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第4章 咲耶の軌跡
7.武神の加護
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高天原において、伊邪那岐命と伊邪那美命の果たした役割は大きい。
天の浮き橋に立ち、<天之瓊矛>で海をかき混ぜて島を作ったことは、「国産み」と呼ばれて記紀に伝えられている。その時に産み出された島々が、淡路島、四国、隠岐島、九州、壱岐島、対馬、佐渡島、本州であり、これらが「大八島国」と呼ばれる今の日本の源である。
「国産み」を終えると、伊邪那岐と伊邪那美は「神産み」を始めた。その数は膨大で、石、土、海、風、山などの森羅万象を司る神々が次々と誕生した。海神である綿津見や、咲耶の父である山の神、大山祇神も「神産み」によって産まれた一柱である。
だが、最後に火の神である迦具土命を産んだ際に、伊邪那美は陰部に大火傷を負い、それが元で生命を落とした。
最愛の妻である伊邪那美の生命を奪った迦具土を、伊邪那岐は怒りにまかせて十拳剣で斬殺した。その迦具土の血や遺体からも多くの神々が生まれ出た。高天原最強の武神に数えられる建御雷神も、この時に生まれた神々の一柱である。
愛する伊邪那美を失った伊邪那岐はその失意を諦めきれず、彼女を取り戻すために黄泉の国へ向かう決意を固めた。だが、この時に伊邪那美はすでに『共食』の儀式を終えていた。共食とは黄泉の国の住人になるために、黄泉の国の食物を食べることである。この儀式を終えると、二度と現世には戻れない決まりであった。
黄泉の国の入口である黄泉比良坂に到着した伊邪那岐は、そのまま黄泉の国との境にある根の堅州国へと向かった。そして、黄泉の国の扉の前で伊邪那美の名を呼び、「なぜ死んでしまったのだ。もう一度、力を合わせて国造りに励もう!」と、共に帰ることを提案した。
だが、すでに『共食』を済ませてしまった伊邪那美にとって、伊邪那岐の愛を受け入れることは非常に困難であった。困惑した伊邪那美は黄泉の国の神々に相談すると告げて、伊邪那岐をその場に残したまま離れていった。
いつまで待っても戻ってこない伊邪那美に痺れを切らし、伊邪那岐は黄泉の国の扉を開いて中へと入っていった。
そこで眼にしたのは、八雷をその身に宿し、全身に悍ましい蛆虫が湧く変わり果てた伊邪那美の姿であった。美しかった伊邪那美の肢体は見る影もなく腐敗しており、伊邪那岐は恐怖に駆られてその場から逃げ出した。
約束を破り腐り果てた姿を見られた伊邪那美は激怒し、逃げる伊邪那岐を追い始めた。
黄泉醜女や八雷、黄泉軍に追い詰められながらも、伊邪那岐は黄泉比良坂の麓に生えていた桃の実を三つ取って投げつけた。邪気を払う神桃によって、黄泉の追っ手は撤退していった。
神桃の力によって黄泉の国から脱した伊邪那岐は、その入口を千引岩で塞いだ。その岩の向こうから、凄まじい怨みをはらんだ伊邪那美の絶叫が聞こえてきた。
「私は黄泉の国の神となって、葦原中国の人々を毎日千人殺してやろうぞッ!」
「お前はすでに私の愛した伊邪那美ではないッ! それならば、私は毎日千五百人の赤児を誕生させようッ! お前はそこで、日々倖せな人々の暮らしを見ているがよいッ!」
その誓約を最後に、伊邪那岐と伊邪那美は別々の道を進み始めた。伊邪那美はその誓約どおり黄泉の国を統べる女神となり、黄泉津大神と呼ばれた。
地上に戻った伊邪那岐は黄泉の穢れを落とすために、日向国の阿波岐原で禊を行った。その禊によって、二十七柱の神々が誕生した。その最後に生まれ出たのが三貴神であった。
伊邪那岐が左眼を清めると天照皇大御神が、右目を清めると月詠尊が、そして、鼻を清めると素戔嗚尊が誕生した。
伊邪那岐の命により、天照は高天原を、月詠は夜の国を、素戔嗚は海原を治めることになった。
(あのキンキン頭めッ! よりによって、黄泉の国で修行をして来いだとッ……!)
黄泉の国の入口を塞ぐ千引岩の前に立つと、咲耶はブルッと全身を震わせた。底冷えがするほどの凍気が全身に突き刺さり、体の芯から凍てつきそうな寒さを感じた。それが気温ではなく、黄泉の国独特の邪気であることが咲耶にも分かった。
(何という冷たい気じゃ……。まるで生気を感じないではないか……?)
黄泉の国が死者の国であることを思い出すと、咲耶はその悍ましさに脚が震えた。思わず右手で左胸を押さえ、神衣の懐にある建御雷神の紹介状を握り締めた。
咲耶の脳裏に、建御雷神との会話が蘇った。
『よいか、咲耶……。明朝、お前はここを立って黄泉の国へ迎え』
『よ、黄泉の国……ですか?』
黒曜石の瞳を驚愕に見開きながら、咲耶が訊ねた。
『そうだ。ここに私と綿津見の名を連ねた紹介状を用意した。この紹介状を伊邪那美さまにお渡ししろ』
『伊邪那美さまって……』
国産みや神産みをした伊邪那美命が、今は黄泉の国を統べる黄泉津大神と呼ばれていることは咲耶も知っていた。
『私もかつて、黄泉の国で修行をしたことがある。あそこでの修行は、この高天原や葦原中国の三倍の価値がある』
『三倍とは、どういう意味ですか?』
建御雷神の言葉が理解できずに、咲耶は首を捻って訊ねた。
『時間の流れが違うのだ。黄泉の国は現世より時間の流れが三倍速いのだ。つまり、黄泉の国で三日修行をしても、現世では一日しか経っていないのだ』
『時間の流れが……』
茫然とした表情で、咲耶は建御雷神の顔を見つめた。そのようなことを言われても、すぐには信じられなかった。
『天照さまがおっしゃった三十年という期限まで、残り二十年を切った。だが、このまま現世で修行をし続けても、夜叉を超えることは難しい。だから、残りの二十年を黄泉の国で修行しろ。そうすれば、六十年分の修行ができる』
建御雷神の言わんとすることは、咲耶にも理解できた。三倍の時間をかけられるのであれば、それだけ強くなれることは確実であった。だが、初めて訪れる黄泉の国には不安しかなかった。
『建御雷神さまも一緒に来ていただけるのですか?』
思わず縋り付く視線で建御雷神を見つめながら、咲耶が訊ねた。
『何を甘えておる? お前一人に決まっておろう? それとも、私が恋しくてこの屋敷を離れがたいか?』
『だ、誰がッ……!』
ニヤリと笑いながら告げた言葉に、咲耶はカアッと顔を赤らめた。建御雷神に対する恋心はなかったが、十年を共に暮らした情はあったのだ。
『黄泉の国には八雷と呼ばれる八柱の雷神がいる。その誰もが、綿津見以上に強い武神だ。最終的には彼らに修行をつけてもらうことになるが、当面は黄泉醜女に師事しろ』
『黄泉醜女ですか……?』
名前からして鬼女のような印象を受け、咲耶は顔を顰めた。その様子を笑いながら見つめて、建御雷神が告げた。
『名前は醜いが、美しい娘たちだ。心配するな』
『娘たち……?』
その言葉から、黄泉醜女と呼ばれる女性が複数いることを咲耶は知った。
『黄泉醜女は双子の姉妹だ。そのいずれもが、今のお前よりも遥かに強いぞ』
『はあ……』
修行を受けるのだから、自分より強いのは当然だと咲耶は考えた。だが、その強さが咲耶の予想の遥か上であることまでは想像もできなかった。
