56 / 60
終章 闇の王
6.武神の一閃
しおりを挟む
夜叉の勢力は、予想を超えてその版図を広げていた。武蔵国西部を基点として、下総国、上総国をその麾下に治め、現在は安芸国へと攻め入っているとのことであった。武蔵国に放った細作からその情報を得ると、建御雷神は古入間湾から奥東京湾を天鳥船で南に進んで安芸国を目指した。
天照皇大御神からの使者である八咫烏が到着したのは、まさに安芸国の先端にある館山に到着する直前であった。
「カアァアッ……! 建御雷神は即刻、天上宮に戻るべしッ! これは、天照皇大御神の厳命であるッ!」
漆黒の嘴を開いて告げた八咫烏の言葉を聞いて、建御雷神は茫然とした。同席していた咲耶と磐長も、言葉を失って立ち尽くした。
眼下には夜叉の率いる千体近い妖魔が、安房国の領民を相手に一方的な殺戮を行っている地獄絵図が広がっていた。
「この凄惨な光景を目の前にして、私に戻れとおっしゃるのかッ!」
両手の拳を白くなるほど握り締めながら、建御雷神が凄まじい視線で八咫烏を睨みつけた。
「即刻、天上宮に戻るべしッ! これは、天照皇大御神の厳命であるッ!」
同じ言葉を八咫烏が繰り返した。人語を解するとは言え、八咫烏は生きた伝言板に過ぎない。愚直に天照の言葉を伝えるだけで、交渉することは不可能であった。
「建御雷神さま……」
蒼白な表情を浮かべながら、咲耶が建御雷神の顔を見つめた。夜叉一人でも強敵であるのに、千体近い妖魔を咲耶だけで相手にすることなど不可能であった。建御雷神が高天原唯一の戦闘艇である天鳥船でやって来た理由は、その圧倒的な攻撃力で夜叉の配下を一掃するためであったのだ。
「即刻、天上宮に戻るべしッ! これは、天照皇大御神の厳命であるッ!」
八咫烏が三度、天照の言葉を叫んだ。建御雷神の右手が、左腰に佩いた布都御魂の柄を掴んだのを見て、咲耶が驚愕した。
「お止めくださいッ、建御雷神さまッ!」
慌てて建御雷神の右腕に縋り付き、黒曜石の瞳を大きく見開きながら叫んだ。怒りにまかせて天照の使いを斬り殺したら、建御雷神と言えども極刑は免れなかった。
「しかし、咲耶ッ! 夜叉だけならまだしも、千体の妖魔をお前一人で相手にすることなどできぬッ! 今、私が戻ったら、瓊瓊杵尊さまの無念を晴らすどころか、単なる犬死にになるぞッ!」
布都御魂を右手で掴んだまま、建御雷神が叫んだ。本来であれば、天照の使者を前にして刀の柄を掴むだけで重罪なのだ。
「天照さまの勅命に逆らってはなりませぬッ! 私のことは大丈夫じゃッ! 有象無象の妖魔など、たとえ何千体いようと物の数ではありませぬッ! 建御雷神さまは、すぐにご帰還をッ!」
建御雷神の右腕に縋りながら、咲耶が真剣な表情で訴えた。愛する建御雷神を絶対に逆臣にさせるわけにはいかなかった。
「しかし……!」
その時、建御雷神の執務室の扉が突然開かれた。驚いて振り向くと、そこには二人の男女が立っていた。
「その妖魔ども、俺が相手をしてやってもよいぞ!」
燃えるような紅髪を靡かせながら、偉丈夫の男が告げた。その男神から放たれている気の大きさに、咲耶はビクンと体を震わせた。建御雷神に勝るとも劣らない圧倒的な神気だった。
「素戔嗚尊さまッ……!」
布都御魂から右手を離すと、建御雷神がその男神に片膝をついて臣下の礼を取った。咲耶と磐長も慌てて建御雷神に倣って跪いた。
(素戔嗚尊さま……? あの高天原最強と言われる荒ぶる神の……?)
上目遣いに素戔嗚の顔を見つめながら、咲耶は驚きのあまり言葉を失った。
「久しいな、建御雷神……。百年ぶりくらいか? それと、お前が木花咲耶か……? なるほど、噂どおり美しい娘だ……」
濃茶色の瞳で真っ直ぐに咲耶を見据えながら、素戔嗚が笑った。武神の名に恥じない、男らしい笑みだった。
(何故、素戔嗚さまが私の名前を……?)
咲耶の疑問を遮るように、建御雷神が顔を上げて素戔嗚に訊ねた。
「何故、ここに……? 阿修羅と名を変えて、根の堅州国にいらしたのではないですか?」
「天照に呼び出されたのだ。夜叉と木花咲耶をまとめて始末してこいとな……」
そう告げると、素戔嗚は豪快に笑った。
「夜叉はともかく、何故、咲耶の命までを天照さまは取ろうとなさるのですか……?」
建御雷神が緊張しながら、素戔嗚に訊ねた。本当に咲耶を殺そうとするのであれば、素戔嗚と闘う覚悟を建御雷神は瞬時に決めた。建御雷神の全身から、凄まじい神気の炎が燃え上がった。
「早まるな、建御雷神ッ! 俺が今まで大人しく姉上の言葉に従ったことがあるか?」
笑いながら告げた素戔嗚の顔を見て、建御雷神が神気の放出を抑えた。
「そのお言葉を聞いて、安心いたしました……。私は貴方さまと剣を交えたくはありませぬので……」
「そうか……? 俺はお前と一度本気で闘ってみたいぞ! 夜叉と木花咲耶の闘いを見た後で、どうだ……?」
本気とも冗談とも取れぬ口調で、素戔嗚が告げた。
「遠慮いたします……。我らが本気で闘ったら、葦原中国が滅びてしまうでしょうから……」
「それもそうか……。そうなったら、天岩戸に隠れるくらいでは済まなくなるな……」
豪快に笑いながら、素戔嗚が告げた。二人の会話を聞いて、咲耶は戦慄のあまり全身の震えが止まらなかった。
(葦原中国が滅びるほどの闘いって……? この二人、どれだけの神気を秘めておるのじゃ……?)
「初めて御意を得ます、建御雷神さま……。素戔嗚の妹で、九尾狐と申します。この度、兄上がこちらに伺ったのは、夜叉と木花咲耶の闘いに興味を抱いたからでございます……」
素戔嗚の後ろに控えていた女性が、長い漆黒の髪を揺らしながら建御雷神に頭を下げた。見る者を魅了するほど、妖艶な雰囲気に溢れる女性だった。その美しさは咲耶と甲乙付けがたかったが、嬌艶さにおいては圧倒的に九尾狐の方が勝っていた。
「お主が三大妖魔の一人に数えられる九尾狐殿か……。素戔嗚さまの妹であることは存じておる……」
その実は素戔嗚の娘であり、その寵を受ける愛人でもあることは天上宮において秘中の秘であった。素戔嗚が高天原を追放されたのも、実の娘と情を交わすという禁忌を犯したからであった。
「建御雷神……。姉上が木花咲耶を亡き者にしようと考えた理由に心当たりがあるか?」
「いえ……。さっぱりと……」
(私が咲耶を娶ったことが、天照さまのお耳に入ったのか……?)
