【ブルー・ウィッチ・シリーズ】灼熱の戦場

椎名 将也

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第14章 全宇宙最強の男

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「星をも動かす力」……プライマイオス人の碑に書かれていた言葉は、真実を告げていたのだ。
 Σナンバーのテアとソルジャー=スコーピオン、そして、Aクラス・ESPのグレイとタロス……。この四人の放ったESPは、衛星ルナ・Ⅲを丸ごと破壊したのである。

「何て、ESPなの……?」
 ソルジャー=スコーピオンは、凄まじい戦慄を感じていた。目の前に立つ淡青色の髪をした美少女は、彼女の放つ圧倒的なESPエネルギーと同等のエネルギーを放っていた。
 Σナンバーの能力者であるソルジャー=スコーピオンが、二人のAクラス・ESPと同調すれば、このメルク大陸でさえ消滅させることが可能である。その彼女の放つ超烈なESPでさえ、テア一人を消滅させることができなかったのだ。

 全身から凄まじい閃光を放ちながら、テアは両手を高々と上げた。その両掌から立ち上る高速粒子の帯が、バチバチと大気を蒸発させている。その粒子が、大きく螺旋を描きながら密度を増していく。
『<ESPソード>が来るわ! タロス、グレイ、持てるESPを全てシールドに集中させるわよ!』
『り、了解ッ!』
『分かりましたッ!』
 二人のバイオ・ソルジャーたちが、テレパシーで答える。だが、彼らが戦慄と恐怖に震えていることは紛れもない事実だった。

『大丈夫! 私たちの能力の方が、わずかに上だわ。必ず、勝てるわよ!』
 二人の部下にというよりも、自分自身を鼓舞するためにソルジャー=スコーピオンが告げた。彼女の張るESPシールドが極限まで強められ、濃厚な青色に変わった。

 プルシアン・ブルーの瞳から強烈な閃光を放ちながら、テアがソルジャー=スコーピオンを見つめた。彼女の掌から光の奔流が噴出し、巨大な<ESPソード>が形成されいく。
「ソルジャー=スコーピオン、この星から消滅してもらうわッ!」
 テアが<ESPソード>を放った。

『……! どういうこと?』
 超烈なエネルギーの衝撃を予想していたソルジャー=スコーピオンが、愕然として呟いた。
 テアの放った<ESPソード>は、彼女の頭上を大きく越えていったのである。
 呆然とするソルジャー=スコーピオンの遙か数十キロメートル後方で、凄まじい爆発が起こった。その強烈な震動が大地を震撼させた。

『そうかッ!』
 ソルジャー=スコーピオンが、テアの目的を理解した。テアは彼女たちを狙ったのではなく、惑星ヴァーミリオンから<テュポーン>を全滅させることが目的だったのだ。
 テアの放った<ESPソード>は、プライマイオス遺跡管理局ビル、つまり、<テュポーン>の支部を瞬時に消滅させたのである。

「勝手なまねをッ!」
 激烈な怒りに、顔を真っ赤に染めながら、ソルジャー=スコーピオンが怒鳴った。<テュポーン>のファースト・ファミリーである彼女にとって、支部を目の前で破壊されたことは屈辱以外の何ものでもなかった。
 凄まじい怒りに震撼しながら、ソルジャー=スコーピオンの全身が濃厚な光彩をまとう。紅い髪が、光の奔流を受けて逆立った。

「消滅するのは、お前の方よッ!」
 両手を高く上げながら、ソルジャー=スコーピオンが叫んだ。テアが放った<ESPソード>を凌駕する光の剣が形成される。
「死ねッ!」
 想像を絶する破壊力を秘めた光の奔流が、テアに襲いかかった。
「くうッ!」
 持てるESPエネルギー全てを、テアはシールドに集中させた。膨大なエネルギーの激突により、周囲の大気が真空と化した。

 砂塵が舞い上がり、瞬時に粒子分解していく。
 大地が引き裂かれ、灼熱のあまり溶解しながら消滅していく。
(何て……力なの?)
 テアの全身を、紛れもない戦慄が走り抜ける。ESP発現装置の大爆発にさえ、微動だにしなかったESPシールドが完全に押されていた。
 テアは全てのESPをシールドに集中させた。しかし、ソルジャー=スコーピオンの放つ超烈なエネルギーの前に、シールドが悲鳴を上げている。

「……!」
 ESPシールドに、亀裂が入った。
(や、破れる……?)
 シールドが破られた瞬間が、テアが消滅する時である。
「く、くうううッ!」
 全身から汗を噴出させながら、テアが精神を集中させる。だが、徐々にシールドは押されている。彼女の身体から五メートルの距離を保っていたシールドは、すでに数十センチまで迫っていた。

(ジ、ジェーイ……ッ!)
 テアが瞳を閉じた。
 精悍な男の顔が、脳裏に浮かび上がる。彼の黒い瞳が、限りない優しさをたたえてテアを見つめた。
「ジェーイッ!」
 死を覚悟したテアが絶叫した。

 その瞬間……。
『呼んだか、後輩殿?』
 テアの脳裏に、圧倒的な力を有するテレパシーが響いた。同時に彼女のESPが強烈な力に満ち溢れ、数倍に強化された。
 ジェイ=マキシアン……。
『全宇宙最強のESP』が、テアに同調したのだ。

「ジェイ……!」
(本当に、ジェイ……。生きていた!)
 プルシアン・ブルーの瞳から涙が溢れ出た。言葉に言い表せない激烈な歓喜が、テアの全身を包み込んだ。

『泣くのは後だ。一気に勝負をつけるぞ!』
『ええ、分かったわ!』
 涙に濡れた瞳に強烈な意志を浮かべて、テアはソルジャー=スコーピオンを見据えた。
「ソルジャー=スコーピオン、あなたの両腕をもがさせてもらうわ!」
 テアの両手から、二条の閃光が発せられた。

「ぎゃああッ!」
「ぐわあああッ!」
 その閃光がタロスとグレイを直撃した。全てのESPを攻撃に転じていた二人のバイオ・ソルジャーたちは、断末魔の悲鳴とともに全身を劫火に包まれた。肉の灼ける強烈な臭気が周囲に溢れる。

「タロス! グレイッ!」
 驚愕に大きく開かれたソルジャー=スコーピオンの瞳に、真っ黒に炭化した二人が倒れ込む光景が映った。
「次は、あなたの番よ!」
 プルシアン・ブルーの瞳が、圧倒的な怒りを秘めて、ソルジャー=スコーピオンに向けられた。

「ひッ……」
 凄まじい戦慄に震え上がりながら、ソルジャー=スコーピオンが後ずさる。銀河系最大の麻薬ギルドの頂点に立つファースト・ファミリーの瞳に、激甚な恐怖が浮かび上がった。
 テアが再び<ESPソード>を形成する。超絶なエネルギー波によって、周囲の大気を瞬時に蒸発していく。ジェイとテア、二人のΣナンバーのESPは、文字通り惑星一つ破壊させるほどの巨大な奔流を噴出させた。

「これで、最後よッ!」
 テアが巨大な<ESPソード>を放った。圧倒的な光の奔流が、螺旋を描きながらソルジャー=スコーピオンに襲いかかる。
「ひいいいッ!」
 ソルジャー=スコーピオンの張ったESPシールドが、限界を遙かに超える圧倒的なエネルギーに悲鳴を上げる。

「ハアアッ!」
 裂帛の気合いとともに、テアが第二波を放った。新星の爆発のごとき閃光が、周囲を席巻した。大地が鳴動し、全ての物質が粒子分解されていく。
「きゃああああッ!」
 断末魔の悲鳴とともに、ソルジャー=スコーピオンの全身が震撼した。衛星ルナ・Ⅲを消滅させたエネルギーに勝るとも劣らない衝撃波が、彼女のESPシールドを粉砕する。
 次の瞬間、ソルジャー=スコーピオンの身体は、消滅していた。

『やったな、テア』
「はあ、はあ……」
 全身から汗を噴き出しながら、テアが肩で大きく呼吸をした。全ての力を使い切って、崩れるように熱砂の上に腰を下ろす。
『ありがとう、ジェイ……』
 彼女の美しい顔に、笑顔が広がった。何の屈託もない、素晴らしい笑顔だった。

 だが、その時……。
「……!」
(何、このプレッシャーは……?)
 想像を絶する強大なプレッシャーを実感して、テアが頭上を見上げた。
 彼女の遙か上空に、美しい女性が超烈なESP波を発しながら浮遊していた。その光彩は、Σナンバー特有の青色である。しかも、濃い……。

