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第4章 咲耶の軌跡
5.天照との会見
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建御雷神の元で咲耶が修行を始めて、三年が過ぎた。最近の咲耶の日課は単調だが、過酷だった。
午前中は屋敷の裏山に登り、頂上付近にある滝に打たれた。裏山の高さはおよそ五千尺(千五百メートル)ほどだったが、登山路などはなく草木をかき分けて獣道を進むしかなかった。
獣道があるということは、野生の獣が存在するという意味だ。狐や狸であれば問題なかったが、猪や狼、時には熊にも遭遇した。咲耶の苦手な蛇や蜥蜴などの爬虫類も多く生殖しており、それらを見るたびに絶叫を上げて逃げ出した。神気を纏っていれば近寄ってこないとはいえ、反省房での一ヶ月間が咲耶の大きなトラウマになっていたのである。
頂上付近にある滝は清涼で、夏場はその冷たい水が気持ちよく快適だったが、冬は地獄であった。全身にくまなく神気を通して体温を維持しないと、あっという間に凍死してしまうことは確実だった。
午前中のうちに山を下りて屋敷に戻り、昼食を取った後には座学が待っていた。古今東西のあらゆる書物を読まされ、思金神という知恵を司る神から講義を受けた。思金は天岩屋戸に隠れた天照を引き出すために、天津神を集めて宴会を開き、天鈿女命に舞踊をさせた神であった。
その楽しげな様子に何事かと岩屋戸の隙間から顔を出した天照を、力自慢の天手力男神に引きずり出させたのである。これによって世界に太陽が戻ったことから、思金は知恵と学問と天候の神として崇められいた。
齢も分からぬほどの老神だがその眼光は鋭く、気を抜くと持っている警策で咲耶は容赦なく打擲された。
二刻(四時間)に及ぶ思金の講義が終わると、暮六つ(十七時)から建御雷神による武技の指導が待っていた。これが一番の地獄の時間であった。
建御雷神による指導は二刻と決められていたが、咲耶は四半刻(三十分)も保ったことが一度もなかった。
(今日こそは、四半刻を超えてみせるッ!)
指導の前には気合いを入れてそう望むのだが、あっという間に叩き伏せられてしまうのだ。真剣を持って斬りかかる咲耶に対して、建御雷神は一度も刀剣を手にしたことがなかった。建御雷神が携えるのは、ある時は筆であり、またある時は箸であった。今日、建御雷神が保っていたのは、竹の楊枝であった。
(舐めおってッ……! 楊枝一本で、私の刀を止めるつもりかッ!)
刃渡り二十三寸(七十センチ)の日本刀を、二寸(六センチ)にも満たない楊枝で受け止めるつもりだと知り、咲耶は屈辱のあまりカアッと赤面した。
「怪我をされても知りませぬぞ、建御雷神さま……」
右上段に日本刀を構えながら、咲耶が建御雷神の顔を見据えて告げた。
「気にするな。怪我をするのは私ではない……」
そう告げると、建御雷神はニヤリと笑った。それを見て、咲耶の中で何かがプチンと切れた。
(人を舐めるのもいい加減にせよッ! そちらがその気なら、本気で打ち込んでやるわッ!)
「参りますッ! たぁああッ……!」
神気を全身に漲らせると、咲耶は神速の足捌きで建御雷神との間合いに入った。そして、裂帛の気合いとともに右上段から袈裟懸けに白刃を振り落とした。
「……ッ!」
だが、次の瞬間に建御雷神の姿が咲耶の視界から消滅した。そして、右脇腹に凄まじい衝撃が走ると、咲耶は二十尺(六メートル)も左の地面に転がされていた。
「かはッ……」
右の横隔膜が痙攣して、上手く呼吸ができなかった。全身に神気を纏わせていたはずだったが、ほとんど役に立たなかった。
(たかが楊枝で、何でこれほどの衝撃が……?)
咲耶の疑問に答えるように、建御雷神が告げた。
「お前は私の言葉を何も理解しておらぬ。以前に私は教えたはずだ。我々の闘いで重要なのは、剣技ではなく神気だと……。お前が纏った神気は、紙のように薄い。それに対して、私が持った楊枝は……」
建御雷神は右手を振り上げると、五十尺(十五メートル)ほど先にある太い樹に向かって楊枝を投げた。
ズドーンッ……!
直径三尺(九十センチ)はある樹の中央に、五寸(十五センチ)ほどの風穴が空いた。
「そんな……!」
黒曜石の瞳を大きく見開いて、咲耶は茫然とその穴を見つめた。たかが楊枝一本にこれほどの威力があるなど、実際に眼にしても信じられなかった。
「お前は毎日、滝に打たれているそうだな? 何故、滝に打たれる?」
「それは……、精神を集中して神気を研ぎ澄ませるため……です……」
建御雷神の問いに、咲耶は当然の如く答えた。だが、その答えを建御雷神は一蹴した。
「ならば、滝に打たれて何故濡れる?」
「は……?」
その言葉の意味が分からずに、咲耶は建御雷神の顔を見つめた。
「神気を纏っていながら、何故濡れるのかと聞いておる。答えよッ!」
「そ、それは……神気が薄いから……?」
その答えも建御雷神を満足させるものではなかった。
「薄いどころではない。ほとんど纏えていないと思えッ! 神気を纏うというのは、こういうことを言うのだッ!」
次の瞬間、建御雷神の全身が凄まじい光輝に包まれた。
(な、何じゃ……これはッ……?)
あまりの眩しさに、咲耶は慌てて両手をかざして目を覆った。その光輝が濃密な神気の奔流であり、凄まじい灼熱の焔であることが咲耶にも分かった。
「その刀で、私を斬ってみろッ! 手加減などする必要はない。お前のすべての神気を白刃に纏わせて斬りかかってこいッ!」
「は、はいッ……!」
建御雷神の言葉に大きく頷くと、咲耶は刀を上段に構えた。
(私のすべての神気を集中させて……)
咲耶の全身から神々しい神気が溢れ出た。その神気を、両手で上段に構えた刀に収斂させた。白銀の刀身が光輝に包まれ、眩い閃光を放った。
「たあぁああッ……!」
裂帛の気合いとともに、咲耶は全力で建御雷神に向かって神気の刀身を叩きつけた。
「……ッ!」
刀身が建御雷神の神気に触れた瞬間、何の手応えもなく消滅した。ジュッっという音とともに、鋼鉄を鍛えた刀が熔解したのだ。
「そんなッ……?」
黒曜石の瞳を驚愕に見開いた咲耶に、建御雷神が告げた。
「分かったか? これが神気を纏うということだ。この状態で、滝に濡れると思うか?」
「いいえ……、濡れるはず……ありません……」
滝に打たれて、夏は気持ちいいとか、冬は凍えそうだと言っていた自分が恥ずかしかった。
「当然だが、夜叉もこの程度の妖気は纏うぞ……」
「夜叉もッ……!」
建御雷神の言葉に、咲耶は今の自分と夜叉の力の差を実感させられた。
「お前が夜叉に勝つためには、この神気の結界を破るほどの攻撃を身につける必要がある」
「これほどの結界を……破る……?」
そんな攻撃が可能だとは、咲耶には思えなかった。
「それについては、そのうちに教えてやる。今は、この結界を張れるようになることが先だ」
「は、はい……」
そう答えたものの、咲耶にはどうしたらこれほどの神気の結界を張ることができるのか、想像もできなかった。不安そうな表情で、咲耶は建御雷神を見つめた。
「明日から滝に打たれる時には、できるだけ神気を解放し続けろ。今のお前では恐らくあっという間に神気切れになるはずだ。だから、当面の目標は四半刻(三十分)でいい。四半刻の間、できる限り全力で神気を解放し続けてみろ」
「し、四半刻……」
その十分の一も神気を解放していたら、意識を失ってしまうことが咲耶には分かった。あの辺りには狼や猪などの危険な野生動物がいるのだ。それがどんなに危険なことかを知り、咲耶は顔を引き攣らせた。
「狼に喰われたくなければ、気絶しないギリギリの線を自分で見極めることだ」
咲耶の心配を見抜いて、建御雷神がニヤリと笑った。
(このキンキン頭めッ! 人ごとだと思ってッ……!)