それ以外に天照が咲耶を殺そうとする理由を、建御雷神は思いつかなかった。だが、それを自分の口から素戔嗚に告げるわけにはいかなかった。万が一、間違っていたら藪蛇になるからである。
「お前が俺と同じ禁忌に触れたからだ。姉上にとって、お前は必要な存在だ。だから、その矛先は木花咲耶に向かった。彼女が夜叉に勝てば、見事に夫の仇を討った妻として処分できなくなる。また、もし負ければ、改めて夜叉討伐軍を出さねばならなくなる。一番都合がよいのは、相討ちになって二人とも死ぬことだ。どちらかが生き残った場合に、その筋書きを描くのが俺の役目と言うわけだ……」
(私と夜叉の相討ちを天照さまが望んでいる……? もしかして、禁忌というのは、建御雷神さまの妻になったことでは……?)
夜叉を倒した場合に報酬として女神の再嫁を認めてもらいたいと告げた時、建御雷神と磐長の猛反対に遭ったことを咲耶は思い出した。そして、建御雷神が次に告げた言葉は、咲耶の予想を証明するものであった。
「なるほど……。天照さまはすでに私が咲耶を娶ったことをご存じでしたか……。だが、貴方さまは先ほど、天照さまのお言葉に従うつもりはないとおっしゃいました。素戔嗚さまご自身は、どうされるお積もりなのでしょうか?」
鋭い視線で素戔嗚を見据えながら、建御雷神が訊ねた。その答えによっては、一戦も辞さぬ覚悟がその金色の瞳に燃えていた。
「ここに来るまでの間、二人の闘いを見てからどうするか決めようと思っていた。だが、木花咲耶……。お前に会って、その考えが変わった」
濃茶色の瞳で真っ直ぐに咲耶を見つめながら、素戔嗚が告げた。
「私に会って……? それはどういう意味でしょうか?」
ゴクリと生唾を飲み込むと、咲耶が緊張しながら訊ねた。素戔嗚がその気になれば、自分など瞬時に殺されてしまうことが実感を伴って咲耶には分かった。それほど素戔嗚が内に秘めた神気は膨大だった。
「国津神にも拘わらず、そこまでの力を得るのは並大抵ではなかったであろう……? どのような修行を積んだ?」
咲耶の実力を一目で見抜くと、興味深そうに素戔嗚が訊ねた。
「建御雷神さまの元で十年、黄泉の国で六十年ほど修行をいたしました……」
「ほう……。伊邪那美のところで六十年か……? 八雷の修行も受けたのか?」
根の堅州国に住むだけあり、素戔嗚は黄泉の国についても詳しいようだった。
「はい。最初の二十年は黄泉醜女のお二人に……。残りの四十年間は八雷の方々に師事いたしました。その最後の十年は、大雷さまの元で修行させていただきました……」
「なるほど……。どおりで、それだけの力を身につけたわけだ。夜叉との闘いが楽しめそうだな。九尾狐……、この女、お前よりも強いぞ」
ニヤリと笑みを浮かべると、右後ろに立つ九尾狐を振り向いて素戔嗚が告げた。
「そのようですわね……。しかし、兄上には遠く及ばぬようですわ」
素戔嗚の言葉にムッとした表情を浮かべると、九尾狐は咲耶を睨みながら告げた。
「それはそうだろう。俺と建御雷神は、別格だからな……。木花咲耶、約束してやろう。夜叉との闘いで生き残っても、お前には手を出さぬと……」
「あ、ありがとうございます、素戔嗚さま……」
ホッと胸を撫で下ろすと、咲耶は笑顔を浮かべて素戔嗚に頭を下げた。
「建御雷神、聞いたとおりだ。後のことは俺に任せて、天上宮に戻れ。木花咲耶と夜叉の闘いは、俺が責任を持って見届けてやろう」
「……。分かりました……。ただし、一つだけお願いがありまする。咲耶が夜叉と闘うために、露払いをして頂きたい……」
夜叉の麾下にいる千体の妖魔を倒してくれるように、建御雷神が頼み込んだ。素戔嗚の力であれば、その程度のことは何の問題もないはずであった。
「高天原の雷神と恐れられるお前が、ずいぶんと過保護なことだな……。まあ、よかろう。無粋な邪魔者は取り除いてやろう」
「ありがとうございます、素戔嗚さま……。咲耶、悪いが私は天上宮に戻らねばならぬ。素戔嗚さまがいらっしゃれば、余計な心配は不要だ。修行の成果を夜叉に見せつけてやれッ!」
「は、はいッ! 建御雷神さまもお気を付けてッ!」
限りない優しさを映した金色の瞳を見つめながら、咲耶が大きく頷いた。その愛情に応えるのが、今の自分の務めであることを咲耶は心に刻み込んだ。
「恐れながら、一言申し上げたき儀がございますッ!」
咲耶の隣で跪いていた磐長が、真剣な表情で素戔嗚を見上げながら叫んだ。
「お前は……?」
「木花咲耶の姉にて、磐長と申します」
素戔嗚の誰何に、磐長が緊張しながら答えた。
「ほう、お前が磐長か……。大山祇神が木花咲耶と一緒に、瓊瓊杵に嫁がせようとした不老長寿の女神か……。その磐長が、何だ……?」
興味深そうな視線で磐長を見つめながら、素戔嗚が訊ねた。
「はい……。咲耶と夜叉の闘いを、私も見届けとうございます。しかし、私の力では、二人の闘いの場に赴くことができませぬ……」
咲耶と夜叉が全力で剣を交えたら、その神気だけで磐長は消し飛ばされてしまうことは明白だった。頼りにしていた建御雷神が天上宮に戻ったら、磐長一人では二人の闘いを見守ることなど不可能だったのだ。
「妹の闘いを見届けたいというのか……。そのために、俺の庇護下に入れて欲しいと……?」
「はいッ! ぜひ、お聞き届けくださいますよう、お願い申し上げますッ!」
床に額を擦りつけながら、磐長が必死に素戔嗚に頼み込んだ。
「姉上……」
磐長の想いに胸を打たれて、咲耶が素戔嗚の顔を見つめた。だが、咲耶が口添えをするよりも早く、建御雷神が告げた。
「素戔嗚さま……。私からもお願い申し上げます。磐長殿は天津神にも勝る慈愛に溢れた女神です。彼女をここまで連れてきたのは、咲耶を想うその気持ちに心を打たれたからです。磐長殿の望み、叶えてやってくれませぬか?」
金色の長い髪を揺らしながら頭を下げた建御雷神を見て、素戔嗚が告げた。
