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第五章 四人の絆
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「ところで、ダグラス。あんたを呼び戻した理由は、アンジェリーナの依頼を受けるためよ」
真面目な表情でそう告げると、アルフィは黒曜石の瞳を真っ直ぐにダグラスに向けた。
「アンジェリーナの依頼?」
「そう。アンジェリーナ、ダグラスに説明してあげて」
「はい……」
名残惜しそうにティアから唇を離すと、アンジェが官能に蕩け始めた金色の瞳でダグラスを見上げた。
「ティア……」
今回の依頼の詳細を話すためには、アンジェがエルフであることを伝える必要があった。その決心をつけられずに、アンジェがティアの顔を見つめた。
「大丈夫よ、アンジェ。ダグラスは信用できるわ。<漆黒の翼>にはあと一人、ランディという盗賊クラスAがいるけど、彼には絶対に話してはダメよ。私とアルフィ、ダグラスの三人だけを信じて……」
金碧異色の瞳を真っ直ぐにアンジェに向けると、ティアが真剣な口調で告げた。
「分かりました。ダグラスさん、あたしは初対面のあなたにティアとアルフィさんと同じ信頼を預けます。これから話すことは、絶対に他言しないでください」
「分かった。『堅盾』の名に賭けて誓うよ」
思いの外に真剣なアンジェの言葉に驚き、ダグラスは表情を引き締めながら言った。
「あたしとティアはお互いの秘密をすべて話し合いました。ティアの秘密ほどではありませんが、あたしもそれなりの秘密を持っています」
「アンジェ、あなたの秘密の方がずっと重大でしょう?」
アンジェの控えめな言葉に、ティアが笑みを浮かべながら告げた。
「ティアの秘密って、第一皇女のことだろう? それよりも重大な秘密って……」
ユピテル皇国の第一皇女であることよりも重大な秘密ということに、ダグラスは濃茶色の瞳を大きく見開いて驚いた。
「あたし、エルフなんです」
「エルフって……? あの神話に出てくるエルフ……?」
「はい。そのエルフです」
呆然と呟いたダグラスの言葉に、アンジェは笑いながら告げた。
「実在……したのか?」
「はい。ここに実在しています」
ダグラスの言葉を聞いて、可笑しそうにアンジェが笑った。世間一般的な認識では、エルフはユピテル皇国建国神話に登場する伝説の種族なのだ。
「こう見えても、あたしはダグラスさんより年上だと思います」
「分からないわよ。ダグラスって老けてるから、あんたより年上かも知れないわよ」
「そうね。歳をサバ読んでいるかも知れないしね」
アルフィとティアが楽しそうにアンジェの言葉を否定した。
「え? そうなんですか? ダグラスさんもエルフなんですか?」
アンジェの言葉に、アルフィとティアが吹き出した。
「こんないかついエルフがいるわけないでしょ?」
「アンジェ、最高の冗談ね、それ」
「おい、俺は老けてなんていないし、エルフでもないぞ」
玩具ように扱われて、ダグラスが憮然として告げた。
「ご、ごめんなさい。でも、ダグラスさんっていくつなんですか?」
慌てて謝りながら、アンジェがダグラスに向かって訊ねた。
「俺は二十八だ。さすがにアンジェリーナよりは年上だと思うけどな」
「そうですか。やっぱり、あたしの方が少し上ですね」
ホッとしたような表情を浮かべると、アンジェがニッコリと微笑んだ。怪訝な表情を浮かべてその様子を見つめると、ダグラスがアンジェに訊ねた。
「アンジェリーナ、あんたいくつなんだ?」
「女性に面と向かって年齢を聞くなんて、ダグラスって常識ないのね」
ティアが楽しそうに笑いながら告げた。
「構いませんよ、ティア。ダグラスさん、あたし今、百六十五歳なんです」
ダグラスをからかっているティアを軽く睨むと、アンジェが真面目な表情を浮かべながら告げた。
「え……? 百六十五……?」
「はい。エルフの中ではこれでも若い方なんです。あたしの母は千四百歳を超えてますから……」
「せ、千四百歳……」
ダグラスだけではなく、アルフィとティアも驚愕の表情を浮かべてアンジェを見つめた。
「あ、ティアにも言ってませんでしたっけ? 一応、母はエルフの里では最長老なんです。若作りしているから、一見するとアルフィさんより少し上くらいにしか見えませんけど……」
