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第十四章 破魔の霊弓
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ズッドーーンッ……!
大聖堂の内部から聞こえてきた轟音とともに大地が大きく揺れ、アストレアは足を取られて地面に膝をついた。彼女に跪いていたアンナたちが立ち上がり、爆音がした方向を見つめた。
「何だッ?」
「バートンだわッ!」
レオナルドの疑問に答えるように、アンナが叫んだ。彼女の言葉を肯定するようにアストレアが告げた。
「アンナ、バートンの結界が破られました。気をつけてください。古代エルフの上位結界を破ると言うことは、バートンの力は以前より大きく上がっています」
『龍の下顎』でバートンが使っていた覇気は、風属性だった。だが、先ほどのバートンは闇属性の覇気を纏った正拳でアストレアたちを攻撃した。
魔法には、水属性魔法、火属性魔法、土属性魔法、風属性魔法と呼ばれる四大属性がある。これらは水や氷、火や火炎など顕在化する魔力に違いはあっても、初級、中級、上級、禁呪魔法とそれぞれに必要な魔力量には大きな差異はない。
だが、光属性魔法と闇属性魔法の二つは、四大属性魔法とは別格の魔力量が必要だった。たとえば、光属性中級魔法を発現するには水属性上級魔法と同等の魔力量を必要とした。四大属性魔法より一ランク上の魔力量がないと発現さえしないのだ。
アストレアの張った古代エルフの上級結界は、光属性上級魔法だった。これを破ったということは、バートンが闇属性上級か禁呪魔法を使ったことを意味していた。
「アンナ、バートンが近づいてきます! 皆さん、私の後ろにいてください!」
天龍の魔道杖を左腰から抜き放つと、目の前に掲げながらアストレアが叫んだ。アンナたちがアストレアの背後に素早く移動した。アストレアの結界を破るほどの手段をバートンが持っているのであれば、アンナの結界では彼の攻撃を防ぐことなど不可能だったからだ。
「アスティ、来たわッ!」
アンナの叫びと同時に、大聖堂の扉が開かれバートンが現れた。その姿を見て、アストレアは驚愕した。バートンの全身が漆黒の覇気を纏っていたのだ。それは紛れもなく、悪魔王ルシファーたちと同じ闇属性の魔力であった。
「バートン、私が分かりませんか? アスティです。思い出してください」
黒曜石のように輝く瞳で真っ直ぐにバートンを見つめながら、アストレアが告げた。先ほどと同様に自分を認知できないと思っていたアストレアの予想に反し、バートンが口元に笑みを浮かべた。
「女神アストレア様……。あなたを護るのは、この俺だ。セイリオスなんかじゃない。まして、そいつらでもない!」
「バートン?」
バートンの碧眼に浮かんだ狂気の光に気づき、アストレアが愕然とした。彼の眼は赤く血走っており、その表情は狂おしく歪んでいた。
「女神アストレア様、こちらへ来い! さもないと、そいつらを殺す!」
赤光を帯びた視線でそう告げた瞬間、バートンの全身から壮絶な覇気が舞い上がった。漆黒の炎がバートンの全身を包み込み、爆ぜるように膨張した。天を焦さんとばかりに燃え上がる黒炎は、高さ十メッツェを超える劫火となった。
「ひっ……」
「何でバートンがあれほどの魔力を……?」
アストレアの後ろでオクタヴィアが恐怖のあまり息を呑み、アンナが驚愕の言葉を漏らした。レオナルドは言葉すらも失い、呆然とバートンを見つめていた。
「悪魔に魂を売り渡したのですか、バートン? それとも悪魔そのものに成り下がったのですか?」
アストレアの全身が眩いほどの光に包まれた。その光輝が急激に膨張し、バートンの魔覇気さえも上回る白炎が燃え上がった。そして、直視できないほどの閃光が放たれると、腰まで真っ直ぐに伸ばした銀髪を揺らし、星々の輝きを映す金色の瞳でアストレアはバートンを見つめた。
「美しい姿だ、女神アストレア様。その美貌を快感に歪め、その肢体を俺のものにしてやろう!」
バートンがそう告げた瞬間に、アストレアの足元に漆黒の魔気が渦を巻きながら現れ、無数の触手が伸び上がった。表面をネットリとした粘液に塗れさせた赤紫色の触手が、淫猥に蠢きながらアストレアに襲いかかってきた。
「アスティ、気をつけて! あれはッ!」
その触手によって人外の悦楽を経験させられたアンナが、顔色を変えて叫んだ。
「大丈夫です」
アストレアの全身を包む白炎が凄まじい閃光を放った。その光輝に触れた触手が、次々と蒸発するように消滅していった。それどころか、足元の魔気の渦さえも浄化されたかのように消滅した。
「今のでよく分かりました。バートン、あなたはすでに死んでいますね」
「え……?」
アストレアの告げた言葉の意味が分からずに、赤茶色の瞳を見開きながらアンナが彼女を見つめた。
「普通の人間が闇属性の魔力など扱えるはずがありません。まして、闇の次元から触手を呼び出すほどの膨大な魔力を持っているなどあり得ません」
金色の瞳に悲哀と憐憫の光を宿しながら、アストレアが告げた。
「それが可能であるとしたら、考えられることは一つだけです。バートン、あなたはティアマトに殺され、ルシファーによって闇の生を与えられた。つまり、生きる死者として蘇ったということです」
「アストレア様、それって……」
アストレアの言葉に驚愕して、アンナが訊ねた。
「やはり、ここにいるのは私たちの知るバートンではありません。オクタヴィアさん」
「は、はいッ!」
アンナに頷きながら答えると、アストレアは右後ろに立つオクタヴィアに向かって告げた。
「霊弓<シリウス>でバートンを射ってください。<シリウス>の破魔の力で、バートンの魂を解放してあげてください」
「霊弓<シリウス>で……?」
呆然として呟くと、オクタヴィアは光輝を纏ったアストレアを見つめた。
「はい。私やアンナの魔力でバートンを倒すと、彼の魂は永遠に闇の次元を彷徨います。バートンは私たちの大切な仲間です。せめて、その魂がミッシェルの元に行けるように、浄化してあげてください。お願いします」
アストレアは振り返ってオクタヴィアを見つめると、金色の瞳に慈愛と悲哀を浮かべながら告げた。
「分かりました、アストレア様」
美しい碧眼に真剣な光を浮かべると、オクタヴィアは大きく頷いた。そして、霊弓<シリウス>を持った左手をバートンに向けると、右手を近づけて光り輝く矢を出現させた。光の弦が霊弓<シリウス>の両端を繋ぐと、オクタヴィアは顎を引いて光矢を引き絞った。
「霊弓<シリウス>だと? そんな物に邪魔されて堪るかッ! 女神アストレア様は、俺だけの物だッ!」
怒りで顔を赤く染めながら、バートンが両足を大きく開いて正拳を構えた。そして、凄絶な覇気とともに、腰だめから正拳をオクタヴィアに向けて繰り出した。漆黒の魔気が奔流となって、螺旋を描きながらオクタヴィアに襲いかかった。その破壊力は、セイリオスの放つ<クラウ・ソラス>に匹敵する程のものだった。
「今ですッ!」
アストレアの叫びと同時に、オクタヴィアが霊弓<シリウス>から光の矢を放った。オクタヴィアの魔力を霊弓<シリウス>が増幅させ、白炎の渦を巻きながら光輝が直視できないほどの閃光に包まれた。その光輝が超絶な光の奔流と化して、バートンの放った魔闘気に激突し凌駕した。壮絶な魔闘気の奔流を更に巨大な激流で呑み込むと、些かも威力を減ずることなくバートンの全身を射貫いた。
次の瞬間、鼓膜を引き裂く轟音とともにバートンが消し飛び、爆散した。
「バートン……」
右手で口元を押さえると、アンナが悲痛に満ちた声で小さく呟いた。一年以上をともに過ごした仲間の最期に、赤茶色の瞳から涙が溢れ出ていた。
「アンナ、すみませんでした。霊弓<シリウス>を使う以外に、バートンの魂を救う術はありませんでした」
肩を震わせながら嗚咽を堪えているアンナを、アストレアが優しく抱き寄せた。アンナは縋るようにアストレアに抱きつくと、声を上げて泣きだした。
「アストレア様……。私……人を殺したんですね……」
霊弓<シリウス>を持つ手を小刻みに震わせながら、オクタヴィアが蒼白な表情で言った。剣士クラスBとはいえ、十七歳のオクタヴィアは今まで人を殺めたことなどなかったのだ。これが初めての殺人であった。
「オクタヴィアさん、それは違います。バートンはすでに死んでいました。あそこにいたのは、人ではなく魔です。悪魔王ルシファーに魂を操られ、偽りの生を与えられた悪魔のような存在でした。あなたのしたことは、ルシファーの魔力からバートンの魂を浄化し、ミッシェルの元に還送したに過ぎません」
限りない優しさを映した金色の瞳でオクタヴィアを見つめると、アストレアはアンナの体を離して言った。
「私もアンナも、あなたに感謝することはあっても、あなたを恨むことは絶対にありません。そうですよね、アンナ?」
「ええ、もちろんです、アストレア様。オクタヴィアさん、あたしからもお礼を言うわ。バートンを救ってくれてありがとう」
赤く泣きはらした瞳でオクタヴィアを見つめると、アンナが紅髪を揺らしながら彼女に頭を下げた。
「いえ……。そう言って頂けると、少しは気持ちが楽になります。ありがとうございます、アストレア様、アンナ様」
蒼白だった表情を和ませながら、オクタヴィアが二人に笑顔を見せた。彼女に頷きかけると、アストレアは空を見上げた。初夏の青空には雲一つなく、蒼穹が続いていた。
(ミッシェル、私の大切な仲間、バートンをそちらに還しました。オクタヴィアさんのお姉様マーガレットさんともども、よろしくお願いします)
『神木を壊してくれたときにはどうしてやろうかと思ったけど、まあ元通りにしてくれたことだし……。仕方ないわね、アストレア』
アストレアは、瞼の裏でミッシェルが文句を言っているように感じ、苦笑いを浮かべた。
大聖堂の内部から聞こえてきた轟音とともに大地が大きく揺れ、アストレアは足を取られて地面に膝をついた。彼女に跪いていたアンナたちが立ち上がり、爆音がした方向を見つめた。
「何だッ?」
「バートンだわッ!」
レオナルドの疑問に答えるように、アンナが叫んだ。彼女の言葉を肯定するようにアストレアが告げた。
「アンナ、バートンの結界が破られました。気をつけてください。古代エルフの上位結界を破ると言うことは、バートンの力は以前より大きく上がっています」
『龍の下顎』でバートンが使っていた覇気は、風属性だった。だが、先ほどのバートンは闇属性の覇気を纏った正拳でアストレアたちを攻撃した。
魔法には、水属性魔法、火属性魔法、土属性魔法、風属性魔法と呼ばれる四大属性がある。これらは水や氷、火や火炎など顕在化する魔力に違いはあっても、初級、中級、上級、禁呪魔法とそれぞれに必要な魔力量には大きな差異はない。
だが、光属性魔法と闇属性魔法の二つは、四大属性魔法とは別格の魔力量が必要だった。たとえば、光属性中級魔法を発現するには水属性上級魔法と同等の魔力量を必要とした。四大属性魔法より一ランク上の魔力量がないと発現さえしないのだ。
アストレアの張った古代エルフの上級結界は、光属性上級魔法だった。これを破ったということは、バートンが闇属性上級か禁呪魔法を使ったことを意味していた。
「アンナ、バートンが近づいてきます! 皆さん、私の後ろにいてください!」
天龍の魔道杖を左腰から抜き放つと、目の前に掲げながらアストレアが叫んだ。アンナたちがアストレアの背後に素早く移動した。アストレアの結界を破るほどの手段をバートンが持っているのであれば、アンナの結界では彼の攻撃を防ぐことなど不可能だったからだ。
「アスティ、来たわッ!」
アンナの叫びと同時に、大聖堂の扉が開かれバートンが現れた。その姿を見て、アストレアは驚愕した。バートンの全身が漆黒の覇気を纏っていたのだ。それは紛れもなく、悪魔王ルシファーたちと同じ闇属性の魔力であった。
「バートン、私が分かりませんか? アスティです。思い出してください」
黒曜石のように輝く瞳で真っ直ぐにバートンを見つめながら、アストレアが告げた。先ほどと同様に自分を認知できないと思っていたアストレアの予想に反し、バートンが口元に笑みを浮かべた。
「女神アストレア様……。あなたを護るのは、この俺だ。セイリオスなんかじゃない。まして、そいつらでもない!」
「バートン?」
バートンの碧眼に浮かんだ狂気の光に気づき、アストレアが愕然とした。彼の眼は赤く血走っており、その表情は狂おしく歪んでいた。
「女神アストレア様、こちらへ来い! さもないと、そいつらを殺す!」
赤光を帯びた視線でそう告げた瞬間、バートンの全身から壮絶な覇気が舞い上がった。漆黒の炎がバートンの全身を包み込み、爆ぜるように膨張した。天を焦さんとばかりに燃え上がる黒炎は、高さ十メッツェを超える劫火となった。
「ひっ……」
「何でバートンがあれほどの魔力を……?」
アストレアの後ろでオクタヴィアが恐怖のあまり息を呑み、アンナが驚愕の言葉を漏らした。レオナルドは言葉すらも失い、呆然とバートンを見つめていた。
「悪魔に魂を売り渡したのですか、バートン? それとも悪魔そのものに成り下がったのですか?」
アストレアの全身が眩いほどの光に包まれた。その光輝が急激に膨張し、バートンの魔覇気さえも上回る白炎が燃え上がった。そして、直視できないほどの閃光が放たれると、腰まで真っ直ぐに伸ばした銀髪を揺らし、星々の輝きを映す金色の瞳でアストレアはバートンを見つめた。
「美しい姿だ、女神アストレア様。その美貌を快感に歪め、その肢体を俺のものにしてやろう!」
バートンがそう告げた瞬間に、アストレアの足元に漆黒の魔気が渦を巻きながら現れ、無数の触手が伸び上がった。表面をネットリとした粘液に塗れさせた赤紫色の触手が、淫猥に蠢きながらアストレアに襲いかかってきた。
「アスティ、気をつけて! あれはッ!」
その触手によって人外の悦楽を経験させられたアンナが、顔色を変えて叫んだ。
「大丈夫です」
アストレアの全身を包む白炎が凄まじい閃光を放った。その光輝に触れた触手が、次々と蒸発するように消滅していった。それどころか、足元の魔気の渦さえも浄化されたかのように消滅した。
「今のでよく分かりました。バートン、あなたはすでに死んでいますね」
「え……?」
アストレアの告げた言葉の意味が分からずに、赤茶色の瞳を見開きながらアンナが彼女を見つめた。
「普通の人間が闇属性の魔力など扱えるはずがありません。まして、闇の次元から触手を呼び出すほどの膨大な魔力を持っているなどあり得ません」
金色の瞳に悲哀と憐憫の光を宿しながら、アストレアが告げた。
「それが可能であるとしたら、考えられることは一つだけです。バートン、あなたはティアマトに殺され、ルシファーによって闇の生を与えられた。つまり、生きる死者として蘇ったということです」
「アストレア様、それって……」
アストレアの言葉に驚愕して、アンナが訊ねた。
「やはり、ここにいるのは私たちの知るバートンではありません。オクタヴィアさん」
「は、はいッ!」
アンナに頷きながら答えると、アストレアは右後ろに立つオクタヴィアに向かって告げた。
「霊弓<シリウス>でバートンを射ってください。<シリウス>の破魔の力で、バートンの魂を解放してあげてください」
「霊弓<シリウス>で……?」
呆然として呟くと、オクタヴィアは光輝を纏ったアストレアを見つめた。
「はい。私やアンナの魔力でバートンを倒すと、彼の魂は永遠に闇の次元を彷徨います。バートンは私たちの大切な仲間です。せめて、その魂がミッシェルの元に行けるように、浄化してあげてください。お願いします」
アストレアは振り返ってオクタヴィアを見つめると、金色の瞳に慈愛と悲哀を浮かべながら告げた。
「分かりました、アストレア様」
美しい碧眼に真剣な光を浮かべると、オクタヴィアは大きく頷いた。そして、霊弓<シリウス>を持った左手をバートンに向けると、右手を近づけて光り輝く矢を出現させた。光の弦が霊弓<シリウス>の両端を繋ぐと、オクタヴィアは顎を引いて光矢を引き絞った。
「霊弓<シリウス>だと? そんな物に邪魔されて堪るかッ! 女神アストレア様は、俺だけの物だッ!」
怒りで顔を赤く染めながら、バートンが両足を大きく開いて正拳を構えた。そして、凄絶な覇気とともに、腰だめから正拳をオクタヴィアに向けて繰り出した。漆黒の魔気が奔流となって、螺旋を描きながらオクタヴィアに襲いかかった。その破壊力は、セイリオスの放つ<クラウ・ソラス>に匹敵する程のものだった。
「今ですッ!」
アストレアの叫びと同時に、オクタヴィアが霊弓<シリウス>から光の矢を放った。オクタヴィアの魔力を霊弓<シリウス>が増幅させ、白炎の渦を巻きながら光輝が直視できないほどの閃光に包まれた。その光輝が超絶な光の奔流と化して、バートンの放った魔闘気に激突し凌駕した。壮絶な魔闘気の奔流を更に巨大な激流で呑み込むと、些かも威力を減ずることなくバートンの全身を射貫いた。
次の瞬間、鼓膜を引き裂く轟音とともにバートンが消し飛び、爆散した。
「バートン……」
右手で口元を押さえると、アンナが悲痛に満ちた声で小さく呟いた。一年以上をともに過ごした仲間の最期に、赤茶色の瞳から涙が溢れ出ていた。
「アンナ、すみませんでした。霊弓<シリウス>を使う以外に、バートンの魂を救う術はありませんでした」
肩を震わせながら嗚咽を堪えているアンナを、アストレアが優しく抱き寄せた。アンナは縋るようにアストレアに抱きつくと、声を上げて泣きだした。
「アストレア様……。私……人を殺したんですね……」
霊弓<シリウス>を持つ手を小刻みに震わせながら、オクタヴィアが蒼白な表情で言った。剣士クラスBとはいえ、十七歳のオクタヴィアは今まで人を殺めたことなどなかったのだ。これが初めての殺人であった。
「オクタヴィアさん、それは違います。バートンはすでに死んでいました。あそこにいたのは、人ではなく魔です。悪魔王ルシファーに魂を操られ、偽りの生を与えられた悪魔のような存在でした。あなたのしたことは、ルシファーの魔力からバートンの魂を浄化し、ミッシェルの元に還送したに過ぎません」
限りない優しさを映した金色の瞳でオクタヴィアを見つめると、アストレアはアンナの体を離して言った。
「私もアンナも、あなたに感謝することはあっても、あなたを恨むことは絶対にありません。そうですよね、アンナ?」
「ええ、もちろんです、アストレア様。オクタヴィアさん、あたしからもお礼を言うわ。バートンを救ってくれてありがとう」
赤く泣きはらした瞳でオクタヴィアを見つめると、アンナが紅髪を揺らしながら彼女に頭を下げた。
「いえ……。そう言って頂けると、少しは気持ちが楽になります。ありがとうございます、アストレア様、アンナ様」
蒼白だった表情を和ませながら、オクタヴィアが二人に笑顔を見せた。彼女に頷きかけると、アストレアは空を見上げた。初夏の青空には雲一つなく、蒼穹が続いていた。
(ミッシェル、私の大切な仲間、バートンをそちらに還しました。オクタヴィアさんのお姉様マーガレットさんともども、よろしくお願いします)
『神木を壊してくれたときにはどうしてやろうかと思ったけど、まあ元通りにしてくれたことだし……。仕方ないわね、アストレア』
アストレアは、瞼の裏でミッシェルが文句を言っているように感じ、苦笑いを浮かべた。
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