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第4章 咲耶の軌跡
9.黄泉醜女の実力
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錬気神丹の力を借りずに半刻以内で山を往復できるようになるまで、咲耶は二年の月日がかかった。その頃には、山の中腹で襲ってくる鬼たちも余裕で倒せるようになっていた。多い時には二十体以上の鬼たちに囲まれたが、<咲耶刀>で放った神刃で瞬時に鬼たちを両断した。
「思ったよりも早かったね。十年はかかると思ってたよ」
「約束通り、今日からあたいたちが修行をつけてあげるよ」
駿と颯が笑顔を浮かべながら、楽しそうに告げた。
「よろしくお願いします、駿さま、颯さま……」
長い黒髪を揺らしながら二人に頭を下げると、咲耶は不意に悪寒を感じて総身をブルッと震わせた。
(何じゃ、この感じは……? まるで体中の毛が逆立つような……)
目の前に立つ二人の姿を見た瞬間、咲耶はその悪寒の正体が何であるのか気づいた。二人の黄泉醜女の全身から、壮絶な妖気が湧き上がっていたのだ。
「し、駿さま……、颯さま……? いったい……」
全身を襲う圧倒的な妖気に、咲耶が顔を引き攣らせながら訊ねた。無意識に鳥肌が沸き立ち、手足がガタガタと震えていた。
「死ぬんじゃないよ、咲耶ッ……!」
駿が右手に凄絶な妖気を収斂させると、次の瞬間、二十尺(六メートル)はある鞭を握り締めていた。その濃銀色に輝く神鞭は、紛れもなく龍の皮からできていた。
「ハァアッ……!」
右手を大きく振りかぶると、裂帛の気合いとともに駿は一気に神鞭を振り落とした。
「きゃああッ……!」
凄まじい衝撃とともに神鞭が上半身に巻きつき、そのまま咲耶の身体を宙に引き上げた。そして、鞭の遠心力で落下速度を倍加させながら、咲耶は激烈な勢いで地面に叩きつけられた。
「ぐはッ……!」
全身の骨が粉々に砕かれたほどの衝撃を受け、咲耶は大量の血を吐いた。ゲホゲホと咳き込むだけで、凄絶な痛みが全身を疾駆した。
一般的に鞭の先端速度は音速(秒速三百四十メートル)を超えると言われている。まして、膨大な妖気を宿した駿が振るった神鞭なのだ。その何倍もの速度を咲耶が視認できるはずもなかった。
「この程度も避けられないようじゃ、この先が思いやられるよ」
「まったく……。避けるのが無理ならば、結界を張るとかできないものかね?」
二人の黄泉醜女の呆れたような声が頭上から聞こえてきた。だが、激痛のあまり咲耶は返事をすることなどできなかった。
(痛い……痛いッ! 全身がバラバラになったみたいじゃッ……!)
これほどの衝撃と激痛を受けたことは、かつて一度もなかった。限界を超える痛みのあまり、咲耶の黒瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。
(建御雷神さま……助けて……)
無意識に愛しい男の顔が、咲耶の脳裏に浮かんだ。その瞬間、咲耶は建御雷神の愛情を実感した。十年以上におよぶ修行の中で、建御雷神が咲耶にこのような激痛を与えたことは一度もなかったのだ。それは紛れもなく咲耶の身を大切に扱っていた証拠に他ならなかった。
「どうした? もう、お終いにするかい?」
「やっぱり、あたいたちの修行は早すぎたようだね?」
頭上から聞こえてきた黄泉醜女たちの声に、咲耶は唇を噛みしめた。
(私は建御雷神さまに愛されていた……! これは、その建御雷神さまが与えてくれた試練じゃ……。これくらいで音を上げたら、建御雷神さまに合わせる顔がないッ……!)
咲耶は全身に神気を流して激痛を抑え込んだ。そして、錬金神丹の入った竹筒を隠しから取り出すと、一粒出して飲み込んだ。
「まだまだ……。これからじゃッ……!」
ゆっくりと立ち上がると、黒曜石の瞳に焔を映しながら咲耶は黄泉醜女たちを睨みつけた。即効性を誇る錬気神丹が怪我を恢復させ、全身から神気の炎が燃え上がった。
「へえ……。なかなか根性あるじゃないか?」
「そうでなくちゃ、あたいたちが教える価値もないわ」
嬉しそうな笑みを浮かべながら、黄泉醜女の姉妹が告げた。
「今の私には、駿さまの神鞭を捉えることができませぬ。しかし、結界で防ぐことは可能ですッ!」
そう告げると、咲耶は全身から神気を解放した。想像を絶する光輝が螺旋となって咲耶の身体を取り巻いた。それは紛れもなく強固な神気の結界に他ならなかった。
「たしかに、あちきの鞭じゃその結界を破ることは大変そうだわ。颯、任せるよ……」
「了解……」
ニヤリと笑みを浮かべながら颯が頷いた。そして、左手を真っ直ぐに咲耶に突き出すと、膨大な妖気を収斂させた。次の瞬間、半円を描く小弓が颯の左手に握られていた。百木の長と呼ばれる梓の木から作られた弓幹に、龍の髭でできた弓弦を備えた神弓だった。
「咲耶、よく覚えておきな。一流の力を持つ神魔には、その程度の結界じゃ役に立たないってことを……」
そう告げると、颯は眼にも留まらない速度で四度弦を引き絞った。超絶な妖気を纏った神矢が次々と咲耶の結界に激突し、その勢いをいささかも衰えさせずに貫通した。
「きゃああぁッ……!」
右上腕、左上腕、右太股、左太股……ほぼ同時に四箇所を神矢が貫いた。全身に灼けつくような激痛が走り、咲耶は絶叫を上げながら背中から地面に倒れ込んだ。あまりの痛みに手足が痺れて、指一本動かせなかった。
(そんな……! すべての神気を集めて張った結界が、簡単に破られるなんて……!)
「結界というのは、こうやって張るのよ……」
そう告げた瞬間に、颯の全身から超大な妖気の炎が舞い上がった。その高さは優に三十三尺(十メートル)を超え、灼熱の奔流は咲耶の黒髪をチリチリと焦がした。比べるべくもなくその結界は、咲耶の結界の数倍の強度と厚さがあった。
(何という結界じゃ……。黄泉醜女がこれほどの力を持っていたとは……)
全身を襲う痛みと同時に、悔しさと情けなさを感じて咲耶の黒瞳から涙が溢れた。
「はっきり言っておくよ、咲耶……。あんたが闘おうとしている夜叉って奴の攻撃は、恐らくあたいの結界でも防げない。あたいたちは当然のこと、八雷を超える力を得ないことには話にならないよ」
(そんな……!)
颯の言葉に、咲耶は愕然として彼女の顔を見つめた。今まで積み上げてきた自信がガラガラと音を立てて崩れ落ちそうだった。
(私はどうしたら……? 誰か教えて……)
全身を絶え間なく襲う激痛と失意による落胆で、咲耶の緊張の糸はプツリと切れた。意識を手放す直前に、咲耶は愛しい男の顔が浮かんだ。
(建御雷神さま……)
その力強い腕に抱きかかえられながら、咲耶は意識を失った。
優しく舌を絡められ、生暖かい液体が注ぎ込まれた。咲耶は小さく喉を鳴らしながら、それを嚥下した。その瞬間、全身に神気が漲り、活力が戻ってきたのを実感した。
「……ッ!」
意識を取り戻すと、咲耶は黒曜石の瞳を大きく見開いて驚愕の表情を浮かべた。夢にまで見た男が、優しい微笑を浮かべながら咲耶を見下ろしていた。
「建御雷神さまッ……!」
寝台に腰掛けているその姿を幻のように感じて、咲耶は飛び起きると同時に建御雷神に抱きついた。厚い胸板に顔を埋めると、たしかな体温が伝わって来た。建御雷神が左手で咲耶の漆黒の髪を撫ぜながら告げた。
「今、錬気神丹を砕いて溶かした物を飲ませた。痛みはないか……?」
「は、はい……」
建御雷神の言葉に、咲耶はカアッと顔を赤らめた。口移しで何かを飲まされたのは、夢でなかったようだった。
「いつ、こちらに……?」
力強い腕に抱かれながら、咲耶は恥ずかしそうに訊ねた。思わず抱きついてしまった咲耶を、建御雷神は離そうとしなかった。
「つい先ほどだ……。黄泉津大神さまにご挨拶に伺ったら、咲耶が黄泉醜女たちの修行を受けていると聞いて見に行ったのだ。ちょうど咲耶が意識を失ったところだったから、ここまで私が運んできた……」
「そ、それは……ご迷惑をおかけしました……」
誰かに抱き上げられたことも夢ではなかったようだった。咲耶は真っ赤に染まりながら、小さな声で告げた。
「あの……そろそろ、お離しください……」
恥ずかしさのあまり、もぞもぞと体を動かしたが、建御雷神は咲耶を力強い腕で抱き締め続けた。そして、ニヤリと笑いを浮かべながら楽しそうに告げた。
「約束通り、錬気神丹を百粒届けに来てやった……」
「あ、ありがとうございます……。あの、離して……」
咲耶の言葉を無視すると、建御雷神はより力を込めて抱き締めてきた。
「咲耶、もう一つの約束を覚えているか……?」
「……ッ! し、知りませぬッ!」
カアッと真っ赤に顔を染め上げながら、咲耶が小さく首を振った。長い黒髪から女の香りが漂い、建御雷神の鼻孔を刺激した。
「ほう……。私に嘘をつくとどうなるかも、忘れてしまったようだな……?」
「そ、それは……」
ニヤリと笑いながら告げた建御雷神の言葉に、咲耶はサアッと顔を青ざめさせた。以前に反省房に入れられ、蛇蝎の刑を受けたことを思い出したのだ。
「心配するな……。今日はお前を怖がらせるつもりはない。ただし、私に嘘をついた罰は受けてもらう。お前が自ら欲しがるまで、加護は与えぬから覚悟せよ」
「私が自分から加護を欲しがるなど……、そんなこと絶対にありませぬ……」
それは、咲耶が自ら建御雷神に抱いて欲しいと告げることと同じ意味であった。咲耶は耳まで真っ赤に染め上げると、黒曜石の瞳に抗議の炎を浮かべながら建御雷神を睨んだ。
「相変わらず美しい瞳だな、咲耶……。その強気な眼がいつまで続くか、楽しみだ……」
「何をされようと考えているのか知りませぬが、私は瓊瓊杵の妻です。その私が自ら建御雷神さまの加護を欲しがるはずはありませぬ……」
お互いがお互いを愛していることは、二人ともよく分かっていた。だが、咲耶が瓊瓊杵の妻である以上、お互いの気持ちを口にすることはできなかった。咲耶が建御雷神を求めるということは、彼に対する愛を口にすることと同じであった。建御雷神はそれを求め、咲耶は絶対にそれを拒まなくてはならなかった。
咲耶にとって、二年前の官能地獄以上の時間が再現された。
「くッ……あッ、いやッ……あッ、あッ、だめぇえッ……!」
ビクンッビクンッと裸身を痙攣させながら、咲耶が大きく仰け反った。建御雷神の神糸によって両腕を背中で拘束され、白い双乳もX字型に絞り出されていた。その豊かな乳房の頂点には薄紅色の媚芯が痛いほど突き勃っていた。
「いやッ……! だめッ、だめぇえッ……! それ、いやぁあッ……!」
左の媚芯を強く吸いながら甘噛みし、右の乳房を激しく揉みしだきながら硬く突き勃った媚芯を建御雷神は指先で激しく扱いた。そして、右手は柔らかな叢をかき分けて、剥き上げた真珠を転がしながら蜜液を塗り込んだ。女の弱点に加えられる暴虐に、咲耶は随喜の涙を流しながら激しく首を振った。長い漆黒の髪が舞い乱れ、濃密な女の色香を撒き散らした。
「ひぃいいッ……! もう、だめぇえッ! イってしまうッ……イクッ……!」
ビクンッビックンッと総身を激しく震撼させながら、咲耶が歓悦の頂点に駆け上った。だが、歓喜の絶頂を極める直前で、建御雷神はすべての動きを中断した。
「あぁああッ……! いやぁあッ……!」
無意識に建御雷神の指を追いかけるように、咲耶の腰が淫らに動いた。限界まで昂ぶらされたまま置き去りにされたのは、これで三度目だった。涙に濡れ光る黒曜石の瞳に、恨めしそうな光を映しながら咲耶は建御雷神を見つめた。
「どうした、咲耶……? そんなに腰を動かして……? まさか、私の加護が欲しいのではなかろうな?」
「ち、違い……ます……」
カアッと真っ赤に顔を染めると、建御雷神の言葉を拒絶するように咲耶はプイッと顔を逸らせた。だが、その言葉が正しいことは、自分自身が誰よりもよく知っていた。
(こんなことを続けられたら、おかしくなってしまう……。だが、私の口からは欲しいなどとは絶対に言えぬ……)
「瓊瓊杵尊さまの妻ともあろうお方が、私の精を欲しがるはずはないな。悪かった、許せ……」
ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべると、建御雷神は愛撫を再開した。絶頂の寸前まで昂ぶらされた女体は、咲耶の意志を裏切ってあっという間に燃え上がり始めた。
「いやッ、やめッ……! それッ、だめぇえッ……! ひぃいいッ……!」
建御雷神が両手で咲耶の太股を掴み、大きく足を広げた。そして、真っ赤に充血した真珠をピチャピチャと音を立てながら舌で舐り始めた。女の最大の弱点に加えられる淫撃に、咲耶は本気で悶え啼いた。腰骨を灼き尽くすほどの愉悦が背筋を舐め上げ、脳天に何度も雷撃が襲いかかった。脳髄をトロトロに蕩かされ、細胞の一つ一つまでもが快美の炎に灼き溶かされた。
「あッ、あッ、だめぇえッ……! もう、許してぇえッ! おかしくなってしまうッ……! いやぁあッ……!」
真っ赤に染まった目尻から随喜の涙を流し、熱い喘ぎを放つ口元から涎を垂らしながら咲耶が哀願した。その表情は普段の凜々しさの欠片もなく、官能の愉悦に翻弄された淫らな女そのものであった。
「どうして欲しいのだ、咲耶……? 言ってみろ……!」
「あッ、いやッ……! 言えないッ……! ひぃいいッ……!」