『素晴らしいESPですね』
 信じがたい存在感を有するテレパシーが、テアの脳裏を直撃した。
 それだけではない。
 倒したはずのソルジャー=スコーピオンが、その女性の隣で微笑んでいた。

「誰ッ?」
「私は、<テュポーン>の副総統ソルジャー=スピカです」
 その女性が、期待を裏切らないソプラノの旋律で告げた。
 腰まで伸ばした深い青色の髪と、テアと同じプルシアン・ブルーの瞳を持った美女である。美しい……いや、神話に現れる美の女神さえ嫉妬するほどの完璧な美しさをまとった女性だった。

「副総統? あなたが……?」
「ソルジャー=スコーピオンは、私たちの大切なファースト・ファミリーの一人。死なせるわけにはまいりません」
「冗談じゃないわ。あなたたち<テュポーン>が<プシケ>をはじめ、この惑星に麻薬を流し入れたんじゃないの。そして、ジェイや私を殺そうとしたのよ!」
「私たちのプロジェクトのためには、莫大な資金が必要なのです。それらは、やむを得ないことです」

「やむを得ない? 罪もない少女たちを売買し、人々を麻薬中毒にすることがやむを得ないことだって言うの?」
 テアがソルジャー=スピカに向かって怒鳴った。激しい怒りのあまり、全身が震えていた。
「総統ジュピターのお考えは遠大です。その偉大なプロジェクトを成功させるためには、小さな犠牲はやむを得ないのです」

「小さな犠牲ですって?」
 プルシアン・ブルーの瞳に紛れもない殺意を浮かべながら、テアが両手を掲げる。その掌から、光の奔流が舞い上がった。
 超絶な破壊力を秘めた<ESPソード>が形成されていく。大気が再び震撼しながら蒸発し、テアの周囲を真空が包み込んだ。

「私は、古代銀河皇帝エッフェン=ドウ=ヴァスタードに誓ったわ! <テュポーン>を必ず潰すとッ!」
 そう叫ぶとテアは、<ESPソード>をソルジャー=スピカめがけて放った。ソルジャー=スコーピオンに放ったものと同等の衝撃波が、美しい女神に襲いかかった。
 それを平然と見つめながら、ソルジャー=スピカが微笑した。そして、彼女は右手で空中に弧を描いた。

(な、何なの?)
 驚愕するテアの瞳に、星々のきらめきが映った。ソルジャー=スピカの前面の空間が、漆黒の宇宙空間に変わったのだ。
 テアが放った巨大な<ESPソード>はその宇宙空間に吸い込まれ、吸い込まれるように消滅した。<テュポーン>の副総統ソルジャー=スピカはテレポート能力の応用で、惑星ヴァーミリオンに漆黒の宇宙を繋げたのだ。

 彼女の右手が再び弧を描くと、その宇宙空間は消滅した。同時にテアのESPが、完全にブロックされた。
「そんな……」
「今のあなたに、私を倒すことはできません。ジェイ=マキシアン、彼女を見殺しにするのですか?」
 愕然とするテアに、微笑を浮かべながらソルジャー=スピカが告げた。

『やめるんだ、テア! お前の敵う相手じゃない!』
 テアの脳裏に、ジェイのテレパシーが響きわたった。同時に、『全宇宙最強のESP』が、テアの横にテレポートしてきた。
「ジェイ、久しいですね」
 彼の姿を認めると、空中に浮遊していたソルジャー=スピカがソルジャー=スコーピオンを随えて地上に降り立った。

「そうだな、ソルジャー=スピカ」
「ジェイ、あなた、彼女を知っているの?」
 驚いて、テアが訊ねた。
「ああ、俺が知る限り、銀河系で二番目に強力なのESPだ」
「あなたの敵なんでしょう! 倒す気はないの?」
「残念ながら、銀河系で最も強力なESPは俺じゃない。今の俺の能力では、ソルジャー=スピカは倒せない」

 テアは耳を疑った。ジェイは、『全宇宙最強のESP』と呼ばれる能力者ではないか。その彼より強力なESPがいるとは、信じられなかった。
「そんな……。それじゃ、最も強力なESPって言うのは……?」
 そのテアの言葉に応えたのは、嘲笑を秘めたソルジャー=スコーピオンの声だった。
「我々<テュポーン>の総統、ジュピター様に決まっているわ!」
 テアが横に立つジェイの顔を見上げた。彼がソルジャー=スコーピオンの言葉を肯定するように、大きく頷いた。

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