そう告げると、アンジェが楽しそうに笑った。アンジェの母がエルフの女王だと聞いていたティアでさえ、千四百年以上も生きているということに驚いた。ユピテル皇国の歴史が千四百年なので、それと同じくらい長命だということだった。
「アンジェリーナ、エルフの寿命って七百年から九百年って言ってたわよね。千四百歳ってどういうこと?」
黒曜石の瞳に真剣な光を浮かべながら、アルフィが訊ねた。
「はい。ティアには話したんですが、あたしも母も普通のエルフじゃないんです。エルフを率いる種族、ハイエルフなんです」
「ハイエルフ……」
さすがのアルフィも言葉を失った。単なるエルフでさえ、伝説の存在と言われているのだ。ハイエルフが実在するなど、想像すらしていなかった。
「ついでに言うと、母はエルフの女王アストレアです。あたし、これでも一応、ティアと同じように王族なんです」
さらりと告げたアンジェの言葉に、アルフィとダグラスは固まったように動きを止めた。目の前にいる美少女が、神にも等しい種族であることを知り、衝撃のあまり言葉が出てこなかったのだ。
「アンジェ、ありがとう」
そう言うと、ティアはアンジェの体を抱きしめた。すべての秘密をアルフィとダグラスに話してくれたということは、それだけの信頼を二人に預けたという意味に他ならなかった。そのことに、ティアは深く感謝した。
「いえ。ティアが信頼している人ならば、あたしにとっても信頼できる人です。ティアとあたしは一心同体ですから」
「うん、アンジェ。嬉しい……」
愛しくて仕方ないように、ティアはアンジェの体を抱きしめた。その愛情に応えるように、アンジェも両手をティアの背中に廻して力を込めた。
「ところで、アンジェリーナの依頼って何だ?」
衝撃から立ち直ったダグラスが、ゴホンと咳払いをしてから訊ねた。アンジェは名残惜しそうにティアとの抱擁を解くと、ダグラスの方を振り向いて答えた。
「エルフの里が悪魔に襲われて、若いエルフ四人が拉致されました。そのうちの一人はあたしの親友なんです。あたしの依頼は、その四人の救出と悪魔の討伐です」
金色の瞳で真っ直ぐにダグラスを見つめると、アンジェが言った。
「悪魔だと……? エルフだけでなく、悪魔まで実在するのか?」
ティアたちがケラヴノス大聖堂で悪魔三柱と戦ったことを知らないダグラスは、驚いたように訊ねた。
「ダグラス、悪魔は実在するわ。あんたたちと別れた後、あたしとティアは実際に悪魔と出逢ったの。そして、スカーレット様が悪魔公爵を、ティアが悪魔伯爵二柱と戦って倒したわ」
アルフィは事実をダグラスに伝えた。実際に悪魔と戦ったのはスカーレットとティアであり、アルフィ自身は何の役にも立たなかったのだ。
「何だと! 本当か!」
驚愕のあまり、ダグラスが叫んだ。神話に出てくる悪魔の強さは、S級魔獣を遥かに超えているのだ。それが事実であれば、アルフィたちがどれほどの危険に遭ったのかをダグラスは気づいたのだ。
「本当よ。だから、今回の悪魔討伐にはあんたの力が絶対に必要なの。あたしとティアだけでは多分不可能だわ。アンジェの話だと、今回は悪魔侯爵が相手らしいしね。前回の悪魔伯爵《デーモンアール》よりも格上の相手よ」
「ダグラス、私は一度悪魔伯爵に敗れて虜囚となったわ。そこで悪魔公爵アルヴィスに酷い辱めを受けたの。スカーレット姉さんがアルヴィスを倒してくれたおかげで、悪魔伯爵たちともう一度戦い、辛うじて勝てたわ。今回の悪魔侯爵はアルフィの言うとおり、悪魔伯爵よりも格上よ。たぶん、命がけの戦いになるわ。あなたの力を貸して欲しいの」
「ティア、そんな……」
ティアの話を聞いたアンジェが、蒼白になった。そこまでの相手だとは想像もしていなかったのだ。
「ティア、やっぱりあたし、依頼を取り消します。ティアをそれほどの危険な眼に遭わせることになるなんて、考えてもいませんでした。ごめんなさい」
アンジェがティアに縋り付くように抱きついた。その金色の瞳には後悔と不安で涙が溢れていた。
「アンジェ、私はあなたの剣になると言ったはずよ。あなたの親友が拉致され、あなたの故郷が襲われたのならば、私がその脅威を命に賭けても取り除くわ。仮にアルフィとダグラスが協力してくれなくても、私は一人でもあなたの力になる」