激しく首を振りながら、咲耶が必死で抵抗した。だが、それが虚勢に過ぎないことは建御雷神にはよく分かっていた。
「また、途中でやめて欲しいか?」
「いやッ……! やめないでッ……!」
大粒の涙を流しながら、官能に蕩けきった黒瞳で建御雷神を見つめながら咲耶が叫んだ。建御雷神は充血して一回り大きくなった真珠を右手で扱きながら訊ねた。
「イキたいのか、咲耶……?」
「イキたい……イカせてッ……!」
建御雷神の言葉に、ガクガクと頷きながら咲耶が告げた。頭の中が真っ白に染まり、それ以外のことは考えられなかった。
「では、私の精が欲しいのだな?」
「は、はいッ……! 欲しいですッ……! あッ、いやッ……!」
建御雷神は右手で真珠を嬲り続けたまま、左手で咲耶の右乳房を激しく揉みしだいた。そして、指先でツンと突き勃った媚芯を摘まみ上げながら再び訊ねた。
「では、どうして欲しいか、言ってみろ……」
「建御雷神さまの……熱く硬いモノで……私を、貫いて……!」
激しすぎる建御雷神の責めに、咲耶はついに恥辱の言葉を口にした。それを耳にした瞬間、建御雷神はグイッと腰を突き入れると、猛りきった火柱で咲耶の最奥まで一気に貫いた。
「あぁああッ……!」
断末魔の悲鳴を上げると、咲耶はビックンッビックンッと激しく痙攣しながら絶頂を極めた。白い顎を突き上げて限界まで総身を仰け反らせながら、咲耶はガクガクと歓喜の硬直を噛みしめた。
だが、建御雷神がたった一突きで果てるはずなどあり得なかった。咲耶の細腰を両手で掴むと、建御雷神は剛直を引き抜きながら粒だった入口付近を三度擦り上げ、再び最奥まで一気に貫いた。それは紛れもなく女を狂わせる三浅一深の動きだった。その悪魔の律動を建御雷神は何度も繰り返し始めた。
「あッ、あッ、だめぇえッ……! それ、おかしくなるッ……!」
「いやぁあッ……! また、イってしまうッ! あッ、あぁああッ……!」
「もう、許してぇえッ! イクの止まらないッ! 狂うッ……だめッ、また、イクッ……!」
漆黒の長い髪を振り乱しながら、咲耶が激しく首を振った。随喜の涙が滂沱となって流れ落ち、快美の頂点を告げる唇からはネットリとした涎が糸を引いて垂れ落ちた。白い乳房の頂には淡紅色の媚芯が痛いほど突き勃ち、剛直を受け入れている秘唇からはピシャピシャと音を立てて蜜液が迸った。
二年前と同じ……いや、それ以上の絶頂地獄に咲耶は突き落とされた。脳天を何度も落雷が襲い、意識まで真っ白に染まったまま咲耶は自ら腰を激しく振っていた。
「こんなの、初めてぇッ! 私、毀れるッ……! 死んでしまうッ! また、イクッ! イクぅうッ……!」
かつてないほどの超絶な快美の頂点を極めると、咲耶は限界まで大きく仰け反った。次の瞬間、秘唇から大量の蜜液が虚空に弧を描きながら迸った。
「武神、建御雷神の加護を受け取るがよいッ!」
その叫びと同時に、建御雷神の全身が直視できないほどの光輝に包まれた。そして、猛りきった火柱が弾けると、灼熱の熱精を咲耶の最奥に叩きつけた。
「ひぃいいッ……! 死ぬぅうッ……!」
ビックンッビックンッと凄絶に裸身を痙攣させると、咲耶はグッタリと寝台に沈み込んだ。二年ぶりに建御雷神の加護を受けた咲耶は、その限界を遥かに超える快美の奔流に失神して意識を手放した。
涙と涎と汗に塗れた白い裸体をビクンッビクンッと震わせながら、咲耶は寝台の上に横たわっていた。その官能に蕩けきった表情は、最愛の男に愛された悦びに満ち溢れていた。
翌朝、目を覚ますと建御雷神の姿はなかった。寝台から起き上がると、咲耶は惜しげもなく朝陽に裸身をさらしながら寝室を出て居間に向かった。
「建御雷神さま……」
食卓机の上に置かれた一枚の紙を手に取ると、咲耶はやや不満そうに表情を歪めた。そこには、愛する男からの短い言葉が認められていた。
『二年後にまた来る。体に気をつけて励め』
(あのキンキン頭め……! もう少し気が利いた文を残せぬのか……?)