「お前にそこまで言わせるとは、噂どおりの姫だな……。瓊瓊杵も木花咲耶とともにこの姫を娶っておれば、あのようなことにはならなかったものを……」
ニヤリと笑いながら磐長を見つめると、素戔嗚が感嘆したようにため息を付いた。
「分かった、磐長姫。九尾狐と一緒に我が結界の中で、木花咲耶の闘いを見届けるがよい」
「あ、ありがとうございます、素戔嗚さまッ!」
喜びに溢れた表情で素戔嗚を見つめると、磐長は再び深く頭を下げながら叫んだ。
(木花咲耶に似ず、不細工な方ですこと……。しかし、兄上がおっしゃるとおり、この方の神気は滅多にないほど清廉ですわ。不老長寿の女神というのも、伊達ではありませんわね……)
三大妖魔の一人に数えられるだけあり、九尾狐は磐長が持つ神気の性質を一目で見抜いた。
「では、我が結界で皆を包み込んで、地上に降りるぞ。準備はよいか?」
「少しだけ、お時間を……」
素戔嗚の言葉を聞いて、咲耶が隣にいる建御雷神を見つめた。愛する男の顔を見るのが、これが最後になるかも知れなかった。黒曜石の瞳に万感の想いを映すと、咲耶は建御雷神に向かって告げた。
「建御雷神さま……。色々とありがとうございました。瓊瓊杵の妻として、必ずや夫の無念を晴らして見せますッ!」
喉まで出かかった「愛しています」という言葉を、咲耶は強い意志で押さえ込んだ。高天原を追放されたとはいえ、三貴神である素戔嗚の前で建御雷神に対する愛を告げるわけにはいかなかった。万一、その言葉が天照の耳に入ったら、建御雷神の立場を悪化させることが確実であったからだ。
「咲耶、必ず生きて戻ってこい。私がお前を待っていることを忘れるなッ!」
建御雷神も直接の愛情表現は使わなかった。だが、その言葉は紛れもない建御雷神の愛情を咲耶に実感させた。黒曜石の瞳から大粒の涙を流しながら、咲耶が大きく頷いた。
「はい、必ず……。行ってまいりますッ!」
見る者を魅了する笑顔を浮かべると、咲耶は建御雷神に別れを告げた。そして、素戔嗚を振り返ると、強い決意を秘めた視線で彼の精悍な顔を見つめた。
「では、行くぞ……。建御雷神、また会おう!」
素戔嗚が全身から神々しい神気の光を放った。その光輝が、咲耶、磐長、そして九尾狐を包み込んだ。
(さようなら、建御雷神さま……。愛していますッ……!)
その想いと同時に、咲耶の体は素戔嗚の結界の中へ消えていった。これが建御雷神との永遠の別れになるなど、その時の咲耶には予想さえもできなかった。
魑魅魍魎――
百鬼夜行――
跳梁跋扈――
安房国はまさしく妖魔の巣窟と化していた。人々の村や集落はその襲撃を受けて破壊され、原野には妖魔に貪り食われた人骨が散乱していた。黄泉の国にある八大地獄もかくやというほどの凄惨な光景に、咲耶は言葉を失った。
「これは、酷いですわね……。死臭と血の臭いしかしませんわ……」
美しい貌を顰めながら、九尾狐が着物の袖で鼻を押さえた。三大妖魔の一人である九尾狐でさえも、これほどの光景は初めて眼にしたのだった。
「許せぬッ! これがすべて夜叉の命によるものなのかッ!」
黒曜石の瞳に激しい怒りと嫌悪を映しながら、咲耶が叫んだ。咲耶の足元には、内臓を食い破られた子供の死体が転がっていた。鬼哭啾々たる痕跡に、磐長は蒼白な表情で言葉を失っていた。
「この惨状は目に余るな……。温厚な俺も、さすがにこの手で夜叉を殺したくなった。木花咲耶、天照とどのような誓約を立てたか教えろッ!」
濃茶色の瞳に凄まじい怒りを浮かべながら、素戔嗚が叫んだ。
「は、はいッ! 天照さまとのお約束は、三十年以内に私一人で夜叉を倒すというものですッ! あと三日で、その期日が来ますッ!」
素戔嗚の激しい言葉に、咲耶はビクンと体を震わせながら答えた。高天原随一の荒ぶる神が放つ神気は、咲耶を震撼させるには十分過ぎるものだった。
「お前一人で夜叉を倒す、か……! つまり、夜叉とお前の闘いに、俺が介入することはできないということだな……。分かったッ! 建御雷神が言ったとおり、俺は配下の妖魔を一匹残らず殺してやるッ! 夜叉はお前に任せるぞッ! 絶対に奴の息の根を止めろッ!」
「は、はいッ! 必ずッ!」
壮絶な神気を纏った素戔嗚の姿に、咲耶は圧倒されながら答えた。
「兄上、あちらの方角に土煙が……。たぶん、妖魔どもだと思われますわ」
細く長い右手の人差し指で南西の方向を指しながら、九尾狐が告げた。その星々の煌めきを映す黒瞳にも、激しい怒りが浮かんでいることに咲耶は気づいた。
「およそ一里半(六キロ)だな……。磐長、俺に負ぶされ!」
「そ、そんな……! 恐れ多い……」
天照皇大御神の弟神である素戔嗚に背負われるなど、国津神でしかない磐長にできるはずがなかった。
「つまらぬことを言うなッ! 九尾狐と木花咲耶は、俺の速度に付いてこられる。付いてこられないお前を背負うのは当然だッ!」
そう告げると、素戔嗚は磐長の前でしゃがみ込んだ。その広い背に、磐長は躊躇いながら体を預けた。
「行くぞッ! 遅れるなよッ!」
磐長を背負うと、凄まじい速度で素戔嗚が走り出した。紛れもなく、一歩目から全速であった。
一里半の道のりを瞬く間に駆け抜けると、素戔嗚は磐長を下ろしてその身に結界を張った。目の前には千体近い妖魔が群れを成していた。
鬼族を始め、蛇族や大猿族、虎狼族など、ありとあらゆる妖魔が咲耶たちを一斉に取り囲んできた。その凄まじい妖気の奔流に、咲耶は緊張のあまり全身を強張らせた。一体一体であれば、十分に勝てる妖魔たちであった。だが、その圧倒的な数の暴力は、黄泉の国での剣技を修めた咲耶に取ってさえ容易ならざるものであった。
「夜叉ッ! 我が名は、阿修羅だッ! 俺の声が聞こえたならば、震撼するがいいッ! 今からお前の配下を根絶やしにするッ!」
そう告げると、素戔嗚は右手を高々と天に向けた。そして、その全身から直視できないほどの壮絶な神気を放つと、その光輝を右手に収斂させた。