金碧異彩の瞳から強い意志の光を放ちながら、ティアはアンジェの体を抱きしめた。その様子を見ていたダグラスがティアに向かって告げた。
「ティア、ずいぶんと舐めた口を聞くようになったな。いつ、俺がお前に協力しないと言った? お前を護るのが盾士である俺の役目だ。忘れるな」
ニヤリと笑いながら、ダグラスが不敵な表情でティアに告げた。
「まったくね。『氷麗姫』も舐められたものだわ。たとえ相手があたしの数倍の魔力を持っていても、大事なあんたを見殺しに出来るはずないでしょう? アンジェリーナも同じよ。あんたはすでにあたしたちの大切な仲間なんだから、変な遠慮なんてしないでよね」
豊かな胸を持ち上げるように腕を組むと、アルフィもニッコリと笑いながら告げた。
「ダグラス、アルフィ、ありがとう。頼りにしているわ」
ティアがアンジェの体を離し、その腰に手を廻しながら告げた。
「アルフィさん、ダグラスさん、ありがとうございます。それから、ティア。何かあれば、あたしが絶対にあなたを護ります。これでも一応、古代エルフの障壁魔法を使えます。天龍のブレスも完全に防ぐと言われている障壁なので、悪魔侯爵の攻撃くらいは跳ね飛ばしちゃいます」
自信を込めてそう告げると、アンジェはティアたちの顔を見渡して笑顔を浮かべた。
「頼もしいわね。あたしのスノープリンセスとどっちが強力か試してみようか?」
「はい。負けませんよ」
アルフィとアンジェがお互いの顔を見つめて笑い合った。二人の様子を見つめながら、ティアは心に誓った。
(絶対にアンジェもアルフィも、そしてダグラスも殺させはしないわ。『紫音』の名に賭けて、三人を必ず護ってみせる)
内心で壮絶な決意をすると、ティアは優しい表情を浮かべてアンジェに笑いかけた。
真面目な表情でそう告げると、アルフィは黒曜石の瞳を真っ直ぐにダグラスに向けた。
「アンジェリーナの依頼?」
「そう。アンジェリーナ、ダグラスに説明してあげて」
「はい……」
名残惜しそうにティアから唇を離すと、アンジェが官能に蕩け始めた金色の瞳でダグラスを見上げた。
「ティア……」
今回の依頼の詳細を話すためには、アンジェがエルフであることを伝える必要があった。その決心をつけられずに、アンジェがティアの顔を見つめた。
「大丈夫よ、アンジェ。ダグラスは信用できるわ。<漆黒の翼>にはあと一人、ランディという盗賊クラスAがいるけど、彼には絶対に話してはダメよ。私とアルフィ、ダグラスの三人だけを信じて……」
金碧異色の瞳を真っ直ぐにアンジェに向けると、ティアが真剣な口調で告げた。
「分かりました。ダグラスさん、あたしは初対面のあなたにティアとアルフィさんと同じ信頼を預けます。これから話すことは、絶対に他言しないでください」
「分かった。『堅盾』の名に賭けて誓うよ」
思いの外に真剣なアンジェの言葉に驚き、ダグラスは表情を引き締めながら言った。
「あたしとティアはお互いの秘密をすべて話し合いました。ティアの秘密ほどではありませんが、あたしもそれなりの秘密を持っています」
「アンジェ、あなたの秘密の方がずっと重大でしょう?」
アンジェの控えめな言葉に、ティアが笑みを浮かべながら告げた。
「ティアの秘密って、第一皇女のことだろう? それよりも重大な秘密って……」
ユピテル皇国の第一皇女であることよりも重大な秘密ということに、ダグラスは濃茶色の瞳を大きく見開いて驚いた。
「あたし、エルフなんです」
「エルフって……? あの神話に出てくるエルフ……?」
「はい。そのエルフです」
呆然と呟いたダグラスの言葉に、アンジェは笑いながら告げた。
「実在……したのか?」
「はい。ここに実在しています」
ダグラスの言葉を聞いて、可笑しそうにアンジェが笑った。世間一般的な認識では、エルフはユピテル皇国建国神話に登場する伝説の種族なのだ。
「こう見えても、あたしはダグラスさんより年上だと思います」
「分からないわよ。ダグラスって老けてるから、あんたより年上かも知れないわよ」
「そうね。歳をサバ読んでいるかも知れないしね」
アルフィとティアが楽しそうにアンジェの言葉を否定した。
「え? そうなんですか? ダグラスさんもエルフなんですか?」