だが、夜叉との差を思い知らされた咲耶にとって、建御雷神の命令を拒むことはできなかった。
「分かりました。四半刻、神気を解放し続けることができるようになって見せますッ!」
きついがやるしかないと腹を決めて、咲耶が告げた。だが、建御雷神は楽しそうに笑いながら言い募った。
「私は、当面の目標は四半刻と言ったはずだ。そうだな……。二刻(四時間)の間、神気を解放し続けられるようになったら、次の稽古を付けてやる」
「に、二刻……ですか?」
驚愕する咲耶を見て、建御雷神はニヤニヤと笑みを浮かべながら頷いた。
(くそッ……! キンキン頭の奴、絶対に面白がっているわッ! いつか必ず仕返ししてやるから、覚えておれッ……!)
ジト目で建御雷神を見つめると、咲耶は硬く心に誓ったのだった。その翌日から、午前中の修行も咲耶にとって地獄に変わった。
何とか神気の放出を四半刻続けられるようになった一ヶ月後、昼食を食べ終わった咲耶は建御雷神に呼び出された。
「咲耶、今日の午後は修行を中止して、私に付き合え……」
「建御雷神さまと……? 何をされるおつもりですか……?」
咲耶は両手で豊かな胸を隠すと、ジト目で建御雷神を睨んだ。この時代、男が女を誘うと言うことは、その女を自分のモノにするという意味が強かった。
「何を勘違いしておる? 私とともに天上宮に行くのだ」
「て、天上宮ッ……?」
天上宮は別名を太陽宮とも呼ばれ、天照皇大御神を始めとする三貴神や別天津神、神世七代などがおわす高天原の王宮であった。国津神である咲耶は、当然のことながらそんなところへ行ったことなど一度もなかった。そもそも天津神でさえ、それがどこにあるのか知る者は少なかったのだ。
「どうした? お前は『天照の血筋に連なる者』ではなかったのか? 私のような一介の臣下よりも天上宮については詳しいはずだろう?」
「……ッ!」
ニヤリと笑いながら告げた建御雷神の顔を、言葉に詰まりながら咲耶は睨んだ。
(キンキン頭めッ! 嫌味な奴じゃッ!)
初対面の時、咲耶が告げた言葉を建御雷神は忘れていないようだった。
「何故、私を天上宮に伴うのですか?」
その質問を待っていたかのように、建御雷神が楽しそうに笑いながら告げた。
「夜叉の討伐軍については、以前に話したであろう? 私がなかなか討伐軍を編成しないため、天照様が痺れを切らされたらしい。よって、天上宮に赴いて、その弁明をしなければならなくなった」
「まさか……?」
そこまで聞いて、咲耶は顔を引き攣らせた。そして、建御雷神は咲耶の予想通りの言葉を告げた。
「討伐軍を出さない理由は、瓊瓊杵尊さまの仇を討ちたいというお前の願いのためだ。だから、お前自身が天照さまに弁明をするのは当然のことだろう……?」
「わ、私が天照さまに弁明をッ……?」
黒曜石の瞳を限界まで見開きながら、咲耶が叫んだ。高天原を統べる最高神にまみえるだけでなく、その相手を説得することになるとは咲耶の想像を遥かに超えていた。
「お前に瓊瓊杵尊さまの仇を討つ神気があると認めていただければ、その仇討ちを許していただけるだろう。そうでない場合には、私にすぐに討伐軍を編成するよう命じられるはずだ。瓊瓊杵尊さまの仇が討てるかどうかは、すべてお前次第ということだ」
「そんなッ……!」
今の自分の神気が、遥かに夜叉に劣ることは咲耶自身が嫌というほど知っていた。天照がその咲耶に瓊瓊杵の敵討ちを許すとはとても思えなかった。
「天照さまは今のお前に夜叉を倒す力がないことなど、一目で見抜かれる。恐らく天照さまが判断されるのは、お前の神気の色だ……」
「神気の色……?」
建御雷神の告げた意味が分からずに、咲耶は首を傾げた。
「神気の質と言い換えてもよい。神気というものは、一人ひとりその質が異なる。お前の神気の色は限りなく純白に近い。その色だけを見れば、お前の神気は最上の部類に入る」
「神気の色だけを見ればって、どういう意味ですかッ?」
それ以外はまったくだめだと言われたような気がして、咲耶は建御雷神をジロリと睨んだ。その視線を笑い流すと、建御雷神が続けた。
「こういう神気を持つものは、鍛え方によってその伸び率が高い。だから、私はお前に六十年間修行をしろと告げた」
「はい……」
建御雷神の元で修行を始めて、すでに三年が経った。その修行が終わるまで、あと五十七年も残っていた。
「それまで討伐軍の派遣を待っていただけるかどうかは、すべてお前自身に掛かっている。今から天上宮に出かける故、すぐに着替えをして正門で待て。用意をしたら、私もすぐに行く……」
「は、はいッ……!」
建御雷神の言葉に、咲耶は大きな声で答えた。だが、天照を説得する重圧に、咲耶は胃がキリキリと痛んだ。
(天照皇大御神さまにお目に掛かるだけでなく、瓊瓊杵さまの仇を討つために説得までするなんて……。説得に失敗したら、二度と瓊瓊杵さまの仇を討てなくなる……。いったい、何と言えば、天照さまに認めていただけるのじゃ……?)
この世のすべてを統べる主宰神を相手に、何を言うべきか咲耶は言葉が見つからなかった。取りあえず、着替えをするために建御雷神の部屋を急いで出て自室へと向かった。
その後ろ姿を見つめながら、建御雷神が楽しそうに口元を綻ばせていた。
天上宮の場所が神々にも知られていない理由が、咲耶にもよく理解できた。そこは普通に行ける場所ではなかったのだ。
建御雷神は咲耶の手を取ると、聞いたこともない祝詞を唱えた。その祝詞は結界の門を開く言霊であった。その門こそが、天上宮への入口であったのだ。それは、一定以上の神気を携え、天照に認められた神にしか開かれない神門に違いなかった。
建御雷神が祝詞を唱え終わると、咲耶は見たこともない広大な宮殿の入口に立っていた。
(これが、天上宮……! 何という広大な宮殿なのじゃ……)
茫然と立ち竦む咲耶の目の前には、建御雷神の屋敷の何十倍もある巨大な宮殿が聳え立っていた。その主殿は五層からなっており、それを取り囲むように七つの塔が立ち並んでいた。そのすべてが、見たこともないほど美しく輝く白亜の石からできていた。
「天照皇大御神さまのお召しに預かり、参上つかまつった。お取り次ぎいただきたい」
「お待ちしておりました、建御雷神さま……。そちらのお方は……?」
名を告げずとも、門番は恭しく建御雷神に敬礼をしてきた。そして、咲耶を一瞥してその素性を建御雷神に訊ねた。
「私の弟子で、木花咲耶と申す。瓊瓊杵尊さまの細君でもあられる」
「瓊瓊杵尊さまの……! 大変失礼を致しました」
驚いたように門番が咲耶に頭を下げた。咲耶も慌てて頭を下げると、簡単に自己紹介をした。
「瓊瓊杵の妻で、木花咲耶と申します。よろしくお願い致します」
「お目に掛かれて光栄にございます。どうぞ、ご案内致します……」
そう告げると、門番は先導しながら建御雷神と咲耶を本殿の中に通した。
(廊下も広くて立派だわ。天井もものすごく高い……)
キョロキョロと周囲を見渡す咲耶を、建御雷神が面白そうに見つめた。
長い廊下の突き当たりにある階段を上り、咲耶たちは三階にある応接間に通された。ここでしばらく待つように告げると、門番は天照に取り次ぐために部屋を出て行った。
「凄い部屋ですね……。さすがに天上宮だけあるわ……」
桜の木でできた机を挟んで、咲耶は建御雷神の向かいに腰を下ろした。椅子の作りもかなり凝っており、これ一脚でかなりの値段がしそうであった。五十尺(十五メートル)四方はある広い部屋には、豪奢な飾り棚や脇棚などが白い壁に沿って置かれていた。脇棚の上にある花瓶には、色とりどりの美しい花々が生けられていた。
「天照さまに何と申し上げるつもりか、心は決まったのか?」
「いえ……。そもそも、私が天照さまにお目に掛かること自体が想像もしていなかったことです。何を話したらいいかなど……」
緊張のあまり顔を引き攣らせながら、咲耶が答えた。その様子をジッと見つめながら、建御雷神が告げた。
「一つだけ助言をしてやろう。天照さまの御前では、搦め手など絶対に使うな。お前が私のところに来た時のような狂言をしたら、その存在ごと消滅させられると思え……!}
「は、はいッ……!」
三年前、建御雷神に会うために門番の青年を陥れたことを咲耶は思い出した。あの時も、建御雷神にはすぐに見破られたのだった。
(天照さまは建御雷神さま以上のお力をお持ちのはずだ……。下手な嘘など、あっという間に見破られるに違いない。それならば、ありのままの私を見ていただいた方がいいわ。瓊瓊杵さまを愛し、本気でその仇を討ちたいと思っていることをそのまま申し上げよう……)
咲耶は大きく深呼吸をすると、心を決めた。下手な小細工などせずに、天照に本心を見せることにしたのだ。その様子を、建御雷神はジッと見つめていた。
天照との会見はごく短い時間で終わった。四半刻(三十分)どころか、その半分の時間もなかった。だが、咲耶には永遠とも感じるほどの長い時間に感じた。
最上階にある天照の玉間に入った瞬間、咲耶の周囲から時間と空間が消滅した。辺りは白一色の膨大な光輝に包まれ、その前方の玉座に天照が座していた。
(このお方は、紛れもなく神そのものだ……)
自分が女神であるにも拘わらず、咲耶は何の疑いもなくそう思った。広い玉間の隅々まで輝かせる光輝は、天照自身から発せられていた。
緩やかに波打つ豪奢な銀髪を腰まで靡かせ、その尊顔は絶世の美しさと深い叡智に輝いていた。見る者を吸い込むような漆黒の瞳は星々の煌めきを映し、女性らしい起伏に富んだ肢体は豪奢な紫苑の神衣に包まれていた。
「お前が瓊瓊杵の妻か……?」
天上の美声そのものが咲耶に降りかかってきた。咲耶は土下座をしたまま、顔を上げることもできずに答えた。
「は、はい……。木花咲耶と申します……」
その声が自分のものとも思えないほど、掠れて慄えていた。ただ目の前にいるだけで、これほどの威圧を感じる相手は初めてであった。
「瓊瓊杵は数多い孫たちの中でも、特に目を掛けておった。その瓊瓊杵がそなたと婚儀を結ぶと知らせて来たのは、つい先日のことだった」
咲耶が瓊瓊杵の妻となってから、すでに十三年が経っていた。永遠とも言える生命を持つ天照にとっては、その年月でさえ「つい先日」のことであるようだった。
「その瓊瓊杵が異国から来た夜叉とか申す妖魔に殺された。その妖魔を討伐するために神軍の編成を建御雷神に命じたところ、お前がそれを拒んだそうだな……」
「は、はい……」
いきなり天照が核心を突いてきた。咲耶はドキンと鼓動を跳ね上がらせながら、慌てて答えた。
「木花咲耶とやら、面を上げよ。そして、妾の眼を見ながら答えよ。何故、夜叉の討伐を拒絶する?」
「は、はい……!」
天照の言葉にビクンッと体を震わせながら、咲耶は顔を上げた。そして、星々の煌めきを映す天照の瞳を真っ直ぐに見つめた。その叡智に輝く黒瞳は、すべてを見通すかの如く咲耶の黒曜石の瞳を見据えていた。
「瓊瓊杵さまの仇は、私の手で討ちとうございます。そのために、私は建御雷神さまの元で修行をしております!」
咲耶の言葉を聞いても、天照の黒瞳には何も変化がなかった。つまり、天照は咲耶の告げた言葉に何も感銘を受けていなかった。
「お前の神気は瓊瓊杵と比べるべくもない。建御雷神、この者が夜叉を倒すには、どのくらいの時間がかかる?」
「はッ……。およそ、六十年は必要かと思いまする……」
突然、話を振られたにも拘わらず、建御雷神はその問いをあらかじめ予想していたかのように落ち着いた声で答えた。
「木花咲耶、お前は妾に六十年も夜叉の討伐を待てと言うつもりかッ?」
「は、はいッ! 私は瓊瓊杵さまの妻にございますッ! 愛する夫の仇を、ぜひこの手で討たせていただけませぬか?」
咲耶の全身から神気が舞い上がった。無意識のうちに、全身全霊を込めて咲耶は天照に叫んでいた。その神気を見つめると、天照が玉座から立ち上がった。
「咲耶ッ、抑えろッ!」
咲耶の左隣に跪いていた建御雷神が鋭い声で叱咤した。天照の御前で神気を放出することは、彼女の意に逆らって敵対することを意味した。だが、建御雷神の制止に咲耶が気づくよりも早く、天照が鋭い声で告げた。
「国津神の分際で、妾に神気を向けるかッ? それがどういう意味であるか、分かっておるのであろうなッ?」
天照の全身から直視できないほどの光輝が放たれた。神気の放出などというレベルではなかった。それはまさしく、太陽そのものが放つ膨大な火焔以外の何物でもなかった。
「ひッ……!」
その超絶な灼熱のエネルギーを正面から受けて、咲耶は瞬時に死を実感した。彼女の全身を消滅させるほどの神気が、凄まじい奔流となって襲いかかってきたのだ。その超烈な神気を建御雷神の結界が防いだ。
「天照さま、お戯れが過ぎますぞ……」
天照の神気を防いでいる結界が、バチバチと激しい放電を放った。建御雷神にとってさえ、天照の神気を防ぐことは簡単ではなかったのだ。
「建御雷神ッ! この程度の神気も防げぬ者に、瓊瓊杵の仇を討つことができると思っておるのか?」
ニヤリと笑みを浮かべながら、天照が神気の放出を止めた。どうやら、咲耶の力を試したようだった。
「まあ、無理でしょうな……」
天照の問いに対して、建御雷神がしれっと告げた。
「では何故、この者の願いを聞き入れて討伐軍の編成を拒むのじゃ?」
「恐れながら、瓊瓊杵さまは私を神友と呼んでくださいました。そのご恩に報いるために、瓊瓊杵さまが愛した方の想いを叶えてやりたいと思っております。私に免じて、討伐軍の派遣をお待ちいただけませぬか?」
「建御雷神さま……」
黒曜石の瞳を大きく見開きながら、咲耶がすぐ左にいる建御雷神の顔を見つめた。建御雷神が瓊瓊杵の友であったことを初めて知ったのだ。
「……。木花咲耶……!」
「は、はいッ……!」
しばらくの間、建御雷神の顔を見つめていた天照が、不意に咲耶の名を呼んだ。ビクンッと全身を震わせながら、咲耶が顔を上げて天照を見つめた。
「三十年じゃ……」
「はッ……?」
天照の告げた言葉の意味が分からずに、咲耶が茫然として訊ねた。
「討伐軍を出すのは三十年後だと言っておる。それまでに瓊瓊杵の仇を討てッ……!」
「は、はいッ……!」
天照の言葉に、咲耶は慌てて頭を下げながら叫んだ。たとえそれが建御雷神の告げた半分の期間であろうと、唯一無二の絶対神に反論など許されるはずがなかった。
「建御雷神、この者を三十年間、鍛えるのじゃッ! そして、必ずや瓊瓊杵の無念を雪ぐのじゃッ! よいなッ!」
「はッ……!」
建御雷神が長い金色の髪を揺らしながら、天照に頭を垂れた。一度口にした言葉を天照が絶対に覆さないことを、建御雷神は知っていた。
(相変わらず、無茶をおっしゃる……。三十年で夜叉を超える力を授けよなど、咲耶に死ねと言っているのと変わらぬ……)
床に伏せた建御雷神の口元から、小さなため息が漏れた。
「天照皇大御神さまッ……! ありがとうございますッ! 必ずや、瓊瓊杵尊さまの仇を討って見せますッ!」
建御雷神の嘆息に気づきもせずに、咲耶が満面に笑みを浮かべながら天照に叫んだ。その様子を一瞥すると、天照が建御雷神に再び視線を向けた。
「どうじゃ、建御雷神……? 妾の慈悲深さは……?」
「はッ……、何も言うべき言葉もございませぬ……」
天照の言葉に苦笑いを浮かべながら、建御雷神が告げた。
(六十年かかる修行を三十年で終わらせよと言うのが、慈悲とおっしゃるか……?)
「そうか……。では、特別にもう一つ慈悲を与えてやろうぞ。先日、月詠尊が星の欠片を鍛えて、<草薙剣>に勝るとも劣らぬ神刀を作り上げた。その神刀をこの者に取らす……」
「神刀を……私にッ……!」
三種の神器の一つである<草薙剣>は、素戔嗚尊が退治した八岐大蛇の体内から出て来たと伝えられる神刀だ。それに勝るとも劣らぬ神刀を下賜されると聞いて、咲耶は驚愕とともに喜びに全身を震わせた。
「まさか、あのご神刀をッ……?」
だが、咲耶の喜びを尻目に、建御雷神は心の底から迷惑そうな表情を浮かべた。その様子を楽しそうに見つめながら、天照が告げた。
「そうじゃ……。瓊瓊杵の仇を討つという健気な妻に、妾からの贈り物じゃ。その神刀には、まだ銘がなかったはず……<咲耶刀>と名付けるがよい」
「その<咲耶刀>で、瓊瓊杵さまの仇を討たせるおつもりか……?」
望外の喜びに茫然としている咲耶を横目で見ながら、建御雷神が大きなため息をついて天照に訊ねた。
(<草薙剣>と同等の力を持つ神刀だとッ……? そんな物を咲耶が扱えるようになるだけで、百年はかかるぞ……。たった三十年で夜叉を超える神気を持たせ、神刀まで自在に扱えるようにさせろだと……? 天照さまは本当に咲耶を殺すおつもりか?)
現在の修行でさえ、咲耶にとっては過酷なものであった。その修行を倍どころか、三倍にも四倍にもしなければならなくなるのだ。建御雷神には、咲耶がそれほどの修行に付いて来られるとはとても思えなかった。
「どうじゃ、建御雷神……。できるな……?」
「……善処いたしまする」
世界を統べる主宰神の言葉に、建御雷神と言えども逆らうわけにはいかなかった。建御雷神は右横に跪いている咲耶の顔を見つめた。
「天照皇大御神さまッ……! 必ずや、ご期待に添えるように致しまするッ! 木花咲耶、この身命を賭けて、瓊瓊杵さまの無念を晴らす一存にございますッ!」
黒曜石の瞳を感涙に潤ませながら、咲耶が天照に向かって叫んだ。その姿を見つめ、建御雷神は深いため息をついた。
(咲耶……。今の言葉の意味が分かっているのか? 死刑執行書に署名したも同じであるぞ……)
感動と歓喜の眼差しで、咲耶は天照の麗しい尊顔を見つめた。その咲耶を、憐憫と同情を込めて建御雷神は見つめていた。
その二人の様子を、星々の煌めきを映す黒瞳に楽しげな光を湛えながら天照が見渡していた。
午前中は屋敷の裏山に登り、頂上付近にある滝に打たれた。裏山の高さはおよそ五千尺(千五百メートル)ほどだったが、登山路などはなく草木をかき分けて獣道を進むしかなかった。
獣道があるということは、野生の獣が存在するという意味だ。狐や狸であれば問題なかったが、猪や狼、時には熊にも遭遇した。咲耶の苦手な蛇や蜥蜴などの爬虫類も多く生殖しており、それらを見るたびに絶叫を上げて逃げ出した。神気を纏っていれば近寄ってこないとはいえ、反省房での一ヶ月間が咲耶の大きなトラウマになっていたのである。
頂上付近にある滝は清涼で、夏場はその冷たい水が気持ちよく快適だったが、冬は地獄であった。全身にくまなく神気を通して体温を維持しないと、あっという間に凍死してしまうことは確実だった。
午前中のうちに山を下りて屋敷に戻り、昼食を取った後には座学が待っていた。古今東西のあらゆる書物を読まされ、思金神という知恵を司る神から講義を受けた。思金は天岩屋戸に隠れた天照を引き出すために、天津神を集めて宴会を開き、天鈿女命に舞踊をさせた神であった。
その楽しげな様子に何事かと岩屋戸の隙間から顔を出した天照を、力自慢の天手力男神に引きずり出させたのである。これによって世界に太陽が戻ったことから、思金は知恵と学問と天候の神として崇められいた。
齢も分からぬほどの老神だがその眼光は鋭く、気を抜くと持っている警策で咲耶は容赦なく打擲された。
二刻(四時間)に及ぶ思金の講義が終わると、暮六つ(十七時)から建御雷神による武技の指導が待っていた。これが一番の地獄の時間であった。
建御雷神による指導は二刻と決められていたが、咲耶は四半刻(三十分)も保ったことが一度もなかった。
(今日こそは、四半刻を超えてみせるッ!)
指導の前には気合いを入れてそう望むのだが、あっという間に叩き伏せられてしまうのだ。真剣を持って斬りかかる咲耶に対して、建御雷神は一度も刀剣を手にしたことがなかった。建御雷神が携えるのは、ある時は筆であり、またある時は箸であった。今日、建御雷神が保っていたのは、竹の楊枝であった。
(舐めおってッ……! 楊枝一本で、私の刀を止めるつもりかッ!)
刃渡り二十三寸(七十センチ)の日本刀を、二寸(六センチ)にも満たない楊枝で受け止めるつもりだと知り、咲耶は屈辱のあまりカアッと赤面した。
「怪我をされても知りませぬぞ、建御雷神さま……」
右上段に日本刀を構えながら、咲耶が建御雷神の顔を見据えて告げた。
「気にするな。怪我をするのは私ではない……」
そう告げると、建御雷神はニヤリと笑った。それを見て、咲耶の中で何かがプチンと切れた。
(人を舐めるのもいい加減にせよッ! そちらがその気なら、本気で打ち込んでやるわッ!)
「参りますッ! たぁああッ……!」
神気を全身に漲らせると、咲耶は神速の足捌きで建御雷神との間合いに入った。そして、裂帛の気合いとともに右上段から袈裟懸けに白刃を振り落とした。
「……ッ!」
だが、次の瞬間に建御雷神の姿が咲耶の視界から消滅した。そして、右脇腹に凄まじい衝撃が走ると、咲耶は二十尺(六メートル)も左の地面に転がされていた。
「かはッ……」
右の横隔膜が痙攣して、上手く呼吸ができなかった。全身に神気を纏わせていたはずだったが、ほとんど役に立たなかった。
(たかが楊枝で、何でこれほどの衝撃が……?)
咲耶の疑問に答えるように、建御雷神が告げた。
「お前は私の言葉を何も理解しておらぬ。以前に私は教えたはずだ。我々の闘いで重要なのは、剣技ではなく神気だと……。お前が纏った神気は、紙のように薄い。それに対して、私が持った楊枝は……」
建御雷神は右手を振り上げると、五十尺(十五メートル)ほど先にある太い樹に向かって楊枝を投げた。
ズドーンッ……!
直径三尺(九十センチ)はある樹の中央に、五寸(十五センチ)ほどの風穴が空いた。
「そんな……!」
黒曜石の瞳を大きく見開いて、咲耶は茫然とその穴を見つめた。たかが楊枝一本にこれほどの威力があるなど、実際に眼にしても信じられなかった。
「お前は毎日、滝に打たれているそうだな? 何故、滝に打たれる?」
「それは……、精神を集中して神気を研ぎ澄ませるため……です……」
建御雷神の問いに、咲耶は当然の如く答えた。だが、その答えを建御雷神は一蹴した。
「ならば、滝に打たれて何故濡れる?」
「は……?」
その言葉の意味が分からずに、咲耶は建御雷神の顔を見つめた。
「神気を纏っていながら、何故濡れるのかと聞いておる。答えよッ!」
「そ、それは……神気が薄いから……?」
その答えも建御雷神を満足させるものではなかった。
「薄いどころではない。ほとんど纏えていないと思えッ! 神気を纏うというのは、こういうことを言うのだッ!」
次の瞬間、建御雷神の全身が凄まじい光輝に包まれた。
(な、何じゃ……これはッ……?)
あまりの眩しさに、咲耶は慌てて両手をかざして目を覆った。その光輝が濃密な神気の奔流であり、凄まじい灼熱の焔であることが咲耶にも分かった。
「その刀で、私を斬ってみろッ! 手加減などする必要はない。お前のすべての神気を白刃に纏わせて斬りかかってこいッ!」
「は、はいッ……!」
建御雷神の言葉に大きく頷くと、咲耶は刀を上段に構えた。
(私のすべての神気を集中させて……)
咲耶の全身から神々しい神気が溢れ出た。その神気を、両手で上段に構えた刀に収斂させた。白銀の刀身が光輝に包まれ、眩い閃光を放った。
「たあぁああッ……!」
裂帛の気合いとともに、咲耶は全力で建御雷神に向かって神気の刀身を叩きつけた。
「……ッ!」
刀身が建御雷神の神気に触れた瞬間、何の手応えもなく消滅した。ジュッっという音とともに、鋼鉄を鍛えた刀が熔解したのだ。
「そんなッ……?」
黒曜石の瞳を驚愕に見開いた咲耶に、建御雷神が告げた。
「分かったか? これが神気を纏うということだ。この状態で、滝に濡れると思うか?」
「いいえ……、濡れるはず……ありません……」
滝に打たれて、夏は気持ちいいとか、冬は凍えそうだと言っていた自分が恥ずかしかった。
「当然だが、夜叉もこの程度の妖気は纏うぞ……」
「夜叉もッ……!」
建御雷神の言葉に、咲耶は今の自分と夜叉の力の差を実感させられた。
「お前が夜叉に勝つためには、この神気の結界を破るほどの攻撃を身につける必要がある」
「これほどの結界を……破る……?」
そんな攻撃が可能だとは、咲耶には思えなかった。
「それについては、そのうちに教えてやる。今は、この結界を張れるようになることが先だ」
「は、はい……」
そう答えたものの、咲耶にはどうしたらこれほどの神気の結界を張ることができるのか、想像もできなかった。不安そうな表情で、咲耶は建御雷神を見つめた。
「明日から滝に打たれる時には、できるだけ神気を解放し続けろ。今のお前では恐らくあっという間に神気切れになるはずだ。だから、当面の目標は四半刻(三十分)でいい。四半刻の間、できる限り全力で神気を解放し続けてみろ」
「し、四半刻……」
その十分の一も神気を解放していたら、意識を失ってしまうことが咲耶には分かった。あの辺りには狼や猪などの危険な野生動物がいるのだ。それがどんなに危険なことかを知り、咲耶は顔を引き攣らせた。
「狼に喰われたくなければ、気絶しないギリギリの線を自分で見極めることだ」
咲耶の心配を見抜いて、建御雷神がニヤリと笑った。
(このキンキン頭めッ! 人ごとだと思ってッ……!)
だが、夜叉との差を思い知らされた咲耶にとって、建御雷神の命令を拒むことはできなかった。
「分かりました。四半刻、神気を解放し続けることができるようになって見せますッ!」
きついがやるしかないと腹を決めて、咲耶が告げた。だが、建御雷神は楽しそうに笑いながら言い募った。
「私は、当面の目標は四半刻と言ったはずだ。そうだな……。二刻(四時間)の間、神気を解放し続けられるようになったら、次の稽古を付けてやる」
「に、二刻……ですか?」
驚愕する咲耶を見て、建御雷神はニヤニヤと笑みを浮かべながら頷いた。
(くそッ……! キンキン頭の奴、絶対に面白がっているわッ! いつか必ず仕返ししてやるから、覚えておれッ……!)
ジト目で建御雷神を見つめると、咲耶は硬く心に誓ったのだった。その翌日から、午前中の修行も咲耶にとって地獄に変わった。
何とか神気の放出を四半刻続けられるようになった一ヶ月後、昼食を食べ終わった咲耶は建御雷神に呼び出された。
「咲耶、今日の午後は修行を中止して、私に付き合え……」
「建御雷神さまと……? 何をされるおつもりですか……?」
咲耶は両手で豊かな胸を隠すと、ジト目で建御雷神を睨んだ。この時代、男が女を誘うと言うことは、その女を自分のモノにするという意味が強かった。
「何を勘違いしておる? 私とともに天上宮に行くのだ」
「て、天上宮ッ……?」
天上宮は別名を太陽宮とも呼ばれ、天照皇大御神を始めとする三貴神や別天津神、神世七代などがおわす高天原の王宮であった。国津神である咲耶は、当然のことながらそんなところへ行ったことなど一度もなかった。そもそも天津神でさえ、それがどこにあるのか知る者は少なかったのだ。
「どうした? お前は『天照の血筋に連なる者』ではなかったのか? 私のような一介の臣下よりも天上宮については詳しいはずだろう?」
「……ッ!」
ニヤリと笑いながら告げた建御雷神の顔を、言葉に詰まりながら咲耶は睨んだ。
(キンキン頭めッ! 嫌味な奴じゃッ!)
初対面の時、咲耶が告げた言葉を建御雷神は忘れていないようだった。
「何故、私を天上宮に伴うのですか?」
その質問を待っていたかのように、建御雷神が楽しそうに笑いながら告げた。
「夜叉の討伐軍については、以前に話したであろう? 私がなかなか討伐軍を編成しないため、天照様が痺れを切らされたらしい。よって、天上宮に赴いて、その弁明をしなければならなくなった」
「まさか……?」
そこまで聞いて、咲耶は顔を引き攣らせた。そして、建御雷神は咲耶の予想通りの言葉を告げた。
「討伐軍を出さない理由は、瓊瓊杵尊さまの仇を討ちたいというお前の願いのためだ。だから、お前自身が天照さまに弁明をするのは当然のことだろう……?」
「わ、私が天照さまに弁明をッ……?」
黒曜石の瞳を限界まで見開きながら、咲耶が叫んだ。高天原を統べる最高神にまみえるだけでなく、その相手を説得することになるとは咲耶の想像を遥かに超えていた。
「お前に瓊瓊杵尊さまの仇を討つ神気があると認めていただければ、その仇討ちを許していただけるだろう。そうでない場合には、私にすぐに討伐軍を編成するよう命じられるはずだ。瓊瓊杵尊さまの仇が討てるかどうかは、すべてお前次第ということだ」
「そんなッ……!」
今の自分の神気が、遥かに夜叉に劣ることは咲耶自身が嫌というほど知っていた。天照がその咲耶に瓊瓊杵の敵討ちを許すとはとても思えなかった。
「天照さまは今のお前に夜叉を倒す力がないことなど、一目で見抜かれる。恐らく天照さまが判断されるのは、お前の神気の色だ……」
「神気の色……?」
建御雷神の告げた意味が分からずに、咲耶は首を傾げた。
「神気の質と言い換えてもよい。神気というものは、一人ひとりその質が異なる。お前の神気の色は限りなく純白に近い。その色だけを見れば、お前の神気は最上の部類に入る」
「神気の色だけを見ればって、どういう意味ですかッ?」
それ以外はまったくだめだと言われたような気がして、咲耶は建御雷神をジロリと睨んだ。その視線を笑い流すと、建御雷神が続けた。
「こういう神気を持つものは、鍛え方によってその伸び率が高い。だから、私はお前に六十年間修行をしろと告げた」
「はい……」
建御雷神の元で修行を始めて、すでに三年が経った。その修行が終わるまで、あと五十七年も残っていた。
「それまで討伐軍の派遣を待っていただけるかどうかは、すべてお前自身に掛かっている。今から天上宮に出かける故、すぐに着替えをして正門で待て。用意をしたら、私もすぐに行く……」
「は、はいッ……!」
建御雷神の言葉に、咲耶は大きな声で答えた。だが、天照を説得する重圧に、咲耶は胃がキリキリと痛んだ。
(天照皇大御神さまにお目に掛かるだけでなく、瓊瓊杵さまの仇を討つために説得までするなんて……。説得に失敗したら、二度と瓊瓊杵さまの仇を討てなくなる……。いったい、何と言えば、天照さまに認めていただけるのじゃ……?)
この世のすべてを統べる主宰神を相手に、何を言うべきか咲耶は言葉が見つからなかった。取りあえず、着替えをするために建御雷神の部屋を急いで出て自室へと向かった。
その後ろ姿を見つめながら、建御雷神が楽しそうに口元を綻ばせていた。
天上宮の場所が神々にも知られていない理由が、咲耶にもよく理解できた。そこは普通に行ける場所ではなかったのだ。
建御雷神は咲耶の手を取ると、聞いたこともない祝詞を唱えた。その祝詞は結界の門を開く言霊であった。その門こそが、天上宮への入口であったのだ。それは、一定以上の神気を携え、天照に認められた神にしか開かれない神門に違いなかった。
建御雷神が祝詞を唱え終わると、咲耶は見たこともない広大な宮殿の入口に立っていた。
(これが、天上宮……! 何という広大な宮殿なのじゃ……)
茫然と立ち竦む咲耶の目の前には、建御雷神の屋敷の何十倍もある巨大な宮殿が聳え立っていた。その主殿は五層からなっており、それを取り囲むように七つの塔が立ち並んでいた。そのすべてが、見たこともないほど美しく輝く白亜の石からできていた。
「天照皇大御神さまのお召しに預かり、参上つかまつった。お取り次ぎいただきたい」
「お待ちしておりました、建御雷神さま……。そちらのお方は……?」
名を告げずとも、門番は恭しく建御雷神に敬礼をしてきた。そして、咲耶を一瞥してその素性を建御雷神に訊ねた。
「私の弟子で、木花咲耶と申す。瓊瓊杵尊さまの細君でもあられる」
「瓊瓊杵尊さまの……! 大変失礼を致しました」
驚いたように門番が咲耶に頭を下げた。咲耶も慌てて頭を下げると、簡単に自己紹介をした。
「瓊瓊杵の妻で、木花咲耶と申します。よろしくお願い致します」
「お目に掛かれて光栄にございます。どうぞ、ご案内致します……」
そう告げると、門番は先導しながら建御雷神と咲耶を本殿の中に通した。
(廊下も広くて立派だわ。天井もものすごく高い……)
キョロキョロと周囲を見渡す咲耶を、建御雷神が面白そうに見つめた。
長い廊下の突き当たりにある階段を上り、咲耶たちは三階にある応接間に通された。ここでしばらく待つように告げると、門番は天照に取り次ぐために部屋を出て行った。
「凄い部屋ですね……。さすがに天上宮だけあるわ……」
桜の木でできた机を挟んで、咲耶は建御雷神の向かいに腰を下ろした。椅子の作りもかなり凝っており、これ一脚でかなりの値段がしそうであった。五十尺(十五メートル)四方はある広い部屋には、豪奢な飾り棚や脇棚などが白い壁に沿って置かれていた。脇棚の上にある花瓶には、色とりどりの美しい花々が生けられていた。
「天照さまに何と申し上げるつもりか、心は決まったのか?」
「いえ……。そもそも、私が天照さまにお目に掛かること自体が想像もしていなかったことです。何を話したらいいかなど……」
緊張のあまり顔を引き攣らせながら、咲耶が答えた。その様子をジッと見つめながら、建御雷神が告げた。
「一つだけ助言をしてやろう。天照さまの御前では、搦め手など絶対に使うな。お前が私のところに来た時のような狂言をしたら、その存在ごと消滅させられると思え……!}
「は、はいッ……!」
三年前、建御雷神に会うために門番の青年を陥れたことを咲耶は思い出した。あの時も、建御雷神にはすぐに見破られたのだった。
(天照さまは建御雷神さま以上のお力をお持ちのはずだ……。下手な嘘など、あっという間に見破られるに違いない。それならば、ありのままの私を見ていただいた方がいいわ。瓊瓊杵さまを愛し、本気でその仇を討ちたいと思っていることをそのまま申し上げよう……)
咲耶は大きく深呼吸をすると、心を決めた。下手な小細工などせずに、天照に本心を見せることにしたのだ。その様子を、建御雷神はジッと見つめていた。
天照との会見はごく短い時間で終わった。四半刻(三十分)どころか、その半分の時間もなかった。だが、咲耶には永遠とも感じるほどの長い時間に感じた。
最上階にある天照の玉間に入った瞬間、咲耶の周囲から時間と空間が消滅した。辺りは白一色の膨大な光輝に包まれ、その前方の玉座に天照が座していた。
(このお方は、紛れもなく神そのものだ……)
自分が女神であるにも拘わらず、咲耶は何の疑いもなくそう思った。広い玉間の隅々まで輝かせる光輝は、天照自身から発せられていた。
緩やかに波打つ豪奢な銀髪を腰まで靡かせ、その尊顔は絶世の美しさと深い叡智に輝いていた。見る者を吸い込むような漆黒の瞳は星々の煌めきを映し、女性らしい起伏に富んだ肢体は豪奢な紫苑の神衣に包まれていた。
「お前が瓊瓊杵の妻か……?」
天上の美声そのものが咲耶に降りかかってきた。咲耶は土下座をしたまま、顔を上げることもできずに答えた。
「は、はい……。木花咲耶と申します……」
その声が自分のものとも思えないほど、掠れて慄えていた。ただ目の前にいるだけで、これほどの威圧を感じる相手は初めてであった。
「瓊瓊杵は数多い孫たちの中でも、特に目を掛けておった。その瓊瓊杵がそなたと婚儀を結ぶと知らせて来たのは、つい先日のことだった」
咲耶が瓊瓊杵の妻となってから、すでに十三年が経っていた。永遠とも言える生命を持つ天照にとっては、その年月でさえ「つい先日」のことであるようだった。
「その瓊瓊杵が異国から来た夜叉とか申す妖魔に殺された。その妖魔を討伐するために神軍の編成を建御雷神に命じたところ、お前がそれを拒んだそうだな……」
「は、はい……」
いきなり天照が核心を突いてきた。咲耶はドキンと鼓動を跳ね上がらせながら、慌てて答えた。
「木花咲耶とやら、面を上げよ。そして、妾の眼を見ながら答えよ。何故、夜叉の討伐を拒絶する?」
「は、はい……!」
天照の言葉にビクンッと体を震わせながら、咲耶は顔を上げた。そして、星々の煌めきを映す天照の瞳を真っ直ぐに見つめた。その叡智に輝く黒瞳は、すべてを見通すかの如く咲耶の黒曜石の瞳を見据えていた。
「瓊瓊杵さまの仇は、私の手で討ちとうございます。そのために、私は建御雷神さまの元で修行をしております!」
咲耶の言葉を聞いても、天照の黒瞳には何も変化がなかった。つまり、天照は咲耶の告げた言葉に何も感銘を受けていなかった。
「お前の神気は瓊瓊杵と比べるべくもない。建御雷神、この者が夜叉を倒すには、どのくらいの時間がかかる?」
「はッ……。およそ、六十年は必要かと思いまする……」
突然、話を振られたにも拘わらず、建御雷神はその問いをあらかじめ予想していたかのように落ち着いた声で答えた。
「木花咲耶、お前は妾に六十年も夜叉の討伐を待てと言うつもりかッ?」
「は、はいッ! 私は瓊瓊杵さまの妻にございますッ! 愛する夫の仇を、ぜひこの手で討たせていただけませぬか?」
咲耶の全身から神気が舞い上がった。無意識のうちに、全身全霊を込めて咲耶は天照に叫んでいた。その神気を見つめると、天照が玉座から立ち上がった。
「咲耶ッ、抑えろッ!」
咲耶の左隣に跪いていた建御雷神が鋭い声で叱咤した。天照の御前で神気を放出することは、彼女の意に逆らって敵対することを意味した。だが、建御雷神の制止に咲耶が気づくよりも早く、天照が鋭い声で告げた。
「国津神の分際で、妾に神気を向けるかッ? それがどういう意味であるか、分かっておるのであろうなッ?」
天照の全身から直視できないほどの光輝が放たれた。神気の放出などというレベルではなかった。それはまさしく、太陽そのものが放つ膨大な火焔以外の何物でもなかった。
「ひッ……!」
その超絶な灼熱のエネルギーを正面から受けて、咲耶は瞬時に死を実感した。彼女の全身を消滅させるほどの神気が、凄まじい奔流となって襲いかかってきたのだ。その超烈な神気を建御雷神の結界が防いだ。
「天照さま、お戯れが過ぎますぞ……」
天照の神気を防いでいる結界が、バチバチと激しい放電を放った。建御雷神にとってさえ、天照の神気を防ぐことは簡単ではなかったのだ。
「建御雷神ッ! この程度の神気も防げぬ者に、瓊瓊杵の仇を討つことができると思っておるのか?」
ニヤリと笑みを浮かべながら、天照が神気の放出を止めた。どうやら、咲耶の力を試したようだった。
「まあ、無理でしょうな……」
天照の問いに対して、建御雷神がしれっと告げた。
「では何故、この者の願いを聞き入れて討伐軍の編成を拒むのじゃ?」
「恐れながら、瓊瓊杵さまは私を神友と呼んでくださいました。そのご恩に報いるために、瓊瓊杵さまが愛した方の想いを叶えてやりたいと思っております。私に免じて、討伐軍の派遣をお待ちいただけませぬか?」
「建御雷神さま……」
黒曜石の瞳を大きく見開きながら、咲耶がすぐ左にいる建御雷神の顔を見つめた。建御雷神が瓊瓊杵の友であったことを初めて知ったのだ。
「……。木花咲耶……!」
「は、はいッ……!」
しばらくの間、建御雷神の顔を見つめていた天照が、不意に咲耶の名を呼んだ。ビクンッと全身を震わせながら、咲耶が顔を上げて天照を見つめた。
「三十年じゃ……」
「はッ……?」
天照の告げた言葉の意味が分からずに、咲耶が茫然として訊ねた。
「討伐軍を出すのは三十年後だと言っておる。それまでに瓊瓊杵の仇を討てッ……!」
「は、はいッ……!」
天照の言葉に、咲耶は慌てて頭を下げながら叫んだ。たとえそれが建御雷神の告げた半分の期間であろうと、唯一無二の絶対神に反論など許されるはずがなかった。
「建御雷神、この者を三十年間、鍛えるのじゃッ! そして、必ずや瓊瓊杵の無念を雪ぐのじゃッ! よいなッ!」
「はッ……!」
建御雷神が長い金色の髪を揺らしながら、天照に頭を垂れた。一度口にした言葉を天照が絶対に覆さないことを、建御雷神は知っていた。
(相変わらず、無茶をおっしゃる……。三十年で夜叉を超える力を授けよなど、咲耶に死ねと言っているのと変わらぬ……)
床に伏せた建御雷神の口元から、小さなため息が漏れた。
「天照皇大御神さまッ……! ありがとうございますッ! 必ずや、瓊瓊杵尊さまの仇を討って見せますッ!」
建御雷神の嘆息に気づきもせずに、咲耶が満面に笑みを浮かべながら天照に叫んだ。その様子を一瞥すると、天照が建御雷神に再び視線を向けた。
「どうじゃ、建御雷神……? 妾の慈悲深さは……?」
「はッ……、何も言うべき言葉もございませぬ……」
天照の言葉に苦笑いを浮かべながら、建御雷神が告げた。
(六十年かかる修行を三十年で終わらせよと言うのが、慈悲とおっしゃるか……?)
「そうか……。では、特別にもう一つ慈悲を与えてやろうぞ。先日、月詠尊が星の欠片を鍛えて、<草薙剣>に勝るとも劣らぬ神刀を作り上げた。その神刀をこの者に取らす……」
「神刀を……私にッ……!」
三種の神器の一つである<草薙剣>は、素戔嗚尊が退治した八岐大蛇の体内から出て来たと伝えられる神刀だ。それに勝るとも劣らぬ神刀を下賜されると聞いて、咲耶は驚愕とともに喜びに全身を震わせた。
「まさか、あのご神刀をッ……?」
だが、咲耶の喜びを尻目に、建御雷神は心の底から迷惑そうな表情を浮かべた。その様子を楽しそうに見つめながら、天照が告げた。
「そうじゃ……。瓊瓊杵の仇を討つという健気な妻に、妾からの贈り物じゃ。その神刀には、まだ銘がなかったはず……<咲耶刀>と名付けるがよい」
「その<咲耶刀>で、瓊瓊杵さまの仇を討たせるおつもりか……?」
望外の喜びに茫然としている咲耶を横目で見ながら、建御雷神が大きなため息をついて天照に訊ねた。
(<草薙剣>と同等の力を持つ神刀だとッ……? そんな物を咲耶が扱えるようになるだけで、百年はかかるぞ……。たった三十年で夜叉を超える神気を持たせ、神刀まで自在に扱えるようにさせろだと……? 天照さまは本当に咲耶を殺すおつもりか?)
現在の修行でさえ、咲耶にとっては過酷なものであった。その修行を倍どころか、三倍にも四倍にもしなければならなくなるのだ。建御雷神には、咲耶がそれほどの修行に付いて来られるとはとても思えなかった。
「どうじゃ、建御雷神……。できるな……?」
「……善処いたしまする」
世界を統べる主宰神の言葉に、建御雷神と言えども逆らうわけにはいかなかった。建御雷神は右横に跪いている咲耶の顔を見つめた。
「天照皇大御神さまッ……! 必ずや、ご期待に添えるように致しまするッ! 木花咲耶、この身命を賭けて、瓊瓊杵さまの無念を晴らす一存にございますッ!」
黒曜石の瞳を感涙に潤ませながら、咲耶が天照に向かって叫んだ。その姿を見つめ、建御雷神は深いため息をついた。
(咲耶……。今の言葉の意味が分かっているのか? 死刑執行書に署名したも同じであるぞ……)
感動と歓喜の眼差しで、咲耶は天照の麗しい尊顔を見つめた。その咲耶を、憐憫と同情を込めて建御雷神は見つめていた。
その二人の様子を、星々の煌めきを映す黒瞳に楽しげな光を湛えながら天照が見渡していた。
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そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
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