次の瞬間には、素戔嗚の右手の中に超大な神槍が具現化した。
<火尖鎗>――
それは古代中国最強の武神、那咜が用いたとされる伝説の槍であった。穂先から火焔を吹き放つと言われ、伊邪那岐と伊邪那美が天地創造に使った<天之瓊矛>に勝るとも劣らぬ神力を有していた。
「我が力、とくとその眼に灼きつけいッ……!」
大気を切り裂く轟音とともに、素戔嗚が<火尖鎗>を右から左へと一閃した。
次の瞬間、伝説が真実であったことが証明された。<火尖鎗>の穂先から超大な火焔が噴出すると、壮絶な劫火となって周囲を席巻した。
それは太陽が放出する真紅の金環そのものであった。鉄をも熔解させる超高熱の火焔刃が、大地を揺るがす爆音とともに妖魔の群れに襲いかかった。
断末魔の絶叫を上げる暇もなく、千体に及ぶ妖魔すべてが一瞬のうちに消滅した。肉片どころか、一片の骨さえ残さずに妖魔の体が黒炭となって消し飛んだのである。
後には直径二半里(十キロ)にも及ぶ巨大な陥没と、真っ黒に炭化した大地だけが残された。
「なッ……!」
黒曜石の瞳を限界まで見開いて、咲耶は言葉を失った。これほどの破壊力を持つ攻撃を見たのは、生まれて初めてだった。無意識に全身がガタガタと慄え、背筋を冷たい汗が流れ落ちた。
(何という威力じゃ……! 建御雷神さまがおっしゃった言葉は、真実じゃった……)
『我らが本気で闘ったら、葦原中国が滅びてしまうでしょうから……』
それが何の誇張もない事実を述べた言葉であることを、咲耶は実感を込めて理解した。高天原が誇る最強の武神素戔嗚は、たった一振り槍を薙いだだけで千体に及ぶ妖魔の群れを消滅させ、大地を巨大な陥没と化したのである。
「夜叉ッ……! お前がそこにいるのは分かっているッ! 結界を解いて姿を現せッ!」
言語を絶する攻撃を行ったにも拘わらず、普段と変わらぬ表情のまま素戔嗚が叫んだ。それは、今の超絶な一閃でさえ、素戔嗚にとっては本気の攻撃ではなかった何よりの証拠であった。
咲耶たちから三百三十尺(百メートル)ほど正面の空間が、漆黒の闇に変わり、ゆらゆらと揺らぎ始めた。その波動が徐々に大きくなっていき、闇の中から一体の人影が姿を現した。
不死者の王……、闇の帝王……。そんな言葉さえも、目の前に佇む存在を言い表すには不完全であった。人の叡智など嘲笑うかのような圧倒的な存在感が咲耶の全身を襲い、その精神を圧倒的な妖気で縛り付けた。それは、存在そのものが異質であり、異端であった。
強いて言うのであれば、『原初の混沌』そのものであった。
身長は六尺三寸(百九十センチ)くらいか。美の化身とも言えるほど整った容貌に、漆黒の髪を後ろに流した精悍な男だった。細身だが引き締まった肉体に、上質な黒い西洋服を身につけた見る者を魅了するほどの美青年であった。
その眼と口元が人間のそれであれば……。
切れ長の眼には爛々と赤光を放つ真紅の瞳が輝き、男にしては紅すぎる唇からは、長い乱杭歯が二本伸びていた。
だが、真に驚愕すべきはその外見ではなく、この男が放つ妖気であった。圧倒的な……膨大な……凄まじい……どのような形容詞も、この妖気を表現するには不十分すぎた。
(こやつが、夜叉か……!)
壮絶な鬼気に萎縮しそうになる気持ちを奮い立たせると、咲耶は目の前に現れた男の姿を見据えた。その男から感じる凄絶な妖気に、咲耶は無意識に右手で<咲耶刀>の柄を掴んでいた。
「お前が阿修羅……素戔嗚か……? まさか、我が同胞らをたった一振りで消し飛ばすとは、恐ろしい力の持ち主よ……」
赤光を放つ真紅の瞳で、夜叉が素戔嗚の精悍な顔を見据えながら告げた。
「ほう……。貴様が夜叉か……。想像していたよりも力があるようだな。本来であれば俺が遊んでやるところだが、残念ながら天照との誓約によってそれができぬ。貴様の相手は、ここにいる木花咲耶だ」
ニヤリと楽しそうな笑みを浮かべながら、素戔嗚が隣りに立つ咲耶の顔を見つめた。
「私の名は木花咲耶……。お主に殺された瓊瓊杵の妻じゃッ! 夫の無念、晴らさせてもらうぞッ!」
両脚を前後に大きく開き、居合の姿勢を取りながら咲耶が告げた。その黒曜石の瞳は爛々と輝き、夜叉の赤光を真っ直ぐに見つめていた。
「瓊瓊杵……? ああ、思い出したぞ! 三十年ほど前に、この剣を我にもたらした天照の遣いか……?」
そう告げると、夜叉は左腰に佩いていた宝剣を抜き放ち、右手で真横に構えながら咲耶たちに見せつけた。
「それは、<天叢雲剣>ッ……! 瓊瓊杵から奪ったのかッ?」
凄まじい殺気を秘めた濃茶色の瞳で、素戔嗚が夜叉を睨みつけた。
<天叢雲剣>……またの銘を、<草薙剣>という。その正当な持ち主は素戔嗚であり、彼が八岐大蛇の尾から取り出した神剣であった。八咫の鏡・八坂瓊曲玉とともに、高天原における三種の神器の一つでもある。
「瓊瓊杵さまを殺し、その刀を奪ったのかッ!」
凄まじい激昂に駆られ、咲耶が叫んだ。武士にとって、刀は命よりも大切な魂そのものである。愛する夫を殺し、その魂さえも奪い取った夜叉を、激甚な怒りを湛えた黒曜石の瞳で咲耶は睨みつけた。
「咲耶、遠慮することはないッ! お前の持つすべての力を持って、<天叢雲剣>を奪い返せッ!」
咲耶の怒りを理解し、素戔嗚が濃茶色の瞳を凄まじい瞋怒に見開きながら叫んだ。
「ハッ……! 必ずや、瓊瓊杵さまの魂を取り戻しますッ!」
そう言い放つと、咲耶は夜叉を見据えながら裂帛の気合いとともに、<咲耶刀>で居合抜きを放った。
「木花咲耶、参るッ! ハァアアッ……!」
神速で抜き放たれた刀身から、超絶な光輝の神刃が三日月の刃となって翔破した。直径七尺(二メートル十センチ)にも及ぶ巨大な神刃が、凄まじい破壊力と速度を持って夜叉に襲いかかった。
古代日本における最大の闘いが、今、火蓋を切って始まった。
天照皇大御神からの使者である八咫烏が到着したのは、まさに安芸国の先端にある館山に到着する直前であった。
「カアァアッ……! 建御雷神は即刻、天上宮に戻るべしッ! これは、天照皇大御神の厳命であるッ!」
漆黒の嘴を開いて告げた八咫烏の言葉を聞いて、建御雷神は茫然とした。同席していた咲耶と磐長も、言葉を失って立ち尽くした。
眼下には夜叉の率いる千体近い妖魔が、安房国の領民を相手に一方的な殺戮を行っている地獄絵図が広がっていた。
「この凄惨な光景を目の前にして、私に戻れとおっしゃるのかッ!」
両手の拳を白くなるほど握り締めながら、建御雷神が凄まじい視線で八咫烏を睨みつけた。
「即刻、天上宮に戻るべしッ! これは、天照皇大御神の厳命であるッ!」
同じ言葉を八咫烏が繰り返した。人語を解するとは言え、八咫烏は生きた伝言板に過ぎない。愚直に天照の言葉を伝えるだけで、交渉することは不可能であった。
「建御雷神さま……」
蒼白な表情を浮かべながら、咲耶が建御雷神の顔を見つめた。夜叉一人でも強敵であるのに、千体近い妖魔を咲耶だけで相手にすることなど不可能であった。建御雷神が高天原唯一の戦闘艇である天鳥船でやって来た理由は、その圧倒的な攻撃力で夜叉の配下を一掃するためであったのだ。
「即刻、天上宮に戻るべしッ! これは、天照皇大御神の厳命であるッ!」
八咫烏が三度、天照の言葉を叫んだ。建御雷神の右手が、左腰に佩いた布都御魂の柄を掴んだのを見て、咲耶が驚愕した。
「お止めくださいッ、建御雷神さまッ!」
慌てて建御雷神の右腕に縋り付き、黒曜石の瞳を大きく見開きながら叫んだ。怒りにまかせて天照の使いを斬り殺したら、建御雷神と言えども極刑は免れなかった。
「しかし、咲耶ッ! 夜叉だけならまだしも、千体の妖魔をお前一人で相手にすることなどできぬッ! 今、私が戻ったら、瓊瓊杵尊さまの無念を晴らすどころか、単なる犬死にになるぞッ!」
布都御魂を右手で掴んだまま、建御雷神が叫んだ。本来であれば、天照の使者を前にして刀の柄を掴むだけで重罪なのだ。
「天照さまの勅命に逆らってはなりませぬッ! 私のことは大丈夫じゃッ! 有象無象の妖魔など、たとえ何千体いようと物の数ではありませぬッ! 建御雷神さまは、すぐにご帰還をッ!」
建御雷神の右腕に縋りながら、咲耶が真剣な表情で訴えた。愛する建御雷神を絶対に逆臣にさせるわけにはいかなかった。
「しかし……!」
その時、建御雷神の執務室の扉が突然開かれた。驚いて振り向くと、そこには二人の男女が立っていた。
「その妖魔ども、俺が相手をしてやってもよいぞ!」
燃えるような紅髪を靡かせながら、偉丈夫の男が告げた。その男神から放たれている気の大きさに、咲耶はビクンと体を震わせた。建御雷神に勝るとも劣らない圧倒的な神気だった。
「素戔嗚尊さまッ……!」
布都御魂から右手を離すと、建御雷神がその男神に片膝をついて臣下の礼を取った。咲耶と磐長も慌てて建御雷神に倣って跪いた。
(素戔嗚尊さま……? あの高天原最強と言われる荒ぶる神の……?)
上目遣いに素戔嗚の顔を見つめながら、咲耶は驚きのあまり言葉を失った。
「久しいな、建御雷神……。百年ぶりくらいか? それと、お前が木花咲耶か……? なるほど、噂どおり美しい娘だ……」
濃茶色の瞳で真っ直ぐに咲耶を見据えながら、素戔嗚が笑った。武神の名に恥じない、男らしい笑みだった。
(何故、素戔嗚さまが私の名前を……?)
咲耶の疑問を遮るように、建御雷神が顔を上げて素戔嗚に訊ねた。
「何故、ここに……? 阿修羅と名を変えて、根の堅州国にいらしたのではないですか?」
「天照に呼び出されたのだ。夜叉と木花咲耶をまとめて始末してこいとな……」
そう告げると、素戔嗚は豪快に笑った。
「夜叉はともかく、何故、咲耶の命までを天照さまは取ろうとなさるのですか……?」
建御雷神が緊張しながら、素戔嗚に訊ねた。本当に咲耶を殺そうとするのであれば、素戔嗚と闘う覚悟を建御雷神は瞬時に決めた。建御雷神の全身から、凄まじい神気の炎が燃え上がった。
「早まるな、建御雷神ッ! 俺が今まで大人しく姉上の言葉に従ったことがあるか?」
笑いながら告げた素戔嗚の顔を見て、建御雷神が神気の放出を抑えた。
「そのお言葉を聞いて、安心いたしました……。私は貴方さまと剣を交えたくはありませぬので……」
「そうか……? 俺はお前と一度本気で闘ってみたいぞ! 夜叉と木花咲耶の闘いを見た後で、どうだ……?」
本気とも冗談とも取れぬ口調で、素戔嗚が告げた。
「遠慮いたします……。我らが本気で闘ったら、葦原中国が滅びてしまうでしょうから……」
「それもそうか……。そうなったら、天岩戸に隠れるくらいでは済まなくなるな……」
豪快に笑いながら、素戔嗚が告げた。二人の会話を聞いて、咲耶は戦慄のあまり全身の震えが止まらなかった。
(葦原中国が滅びるほどの闘いって……? この二人、どれだけの神気を秘めておるのじゃ……?)
「初めて御意を得ます、建御雷神さま……。素戔嗚の妹で、九尾狐と申します。この度、兄上がこちらに伺ったのは、夜叉と木花咲耶の闘いに興味を抱いたからでございます……」
素戔嗚の後ろに控えていた女性が、長い漆黒の髪を揺らしながら建御雷神に頭を下げた。見る者を魅了するほど、妖艶な雰囲気に溢れる女性だった。その美しさは咲耶と甲乙付けがたかったが、嬌艶さにおいては圧倒的に九尾狐の方が勝っていた。
「お主が三大妖魔の一人に数えられる九尾狐殿か……。素戔嗚さまの妹であることは存じておる……」
その実は素戔嗚の娘であり、その寵を受ける愛人でもあることは天上宮において秘中の秘であった。素戔嗚が高天原を追放されたのも、実の娘と情を交わすという禁忌を犯したからであった。
「建御雷神……。姉上が木花咲耶を亡き者にしようと考えた理由に心当たりがあるか?」
「いえ……。さっぱりと……」
(私が咲耶を娶ったことが、天照さまのお耳に入ったのか……?)
