今を春べと咲くや此の花 ~ 咲耶演武伝 ~

椎名 将也

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第1章 神社幻影隊

1.咲希の決意

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 咲耶がいなくなってから、四日が経過した。放課後の剣道部の練習が終わると、咲希は更衣室で着替えを済ませてから正門に向かった。

「咲希、一緒に帰らないか?」
 突然、背後から声をかけられて、咲希は驚いて振り向いた。そこには、四日間ずっと頭から離れない男性が、笑顔を浮かべながら立っていた。
将成しょうせい……? どうしたの、こんな時間まで……?」
「図書館で統一試験の勉強をしていたんだ。咲希が帰る姿が見えたから、慌てて追いかけてきた……」
 照れ隠しのように告げる将成を見て、咲希は思わず口元が緩んだ。それが嘘だと言うことは、直感的に分かった。

「ふーん、そうなんだ……。あたしを待っててくれたんじゃないのよね?」
「た、たまたまだよ……。それよりも、この間から俺のこと避けてるみたいだけど、何か怒ってるのか?」
 今週の月曜日に起こった赤塚公園での事件以来、咲希は将成と口を聞いていなかった。何度かもらったLINEも、既読スルーしていた。
 あの夜、将成にバイクで自宅まで送ってもらった。その時に借りた女性用のヘルメットから、魅惑的な香水の匂いがしていたのだ。

「別に……。将成が誰とどこに行こうと、あたしには関係ないし……」
 ヘルメットに付いた残り香を思い出して、咲希がムッとしながら冷たく言い放った。高価なネックレスまで用意して告白しておきながら、他の女が使っているヘルメットを被らせる無神経さが許せなかった。

「誰とどこって……? 別にどこにも出かけてないけど……?」
「さあ……? どうかしらね?」
 プイッと顔を逸らしながら、咲希が冷たく告げた。
「そんなことより、あの夜の説明をしてくれないか? 色々と気になって……」
(そんなこと……? バイクに女を乗せて連れ回しているのが、そんなことだって言うの?)
 将成の言葉を無視すると、咲希が早足で歩き始めた。その後を慌てて将成が追いかけた。

「おい、咲希……。どうしたんだよ、いったい……?」
「自分の胸に聞いてみたら? あたし、陰でこそこそされるのって、絶対に許せないの!」
「こそこそって、何のことだ……? 俺が何かしたのか?」
 さすがにムッとして、将成が言い募ってきた。

「将成も、あたしなんか構ってないで、あのひとと会ってればいいじゃない?」
「あの女って……? 誰のことだ……?」
 咲希の言葉に驚いて、将成が怪訝な表情を浮かべた。
「いつもバイクに乗せている女よッ!」
「バイクに……? 何言ってるのか、よくわかんないけど……。二人乗りタンデムしたのは、咲希が初めてだぞ……?」
「え……? だって……ヘルメットから、香水の匂いがしたじゃない……?」
 将成の言葉に、咲希が驚いて告げた。

「ああ、あのヘルメット、勝手に姉貴のを借りてきたから……」
「お姉さんの……?」
 茫然とした表情で、咲希が訊ねた。
「ふーん……。なるほどね……。そういうことか……」
 将成がニヤリと笑みを浮かべながら、咲希の顔を覗き込んできた。

(やだ……、あたしったら……。勝手に勘違いして……)
 恥ずかしさにカアッと顔を赤らめると、咲希は慌てて将成から眼を逸らした。
「慌て者の誰かさんは、それで俺のことを無視してたんだ……? ずいぶんなことしてくれるよな……」
「ご……ごめんなさい……」
 長い黒髪を揺らしながら頭を下げると、咲希は恐る恐る顔を上げて将成を見つめた。

「四日も無視されるなんて……、これはお仕置きだな」
「お、お仕置き……?」
 初めてのデートで、お仕置きにキスしてもらうと言われたことを思い出すと、咲希は耳まで赤く染めて俯いた。
「罰として、明日買い物に付き合って……」
「買い物……?」
 お仕置きがショッピングだと知り、咲希はホッと胸を撫で下ろした。

