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第1章 神社幻影隊

4.妖魔の眷属

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 第一段階の見きわめを予定通りに五日でパスすると、咲希はスマートフォンで将成に連絡を取った。喜びに満ち溢れた声で話す咲希に、将成は優しい口調で言葉をかけてくれた。
「おめでとう、咲希。がんばったな……」
「うん、ありがとう、将成。バイクって思ったよりも大変だけど、楽しいね……」

 発進や停止、ギアチェンジ、加速・減速から始まって、第一段階ではスラローム、一本橋、クランク、S字、坂道発進など、バイクの基本操作を一通りクリアした。中でも一本橋は長さ十五メートル、幅三十センチの平均台を七秒以上かけてゆっくりと走る講習で、落ちたら即失格となる。スピードを出せば簡単なのだが、七秒未満で通過しても減点なのだ。三回に一回は落ちてしまい、この講習が咲希は一番苦手だった。

「一本橋って、何かコツがあるの? 凄く難しいんだけど……」
「ああ、あれか……。両脚で燃料タンクを締め付けながら、できるだけ遠くを見据えるんだ。そして、最初の三分の一までは一気に走り、残りの三分の二は半クラを使いながらジグザグにハンドルを動かしてみるといいよ。ブレーキは右脚リアだけにして、右手フロントは使っちゃダメだ……」
 将成のアドバイスは、咲希がやっていた方法とまったく違っていた。自転車の要領で、咲希は右手のフロントブレーキだけを使っており、一本橋に入る前からできるだけ速度を落としていたのだった。

「そうなんだ……。言われてみれば、さっと入って後からスピードを調整する方が楽よね。ありがとう、次はそうやってみるわ」
 咲希の言葉に微笑みながら、将成は楽しそうに告げた。
「第二段階は第一段階よりも簡単だよ。シミュレーターを観たり、実際の検定コースを走るのがメインだ。スピードは第一段階よりも速くなるけど、度胸さえあればなんてことないさ。咲希なら問題ないよ」
「ちょっと……。どういう意味よ……?」
 心臓に毛が生えているとでも言わんばかりの将成の言葉に、咲希はプウッと頬を膨らませた。

「ハッ、ハッ、ハハッ……! 時速四十キロからのフルブレーキなんて、面白いぞ!」
「ええッ……? 怖そう……!」
 そう言いながらも、咲希は楽しげに笑った。実際にはもっとスピードを出して、全身で風を切りたかったのだ。将成が言うとおり、自分で思っているよりも度胸があるのかも知れなかった。

「あ、バスが来たわ……。また電話するね」
「ああ、気をつけて帰れよ。じゃあ、また……」
「うん、バイバイ……」
 通話を切ると、ちょうどスクールバスが目の前に停車した。咲希はスマートフォンを鞄にしまうと、軽い足どりでバスに乗り込んだ。

(明日は月曜日か……。教習所が休みだから、久しぶりに将成とゆっくり会いたいな。今の電話で、約束しておけばよかった……)
 放課後、将成と制服デートをしている姿を想像し、咲希は思わずニヤニヤと笑みを浮かべた。だが、そんな倖せとはかけ離れた事件が起こるなどとは、咲希は予想さえもしていなかった。


 翌日、学校に行くとクラス全体が浮き足立っていた。その雰囲気を怪訝に思い、咲希は首を捻りながら凪紗なぎさに訊ねた。
「どうしたんだろう? 何か、クラスのみんな、変じゃない?」
「知らないの、咲希……? 土曜日に一年の中原亜由美って子が殺されたのよ! まるで、吸血鬼にでも襲われたみたいに全身の血を抜かれていたんだって……!」
「中原亜由美って、まさか……あの中原がッ?」
 凪紗の言葉に驚愕して、咲希が思わず席を立った。中原亜由美は咲希の後輩で、剣道部の一年生だったのだ。

 その時、ホームルームを開始するチャイムが鳴り、女子剣道部の部長をしている担任の猪熊が入ってきた。学級委員のかけ声で生徒たちが一斉に立ち上がり、猪熊に向かって一礼をした。生徒たちが着席したのを見届けると、猪熊が悲痛な表情で話し始めた。

「皆さんもすでに聞いているかと思いますが、一昨日、一年B組の中原亜由美さんが何者かに襲われて亡くなりました。そのため、先ほどの職員朝礼で本日の臨時休校が決定しました」
 猪熊の言葉に、クラス中がざわめきだした。大きく咳払いをして生徒たちの動揺を静めると、猪熊が話を続けた。

「皆さんは速やかに下校して、寄り道をせずに帰宅してください。また、マスコミにインタビューをされても、何も答えないようにお願いします。明日も休校にするかどうかは、学校連絡網フェアキャストで発信しますので確認してください」
 フェアキャストとは、NTTによる学校向け緊急連絡サービスで、事前に登録した電話、メール、LINEに同時送信が可能なシステムだ。聖光学院高等学校では、緊急連絡網として活用していた。

「中原さんの葬儀は決まったんですか?」
 咲希が挙手しながら、猪熊に訊ねた。特別に親しい関係ではなかったが、女子剣道部の新主将として葬儀には参加してお悔やみを述べたかったのだ。
「まだ決まっていません。それについても、決まり次第にフェアキャストで連絡します」
 悲痛な表情を浮かべながら、猪熊が告げた。猪熊にとっても中原は大事な教え子であり、大切な部員なのだ。

「では、ホームルームが終わり次第、帰宅してください。それと、駅まではできるだけ一人にならずに、友達を複数で帰ってください。以上です」
 猪熊がそう告げ終わると同時に、ホームルーム終了のチャイムが鳴った。学級委員の声で猪熊に一礼すると、咲希は鞄を手にして席を立った。

「咲希、一緒に帰ろう……」
「うん。まさか、中原が殺されるなんて思ってもみなかった……」
 声をかけてきた凪紗に頷くと、咲希は沈痛な思いで告げた。
「剣道部だったよね、中原さん。仲良かったの?」
「学年も違うから、普通かな……。何回か、引き立て稽古をしたことがあるくらい……」
 引き立て稽古とは、刃筋を教えるために高段者が初心者を相手にする稽古だった。中原は初心者だったので、二段の段位を持つ咲希が稽古の相手を務めたのだ。

(……ッ! 何……?)
 その時、ゾクリとうなじの毛が逆立つような視線を感じ、咲希が振り向いた。そこには、慌てて咲希から視線を外す一人の男子生徒の姿があった。
(澤村君……?)
 澤村彰人あきとは咲希から顔を背けたまま鞄を手に取ると、そのまま早足で教室から出て行った。以前に体育の授業ソフトボールで、咲耶が打った凄まじい速度の打球をキャッチした男子だった。

『あの澤村という奴から感じたは邪気じゃった』
『最近、どこかで妖魔の影響を受けたか、身近な者に妖魔がいるか……。いずれにせよ、注意しておく必要があるようじゃ……』
 咲希は、咲耶が告げていた言葉を思い出した。

(最近、色々なことがあって澤村君のことを忘れていたわ……。中原も全身の血を抜かれて殺されたっていうし、妖魔が身近にいるのかも知れない。天城さんに相談した方がいいかも……)
 絶世の美貌を持つ神社幻影隊S.A.P.主任宮司リーダーを思い出して、咲希は判断に悩んだ。相談すれば力になってくれるとは思うが、今まで以上にS.A.P.に勧誘されることは間違いなかったからだ。

(剣道部の齋藤先生の時のように、澤村君の邪気を咲耶はすぐに浄化しなかった。そんなに気にするほど強い邪気じゃないのかな……?)
 その判断が甘かったことを、咲希は身をもって実感させられるとは思いもしなかった。


「お母さん、ずっと泣いてた……。見てられなかったわ……」
「そうだな。一人娘だったみたいだし、ショックで寝込まないといいけど……」
 昼過ぎに配信された学校連絡網フェアキャストで、中原亜由美のお通夜が今夜六時から行われることを知った。咲希は将成と一緒に急遽お通夜に出席して、焼香を済ませてきたのだった。

 お通夜が行われた斎場は、小田急線の狛江駅からバスで十五分ほどの場所だった。校長や教頭を始め、聖光学院高等学校の教師や同級生たちが多数参列していた。
「全身の血が抜かれていたって聞いたけど、本当なのかな……?」
「さっき、刑事らしい人たちが話しているのが聞こえたけど、どうやら本当らしい。昨日、司法解剖して分かったそうだ……」
 目つきの鋭い男たちが数人いたことは、咲希も気づいていた。剣道部の部長をしている齋藤先生と一緒にいたことから、調布署の刑事だったようだ。


神守かみもりさん……」
 狛江駅前でバスを降りて駅に向かおうと歩き出した時、背後から声をかけられて咲希は振り向いた。そこには制服姿の澤村彰人あきとの姿があった。彼も亜由美の葬儀に参列していたようだった。

 澤村は身長百六十五センチの咲希とほとんど変わらない小柄な男子生徒だ。あまりヘアスタイルに気を配っていないようで、髪をボサボサに伸ばした大人しい生徒だった。クラスでの存在感も希薄で、友人と一緒にいるところもあまり見たことがなかった。
 だから、ほとんど話をしたことがない澤村が急に声をかけてきたことを不審に思い、咲希は思わず隣りに立つ将成の顔を見上げた。

「誰……?」
 咲希の態度を怪訝に思い、将成が彼女を庇うように一歩前に出ながら訊ねた。
「同級生の澤村君……」
「同級生か……。何か用かい、澤村君」
 咲希の代わりに将成が澤村に訊ねた。だが、澤村の態度は常軌を逸していた。

「あなたに用なんてありませんよ、桐生さん。僕は神守さんと話をしているんだ。出しゃばらないでください」
「何てことを言うの! 先輩に対して、失礼でしょッ!」
 澤村の言葉に驚くと同時に、将成を馬鹿にされたように感じて咲希が叫んだ。敵愾心を隠そうともしない澤村に、将成も驚いて眼を見開いていた。

「人の話に勝手に割り込む方が失礼だと思うけど……。まあ、いいや……。とにかく僕に付いてきてくれないか、神守さん。君に会いたいと言う人がいるんだ」
「どうして、あたしがあなたに付いていかないとならないの? 学校でもあなたとはあまり話をしたこともないのに……」
 将成に誤解をされたくないと思い、咲希が澤村に冷たく言い放った。だが、澤村はニヤリと笑みを浮かべると、咲希に向かって告げた。

「赤塚公園でのことを言いふらされたくなければ、付いてきた方がいいと思うよ」
「なッ……! 何であなたが、そのことを……?」
 驚きに黒曜石の瞳を大きく見開きながら、咲希が叫んだ。それと同時に、咲希の脳裏に咲耶の言葉が蘇った。

『最近、どこかで妖魔の影響を受けたか、身近な者に妖魔がいるか……。いずれにせよ、注意しておく必要があるようじゃ……』

(あの事件を知っていてあたしに会いたがるなんて、二種類の人間しかない……。天城さんのように妖魔と敵対している人か、妖魔の側にいる人か……)
 澤村が神社幻影隊S.A.P.である可能性は低かった。もしそうであれば、色葉がそのことを匂わすはずだからだ。個人名までは教えてくれなくても、同級生にもS.A.P.がいると告げた方が咲希に安心感を与えて勧誘しやすくなるからだ。

(咲耶は澤村君から妖気を感じたと言った。つまり、澤村君の背後には妖魔がいる。もしかしたら、妖魔本体が澤村君を使ってあたしを呼び寄せようとしている可能性もある……)
 そこまで考えると、咲希は黒曜石の瞳で真っ直ぐに澤村を見つめながら告げた。
「あの事件を公表したければ、すればいいわ! きっと信じる人なんて、誰もいないから!」
 女神が張った結界の中で、女子高生が鬼と戦って倒したなどという荒唐無稽こうとうむけいの話を、信じる者などいるはずがないと咲希は思った。

「へえ……。見かけによらず、強気な発言だね……。では、こう言ったら付いてきてくれるかな? 女子高生JKの血は甘くて美味しかったよ……」
「なッ……! まさか、あなたが中原を……?」
 驚愕する咲希の表情を見つめながら、澤村が楽しそうに笑った。
「僕が飲ませてもらったのは、一口だけだけさ……。ほとんどは、あの方が堪能されていたからね……」

「君は中原さんの事件に関係があるのか?」
 黒瞳から厳しい光を放ちながら、将成が澤村の顔を見据えた。今の澤村の発言は、亜由美の死に関与していることを認めたも同然だったからだ。
「さあね……。あんたには関係ないな。神守さん、付いてきてくれたら教えて上げるよ」
「必要ないッ! 警察を呼ぶから、大人しく自首した方がいいぞ!」
 そう告げると将成はスマホを取り出して、スクリーンを操作し始めた。

「ぐふッ……!」
 次の瞬間、将成がスマホを取り落として、両手で腹部を押さえながら地面に崩れ落ちた。眼にも留まらぬ速度で澤村が将成に近づき、鳩尾みぞおちを痛打したのだ。
「将成ッ……!」
 予想もしない成り行きに、茫然と立ち竦みながら咲希が悲鳴を上げた。慌てて駆け寄ろうとした咲希よりも速く、澤村が意識を失った将成の体を右肩に担ぎ上げた。

「こうすれば、付いて来ざるを得ないだろう? あの方のところに案内して上げるよ」
 ニヤリと笑みを浮かべながら、澤村が走り出した。人ひとり担いでいるとは思えないほどのスピードだった。
「待ってッ!」
 慌てて澤村の背中を追いかけて、咲希が全力で駆け出した。

(何て速さなのッ……!)
 百六十五センチの澤村が、百七十五センチある将成を右肩に担いだまま凄まじい速度で走り続けていた。剣道で鍛えている将成との体重差は、恐らく十キロ以上あるはずだった。
(絶対に普通じゃないッ! 妖気を使っているッ?)
 どんなに全力で走っても、澤村との距離は約五メートルと全く変わらなかった。これは澤村が咲希のスピードに合わせて走っている証拠だった。

「……ッ!」
 不意に、澤村が将成を担いだまま、道路の左側に続く二メートルはある鉄柵を跳び越えた。鉄柵の内側には広大な敷地が広がっていた。すでに周囲は暗く、その中は濃密な闇と不気味な雰囲気に包まれていた。
(ここは……?)

 十メートルほど先に、横長の木製看板があった。咲希はその前に駆け寄ると、そこに大書された文字に視線を這わせた。
(『狛江弁財天池特別緑地保全地区』……?)
 その看板のすぐ隣には、敷地内の地図と一緒に簡単な説明が書かれていた。咲希は素早くその内容を読んだ。

 『狛江弁財天池特別緑地保全地区』は狛江駅北側に位置する緑豊かな地域で、市民の癒しの空間になっている広大な緑地帯だった。駅のすぐ近くにありながら自然に近い状態の緑地が保全されており、野鳥や昆虫の棲み処ともなっているようだ。
 敷地内には曹洞宗そうとうしゅうの寺院である泉龍寺せんりゅうじが管理する管理区域があり、その中に名前の由来となっている弁財天池があった。月に一度、第二日曜日に開放され、市民だけでなく市外の人にも開放されていた。

 鉄柵の向こう側には泉龍寺の竹林が広がっていた。運動神経に自信があるとは言え、普通の人間が人ひとり担ぎながら高さ二メートルの鉄柵を跳び越えられるはずがなかった。
(神気を……)
 鉄柵の前で立ち止まると、咲希は精神を統一し始めた。咲耶と違い、咲希はまだ瞬時に神気を纏うことはできない。全神経を集中して心を落ち着かせ、周囲にある生きとし生けるものに語りかける必要があった。

(空よ、大気よ、木々よ、大地よ……お願い、あたしに力を貸して……! 将成を助けるために、みんなの神気をあたしに分けて……!)
 咲希の足元から神々しい光の渦が巻き始めた。その光輝が螺旋を描きながら、咲希の全身を包んでいった。風もないのに長い漆黒の髪が、ゆらゆらと靡きながら舞い上がった。
 神秘的とも言える光が全身を覆い尽くすと、咲希は黒曜石に輝く瞳をカッと見開いた。体中の細胞が活性化し、生命力が満ち溢れていくのを感じた。

「ハッ……!」
 両膝を屈めると、短い気合いとともに咲希は大きく跳躍した。二メートルもある鉄柵の遥か上を跳び越えると、咲希は竹林の中を全力で走り始めた。

(待っていて、将成ッ……! 今、助けに行くわッ!)
 奥から感じる将成のに向かって、咲希は凄まじい速度で竹林の中を疾走した。その右手には神々しい光輝を放つ白銀の神刀が握られていた。


「これはッ……!」
 愛車である真紅のBMW Z4で芦花公園にある自宅マンションに向かっている途中で、天城色葉は凄まじい精神エネルギーを感じた。急いで車線変更をしてZ4を路肩に停止させると、ステアリングにある通話スイッチを押して国城大和を呼び出した。

「色葉か? 今、連絡しようとしていたところだ。狛江駅前の『狛江弁財天池特別緑地保全地区』で、強力なSA係数が測定された。測定値は四七五……先日の赤塚公園と同じパターンだ!」
 通話に出ると同時に、大和が興奮した口調で告げてきた。

「つまり、神守咲希のSA係数ってことね?」
 そう告げると、色葉はカーナビゲーションで『狛江弁財天池特別緑地保全地区』を検索した。今いる場所からの距離は約七キロだが、途中で渋滞しているところもあり到着までは三十分ほどかかりそうだった。

「ここからだと約三十分かかるわ。先にドローンを飛ばせる?」
「すでに飛ばした。あと十分ほどで到着する予定だ」
「さすがね、大和……。私も今から向かうわ」
 公私ともに自分を支えてくれる大和を頼もしく思うと、色葉は嬉しそうな笑みを浮かべながら告げた。

「気をつけろよ。SA係数九九九が本気で攻撃したら、どれほどの威力になるのか想像もつかない。ヤバいと思ったら、すぐに逃げろよ!」
「分かってる。心配しないで、大和……。後で連絡を入れるわ」
「分かった。待ってる……」
 大和の返事を聞いてから、色葉はステアリングの通話スイッチをオフにした。そして、ウィンカーを出すとアクセルを踏み込んでZ4を発車させた。

(そう言えば最近、大和にあんまり文句を言わなくなったわ……。仕事では判断も速いし、実行力も申し分ない。今も、私が指示するよりも速くドローンを飛ばしていたし……))
 色葉より一歳年下の大和は、神社幻影隊S.A.P.に配属された頃には非常に頼りない存在だった。だが、二年前に色葉と付き合いだしてから、大和は変わった。特にS.A.P.の副主任宮司サブリーダーになってからの大和は、色葉も驚くほどの成長を遂げていた。

(プライベートのパートナーとしても十分に優しいし、頼りになる……。あっちの相性も抜群にいいし……)
 土曜日にホテルで愛し合ったことを思い出し、色葉はカアッと全身を火照らせた。あの晩、「もう、許して……」という言葉を何度口にしたのか、色葉は覚えていなかった。数え切れないほど歓悦の頂点を極めさせられ、ついには失神してしまったのだった。

(でも、一つだけ大きな不満があるんだからね、大和……。そのことに気づいているのかしら?)
 慌てて首を振って恥ずかしい記憶を脳裏から追い払うと、色葉は黒茶色の瞳に憮然とした色を浮かべた。

(私、もうすぐ二十八歳になるのよッ! 分かってるんでしょうね、大和!)
 いつになっても一向にプロポーズをしてこない大和に対する怒りを込めて、色葉は思いっきりアクセルを踏みしめた。最大出力285kwの直列6気筒DOHCツインターボチャージャーが唸りを上げて、1,580㎏あるZ4の車体を凄まじい勢いで加速させていった。
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