苦笑いを浮かべると、咲耶はその手紙を丁寧に折りたたんで大切そうに荷物の中へ入れた。お互いの気持ちは十分過ぎるほど伝わっていた。それを口に出せないもどかしさが、この短い文面に集約されていることを咲耶はよく分かっていた。
(それにしても、昨夜は凄かった……。少しは手加減して欲しいものじゃ……)
あれほどの快感に乱れ狂わされたのは、初めての経験だった。何度忘我の境地に押し上げられたのか、咲耶自身にも分からなかった。
恥ずかしさと愛おしさが混ざり合った表情でニタリと微笑むと、咲耶は建御雷神が持ってきてくれた錬気神丹の包みを解いて竹筒に中身を移した。
本来、錬気神丹は一粒飲めば十日はその効力が持続する。単純計算で、二年間に必要な錬気神丹は七十三粒だった。だが、二十七粒残っていなければならない錬気神丹が、三粒しかなかったのだ。それだけ激しい修行で錬気神丹を使った結果だった。
(二年で百粒というのは、結構ぎりぎりじゃな……。建御雷神さまもそれを見越して来られたのかも知れぬ……)
昨夜、あれほど激しく愛されたにも拘わらず、今朝は全身に神気が満ち溢れて体が軽かった。建御雷神の加護が更新された結果に違いなかった。
「これなら、黄泉醜女の修行に耐えられるわ。建御雷神さまの期待を裏切るような真似は絶対にせぬぞ……!」
昨日喪失した自信を見事に復活させて、咲耶が微笑んだ。咲耶にとっては錬気神丹以上に、建御雷神に愛されたことが大きかった。
手早く洗顔を終えて衣服を整えると、咲耶は意気揚々と黄泉醜女が待つ修練場へと向かった。
「思ったよりも早かったね。十年はかかると思ってたよ」
「約束通り、今日からあたいたちが修行をつけてあげるよ」
駿と颯が笑顔を浮かべながら、楽しそうに告げた。
「よろしくお願いします、駿さま、颯さま……」
長い黒髪を揺らしながら二人に頭を下げると、咲耶は不意に悪寒を感じて総身をブルッと震わせた。
(何じゃ、この感じは……? まるで体中の毛が逆立つような……)
目の前に立つ二人の姿を見た瞬間、咲耶はその悪寒の正体が何であるのか気づいた。二人の黄泉醜女の全身から、壮絶な妖気が湧き上がっていたのだ。
「し、駿さま……、颯さま……? いったい……」
全身を襲う圧倒的な妖気に、咲耶が顔を引き攣らせながら訊ねた。無意識に鳥肌が沸き立ち、手足がガタガタと震えていた。
「死ぬんじゃないよ、咲耶ッ……!」
駿が右手に凄絶な妖気を収斂させると、次の瞬間、二十尺(六メートル)はある鞭を握り締めていた。その濃銀色に輝く神鞭は、紛れもなく龍の皮からできていた。
「ハァアッ……!」
右手を大きく振りかぶると、裂帛の気合いとともに駿は一気に神鞭を振り落とした。
「きゃああッ……!」
凄まじい衝撃とともに神鞭が上半身に巻きつき、そのまま咲耶の身体を宙に引き上げた。そして、鞭の遠心力で落下速度を倍加させながら、咲耶は激烈な勢いで地面に叩きつけられた。
「ぐはッ……!」
全身の骨が粉々に砕かれたほどの衝撃を受け、咲耶は大量の血を吐いた。ゲホゲホと咳き込むだけで、凄絶な痛みが全身を疾駆した。
一般的に鞭の先端速度は音速(秒速三百四十メートル)を超えると言われている。まして、膨大な妖気を宿した駿が振るった神鞭なのだ。その何倍もの速度を咲耶が視認できるはずもなかった。
「この程度も避けられないようじゃ、この先が思いやられるよ」
「まったく……。避けるのが無理ならば、結界を張るとかできないものかね?」
二人の黄泉醜女の呆れたような声が頭上から聞こえてきた。だが、激痛のあまり咲耶は返事をすることなどできなかった。
(痛い……痛いッ! 全身がバラバラになったみたいじゃッ……!)
これほどの衝撃と激痛を受けたことは、かつて一度もなかった。限界を超える痛みのあまり、咲耶の黒瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。
(建御雷神さま……助けて……)
無意識に愛しい男の顔が、咲耶の脳裏に浮かんだ。その瞬間、咲耶は建御雷神の愛情を実感した。十年以上におよぶ修行の中で、建御雷神が咲耶にこのような激痛を与えたことは一度もなかったのだ。それは紛れもなく咲耶の身を大切に扱っていた証拠に他ならなかった。
「どうした? もう、お終いにするかい?」
「やっぱり、あたいたちの修行は早すぎたようだね?」
頭上から聞こえてきた黄泉醜女たちの声に、咲耶は唇を噛みしめた。
(私は建御雷神さまに愛されていた……! これは、その建御雷神さまが与えてくれた試練じゃ……。これくらいで音を上げたら、建御雷神さまに合わせる顔がないッ……!)
咲耶は全身に神気を流して激痛を抑え込んだ。そして、錬金神丹の入った竹筒を隠しから取り出すと、一粒出して飲み込んだ。
「まだまだ……。これからじゃッ……!」
ゆっくりと立ち上がると、黒曜石の瞳に焔を映しながら咲耶は黄泉醜女たちを睨みつけた。即効性を誇る錬気神丹が怪我を恢復させ、全身から神気の炎が燃え上がった。
「へえ……。なかなか根性あるじゃないか?」
「そうでなくちゃ、あたいたちが教える価値もないわ」
嬉しそうな笑みを浮かべながら、黄泉醜女の姉妹が告げた。
「今の私には、駿さまの神鞭を捉えることができませぬ。しかし、結界で防ぐことは可能ですッ!」
そう告げると、咲耶は全身から神気を解放した。想像を絶する光輝が螺旋となって咲耶の身体を取り巻いた。それは紛れもなく強固な神気の結界に他ならなかった。
「たしかに、あちきの鞭じゃその結界を破ることは大変そうだわ。颯、任せるよ……」
「了解……」
ニヤリと笑みを浮かべながら颯が頷いた。そして、左手を真っ直ぐに咲耶に突き出すと、膨大な妖気を収斂させた。次の瞬間、半円を描く小弓が颯の左手に握られていた。百木の長と呼ばれる梓の木から作られた弓幹に、龍の髭でできた弓弦を備えた神弓だった。
「咲耶、よく覚えておきな。一流の力を持つ神魔には、その程度の結界じゃ役に立たないってことを……」
そう告げると、颯は眼にも留まらない速度で四度弦を引き絞った。超絶な妖気を纏った神矢が次々と咲耶の結界に激突し、その勢いをいささかも衰えさせずに貫通した。
「きゃああぁッ……!」
右上腕、左上腕、右太股、左太股……ほぼ同時に四箇所を神矢が貫いた。全身に灼けつくような激痛が走り、咲耶は絶叫を上げながら背中から地面に倒れ込んだ。あまりの痛みに手足が痺れて、指一本動かせなかった。
(そんな……! すべての神気を集めて張った結界が、簡単に破られるなんて……!)
