22 / 40
第五章 魔女の顎
3
しおりを挟む
「ここは……?」
キャサリンは見慣れぬ部屋に寝かされていた。シュテルネン学園の学生寮ではなかった。ベッドも大きく、調度品も見るからに高級そうだった。
体を起こそうとすると、右肩から背中にかけて激痛が走った。
「気がついたか? まだ動かない方がいい。今、部下が回復ポーションを取りに行っている」
寝台の横に一人の女性が座っていた。豪奢な金髪を背中まで流し、スミレ色の瞳に強い意志を秘めてキャサリンを見つめていた。
キャサリンはその女性を知っていた。だが、彼女は驚きのあまり、その名を口に出来なかった。その様子を見て微笑むと、その女性が告げた。
「キャサリン=フォン=マーバラ嬢、お初にお目にかかる。私はスカーレット=フォン=ロイエンタール。フレデリックの姉だ」
「元帥……閣下……」
憧れの女性と言葉を交わし、かつ状況も分からないキャサリンは驚きのあまり、言葉が出てこなかった。
「この度はフレデリックのために大変ご迷惑をかけた。弟に代わり、謝罪する」
スカーレットがキャサリンに頭を下げた。ロイエンタール大公家第一公女であり、ユピテル皇国唯一の元帥であるスカーレットに謝罪され、キャサリンはパニックに陥った。
「いえ……、とんでもございません」
そう告げた瞬間に、キャサリンは思い出したように訊ねた。
「フレディ……フレデリック……様は?」
キャサリンの脳裏に、馬車の襲撃が蘇った。勢い込んで体を起こそうとするが、激痛でとても起き上がれなかった。
「安静にしていた方がいい。動くと傷口が開く」
スカーレットはキャサリンを寝かしつけると、優しく紅い髪を撫でた。
「生き残った御者から聞いた。フレデリックを護ろうとしてくれたそうだな。ありがとう」
「フレディ……フレデリック様は無事ですか?」
「必ず助け出す。あなたは心配しないで治療に専念してくれ」
その言葉で、キャサリンはフレデリックが拉致されたことを知った。
「お護りできず……申し訳ありませんでした」
キャサリンは自分の力不足を強く嘆いた。
「後は私に任せろ。皇国元帥に喧嘩を売ったことを後悔させてやる」
そう告げると、スカーレットは席を立った。
キャサリンは驚いてスカーレットを見つめた。そして、畏怖とも言える感情を覚えて震撼した。
スカーレットの全身から、凄まじい威圧が放たれていた。
皇国騎士団十五万人を叱咤する元帥が、静かだが激しい怒りを放っていた。そのスミレ色の瞳は見る者を焼き尽くさんばかりに紫炎が輝き、豪奢な金髪は風もないのに獅子の鬣のように靡いていた。
フレデリックを誘拐した犯人は、決して敵に回してはいけない相手を激怒させてしまったのだ。
「スカーレット様……お願いします。フレディを……助けてください」
キャサリンは固唾を飲み、かろうじてそれだけを告げた。背中の痛みさえも忘れてしまうほどの威圧だった。
スカーレットはキャサリンの言葉に力強く頷くと、双頭の銀龍の刺繍が入った真紅のマントを翻した。そして、不意に足を止めてキャサリンを振り返った。
「卒業したら、私のところへ来い」
そう告げると、スカーレットは病室を後にした。
キャサリンは、憧れの女性からの言葉に感動を覚えた。そして、スカーレットが必ずフレデリックを助け出してくれることを確信した。
「フレディ……」
(少しでも早く傷を癒やして、スカーレット様とともにフレディを迎えに行こう)
キャサリンは固く心に誓った。
キャサリンは見慣れぬ部屋に寝かされていた。シュテルネン学園の学生寮ではなかった。ベッドも大きく、調度品も見るからに高級そうだった。
体を起こそうとすると、右肩から背中にかけて激痛が走った。
「気がついたか? まだ動かない方がいい。今、部下が回復ポーションを取りに行っている」
寝台の横に一人の女性が座っていた。豪奢な金髪を背中まで流し、スミレ色の瞳に強い意志を秘めてキャサリンを見つめていた。
キャサリンはその女性を知っていた。だが、彼女は驚きのあまり、その名を口に出来なかった。その様子を見て微笑むと、その女性が告げた。
「キャサリン=フォン=マーバラ嬢、お初にお目にかかる。私はスカーレット=フォン=ロイエンタール。フレデリックの姉だ」
「元帥……閣下……」
憧れの女性と言葉を交わし、かつ状況も分からないキャサリンは驚きのあまり、言葉が出てこなかった。
「この度はフレデリックのために大変ご迷惑をかけた。弟に代わり、謝罪する」
スカーレットがキャサリンに頭を下げた。ロイエンタール大公家第一公女であり、ユピテル皇国唯一の元帥であるスカーレットに謝罪され、キャサリンはパニックに陥った。