『それから、黄泉の国で修行をするにあたり、絶対に守らねばならぬ決まりがある』
『決まり……ですか?』
咲耶の言葉に頷くと、建御雷神は真剣な表情で告げた。
『黄泉の国の食物を絶対に口にしてはならぬ。黄泉の国の食物を食べると『共食』という儀式を済ませたことになり、二度と現世に戻れなくなる』
『……ッ! 分かりました。しかし、いくら女神とは言え、六十年間も食事なしでは生きられませぬが……』
建御雷神の言葉から伊邪那美の故事を思い出し、咲耶が訊ねた。
『分かっておる。そこで、この『錬気神丹』を渡しておく。これは高天原においても貴重な霊薬だ。神気を恢復させると同時に、多少の怪我であれば即座に完治させる力を持つ。これが効いている間は、空腹を感じることはない』
『そのような霊薬を私に……? その効力はどのくらい保つのですか?』
まさに万能薬とでも呼ぶべき錬気神丹の薬効に驚きながら、咲耶が訊ねた。
『一丸でおよそ十日だ。十日の間は、飢えや渇きを覚えることもなく、神気の回復量が増えるので怪我の治りも早いはずだ』
『渇き……? それは、黄泉の水も飲んではならぬという意味ですか?』
建御雷神の言葉に含まれた意味を感じ取り、咲耶が確認をした。
『水については、煮沸すれば問題ない。だが、どんなに綺麗に見えても生の水は絶対に飲んではならぬ。錬気神丹が効いている間であれば、禊くらいであれば構わぬが……』
『分かりました……』
思っていたよりも黄泉の穢れは強いようであった。六十年間も丸薬以外の物を口にできないと知り、咲耶は一気に気が重くなった。
『とりあえず、錬気神丹を百粒渡しておく。これで二年半以上は保つであろう。足りなくなる前に残りは届けてやろう。ただし、錬気神丹は貴重な霊薬だから、一度に届けられる量は百粒くらいになるが……』
『それは、建御雷神さまが届けてくださるのですか?』
無意識に咲耶の口からその言葉が出た。そして、自分が何を口走ったかに気づき、咲耶はカアッと顔を赤らめた。
『そうだな……。弟子の成長を確認するのも、師の役目か……。できるかぎり、私が届けてやるとしよう』
『べ、別に……無理をされなくても……』
真っ赤に染まった顔を逸らしながら、咲耶が小声で呟いた。その様子を見ながら、建御雷神はニヤリと笑みを浮かべた。
『それから、もう一つ大切なことを伝えておく』
『は、はい……?』
思いも寄らないほど真剣な眼差しで見つめられ、咲耶はドキンと心臓が跳ね上がった。
(な、何じゃ……? 私は別に、キンキン頭に会いたいなどと思っておらぬぞ……)
『黄泉の国には、瓊瓊杵尊さまがいらっしゃる』
『瓊瓊杵さまがッ……?』
建御雷神の言葉に、咲耶は黒曜石の瞳を大きく見開いた。だが、考えてみれば当然のことであった。神であろうと人であろうと、死ねば黄泉の国へ下りていくのだ。
『だが、それはお前の知る瓊瓊杵さまではない。どんなに甘い言葉を囁かれても、決して抱かれてはならぬ。死者の精を受けると、『共食』と同じく二度と現世に戻れなくなるぞ』
『瓊瓊杵さまが……いらっしゃる……』
だが、建御雷神の言葉は咲耶に届いていないようであった。愛する男の面影を思い出し、咲耶は茫然と瓊瓊杵の名を呟いた。その様子を真剣な眼差しで見つめると、建御雷神は厳しい表情で咲耶に告げた。
『咲耶、やはりお前を黄泉の国へ送る前に、私の加護を与えようと思う。私の加護があれば、瓊瓊杵尊さまだけでなく、黄泉の国の穢れからお前を護れるだろう……』
『建御雷神さまの加護……?』
建御雷神が本気で自分の身を心配してくれていることが、咲耶にもよく分かった。だが、神が神に加護を与えるなどということは、初めて聞いたのだった。
『そうだ……。私の加護は少なくても瓊瓊杵尊さまよりも強い。だが、無理強いをするつもりはない。それを受けるかどうかは、お前自身に選んでもらう……』
『それは、どのような加護なのですか?』
加護を受けるかどうかを自分に選ばせるという意味が分からずに、咲耶は建御雷神の顔を見つめながら訊ねた。
『私の精をお前の胎内に注ぐ。それによって、数年は黄泉の国の穢れはお前に寄りつけなくなるはずだ』
『建御雷神さまの精を……? それって、私が建御雷神さまに抱かれるという意味ですか?』
思いも寄らぬ加護の正体に、咲耶は驚愕のあまり黒瞳を大きく見開いた。そして、次の瞬間にはカアッと赤面し、建御雷神の視線から逃れるように俯いた。
『少し考える時間をやろう。私の加護を受けるつもりになったら、今宵、私の寝室に来い。また、受けるつもりがなければ来る必要はない。ただし、その場合には、黄泉の国での様々な誘惑から自分の身を自分で護れ……』
『は、はい……』
(私が建御雷神さまに抱かれる……。それは、瓊瓊杵さまを裏切ることになるのでは……?)
愛する瓊瓊杵の神友に抱かれるなど、当然ながら咲耶はすぐに決心できるはずはなかった。
その夜、暁八つ(午前二時)に、咲耶は瓊瓊杵の寝室を訪れた。悩みに悩んだ結論とは言え、咲耶は真っ赤に顔を染めていた。胸の鼓動はうるさいほど早鐘を打っていた。
俯きながら無言で立つ咲耶を、建御雷神は部屋の中に導いた。以前に神気切れを起こした時に介抱された部屋だったが、今夜の咲耶には部屋の様子を窺う余裕さえなかった。
「た、建御雷神さまの……精をいただく以外に、黄泉の穢れから身を守る術はないのですか……?」
耳まで真っ赤に染めながら、咲耶が建御雷神の顔を見つめて訊ねた。建御雷神に抱かれる覚悟を決めてきたとはいえ、他に方法があるのではないかという疑問は残っていた。
「短期間……数日であれば、お前に結界を施すことで黄泉の穢れから護ることはできる。だが、数年の間、お前を護るには私の精をお前の胎内に入れるしか方法はない……」
「た、建御雷神さまは、私のことをどう思っていらっしゃるのですか?」
女として、愛されてもいない男に抱かれることには抵抗があった。建御雷神が少しでも自分に対して愛情を感じてくれているかを、咲耶は確認したかった。
「お前は私の大切な弟子だ。そして、我が神友である瓊瓊杵尊さまの妻でもある……」
「……。そうですか……」
その言葉に、咲耶は失望を覚えた。やはり、建御雷神は自分を愛している訳ではないことがよく分かった。彼が自分を抱くのは、黄泉の穢れから弟子を護るためであった。
(そっちがその気なら、私も石になろう……。これは男と女の営みではない。建御雷神さまの加護を受ける儀式じゃ……)
そう自分に言い聞かせると、咲耶はキッと鋭い視線で建御雷神を睨んだ。
「では、早速始めてください……。失礼します……」
そう告げると、咲耶は寝室の中央にある大きな寝台に衣服を着たまま横たわった。そして、黒曜石の瞳を閉じて、建御雷神に抱かれるのを待った。
その自暴自棄とも言える態度に、建御雷神は苦笑いを浮かべた。そして、咲耶の横に腰を下ろすと、漆黒の長い髪を撫ぜながら優しく告げた。
「咲耶……。私はお前を愛することができぬ。何故なら、それは瓊瓊杵さまへの裏切りになるからだ。だから、私はお前に何も告げぬ。私がお前をどう思っているかは、お前を抱くことで伝えよう……」
(私を抱くことで伝える……? それって、どういう意味……?)
建御雷神の言葉に驚いて咲耶がその意味を訊ねようと口を開きかけた。だが、その言葉を遮るように、咲耶の唇を建御雷神が塞いできた。
(建御雷神……さま……)
紅唇を割って、建御雷神が咲耶の舌を絡め取った。思いもよらず濃厚に舌を絡められ、咲耶はビクンと身体を震わせた。
(こんな口づけ……あッ、だめッ……! 建御雷神……さま……!)
建御雷神の右手が咲耶の襟元から挿し込まれ、白い乳房を優しく揉みしだき始めた。左胸から広がる甘い痺れに、咲耶は戸惑った。それは長い間忘れていた官能の愉悦に他ならなかった。
「んッ……んあッ……はぁッ……あッ……!」
ネットリと舌を絡められたまま左乳房を揉みしだかれ、ツンと突き勃った媚芯を擦られると、抑えきれない熱い吐息が咲耶の唇から漏れ始めた。
「あッ……いやッ……んあッ……だめッ……ひぃいッ……!」
細い唾液の糸を引きながら唇を離すと、建御雷神は首筋に舌を這わして咲耶の左耳を舐り始めた。赤く染まった耳たぶを甘噛みされ、耳穴に舌を挿し込まれながら音を立てて激しく嬲られた。脳髄を直接舐め回されるような愉悦に、咲耶は白い喉を仰け反らせて喘いだ。
「それッ……だめッ……! あッ、いやッ……! あッ、あッ……あッ、あぁああッ……!」
建御雷神の愛撫は咲耶の想像を遥かに超えて濃密だった。指と手と唇を駆使して咲耶の性感を探り当てると、絶え間なく甘美な刺激を与え続けた。その手腕に翻弄され、咲耶はビクッビクンッと全身を震わせながら昂ぶらされた。
「あッ、いやッ……そこッ、だめッ……あッ、あッ、ひぃいいッ……!」
硬く突き勃った媚芯を甘噛みされ、白い乳房を揉みしだかれながら指で媚芯を擦り上げられた。建御雷神が右手で柔らかい叢をかき分け、敏感な真珠を転がしながら蜜液を塗り込み始めた。
「だめッ、そこッ……! いやッ……あッ、あぁああッ……!
真珠の薄皮をクルンと剥き上げられた瞬間、咲耶はビクンッと総身を仰け反らせて大きく喘いだ。
「どうした……? こんなに溢れさせて……? 感じておるのか……?」
「ち、違ッ……あッ、だめッ……! いやッ、やめッ……あッ、あッ、いやぁあッ……!」
黒曜石の瞳から随喜の涙を溢れさせ、咲耶が激しく首を振った。長い漆黒の髪が舞い乱れ、濃密な女の色香を撒き散らせた。白い裸身が赤く上気して、小刻みに痙攣を始めた。崩壊が近づいていることが、誰の目にも明らかだった。
「ひッ、だめぇッ……! いやッ、あッ、あッ……! あッ、あぁああッ……!」
ビクンッビックンッと激しく総身を痙攣させると、咲耶は歓悦の絶頂を極めた。そして、ガクガクと裸身を硬直させると、グッタリと弛緩して寝台に沈み込んだ。
ハァ、ハァと熱い吐息を漏らす唇からはネットリとした涎が垂れ落ち、官能に蕩けきった黒瞳からは随喜の涙が溢れて白い頬を伝って流れ落ちた。真っ赤に染まった美貌には普段の凜々しさなど微塵もなく、官能の愉悦に翻弄された女の嬌艶さに溢れていた。
「何を惚けておる……? まだ、始めたばかりだぞ……」
ニヤリと笑みを浮かべながらそう告げると、建御雷神は愛撫を再開した。
「ま、待って……! いやッ、だめッ……あッ、あッ、やめッ……いやぁあッ……!」
一度昇りつめた女の身体は、神経が剥き出しになったようなものだ。そこをさらに責めたてられたら、堪ったものではなかった。自分の意志を裏切って、白い裸身は瞬く間に燃え上がらされた。
「ひぃいいッ……! 許してぇえッ! だめぇえッ……! あッ、あッ、あひぃいいッ……!」
ビックンッビックンッと凄絶に総身を痙攣させると、咲耶は続けざまに絶頂を極めさせられた。だが、歓喜の愉悦を噛みしめる間も与えられずに、建御雷神は愛撫の手を緩めようとはしなかった。
「いやぁあッ……! お願いッ……! 許してぇッ! おかしくなってしまうッ……! だめぇえッ……! あッ、あぁああッ……! ひぃいいッ……!」
休む間もなく快絶の頂点を極めさせられ、咲耶は狂ったように悶え啼いた。脳髄をトロトロに蕩かされ、全身の細胞一つ一つまでもが熔解させられた。
「待たせたな、咲耶……。これから、加護を与えてやろうぞ……」
そう告げると、建御雷神は武神の名に恥じない剛直を咲耶の秘唇に充てがった。
「ま、待って……いやッ……許してッ……」
その熱さと硬さを感じた瞬間、咲耶は処女のように怯えた。今、それで責められたら、自分がどうなってしまうのか心の底から震え上がった。だが、咲耶の哀願を無視すると、建御雷神はグイッと腰を突き入れた。快美の火柱が濡れた肉襞を擦り上げ、一気に最奥まで貫いた。
「あぁあああーッ……!」
限界まで裸身を仰け反らせると、咲耶はかつてないほどの壮絶な絶頂を極めた。プシャアッという音とともに、秘唇から弧を描いて蜜液が迸った。だが、建御雷神はビクンッビックンッと激しく痙攣している咲耶を、一切の手加減なく責め続けた。粒だった入口付近を三度擦り上げられ、一気に最奥まで貫かれた。その凄まじい快感に腰骨は灼き溶け、壮絶な愉悦が背筋を舐め上げて脳天で弾けた。
「あッ、あッ……ひぃいいッ……! お願いッ、許してぇえッ……! おかしくなるッ……! だめッ、だめぇえッ……!」
眉間に深い縦皺を刻みながら、咲耶は本気で許しを乞うた。女を狂わせる三浅一深の律動に、黒曜石の瞳から随喜の涙が滂沱となって流れ落ちた。熱い喘ぎを奏でる唇からは、白濁の涎がネットリと糸を引いて垂れ落ちた。
それは、咲耶が初めて体験する壮絶な官能地獄であった。イッたと思った次の瞬間には、新たな絶頂を極めていた。三浅一深の悪魔の動きで最奥まで貫かれる度に、咲耶は全身を激しく痙攣させて快絶の頂点を極めた。
(頭が溶ける! イクのが止まらないッ! く、狂うッ……! 死んでしまうッ……!)