「結界というのは、こうやって張るのよ……」
そう告げた瞬間に、颯の全身から超大な妖気の炎が舞い上がった。その高さは優に三十三尺(十メートル)を超え、灼熱の奔流は咲耶の黒髪をチリチリと焦がした。比べるべくもなくその結界は、咲耶の結界の数倍の強度と厚さがあった。
(何という結界じゃ……。黄泉醜女がこれほどの力を持っていたとは……)
全身を襲う痛みと同時に、悔しさと情けなさを感じて咲耶の黒瞳から涙が溢れた。
「はっきり言っておくよ、咲耶……。あんたが闘おうとしている夜叉って奴の攻撃は、恐らくあたいの結界でも防げない。あたいたちは当然のこと、八雷を超える力を得ないことには話にならないよ」
(そんな……!)
颯の言葉に、咲耶は愕然として彼女の顔を見つめた。今まで積み上げてきた自信がガラガラと音を立てて崩れ落ちそうだった。
(私はどうしたら……? 誰か教えて……)
全身を絶え間なく襲う激痛と失意による落胆で、咲耶の緊張の糸はプツリと切れた。意識を手放す直前に、咲耶は愛しい男の顔が浮かんだ。
(建御雷神さま……)
その力強い腕に抱きかかえられながら、咲耶は意識を失った。
優しく舌を絡められ、生暖かい液体が注ぎ込まれた。咲耶は小さく喉を鳴らしながら、それを嚥下した。その瞬間、全身に神気が漲り、活力が戻ってきたのを実感した。
「……ッ!」
意識を取り戻すと、咲耶は黒曜石の瞳を大きく見開いて驚愕の表情を浮かべた。夢にまで見た男が、優しい微笑を浮かべながら咲耶を見下ろしていた。
「建御雷神さまッ……!」
寝台に腰掛けているその姿を幻のように感じて、咲耶は飛び起きると同時に建御雷神に抱きついた。厚い胸板に顔を埋めると、たしかな体温が伝わって来た。建御雷神が左手で咲耶の漆黒の髪を撫ぜながら告げた。
「今、錬気神丹を砕いて溶かした物を飲ませた。痛みはないか……?」
「は、はい……」
建御雷神の言葉に、咲耶はカアッと顔を赤らめた。口移しで何かを飲まされたのは、夢でなかったようだった。
「いつ、こちらに……?」
力強い腕に抱かれながら、咲耶は恥ずかしそうに訊ねた。思わず抱きついてしまった咲耶を、建御雷神は離そうとしなかった。
「つい先ほどだ……。黄泉津大神さまにご挨拶に伺ったら、咲耶が黄泉醜女たちの修行を受けていると聞いて見に行ったのだ。ちょうど咲耶が意識を失ったところだったから、ここまで私が運んできた……」
「そ、それは……ご迷惑をおかけしました……」
誰かに抱き上げられたことも夢ではなかったようだった。咲耶は真っ赤に染まりながら、小さな声で告げた。
「あの……そろそろ、お離しください……」
恥ずかしさのあまり、もぞもぞと体を動かしたが、建御雷神は咲耶を力強い腕で抱き締め続けた。そして、ニヤリと笑いを浮かべながら楽しそうに告げた。
「約束通り、錬気神丹を百粒届けに来てやった……」
「あ、ありがとうございます……。あの、離して……」
咲耶の言葉を無視すると、建御雷神はより力を込めて抱き締めてきた。
「咲耶、もう一つの約束を覚えているか……?」
「……ッ! し、知りませぬッ!」
カアッと真っ赤に顔を染め上げながら、咲耶が小さく首を振った。長い黒髪から女の香りが漂い、建御雷神の鼻孔を刺激した。
「ほう……。私に嘘をつくとどうなるかも、忘れてしまったようだな……?」
「そ、それは……」
ニヤリと笑いながら告げた建御雷神の言葉に、咲耶はサアッと顔を青ざめさせた。以前に反省房に入れられ、蛇蝎の刑を受けたことを思い出したのだ。
「心配するな……。今日はお前を怖がらせるつもりはない。ただし、私に嘘をついた罰は受けてもらう。お前が自ら欲しがるまで、加護は与えぬから覚悟せよ」
「私が自分から加護を欲しがるなど……、そんなこと絶対にありませぬ……」
それは、咲耶が自ら建御雷神に抱いて欲しいと告げることと同じ意味であった。咲耶は耳まで真っ赤に染め上げると、黒曜石の瞳に抗議の炎を浮かべながら建御雷神を睨んだ。
「相変わらず美しい瞳だな、咲耶……。その強気な眼がいつまで続くか、楽しみだ……」
「何をされようと考えているのか知りませぬが、私は瓊瓊杵の妻です。その私が自ら建御雷神さまの加護を欲しがるはずはありませぬ……」
お互いがお互いを愛していることは、二人ともよく分かっていた。だが、咲耶が瓊瓊杵の妻である以上、お互いの気持ちを口にすることはできなかった。咲耶が建御雷神を求めるということは、彼に対する愛を口にすることと同じであった。建御雷神はそれを求め、咲耶は絶対にそれを拒まなくてはならなかった。
