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第七章 夢魔と銀龍
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ケラヴノス大聖堂に到着すると、スカーレットは参拝者を全て大聖堂から退出させるように命じた。
銀龍騎士団の精鋭たちは剣を抜き放ち、強引に参拝者たちを大聖堂から追い出した。不当な軍事行動に反発の声を上げる者も多くいたが、スカーレットは一切の容赦をしなかった。
アルフィは、聖サマルリーナ教がスカーレットを破門するのではないかと恐れた。
ユピテル皇国の皇族や貴族は、全員が聖サマルリーナ教の洗礼を受けている。聖サマルリーナ教はユピテル皇国の国教なのだ。その総本山であるケラヴノス大聖堂に騎士団を乗り入れ、その教徒たちを力尽くで大聖堂から追い払う。そんな行為を聖サマルリーナ教の上層部が認めるはずがなかった。
国教である聖サマルリーナ教を破門されると言うことは、国家的犯罪者と認定されることと同義だ。アルフィの心配は当然のものだった。
「横暴だ!」
「何の権利があって、私たちを追い出すの!」
「誰の命令だ! 責任者を出せ!」
大聖堂から追い立てられ、一箇所に集められた信者たちが口々に反発の声を上げた。その中の一人が、小石を拾い、騎士団の一人に投げつけた。
その石は運悪く、若い騎士団員の額に命中した。兜に護られていない部分だったため、騎士団員の額は割れ、大量の血が彼の顔を赤く染めた。
「誰だ、石を投げたのは!」
その騎士団員が怒りにまかせて、剣を抜き放った。訓練された騎士団員の放つ威圧を受けて、教徒たちは自分の命を守るため次々と石を手に取って投げ始めた。五百人を超える教徒たちと、百人の銀龍騎士団の距離が近づき、大規模な衝突がまさに起ころうとしていた。
その時、真紅のマントに身を包む女性が、両者の間に割って入った。
「止まれっ!」
凜としたメゾ・ソプラノの声が周囲に響き渡った。命令することに慣れた声だった。
その女性が放つ圧倒的な存在感と威圧感に、両者の動きが一瞬で止まった。
スカーレットは、銀龍騎士団に厳しい視線を放った。
「市民相手に、何を考えている!」
それほど大きな声ではなかったが、銀龍騎士団百人は全員が直立不動となり、悄然とした。冷静さを取り戻すと、自分たちがいかに愚かな行為をしようとしていたのかを、一瞬のうちに理解したのだ。
スカーレットはその様子を見て小さく頷くと、教徒たちの方を振り返った。
「私の名は、スカーレット=フォン=ロイエンタール。銀龍騎士団の団長だ」
スカーレットが名乗ると、教徒たちのざわめきが瞬時に止んだ。
豪奢な金髪とスミレ色の瞳。
白銀の鎧に身を包んで、「双頭の銀龍」の徽章が入った真紅のマントを靡かせる女性。
その女性が誰だか知らぬ者は、この皇都に一人としていなかった。
「今回の措置は、私が命じた。時間がなかったこととはいえ、いささか強引だったことは認めよう。しかし、必要な措置だった」
スカーレットは教徒たち一人ひとりの顔を見つめながら話し始めた。
「我が弟、皇位継承権第二位のフレドリック=フォン=ロイエンタール公子。ならびに、ユピテル皇国第一皇女であるディアナ=フォン=イシュタル殿下。このお二人がケラヴノス大聖堂に拉致監禁されていると情報が入った」
スカーレットの言葉に、教徒たちと銀龍騎士団の騎士たち双方が驚愕した。
教徒たちは、耳を疑うような事件を聞いたことに、純粋に驚いた。
一方、騎士たちは、そのような機密情報を教徒たちに告げたことに単なる驚きを超えて愕然とした。
「構わない」と告げるように騎士たちに頷くと、スカーレットは続けた。
「私はユピテル皇国軍十五万を預かる元帥として、この情報を無視することは出来ない。今から、ケラヴノス大聖堂に入り、その情報の真偽を確認する」
スカーレットは教徒たちの表情が驚愕から覚め、自分の言葉を理解していることを確認すると、さらに言い放った。
「戦闘になる可能性が非常に高い。皆は安全のため、今すぐ帰宅していただきたい。なお、これは依頼ではない。皇国元帥としての命令だ。ただちに帰宅せよ。この命に背くのであれば、皇族拉致監禁の協力者として、捕縛する!」
スカーレットの言葉に嘘がないことを理解すると、教徒たちは我先にとケラヴノス大聖堂の敷地から争って逃げ出し始めた。
教徒たち全員が姿を消したことを確認すると、スカーレットは銀龍騎士団に向き直った。
「百人を四小隊に分ける。第一小隊は私とともに来い。第二小隊は二階と三階を捜索しろ。第三小隊は四階と五階だ。そして、第四小隊は大聖堂周囲を固めて、全ての入口を封鎖しろ。散開っ!」
スカーレットが右手を掲げて振り落とした。それを合図に、第二から第四小隊が一斉に展開を始めた。
「アルフィと言ったな。私と一緒に来い。ティアが掴まった場所へ案内しろ」
「はい……」
悪魔伯爵二柱の持つ絶大な魔力を思い出して一瞬足が震えたが、スカーレットを信じてアルフィは彼女に続いて走り出した。
(ティア、待ってなさい。必ず助けるから……)
しかし、アルフィは悪魔伯爵二柱を従えるより強大な存在がいることを、予想さえもしていなかった。
銀龍騎士団の精鋭たちは剣を抜き放ち、強引に参拝者たちを大聖堂から追い出した。不当な軍事行動に反発の声を上げる者も多くいたが、スカーレットは一切の容赦をしなかった。
アルフィは、聖サマルリーナ教がスカーレットを破門するのではないかと恐れた。
ユピテル皇国の皇族や貴族は、全員が聖サマルリーナ教の洗礼を受けている。聖サマルリーナ教はユピテル皇国の国教なのだ。その総本山であるケラヴノス大聖堂に騎士団を乗り入れ、その教徒たちを力尽くで大聖堂から追い払う。そんな行為を聖サマルリーナ教の上層部が認めるはずがなかった。
国教である聖サマルリーナ教を破門されると言うことは、国家的犯罪者と認定されることと同義だ。アルフィの心配は当然のものだった。
「横暴だ!」
「何の権利があって、私たちを追い出すの!」
「誰の命令だ! 責任者を出せ!」
大聖堂から追い立てられ、一箇所に集められた信者たちが口々に反発の声を上げた。その中の一人が、小石を拾い、騎士団の一人に投げつけた。
その石は運悪く、若い騎士団員の額に命中した。兜に護られていない部分だったため、騎士団員の額は割れ、大量の血が彼の顔を赤く染めた。
「誰だ、石を投げたのは!」
その騎士団員が怒りにまかせて、剣を抜き放った。訓練された騎士団員の放つ威圧を受けて、教徒たちは自分の命を守るため次々と石を手に取って投げ始めた。五百人を超える教徒たちと、百人の銀龍騎士団の距離が近づき、大規模な衝突がまさに起ころうとしていた。
その時、真紅のマントに身を包む女性が、両者の間に割って入った。
「止まれっ!」
凜としたメゾ・ソプラノの声が周囲に響き渡った。命令することに慣れた声だった。
その女性が放つ圧倒的な存在感と威圧感に、両者の動きが一瞬で止まった。
スカーレットは、銀龍騎士団に厳しい視線を放った。
「市民相手に、何を考えている!」
それほど大きな声ではなかったが、銀龍騎士団百人は全員が直立不動となり、悄然とした。冷静さを取り戻すと、自分たちがいかに愚かな行為をしようとしていたのかを、一瞬のうちに理解したのだ。
スカーレットはその様子を見て小さく頷くと、教徒たちの方を振り返った。
「私の名は、スカーレット=フォン=ロイエンタール。銀龍騎士団の団長だ」
スカーレットが名乗ると、教徒たちのざわめきが瞬時に止んだ。
豪奢な金髪とスミレ色の瞳。
白銀の鎧に身を包んで、「双頭の銀龍」の徽章が入った真紅のマントを靡かせる女性。
その女性が誰だか知らぬ者は、この皇都に一人としていなかった。
「今回の措置は、私が命じた。時間がなかったこととはいえ、いささか強引だったことは認めよう。しかし、必要な措置だった」
スカーレットは教徒たち一人ひとりの顔を見つめながら話し始めた。
「我が弟、皇位継承権第二位のフレドリック=フォン=ロイエンタール公子。ならびに、ユピテル皇国第一皇女であるディアナ=フォン=イシュタル殿下。このお二人がケラヴノス大聖堂に拉致監禁されていると情報が入った」
スカーレットの言葉に、教徒たちと銀龍騎士団の騎士たち双方が驚愕した。
教徒たちは、耳を疑うような事件を聞いたことに、純粋に驚いた。
一方、騎士たちは、そのような機密情報を教徒たちに告げたことに単なる驚きを超えて愕然とした。
「構わない」と告げるように騎士たちに頷くと、スカーレットは続けた。
「私はユピテル皇国軍十五万を預かる元帥として、この情報を無視することは出来ない。今から、ケラヴノス大聖堂に入り、その情報の真偽を確認する」
スカーレットは教徒たちの表情が驚愕から覚め、自分の言葉を理解していることを確認すると、さらに言い放った。
「戦闘になる可能性が非常に高い。皆は安全のため、今すぐ帰宅していただきたい。なお、これは依頼ではない。皇国元帥としての命令だ。ただちに帰宅せよ。この命に背くのであれば、皇族拉致監禁の協力者として、捕縛する!」
スカーレットの言葉に嘘がないことを理解すると、教徒たちは我先にとケラヴノス大聖堂の敷地から争って逃げ出し始めた。
教徒たち全員が姿を消したことを確認すると、スカーレットは銀龍騎士団に向き直った。
「百人を四小隊に分ける。第一小隊は私とともに来い。第二小隊は二階と三階を捜索しろ。第三小隊は四階と五階だ。そして、第四小隊は大聖堂周囲を固めて、全ての入口を封鎖しろ。散開っ!」
スカーレットが右手を掲げて振り落とした。それを合図に、第二から第四小隊が一斉に展開を始めた。
「アルフィと言ったな。私と一緒に来い。ティアが掴まった場所へ案内しろ」
「はい……」
悪魔伯爵二柱の持つ絶大な魔力を思い出して一瞬足が震えたが、スカーレットを信じてアルフィは彼女に続いて走り出した。
(ティア、待ってなさい。必ず助けるから……)
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