限界を超える快感の奔流に意識さえも真っ白に染まり、全身をドロドロに灼き溶かされた。絶頂の先にある快絶の極み、その更なる先にある究極の頂点……。息をつく暇もなく、咲耶は怒濤の如く極致感に達し続けた。
「武神、建御雷神の加護……、受け取るがいいッ!」
建御雷神の全身が直視できないほどの光輝に包まれた。同時に、快美の火柱が一気に膨張し、咲耶の最奥で爆ぜた。その凄絶な熱精を受けた瞬間、咲耶はいまだかつて経験したことがない極絶点に押し上げられた。
「ひぃいいッ……!」
大きく裸身を仰け反らせると、ビックンッビックンッと壮絶に痙攣しながら咲耶は快美の頂点を極めた。プシャアッという音とともに、秘唇から大量の蜜液が虚空に弧を描いて迸った。
(し、死ぬぅうッ……!)
ガチガチと歯を鳴らしながら総身を硬直させると、咲耶はグッタリと弛緩して寝台に沈み込んだ。そして、限界を遥かに超える快絶に、ガックリと首を折って失神した。
真っ赤に紅潮した目尻から大粒の涙を流し、ほつれた黒髪を咥えた唇からはトロリと涎が糸を引いて垂れ落ちた。汗に塗れた裸身はビクンッビクンッと痙攣を続け、秘唇からは蜜液とともに白濁の精が溢れ出ていた。
それは紛れもなく、凄まじい官能の奔流に翻弄された濃艶な女の末路そのものであった。
意識を取り戻すと、建御雷神の姿は見当たらなかった。広い寝台の上に、咲耶は一糸纏わぬ姿で横たわっていた。
(私……建御雷神さまに抱かれて……)
昨夜の自分を思い出すと、恥ずかしさのあまり咲耶はカアッと赤面した。浅ましく自ら腰を振って建御雷神を求め、数え切れないほどの快絶の頂点を極めて失神までしたのだった。
(あんなに凄かったのは……初めてじゃ……。まだ身体が火照っているわ……」
建御雷神に刻みつけられた壮絶すぎる快感が、埋み火となって体の芯に残っていた。あれほど我を忘れて狂わされたことは、初めての経験だった。白い乳房の先端には、淡紅色の媚芯がまだ硬く突き勃っていた。
女神である咲耶の肉体は、普通の人間とは成長の過程が異なる。寿命はおよそ七百年あり、そのうちの五百年くらいは人でいうと二十代の若さを保つ。瓊瓊杵が殺されて十三年経った現在、咲耶の実年齢は三十一歳であったが、肉体的には二十歳前後にしか見えなかった。
その若い女体は、建御雷神によってかつてないほどの女の悦びを刻みつけられたのだった。
『私がお前をどう思っているかは、お前を抱くことで伝えよう……』
建御雷神の言葉が、咲耶の脳裏に蘇った。その言葉の意味が、今の咲耶には実感を込めて理解できた。
(私は建御雷神さまに愛されている……。そして、私も建御雷神さまを愛している……)
そうでなければ、たとえ加護を与えるためとはいえ、建御雷神があれほど激しく咲耶を抱くことはあり得なかった。また、咲耶も我を忘れて昂ぶり、自ら建御雷神を求めることなど絶対になかった。
(しかし、建御雷神さまは絶対に私にそれを告げることはない……)
建御雷神は瓊瓊杵の神友だ。それは、人間同士の親友よりも遥かに重い意味があった。お互いの生命を賭けた友情……戦友とでも言った方が近いだろうか? 相手に何かあった場合には、自分の生命を賭けてでも相手を助ける……、それが神友であった。だからこそ、建御雷神は瓊瓊杵の復讐に手を貸し、自ら咲耶を鍛え上げてくれているのだ。
『お前を愛することはできぬ。何故なら、それは瓊瓊杵さまへの裏切りになるからだ……』
その言葉が、建御雷神の嘘偽らざる真意だということを咲耶は理解した。だから、建御雷神が咲耶に愛を告げることは、何年、何十年、何百年経とうが絶対にあり得ないのだった。
(昨夜のことは、あくまで建御雷神さまの加護を受けただけ……。男と女の睦言では決してないわ……。そう思わなければ……)
湧き上がる建御雷神に対する愛情を、咲耶は心の奥底に封印した。きっと、建御雷神も同様に考えているに違いなかった。
(今は愛だ、恋だなどよりも、夜叉を倒すために強くなろうッ! それが建御雷神さまの想いに応えるただ一つの道だ……)
強く頭を振って昨夜の甘い記憶を封印すると、咲耶は手早く衣服を身につけた。そして、黒曜石の瞳に強い意志を映しながら、建御雷神の待つ執務室へと向かって寝室を後にした。
『やっと起きたか、咲耶……。私の加護はどうだ……?』
執務室に入ってきた咲耶を一瞥すると、建御雷神がニヤリと笑みを浮かべながら訊ねた。
『は、はい……。お陰様で体中に神気が溢れ、普段よりも手足が軽いです……』
建御雷神の言葉に隠された意味を察して、カアッと顔を赤らめながら咲耶が告げた。かつてないほど狂わされた自分の痴態が、思わず脳裏に溢れてきたのだ。
『そうか……。その加護は恐らく二、三年は保つはずだ。ちょうど錬気神丹がなくなる頃と重なる。だから、二年後に錬金神丹を届ける時に、もう一度加護を授けてやろう……』
『は、はい……』
今度こそ耳まで真っ赤に染まり、咲耶は建御雷神から目を逸らせて俯いた。それは二年後に、再び激しく抱かれることを意味していた。その期待と怖れに、咲耶の心臓はドキドキと早鐘を打ち始めた。
『とにかく、夜叉を倒したければ、黄泉の国で六十年間修行をして来い』
『分かりました……。その六十年で、建御雷神さまからも一本取れるようになって見せますッ!』
恥ずかしい記憶を頭の隅に追いやると、咲耶は黒曜石の瞳で真っ直ぐに建御雷神の精悍な顔を見つめながら告げた。それは二年の間、愛しい男の顔を瞼に焼き付けるような真摯の眼差しであった。
『その意気やよしッ! 体に気をつけて修行に励めッ!』
『建御雷神さまも、お体を大切に……』
差し出された右手を握り締めながら、咲耶は建御雷神を深く愛していることを実感した。その手の温もりを、咲耶は離したくなかった。このまま建御雷神に強く抱き締めて欲しかった。
(この気持ちは絶対に悟られてはならぬッ! 今は瓊瓊杵さまの仇を討つために、夜叉を倒すのだッ! そのために、強くなることだけを考えるのだッ!)
