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第1章 運命の女神
1 運命の女神
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『雲雀亭』の三階にある特別室は、居間、客間、寝室の三室からなっていた。
入口を入ると横L字型の廊下が続き、正面には二十平方メッツェほどの客間があった。客間の中央には本革製の黒いソファと御影石のテーブルが置かれ、猫足をした高級家具の上にある花瓶には豪華な赤い薔薇が生けられていた。反対側の壁には新緑の山々を描いた大きな絵が飾られており、見る者の心を和ませた。
廊下を右に折れると、左手が居間になっていた。広さは客間の倍近くもあり、刺繍をふんだんにあしらった布製の大きなソファが中央に置かれていた。ソファの前には磨りガラスのローテーブルがあり、部屋の左壁に設置されているリビングボードには高級そうな食器やグラスが多数入れられていた。その隣は酒類貯蔵庫があり、見たこともない種類の果実酒や火酒が並べられていた。
廊下を挟んで居間の反対側は寝室になっていた。その中央には大人が優に三人は並んで寝られるほどの巨大な天蓋付きの寝台が置かれ、クローゼットにはガウンやローブが掛けてあり、棚にはリネン類が積まれていた。
アトロポスは寝台が一つしかないことを知ると、慌てて寝室から出るようにシルヴァレートを促した。
「お、お腹が空いたわ。早く食堂に行かない?」
「ああ、そうだな。荷物は居間に置いておこう」
アトロポスの様子を笑いながら見つめると、シルヴァレートは居間のソファの上に荷物の入った革鞄を無造作に置いた。アトロポスもそれに倣って、自分の革鞄をシルヴァレートの鞄の隣りに置いた。
「朱雀宮ほどじゃないが、中級宿とは思えない豪華さだな。さすがに一泊白金貨一枚もするだけある」
「そんなにするの? 一般的な中級宿は食事付きで金貨一枚が相場よ」
シルヴァレートの言葉に、アトロポスは驚いた声を上げた。白金貨一枚は、金貨十枚と同価値だった。
「まあ、高級宿の特別室なら、一泊で白金貨十枚はするからな。相場と言えば相場なんだろう」
「王族の金銭感覚は、やっぱり庶民とは違うのね」
小さくため息をつくと、アトロポスはシルヴァレートを急かすように特別室の入口に向かって歩き始めた。彼の気が変わって変なことをしないうちに、この部屋から出たかったのだ。
「そんなに急がなくても、食堂は逃げないぞ。それとも、早く食事を終えて、ゆっくりと楽しみたいのか?」
「ば、馬鹿なこと言わないで! い、行くわよ」
笑いながら告げたシルヴァレートの言葉の意味を知ると、アトロポスは顔を赤く染めながら叫んだ。その様子を楽しそうに見つめながら、シルヴァレートはアトロポスに続いて特別室を後にした。
夜の四つ鐘を一ザンほど過ぎた食堂は、三十席ほどある席の半分近くが埋まっていた。アトロポスたちは、奥の窓側の席に案内された。羊皮紙に書かれたメニューを見ると、今日のお勧めは舌平目のムニエルと子牛のフィレステーキ、季節の緑黄サラダのセットだった。
「私はこのお勧めセットにするわ。飲み物は……何か甘めのお酒がいいな」
「それなら、紅桜酒なんてどうだ? ちょっと酒分は多めだが、甘くて口当たりがいいから飲みやすいぞ」
「じゃあ、それにするわ」
「このお勧めセットを二つ。飲み物は紅桜酒とエールで……」
手を上げて女性の店員を呼ぶと、シルヴァレートが注文をした。
(王族のくせに、こういう庶民のお店にも慣れているわね。何でかな?)
シルヴァレートの洗練された所作を見つめながら、アトロポスは彼のことを何も知らないことに気づいた。
(知っているのはアンドロゴラスの嫡子で、女慣れしていることくらいか……)
若干二十歳でしかないにもかかわらず、処女の自分をあれほど狂わせたのだ。今までにどれほどの数の女を抱いてきたのか問い質したいと思った。そして、そんなことを考えていた自分に気づき、アトロポスは赤くなってシルヴァレートから視線を外した。
「どうした、アトロポス? 顔が赤いぞ?」
「いえ、何でもないわ……。それよりも、そろそろ教えて。姫様は……アルティシア様はどこにいるの?」
アルティシアの御首が偽物だと気づいた時、シルヴァレートは言ったのだ。「今はゆっくりと話している時間はない」と……。
「アトロポス、その話は部屋に戻ってからだ。ここでは人目もあるし、誰かに聞かれる怖れもある」
シルヴァレートは真剣な表情を浮かべると、声を抑えながらアトロポスに告げた。
「そうね。ごめんなさい」
「気にするな。早く知りたいというお前の気持ちはよく分かる。食事を終えて部屋に戻ったら、俺の知る限りのことをお前に話そう」
「はい。お願い、シルヴァレート」
(知る限りのこと? 知らないこともあるっていう意味なの?)
シルヴァレートの言い回しに疑問を抱きながらも、アトロポスは故意に話題を変えた。
「そう言えば、シルヴァレートって長くて呼びづらいし、他の人に聞かれたら不味いわよね。シルヴァって呼んでいい?」
「シルヴァか。初めて呼ばれるな。好きに呼んで構わんぞ。それを言うなら、アトロポスって名前も呼びづらいな。アトロじゃ男みたいだし……」
今までに愛称で呼ばれたことなどないのだろう。シルヴァレートは嬉しそうに笑顔を見せた。
「小さい頃は、ローズって呼ばれていたわ」
「薔薇? 何でだ?」
「本名なのよ。フルネームは、アトロポス=ローズよ」
「へえ。いい名前だな。『運命の薔薇』か?」
シルヴァレートが何故か満足げに頷いた。
「『運命の薔薇』? どういう意味?」
「知らないのか? アトロポスっていうのは、運命の三女神の一人だぞ」
「運命の三女神? あの運命の糸を紡ぎ、割り当て、断ち切るっていう……?」
アトロポスは、アルティシアの言っていた運命の三女神を思い出した。
「良く知っているな。その三女神の御名が、アトロポス、ラキシス、クロトーだ。アトロポスが糸を紡ぎ、ラキシスがそれに運命を割り当て、クロトーが運命を断ち切ると言われている」
「アトロポスが運命を紡ぐ……」
アトロポスの脳裏に、アルティシアの言葉が蘇った。
『私は運命の糸を紡いでみたい。この国の民が幸せになれるような糸を紡いでいきたい。それが王家に生まれた者の務めだと思うの』
(運命の三女神を知っていた姫様が、その女神たちの御名を知らないはずない。もしかしたら、あの言葉は私にも一緒に糸を紡げと言う意味だったのかしら?)
アトロポスはアルティシアの言葉に秘められた意味に気づくと、大きな衝撃を受けた。
(姫様が私を必要としてくれていた? もしそうなら、私は姫様のお力になりたい! 今度こそ、必ず姫様をお救いしなくては……)
「どうした、ローズ? 急に黙り込んで……?」
心配と不信がない混ぜになった視線で、シルヴァレートが訊ねてきた。初めてローズと呼ばれたことに気づくと、アトロポスはハッと我に返って言った。
「何でもないわ。食事が来たわね。冷めないうちに食べましょう」
「そうだな」
アトロポスが考え事をしていた間に、目の前のテーブルには注文した料理と酒が並べられていた。
「母なる女神シルヴィアーナよ。あなたの恩恵に感謝いたします」
アトロポスとシルヴァレートは胸の前で腕を組むと、豊穣の女神への感謝を述べた。
「二人の新たな門出を祝して……」
シルヴァレートがエールの入ったグラスを掲げた。琥珀色の液体が壁の灯りを反射して美しく煌めいた。
「シルヴァとローズの名前に……」
二人は「乾杯」と唱和するとお互いの杯をカチンと触れ合わせた。
夜のお勧めセットは、想像以上に絶品だった。舌平目のムニエルはさっぱりとした魚肉に塩味の効いた濃厚なタレが良く絡み合っていた。子牛のフィレステーキは舌が蕩けるほど柔らかく、噛みしめると豊潤な肉汁が滲み出てきた。
そして、初めて飲んだ紅桜酒は、酸味の利いたほろ苦さと果実の甘さが絶妙のバランスで溶け合っていた。見た目も美しい桜色で、アトロポスは一口飲んで気に入った。
「料理もいいけど、このお酒とっても美味しい……。甘くて飲みやすいのに、口の中に程よい苦さが残って、いくらでも飲めそう」
「口当たりがいいからって、飲み過ぎるなよ。それは別名『女殺し』とも呼ばれているからな」
楽しそうな表情でシルヴァレートが笑った。
「『女殺し』? 女を酔わせて変なことをするっていうやつ? シルヴァ、あの契約は姫様のお命を救うまでだから、もう契約満了よ。せっかく部屋が三つもあるんだから、私は居間か客間のソファで寝るからね」
紅桜酒の酒分が思いの外に強かったのか、アトロポスは一杯目を飲み終えるといい気分になってきた。
「美味しいから、おかわり!」
「おい、ペースが速いぞ。その酒は強いんだから、ゆっくり飲め」
想像以上にアトロポスの酔いが早いことに、シルヴァレートは呆れながら言った。だが、アトロポスは手を上げて店員を呼ぶと、紅桜酒のお替わりを注文していた。
(おい、おい……。大丈夫か、こいつ? まさか、酔い潰れて俺に抱かれないようにするつもりじゃないだろうな?)
その考えがアトロポスの計画と正反対の結果であることなど、シルヴァレートは想像もしなかった。
入口を入ると横L字型の廊下が続き、正面には二十平方メッツェほどの客間があった。客間の中央には本革製の黒いソファと御影石のテーブルが置かれ、猫足をした高級家具の上にある花瓶には豪華な赤い薔薇が生けられていた。反対側の壁には新緑の山々を描いた大きな絵が飾られており、見る者の心を和ませた。
廊下を右に折れると、左手が居間になっていた。広さは客間の倍近くもあり、刺繍をふんだんにあしらった布製の大きなソファが中央に置かれていた。ソファの前には磨りガラスのローテーブルがあり、部屋の左壁に設置されているリビングボードには高級そうな食器やグラスが多数入れられていた。その隣は酒類貯蔵庫があり、見たこともない種類の果実酒や火酒が並べられていた。
廊下を挟んで居間の反対側は寝室になっていた。その中央には大人が優に三人は並んで寝られるほどの巨大な天蓋付きの寝台が置かれ、クローゼットにはガウンやローブが掛けてあり、棚にはリネン類が積まれていた。
