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第三章 伏魔殿

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 意識を取り戻すと、シャロンは己の境遇に愕然とした。
 両手は背中で縛り上げられており、口には猿ぐつわが噛まされていた。そして、衣服はすべて脱がされて、一糸纏わぬ全裸だった。
 美しい碧眼に羞恥と驚愕を映しながら、シャロンは周囲を見渡した。十平方メッツェもない牢獄のような部屋の小さな寝台に寝かされていた。窓一つない部屋は、天井付近に魔法の光玉が浮いていて、淡い光で周囲を照らしていた。寝台の他には用を足すためのたらいが置かれているだけで、他には何一つなかった。

(何なの、これ? どういうこと?)
 混乱する頭で状況を把握しようとしたが、誰かにどこかへ拉致されたことしかシャロンには分からなかった。そして、自分が攫われた理由さえも見当がつかなかった。貴族や裕福な商人の娘でもなく、泊まり込みで宿屋で働く単なる庶民の自分を攫ったところで、金銭を要求できるはずもないことはシャロンにも分かっていた。そうだとすると、目的は自分の体しか考えられなかった。実際に、全裸で拘束されていることからも、その可能性は大きいと考え、シャロンは慄然とした。

(兄さん、助けて……怖い……)
 自分の置かれた立場を認識するにつれ、シャロンの顔色は青白くなっていった。それほど気が強い方ではないシャロンは、次第に恐怖を感じて総身が小刻みに震えだした。美しい碧眼から大粒の涙が溢れ、白い頬を伝って流れ落ちた。

 その時、カチャカチャと鍵を廻す音が部屋の扉から聞こえ、ノックもなく突然扉が開かれた。革鎧を身につけた大柄な男が入ってきて、鋭い目つきでシャロンの裸体を見下ろしていた。
(ひぃっ!)
 シャロンは男の視線を避けるように寝台の上に座ったまま、後ろを向いて体を丸めた。男は扉を閉めると、靴音を響かせながらシャロンに近づいてきた。

(やだ! 怖いっ!)
 一目見た男の体格は大きく、分厚い胸板と太い二の腕をしていた。腕を縛られてなかったとしても、シャロンが力で敵うはずもないことは一目瞭然だった。襲われる恐怖に竦み上がり、シャロンは震えながら固く閉じた眼から涙を流した。

「食事だ」
 男は短く告げると、一枚の皿を寝台の上に置いた。皿の上には、焼きパンが一つ乗っていた。
「猿ぐつわを外してやる。騒ぐな」
 ドスの利いた声でそう告げると、男はシャロンの後ろに立って猿ぐつわを解いた。

「お願い、家に帰して。服を着させて」
 シャロンは顔だけで振り返ると、涙に濡れた碧眼で男を見上げながら言った。
 だが、その懇願を無視して男はシャキンという音とともに剣を抜き放つと、その剣先をシャロンの左首に充てがった。

「ひっ!」
「騒ぐなと言ったはずだ」
 男の言葉にガクガクと頷くと、シャロンは恐怖のあまり総身を痙攣させるように震わせた。溢れ出た涙が、幾筋も頬を伝って流れ落ちた。
「寝台から降りて、こちらを向いて立て」
 男は剣先をシャロンの首から離すと、非情な命令を告げた。両腕を後ろで縛られている状態でその命令を実行すれば、男の目に全てを晒してしまうことになる。薄茶色の髪を舞い乱しながら、シャロンは首を大きく横に振った。

「拒むなら斬る。死にたくなければ言うことを聞け」
 再び男が剣先をシャロンの首に突きつけた。シャロンはおずおずと寝台から降りて、男の前に裸体を晒した。
「お願い……見ないで……」
 羞恥のあまり真っ赤に染めた顔を逸らしながら、シャロンが呟くように告げた。
 男はおもむろに左手を伸ばすと、シャロンの右乳房を鷲づかみにした。そして、その柔らかさを楽しむように揉みしだき始めた。

「いや……やめて……」
 シャロンが逃げようと体を動かした瞬間、右手に持った男の剣がシャロンの首筋に宛がわれ、その動きを封じた。
「歳はいくつだ?」
 シャロンの乳房を揉み上げ、硬くなり始めた乳首を擦りながら、男が世間話でもするかのように訊ねた。
「十六……んっ……やめて……ん、くっ……」
「十六か……。その割にはいい躰をしているな。胸もでかいし、感度も悪くない」
 そう告げると、男は乳首を摘まんで引っ張り上げた。

「ひっ! い、痛いっ! やめてぇ!」
「痛みの後にこうされるとどうだ?」
 男が左手の人差し指で尖った乳首をコリコリと円を描くように転がした。シャロンの裸体がビクンッと震え、顎を反らして抑えきれない喘ぎを漏らした。
「あっ! あ、やめて……あっ、くっう!」
 乳首の先端から広がる甘い刺激がゾクゾクと背筋を舐め上げ、シャロンは総身をビクビクと痙攣させた。生まれて初めて知る愉悦に腰骨が蕩けそうになり、膝がガクガクと震えた。
(何これ……こんな感覚、知らない……)

「そんな小娘で、何を遊んでるの、ジャスティ?」
 突然聞こえてきた声にシャロンが驚いて顔を上げると、いつの間にか男の後ろにローブを着た女が立っていた。見覚えのある赤茶色の髪をした妖艶な美女が、肉厚の唇に笑いを浮かべながらシャロンを見つめていた。
「あなたは、あの時の占い師……」
 涙に濡れた碧眼を驚きのあまり大きく見開くと、その女性を見つめながらシャロンが言った。

「導師がお呼びよ。その娘と遊びたければ、純血の儀式がすんでからにしなさい」
 女占い師は一瞥しただけでシャロンの問いには答えずに、男に向かって言った。
「わかった。すぐに行く」
 そう告げると、男はシャロンに見向きもせずに足早に部屋を出て行った。その姿を呆然と見送っていたシャロンは、ハッと我に返って女占い師に向かって言った。

「お願いです。家に帰してください。縄を解いて、服を着させて」
「悪いけど、それは無理ね。あなたには、純血の儀式に参加してもらうの。その後であなたをどうするかは、導師がお決めになるわ」
「純血の儀式?」
「そう。あたしたちにとって、大切な儀式なの。あなたの破瓜の血を集める儀式よ」
「破瓜の血?」
「処女を失った時に流す血のことよ」
「……!」
 平然と告げた女占い師の言葉に、シャロンは愕然とした。それは誰かがシャロンの処女を奪うと言っていることと同義だった。

「順番からすると、明後日の夜かしら? あなたも大人の女になれるのよ。楽しみにしていることね」
 妖艶な笑顔でそう告げると、女占い師は呆然としているシャロンを残して部屋を出て行った。しばらくして衝撃から立ち直ると、シャロンはへたり込むように床に崩れ落ちた。恐怖と悔しさと嘆かわしさが入り混じった表情を浮かべると、シャロンの碧眼から大粒の涙が流れ落ちた。
「兄さん、助けて……」
 誰一人答える者のいない牢獄の中で、シャロンの嗚咽が響き渡った。
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