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第3章 火焔の女王

9.運命の暗示

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 新宿歌舞伎町から区役所通りを抜けると、ラブホテルが乱立するゴールデン街になる。その一角で小鳥遊たかなし愛華を介抱しながら、桐生将成は周囲のネオンを見つめていた。

「大丈夫かい、愛華ちゃん……」
「うッ……気持ち悪い……」
 口元を右手で押さえながら、愛華が将成に縋り付いた。先ほどの店で飲んだカクテルが思ったよりも強かったようだった。

(やばいな……。まさか、ホテルに連れ込むわけにいかないし……。ここで少し様子を見るか……)
 愛華の背中を擦りながら、将成が困惑の表情を浮かべた。
「……少し、休みたい……です……」
「休むって……」
 愛華の言葉にドキリとした将成の視界に、ラブホテルの看板が入った。その下には、「空室」という文字が将成を誘うように点灯していた。

「……横に……なりたい……」
 誘われているとしか思えない言葉を、愛華が告げた。アルコールで潤んだ赤茶色の瞳が、将成を真っ直ぐに見つめてきた。
「横にって……。さすがに、それは……」
「将成先輩には……サッキーがいるから……変なことはしないって……信じてます……」
 豊かな膨らみを将成の左腕に押しつけながら、愛華が腕を絡ませてきた。

(据え膳食わぬは……じゃない! いくら気分が悪いからって、ホテルに連れ込んだりしたら咲希に言い訳できないぞ……)
 本気で怒った咲希がどれほど恐ろしいかを、将成はよく知っていた。
「ここで少し、このまま休もうか……」
 だが、両脚に力が入らない愛華が、ふらつきながら将成の胸の中に倒れ込んできた。柔らかい二つの膨らみが、将成の胸板に押しつけられた。やや赤みがかったボブヘアから溢れる官能的な芳香が、将成の鼻孔をくすぐった。

「本当に……気持ち悪いの……。少しでいいから……休ませて……」
「わ、分かった……。そこに入ろう……」
 ゴクリと生唾を飲み込むと、将成は愛華の細腰を抱きながら目の前のラブホテルへと向かっていった。
(咲希……、誤解するなよ。これは、介抱なんだから……)
 自分を正当化する言い訳を、将成は何度も心の中で呟いた。


 入口のスクリーンパネルを押して空き部屋のカードキーを受け取ると、将成は四階の奥にある一室に愛華を連れて行った。入口の扉を開けて室内に入ると、嫌でも部屋の中央にある巨大なベッドが眼に入った。愛華はよろけるようにベッドに腰掛けると、トロンと潤んだ瞳で将成を見上げた。

「今、水を取ってくるから、少し横になった方がいい……」
「はい……」
 将成の言葉に小さく頷くと、愛華は崩れるようにベッドの上に体を横たえた。ハァハァと喘ぎながら上下する豊かな胸を見て、将成がゴクリと生唾を飲み込んだ。
(まずいよな……。こんなところを咲希に見られたら、言い訳できないぞ……)
 将成の脳裏に、黒曜石の瞳に怒りの焔を燃やす咲希の顔が浮かび上がった。

 だが、将成とて二十歳の健全な男だ。本気で咲希を愛しているとは言っても、目の前に横たわる愛華を見つめて平常心を保つことは難しかった。熱い吐息を漏らす唇や引き締まった細い腰、大きく盛り上がった胸元に将成は視線を奪われた。
 黙っていればバレないと囁く悪魔と、良心を訴える天使とが将成の頭の中で葛藤を始めた。

「く……苦しい……」
 愛華が左手で自分の胸元を押さえた。そして、ソフトベージュのPOLOネックのボタンを、細く白い指先で次々と外し始めた。
「あ、愛華ちゃん……大丈夫か……?」
 美しい鎖骨のラインと豊かな胸の谷間が、将成の視線を釘付けにした。

(これって……絶対に誘ってるよな……)
 黒いレースのブラジャーに包まれた大きな膨らみを見つめて、将成は自分のが固く隆起してくるのを感じた。濡れたように艶やかな愛華の唇から漏れる吐息が、将成の理性を甘く蕩かせた。

「お水……飲ませて……」
「あ、ああ……」
 部屋の冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと、将成はキャップを開けて愛華に手渡した。だが、愛華は小さく首を振ると、将成の耳元で悪魔の囁きを呟いた。
「口移しで……」
 その言葉を聞いた瞬間、将成の脳裏にいた天使が悪魔に駆除された。

 左手に持ったミネラルウォーターを一口含むと、将成は右手を愛華の背中に廻して抱き寄せた。そして、彼女の魅惑的な唇を塞ぐと、ゆっくりと冷えたミネラルウォーターを注ぎ込んだ。コクコクと白い喉を鳴らしながら、愛華がミネラルウォーターを嚥下した。溢れ出た液体が唇から垂れ落ち、愛華の豊かな膨らみを淫らに濡らした。

 将成の左手が黒いブラジャーに包まれた愛華の右胸を包み込んだ。そして、そのたわわな弾力を味わうようにシナシナと揉みしだいた。唇を割って舌を挿し込むと、愛華がネットリと舌を絡めてきた。愛華の唾液は熱く、蕩けるように甘かった。その甘い刺激に脳を蕩かされ、将成は貪るように濃厚に舌を絡めた。

「んッ……はッ……はぁあッ……」
 漏れ出る熱い吐息を聞いた瞬間に、将成はペットボトルを床に放り出して右手を愛華の背中に廻した。そして、プチンと音を立ててブラジャーのホックを外すと、愛華の体をベッドに押し倒した。

「あッ……!」
 細い糸を引きながら唇を離すと、将成は舌を白い首筋に這わせながら愛華の耳穴に挿し込んだ。ビクンッと体を震わせながら、愛華が顎を突き上げて熱い喘ぎを放った。将成の右手の中で、愛華の媚芯が硬く突き勃ってきた。そのしこりを転がしながら、将成は柔らかさを楽しむように愛華の乳房を揉みしだき始めた。

(やばい……! やめないと……)
 頭の中に響き渡る理性の声は、愛華の熱い喘ぎにかき消された。愛華の左手がズボンの上から、将成の猛りきったを握り締めた。
「もう……こんなになってる……。あたしも……です……」
 耳元でそう囁くと、愛華は将成の左手を取ってプリーツスカートの中に導いた。そして、両膝を立てると、右手で将成を羞恥の源泉へといざなった。

「……ッ!」
 黒い下着の上からでもはっきりと分かるほど、そこ・・は熱く潤っていた。その熱を指先に感じた瞬間、将成の理性は完全に消失した。黒い下着の中に左手を差し込むと、将成は愛華の中に指を沈めた。熱いうねりをかき分けるように指を動かすと、クチュクチュという卑猥な音色が室内に響き始めた。

 愛華が熱い喘ぎを上げながら、将成の首を両手で掻き抱いた。将成は右手で豊かな乳房を揉みしだき、左手で熱く蕩けた肉襞の感触を貪るように楽しんだ。愛華の全身がビクッビクッと痙攣し始めた。将成の左耳にかかる愛華の吐息が、切羽詰まった音色を帯びてきた。崩壊の刻が迫っていることが、将成に伝わって来た。

 官能の愉悦に蕩けていた愛華の両眼が大きく見開かれた。その赤茶色の瞳が禍々しい赤光を放ち、壮絶な鬼気とともに爛々と輝いた。
 次の瞬間、愛華は真っ赤な口を大きく開くと、将成の左首筋に白く輝く乱杭歯を突き立てた。


 新宿駅東口のアルタ前広場は、月曜日であるにも拘わらず大勢の若者でごった返していた。その人混みを見渡すと、咲希は左に立つ玉藻を見つめて真剣な口調で訊ねた。

「さっきから何回電話しても、全然繋がらない……。玉藻は将成の神気を感じられる?」
「無理ですわ……。これだけ人が多いと、将成さんくらいの神気では埋もれてしまいます。咲希くらいの大きさがあれば、どこにいても分かるのですが……」
 長い漆黒の髪を揺らしながら、玉藻が首を横に振った。

「色葉さんからも見つけたっていう連絡はないし……。そもそも新宿にいるって確証もないし……。どうしようか……?」
 新宿まで来る電車の中で、咲希は何度も将成に電話を入れ、LINEを送っていた。だが、電話はすべて通じず、LINEには既読が一つもつかなかったのだ。だが、不夜城と呼ばれる夜の新宿には、三十万人を超える人間が流入すると言われている。その中からたった二人の人間を捜し出すことなど、砂漠に落ちた一枚の金貨を探すにも等しかった。

迦美羅カーミラの目的は、恐らく将成さんを下僕にすることです。迦美羅は自分の力がわたくしや咲耶さまより劣っていることを知っています。ですから、将成さんを人質にすることは彼女にとっての絶対条件なのです」
「それは分かるわ……。だから、そうされる前に将成を捜し出したいんだけど……」
 玉藻の言葉に頷きながら、咲希が厳しい表情で告げた。将成を人質に取られたら、咲希たちは苦戦を強いられることが確実だった。その上、将成は建御雷神タケミカヅチの守護を受けている。万一にも建御雷神の力の一端でも発揮されたら、苦戦どころでは済まなくなるのだ。

「将成さんがホテルにいることは間違いありません」
「えッ……? 何でッ……?」
 平然と告げた玉藻の言葉に、咲希は驚愕して聞き返した。
「何でって……、当然ですわ。下僕にするためには、将成さんの血を啜らなければなりません。人前で首筋に噛みつくわけにはいかないとすれば、ホテルのような個室を利用するはずですわ……」

「そんなこと、あり得ないわ! 将成は一緒にいるのが小鳥遊たかなしさんだと思っているはずよ。食事だけならまだしも、二人きりでホテルに行くなんて絶対にないわ!」
 将成が自分を裏切るはずはないと信じ切った表情で、咲希が叫んだ。それを見つめて、玉藻がこっそりと心の中で呟いた。
(咲希はまだ男の人に裏切られた経験がないようですわね……。殿方は性欲を理性で抑えきれない時があるものですわ。まして相手が迦美羅ほどの妖魔であれば、その魔性の魅力に抗うことなど普通の男性には不可能ですわ……)

「そうですわね……。でも、迦美羅に呪縛されてホテルに連れ込まれる可能性もありますわ。その場合、将成さんの意志ではないので、やむを得ないかと思いますわ」
 咲希の嫉妬と焦燥を楽しげに見つめながら、玉藻が告げた。
「そ、そうね……。でも、その場合、将成は自分の意志とは関係なく、小鳥遊さんを抱くっていうこと……?」
「小鳥遊さんではなく、迦美羅を……ですわ」
 抱くという行為は否定せずに、玉藻がその対象を訂正した。その意味を察すると、咲希は唇を噛みしめた。自分以外の女を将成が抱くなど、絶対に許せることではなかった。

「もし、将成が小鳥遊さんを抱いていたとしたら、二度と口を聞かないわッ!」
 黒曜石の瞳に激しい嫉妬の焔を燃やしながら、咲希が叫んだ。
(あらあら……、可愛いですわね、咲希は……。殷の紂王ちゅうおうも、西周の幽王も、わたくし以外に何十人もの愛妾を囲っておりましたわよ。それらの女どもを蹴落として殿方の心を掴み取る楽しみを、咲希はまだ知らないのですわね……)
 三千年を生きる稀代の淫魔は、艶然たる微笑を浮かべた。

 その時、肌を突き刺すような強い妖気を感じて、咲希が顔を上げた。咲希よりも妖気の探知に優れる玉藻が、北東の方角を指差しながら叫んだ。
「こちらです、咲希ッ! この妖気は間違いなく迦美羅ですわッ!」
「分かったッ! 急ぐわよッ!」
 妖気を感じた方向に走り出そうとした咲希の腕を、玉藻が掴んだ。そして、強い力で咲希の体を抱き寄せた。

「玉藻ッ……?」
 驚いて顔を見つめてきた咲希に、玉藻がニッコリと微笑みながら告げた。
わたくしにしっかりと掴まっていてください」
「えッ……? きゃあぁあッ……!」
 次の瞬間、玉藻は咲希を抱いたまま凄まじい勢いで上空へと跳んだ。いや、翔んだ・・・。それは、紛れもなく飛翔であった。

「ち、ちょっと、玉藻ッ……!」
 急速に小さくなる人影が、咲希たちを指差しながら騒いでいるのが聞こえた。その騒動を無視して、玉藻は北東の方向へ飛び続けた。
「暴れると落ちますわよ、咲希……」
 地上から二百メートル以上の高さを飛翔しながら、玉藻がニッコリと微笑を浮かべて告げた。

「た、玉藻……、空を飛べたんだッ……?」
 那須の殺生石せっしょうせきに行く途中にあった「千体地蔵」を咲希は思い出した。赤い頭巾を被った多数の地蔵すべてが、天を仰ぎ見ていたのだった。
「昨日、咲希からたくさんの神気をいただいたので、今のわたくしは全身が妖気で溢れている状態なのです。今までは妖気不足で、飛べなかっただけですわ」
 妖艶な笑みを浮かべながら告げる玉藻の美貌を、咲希は茫然とした表情で見つめた。そして、玉藻の言葉に隠された意味に気づいて、カアッと顔を赤らめた。

「たくさん神気をもらったって……」
 二時間にも及ぶ凄まじい焦らし責めを受けて、玉藻に堕とされかかったことを咲希は思い出した。咲耶が助けてくれなければ、今頃は玉藻の奴隷となっていたかも知れなかったのだ。

「この建物ですわ。あの辺りなら人気ひとけがありませんわね。降りますわよ……」
 そう告げると、耳まで真っ赤に染めている咲希を抱き締めながら、玉藻が細い路地に着地した。
「迦美羅の妖気は、このホテルの四階から感じられますわ。早速、入りましょう」
「う、うん……」
(これから迦美羅と戦うかも知れないんだッ! 余計なことは考えないようにしないと……!)
 長い漆黒の髪を振って昨日の記憶を脳裏から追い出すと、咲希は慌てて玉藻の後を追ってホテルに入っていった。


「この部屋ですわ……。鍵が掛かっておりますわね」
 エレベーターで四階まで上がり、厚い絨毯の敷かれた廊下の突き当たりにある部屋の前で玉藻は立ち止まった。ドアの横にある電子パネルには、「LOCK」の文字が赤く点灯していた。
「どうする、玉藻……? 壊せる……?」
「いえ……。このまま部屋ごとわたくしの結界に取り込みますわ」
 茅ヶ崎のホテルでも、玉藻は部屋の外から室内を結界に取り込んだことを咲希は思い出した。

「……ッ!」
「何ッ……?」
 その時、突然周囲が闇に包まれた。結界を張ろうとした玉藻が驚愕の表情を浮かべたまま、その動きを止めた。
「気をつけてくださいッ! 逆に結界に取り込まれましたッ!」
「そんなッ……!」
 玉藻の叫びに驚いた咲希は、突然広大な草原に立っていた。それが、赤塚公園や那須で経験した結界の中であることに咲希は気づいた。

「玉藻ッ……!」
 隣にいたはずの玉藻の姿が消えていた。それと入れ替わるかのように、十メートルほど先に二人の人影が立っていた。それは紛れもなく、将成と小鳥遊たかなし愛華であった。
 その二人の姿を見て、咲希は驚愕と羞恥のあまり、顔を真っ赤に染めた。

「あッ、あッ……いいッ……! それ、気持ちいいッ……! イクッ……イクぅうッ……!」
 やや赤みがかったボブヘアを振り乱しながら、愛華が全身を震撼させて壮絶な絶頂を極めた。全裸で立ち姿のまま、将成が愛華を後ろから犯していたのだ。

「だめッ……今、イッてるッ……! あッ、いやッ……だめぇえッ……!」
 ビクンッビックンッと痙攣を続けている愛華の乳房を、将成が後ろから揉みしだいていた。痛いほど突き勃った媚芯を指先で捏ね回しながら、将成はパンッパンッと肉音を立てながら激しく愛華を貫いていた。官能の愉悦に蕩けきった瞳から随喜の涙を流し、熱い嬌声を上げる唇からはネットリとした涎が糸を引いて垂れ落ちていた。愛華の白い内股は、溢れ出た蜜液でビッショリと濡れ光っていた。

「だめッ、だめぇえッ……! もう、狂っちゃうッ! いやぁあッ……! また、イクッ! イグぅうッ……!」
 ガクガクと裸身を痙攣させながら、愛華が大きく仰け反った。プシャッという音を奏でながら、愛華の秘唇から蜜液が迸った。壮絶な極致感オルガスムスを愛華が極めたことは、誰の目にも明らかだった。

「どういうこと……。将成ッ、何やってるのよッ!」
 凄絶な愛華の姿を見て、咲希が衝撃のあまり絶叫した。まるで悪夢を見ているようだった。誰よりも信頼し、愛している将成が、目の前で他の女を抱いているのだ。凄まじい嫉妬と怒りに、咲希は黒曜石の瞳を見開いて将成を睨みつけた。

「遅かったな、咲希……。次はお前を抱いてやるから、こっちへ来い……」
 ズルリとを抜き出すと、崩れ落ちた愛華の裸身には目もくれずに将成がニヤリと笑みを浮かべながら告げた。大きく開いた両脚の間には、いつもよりも二回りは長大な逸物が、隆々と猛りきってそそり勃っていた。

「バカなこと、言わないでッ……! それよりも、これはどういうことなのか説明してッ……!」
 ビクンッビクンッと激しく痙攣しながら横たわる愛華の裸身を見下ろしながら、咲希が顔を真っ赤に染めて叫んだ。乱れたボブヘアを頬に貼り付かせ、限界を超える快絶にハァハァと熱い喘ぎを漏らしながら、愛華は涙と涎を垂れ流していた。

「二週間以上もお前を抱いてないんだ。溜まっちまってしょうがなかったぜ。そこにこいつが誘ってきたから、お前の代わりに抱いただけだ。焦らしてねえで、早く抱かせろッ!」
「なッ……」
 かつて聞いたこともない猥褻わいせつな言葉を耳にして、咲希は茫然と将成の顔を見つめた。

(将成がこんなことを言うなんて、信じられない……。本当に、将成なの……?)
 だが、目の前の男から感じる神気は、紛れもなく将成のものだった。
 ベッドの上で愛し合っている時に、将成は人が変わったように激しく咲希を責めることがあった。「もう、許して」と哀願してもやめてもらえず、気が狂うほどの絶頂地獄を経験させられたこともあった。だが、それは将成の愛情表現の一つであることを咲希は知っていた。今のように、単なる性欲処理の道具扱いされたことなど、ただの一度もなかったのだ。

「あなたは誰ッ……? 迦美羅カーミラに操られているのッ……?」
 黒曜石の瞳に真剣な光を映しながら、咲希が真っ直ぐに将成の顔を見つめた。その鋭い視線を正面から受け止めながら、将成がニヤリと笑みを浮かべた。
「ガタガタと下らねえことをほざいてるんじゃねえッ! この俺が迦美羅ごときに操られているだとッ……? 寝ぼけたことを抜かす奴だな……! おい、いつまで呆けてやがるッ? さっさと起きて、教えてやれッ……!」
 将成が目の前で横たわっている愛華を見据えて叫んだ。その言葉に、愛華がピクリと肩を震わせた。そして、ゆっくりと立ち上がると、両眼から赤光を放ちながら咲希を見つめた。

「まったく……。下僕の分際で、この私に命令するとは……。こんなこと初めてだわ……」
 ニヤリと笑みを浮かべた愛華の口元から、白い乱杭歯が光った。その凄絶な微笑を見て、咲希は目の前に立つ全裸の女性の正体に気づいた。
「やはり……あなたは、迦美羅……?」
 愛華……いや、愛華の扮した女性から、ビリビリと肌に突き刺さる壮絶な妖気が発せられた。それは紛れもなく、夜叉ヤクシャ四天王と呼ばれる迦美羅の妖気に間違いなかった。

「初めまして、神守咲希……木花咲耶を内に秘めた女よ。私は夜叉ヤクシャ様の忠実なる僕の一人、迦美羅……。せっかくお会いできたのに、残念ながらすぐにお別れになるわ。夜叉様の命により、木花咲耶もろともあなたの生命をもらい受けるッ!」
 そう告げた瞬間、迦美羅の全身から凄まじい妖気の焔が燃え上がった。それは、以前に戦った四天王の一人、武羅奴ブラドを遥かに凌駕する妖気であった。

「待ってッ! まだ、何も説明されていないわッ! この将成は、本物の将成なのッ?」
 想像を絶する迦美羅の妖気を受けて、咲希は咄嗟に<咲耶刀>を具現化させた。そして、両手で正眼に構えた<咲耶刀>に神気を収斂しゅうれんさせながら、迦美羅に向かって叫んだ。

「もちろん、本物……というか、私が血を吸ったことにより、本来持っていた力が目覚めたと言った方がいいかしら……?」
「本来持っていた……?」
 迦美羅の言葉の意味が分からずに、咲希が訊ね返した。その間も、迦美羅の放つ凄まじい妖気を<咲耶刀>で懸命に抑え続けていた。少しでも神気を緩めたら、あっという間にその妖気に呑みこまれてしまうことは間違いなかった。

「この男は、あの建御雷神タケミカヅチの守護を受けているようね……。私の妖気のろいを、建御雷神の神気が防いでいる。そのため、武神である建御雷神の荒々しい神気が、この男の精神に影響を及ぼしていると言ったところかしら……?」
「建御雷神の神気が……? それって、元に戻るのッ?」
 迦美羅の説明に驚愕して、咲希が叫んだ。凪紗の時のように、吸血した者を斃せば元通りになるのか分からなかったのだ。

「さあね……。私の妖気を抑え込むほどの神気だからね。仮に私を斃せたとしても、元に戻るかどうかは知らないわ」
「そんな……!」
 それは、あの優しい将成に二度と会えないかも知れないという意味だった。迦美羅の言葉に、咲希は激しく動揺した。

「それともう一つ、冥土の土産に大切なことを教えて上げるわ」
 口元の乱杭歯を煌めかせながら、迦美羅が壮絶な笑みを浮かべた。次の瞬間、迦美羅の全身を包む妖気が真紅に変わり、より巨大な劫火となって燃えさかった。
「くッ……!」
 咲希はすべての神気を<咲耶刀>に集結させて、その凄まじい妖気の奔流を防いだ。正眼に構えた<咲耶刀>を基点に迦美羅の妖気が二つに割れ、大きな潮流となって咲希の後方へと流れていった。

「私の美しい貌を醜く焼いた女……九尾狐クミホがどこにいるのか、教えて上げるわ」
 壮絶な業火の中で、迦美羅が本来の姿に変わっていた。赤茶色の長い髪を靡かせ、情欲に濡れ光る濃茶色の瞳が真っ直ぐに咲希を見据えていた。その左半顔は、醜い火傷の痕に覆われていた。

「玉藻がッ……? 玉藻はどこなのッ!」
 今の咲希にとって、玉藻は将成に勝るとも劣らない大切な存在だった。その安否について、咲希は心の底から危惧して絶叫した。
「あの女狐には、何度殺しても殺したりないほどの怨みがあるわ。だから、この世界でも最も恐ろしい地獄へと送って上げたのよ……!」
 凄惨とも言える笑みを浮かべながら、迦美羅が告げた。その笑みを見つめた瞬間、彼女が告げる地獄が何なのか、咲希は卒然と理解した。

「まさ……か……?」
 かつて受けた超絶な恐怖を思い出して、咲希は全身をガクガクと震撼させた。人間の種としての尊厳を根本から否定する存在が、咲希の脳裏に蘇った。
「そう……。九尾狐クミホは、夜叉ヤクシャ様への生け贄として差し出したわ」
 咲希の予想を裏切らない言葉を、迦美羅は昂然と胸を反らせながら告げた。

 同じ三大妖魔と呼ばれていても、その力には大きな差があることを咲希は知っていた。その力の差は最強の阿修羅アスラを別格にして、夜叉ヤクシャ九尾狐クミホの間にも超えることのできない大きな壁となって存在していた。
 夜叉ヤクシャの実力は、咲耶と同等かそれ以上だと思われた。その咲耶が九尾狐クミホの倍以上の力を持っているのだ。神社幻影隊S.A.P.で使用されているSA係数を引用するのであれば、九尾狐クミホは約一万、咲耶は二万以上、そして、夜叉ヤクシャは二万五千前後だと予想された。

「生け贄って……? 玉藻は無事なのッ……!」
 夜叉ヤクシャに対する激甚な恐怖に震えながら、咲希が叫んだ。
「無事かどうかは、夜叉様の御心みこころ次第ね……。あの嫌らしい淫魔の肢体からだで夜叉様を満足させられれば、生命くらいは助けてもらえるかしら……?」
「そんな……」
 悠然と笑いながら告げた迦美羅の言葉に、咲希は慄然とした。それは、玉藻が夜叉ヤクシャに凌辱されることを意味していたのであった。
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 時は、どちらかと云えば中期に近い江戸時代前期後半。  主役は天下の水戸黄門として名を馳せた徳川(水戸)光圀の娘である徳川(水戸)仙花。  彼女は百鬼夜行の目撃された薩摩の地を目指し、光圀の呼び寄せた未だ謎の怪異を身体に秘める四人の従者と共に旅立った。  奇想天外な世界へ誘う冒険活劇、世直し道中ひざくりげ「仙女覚醒編」の始まり、始まり〜♪ 登場人物一覧 徳川(水戸)仙花(とくがわせんか)  物語の主役、仙血と仙骨をが体内にあり、16歳の少女にして、より強くなるため仙女になることを志す。 お銀(本名: 美濃部銀流 みのべぎんる)  年齢は25歳前後。甲賀の里に生まれた才色兼備の天才くノ一。 槙島蓮左衛門(まきしまれんざえもん)  年齢はお銀と同じくらい。人智を超えた怪力を持つ。ござるが口癖。 篠宮九兵衛(しのみやきゅうべえ)  年齢は22歳。腕の良い薬師。自慢にならぬ「うっかり九兵衛」の異名を持つ。 阿良雪舟丸(あらせっしゅうまる)  年齢は30代前半。恐らく現時点での日本最強剣士。「居眠り侍」の異名を持ち、本人は至って気に入っているらしい。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
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 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

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