アトロポスは寝台が一つしかないことを知ると、慌てて寝室から出るようにシルヴァレートを促した。
「お、お腹が空いたわ。早く食堂に行かない?」
「ああ、そうだな。荷物は居間に置いておこう」
アトロポスの様子を笑いながら見つめると、シルヴァレートは居間のソファの上に荷物の入った革鞄を無造作に置いた。アトロポスもそれに倣って、自分の革鞄をシルヴァレートの鞄の隣りに置いた。
「朱雀宮ほどじゃないが、中級宿とは思えない豪華さだな。さすがに一泊白金貨一枚もするだけある」
「そんなにするの? 一般的な中級宿は食事付きで金貨一枚が相場よ」
シルヴァレートの言葉に、アトロポスは驚いた声を上げた。白金貨一枚は、金貨十枚と同価値だった。
「まあ、高級宿の特別室なら、一泊で白金貨十枚はするからな。相場と言えば相場なんだろう」
「王族の金銭感覚は、やっぱり庶民とは違うのね」
小さくため息をつくと、アトロポスはシルヴァレートを急かすように特別室の入口に向かって歩き始めた。彼の気が変わって変なことをしないうちに、この部屋から出たかったのだ。
「そんなに急がなくても、食堂は逃げないぞ。それとも、早く食事を終えて、ゆっくりと楽しみたいのか?」
「ば、馬鹿なこと言わないで! い、行くわよ」
笑いながら告げたシルヴァレートの言葉の意味を知ると、アトロポスは顔を赤く染めながら叫んだ。その様子を楽しそうに見つめながら、シルヴァレートはアトロポスに続いて特別室を後にした。
夜の四つ鐘を一ザンほど過ぎた食堂は、三十席ほどある席の半分近くが埋まっていた。アトロポスたちは、奥の窓側の席に案内された。羊皮紙に書かれたメニューを見ると、今日のお勧めは舌平目のムニエルと子牛のフィレステーキ、季節の緑黄サラダのセットだった。
「私はこのお勧めセットにするわ。飲み物は……何か甘めのお酒がいいな」
「それなら、紅桜酒なんてどうだ? ちょっと酒分は多めだが、甘くて口当たりがいいから飲みやすいぞ」
「じゃあ、それにするわ」
「このお勧めセットを二つ。飲み物は紅桜酒とエールで……」
手を上げて女性の店員を呼ぶと、シルヴァレートが注文をした。
(王族のくせに、こういう庶民のお店にも慣れているわね。何でかな?)
シルヴァレートの洗練された所作を見つめながら、アトロポスは彼のことを何も知らないことに気づいた。
(知っているのはアンドロゴラスの嫡子で、女慣れしていることくらいか……)
若干二十歳でしかないにもかかわらず、処女の自分をあれほど狂わせたのだ。今までにどれほどの数の女を抱いてきたのか問い質したいと思った。そして、そんなことを考えていた自分に気づき、アトロポスは赤くなってシルヴァレートから視線を外した。
「どうした、アトロポス? 顔が赤いぞ?」
「いえ、何でもないわ……。それよりも、そろそろ教えて。姫様は……アルティシア様はどこにいるの?」
アルティシアの御首が偽物だと気づいた時、シルヴァレートは言ったのだ。「今はゆっくりと話している時間はない」と……。
「アトロポス、その話は部屋に戻ってからだ。ここでは人目もあるし、誰かに聞かれる怖れもある」
シルヴァレートは真剣な表情を浮かべると、声を抑えながらアトロポスに告げた。
「そうね。ごめんなさい」
「気にするな。早く知りたいというお前の気持ちはよく分かる。食事を終えて部屋に戻ったら、俺の知る限りのことをお前に話そう」
「はい。お願い、シルヴァレート」
(知る限りのこと? 知らないこともあるっていう意味なの?)
シルヴァレートの言い回しに疑問を抱きながらも、アトロポスは故意に話題を変えた。
「そう言えば、シルヴァレートって長くて呼びづらいし、他の人に聞かれたら不味いわよね。シルヴァって呼んでいい?」
「シルヴァか。初めて呼ばれるな。好きに呼んで構わんぞ。それを言うなら、アトロポスって名前も呼びづらいな。アトロじゃ男みたいだし……」
今までに愛称で呼ばれたことなどないのだろう。シルヴァレートは嬉しそうに笑顔を見せた。
「小さい頃は、ローズって呼ばれていたわ」
「薔薇? 何でだ?」
「本名なのよ。フルネームは、アトロポス=ローズよ」
「へえ。いい名前だな。『運命の薔薇』か?」
シルヴァレートが何故か満足げに頷いた。
「『運命の薔薇』? どういう意味?」
「知らないのか? アトロポスっていうのは、運命の三女神の一人だぞ」
「運命の三女神? あの運命の糸を紡ぎ、割り当て、断ち切るっていう……?」
アトロポスは、アルティシアの言っていた運命の三女神を思い出した。
「良く知っているな。その三女神の御名が、アトロポス、ラキシス、クロトーだ。アトロポスが糸を紡ぎ、ラキシスがそれに運命を割り当て、クロトーが運命を断ち切ると言われている」
「アトロポスが運命を紡ぐ……」
アトロポスの脳裏に、アルティシアの言葉が蘇った。
『私は運命の糸を紡いでみたい。この国の民が幸せになれるような糸を紡いでいきたい。それが王家に生まれた者の務めだと思うの』
(運命の三女神を知っていた姫様が、その女神たちの御名を知らないはずない。もしかしたら、あの言葉は私にも一緒に糸を紡げと言う意味だったのかしら?)
アトロポスはアルティシアの言葉に秘められた意味に気づくと、大きな衝撃を受けた。
(姫様が私を必要としてくれていた? もしそうなら、私は姫様のお力になりたい! 今度こそ、必ず姫様をお救いしなくては……)
「どうした、ローズ? 急に黙り込んで……?」
心配と不信がない混ぜになった視線で、シルヴァレートが訊ねてきた。初めてローズと呼ばれたことに気づくと、アトロポスはハッと我に返って言った。
「何でもないわ。食事が来たわね。冷めないうちに食べましょう」
「そうだな」
アトロポスが考え事をしていた間に、目の前のテーブルには注文した料理と酒が並べられていた。
「母なる女神シルヴィアーナよ。あなたの恩恵に感謝いたします」
アトロポスとシルヴァレートは胸の前で腕を組むと、豊穣の女神への感謝を述べた。
「二人の新たな門出を祝して……」
シルヴァレートがエールの入ったグラスを掲げた。琥珀色の液体が壁の灯りを反射して美しく煌めいた。
「シルヴァとローズの名前に……」
二人は「乾杯」と唱和するとお互いの杯をカチンと触れ合わせた。
夜のお勧めセットは、想像以上に絶品だった。舌平目のムニエルはさっぱりとした魚肉に塩味の効いた濃厚なタレが良く絡み合っていた。子牛のフィレステーキは舌が蕩けるほど柔らかく、噛みしめると豊潤な肉汁が滲み出てきた。
そして、初めて飲んだ紅桜酒は、酸味の利いたほろ苦さと果実の甘さが絶妙のバランスで溶け合っていた。見た目も美しい桜色で、アトロポスは一口飲んで気に入った。
「料理もいいけど、このお酒とっても美味しい……。甘くて飲みやすいのに、口の中に程よい苦さが残って、いくらでも飲めそう」
「口当たりがいいからって、飲み過ぎるなよ。それは別名『女殺し』とも呼ばれているからな」
楽しそうな表情でシルヴァレートが笑った。
「『女殺し』? 女を酔わせて変なことをするっていうやつ? シルヴァ、あの契約は姫様のお命を救うまでだから、もう契約満了よ。せっかく部屋が三つもあるんだから、私は居間か客間のソファで寝るからね」
紅桜酒の酒分が思いの外に強かったのか、アトロポスは一杯目を飲み終えるといい気分になってきた。
「美味しいから、おかわり!」
「おい、ペースが速いぞ。その酒は強いんだから、ゆっくり飲め」
想像以上にアトロポスの酔いが早いことに、シルヴァレートは呆れながら言った。だが、アトロポスは手を上げて店員を呼ぶと、紅桜酒のお替わりを注文していた。
(おい、おい……。大丈夫か、こいつ? まさか、酔い潰れて俺に抱かれないようにするつもりじゃないだろうな?)
その考えがアトロポスの計画と正反対の結果であることなど、シルヴァレートは想像もしなかった。
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