「いえ……、とんでもございません」
そう告げた瞬間に、キャサリンは思い出したように訊ねた。
「フレディ……フレデリック……様は?」
キャサリンの脳裏に、馬車の襲撃が蘇った。勢い込んで体を起こそうとするが、激痛でとても起き上がれなかった。
「安静にしていた方がいい。動くと傷口が開く」
スカーレットはキャサリンを寝かしつけると、優しく紅い髪を撫でた。
「生き残った御者から聞いた。フレデリックを護ろうとしてくれたそうだな。ありがとう」
「フレディ……フレデリック様は無事ですか?」
「必ず助け出す。あなたは心配しないで治療に専念してくれ」
その言葉で、キャサリンはフレデリックが拉致されたことを知った。
「お護りできず……申し訳ありませんでした」
キャサリンは自分の力不足を強く嘆いた。
「後は私に任せろ。皇国元帥に喧嘩を売ったことを後悔させてやる」
そう告げると、スカーレットは席を立った。
キャサリンは驚いてスカーレットを見つめた。そして、畏怖とも言える感情を覚えて震撼した。
スカーレットの全身から、凄まじい威圧が放たれていた。
皇国騎士団十五万人を叱咤する元帥が、静かだが激しい怒りを放っていた。そのスミレ色の瞳は見る者を焼き尽くさんばかりに紫炎が輝き、豪奢な金髪は風もないのに獅子の鬣のように靡いていた。
フレデリックを誘拐した犯人は、決して敵に回してはいけない相手を激怒させてしまったのだ。
「スカーレット様……お願いします。フレディを……助けてください」
キャサリンは固唾を飲み、かろうじてそれだけを告げた。背中の痛みさえも忘れてしまうほどの威圧だった。
スカーレットはキャサリンの言葉に力強く頷くと、双頭の銀龍の刺繍が入った真紅のマントを翻した。そして、不意に足を止めてキャサリンを振り返った。
「卒業したら、私のところへ来い」
そう告げると、スカーレットは病室を後にした。
キャサリンは、憧れの女性からの言葉に感動を覚えた。そして、スカーレットが必ずフレデリックを助け出してくれることを確信した。
「フレディ……」
(少しでも早く傷を癒やして、スカーレット様とともにフレディを迎えに行こう)
キャサリンは固く心に誓った。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】
うすい
恋愛
【ストーリー】
幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。
そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。
3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。
さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。
【登場人物】
・ななか
広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。
・かつや
不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。
・よしひこ
飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。
・しんじ
工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。
【注意】
※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。
そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。
フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。
※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。
※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。
連続寸止めで、イキたくて泣かされちゃう女の子のお話
まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)
「一日中、イかされちゃうのと、イケないままと、どっちが良い?」
久しぶりの恋人とのお休みに、食事中も映画を見ている時も、ずっと気持ち良くされちゃう女の子のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる