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第2章 十八歳の軌跡
6.火焔の女王
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目が覚めると、逞しい腕を枕にしていた。目の前にある愛しい男性の顔を見つめると、咲希はカアッと顔を赤らめた。昨夜、激しく愛されて、二回も失神したことを思い出したのだ。慌てて顔を逸らそうとすると、その気配で目を覚ました将成が咲希の額に口づけをしてきた。
「おはよう、咲希……。体は大丈夫か……?」
「大丈夫……じゃないわ。腰が痺れて、脚に力が入らない……」
恥ずかしそうに顔を赤く染めながら、咲希が小声で囁いた。その様子を微笑みながら見つめると、将成が漆黒の髪を優しく手で梳いた。
「あれだけ乱れたら、足腰が立たなくなって当たり前だよ……」
「もう……。誰のせいだと思ってるのよ……」
笑いながら告げる将成に、プウッと頬を膨らませながら咲希が文句を言った。こんなになるまで責めないでと言いたかった。
「ここから殺生石までは、七キロくらいだ。タクシーを使えば十分くらいで着く。まだ七時前だから、もう少し休んでから出発しよう……」
「うん……」
将成の言葉に小さく頷くと、咲希は彼の厚い胸に顔を埋めた。愛する男の腕に抱かれて、咲希はうっとりと眼を閉じた。
(結局、<咲耶刀>で脅しても意味なかったわ……。でも、毎回あんな風に抱かれたら、ホントにおかしくなっちゃう……。何とかしないと……)
昨夜の激しいセックスを思い出すと、咲希は体の芯がカアッと火照るのを感じた。刻みつけられた快感の残り火が、再び燃え上がってきそうだった。
この数日で、咲希は自分の体が淫らに塗り替えられていくような不安があった。十六歳の秋に処女を捧げてから、一年半の間に何度も将成に抱かれた。最初のうちは痛みしか感じなかったが、徐々にそれが快感に変わっていった。女の悦びを知るまでには、それほど時間がかからなかった。
咲希は自分が感じやすい体質であることに気づいていた。将成に愛される度に、歓悦の頂点を何度も極めたからだ。
しかし、一昨日から将成の愛し方が変わった。お仕置きと称して、絶頂を極めている最中でも咲希を激しく責め続けたのだ。この二日間で、咲希は限界を超える極致感を何度も極めさせられ、三回も失神させられた。このままでは、本当に自分が毀れてしまう恐怖に咲希はとらわれた。
「将成……、昨日は凄かったわ……。あんなに感じたのは、初めてよ……」
「朝から誘ってるのか、咲希……?」
咲希の言葉を誤解した将成が、右手で白い乳房を触ってきた。その手をつねると、咲希が真剣な表情を浮かべながら告げた。
「違うわ、最後まで聞いて……」
「分かった……」
赤くなった手の甲を左手で擦りながら、将成が不満気に答えた。
「将成に愛されるのは凄く嬉しいし、幸せな気持ちになれる……」
「それに、気持ちよくなれるしな……」
黒曜石の瞳でジロリと睨まれ、将成が慌てて口をつぐんだ。
「でも、昨日みたいな愛され方はイヤ……。イッてる最中に、さらにイカされるなんて、拷問と変わらないわ。そんなことを何度も続けられたら、あたし、本当に毀れちゃう……」
「咲希……」
思いもしない赤裸々な言葉に、将成は驚きの表情を浮かべた。恥ずかしがり屋の咲希が、ここまで率直に告げたことの重要性に気づいたのだ。
「愛されすぎて失神するって、どういうことだか分かる? それ以上続けられたら危険だと、脳が判断したサインよ……。イッてもイッてもやめてくれない……。ずっとイカされ続ける……。そんな状態を続けられたら、頭がおかしくなっちゃうわ。それって、女にとって拷問と変わらないわ……」
黒曜石の瞳に真剣な光を映しながら、咲希は真っ直ぐに将成の顔を見つめた。
「悪かった……。ただ、俺は咲希を気持ちよくしてやろうと……」
「普通に愛してくれるだけで、十分に気持ちいいわ。あたしのことを大切に思ってくれているなら、あんな愛し方はやめて……」
「分かった……。ごめんな、咲希……。今夜から普通に愛するよ……」
「うん……。ありがとう、将成……」
切実な願いを理解してくれた将成に、咲希は嬉しそうな微笑みを浮かべた。しかし、将成の言葉の意味に気づくと、カアッと顔を赤らめた。
(今夜からって……? まさか、毎日するつもりじゃないでしょうね……?)
