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エピローグ
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灼熱の砂漠が紅く燃えていた。
夕陽が地平線にその姿を消しかかっている。その光を受けて、二つの長い影が寄り添うように重なる。
「ここが、古代銀河皇帝エッフェン=ドウ=ヴァスタードの眠る場所なのか?」
「そうよ。そして、全てはここから始まったのよ」
砂漠を渡る風が、私の淡青色の髪を靡かせた。右手で髪を押さえる。ショート・ヘアだった二年前と違い、長い髪が舞い上がるように揺れていた。
二年前と違っていることが、もう一つあった。
私の隣には、最愛のパートナーが立っていることだ。彼の力強い腕が私の肩を抱いている。親友のジェシカには悪いことをしたが、ジェイは私をパートナーとして選んでくれたのである。
その影に、オクタヴィア大佐の「ジェシカは独り立ちできるわ。でも、テアの面倒はあなたが責任を持ちなさい。彼女をスカウトしたのは、あなたなんだから」というありがたいお言葉があったらしいが……。
「汝が秘めたる力を発現す。その力、星を動かし、銀河を跳ぶ。汝が力を解放すべくは、全てこれ大神ヴァルディーンの意志なり。ヴァルディーンに選ばれたる者のみが、大いなる力をその手に握らん。秘めたる力、小さき者がヴァルディーンの意志を試す時、大いなる災いが汝を滅ぼさん。大いなる力を欲する者、この碑に触れたし。ヴァルディーンが汝を認めんば、星への道が開かれん」
私は、プライマイオス人の碑に書かれていた言葉を暗唱した。ESP発現装置の爆発で、あの碑は砂漠の下に再び埋もれてしまっていたが……。
「ヴァスタード陛下……。私はあなたに約束したわ。銀河系最大の麻薬ギルド<テュポーン>を倒すって……」
ジャケットの内ポケットから、私はナイフを取り出した。あの時、ジェイからもらったレーザー・ナイフだ。それは、古代銀河皇帝と初めて会った時、唯一私が持っていたものだった。
それを墓石や献花の代わりに、熱砂の上に置く。
「あなたが目覚めさせてくれた能力で、いつか必ず<テュポーン>を倒してみせるわ。そして、その報告をするために、もう一度会いに来るわね……」
砂漠の地下深く眠る古代銀河皇帝が、私の言葉に微笑んだように思えた。砂漠を渡る風が、優しく私の髪を靡かせた。
「テア」
不意に、ジェイが真剣な表情で、私を見つめた。
「何……?」
「後悔していないのか? ESPに目覚めたことを……」
強大すぎるESPは、自らを不幸にする。二年前、ジェイは私にそう告げたのだ。
今の私は、銀河中の犯罪者たちから、<銀河系最強の魔女>と呼ばれ、恐れられている。この二年間で、任務の上とは言え、数百人の犯罪者たちをこの手にかけてきた。怪我を負わせた者も含めれば、千人は下らない。そして、そのほとんどが、銀河系最大の麻薬ギルド<テュポーン>に関与する者たちであった。
私とジェイは、<テュポーン>担当のGPS特別犯罪課特殊捜査官となっていたのだ。そんな私が、普通の十八歳の女性が過ごすような生活に戻ることは、絶対にできなかった。
「後悔なんて……していないわ」
ジェイの精悍な横顔を見上げながら、私は微笑んだ。
「私は、あなたのパートナーなのよ」
ジェイが振り向き、私をその胸に抱き寄せた。彼が優しくキスをしてきた。唇を離すと、ジェイが耳元でささやいた。
「腹減ったな……」
「な、何ですって……」
いいムードをぶち壊しにした彼の言葉に、私が激怒する。
「ホテルへ戻って、飯にしようぜ」
「ジェイッ!」
私は、ジェイの腕を振り解こうとした。
冗談じゃない!
こんな無神経な男だとは、思わなかった。
だが、ジェイは、強い力で私を抱き締めたまま、離そうとしなかった。暴れる私を押さえつけるように、彼がもう一度耳元でささやく。
「テア、愛してる……」
何を今さら……!
