅蓮の炎が全身から噴出し、アトロポスの黒炎に勝るとも劣らない大きさに燃え上がった。同時に、火焔黒剣の刀身が深紅色の覇気に包まれ、周囲の大気さえ焦がして燃え上がった。
「ハァアアッ!」
冒険者ギルド最強の槍士クラスSSが、神槍<ラグナロック>を右腰に構えながら一気に覇気を解放した。『焔星』の名に恥じない壮絶な火焔が、恒星の爆発の如く炎上した。バッカスの紅蓮の炎をさえ凌駕する巨大な覇気が、急激に神槍<ラグナロック>に収斂していった。神槍<ラグナロック>の穂先が深紅色の閃光を放ち、凄絶な破壊力を秘めた。
アトロポスを中心としてT字型に三人は展開していた。アトロポスの右側にバッカス、左側にレオンハルト、そして後方にクロトーがいた。それぞれが想像を絶するほどの覇気をそれぞれの武器に収斂させた。
「今よッ!!」
クロトーの合図で、三つの覇気の奔流がアトロポスの<蒼龍神刀>に向かって放たれた。
左右からは深江色の紅蓮の奔流が、後方からは直視できないほどの閃光を放つ光輝の奔流が……!
闇色の輝きを放つ<蒼龍神刀>の刀身を包み込んだッ!
凄絶な闇と光と炎を纏った<蒼龍神刀>を、アトロポスが更に強化した。<蒼龍神刀>の宝玉によりその覇気を二十倍に増幅し、天龍の革鎧の速度強化と腕力強化を二百五十倍まで昇華させた。
「ハァアアッ!」
裂帛の気合いとともに、アトロポスが一気に<蒼龍神刀>を振り抜いた。五千倍に増幅した覇気が三つの巨龍となって放たれた。
光輝に輝く光龍……。
紅蓮の火焔に燃える紅龍……。
そして、闇の化身である漆黒龍……。
三体の巨龍が螺旋を描きながら一体と化し、超絶な奔流となって悪魔大公メフィストめがけて襲いかかった。
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