不安と期待に胸を高鳴らせながら、咲希はジト目で将成の顔を見つめた。咲希の内心に気づかずに、将成が優しく口づけをしてきた。
ルームサービスで頼んだ朝食を食べ終えると、二人は本館にあるフロントでタクシーを手配した。咲希たちが宿泊したヴィラから殺生石までは、将成が告げたとおり車で十分ほどで到着した。
「どうだ、何か感じるか……?」
タクシーを降りると、将成が咲希の顔を見つめて訊ねてきた。
「特に何も……。九尾狐ほどの妖魔なら、これくらい離れていても分かると思うんだけど……」
案内板に書かれている殺生石の方向を見上げながら、咲希が首を捻った。大きな妖気どころか、妖気それ自体がまったく感じられなかった。
「そうか……。とにかく近くまで行ってみよう。近づけば九尾狐の痕跡があるかもしれない……」
「そうね……。たぶん、何もないとは思うけど、行ってみましょう」
将成の意見に頷くと、案内板に従って咲希は遊歩道を歩き出した。
いでゆ橋と呼ばれる木橋を渡って遊歩道を進むと、左手に無数の地蔵が立っていた。一体一体は小さかったが、そのほとんどが赤い頭巾を被って両手を合わせて空を見上げていた。まるで、天から現れた何かに祈りを捧げているようだった。
それらの地蔵の前には「千体地蔵」と書かれた案内板が立てられていた。
「これって、九尾の狐に向かって手を合わせているのかな?」
「そうかもな……。もしそうなら、九尾の狐って恐ろしくデカいか、空を飛んでいるかだな……」
地蔵が見つめている虚空を見上げながら、将成が告げた。咲希は九尾狐が空を飛べるのかも知れないと思った。そうでなければ、その体躯は数十メートルにも及ぶほど巨大なものだった。赤塚公園の鬼族でさえ、身長は五メートルほどだったのだ。三大妖魔とは言え、それほど巨大であるとは考えづらかった。
伝説によると、九尾の狐は正式な名を『白面金毛九尾の狐』といい、今から約八百年前に中国から日本に渡来してきたそうだ。玉藻前と名乗り、平安時代末期に鳥羽上皇の寵姫となって日本を滅ぼそうとしたと伝えられている。
しかし、陰陽師の安倍泰成に正体を見破られると、三浦介義明、千葉介常胤、上総介広常を将軍とした討伐軍に追われて那須の地まで逃げてきた。
一度は討伐軍に甚大な被害を与えた玉藻前だったが、犬追物と呼ばれる騎射戦法によって破れ、息絶えたと伝えられている。
九尾の狐は日本では玉藻前と呼ばれていたが、古代中国においては殷の紂王を酒池肉林に狂わせた妲己、西周を滅亡に導いた褒似であるとも言われていた。いずれにしても、その美貌によって王君を破滅させ、国を滅亡に追い込んだ魔性の女性……傾国の美女であったことは間違いなかった。
「これが殺生石か……」
「凄い臭いね……」
将成の言葉に顔を顰めながら、咲希が呟いた。目の前にある巨大な岩の周囲には、濃厚な硫黄の臭いが漂っていた。
「見事に真っ二つだな……」
「ホントに……。まるで、卵が割れて、中から何かが産まれ出たみたいね……」
太い注連縄を引き千切ったように、巨岩が真ん中から見事に二つに割れていた。その中心は丸く抉られており、そこから何かが出て来たようにも見えた。
「九尾狐の妖気は感じるか?」
「ううん……。まったくと言っていいほど感じないわ。この近くには妖魔の気配なんて全然ないみたい……」
色葉は、栃木県神社庁のドローンに搭載されたSA測定器が爆発したと言っていた。その爆発までの時間から算出されたSA係数は五千以上だと告げたのだ。それが九尾狐の復活によるものかどうかは不明だが、強力な妖魔が現れたことに間違いはなかった。
その時、周囲の気温が急激に下がったように感じた。四月上旬だというのに、真冬のような冷気が肌に突き刺さった。
「何だッ……?」
驚いて周囲を見渡す将成に、咲希が鋭い声で叫んだ。
「妖気よッ! 凄まじい妖気が、殺生石から出ているッ! 逃げて、将成ッ……!」
だが、咲希も将成も、金縛りに遭ったように身動き一つできなかった。想像を遥かに超える凄絶な妖気に、全身の震えが止まらなかった。それは紛れもない恐怖……人間の根源から来る凄絶な畏怖に他ならなかった。
不意に、周囲が漆黒の闇に包まれた。数センチ先さえ見渡せぬ暗黒の中で、咲希はガチガチと歯を鳴らしながら震撼した。二年前に対峙した夜叉に勝るとも劣らない戦慄が、咲耶の全身を縛り付けた。
(間違いないッ……! 九尾狐だわッ……!)
その超絶な妖気の正体が、三大妖魔の一人、『火焔の女王』九尾狐のものであることを咲希は確信した。
次の瞬間、何の前触れもなく闇が消え去った。同時に周囲の景色が一変していた。二つに割れた殺生石や岩の破片が消え失せ、緑の草がそよぐ美しい草原に咲希は立っていた。硫黄の臭いの微粒さえなく、緑と露の清々しい香りが漂っていた。
(将成はッ……?)
隣にいた将成の姿はどこにも見当たらなかった。その代わりに、五メートルほどの距離を置いて、咲希の正面に一人の女性が立っていた。かつて出逢った誰よりも美しい女性だった。
結髪に花を模った豪華な髪飾りを挿し、漆黒の垂髪を腰まで伸ばした絶世の美女が、真っ直ぐに咲希を見つめていた。
身長は咲希とほとんど同じくらいだった。金糸で刺繍された鳳凰が真紅の着物の右腰からまさに飛び立とうとしていた。それを押しとどめるかのように、左肩から白銀の龍が雲を靡かせて天降っていた。
「お久しぶりですね、咲耶……」
艶やかな紅を塗った唇から、天上の美声が漏れた。思わず聴き入った咲希は、その言葉の意味を理解した。
(咲耶と間違えている……? この女性……九尾狐は咲耶を知っている……?)
目の前で微笑を浮かべている美女が九尾狐であることを、咲希は疑わなかった。これほどの妖気を放つ存在が、三大妖魔以外にいるとは思えなかった。
「九尾狐……?」
「あら……、私を見忘れたような言い方をなさいますわね? 心外ですわ……」
右手で着物の袖を押さえながら、九尾狐が口元を隠して笑った。その妖艶な仕草の間にも、漆黒に輝く黒瞳は咲希を射抜くように見つめていた。
「将成は……どうしたの……?」
九尾狐から放たれる凄まじい妖気に、咲希は全身をガタガタと震撼させながら訊ねた。少しでも気を抜くと、夜叉の時のように恐怖で失禁しそうだった。
「将成……? ああ、建御雷神が目を掛けている坊やのことでしょうか? 建御雷神に来られると厄介ですので、こちらには呼んでおりませんわ……」
その言葉を聞いて、咲希はホッと胸を撫で下ろした。恐らく将成は、まだ殺生石の前にいるはずだ。
(ここは、九尾狐の結界の中ってことね……? 将成が無事なら、取りあえずはよかった……)
この草原は赤塚公園で咲耶が作った結界に酷似していた。咲希はまだ結界の張り方を知らない。当然、将成も結界を張ることはできなかった。残された答えは、目の前の九尾狐が結界を張ったという事実だけだった。
「咲耶、あなたずいぶんと神気が小さくなりましたわね? 八百年前、私をあの大岩に封印したときの十分の一もないのではなくて……?」
(咲耶が九尾狐を封印したッ……? それって……)
九尾狐が告げた言葉に驚愕すると同時に、咲希は嫌な予感にとらわれた。そして、その予感を裏切らない言葉を九尾狐が告げた。
「八百年もの間、あの暗い岩の中で、どうやってあなたに復讐してさしあげようかとずっと考えておりましたわ。でも、今のあなたなら、簡単に殺せそうですわね……」
(やっぱりッ……! 咲耶、何してくれちゃったのよッ!)
三大妖魔の怨みを買いまくっている守護神を、咲希は怒鳴りつけたくなった。
夫である瓊瓊杵尊の仇討ちのために夜叉と戦ったことはまだ理解できた。だが、九尾狐を敵に廻したのなら、封印するだけでなくちゃんと滅殺しておいて欲しかった。そうしてくれたのならば、咲耶と間違えて殺されそうになることなどなかったはずだ。咲耶ならまだしも、咲希にとって九尾狐から感じる妖気は圧倒的な恐怖の対象でしかなかった。
「あたしを……殺すの……?」
壮絶な恐怖にガクガクと震えながら、咲希が訊ねた。戦って勝てる相手ではないことは、火を見るより明らかだった。
「当然ですわ……。そのために、八百年もかけて少しずつ復活しましたのよ……。でも、簡単に殺したらつまらないですわね。どうしてさしあげましょうか……? 生爪を剥がして、全身の皮膚を剥いだ方がよろしいでしょうか……? それとも、指を一本ずつ斬り落としてから、私の業火で手足を消し炭に変えてさしあげましょうか……?」
見る者を魅了する微笑を浮かべながら、九尾狐が恐ろしいことを平然と告げた。
「い、いやよ……! どっちも、お断りよ……!」
九尾狐が本気で言っていることを察して、咲希が蒼白になりながら叫んだ。どうせ殺されるなら、ひと思いに首でも刎ねて欲しかった。激痛にのたうち回るような死に方だけはしたくなかった。それ以前に、咲希には九尾狐に殺される理由がなかった。
「あたしは咲耶じゃないわッ! 咲希よッ……!」
「咲希……? 咲耶ではないとおっしゃるのですか……?」
咲希の絶叫に、九尾狐が怪訝な表情を浮かべた。
「しかし、あなたの神気は紛れもなく咲耶のものでしょう……?」
「咲耶はあたしの守護神なのッ! だから、木花咲耶とあたしは別人よッ!」
女神を人と呼んでいいのか分からなかったが、藁にも縋る思いで咲希は叫んだ。相手が三大妖魔とは言え、人違いで殺されたら目も当てられなかった。
「咲耶が守護神……? なるほどね……。そういうことでしたの?」
美しい黒瞳を驚きに見開くと、九尾狐が納得したように頷きながら笑みを浮かべた。
「守護神が中にいる……。つまり、あなたは咲耶の生まれ変わりということですわね……?」
「そうなのよッ! だから、咲耶とあたしは別人なのよッ……!」
すべてを見抜いた九尾狐の言葉に、咲希はここぞとばかりに叫んだ。だが、次に告げた九尾狐のセリフは、容赦なく咲希を絶望の底に落とした。
「では、あなたを殺せば、咲耶も死ぬということですわ。簡単な話ですわね……?」
「そ、そんな……」
茫然と立ち竦む咲希の目の前で、九尾狐の妖気が急激に増大した。今まで感じていた妖気が可愛く思えるほど、壮絶な妖気の奔流が九尾狐の全身を包み込んだ。
『火焔の女王』九尾狐……。
その通り名は、紛れもなく真実であった。
九尾狐の全身が燃え上がったかのように、真っ赤な妖気を纏った。その絶大な火焔は、五メートル離れている咲希の前髪をチリチリと焦がした。高さ十メートルにも及ぶ凄まじい劫火の中で九尾狐が、ニヤリと凄絶な笑みを浮かべた。
「咲耶の生まれ変わりであるあなたには、同情してさしあげますわ。だから、苦しまずに私の火焔で一瞬のうちに消し炭にしてさしあげる……」
「ひッ……! や、やめて……」
燃えさかる九尾狐の妖気が、一気に増大した。その焔に焼かれたら、九尾狐の言葉通り瞬時に消し炭にされることは疑う余地もなかった。
(将成ッ……! 助けてッ……!)
愛する男の顔を思い浮かべながら、咲希は固く眼を閉じた。将成との想い出が、走馬灯のように咲希の脳裏を駆け抜けた。
その時……。
『はあぁあ、よく寝た……。今、何時じゃ?』
状況をまったく理解していない暢気な声が、咲希の脳裏に響き渡った。
(咲耶ッ! 起きたのッ? 助けてッ……!)
『はあ……? 助けてって……何じゃこれはぁあッ……!』
目の前で膨大な妖気の炎を纏っている九尾狐に、咲耶が気づいた。
(早くッ! 替わってッ!)
『何がどうなっておるのじゃぁあ……? 何で九尾狐がここにおるんじゃぁあ……?』
(そんなことどうでもいいから、早く替わりなさいッ! プリンあげないわよッ!)
『ええい、分かったッ! 交替するぞッ!』
咲耶がそう告げた瞬間、咲希の意識は心の奥底へ沈んでいった。
「死になさい、咲耶ッ! ハァアアッ……!」
裂帛の気合いとともに、九尾狐が頭上に掲げた両手を振り落とした。サッカーのスローインのような動作だが、投げられたのは直径二メートルにも及ぶ巨大な火球だった。周囲の大気さえ灼き焦がす高熱の火球が、咲耶に凄まじい速度で襲いかかった。
「ハッ……!」
咲耶は右手から<咲耶刀>を発現させると、左腰から右上へ一気に斬り上げた。その神速の居合は、超絶な神気の奔流となって九尾狐の火球を両断した。
二つに割れた火球が、咲耶の体を避けて後方へと流れ飛んだ。そして、凄まじい爆音を立てながら地面に激突し、大地を震撼させた。
「馬鹿な……」
茫然と立ち竦む九尾狐が、左肩を押さえながら呟いた。咲耶の放った神気の刃が、九尾狐の左肩をざっくりと斬り裂いていた。真紅の着物に刺繍された白銀の龍の首が斬り落とされ、真っ白な九尾狐の左肩から鮮血が流れ落ちていた。
「久しいのう、九尾狐よ……。まみえるのは八百年ぶりかのう……?」
「咲耶……?」
驚愕に黒瞳を大きく見開きながら、九尾狐が愕然と呟いた。驚きのあまり言葉を失った九尾狐に、咲耶が微笑を浮かべながら告げた。
「お主、復活したばかりじゃな? 八百年前と比べて、大きく力が落ちておるぞ……。本来のお主が放った火球なら、私とて簡単に斬り裂くことなどできなかったじゃろうに……」
『あれで力が落ちてたって、本当なの……?』
いまだかつて見たこともない巨大な妖気に、咲希が驚きながら咲耶に訊ねた。
(当然じゃ……。此奴が本来の力で撃った火球なら、小さな山くらいは消滅させるぞ……)
笑いながら告げた咲耶のセリフに、咲希は言葉を失った。
「どうやら、本物の木花咲耶のようですわね……。残念ながら、あなたのおっしゃるとおりですわ。復活して間もない私に、あなたを倒す力はありませんわ……」
悔しさに歯ぎしりする九尾狐の姿も、紛れもなく美しかった。古代中国における傾国の美女と、日本神話随一の美貌を誇る女神が対峙する情景は、どんな絵師による絵画よりも見る者を魅了した。
「こちらも残念じゃ……。お主を封印した岩は、割れてしまったようじゃな。代わりになる岩も近くにはなさそうじゃし……」
「そうですわね……。そして、あなたには私を殺すことは絶対にできませんもの……」
九尾狐のセリフに、咲希が驚いて訊ねた。
『九尾狐を絶対に殺せないって、何で……? 不死身なの……?』
(この世の中に、不死身の存在などいるはずなかろう。我々神でさえ、生身の肉体を捨てて昇天するのじゃ……)
『それならば、何で九尾狐を殺せないの? 今ならば、咲耶の方が強いんでしょ?』
咲耶の言葉に納得がいかずに、咲希が食い下がった。三大妖魔を倒せるチャンスを棒に振る意味が分からなかった。
『こやつの兄がやっかいな奴でのう……。妹を溺愛しておるのじゃ……』
(溺愛って……)
妖魔にそんな感情があることを、咲希は初めて知った。以前に遭った夜叉は、『愛という感情が何なのか、我は知らぬ』と言っていたのだった。
「では、今日のところは失礼させていただきますわ。本来の力が戻ったら、またご挨拶に伺いますわね」
「楽しみに待っておるぞ。その時には、再び封印してやる故、忘れるでないぞ……」
笑顔で咲耶がそう告げた瞬間、九尾狐の気配が消失した。
『九尾狐の兄って、誰なの……?』
「三大妖魔の一人、阿修羅じゃ……。『鬼神の王』とも呼ばれておる」
「『鬼神の王』阿修羅……?」
まさか、三大妖魔のうちの二人が兄妹だったとは、咲希は思いもしなかった。だが、咲耶はさらに驚愕すべきことを咲希に告げた。
「阿修羅の強さは別格じゃ……。今の私では到底敵わぬ……」
『そんなに強いの……?』
三大妖魔の一人、『闇の王』夜叉とも引き分けた咲耶の言葉に、咲希は黒曜石の瞳を大きく見開いた。
「阿修羅とは、仮の名じゃ……。その真名は、素戔嗚じゃ……」
『素戔嗚ッ……?』
まさか、三大妖魔の正体が素戔嗚尊であるなど、咲希の予想を遙かに超えていた。
「まあ、素戔嗚が阿修羅となった経緯については、おいおい話すとしよう。それよりも、ここから出るのが先じゃ……」
そう告げると、咲耶は右手に持った<咲耶刀>を頭上に掲げた。そして、赤塚公園で咲希が行ったように、裂帛の気合いとともに一気に振り落とした。
次の瞬間、パリンッという音とともに九尾狐の結界が粉々になって消失した。
「咲希、大丈夫かッ……!」
突然、目の前に姿を現した咲耶に、将成が駆け寄って来た。そして、その体を力一杯抱きしめた。
「ええい、鬱陶しいのう……! 離れぬかッ……!」
「鬱陶しい……?」
力尽くで体を引き離した咲希を、将成が茫然として見つめた。愛する咲希に「鬱陶しい」と言われたことなど、いまだかつてなかった。
「咲希、大丈夫か……?」
『何するのよ、咲耶ッ……! 将成が驚いてるじゃない?』
将成が心配そうな視線で咲耶を見つめ、咲希が顔を真っ赤にして咲耶を怒鳴りつけた。
(ほう……。こやつとまだ付き合っておったのか? もう何度か同衾はしたのか?)
『ど、同衾って……』
ニヤリと笑いながら告げた咲耶の言葉に、咲希はカアッと真っ赤に染まった。昨夜も失神するまで愛されたことを思い出したのだ。
「さて、用は済んだ。帰るぞ、将成……」
「さ、咲希……? 用が済んだって……? 九尾狐はいたのか?」
さっと踵を返した咲耶に驚きながら、将成が訊ねた。
「うむ……。追い返してやったわ。そんなことよりも、もっと大事な用があるぞ……」
「追い返して……? 大事な用って……?」
いつもとまったく違う咲希の態度に、将成が茫然としながら聞き返した。
「プリンを食べに行くのじゃッ! プリンアラモードでもよいぞッ!」
「プ、プリン……?」
『ちょっと、咲耶ッ! プリンならあとで奢ってあげるから、さっさと元に戻してッ!』
ほんの少し会話をしただけで、将成が不信感を募らせているのだ。このままでいたら、どんなことになるのか咲希は不安でいっぱいだった。
(何を言うッ? 戻ったらプリンを食べさせてもらう約束を忘れたのか? プリンを食べるまでは、絶対に替わらぬぞッ!)
『分かったわよ……。その代わり、プリンを食べ終えたらすぐに交替してよね?』
ハアッと大きくため息をつくと、咲希が呆れたように告げた。一年半ぶりに戻ってきたのだから、もっと大切なことがたくさんあるだろうと言いたかった。
「ほれ、早く行くぞ、将成……! 遅れるでない!」
嬉しそうな笑顔を浮かべながら、咲耶が将成を急かせた。苦笑いを浮かべてその様子を見つめると、咲希はひっそりと心の中で告げた。
お帰りなさい、咲耶……。また、よろしくね……。
咲希の心の声に気づかずに、咲耶は早足で駐車場へと向かっていった。
「おはよう、咲希……。体は大丈夫か……?」
「大丈夫……じゃないわ。腰が痺れて、脚に力が入らない……」
恥ずかしそうに顔を赤く染めながら、咲希が小声で囁いた。その様子を微笑みながら見つめると、将成が漆黒の髪を優しく手で梳いた。
「あれだけ乱れたら、足腰が立たなくなって当たり前だよ……」
「もう……。誰のせいだと思ってるのよ……」
笑いながら告げる将成に、プウッと頬を膨らませながら咲希が文句を言った。こんなになるまで責めないでと言いたかった。
「ここから殺生石までは、七キロくらいだ。タクシーを使えば十分くらいで着く。まだ七時前だから、もう少し休んでから出発しよう……」
「うん……」
将成の言葉に小さく頷くと、咲希は彼の厚い胸に顔を埋めた。愛する男の腕に抱かれて、咲希はうっとりと眼を閉じた。
(結局、<咲耶刀>で脅しても意味なかったわ……。でも、毎回あんな風に抱かれたら、ホントにおかしくなっちゃう……。何とかしないと……)
昨夜の激しいセックスを思い出すと、咲希は体の芯がカアッと火照るのを感じた。刻みつけられた快感の残り火が、再び燃え上がってきそうだった。
この数日で、咲希は自分の体が淫らに塗り替えられていくような不安があった。十六歳の秋に処女を捧げてから、一年半の間に何度も将成に抱かれた。最初のうちは痛みしか感じなかったが、徐々にそれが快感に変わっていった。女の悦びを知るまでには、それほど時間がかからなかった。
咲希は自分が感じやすい体質であることに気づいていた。将成に愛される度に、歓悦の頂点を何度も極めたからだ。
しかし、一昨日から将成の愛し方が変わった。お仕置きと称して、絶頂を極めている最中でも咲希を激しく責め続けたのだ。この二日間で、咲希は限界を超える極致感を何度も極めさせられ、三回も失神させられた。このままでは、本当に自分が毀れてしまう恐怖に咲希はとらわれた。
「将成……、昨日は凄かったわ……。あんなに感じたのは、初めてよ……」
「朝から誘ってるのか、咲希……?」
咲希の言葉を誤解した将成が、右手で白い乳房を触ってきた。その手をつねると、咲希が真剣な表情を浮かべながら告げた。
「違うわ、最後まで聞いて……」
「分かった……」
赤くなった手の甲を左手で擦りながら、将成が不満気に答えた。
「将成に愛されるのは凄く嬉しいし、幸せな気持ちになれる……」
「それに、気持ちよくなれるしな……」
黒曜石の瞳でジロリと睨まれ、将成が慌てて口をつぐんだ。
「でも、昨日みたいな愛され方はイヤ……。イッてる最中に、さらにイカされるなんて、拷問と変わらないわ。そんなことを何度も続けられたら、あたし、本当に毀れちゃう……」
「咲希……」
思いもしない赤裸々な言葉に、将成は驚きの表情を浮かべた。恥ずかしがり屋の咲希が、ここまで率直に告げたことの重要性に気づいたのだ。
「愛されすぎて失神するって、どういうことだか分かる? それ以上続けられたら危険だと、脳が判断したサインよ……。イッてもイッてもやめてくれない……。ずっとイカされ続ける……。そんな状態を続けられたら、頭がおかしくなっちゃうわ。それって、女にとって拷問と変わらないわ……」
黒曜石の瞳に真剣な光を映しながら、咲希は真っ直ぐに将成の顔を見つめた。
「悪かった……。ただ、俺は咲希を気持ちよくしてやろうと……」
「普通に愛してくれるだけで、十分に気持ちいいわ。あたしのことを大切に思ってくれているなら、あんな愛し方はやめて……」
「分かった……。ごめんな、咲希……。今夜から普通に愛するよ……」
「うん……。ありがとう、将成……」
切実な願いを理解してくれた将成に、咲希は嬉しそうな微笑みを浮かべた。しかし、将成の言葉の意味に気づくと、カアッと顔を赤らめた。
(今夜からって……? まさか、毎日するつもりじゃないでしょうね……?)
不安と期待に胸を高鳴らせながら、咲希はジト目で将成の顔を見つめた。咲希の内心に気づかずに、将成が優しく口づけをしてきた。
ルームサービスで頼んだ朝食を食べ終えると、二人は本館にあるフロントでタクシーを手配した。咲希たちが宿泊したヴィラから殺生石までは、将成が告げたとおり車で十分ほどで到着した。
「どうだ、何か感じるか……?」
タクシーを降りると、将成が咲希の顔を見つめて訊ねてきた。
「特に何も……。九尾狐ほどの妖魔なら、これくらい離れていても分かると思うんだけど……」
案内板に書かれている殺生石の方向を見上げながら、咲希が首を捻った。大きな妖気どころか、妖気それ自体がまったく感じられなかった。
「そうか……。とにかく近くまで行ってみよう。近づけば九尾狐の痕跡があるかもしれない……」
「そうね……。たぶん、何もないとは思うけど、行ってみましょう」
将成の意見に頷くと、案内板に従って咲希は遊歩道を歩き出した。
いでゆ橋と呼ばれる木橋を渡って遊歩道を進むと、左手に無数の地蔵が立っていた。一体一体は小さかったが、そのほとんどが赤い頭巾を被って両手を合わせて空を見上げていた。まるで、天から現れた何かに祈りを捧げているようだった。
それらの地蔵の前には「千体地蔵」と書かれた案内板が立てられていた。
「これって、九尾の狐に向かって手を合わせているのかな?」
「そうかもな……。もしそうなら、九尾の狐って恐ろしくデカいか、空を飛んでいるかだな……」
地蔵が見つめている虚空を見上げながら、将成が告げた。咲希は九尾狐が空を飛べるのかも知れないと思った。そうでなければ、その体躯は数十メートルにも及ぶほど巨大なものだった。赤塚公園の鬼族でさえ、身長は五メートルほどだったのだ。三大妖魔とは言え、それほど巨大であるとは考えづらかった。
伝説によると、九尾の狐は正式な名を『白面金毛九尾の狐』といい、今から約八百年前に中国から日本に渡来してきたそうだ。玉藻前と名乗り、平安時代末期に鳥羽上皇の寵姫となって日本を滅ぼそうとしたと伝えられている。
しかし、陰陽師の安倍泰成に正体を見破られると、三浦介義明、千葉介常胤、上総介広常を将軍とした討伐軍に追われて那須の地まで逃げてきた。
一度は討伐軍に甚大な被害を与えた玉藻前だったが、犬追物と呼ばれる騎射戦法によって破れ、息絶えたと伝えられている。
九尾の狐は日本では玉藻前と呼ばれていたが、古代中国においては殷の紂王を酒池肉林に狂わせた妲己、西周を滅亡に導いた褒似であるとも言われていた。いずれにしても、その美貌によって王君を破滅させ、国を滅亡に追い込んだ魔性の女性……傾国の美女であったことは間違いなかった。
「これが殺生石か……」
「凄い臭いね……」
将成の言葉に顔を顰めながら、咲希が呟いた。目の前にある巨大な岩の周囲には、濃厚な硫黄の臭いが漂っていた。
「見事に真っ二つだな……」
「ホントに……。まるで、卵が割れて、中から何かが産まれ出たみたいね……」
太い注連縄を引き千切ったように、巨岩が真ん中から見事に二つに割れていた。その中心は丸く抉られており、そこから何かが出て来たようにも見えた。
「九尾狐の妖気は感じるか?」
「ううん……。まったくと言っていいほど感じないわ。この近くには妖魔の気配なんて全然ないみたい……」
色葉は、栃木県神社庁のドローンに搭載されたSA測定器が爆発したと言っていた。その爆発までの時間から算出されたSA係数は五千以上だと告げたのだ。それが九尾狐の復活によるものかどうかは不明だが、強力な妖魔が現れたことに間違いはなかった。
その時、周囲の気温が急激に下がったように感じた。四月上旬だというのに、真冬のような冷気が肌に突き刺さった。
「何だッ……?」
驚いて周囲を見渡す将成に、咲希が鋭い声で叫んだ。
「妖気よッ! 凄まじい妖気が、殺生石から出ているッ! 逃げて、将成ッ……!」
だが、咲希も将成も、金縛りに遭ったように身動き一つできなかった。想像を遥かに超える凄絶な妖気に、全身の震えが止まらなかった。それは紛れもない恐怖……人間の根源から来る凄絶な畏怖に他ならなかった。
不意に、周囲が漆黒の闇に包まれた。数センチ先さえ見渡せぬ暗黒の中で、咲希はガチガチと歯を鳴らしながら震撼した。二年前に対峙した夜叉に勝るとも劣らない戦慄が、咲耶の全身を縛り付けた。
(間違いないッ……! 九尾狐だわッ……!)
その超絶な妖気の正体が、三大妖魔の一人、『火焔の女王』九尾狐のものであることを咲希は確信した。
次の瞬間、何の前触れもなく闇が消え去った。同時に周囲の景色が一変していた。二つに割れた殺生石や岩の破片が消え失せ、緑の草がそよぐ美しい草原に咲希は立っていた。硫黄の臭いの微粒さえなく、緑と露の清々しい香りが漂っていた。
(将成はッ……?)
隣にいた将成の姿はどこにも見当たらなかった。その代わりに、五メートルほどの距離を置いて、咲希の正面に一人の女性が立っていた。かつて出逢った誰よりも美しい女性だった。
結髪に花を模った豪華な髪飾りを挿し、漆黒の垂髪を腰まで伸ばした絶世の美女が、真っ直ぐに咲希を見つめていた。
身長は咲希とほとんど同じくらいだった。金糸で刺繍された鳳凰が真紅の着物の右腰からまさに飛び立とうとしていた。それを押しとどめるかのように、左肩から白銀の龍が雲を靡かせて天降っていた。
「お久しぶりですね、咲耶……」
艶やかな紅を塗った唇から、天上の美声が漏れた。思わず聴き入った咲希は、その言葉の意味を理解した。
(咲耶と間違えている……? この女性……九尾狐は咲耶を知っている……?)
目の前で微笑を浮かべている美女が九尾狐であることを、咲希は疑わなかった。これほどの妖気を放つ存在が、三大妖魔以外にいるとは思えなかった。
「九尾狐……?」
「あら……、私を見忘れたような言い方をなさいますわね? 心外ですわ……」
右手で着物の袖を押さえながら、九尾狐が口元を隠して笑った。その妖艶な仕草の間にも、漆黒に輝く黒瞳は咲希を射抜くように見つめていた。
「将成は……どうしたの……?」
九尾狐から放たれる凄まじい妖気に、咲希は全身をガタガタと震撼させながら訊ねた。少しでも気を抜くと、夜叉の時のように恐怖で失禁しそうだった。
「将成……? ああ、建御雷神が目を掛けている坊やのことでしょうか? 建御雷神に来られると厄介ですので、こちらには呼んでおりませんわ……」
その言葉を聞いて、咲希はホッと胸を撫で下ろした。恐らく将成は、まだ殺生石の前にいるはずだ。
(ここは、九尾狐の結界の中ってことね……? 将成が無事なら、取りあえずはよかった……)
この草原は赤塚公園で咲耶が作った結界に酷似していた。咲希はまだ結界の張り方を知らない。当然、将成も結界を張ることはできなかった。残された答えは、目の前の九尾狐が結界を張ったという事実だけだった。
「咲耶、あなたずいぶんと神気が小さくなりましたわね? 八百年前、私をあの大岩に封印したときの十分の一もないのではなくて……?」
(咲耶が九尾狐を封印したッ……? それって……)
九尾狐が告げた言葉に驚愕すると同時に、咲希は嫌な予感にとらわれた。そして、その予感を裏切らない言葉を九尾狐が告げた。
「八百年もの間、あの暗い岩の中で、どうやってあなたに復讐してさしあげようかとずっと考えておりましたわ。でも、今のあなたなら、簡単に殺せそうですわね……」
(やっぱりッ……! 咲耶、何してくれちゃったのよッ!)
三大妖魔の怨みを買いまくっている守護神を、咲希は怒鳴りつけたくなった。
夫である瓊瓊杵尊の仇討ちのために夜叉と戦ったことはまだ理解できた。だが、九尾狐を敵に廻したのなら、封印するだけでなくちゃんと滅殺しておいて欲しかった。そうしてくれたのならば、咲耶と間違えて殺されそうになることなどなかったはずだ。咲耶ならまだしも、咲希にとって九尾狐から感じる妖気は圧倒的な恐怖の対象でしかなかった。
「あたしを……殺すの……?」
壮絶な恐怖にガクガクと震えながら、咲希が訊ねた。戦って勝てる相手ではないことは、火を見るより明らかだった。
「当然ですわ……。そのために、八百年もかけて少しずつ復活しましたのよ……。でも、簡単に殺したらつまらないですわね。どうしてさしあげましょうか……? 生爪を剥がして、全身の皮膚を剥いだ方がよろしいでしょうか……? それとも、指を一本ずつ斬り落としてから、私の業火で手足を消し炭に変えてさしあげましょうか……?」
見る者を魅了する微笑を浮かべながら、九尾狐が恐ろしいことを平然と告げた。
「い、いやよ……! どっちも、お断りよ……!」
九尾狐が本気で言っていることを察して、咲希が蒼白になりながら叫んだ。どうせ殺されるなら、ひと思いに首でも刎ねて欲しかった。激痛にのたうち回るような死に方だけはしたくなかった。それ以前に、咲希には九尾狐に殺される理由がなかった。
「あたしは咲耶じゃないわッ! 咲希よッ……!」
「咲希……? 咲耶ではないとおっしゃるのですか……?」
咲希の絶叫に、九尾狐が怪訝な表情を浮かべた。
「しかし、あなたの神気は紛れもなく咲耶のものでしょう……?」
「咲耶はあたしの守護神なのッ! だから、木花咲耶とあたしは別人よッ!」
女神を人と呼んでいいのか分からなかったが、藁にも縋る思いで咲希は叫んだ。相手が三大妖魔とは言え、人違いで殺されたら目も当てられなかった。
「咲耶が守護神……? なるほどね……。そういうことでしたの?」
美しい黒瞳を驚きに見開くと、九尾狐が納得したように頷きながら笑みを浮かべた。
「守護神が中にいる……。つまり、あなたは咲耶の生まれ変わりということですわね……?」
「そうなのよッ! だから、咲耶とあたしは別人なのよッ……!」
すべてを見抜いた九尾狐の言葉に、咲希はここぞとばかりに叫んだ。だが、次に告げた九尾狐のセリフは、容赦なく咲希を絶望の底に落とした。
「では、あなたを殺せば、咲耶も死ぬということですわ。簡単な話ですわね……?」
「そ、そんな……」
茫然と立ち竦む咲希の目の前で、九尾狐の妖気が急激に増大した。今まで感じていた妖気が可愛く思えるほど、壮絶な妖気の奔流が九尾狐の全身を包み込んだ。
『火焔の女王』九尾狐……。
その通り名は、紛れもなく真実であった。
九尾狐の全身が燃え上がったかのように、真っ赤な妖気を纏った。その絶大な火焔は、五メートル離れている咲希の前髪をチリチリと焦がした。高さ十メートルにも及ぶ凄まじい劫火の中で九尾狐が、ニヤリと凄絶な笑みを浮かべた。
「咲耶の生まれ変わりであるあなたには、同情してさしあげますわ。だから、苦しまずに私の火焔で一瞬のうちに消し炭にしてさしあげる……」
「ひッ……! や、やめて……」
燃えさかる九尾狐の妖気が、一気に増大した。その焔に焼かれたら、九尾狐の言葉通り瞬時に消し炭にされることは疑う余地もなかった。
(将成ッ……! 助けてッ……!)
愛する男の顔を思い浮かべながら、咲希は固く眼を閉じた。将成との想い出が、走馬灯のように咲希の脳裏を駆け抜けた。
その時……。
『はあぁあ、よく寝た……。今、何時じゃ?』
状況をまったく理解していない暢気な声が、咲希の脳裏に響き渡った。
(咲耶ッ! 起きたのッ? 助けてッ……!)
『はあ……? 助けてって……何じゃこれはぁあッ……!』
目の前で膨大な妖気の炎を纏っている九尾狐に、咲耶が気づいた。
(早くッ! 替わってッ!)
『何がどうなっておるのじゃぁあ……? 何で九尾狐がここにおるんじゃぁあ……?』
(そんなことどうでもいいから、早く替わりなさいッ! プリンあげないわよッ!)
『ええい、分かったッ! 交替するぞッ!』
咲耶がそう告げた瞬間、咲希の意識は心の奥底へ沈んでいった。
「死になさい、咲耶ッ! ハァアアッ……!」
裂帛の気合いとともに、九尾狐が頭上に掲げた両手を振り落とした。サッカーのスローインのような動作だが、投げられたのは直径二メートルにも及ぶ巨大な火球だった。周囲の大気さえ灼き焦がす高熱の火球が、咲耶に凄まじい速度で襲いかかった。
「ハッ……!」
咲耶は右手から<咲耶刀>を発現させると、左腰から右上へ一気に斬り上げた。その神速の居合は、超絶な神気の奔流となって九尾狐の火球を両断した。
二つに割れた火球が、咲耶の体を避けて後方へと流れ飛んだ。そして、凄まじい爆音を立てながら地面に激突し、大地を震撼させた。
「馬鹿な……」
茫然と立ち竦む九尾狐が、左肩を押さえながら呟いた。咲耶の放った神気の刃が、九尾狐の左肩をざっくりと斬り裂いていた。真紅の着物に刺繍された白銀の龍の首が斬り落とされ、真っ白な九尾狐の左肩から鮮血が流れ落ちていた。
「久しいのう、九尾狐よ……。まみえるのは八百年ぶりかのう……?」
「咲耶……?」
驚愕に黒瞳を大きく見開きながら、九尾狐が愕然と呟いた。驚きのあまり言葉を失った九尾狐に、咲耶が微笑を浮かべながら告げた。
「お主、復活したばかりじゃな? 八百年前と比べて、大きく力が落ちておるぞ……。本来のお主が放った火球なら、私とて簡単に斬り裂くことなどできなかったじゃろうに……」
『あれで力が落ちてたって、本当なの……?』
いまだかつて見たこともない巨大な妖気に、咲希が驚きながら咲耶に訊ねた。
(当然じゃ……。此奴が本来の力で撃った火球なら、小さな山くらいは消滅させるぞ……)
笑いながら告げた咲耶のセリフに、咲希は言葉を失った。
「どうやら、本物の木花咲耶のようですわね……。残念ながら、あなたのおっしゃるとおりですわ。復活して間もない私に、あなたを倒す力はありませんわ……」
悔しさに歯ぎしりする九尾狐の姿も、紛れもなく美しかった。古代中国における傾国の美女と、日本神話随一の美貌を誇る女神が対峙する情景は、どんな絵師による絵画よりも見る者を魅了した。
「こちらも残念じゃ……。お主を封印した岩は、割れてしまったようじゃな。代わりになる岩も近くにはなさそうじゃし……」
「そうですわね……。そして、あなたには私を殺すことは絶対にできませんもの……」
九尾狐のセリフに、咲希が驚いて訊ねた。
『九尾狐を絶対に殺せないって、何で……? 不死身なの……?』
(この世の中に、不死身の存在などいるはずなかろう。我々神でさえ、生身の肉体を捨てて昇天するのじゃ……)
『それならば、何で九尾狐を殺せないの? 今ならば、咲耶の方が強いんでしょ?』
咲耶の言葉に納得がいかずに、咲希が食い下がった。三大妖魔を倒せるチャンスを棒に振る意味が分からなかった。
『こやつの兄がやっかいな奴でのう……。妹を溺愛しておるのじゃ……』
(溺愛って……)
妖魔にそんな感情があることを、咲希は初めて知った。以前に遭った夜叉は、『愛という感情が何なのか、我は知らぬ』と言っていたのだった。
「では、今日のところは失礼させていただきますわ。本来の力が戻ったら、またご挨拶に伺いますわね」
「楽しみに待っておるぞ。その時には、再び封印してやる故、忘れるでないぞ……」
笑顔で咲耶がそう告げた瞬間、九尾狐の気配が消失した。
『九尾狐の兄って、誰なの……?』
「三大妖魔の一人、阿修羅じゃ……。『鬼神の王』とも呼ばれておる」
「『鬼神の王』阿修羅……?」
まさか、三大妖魔のうちの二人が兄妹だったとは、咲希は思いもしなかった。だが、咲耶はさらに驚愕すべきことを咲希に告げた。
「阿修羅の強さは別格じゃ……。今の私では到底敵わぬ……」
『そんなに強いの……?』
三大妖魔の一人、『闇の王』夜叉とも引き分けた咲耶の言葉に、咲希は黒曜石の瞳を大きく見開いた。
「阿修羅とは、仮の名じゃ……。その真名は、素戔嗚じゃ……」
『素戔嗚ッ……?』
まさか、三大妖魔の正体が素戔嗚尊であるなど、咲希の予想を遙かに超えていた。
「まあ、素戔嗚が阿修羅となった経緯については、おいおい話すとしよう。それよりも、ここから出るのが先じゃ……」
そう告げると、咲耶は右手に持った<咲耶刀>を頭上に掲げた。そして、赤塚公園で咲希が行ったように、裂帛の気合いとともに一気に振り落とした。
次の瞬間、パリンッという音とともに九尾狐の結界が粉々になって消失した。
「咲希、大丈夫かッ……!」
突然、目の前に姿を現した咲耶に、将成が駆け寄って来た。そして、その体を力一杯抱きしめた。
「ええい、鬱陶しいのう……! 離れぬかッ……!」
「鬱陶しい……?」
力尽くで体を引き離した咲希を、将成が茫然として見つめた。愛する咲希に「鬱陶しい」と言われたことなど、いまだかつてなかった。
「咲希、大丈夫か……?」
『何するのよ、咲耶ッ……! 将成が驚いてるじゃない?』
将成が心配そうな視線で咲耶を見つめ、咲希が顔を真っ赤にして咲耶を怒鳴りつけた。
(ほう……。こやつとまだ付き合っておったのか? もう何度か同衾はしたのか?)
『ど、同衾って……』
ニヤリと笑いながら告げた咲耶の言葉に、咲希はカアッと真っ赤に染まった。昨夜も失神するまで愛されたことを思い出したのだ。
「さて、用は済んだ。帰るぞ、将成……」
「さ、咲希……? 用が済んだって……? 九尾狐はいたのか?」
さっと踵を返した咲耶に驚きながら、将成が訊ねた。
「うむ……。追い返してやったわ。そんなことよりも、もっと大事な用があるぞ……」
「追い返して……? 大事な用って……?」
いつもとまったく違う咲希の態度に、将成が茫然としながら聞き返した。
「プリンを食べに行くのじゃッ! プリンアラモードでもよいぞッ!」
「プ、プリン……?」
『ちょっと、咲耶ッ! プリンならあとで奢ってあげるから、さっさと元に戻してッ!』
ほんの少し会話をしただけで、将成が不信感を募らせているのだ。このままでいたら、どんなことになるのか咲希は不安でいっぱいだった。
(何を言うッ? 戻ったらプリンを食べさせてもらう約束を忘れたのか? プリンを食べるまでは、絶対に替わらぬぞッ!)
『分かったわよ……。その代わり、プリンを食べ終えたらすぐに交替してよね?』
ハアッと大きくため息をつくと、咲希が呆れたように告げた。一年半ぶりに戻ってきたのだから、もっと大切なことがたくさんあるだろうと言いたかった。
「ほれ、早く行くぞ、将成……! 遅れるでない!」
嬉しそうな笑顔を浮かべながら、咲耶が将成を急かせた。苦笑いを浮かべてその様子を見つめると、咲希はひっそりと心の中で告げた。
お帰りなさい、咲耶……。また、よろしくね……。
咲希の心の声に気づかずに、咲耶は早足で駐車場へと向かっていった。
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