咲耶にとって、二年前の官能地獄以上の時間が再現された。
「くッ……あッ、いやッ……あッ、あッ、だめぇえッ……!」
ビクンッビクンッと裸身を痙攣させながら、咲耶が大きく仰け反った。建御雷神の神糸によって両腕を背中で拘束され、白い双乳もX字型に絞り出されていた。その豊かな乳房の頂点には薄紅色の媚芯が痛いほど突き勃っていた。
「いやッ……! だめッ、だめぇえッ……! それ、いやぁあッ……!」
左の媚芯を強く吸いながら甘噛みし、右の乳房を激しく揉みしだきながら硬く突き勃った媚芯を建御雷神は指先で激しく扱いた。そして、右手は柔らかな叢をかき分けて、剥き上げた真珠を転がしながら蜜液を塗り込んだ。女の弱点に加えられる暴虐に、咲耶は随喜の涙を流しながら激しく首を振った。長い漆黒の髪が舞い乱れ、濃密な女の色香を撒き散らした。
「ひぃいいッ……! もう、だめぇえッ! イってしまうッ……イクッ……!」
ビクンッビックンッと総身を激しく震撼させながら、咲耶が歓悦の頂点に駆け上った。だが、歓喜の絶頂を極める直前で、建御雷神はすべての動きを中断した。
「あぁああッ……! いやぁあッ……!」
無意識に建御雷神の指を追いかけるように、咲耶の腰が淫らに動いた。限界まで昂ぶらされたまま置き去りにされたのは、これで三度目だった。涙に濡れ光る黒曜石の瞳に、恨めしそうな光を映しながら咲耶は建御雷神を見つめた。
「どうした、咲耶……? そんなに腰を動かして……? まさか、私の加護が欲しいのではなかろうな?」
「ち、違い……ます……」
カアッと真っ赤に顔を染めると、建御雷神の言葉を拒絶するように咲耶はプイッと顔を逸らせた。だが、その言葉が正しいことは、自分自身が誰よりもよく知っていた。
(こんなことを続けられたら、おかしくなってしまう……。だが、私の口からは欲しいなどとは絶対に言えぬ……)
「瓊瓊杵尊さまの妻ともあろうお方が、私の精を欲しがるはずはないな。悪かった、許せ……」
ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべると、建御雷神は愛撫を再開した。絶頂の寸前まで昂ぶらされた女体は、咲耶の意志を裏切ってあっという間に燃え上がり始めた。
「いやッ、やめッ……! それッ、だめぇえッ……! ひぃいいッ……!」
建御雷神が両手で咲耶の太股を掴み、大きく足を広げた。そして、真っ赤に充血した真珠をピチャピチャと音を立てながら舌で舐り始めた。女の最大の弱点に加えられる淫撃に、咲耶は本気で悶え啼いた。腰骨を灼き尽くすほどの愉悦が背筋を舐め上げ、脳天に何度も雷撃が襲いかかった。脳髄をトロトロに蕩かされ、細胞の一つ一つまでもが快美の炎に灼き溶かされた。
「あッ、あッ、だめぇえッ……! もう、許してぇえッ! おかしくなってしまうッ……! いやぁあッ……!」
真っ赤に染まった目尻から随喜の涙を流し、熱い喘ぎを放つ口元から涎を垂らしながら咲耶が哀願した。その表情は普段の凜々しさの欠片もなく、官能の愉悦に翻弄された淫らな女そのものであった。
「どうして欲しいのだ、咲耶……? 言ってみろ……!」
「あッ、いやッ……! 言えないッ……! ひぃいいッ……!」
激しく首を振りながら、咲耶が必死で抵抗した。だが、それが虚勢に過ぎないことは建御雷神にはよく分かっていた。
「また、途中でやめて欲しいか?」
「いやッ……! やめないでッ……!」
大粒の涙を流しながら、官能に蕩けきった黒瞳で建御雷神を見つめながら咲耶が叫んだ。建御雷神は充血して一回り大きくなった真珠を右手で扱きながら訊ねた。
「イキたいのか、咲耶……?」
「イキたい……イカせてッ……!」
建御雷神の言葉に、ガクガクと頷きながら咲耶が告げた。頭の中が真っ白に染まり、それ以外のことは考えられなかった。
「では、私の精が欲しいのだな?」
「は、はいッ……! 欲しいですッ……! あッ、いやッ……!」
建御雷神は右手で真珠を嬲り続けたまま、左手で咲耶の右乳房を激しく揉みしだいた。そして、指先でツンと突き勃った媚芯を摘まみ上げながら再び訊ねた。
「では、どうして欲しいか、言ってみろ……」
「建御雷神さまの……熱く硬いモノで……私を、貫いて……!」
激しすぎる建御雷神の責めに、咲耶はついに恥辱の言葉を口にした。それを耳にした瞬間、建御雷神はグイッと腰を突き入れると、猛りきった火柱で咲耶の最奥まで一気に貫いた。