私はジェイを睨みつけた。
「早く食事して、朝まで一緒にいようぜ」
ジェイがウィンクした。
ジェイの言葉が意味するものを理解し、私は真っ赤になった。
「ジェイ……」
私の言葉を遮るように、彼が再び、私にキスをする。
今度は、長いキスだった。
「ジェイ……」
やっと唇を離すと、ジェイは私を強く抱き締めた。彼の胸に顔を埋める。ジェイの鼓動が私の鼓動に重なった。
「早く、お前を抱きたくなった」
「ばか……。知らないわよ」
そう言いながら、三度目は、私の方から口づけをした。
夕陽が地平線にその姿を消しかかっている。その光を受けて、二つの長い影が寄り添うように重なる。
「ここが、古代銀河皇帝エッフェン=ドウ=ヴァスタードの眠る場所なのか?」
「そうよ。そして、全てはここから始まったのよ」
砂漠を渡る風が、私の淡青色の髪を靡かせた。右手で髪を押さえる。ショート・ヘアだった二年前と違い、長い髪が舞い上がるように揺れていた。
二年前と違っていることが、もう一つあった。
私の隣には、最愛のパートナーが立っていることだ。彼の力強い腕が私の肩を抱いている。親友のジェシカには悪いことをしたが、ジェイは私をパートナーとして選んでくれたのである。
その影に、オクタヴィア大佐の「ジェシカは独り立ちできるわ。でも、テアの面倒はあなたが責任を持ちなさい。彼女をスカウトしたのは、あなたなんだから」というありがたいお言葉があったらしいが……。
「汝が秘めたる力を発現す。その力、星を動かし、銀河を跳ぶ。汝が力を解放すべくは、全てこれ大神ヴァルディーンの意志なり。ヴァルディーンに選ばれたる者のみが、大いなる力をその手に握らん。秘めたる力、小さき者がヴァルディーンの意志を試す時、大いなる災いが汝を滅ぼさん。大いなる力を欲する者、この碑に触れたし。ヴァルディーンが汝を認めんば、星への道が開かれん」
私は、プライマイオス人の碑に書かれていた言葉を暗唱した。ESP発現装置の爆発で、あの碑は砂漠の下に再び埋もれてしまっていたが……。
「ヴァスタード陛下……。私はあなたに約束したわ。銀河系最大の麻薬ギルド<テュポーン>を倒すって……」
ジャケットの内ポケットから、私はナイフを取り出した。あの時、ジェイからもらったレーザー・ナイフだ。それは、古代銀河皇帝と初めて会った時、唯一私が持っていたものだった。
それを墓石や献花の代わりに、熱砂の上に置く。
「あなたが目覚めさせてくれた能力で、いつか必ず<テュポーン>を倒してみせるわ。そして、その報告をするために、もう一度会いに来るわね……」
砂漠の地下深く眠る古代銀河皇帝が、私の言葉に微笑んだように思えた。砂漠を渡る風が、優しく私の髪を靡かせた。
「テア」
不意に、ジェイが真剣な表情で、私を見つめた。
「何……?」
「後悔していないのか? ESPに目覚めたことを……」
強大すぎるESPは、自らを不幸にする。二年前、ジェイは私にそう告げたのだ。
今の私は、銀河中の犯罪者たちから、<銀河系最強の魔女>と呼ばれ、恐れられている。この二年間で、任務の上とは言え、数百人の犯罪者たちをこの手にかけてきた。怪我を負わせた者も含めれば、千人は下らない。そして、そのほとんどが、銀河系最大の麻薬ギルド<テュポーン>に関与する者たちであった。
私とジェイは、<テュポーン>担当のGPS特別犯罪課特殊捜査官となっていたのだ。そんな私が、普通の十八歳の女性が過ごすような生活に戻ることは、絶対にできなかった。
「後悔なんて……していないわ」
ジェイの精悍な横顔を見上げながら、私は微笑んだ。
「私は、あなたのパートナーなのよ」
ジェイが振り向き、私をその胸に抱き寄せた。彼が優しくキスをしてきた。唇を離すと、ジェイが耳元でささやいた。
「腹減ったな……」
「な、何ですって……」
いいムードをぶち壊しにした彼の言葉に、私が激怒する。
「ホテルへ戻って、飯にしようぜ」
「ジェイッ!」
私は、ジェイの腕を振り解こうとした。
冗談じゃない!
こんな無神経な男だとは、思わなかった。
だが、ジェイは、強い力で私を抱き締めたまま、離そうとしなかった。暴れる私を押さえつけるように、彼がもう一度耳元でささやく。
「テア、愛してる……」
何を今さら……!
私はジェイを睨みつけた。
「早く食事して、朝まで一緒にいようぜ」
ジェイがウィンクした。
ジェイの言葉が意味するものを理解し、私は真っ赤になった。
「ジェイ……」
私の言葉を遮るように、彼が再び、私にキスをする。
今度は、長いキスだった。
「ジェイ……」
やっと唇を離すと、ジェイは私を強く抱き締めた。彼の胸に顔を埋める。ジェイの鼓動が私の鼓動に重なった。
「早く、お前を抱きたくなった」
「ばか……。知らないわよ」
そう言いながら、三度目は、私の方から口づけをした。
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