金碧の女豹~ディアナの憂鬱 【第二部 悪魔の呱々】

椎名 将也

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第五章 魔女の顎

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 ユピテル皇国の建国神話には、多数の魔族が登場する。そして、その魔族たちを統べる悪魔と呼ばれる存在も伝えられていた。
 悪魔には次のような序列があった。

 悪魔皇帝(デーモンエンペラー)
 悪魔王 (デーモンキング)
 悪魔大公(デーモンロード)
 悪魔公爵(デーモンデューク)
 悪魔侯爵(デーモンマークゥィス)
 悪魔伯爵(デーモンアール)
 悪魔子爵(デーモンヴァイカウント)
 悪魔男爵(デーモンバロン)

 ユピテル皇国の始祖と言われる勇者イシュタールは、三人の仲間たちとともに魔族に挑み、最後に悪魔皇帝アモンを封印したと伝えられる。
 そして、イシュタールに協力した三人が、現在の三大公爵であるヴォルフォート公爵家、サンドバーク公爵家、マカデミリア公爵家の始祖である。皇弟ロイエンタール大公家第一公子であるフレデリック=フォン=ロイエンタールは、その勇者イシュタールの血筋であった。

 しかし、千四百年という長い年月は、イシュタールの血を薄めるには十分過ぎる時間だった。先祖返りとも呼ばれ、神童と言われる姉のスカーレットとは違い、フレデリックには戦闘力がほとんどない。
 大公家嫡男として幼い頃から指導されている剣術でさえも剣士クラスCという為体であった。その代わりに神はフレデリックに、知力という武器を与えた。その武器のおかげでフレデリックは、名門と言われるシュテルネン学園で主席の座を保持し続けることが出来た。

 だが、親友のキャサリンが斬られたことと、自分自身も傷を負わされて拉致されたことで、フレデリック唯一の武器もその能力を霞ませてしまったようだ。
「参ったな、銀龍騎士団にクラスB以上の魔道士っていたかな?」
 スカーレットが団長を務める銀龍騎士団について、フレデリックは詳しく知らなかった。
 魔道笛を使ったのはいいが、肝心のスカーレットに魔道士としての能力がないことを、フレデリックは今更ながらに気づいたのだった。もしスカーレットの部下に魔道笛を感知できる魔道士がいなければ、まったくの無駄になる。

 その時、フレデリックが監禁されている部屋のドアがノックされた。
 フレデリックが入室を許可する前にドアが開かれ、一人の女性が二人の男を引き連れて入ってきた。
 三人とも金糸で刺繍が施された豪奢な司祭服を纏っていた。後ろの男たちの司祭服が紺色であるのに対して、女性の司祭服は青みがかった紫色だった。聖サマルリーナ教において紫は高貴な色とされているはずだ。それなりの地位にある女性なのだろうと、フレデリックは思った。

「ご機嫌はいかがですか、フレデリック殿下」
 女性は柔和な笑みを浮かべながら訊ねてきた。白い肌に絶妙のコントラストを魅せる紅唇が、妙に艶めかしさを感じさせた。
 長い黒髪を真っ直ぐに背中まで伸ばし、司祭服の上からでも豊かな体のラインが分かる美しい女性だった。黒曜石の煌めきを宿す黒瞳は、見る者に意志の強さを感じさせた。
 年齢は二十五歳前後か、姉のスカーレットより少し若いかなとフレデリックは考えた。

「あまりいいとは言えないですね。弓で射られた傷がまだ痛みます。ところで、あなたは?」
 包帯の巻かれた左肩を押さえながら、フレデリックが訊ねた。
「申し遅れました。私はケルヴェノス大聖堂で大司祭をしているアルヴィスと申します。お見知りおきを……。後ろに控えているのは、司祭のヴァラクとエリゴスです」
 アルヴィスに紹介された男たちが、フレデリックに向かって頭を下げた。

「二人とも、あとは私が話します。退出なさい」
 アルヴィスはフレデリックから視線を外さずに男たちへ命じた。二人はアルヴィスのこうした気まぐれに慣れているのか、それとも彼女を信頼しているからか、何も言わずに一礼すると部屋から出て行った。

(護衛じゃなかったのかな……?)
 フレデリックがそう考えていると、アルヴィスがゆっくりと近づいてきた。
 フレデリックの心臓がドクンと跳ねた。鼓動が早くなり、呼吸が小さく激しくなっていく。

 アルヴィスの雰囲気が変わっていた。
 大司祭の持つ清楚さがなりを潜め、代わりに妖艶さとも言える色香がフレデリックを魅了していった。

「何を……」
 フレデリックは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。異様に喉が渇き、全身が熱くなっていくのが自分でも分かった。
「あなた、美味しそうな魂をしているわね。さすがに勇者の血筋を引くだけあるわ」
 そう告げると、アルヴィスは司祭服を脱ぎだした。

「……!」
 形の良い豊かな白い胸が露わになる。鳶色の乳首は硬く尖っていた。
 紫色の司祭服が足元に落ちた。
 細く引き締まった腰と、肉惑的な太ももにフレデリックの視線は釘付けになった。柔らかそうな黒い恥毛に隠された部分は、しっとりと濡れていた。

 全裸になったアルヴィスがフレデリックの目の前まで近づいた。
 彼女の白い指先が、フレデリックの左頬に触れた。その瞬間、フレデリックは股間が硬く勃起するのを感じた。
「あなたを……食べてあげる」
 アルヴィスの濡れた唇が、フレデリックの唇に重なった。絡められた舌から、強烈な快感を感じた。

 フレデリックの理性が溶けた。
 夢中になって芳しい唾液を味わいながら、彼の右手は無意識にアルヴィスの豊かな乳房を揉みしだいていた。
 唇を重ねながら、アルヴィスがフレデリックを寝台へと誘った。
 フレデリックを押し倒すと、アルヴィスは彼の衣服を脱がせていった。

 アルヴィスが硬くなったフレデリック自身を、彼の腰をまたぐ形で自らの股間へ充てがった。熱く濡れそぼったアルヴィスの中に入った瞬間、フレデリックはうめき声を上げた。
 股間を基点として、抑えきれない快感が全身を駆け巡ったのだ。腰から下が溶けてしまうのではないかと思うほどの凄まじい快感だった。

 次の瞬間、フレデリックはアルヴィスの中に欲望を放っていた。
 しかし、アルヴィスの腰の動きは止まるどころか、徐々に激しさを増していった。
「もっと出しなさい。あなたの全てを食べてあげるわ」
 アルヴィスの妖艶さが増していった。
 それは快感を求める女の姿ではなかった。あえて言うのであれば、男を支配し、その魂までも喰らい尽くすような淫猥さと猥褻さに満ちていた。

 男の精を糧とする存在……夢魔(インキュバス)がその本性を現した。

 夢魔は、その美貌と性技で男を虜にして支配し、自らの下僕とする。
 夢魔に下僕とされた男は、夢魔が滅びるまでその支配から抜け出すことは出来なかった。
 フレデリックのうめき声とアルヴィスの喘ぎ声が激しさを増していった。肉と肉がぶつかりこすれあう音と、淫らな水音とが部屋中に響き渡った。

 悪魔公爵アルヴィス=アムドゥシアスは、フレデリックを貪り尽くすがごとく、その行為を続けていった。
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