「あぁああッ……!」
断末魔の悲鳴を上げると、咲耶はビックンッビックンッと激しく痙攣しながら絶頂を極めた。白い顎を突き上げて限界まで総身を仰け反らせながら、咲耶はガクガクと歓喜の硬直を噛みしめた。
だが、建御雷神がたった一突きで果てるはずなどあり得なかった。咲耶の細腰を両手で掴むと、建御雷神は剛直を引き抜きながら粒だった入口付近を三度擦り上げ、再び最奥まで一気に貫いた。それは紛れもなく女を狂わせる三浅一深の動きだった。その悪魔の律動を建御雷神は何度も繰り返し始めた。
「あッ、あッ、だめぇえッ……! それ、おかしくなるッ……!」
「いやぁあッ……! また、イってしまうッ! あッ、あぁああッ……!」
「もう、許してぇえッ! イクの止まらないッ! 狂うッ……だめッ、また、イクッ……!」
漆黒の長い髪を振り乱しながら、咲耶が激しく首を振った。随喜の涙が滂沱となって流れ落ち、快美の頂点を告げる唇からはネットリとした涎が糸を引いて垂れ落ちた。白い乳房の頂には淡紅色の媚芯が痛いほど突き勃ち、剛直を受け入れている秘唇からはピシャピシャと音を立てて蜜液が迸った。
二年前と同じ……いや、それ以上の絶頂地獄に咲耶は突き落とされた。脳天を何度も落雷が襲い、意識まで真っ白に染まったまま咲耶は自ら腰を激しく振っていた。
「こんなの、初めてぇッ! 私、毀れるッ……! 死んでしまうッ! また、イクッ! イクぅうッ……!」
かつてないほどの超絶な快美の頂点を極めると、咲耶は限界まで大きく仰け反った。次の瞬間、秘唇から大量の蜜液が虚空に弧を描きながら迸った。
「武神、建御雷神の加護を受け取るがよいッ!」
その叫びと同時に、建御雷神の全身が直視できないほどの光輝に包まれた。そして、猛りきった火柱が弾けると、灼熱の熱精を咲耶の最奥に叩きつけた。
「ひぃいいッ……! 死ぬぅうッ……!」
ビックンッビックンッと凄絶に裸身を痙攣させると、咲耶はグッタリと寝台に沈み込んだ。二年ぶりに建御雷神の加護を受けた咲耶は、その限界を遥かに超える快美の奔流に失神して意識を手放した。
涙と涎と汗に塗れた白い裸体をビクンッビクンッと震わせながら、咲耶は寝台の上に横たわっていた。その官能に蕩けきった表情は、最愛の男に愛された悦びに満ち溢れていた。
翌朝、目を覚ますと建御雷神の姿はなかった。寝台から起き上がると、咲耶は惜しげもなく朝陽に裸身をさらしながら寝室を出て居間に向かった。
「建御雷神さま……」
食卓机の上に置かれた一枚の紙を手に取ると、咲耶はやや不満そうに表情を歪めた。そこには、愛する男からの短い言葉が認められていた。
『二年後にまた来る。体に気をつけて励め』
(あのキンキン頭め……! もう少し気が利いた文を残せぬのか……?)
苦笑いを浮かべると、咲耶はその手紙を丁寧に折りたたんで大切そうに荷物の中へ入れた。お互いの気持ちは十分過ぎるほど伝わっていた。それを口に出せないもどかしさが、この短い文面に集約されていることを咲耶はよく分かっていた。
(それにしても、昨夜は凄かった……。少しは手加減して欲しいものじゃ……)
あれほどの快感に乱れ狂わされたのは、初めての経験だった。何度忘我の境地に押し上げられたのか、咲耶自身にも分からなかった。
恥ずかしさと愛おしさが混ざり合った表情でニタリと微笑むと、咲耶は建御雷神が持ってきてくれた錬気神丹の包みを解いて竹筒に中身を移した。
本来、錬気神丹は一粒飲めば十日はその効力が持続する。単純計算で、二年間に必要な錬気神丹は七十三粒だった。だが、二十七粒残っていなければならない錬気神丹が、三粒しかなかったのだ。それだけ激しい修行で錬気神丹を使った結果だった。
(二年で百粒というのは、結構ぎりぎりじゃな……。建御雷神さまもそれを見越して来られたのかも知れぬ……)
昨夜、あれほど激しく愛されたにも拘わらず、今朝は全身に神気が満ち溢れて体が軽かった。建御雷神の加護が更新された結果に違いなかった。
「これなら、黄泉醜女の修行に耐えられるわ。建御雷神さまの期待を裏切るような真似は絶対にせぬぞ……!」
昨日喪失した自信を見事に復活させて、咲耶が微笑んだ。咲耶にとっては錬気神丹以上に、建御雷神に愛されたことが大きかった。
手早く洗顔を終えて衣服を整えると、咲耶は意気揚々と黄泉醜女が待つ修練場へと向かった。
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