「咲希専用のヘルメットを買いに行こう。いつでもタンデムできるようにしておこうぜ!」
「い、いいわよ……、そんなの……」
 将成の言葉に驚いて、咲希が慌てて両手を振った。
「遠慮するなよ。ちゃんと気に入ったのをプレゼントするから……。俺のCB400SFあいしゃのピリオンシートには咲希以外に乗せないから、咲希も他の男のバイクには絶対乗るんじゃないぞ」
「し、将成……」
 咲希の顔が茹で上がったように真っ赤に染まった。

『何とも……独占欲の強い男じゃな。咲希、お前は自分のものだと言っておるようじゃぞ。どうする……?』

 咲希の脳裏に、咲耶が告げた言葉が蘇った。
(ホントにそう言われているみたい……。でも、ちょっと嬉しいかも……)
 恥ずかしそうに微笑むと、咲希は将成の隣に並んで正門を後にした。夕陽を受けて伸びる二人の影は、もう少しで重なり合うほど近づいていた。


 りんかい線東雲しののめ駅を下りて、東京湾岸道路を越えると、平屋建ての大きなバイク用品センターがあった。広い駐車場には数十台のオートバイが駐車しており、都内では見られない光景だった。
 店内に入ると、咲希はそこに展示されている商品の多さに驚いた。入口にはレーシング仕様のオートバイまで展示され、ヘルメットやライディングジャケット、グローブ、タイヤなどあらゆるバイク用品が並んでいた。

「バイク用品って、こんなにあるんだ……」
「まあな……。でも、これだけ揃っている店は都内にはほとんどなくなったよ。土地が高いから、郊外に行かないと店舗スペースが確保できないみたいだ……」
 将成の説明に、咲希は納得した。これだけ広い店舗に在庫を抱えたら、都内ではやっていけないことは十分に予想できた。

「ここでは、フィッティングをしてもらえるんだ。俺や姉貴のヘルメットも、フィッティングしてから買ったんだ」
「フィッティングって……?」
 初めて聞く言葉に、咲希は首を捻った。

「普通、ヘルメットはサイズがXS、S、M、L、XLと五種類あるんだ。だけど、標準ノーマルのままでサイズが合う人は百人に一人って言われている。人によって、頭の形や大きさが違うからね」
「そうなんだ……。意外と奥が深いのね」
 今までオートバイと縁がない生活をしていた咲希には、初めて耳にすることだった。

「例えば、俺の頭のサイズは前後がLで、左右がMなんだ。だから、Lサイズのヘルメットの左右にパットを入れてる」
「なるほど……。一人ひとりの頭の形に合わせて調整するんだ……」
 将成が「咲希専用のヘルメットを買いに行こう」と言った意味が、初めて分かった。
「ライダーにとってヘルメットは命を守る大切な道具だから、自分のサイズに合ったものを選んだ方がいい……」
 そう告げると、将成は近くにいた店員に声をかけて、フィッティングの申込をした。

 現在、一人フィッティング中らしく、咲希たちは二十分ほど待たされた。その間に、展示されているヘルメットを見て廻った。
「代表的なメーカーだと、SHOEIとかARAIあたりかな?」
「将成はどのメーカーなの?」
「俺も姉貴も、SHOEIだよ」
 将成の言葉に、咲希は迷わずに告げた。

「じゃあ、あたしもSHOEIにするわ」
 どうせメーカーの違いによる特徴など分からないなら、将成と同じメーカーがいいと咲希は単純に思った。だが、目の前にあったSHOEIのヘルメットの価格をみて、顔を引き攣らせた。
「こんなに高いの、ヘルメットって……?」
 せいぜい一万円くらいだろうと考えていたのが、値札タグに書かれている値段は定価は税込みで六万六千円だった。割引価格でも六万円以上の価格がつけられていた。

「まあ、ピンキリだな……。でも、咲希にはこういったフルフェイスを被ってもらいたい。あごが守られていないジェットタイプの方が被りやすいけど、安全性はフルフェイスの方が断然高いからね」
「でも、このタイプ、安くても四万円以上もするじゃない? こんな高いのいいわよ……」
 考えていた予算を大きくオーバーしている価格に、咲希は驚きながら告げた。

(将成って、少し金銭感覚がおかしいのかしら?)
 初めてのデートで二十五万もするカルティエのネックレスを贈ったり、夜景の見えるラウンジで食事をしたりと、十八歳の高校生とは思えない金遣いの荒さだった。そして、今日は六万円もするヘルメットを買おうと言うのだ。庶民の咲希にとっては、考えられない行動だった。

「ああ……。言ってなかったっけ? こう見えても、俺は姉貴の会社の共同経営者なんだ」
「共同経営者……?」
「イタリアの輸入雑貨をネット通販しているんだ。ここ一年くらいで大分軌道に乗ってきたから、少しはお金に余裕があるんだよ。だから、このくらいなら気にしなくていい……」
 将成の言葉に、咲希は驚愕した。会社を経営している高校生がいるなど、考えたこともなかった。

「す、凄いのね、将成って……。ビックリしたわ……」
 黒曜石の瞳を大きく見開きながら、咲希が将成の顔を見つめた。
「いや……。実際の経営は、ほとんど姉貴がやってる。俺は企画と翻訳を少し手伝ってるだけだから、大したことはしてないけどね……」
「翻訳……? 将成、イタリア語ができるの?」
Seiセイ tuttoトゥット perペル me!」
 咲希の言葉に頷きながら、将成がニヤリと笑顔を浮かべながら告げた。

「え……? 何て言ったの?」
「さあ……? ナイショさ……!」
「内緒って、ずるいッ……」
 文句を言いながらも、咲希は将成が大切な言葉を言ってくれたような気がした。

「お待たせしました。準備ができましたので、こちらへどうぞ……」
 その時、店員が二人にフィッティングの用意が整ったことを告げに来た。
「はい、ありがとうございます。行こう、咲希……」
「はい……」
 将成に背中を押されて、咲希が店員の後に続いて歩き出した。

(「セイ トゥット ペル メ!」って言ってた。どういう意味か、後で調べてみよう……)
 後日、その言葉の意味を知った時、咲希はかつてないほど真っ赤になって硬直したのだった。

 Sei tutto per me ! (君は僕のすべてだ!)

 その言葉は、咲希の心に深く刻み込まれた。


 咲希が選んだヘルメットは、SHOEIというメーカーのZ-8ノクターンというシリーズだった。夜想曲ノクターンという名の通り、漆黒のベースにあごからうなじにかけて白地に淡紅色ローズ・ピンクのラインが入っていた。
 将成と同じシリーズということもあり、咲希はひと目で気に入った。

「ありがとう、将成……」
「どういたしまして。それよりも、咲希がジャストフィットだとは驚いたぞ!」
「あたしもビックリしたッ! こんなこと、珍しいみたいね!」
 笑いながら告げた将成に、咲希も笑顔を見せながら言った。フィッティングの結果、調整が不要なジャストフィットは百人に一人と言われているようだった。

 フィッティングの作業自体はごく短時間で終わった。メジャーで頭の周囲を測り、ノギスで前後、左右の長さを測定するだけだ。計測した数値を専用ソフトにインプットすると、コンピューターが適正サイズとインナーパットの調整が必要な場所や厚さを計算してくれるのだ。
 その結果、咲希の頭の形状は、SHOEIのSサイズであればジャストフィットし、調整が不要であることが判明したのだ。逆に言えば、咲希の頭部は理想的な形状をしていると言うことだった。

「このヘルメットは俺の家に置いておこうか? どうせ俺の後ろにしか乗らないなら、普段は邪魔になるだろうから……」
「うん……でも、いいわ。自分で持ってる。これを機会に、あたしもバイクの免許取ろうと思って……。免許って、どのくらいの期間でいくらくらいかかるの?」
 先日、赤塚公園から自宅まで将成に送ってもらったとき、風を切って走るバイクの気持ちよさを咲希は生まれて初めて実感した。そして、自分でも運転してみたいと思うようになっていた。

「咲希って、誕生日はいつ……?」
「誕生日? 三月三日だけど……」
 バイクは十六歳から免許を取得出来ると思っていた咲希は、将成が誕生日を聞いてくる理由が分からなかった。
「ということは、今十六歳だよな? 大型二輪は十八歳にならないと取れないから、今だと普通二輪かな?」
 咲希の誕生日を記憶に刻みつけながら、将成が告げた。

「普通二輪って、たしか400ccまで乗れるんでしょ? でも、そんな大きいのじゃなく、小型で十分よ」
 125cc程度のスクーターを考えていた咲希は、驚いて将成に手を振った。
「どうせなら取るなら、普通二輪の方がいいぞ。乗れるバイクの幅も広がるし、教習費用だって二、三万円しか変わらないから……」
「そうなんだ。教習費用っていくらくらいなの?」
 それなりにするのだろうなと思いながら、咲希が訊ねた。

「教習所にもよるけど、普通二輪だと十五万から二十万くらいかな? 合宿免許ならもう少し安くて短時間で取れるけど、学校があると無理だろうし……」
「二十万……! 無理だわ……」
 教習費用を聞いた途端、咲希の夢ははかなく散った。今までのお小遣いやお年玉を貯めた貯金は、十万円くらいしかなかったのだ。

「もし本気で取るなら、俺の仕事を手伝わないか? 月五万円出すから、四ヶ月あれば免許費用は稼げるぞ。簡単に言えば、免許費用を俺が立て替えるから、咲希は体で払って……」
 笑いながら告げた将成を、咲希がジト目で睨みながら言った。
「体で……って、何させるつもりなの?」
「あははッ……! 変なことはさせないよ。メールの翻訳を頼みたいんだ。来月、統一試験があるだろう? その勉強で、仕事の翻訳が溜まり始めちゃって……」

「あたし、イタリア語なんて分からないわよ……」
 さっき将成が告げた言葉を思い出しながら、咲希が言った。
「イタリア語は俺がやるよ。咲希にやって欲しいのは、英語の翻訳だ」
「英語なら、何とかなるかな……?」
 英文科を志望しているため、咲希は英語力にはそれなりに自信があった。洋画も字幕なしで観ることが出来るレベルだった。

「咲希の自宅は高島平だから、和光にあるドリームモータースクールがいいかな? 高島平駅からスクールバスが出てるし……」
「よく知ってるのね?」
「だって、俺もそこに通ってたから……。善は急げと言うし、今から行ってみるか?」
「今から……?」
 将成の言葉に驚いて、咲希が彼の顔を見上げた。

(将成って、時々すごく強引になるのよね? まあ、あたしのためにしてくれるから、悪い気はしないんだけど……)
「でも、教習所に入るのって、親の同意書が必要なんでしょ?」
「そうだけど……。許してもらえそうにない?」
「うん……。たぶん、お父さんが……」
 母親はともかく、咲希を溺愛している父親が危険なバイクに乗ることを許すとは思えなかった。どうしても許してもらえなければ、十八歳になってから免許を取得しようと咲希は考えた。そうすれば、成人として親の同意が不要になるからだ。

「よく話し合って、理解をしてもらうしかないな……。絶対に親に無断で取ろうなんて考えるなよ」
 思いもかけずに真剣な表情で告げられ、咲希は将成の顔をマジマジと見つめた。その視線に気づき、将成が続けた。
「例え原付でも、バイクに乗るからには絶対に保険に入らないとダメだ。咲希はまだ未成年だから、保険契約にも親権者の同意書が必要になる」
「保険……」
 バイクに乗ることだけを考えていて、保険のことなどまったく思いもしなかった。将成の言うとおり、万一事故を起こしたら保険に入っていないと大問題だった。

「今日のところは教習所の見学と申込用紙だけもらって、家に帰ったら両親とよく相談してご覧……」
「はい……」
 自分より遥かにしっかりした考えを持つ将成に、咲希は大きな頼りがいを感じながら頷いた。


 ドリームモータースクールは、都営三田線高島平駅からスクールバスで七、八分の県道68号線沿いにあった。敷地は広大で、自動車と自動二輪でコースがきっちりと分けられていた。
 咲希たちは受付で入校の説明を聞き、入校に必要な書類一式を受け取った。その中には、未成年者が入校するための「入校確認承諾書」もあった。いわゆる、親権者承諾書である。

 スクールの営業時間は、平日は午前八時半から午後八時までで、日曜・祝日は午前八時半から午後五時四十五分までだった。毎週月曜日が定休日になっていた。
 普通二輪車の教習時間は、学科二十六時間、技能十九時間だった。そのうち、学科はインターネットでも受講が可能であった。
 技能については第一段階で一日二時間、第二段階で一日三時間の取得が可能で、学科は一日の取得上限時間がないようだ。最短取得日数は九日間とのことだが、休校日などもあることから実際には二週間以上かかりそうだった。

「検定に落ちても、追加料金がかからないプランがあるのはいいわね」
 スクールの一階にある喫茶室で紅茶を飲みながら、咲希が告げた。安心プランというオプションで別途二万円かかるが、技能規定時間数を超えたり、見きわめや卒業検定に落ちても追加費用がかからないのだ。
「俺の紹介ということで三千円引きになるみたいだし、安心プランをつけると全部で十八万七千円くらいか……。翻訳のバイトを四ヶ月やってくれれば、お釣りが来るな……」
 楽しそうな笑顔を浮かべながら、将成が言った。

「問題はお父さんの説得よね……。今から頭が痛いわ……」
「そればっかりは神に祈るしかないな……」
(あたしの神って、咲耶なのよね……)
 自分の中で眠っている咲耶めがみを思い出し、咲希は吹き出しそうになった。

「どうした、急に……?」
「ううん……。何でもないわ。それより、この間のこと、将成は知りたいんでしょ?」
 赤塚公園で起こった事件の詳細を、咲希はまだ将成に話していなかった。あの現実離れした事件を知りたいにもかかわらず、将成は咲希が言い出すまで辛抱強く待っていてくれたようだった。

「そりゃ、知りたいさ……。でも、咲希は話したくないんだろう?」
「できれば……ね。でも、将成にはきちんと話をするつもりよ。ただ、あたしの中でもまだ整理が付いていないから、もう少し時間をちょうだい……」
 実際に本当のことを話したとして、どこまで将成が信じてくれるのか不安だった。下手をすると、将成との今の関係が壊れてしまうように思えた。

「分かった……。咲希が話してくれる決心がつくまで待つよ」
「ありがとう、将成……」
(やっぱりあたし、この人のことが好きだ……)
 自分のことを第一に考えて大切にしてくれていることを実感し、咲希は笑顔を浮かべながら将成の顔を見つめた。


 ドリームモータースクールのすぐ近くにあるファミリーレストランで夕食を食べた後、咲希たちはスクールバスで高島平駅に戻った。
 自宅まで送っていくと言ってくれた将成に、咲希は首を振って告げた。

「これからお父さんを説得するのに、男の人と一緒に帰ったら絶対に機嫌悪くなるわ」
「そうか……。それなら仕方ないな。じゃあ、また連絡するよ」
「うん、待ってる……。今日はありがとうね、将成……」
 咲希の言葉に、将成がニヤリと笑いながら言った。

「お礼はホッペにキスでもいいぞ……」
「ば、ばかッ……! 何言ってるのよ……」
「いや、最初は男からするべきだな……」
 そう告げると、将成は周囲を見渡して素早く咲希の右頬に口づけをした。
「な、何を……」
 驚きのあまり黒曜石の瞳を大きく見開くと、咲希はカアッと顔を赤らめながら将成の顔を睨んだ。

「じゃあ、またな……」
「う、うん……また……」
 手を振りながら改札に入って行く将成の後ろ姿を見つめると、咲希は熱を持ったように熱くなった右頬を手で押さえた。
(将成に……初めてキスされた……)
 恥ずかしさと嬉しさに、思わず頬が緩んだ。軽快に身を翻すと、咲希は軽い足どりで自宅へと向かっていった。
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