その決意を胸に秘め、咲耶は建御雷神の屋敷を後にして黄泉の国へと旅立っていった。
天の浮き橋に立ち、<天之瓊矛>で海をかき混ぜて島を作ったことは、「国産み」と呼ばれて記紀に伝えられている。その時に産み出された島々が、淡路島、四国、隠岐島、九州、壱岐島、対馬、佐渡島、本州であり、これらが「大八島国」と呼ばれる今の日本の源である。
「国産み」を終えると、伊邪那岐と伊邪那美は「神産み」を始めた。その数は膨大で、石、土、海、風、山などの森羅万象を司る神々が次々と誕生した。海神である綿津見や、咲耶の父である山の神、大山祇神も「神産み」によって産まれた一柱である。
だが、最後に火の神である迦具土命を産んだ際に、伊邪那美は陰部に大火傷を負い、それが元で生命を落とした。
最愛の妻である伊邪那美の生命を奪った迦具土を、伊邪那岐は怒りにまかせて十拳剣で斬殺した。その迦具土の血や遺体からも多くの神々が生まれ出た。高天原最強の武神に数えられる建御雷神も、この時に生まれた神々の一柱である。
愛する伊邪那美を失った伊邪那岐はその失意を諦めきれず、彼女を取り戻すために黄泉の国へ向かう決意を固めた。だが、この時に伊邪那美はすでに『共食』の儀式を終えていた。共食とは黄泉の国の住人になるために、黄泉の国の食物を食べることである。この儀式を終えると、二度と現世には戻れない決まりであった。
黄泉の国の入口である黄泉比良坂に到着した伊邪那岐は、そのまま黄泉の国との境にある根の堅州国へと向かった。そして、黄泉の国の扉の前で伊邪那美の名を呼び、「なぜ死んでしまったのだ。もう一度、力を合わせて国造りに励もう!」と、共に帰ることを提案した。
だが、すでに『共食』を済ませてしまった伊邪那美にとって、伊邪那岐の愛を受け入れることは非常に困難であった。困惑した伊邪那美は黄泉の国の神々に相談すると告げて、伊邪那岐をその場に残したまま離れていった。
いつまで待っても戻ってこない伊邪那美に痺れを切らし、伊邪那岐は黄泉の国の扉を開いて中へと入っていった。
そこで眼にしたのは、八雷をその身に宿し、全身に悍ましい蛆虫が湧く変わり果てた伊邪那美の姿であった。美しかった伊邪那美の肢体は見る影もなく腐敗しており、伊邪那岐は恐怖に駆られてその場から逃げ出した。
約束を破り腐り果てた姿を見られた伊邪那美は激怒し、逃げる伊邪那岐を追い始めた。
黄泉醜女や八雷、黄泉軍に追い詰められながらも、伊邪那岐は黄泉比良坂の麓に生えていた桃の実を三つ取って投げつけた。邪気を払う神桃によって、黄泉の追っ手は撤退していった。
神桃の力によって黄泉の国から脱した伊邪那岐は、その入口を千引岩で塞いだ。その岩の向こうから、凄まじい怨みをはらんだ伊邪那美の絶叫が聞こえてきた。
「私は黄泉の国の神となって、葦原中国の人々を毎日千人殺してやろうぞッ!」
「お前はすでに私の愛した伊邪那美ではないッ! それならば、私は毎日千五百人の赤児を誕生させようッ! お前はそこで、日々倖せな人々の暮らしを見ているがよいッ!」
その誓約を最後に、伊邪那岐と伊邪那美は別々の道を進み始めた。伊邪那美はその誓約どおり黄泉の国を統べる女神となり、黄泉津大神と呼ばれた。
地上に戻った伊邪那岐は黄泉の穢れを落とすために、日向国の阿波岐原で禊を行った。その禊によって、二十七柱の神々が誕生した。その最後に生まれ出たのが三貴神であった。
伊邪那岐が左眼を清めると天照皇大御神が、右目を清めると月詠尊が、そして、鼻を清めると素戔嗚尊が誕生した。
伊邪那岐の命により、天照は高天原を、月詠は夜の国を、素戔嗚は海原を治めることになった。
(あのキンキン頭めッ! よりによって、黄泉の国で修行をして来いだとッ……!)
黄泉の国の入口を塞ぐ千引岩の前に立つと、咲耶はブルッと全身を震わせた。底冷えがするほどの凍気が全身に突き刺さり、体の芯から凍てつきそうな寒さを感じた。それが気温ではなく、黄泉の国独特の邪気であることが咲耶にも分かった。
(何という冷たい気じゃ……。まるで生気を感じないではないか……?)
黄泉の国が死者の国であることを思い出すと、咲耶はその悍ましさに脚が震えた。思わず右手で左胸を押さえ、神衣の懐にある建御雷神の紹介状を握り締めた。
咲耶の脳裏に、建御雷神との会話が蘇った。
『よいか、咲耶……。明朝、お前はここを立って黄泉の国へ迎え』
『よ、黄泉の国……ですか?』
黒曜石の瞳を驚愕に見開きながら、咲耶が訊ねた。
『そうだ。ここに私と綿津見の名を連ねた紹介状を用意した。この紹介状を伊邪那美さまにお渡ししろ』
『伊邪那美さまって……』
国産みや神産みをした伊邪那美命が、今は黄泉の国を統べる黄泉津大神と呼ばれていることは咲耶も知っていた。
『私もかつて、黄泉の国で修行をしたことがある。あそこでの修行は、この高天原や葦原中国の三倍の価値がある』
『三倍とは、どういう意味ですか?』
建御雷神の言葉が理解できずに、咲耶は首を捻って訊ねた。
『時間の流れが違うのだ。黄泉の国は現世より時間の流れが三倍速いのだ。つまり、黄泉の国で三日修行をしても、現世では一日しか経っていないのだ』
『時間の流れが……』
茫然とした表情で、咲耶は建御雷神の顔を見つめた。そのようなことを言われても、すぐには信じられなかった。
『天照さまがおっしゃった三十年という期限まで、残り二十年を切った。だが、このまま現世で修行をし続けても、夜叉を超えることは難しい。だから、残りの二十年を黄泉の国で修行しろ。そうすれば、六十年分の修行ができる』
建御雷神の言わんとすることは、咲耶にも理解できた。三倍の時間をかけられるのであれば、それだけ強くなれることは確実であった。だが、初めて訪れる黄泉の国には不安しかなかった。
『建御雷神さまも一緒に来ていただけるのですか?』
思わず縋り付く視線で建御雷神を見つめながら、咲耶が訊ねた。
『何を甘えておる? お前一人に決まっておろう? それとも、私が恋しくてこの屋敷を離れがたいか?』
『だ、誰がッ……!』
ニヤリと笑いながら告げた言葉に、咲耶はカアッと顔を赤らめた。建御雷神に対する恋心はなかったが、十年を共に暮らした情はあったのだ。
『黄泉の国には八雷と呼ばれる八柱の雷神がいる。その誰もが、綿津見以上に強い武神だ。最終的には彼らに修行をつけてもらうことになるが、当面は黄泉醜女に師事しろ』
『黄泉醜女ですか……?』
名前からして鬼女のような印象を受け、咲耶は顔を顰めた。その様子を笑いながら見つめて、建御雷神が告げた。
『名前は醜いが、美しい娘たちだ。心配するな』
『娘たち……?』
その言葉から、黄泉醜女と呼ばれる女性が複数いることを咲耶は知った。
『黄泉醜女は双子の姉妹だ。そのいずれもが、今のお前よりも遥かに強いぞ』
『はあ……』
修行を受けるのだから、自分より強いのは当然だと咲耶は考えた。だが、その強さが咲耶の予想の遥か上であることまでは想像もできなかった。
『それから、黄泉の国で修行をするにあたり、絶対に守らねばならぬ決まりがある』
『決まり……ですか?』
咲耶の言葉に頷くと、建御雷神は真剣な表情で告げた。
『黄泉の国の食物を絶対に口にしてはならぬ。黄泉の国の食物を食べると『共食』という儀式を済ませたことになり、二度と現世に戻れなくなる』
『……ッ! 分かりました。しかし、いくら女神とは言え、六十年間も食事なしでは生きられませぬが……』
建御雷神の言葉から伊邪那美の故事を思い出し、咲耶が訊ねた。
『分かっておる。そこで、この『錬気神丹』を渡しておく。これは高天原においても貴重な霊薬だ。神気を恢復させると同時に、多少の怪我であれば即座に完治させる力を持つ。これが効いている間は、空腹を感じることはない』
『そのような霊薬を私に……? その効力はどのくらい保つのですか?』
まさに万能薬とでも呼ぶべき錬気神丹の薬効に驚きながら、咲耶が訊ねた。
『一丸でおよそ十日だ。十日の間は、飢えや渇きを覚えることもなく、神気の回復量が増えるので怪我の治りも早いはずだ』
『渇き……? それは、黄泉の水も飲んではならぬという意味ですか?』
建御雷神の言葉に含まれた意味を感じ取り、咲耶が確認をした。
『水については、煮沸すれば問題ない。だが、どんなに綺麗に見えても生の水は絶対に飲んではならぬ。錬気神丹が効いている間であれば、禊くらいであれば構わぬが……』
『分かりました……』
思っていたよりも黄泉の穢れは強いようであった。六十年間も丸薬以外の物を口にできないと知り、咲耶は一気に気が重くなった。
『とりあえず、錬気神丹を百粒渡しておく。これで二年半以上は保つであろう。足りなくなる前に残りは届けてやろう。ただし、錬気神丹は貴重な霊薬だから、一度に届けられる量は百粒くらいになるが……』
『それは、建御雷神さまが届けてくださるのですか?』
無意識に咲耶の口からその言葉が出た。そして、自分が何を口走ったかに気づき、咲耶はカアッと顔を赤らめた。
『そうだな……。弟子の成長を確認するのも、師の役目か……。できるかぎり、私が届けてやるとしよう』
『べ、別に……無理をされなくても……』
真っ赤に染まった顔を逸らしながら、咲耶が小声で呟いた。その様子を見ながら、建御雷神はニヤリと笑みを浮かべた。
『それから、もう一つ大切なことを伝えておく』
『は、はい……?』
思いも寄らないほど真剣な眼差しで見つめられ、咲耶はドキンと心臓が跳ね上がった。
(な、何じゃ……? 私は別に、キンキン頭に会いたいなどと思っておらぬぞ……)
『黄泉の国には、瓊瓊杵尊さまがいらっしゃる』
『瓊瓊杵さまがッ……?』
建御雷神の言葉に、咲耶は黒曜石の瞳を大きく見開いた。だが、考えてみれば当然のことであった。神であろうと人であろうと、死ねば黄泉の国へ下りていくのだ。
『だが、それはお前の知る瓊瓊杵さまではない。どんなに甘い言葉を囁かれても、決して抱かれてはならぬ。死者の精を受けると、『共食』と同じく二度と現世に戻れなくなるぞ』
『瓊瓊杵さまが……いらっしゃる……』
だが、建御雷神の言葉は咲耶に届いていないようであった。愛する男の面影を思い出し、咲耶は茫然と瓊瓊杵の名を呟いた。その様子を真剣な眼差しで見つめると、建御雷神は厳しい表情で咲耶に告げた。
『咲耶、やはりお前を黄泉の国へ送る前に、私の加護を与えようと思う。私の加護があれば、瓊瓊杵尊さまだけでなく、黄泉の国の穢れからお前を護れるだろう……』
『建御雷神さまの加護……?』
建御雷神が本気で自分の身を心配してくれていることが、咲耶にもよく分かった。だが、神が神に加護を与えるなどということは、初めて聞いたのだった。
『そうだ……。私の加護は少なくても瓊瓊杵尊さまよりも強い。だが、無理強いをするつもりはない。それを受けるかどうかは、お前自身に選んでもらう……』
『それは、どのような加護なのですか?』
加護を受けるかどうかを自分に選ばせるという意味が分からずに、咲耶は建御雷神の顔を見つめながら訊ねた。
『私の精をお前の胎内に注ぐ。それによって、数年は黄泉の国の穢れはお前に寄りつけなくなるはずだ』
『建御雷神さまの精を……? それって、私が建御雷神さまに抱かれるという意味ですか?』
思いも寄らぬ加護の正体に、咲耶は驚愕のあまり黒瞳を大きく見開いた。そして、次の瞬間にはカアッと赤面し、建御雷神の視線から逃れるように俯いた。
『少し考える時間をやろう。私の加護を受けるつもりになったら、今宵、私の寝室に来い。また、受けるつもりがなければ来る必要はない。ただし、その場合には、黄泉の国での様々な誘惑から自分の身を自分で護れ……』
『は、はい……』
(私が建御雷神さまに抱かれる……。それは、瓊瓊杵さまを裏切ることになるのでは……?)
愛する瓊瓊杵の神友に抱かれるなど、当然ながら咲耶はすぐに決心できるはずはなかった。
その夜、暁八つ(午前二時)に、咲耶は瓊瓊杵の寝室を訪れた。悩みに悩んだ結論とは言え、咲耶は真っ赤に顔を染めていた。胸の鼓動はうるさいほど早鐘を打っていた。
俯きながら無言で立つ咲耶を、建御雷神は部屋の中に導いた。以前に神気切れを起こした時に介抱された部屋だったが、今夜の咲耶には部屋の様子を窺う余裕さえなかった。
「た、建御雷神さまの……精をいただく以外に、黄泉の穢れから身を守る術はないのですか……?」
耳まで真っ赤に染めながら、咲耶が建御雷神の顔を見つめて訊ねた。建御雷神に抱かれる覚悟を決めてきたとはいえ、他に方法があるのではないかという疑問は残っていた。
「短期間……数日であれば、お前に結界を施すことで黄泉の穢れから護ることはできる。だが、数年の間、お前を護るには私の精をお前の胎内に入れるしか方法はない……」
「た、建御雷神さまは、私のことをどう思っていらっしゃるのですか?」
女として、愛されてもいない男に抱かれることには抵抗があった。建御雷神が少しでも自分に対して愛情を感じてくれているかを、咲耶は確認したかった。
「お前は私の大切な弟子だ。そして、我が神友である瓊瓊杵尊さまの妻でもある……」
「……。そうですか……」
その言葉に、咲耶は失望を覚えた。やはり、建御雷神は自分を愛している訳ではないことがよく分かった。彼が自分を抱くのは、黄泉の穢れから弟子を護るためであった。
(そっちがその気なら、私も石になろう……。これは男と女の営みではない。建御雷神さまの加護を受ける儀式じゃ……)
そう自分に言い聞かせると、咲耶はキッと鋭い視線で建御雷神を睨んだ。
「では、早速始めてください……。失礼します……」
そう告げると、咲耶は寝室の中央にある大きな寝台に衣服を着たまま横たわった。そして、黒曜石の瞳を閉じて、建御雷神に抱かれるのを待った。
その自暴自棄とも言える態度に、建御雷神は苦笑いを浮かべた。そして、咲耶の横に腰を下ろすと、漆黒の長い髪を撫ぜながら優しく告げた。
「咲耶……。私はお前を愛することができぬ。何故なら、それは瓊瓊杵さまへの裏切りになるからだ。だから、私はお前に何も告げぬ。私がお前をどう思っているかは、お前を抱くことで伝えよう……」
(私を抱くことで伝える……? それって、どういう意味……?)
建御雷神の言葉に驚いて咲耶がその意味を訊ねようと口を開きかけた。だが、その言葉を遮るように、咲耶の唇を建御雷神が塞いできた。
(建御雷神……さま……)
紅唇を割って、建御雷神が咲耶の舌を絡め取った。思いもよらず濃厚に舌を絡められ、咲耶はビクンと身体を震わせた。
(こんな口づけ……あッ、だめッ……! 建御雷神……さま……!)
建御雷神の右手が咲耶の襟元から挿し込まれ、白い乳房を優しく揉みしだき始めた。左胸から広がる甘い痺れに、咲耶は戸惑った。それは長い間忘れていた官能の愉悦に他ならなかった。
「んッ……んあッ……はぁッ……あッ……!」
ネットリと舌を絡められたまま左乳房を揉みしだかれ、ツンと突き勃った媚芯を擦られると、抑えきれない熱い吐息が咲耶の唇から漏れ始めた。
「あッ……いやッ……んあッ……だめッ……ひぃいッ……!」
細い唾液の糸を引きながら唇を離すと、建御雷神は首筋に舌を這わして咲耶の左耳を舐り始めた。赤く染まった耳たぶを甘噛みされ、耳穴に舌を挿し込まれながら音を立てて激しく嬲られた。脳髄を直接舐め回されるような愉悦に、咲耶は白い喉を仰け反らせて喘いだ。
「それッ……だめッ……! あッ、いやッ……! あッ、あッ……あッ、あぁああッ……!」
建御雷神の愛撫は咲耶の想像を遥かに超えて濃密だった。指と手と唇を駆使して咲耶の性感を探り当てると、絶え間なく甘美な刺激を与え続けた。その手腕に翻弄され、咲耶はビクッビクンッと全身を震わせながら昂ぶらされた。
「あッ、いやッ……そこッ、だめッ……あッ、あッ、ひぃいいッ……!」
硬く突き勃った媚芯を甘噛みされ、白い乳房を揉みしだかれながら指で媚芯を擦り上げられた。建御雷神が右手で柔らかい叢をかき分け、敏感な真珠を転がしながら蜜液を塗り込み始めた。
「だめッ、そこッ……! いやッ……あッ、あぁああッ……!
真珠の薄皮をクルンと剥き上げられた瞬間、咲耶はビクンッと総身を仰け反らせて大きく喘いだ。
「どうした……? こんなに溢れさせて……? 感じておるのか……?」
「ち、違ッ……あッ、だめッ……! いやッ、やめッ……あッ、あッ、いやぁあッ……!」
黒曜石の瞳から随喜の涙を溢れさせ、咲耶が激しく首を振った。長い漆黒の髪が舞い乱れ、濃密な女の色香を撒き散らせた。白い裸身が赤く上気して、小刻みに痙攣を始めた。崩壊が近づいていることが、誰の目にも明らかだった。
「ひッ、だめぇッ……! いやッ、あッ、あッ……! あッ、あぁああッ……!」
ビクンッビックンッと激しく総身を痙攣させると、咲耶は歓悦の絶頂を極めた。そして、ガクガクと裸身を硬直させると、グッタリと弛緩して寝台に沈み込んだ。
ハァ、ハァと熱い吐息を漏らす唇からはネットリとした涎が垂れ落ち、官能に蕩けきった黒瞳からは随喜の涙が溢れて白い頬を伝って流れ落ちた。真っ赤に染まった美貌には普段の凜々しさなど微塵もなく、官能の愉悦に翻弄された女の嬌艶さに溢れていた。
「何を惚けておる……? まだ、始めたばかりだぞ……」
ニヤリと笑みを浮かべながらそう告げると、建御雷神は愛撫を再開した。
「ま、待って……! いやッ、だめッ……あッ、あッ、やめッ……いやぁあッ……!」
一度昇りつめた女の身体は、神経が剥き出しになったようなものだ。そこをさらに責めたてられたら、堪ったものではなかった。自分の意志を裏切って、白い裸身は瞬く間に燃え上がらされた。
「ひぃいいッ……! 許してぇえッ! だめぇえッ……! あッ、あッ、あひぃいいッ……!」
ビックンッビックンッと凄絶に総身を痙攣させると、咲耶は続けざまに絶頂を極めさせられた。だが、歓喜の愉悦を噛みしめる間も与えられずに、建御雷神は愛撫の手を緩めようとはしなかった。
「いやぁあッ……! お願いッ……! 許してぇッ! おかしくなってしまうッ……! だめぇえッ……! あッ、あぁああッ……! ひぃいいッ……!」
休む間もなく快絶の頂点を極めさせられ、咲耶は狂ったように悶え啼いた。脳髄をトロトロに蕩かされ、全身の細胞一つ一つまでもが熔解させられた。
「待たせたな、咲耶……。これから、加護を与えてやろうぞ……」
そう告げると、建御雷神は武神の名に恥じない剛直を咲耶の秘唇に充てがった。
「ま、待って……いやッ……許してッ……」
その熱さと硬さを感じた瞬間、咲耶は処女のように怯えた。今、それで責められたら、自分がどうなってしまうのか心の底から震え上がった。だが、咲耶の哀願を無視すると、建御雷神はグイッと腰を突き入れた。快美の火柱が濡れた肉襞を擦り上げ、一気に最奥まで貫いた。
「あぁあああーッ……!」
限界まで裸身を仰け反らせると、咲耶はかつてないほどの壮絶な絶頂を極めた。プシャアッという音とともに、秘唇から弧を描いて蜜液が迸った。だが、建御雷神はビクンッビックンッと激しく痙攣している咲耶を、一切の手加減なく責め続けた。粒だった入口付近を三度擦り上げられ、一気に最奥まで貫かれた。その凄まじい快感に腰骨は灼き溶け、壮絶な愉悦が背筋を舐め上げて脳天で弾けた。
「あッ、あッ……ひぃいいッ……! お願いッ、許してぇえッ……! おかしくなるッ……! だめッ、だめぇえッ……!」
眉間に深い縦皺を刻みながら、咲耶は本気で許しを乞うた。女を狂わせる三浅一深の律動に、黒曜石の瞳から随喜の涙が滂沱となって流れ落ちた。熱い喘ぎを奏でる唇からは、白濁の涎がネットリと糸を引いて垂れ落ちた。
それは、咲耶が初めて体験する壮絶な官能地獄であった。イッたと思った次の瞬間には、新たな絶頂を極めていた。三浅一深の悪魔の動きで最奥まで貫かれる度に、咲耶は全身を激しく痙攣させて快絶の頂点を極めた。
(頭が溶ける! イクのが止まらないッ! く、狂うッ……! 死んでしまうッ……!)
限界を超える快感の奔流に意識さえも真っ白に染まり、全身をドロドロに灼き溶かされた。絶頂の先にある快絶の極み、その更なる先にある究極の頂点……。息をつく暇もなく、咲耶は怒濤の如く極致感に達し続けた。
「武神、建御雷神の加護……、受け取るがいいッ!」
建御雷神の全身が直視できないほどの光輝に包まれた。同時に、快美の火柱が一気に膨張し、咲耶の最奥で爆ぜた。その凄絶な熱精を受けた瞬間、咲耶はいまだかつて経験したことがない極絶点に押し上げられた。
「ひぃいいッ……!」
大きく裸身を仰け反らせると、ビックンッビックンッと壮絶に痙攣しながら咲耶は快美の頂点を極めた。プシャアッという音とともに、秘唇から大量の蜜液が虚空に弧を描いて迸った。
(し、死ぬぅうッ……!)
ガチガチと歯を鳴らしながら総身を硬直させると、咲耶はグッタリと弛緩して寝台に沈み込んだ。そして、限界を遥かに超える快絶に、ガックリと首を折って失神した。
真っ赤に紅潮した目尻から大粒の涙を流し、ほつれた黒髪を咥えた唇からはトロリと涎が糸を引いて垂れ落ちた。汗に塗れた裸身はビクンッビクンッと痙攣を続け、秘唇からは蜜液とともに白濁の精が溢れ出ていた。
それは紛れもなく、凄まじい官能の奔流に翻弄された濃艶な女の末路そのものであった。
意識を取り戻すと、建御雷神の姿は見当たらなかった。広い寝台の上に、咲耶は一糸纏わぬ姿で横たわっていた。
(私……建御雷神さまに抱かれて……)
昨夜の自分を思い出すと、恥ずかしさのあまり咲耶はカアッと赤面した。浅ましく自ら腰を振って建御雷神を求め、数え切れないほどの快絶の頂点を極めて失神までしたのだった。
(あんなに凄かったのは……初めてじゃ……。まだ身体が火照っているわ……」
建御雷神に刻みつけられた壮絶すぎる快感が、埋み火となって体の芯に残っていた。あれほど我を忘れて狂わされたことは、初めての経験だった。白い乳房の先端には、淡紅色の媚芯がまだ硬く突き勃っていた。
女神である咲耶の肉体は、普通の人間とは成長の過程が異なる。寿命はおよそ七百年あり、そのうちの五百年くらいは人でいうと二十代の若さを保つ。瓊瓊杵が殺されて十三年経った現在、咲耶の実年齢は三十一歳であったが、肉体的には二十歳前後にしか見えなかった。
その若い女体は、建御雷神によってかつてないほどの女の悦びを刻みつけられたのだった。
『私がお前をどう思っているかは、お前を抱くことで伝えよう……』
建御雷神の言葉が、咲耶の脳裏に蘇った。その言葉の意味が、今の咲耶には実感を込めて理解できた。
(私は建御雷神さまに愛されている……。そして、私も建御雷神さまを愛している……)
そうでなければ、たとえ加護を与えるためとはいえ、建御雷神があれほど激しく咲耶を抱くことはあり得なかった。また、咲耶も我を忘れて昂ぶり、自ら建御雷神を求めることなど絶対になかった。
(しかし、建御雷神さまは絶対に私にそれを告げることはない……)
建御雷神は瓊瓊杵の神友だ。それは、人間同士の親友よりも遥かに重い意味があった。お互いの生命を賭けた友情……戦友とでも言った方が近いだろうか? 相手に何かあった場合には、自分の生命を賭けてでも相手を助ける……、それが神友であった。だからこそ、建御雷神は瓊瓊杵の復讐に手を貸し、自ら咲耶を鍛え上げてくれているのだ。
『お前を愛することはできぬ。何故なら、それは瓊瓊杵さまへの裏切りになるからだ……』
その言葉が、建御雷神の嘘偽らざる真意だということを咲耶は理解した。だから、建御雷神が咲耶に愛を告げることは、何年、何十年、何百年経とうが絶対にあり得ないのだった。
(昨夜のことは、あくまで建御雷神さまの加護を受けただけ……。男と女の睦言では決してないわ……。そう思わなければ……)
湧き上がる建御雷神に対する愛情を、咲耶は心の奥底に封印した。きっと、建御雷神も同様に考えているに違いなかった。
(今は愛だ、恋だなどよりも、夜叉を倒すために強くなろうッ! それが建御雷神さまの想いに応えるただ一つの道だ……)
強く頭を振って昨夜の甘い記憶を封印すると、咲耶は手早く衣服を身につけた。そして、黒曜石の瞳に強い意志を映しながら、建御雷神の待つ執務室へと向かって寝室を後にした。
『やっと起きたか、咲耶……。私の加護はどうだ……?』
執務室に入ってきた咲耶を一瞥すると、建御雷神がニヤリと笑みを浮かべながら訊ねた。
『は、はい……。お陰様で体中に神気が溢れ、普段よりも手足が軽いです……』
建御雷神の言葉に隠された意味を察して、カアッと顔を赤らめながら咲耶が告げた。かつてないほど狂わされた自分の痴態が、思わず脳裏に溢れてきたのだ。
『そうか……。その加護は恐らく二、三年は保つはずだ。ちょうど錬気神丹がなくなる頃と重なる。だから、二年後に錬金神丹を届ける時に、もう一度加護を授けてやろう……』
『は、はい……』
今度こそ耳まで真っ赤に染まり、咲耶は建御雷神から目を逸らせて俯いた。それは二年後に、再び激しく抱かれることを意味していた。その期待と怖れに、咲耶の心臓はドキドキと早鐘を打ち始めた。
『とにかく、夜叉を倒したければ、黄泉の国で六十年間修行をして来い』
『分かりました……。その六十年で、建御雷神さまからも一本取れるようになって見せますッ!』
恥ずかしい記憶を頭の隅に追いやると、咲耶は黒曜石の瞳で真っ直ぐに建御雷神の精悍な顔を見つめながら告げた。それは二年の間、愛しい男の顔を瞼に焼き付けるような真摯の眼差しであった。
『その意気やよしッ! 体に気をつけて修行に励めッ!』
『建御雷神さまも、お体を大切に……』
差し出された右手を握り締めながら、咲耶は建御雷神を深く愛していることを実感した。その手の温もりを、咲耶は離したくなかった。このまま建御雷神に強く抱き締めて欲しかった。
(この気持ちは絶対に悟られてはならぬッ! 今は瓊瓊杵さまの仇を討つために、夜叉を倒すのだッ! そのために、強くなることだけを考えるのだッ!)
その決意を胸に秘め、咲耶は建御雷神の屋敷を後にして黄泉の国へと旅立っていった。
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緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
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