【ブルー・ウィッチ・シリーズ】灼熱の戦場

椎名 将也

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プロローグ

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「久しぶりだな」
 ジェイが懐かしそうに微笑んだ。
「ずいぶんと変わったわね」
 二年前に来た時と比べて、信じられないほど復興している宇宙港に降り立ちながら、私は周囲を見回した。

「せっかくの休暇だ。どうせなら、リゾート惑星にでも行けば良かったのに……」
「まだ、言ってる。そんなところ興味ないわ。私はここに来たかったの」
 私たちが長期休暇を取れるなんて、滅多にあることじゃない。ジェイはこの惑星ヴァーミリオンに旅行することを、ずいぶんと渋ったものだった。

 確かに彼の言う通り、この惑星には観光目的で来る旅行客などほとんどいない。なぜなら、銀河系でも数少ない先史文明の跡を残す学術惑星だからだ。
「シャトルの発射時間に間に合わなくなるわよ。早く行きましょう」
 私はジェイを促して、シャトル・ステーションに続く通路を足早に歩き出した。

「テア、待てよ。そんなに急ぐんなら、自分の荷物くらい持って行けよ」
 バゲージ・システムから二人分のバックを引き取りながら、ジェイが文句をたれた。
「まあ、かよわい女性に、そんなもん持たせる気なの?」
 私は両手を口にあてて、驚いたように言った。何度も鏡で練習した動作だ。自分で言うのも何だが、結構可愛い。しかし、こんなことで長いつきあいの彼が騙されるはずはなかった。

「かよわい? 泣く子も黙るブルー・ウィッチ様が、何言ってやがる」
 ばかッ!
 慌てて周囲を見回した。
 ジェイの不用意な発言を聞きつけた数人が、化け物でも見るような眼で私を見つめ、逃げるようにして離れていく。

「もう、こんなところでそんな名前、出さなくてもいいでしょ!」
 ぷうっと頬を膨らませて、私はジェイを睨んだ。
 ブルー・ウィッチ。別名<銀河系最強の魔女>。この名前が、私につけられたニックネームだった。

 私の本当の名前は、テア=スクルト。今日で、十八歳になる絶世の美人だ。嘘じゃない、と自分でも思う。なぜなら、あの呪われたニックネームを知らない男は、私を見ると必ず声をかけてくるのだから……。

 流れ落ちる滝のような淡青色の髪と、思慮深く強い意志を秘めたプルシアン・ブルーの瞳が印象的な女性だ。小さめの顔に、細く通った鼻筋と紅い唇が造作よく描かれている。その上、透き通るような白い肌と、銀河スクリーン女優も逃げ出すプロポーションにも恵まれている。
 以上は、私を口説こうとした男たちが言った言葉である。本当は、それを言って欲しい男は一人だけなのだが、そいつは軽々しく女を口説く言葉は持っていないらしい。

「悪い、悪い。つい、口から出ちまった」
 すまなそうに、ジェイが謝りながらやって来た。
「まったく……」
 私は両手を腰にあてて、彼を見上げた。
 ジェイは、身長百八十センチを優に越えている。百六十五センチの小柄な私は、彼の肩くらいまでしかない。

 私たちは、銀河系監察宇宙局GPSの特別犯罪課特殊捜査官スペシャル・ハンターだ。通称、SHと呼ばれている。そして、こう見えてもジェイは、約八十名いるSHのリーダーなのだ。
 SHスペシャル・ハンターとは、GPS管轄内で発生するE犯罪(超能力者による特別犯罪)に対応するために組織された行政機関であり、Bクラス以上の超能力ESPを有する者しかなることができない。それは、数年間にわたる特殊訓練を受けた者のみに与えられる一種の称号だった。

 最新鋭の超光速宇宙艇を駆使し、特別な治外法権を有するSHは、GPSのエリートととも呼ばれている。
 私たち二人は、そのSHの中でもトップクラスの成績を誇っていた。その活躍を恐れたE犯罪者たちが、例のニックネームで私を呼ぶようになったのだ。失礼にもほどがある。

「どこに行くんだ?」
 シャトルのシートに腰をかけると、ジェイが訊ねてきた。
「決まってるでしょ」
 私が冷たく言い放つ。まったく、鈍感なヤツめ。この惑星に来て、私が行きたいところと言ったら、あそこしかないのが分からないのかしら?

「何、怒ってるんだ? ブルー・ウィッチって呼んだことか?」
 さすがに、今度は私の耳元でささやくように告げた。二度も人前でその名前を呼ばれたら、私は絶対に彼を許さないだろう。
「違うわよ」
 私が怒っているのは、ジェイの無神経さだった。今から私が向かう場所は、二人にとって忘れられない場所なのに……。

 二年前……。
 私の脳裏に、あの時の記憶が走馬燈のように甦った。
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