それ以外に天照が咲耶を殺そうとする理由を、建御雷神は思いつかなかった。だが、それを自分の口から素戔嗚に告げるわけにはいかなかった。万が一、間違っていたら藪蛇になるからである。
「お前が俺と同じ禁忌に触れたからだ。姉上にとって、お前は必要な存在だ。だから、その矛先は木花咲耶に向かった。彼女が夜叉に勝てば、見事に夫の仇を討った妻として処分できなくなる。また、もし負ければ、改めて夜叉討伐軍を出さねばならなくなる。一番都合がよいのは、相討ちになって二人とも死ぬことだ。どちらかが生き残った場合に、その筋書きを描くのが俺の役目と言うわけだ……」
(私と夜叉の相討ちを天照さまが望んでいる……? もしかして、禁忌というのは、建御雷神さまの妻になったことでは……?)
夜叉を倒した場合に報酬として女神の再嫁を認めてもらいたいと告げた時、建御雷神と磐長の猛反対に遭ったことを咲耶は思い出した。そして、建御雷神が次に告げた言葉は、咲耶の予想を証明するものであった。
「なるほど……。天照さまはすでに私が咲耶を娶ったことをご存じでしたか……。だが、貴方さまは先ほど、天照さまのお言葉に従うつもりはないとおっしゃいました。素戔嗚さまご自身は、どうされるお積もりなのでしょうか?」
鋭い視線で素戔嗚を見据えながら、建御雷神が訊ねた。その答えによっては、一戦も辞さぬ覚悟がその金色の瞳に燃えていた。
「ここに来るまでの間、二人の闘いを見てからどうするか決めようと思っていた。だが、木花咲耶……。お前に会って、その考えが変わった」
濃茶色の瞳で真っ直ぐに咲耶を見つめながら、素戔嗚が告げた。
「私に会って……? それはどういう意味でしょうか?」
ゴクリと生唾を飲み込むと、咲耶が緊張しながら訊ねた。素戔嗚がその気になれば、自分など瞬時に殺されてしまうことが実感を伴って咲耶には分かった。それほど素戔嗚が内に秘めた神気は膨大だった。
「国津神にも拘わらず、そこまでの力を得るのは並大抵ではなかったであろう……? どのような修行を積んだ?」
咲耶の実力を一目で見抜くと、興味深そうに素戔嗚が訊ねた。
「建御雷神さまの元で十年、黄泉の国で六十年ほど修行をいたしました……」
「ほう……。伊邪那美のところで六十年か……? 八雷の修行も受けたのか?」
根の堅州国に住むだけあり、素戔嗚は黄泉の国についても詳しいようだった。
「はい。最初の二十年は黄泉醜女のお二人に……。残りの四十年間は八雷の方々に師事いたしました。その最後の十年は、大雷さまの元で修行させていただきました……」
「なるほど……。どおりで、それだけの力を身につけたわけだ。夜叉との闘いが楽しめそうだな。九尾狐……、この女、お前よりも強いぞ」
ニヤリと笑みを浮かべると、右後ろに立つ九尾狐を振り向いて素戔嗚が告げた。
「そのようですわね……。しかし、兄上には遠く及ばぬようですわ」
素戔嗚の言葉にムッとした表情を浮かべると、九尾狐は咲耶を睨みながら告げた。
「それはそうだろう。俺と建御雷神は、別格だからな……。木花咲耶、約束してやろう。夜叉との闘いで生き残っても、お前には手を出さぬと……」
「あ、ありがとうございます、素戔嗚さま……」
ホッと胸を撫で下ろすと、咲耶は笑顔を浮かべて素戔嗚に頭を下げた。
「建御雷神、聞いたとおりだ。後のことは俺に任せて、天上宮に戻れ。木花咲耶と夜叉の闘いは、俺が責任を持って見届けてやろう」
「……。分かりました……。ただし、一つだけお願いがありまする。咲耶が夜叉と闘うために、露払いをして頂きたい……」
夜叉の麾下にいる千体の妖魔を倒してくれるように、建御雷神が頼み込んだ。素戔嗚の力であれば、その程度のことは何の問題もないはずであった。
「高天原の雷神と恐れられるお前が、ずいぶんと過保護なことだな……。まあ、よかろう。無粋な邪魔者は取り除いてやろう」
「ありがとうございます、素戔嗚さま……。咲耶、悪いが私は天上宮に戻らねばならぬ。素戔嗚さまがいらっしゃれば、余計な心配は不要だ。修行の成果を夜叉に見せつけてやれッ!」
「は、はいッ! 建御雷神さまもお気を付けてッ!」
限りない優しさを映した金色の瞳を見つめながら、咲耶が大きく頷いた。その愛情に応えるのが、今の自分の務めであることを咲耶は心に刻み込んだ。
「恐れながら、一言申し上げたき儀がございますッ!」
咲耶の隣で跪いていた磐長が、真剣な表情で素戔嗚を見上げながら叫んだ。
「お前は……?」
「木花咲耶の姉にて、磐長と申します」
素戔嗚の誰何に、磐長が緊張しながら答えた。
「ほう、お前が磐長か……。大山祇神が木花咲耶と一緒に、瓊瓊杵に嫁がせようとした不老長寿の女神か……。その磐長が、何だ……?」
興味深そうな視線で磐長を見つめながら、素戔嗚が訊ねた。
「はい……。咲耶と夜叉の闘いを、私も見届けとうございます。しかし、私の力では、二人の闘いの場に赴くことができませぬ……」
咲耶と夜叉が全力で剣を交えたら、その神気だけで磐長は消し飛ばされてしまうことは明白だった。頼りにしていた建御雷神が天上宮に戻ったら、磐長一人では二人の闘いを見守ることなど不可能だったのだ。
「妹の闘いを見届けたいというのか……。そのために、俺の庇護下に入れて欲しいと……?」
「はいッ! ぜひ、お聞き届けくださいますよう、お願い申し上げますッ!」
床に額を擦りつけながら、磐長が必死に素戔嗚に頼み込んだ。
「姉上……」
磐長の想いに胸を打たれて、咲耶が素戔嗚の顔を見つめた。だが、咲耶が口添えをするよりも早く、建御雷神が告げた。
「素戔嗚さま……。私からもお願い申し上げます。磐長殿は天津神にも勝る慈愛に溢れた女神です。彼女をここまで連れてきたのは、咲耶を想うその気持ちに心を打たれたからです。磐長殿の望み、叶えてやってくれませぬか?」
金色の長い髪を揺らしながら頭を下げた建御雷神を見て、素戔嗚が告げた。
「お前にそこまで言わせるとは、噂どおりの姫だな……。瓊瓊杵も木花咲耶とともにこの姫を娶っておれば、あのようなことにはならなかったものを……」
ニヤリと笑いながら磐長を見つめると、素戔嗚が感嘆したようにため息を付いた。
「分かった、磐長姫。九尾狐と一緒に我が結界の中で、木花咲耶の闘いを見届けるがよい」
「あ、ありがとうございます、素戔嗚さまッ!」
喜びに溢れた表情で素戔嗚を見つめると、磐長は再び深く頭を下げながら叫んだ。
(木花咲耶に似ず、不細工な方ですこと……。しかし、兄上がおっしゃるとおり、この方の神気は滅多にないほど清廉ですわ。不老長寿の女神というのも、伊達ではありませんわね……)
三大妖魔の一人に数えられるだけあり、九尾狐は磐長が持つ神気の性質を一目で見抜いた。
「では、我が結界で皆を包み込んで、地上に降りるぞ。準備はよいか?」
「少しだけ、お時間を……」
素戔嗚の言葉を聞いて、咲耶が隣にいる建御雷神を見つめた。愛する男の顔を見るのが、これが最後になるかも知れなかった。黒曜石の瞳に万感の想いを映すと、咲耶は建御雷神に向かって告げた。
「建御雷神さま……。色々とありがとうございました。瓊瓊杵の妻として、必ずや夫の無念を晴らして見せますッ!」
喉まで出かかった「愛しています」という言葉を、咲耶は強い意志で押さえ込んだ。高天原を追放されたとはいえ、三貴神である素戔嗚の前で建御雷神に対する愛を告げるわけにはいかなかった。万一、その言葉が天照の耳に入ったら、建御雷神の立場を悪化させることが確実であったからだ。
「咲耶、必ず生きて戻ってこい。私がお前を待っていることを忘れるなッ!」
建御雷神も直接の愛情表現は使わなかった。だが、その言葉は紛れもない建御雷神の愛情を咲耶に実感させた。黒曜石の瞳から大粒の涙を流しながら、咲耶が大きく頷いた。
「はい、必ず……。行ってまいりますッ!」
見る者を魅了する笑顔を浮かべると、咲耶は建御雷神に別れを告げた。そして、素戔嗚を振り返ると、強い決意を秘めた視線で彼の精悍な顔を見つめた。
「では、行くぞ……。建御雷神、また会おう!」
素戔嗚が全身から神々しい神気の光を放った。その光輝が、咲耶、磐長、そして九尾狐を包み込んだ。
(さようなら、建御雷神さま……。愛していますッ……!)
その想いと同時に、咲耶の体は素戔嗚の結界の中へ消えていった。これが建御雷神との永遠の別れになるなど、その時の咲耶には予想さえもできなかった。
魑魅魍魎――
百鬼夜行――
跳梁跋扈――
安房国はまさしく妖魔の巣窟と化していた。人々の村や集落はその襲撃を受けて破壊され、原野には妖魔に貪り食われた人骨が散乱していた。黄泉の国にある八大地獄もかくやというほどの凄惨な光景に、咲耶は言葉を失った。
「これは、酷いですわね……。死臭と血の臭いしかしませんわ……」
美しい貌を顰めながら、九尾狐が着物の袖で鼻を押さえた。三大妖魔の一人である九尾狐でさえも、これほどの光景は初めて眼にしたのだった。
「許せぬッ! これがすべて夜叉の命によるものなのかッ!」
黒曜石の瞳に激しい怒りと嫌悪を映しながら、咲耶が叫んだ。咲耶の足元には、内臓を食い破られた子供の死体が転がっていた。鬼哭啾々たる痕跡に、磐長は蒼白な表情で言葉を失っていた。
「この惨状は目に余るな……。温厚な俺も、さすがにこの手で夜叉を殺したくなった。木花咲耶、天照とどのような誓約を立てたか教えろッ!」
濃茶色の瞳に凄まじい怒りを浮かべながら、素戔嗚が叫んだ。
「は、はいッ! 天照さまとのお約束は、三十年以内に私一人で夜叉を倒すというものですッ! あと三日で、その期日が来ますッ!」
素戔嗚の激しい言葉に、咲耶はビクンと体を震わせながら答えた。高天原随一の荒ぶる神が放つ神気は、咲耶を震撼させるには十分過ぎるものだった。
「お前一人で夜叉を倒す、か……! つまり、夜叉とお前の闘いに、俺が介入することはできないということだな……。分かったッ! 建御雷神が言ったとおり、俺は配下の妖魔を一匹残らず殺してやるッ! 夜叉はお前に任せるぞッ! 絶対に奴の息の根を止めろッ!」
「は、はいッ! 必ずッ!」
壮絶な神気を纏った素戔嗚の姿に、咲耶は圧倒されながら答えた。
「兄上、あちらの方角に土煙が……。たぶん、妖魔どもだと思われますわ」
細く長い右手の人差し指で南西の方向を指しながら、九尾狐が告げた。その星々の煌めきを映す黒瞳にも、激しい怒りが浮かんでいることに咲耶は気づいた。
「およそ一里半(六キロ)だな……。磐長、俺に負ぶされ!」
「そ、そんな……! 恐れ多い……」
天照皇大御神の弟神である素戔嗚に背負われるなど、国津神でしかない磐長にできるはずがなかった。
「つまらぬことを言うなッ! 九尾狐と木花咲耶は、俺の速度に付いてこられる。付いてこられないお前を背負うのは当然だッ!」
そう告げると、素戔嗚は磐長の前でしゃがみ込んだ。その広い背に、磐長は躊躇いながら体を預けた。
「行くぞッ! 遅れるなよッ!」
磐長を背負うと、凄まじい速度で素戔嗚が走り出した。紛れもなく、一歩目から全速であった。
一里半の道のりを瞬く間に駆け抜けると、素戔嗚は磐長を下ろしてその身に結界を張った。目の前には千体近い妖魔が群れを成していた。
鬼族を始め、蛇族や大猿族、虎狼族など、ありとあらゆる妖魔が咲耶たちを一斉に取り囲んできた。その凄まじい妖気の奔流に、咲耶は緊張のあまり全身を強張らせた。一体一体であれば、十分に勝てる妖魔たちであった。だが、その圧倒的な数の暴力は、黄泉の国での剣技を修めた咲耶に取ってさえ容易ならざるものであった。
「夜叉ッ! 我が名は、阿修羅だッ! 俺の声が聞こえたならば、震撼するがいいッ! 今からお前の配下を根絶やしにするッ!」
そう告げると、素戔嗚は右手を高々と天に向けた。そして、その全身から直視できないほどの壮絶な神気を放つと、その光輝を右手に収斂させた。
次の瞬間には、素戔嗚の右手の中に超大な神槍が具現化した。
<火尖鎗>――
それは古代中国最強の武神、那咜が用いたとされる伝説の槍であった。穂先から火焔を吹き放つと言われ、伊邪那岐と伊邪那美が天地創造に使った<天之瓊矛>に勝るとも劣らぬ神力を有していた。
「我が力、とくとその眼に灼きつけいッ……!」
大気を切り裂く轟音とともに、素戔嗚が<火尖鎗>を右から左へと一閃した。
次の瞬間、伝説が真実であったことが証明された。<火尖鎗>の穂先から超大な火焔が噴出すると、壮絶な劫火となって周囲を席巻した。
それは太陽が放出する真紅の金環そのものであった。鉄をも熔解させる超高熱の火焔刃が、大地を揺るがす爆音とともに妖魔の群れに襲いかかった。
断末魔の絶叫を上げる暇もなく、千体に及ぶ妖魔すべてが一瞬のうちに消滅した。肉片どころか、一片の骨さえ残さずに妖魔の体が黒炭となって消し飛んだのである。
後には直径二半里(十キロ)にも及ぶ巨大な陥没と、真っ黒に炭化した大地だけが残された。
「なッ……!」
黒曜石の瞳を限界まで見開いて、咲耶は言葉を失った。これほどの破壊力を持つ攻撃を見たのは、生まれて初めてだった。無意識に全身がガタガタと慄え、背筋を冷たい汗が流れ落ちた。
(何という威力じゃ……! 建御雷神さまがおっしゃった言葉は、真実じゃった……)
『我らが本気で闘ったら、葦原中国が滅びてしまうでしょうから……』
それが何の誇張もない事実を述べた言葉であることを、咲耶は実感を込めて理解した。高天原が誇る最強の武神素戔嗚は、たった一振り槍を薙いだだけで千体に及ぶ妖魔の群れを消滅させ、大地を巨大な陥没と化したのである。
「夜叉ッ……! お前がそこにいるのは分かっているッ! 結界を解いて姿を現せッ!」
言語を絶する攻撃を行ったにも拘わらず、普段と変わらぬ表情のまま素戔嗚が叫んだ。それは、今の超絶な一閃でさえ、素戔嗚にとっては本気の攻撃ではなかった何よりの証拠であった。
咲耶たちから三百三十尺(百メートル)ほど正面の空間が、漆黒の闇に変わり、ゆらゆらと揺らぎ始めた。その波動が徐々に大きくなっていき、闇の中から一体の人影が姿を現した。
不死者の王……、闇の帝王……。そんな言葉さえも、目の前に佇む存在を言い表すには不完全であった。人の叡智など嘲笑うかのような圧倒的な存在感が咲耶の全身を襲い、その精神を圧倒的な妖気で縛り付けた。それは、存在そのものが異質であり、異端であった。
強いて言うのであれば、『原初の混沌』そのものであった。
身長は六尺三寸(百九十センチ)くらいか。美の化身とも言えるほど整った容貌に、漆黒の髪を後ろに流した精悍な男だった。細身だが引き締まった肉体に、上質な黒い西洋服を身につけた見る者を魅了するほどの美青年であった。
その眼と口元が人間のそれであれば……。
切れ長の眼には爛々と赤光を放つ真紅の瞳が輝き、男にしては紅すぎる唇からは、長い乱杭歯が二本伸びていた。
だが、真に驚愕すべきはその外見ではなく、この男が放つ妖気であった。圧倒的な……膨大な……凄まじい……どのような形容詞も、この妖気を表現するには不十分すぎた。
(こやつが、夜叉か……!)
壮絶な鬼気に萎縮しそうになる気持ちを奮い立たせると、咲耶は目の前に現れた男の姿を見据えた。その男から感じる凄絶な妖気に、咲耶は無意識に右手で<咲耶刀>の柄を掴んでいた。
「お前が阿修羅……素戔嗚か……? まさか、我が同胞らをたった一振りで消し飛ばすとは、恐ろしい力の持ち主よ……」
赤光を放つ真紅の瞳で、夜叉が素戔嗚の精悍な顔を見据えながら告げた。
「ほう……。貴様が夜叉か……。想像していたよりも力があるようだな。本来であれば俺が遊んでやるところだが、残念ながら天照との誓約によってそれができぬ。貴様の相手は、ここにいる木花咲耶だ」
ニヤリと楽しそうな笑みを浮かべながら、素戔嗚が隣りに立つ咲耶の顔を見つめた。
「私の名は木花咲耶……。お主に殺された瓊瓊杵の妻じゃッ! 夫の無念、晴らさせてもらうぞッ!」
両脚を前後に大きく開き、居合の姿勢を取りながら咲耶が告げた。その黒曜石の瞳は爛々と輝き、夜叉の赤光を真っ直ぐに見つめていた。
「瓊瓊杵……? ああ、思い出したぞ! 三十年ほど前に、この剣を我にもたらした天照の遣いか……?」
そう告げると、夜叉は左腰に佩いていた宝剣を抜き放ち、右手で真横に構えながら咲耶たちに見せつけた。
「それは、<天叢雲剣>ッ……! 瓊瓊杵から奪ったのかッ?」
凄まじい殺気を秘めた濃茶色の瞳で、素戔嗚が夜叉を睨みつけた。
<天叢雲剣>……またの銘を、<草薙剣>という。その正当な持ち主は素戔嗚であり、彼が八岐大蛇の尾から取り出した神剣であった。八咫の鏡・八坂瓊曲玉とともに、高天原における三種の神器の一つでもある。
「瓊瓊杵さまを殺し、その刀を奪ったのかッ!」
凄まじい激昂に駆られ、咲耶が叫んだ。武士にとって、刀は命よりも大切な魂そのものである。愛する夫を殺し、その魂さえも奪い取った夜叉を、激甚な怒りを湛えた黒曜石の瞳で咲耶は睨みつけた。
「咲耶、遠慮することはないッ! お前の持つすべての力を持って、<天叢雲剣>を奪い返せッ!」
咲耶の怒りを理解し、素戔嗚が濃茶色の瞳を凄まじい瞋怒に見開きながら叫んだ。
「ハッ……! 必ずや、瓊瓊杵さまの魂を取り戻しますッ!」
そう言い放つと、咲耶は夜叉を見据えながら裂帛の気合いとともに、<咲耶刀>で居合抜きを放った。
「木花咲耶、参るッ! ハァアアッ……!」
神速で抜き放たれた刀身から、超絶な光輝の神刃が三日月の刃となって翔破した。直径七尺(二メートル十センチ)にも及ぶ巨大な神刃が、凄まじい破壊力と速度を持って夜叉に襲いかかった。
古代日本における最大の闘いが、今、火蓋を切って始まった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
王都交通整理隊第19班~王城前の激混み大通りは、平民ばかりの“落ちこぼれ”第19班に任せろ!~
柳生潤兵衛
ファンタジー
ボウイング王国の王都エ―バスには、都内を守護する騎士の他に多くの衛視隊がいる。
騎士を含む彼らは、貴族平民問わず魔力の保有者の中から選抜され、その能力によって各隊に配属されていた。
王都交通整理隊は、都内の大通りの馬車や荷台の往来を担っているが、衛視の中では最下層の職種とされている。
その中でも最も立場が弱いのが、平民班長のマーティンが率いる第19班。班員も全員平民で個性もそれぞれ。
大きな待遇差もある。
ある日、そんな王都交通整理隊第19班に、国王主催の夜会の交通整理という大きな仕事が舞い込む。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。
転生はデフォです。
でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。
リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。
しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。
この話は第一部ということでそこまでは完結しています。
第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。
そして…
リウ君のかっこいい活躍を見てください。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる