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第六章 魔道笛
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ミレーネ商会本店は、思った以上に立派な建物だった。大きさも冒険者ギルド皇都本部よりも大きく、四階建てで入口の扉も意匠が凝らされていた。
重厚な扉の前に立つと、ドアボーイが扉を開けてティアたちを恭しく中へ招き入れた。
「冒険者ランクSパーティ<漆黒の翼>のアルフィと言います。キーランさんはいらっしゃいますか?」
中に入ると、アルフィが近くに立っていた店員に声をかけた。
「支配人ですか? お約束はございますでしょうか?」
「いえ。特にアポイントはしてないのですが、皇都からの護衛依頼をさせて頂いたので、いらっしゃればご挨拶をしたいと思いまして……」
キーランが支配人であることに驚きながらも、アルフィがにこやかな笑顔を浮かべて告げた。
「さようですか。少々お待ちいただけますか。」
丁寧な口調でそう言うと、店員が店の奥の扉を開けてキーランを呼びに行った。
「支配人だったんだ。そう言われると貫禄があったわね」
「でも、アルフィさんにはずいぶん腰が低かったですけど……」
ティアの言葉を聞くと、アンジェが笑いながら言った。
「これはこれは……。わざわざ足を運んで頂いて恐縮です」
奥の扉からキーランが姿を現すと、駆け足でアルフィの前に来て頭を下げた。アンジェの言うとおり、傍目にはアルフィにペコペコとしているように見えた。
「突然、すみません。冒険者ギルドでこちらのお店を紹介されたので……。キーランさんがいらっしゃればご挨拶をと思いまして」
アルフィがニッコリと微笑みながらキーランに告げた。
「ありがとうございます。それと、先日は護衛頂いて大変助かりました。何度も魔獣を倒して頂き、本当にありがとうございました」
「いえ、大したことはしておりません。あ、こちらは<漆黒の翼>のメンバーで、盾士のダグラスです」
「ダグラス=ゼラフォードです。アルフィたちがお世話になったそうで……」
アルフィから紹介されて、ダグラスがキーランに右手を差し出した。
「おお、あの『堅盾』ですか? お目にかかれて光栄です」
ダグラスの大きな手を両手で握りながら、キーランが嬉しそうに笑った。
「ギルドの販売所で魔道笛を買おうと思ったのですが、あいにくと在庫がなくてこちらを紹介されたんです。魔道笛の在庫はありますか?」
「はい、ございます。ただいまお持ちしますので、こちらにお掛けになってお待ちください。いくつご入り用でしょうか?」
アルフィの言葉に頷くと、キーランはカウンターの横にある応接セットを勧めながら訊ねた。
「できれば四つ欲しいのですが、ありますか?」
「確認して参ります。少々お待ちください」
そう告げると、キーランは再びカウンターの奥の扉に姿を消した。
「アルフィさん、あたしの分は……」
隠伝を使えると言ったアンジェが、再び魔道笛を不要だと言おうとした。
「アンジェ、在庫があればあんたも持っていなさい。魔法が使えない状態になる可能性もあるでしょ?」
「はい……」
アルフィの言葉に、アンジェが頷いた。怪我をしたり、魔力切れを起こしたりして隠伝を使えない場合は、アルフィの言うとおり魔道笛が必要になる可能性も考えられた。
「お待たせしました。魔道笛四つと、それを入れるペンダントを同じく四つお持ちしました。ご確認ください」
魔道笛とペンダントを四つずつ載せたトレイを両手で持ちながら、キーランが戻ってきた。それを応接卓の上に置き、アルフィたちが座っているソファの横にある一人掛けのソファにキーランが腰を下ろした。
「へえ。専用のペンダントがあるのね。なかなかお洒落じゃない?」
ティアがペンダントを手に取って、貝殻をモチーフにしたペンダントトップの蓋を開けた。一セグメッツェ四方の立方体をした魔道笛が、きっちりと入る仕様になっていた。ペンダントチェーンは白銀で出来ており、高級感も十分に感じられた。
「ペンダント付きで一つおいくらですか?」
「魔道笛が一つ白金貨四十枚です。それとペンダントが白金貨五枚なので、一セットで白金貨四十五枚になります」
アルフィの質問にキーランがにこやかな笑顔で答えた。
「ついでにポーションも買いたいんですが、上級回復ポーションと上級魔力回復ポーションを十本ずつお願いします」
アルフィの隣に座っているダグラスがキーランに告げた。
「かしこまりました。上級回復ポーションが一本白金貨三枚。上級魔力回復ポーションが一本白金貨五枚になります。魔道笛を四セットと会わせると、合計で白金貨二百六十枚です。ですが、先日大変お世話になりましたので、割引させて頂きたいと思います」
「ありがとうございます」
キーランの言葉に、アルフィが笑顔を見せた。ティアとアンジェも嬉しそうにキーランに笑いかけた。美女三人の笑顔に囲まれて、キーランが満足げに告げた。
「三十枚お値引きさせていただき、全部で白金貨二百三十枚でいかがでしょうか?」
白金貨三十枚の値引きというと、上級回復ポーション十本が無料という意味だった。
「そんなに? よろしいのですか?」
さすがに驚いてアルフィがキーランに訊ねた。
「はい。<漆黒の翼>の皆さんとご縁が出来たと思えば、白金貨三十枚など安い物です。その代わりと言っては何ですが、困ったことがあったら指名依頼をさせて頂けると助かります」
さすがに商人だけあって、キーランは元手の回収を考えているようだった。冒険者ランクSパーティである<漆黒の翼>とコネを作っておき、いざという時に指名依頼をしても依頼料を安く済まそうとキーランは目論んでいるようだった。
キーランの考えを一瞬で見抜くと、アルフィが笑顔で告げた。
「分かりました。もしあたしたちに指名依頼をされた時には、今日の白金貨三十枚分を値引かせて頂きますね」
(さすがにアルフィだわ。これで指名依頼料をいくらにしても、白金貨三十枚分安くしたと言えばすむわね)
アルフィの顔を見つめながら、ティアは納得した。極端な話だが、指名依頼料を白金貨五百枚としても、実は五百三十枚のところを三十枚分値引いたと言えば良いのだ。アルフィはキーランに貸しを作られることを上手くかわしたのだった。
「では、こちらのギルド証で決済をお願いします。何かあればいつでも指名依頼してください。出来る限りご協力させていただきますわ」
にこやかにそう告げると、アルフィがプラチナ製のギルド証をキーランに渡した。
「その節はよろしくお願いします。では、決済して参りますので少々お待ちください」
そう告げると、キーランはアルフィのギルド証を預かってカウンターに向かった。
アルフィがダグラスに視線を向けると、ダグラスも満足そうに頷いていた。
四人は魔道笛の入ったペンダントを首にかけて、ミレーネ商会本店を後にした。ユーストベルク北門に向かって歩きながら、アンジェが訊ねた。
「アルフィさん、<漆黒の翼>にはランディさんっていう盗賊クラスAもいるんですよね? ランディさんには魔道笛を買わなくて良かったんですか?」
「あ、そんな奴いたわね。忘れてたわ」
笑いながら告げたアルフィの言葉に、アンジェは驚いた表情を浮かべた。
「アンジェ、ランディは<漆黒の翼>のメンバーというよりも、奴隷なのよ」
「ど、奴隷って……?」
楽しそうに言ったティアの言葉に、アンジェが眼を丸くした。
「あいつ、犯罪者なの」
「え……? 犯罪者? 何をしたんですか?」
「強姦未遂」
アンジェの質問に笑いながら、ティアが短く答えた。
「ご、強姦未遂……?」
「そう、私を強姦しようとしたの。それでギルドに突き出す代わりに、アルフィが<漆黒の翼>でこき使おうと決めたのよ」
面白そうに話すティアを、驚きのあまり金色の瞳を見開きながらアンジェが見つめた。
「アンジェもあいつに会ったら、強姦されないように気をつけなさい」
アルフィも笑いながらアンジェに告げた。
「は、はい……」
三人の美女の会話を聞きながら、ダグラスはランディに同情したが何も言えなかった。
重厚な扉の前に立つと、ドアボーイが扉を開けてティアたちを恭しく中へ招き入れた。
「冒険者ランクSパーティ<漆黒の翼>のアルフィと言います。キーランさんはいらっしゃいますか?」
中に入ると、アルフィが近くに立っていた店員に声をかけた。
「支配人ですか? お約束はございますでしょうか?」
「いえ。特にアポイントはしてないのですが、皇都からの護衛依頼をさせて頂いたので、いらっしゃればご挨拶をしたいと思いまして……」
キーランが支配人であることに驚きながらも、アルフィがにこやかな笑顔を浮かべて告げた。
「さようですか。少々お待ちいただけますか。」
丁寧な口調でそう言うと、店員が店の奥の扉を開けてキーランを呼びに行った。
「支配人だったんだ。そう言われると貫禄があったわね」
「でも、アルフィさんにはずいぶん腰が低かったですけど……」
ティアの言葉を聞くと、アンジェが笑いながら言った。
「これはこれは……。わざわざ足を運んで頂いて恐縮です」
奥の扉からキーランが姿を現すと、駆け足でアルフィの前に来て頭を下げた。アンジェの言うとおり、傍目にはアルフィにペコペコとしているように見えた。
「突然、すみません。冒険者ギルドでこちらのお店を紹介されたので……。キーランさんがいらっしゃればご挨拶をと思いまして」
アルフィがニッコリと微笑みながらキーランに告げた。
「ありがとうございます。それと、先日は護衛頂いて大変助かりました。何度も魔獣を倒して頂き、本当にありがとうございました」
「いえ、大したことはしておりません。あ、こちらは<漆黒の翼>のメンバーで、盾士のダグラスです」
「ダグラス=ゼラフォードです。アルフィたちがお世話になったそうで……」
アルフィから紹介されて、ダグラスがキーランに右手を差し出した。
「おお、あの『堅盾』ですか? お目にかかれて光栄です」
ダグラスの大きな手を両手で握りながら、キーランが嬉しそうに笑った。
「ギルドの販売所で魔道笛を買おうと思ったのですが、あいにくと在庫がなくてこちらを紹介されたんです。魔道笛の在庫はありますか?」
「はい、ございます。ただいまお持ちしますので、こちらにお掛けになってお待ちください。いくつご入り用でしょうか?」
アルフィの言葉に頷くと、キーランはカウンターの横にある応接セットを勧めながら訊ねた。
「できれば四つ欲しいのですが、ありますか?」
「確認して参ります。少々お待ちください」
そう告げると、キーランは再びカウンターの奥の扉に姿を消した。
「アルフィさん、あたしの分は……」
隠伝を使えると言ったアンジェが、再び魔道笛を不要だと言おうとした。
「アンジェ、在庫があればあんたも持っていなさい。魔法が使えない状態になる可能性もあるでしょ?」
「はい……」
アルフィの言葉に、アンジェが頷いた。怪我をしたり、魔力切れを起こしたりして隠伝を使えない場合は、アルフィの言うとおり魔道笛が必要になる可能性も考えられた。
「お待たせしました。魔道笛四つと、それを入れるペンダントを同じく四つお持ちしました。ご確認ください」
魔道笛とペンダントを四つずつ載せたトレイを両手で持ちながら、キーランが戻ってきた。それを応接卓の上に置き、アルフィたちが座っているソファの横にある一人掛けのソファにキーランが腰を下ろした。
「へえ。専用のペンダントがあるのね。なかなかお洒落じゃない?」
ティアがペンダントを手に取って、貝殻をモチーフにしたペンダントトップの蓋を開けた。一セグメッツェ四方の立方体をした魔道笛が、きっちりと入る仕様になっていた。ペンダントチェーンは白銀で出来ており、高級感も十分に感じられた。
「ペンダント付きで一つおいくらですか?」
「魔道笛が一つ白金貨四十枚です。それとペンダントが白金貨五枚なので、一セットで白金貨四十五枚になります」
アルフィの質問にキーランがにこやかな笑顔で答えた。
「ついでにポーションも買いたいんですが、上級回復ポーションと上級魔力回復ポーションを十本ずつお願いします」
アルフィの隣に座っているダグラスがキーランに告げた。
「かしこまりました。上級回復ポーションが一本白金貨三枚。上級魔力回復ポーションが一本白金貨五枚になります。魔道笛を四セットと会わせると、合計で白金貨二百六十枚です。ですが、先日大変お世話になりましたので、割引させて頂きたいと思います」
「ありがとうございます」
キーランの言葉に、アルフィが笑顔を見せた。ティアとアンジェも嬉しそうにキーランに笑いかけた。美女三人の笑顔に囲まれて、キーランが満足げに告げた。
「三十枚お値引きさせていただき、全部で白金貨二百三十枚でいかがでしょうか?」
白金貨三十枚の値引きというと、上級回復ポーション十本が無料という意味だった。
「そんなに? よろしいのですか?」
さすがに驚いてアルフィがキーランに訊ねた。
「はい。<漆黒の翼>の皆さんとご縁が出来たと思えば、白金貨三十枚など安い物です。その代わりと言っては何ですが、困ったことがあったら指名依頼をさせて頂けると助かります」
さすがに商人だけあって、キーランは元手の回収を考えているようだった。冒険者ランクSパーティである<漆黒の翼>とコネを作っておき、いざという時に指名依頼をしても依頼料を安く済まそうとキーランは目論んでいるようだった。
キーランの考えを一瞬で見抜くと、アルフィが笑顔で告げた。
「分かりました。もしあたしたちに指名依頼をされた時には、今日の白金貨三十枚分を値引かせて頂きますね」
(さすがにアルフィだわ。これで指名依頼料をいくらにしても、白金貨三十枚分安くしたと言えばすむわね)
アルフィの顔を見つめながら、ティアは納得した。極端な話だが、指名依頼料を白金貨五百枚としても、実は五百三十枚のところを三十枚分値引いたと言えば良いのだ。アルフィはキーランに貸しを作られることを上手くかわしたのだった。
「では、こちらのギルド証で決済をお願いします。何かあればいつでも指名依頼してください。出来る限りご協力させていただきますわ」
にこやかにそう告げると、アルフィがプラチナ製のギルド証をキーランに渡した。
「その節はよろしくお願いします。では、決済して参りますので少々お待ちください」
そう告げると、キーランはアルフィのギルド証を預かってカウンターに向かった。
アルフィがダグラスに視線を向けると、ダグラスも満足そうに頷いていた。
四人は魔道笛の入ったペンダントを首にかけて、ミレーネ商会本店を後にした。ユーストベルク北門に向かって歩きながら、アンジェが訊ねた。
「アルフィさん、<漆黒の翼>にはランディさんっていう盗賊クラスAもいるんですよね? ランディさんには魔道笛を買わなくて良かったんですか?」
「あ、そんな奴いたわね。忘れてたわ」
笑いながら告げたアルフィの言葉に、アンジェは驚いた表情を浮かべた。
「アンジェ、ランディは<漆黒の翼>のメンバーというよりも、奴隷なのよ」
「ど、奴隷って……?」
楽しそうに言ったティアの言葉に、アンジェが眼を丸くした。
「あいつ、犯罪者なの」
「え……? 犯罪者? 何をしたんですか?」
「強姦未遂」
アンジェの質問に笑いながら、ティアが短く答えた。
「ご、強姦未遂……?」
「そう、私を強姦しようとしたの。それでギルドに突き出す代わりに、アルフィが<漆黒の翼>でこき使おうと決めたのよ」
面白そうに話すティアを、驚きのあまり金色の瞳を見開きながらアンジェが見つめた。
「アンジェもあいつに会ったら、強姦されないように気をつけなさい」
アルフィも笑いながらアンジェに告げた。
「は、はい……」
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