アンジェの言葉に、アルフィとティアが吹き出した。
「こんないかついエルフがいるわけないでしょ?」
「アンジェ、最高の冗談ね、それ」
「おい、俺は老けてなんていないし、エルフでもないぞ」
玩具ように扱われて、ダグラスが憮然として告げた。
「ご、ごめんなさい。でも、ダグラスさんっていくつなんですか?」
慌てて謝りながら、アンジェがダグラスに向かって訊ねた。
「俺は二十八だ。さすがにアンジェリーナよりは年上だと思うけどな」
「そうですか。やっぱり、あたしの方が少し上ですね」
ホッとしたような表情を浮かべると、アンジェがニッコリと微笑んだ。怪訝な表情を浮かべてその様子を見つめると、ダグラスがアンジェに訊ねた。
「アンジェリーナ、あんたいくつなんだ?」
「女性に面と向かって年齢を聞くなんて、ダグラスって常識ないのね」
ティアが楽しそうに笑いながら告げた。
「構いませんよ、ティア。ダグラスさん、あたし今、百六十五歳なんです」
ダグラスをからかっているティアを軽く睨むと、アンジェが真面目な表情を浮かべながら告げた。
「え……? 百六十五……?」
「はい。エルフの中ではこれでも若い方なんです。あたしの母は千四百歳を超えてますから……」
「せ、千四百歳……」
ダグラスだけではなく、アルフィとティアも驚愕の表情を浮かべてアンジェを見つめた。
「あ、ティアにも言ってませんでしたっけ? 一応、母はエルフの里では最長老なんです。若作りしているから、一見するとアルフィさんより少し上くらいにしか見えませんけど……」
そう告げると、アンジェが楽しそうに笑った。アンジェの母がエルフの女王だと聞いていたティアでさえ、千四百年以上も生きているということに驚いた。ユピテル皇国の歴史が千四百年なので、それと同じくらい長命だということだった。
「アンジェリーナ、エルフの寿命って七百年から九百年って言ってたわよね。千四百歳ってどういうこと?」
黒曜石の瞳に真剣な光を浮かべながら、アルフィが訊ねた。
「はい。ティアには話したんですが、あたしも母も普通のエルフじゃないんです。エルフを率いる種族、ハイエルフなんです」
「ハイエルフ……」
さすがのアルフィも言葉を失った。単なるエルフでさえ、伝説の存在と言われているのだ。ハイエルフが実在するなど、想像すらしていなかった。
「ついでに言うと、母はエルフの女王アストレアです。あたし、これでも一応、ティアと同じように王族なんです」
さらりと告げたアンジェの言葉に、アルフィとダグラスは固まったように動きを止めた。目の前にいる美少女が、神にも等しい種族であることを知り、衝撃のあまり言葉が出てこなかったのだ。
「アンジェ、ありがとう」
そう言うと、ティアはアンジェの体を抱きしめた。すべての秘密をアルフィとダグラスに話してくれたということは、それだけの信頼を二人に預けたという意味に他ならなかった。そのことに、ティアは深く感謝した。
「いえ。ティアが信頼している人ならば、あたしにとっても信頼できる人です。ティアとあたしは一心同体ですから」
「うん、アンジェ。嬉しい……」
愛しくて仕方ないように、ティアはアンジェの体を抱きしめた。その愛情に応えるように、アンジェも両手をティアの背中に廻して力を込めた。
「ところで、アンジェリーナの依頼って何だ?」
衝撃から立ち直ったダグラスが、ゴホンと咳払いをしてから訊ねた。アンジェは名残惜しそうにティアとの抱擁を解くと、ダグラスの方を振り向いて答えた。
「エルフの里が悪魔に襲われて、若いエルフ四人が拉致されました。そのうちの一人はあたしの親友なんです。あたしの依頼は、その四人の救出と悪魔の討伐です」
金色の瞳で真っ直ぐにダグラスを見つめると、アンジェが言った。
「悪魔だと……? エルフだけでなく、悪魔まで実在するのか?」
ティアたちがケラヴノス大聖堂で悪魔三柱と戦ったことを知らないダグラスは、驚いたように訊ねた。
「ダグラス、悪魔は実在するわ。あんたたちと別れた後、あたしとティアは実際に悪魔と出逢ったの。そして、スカーレット様が悪魔公爵を、ティアが悪魔伯爵二柱と戦って倒したわ」
アルフィは事実をダグラスに伝えた。実際に悪魔と戦ったのはスカーレットとティアであり、アルフィ自身は何の役にも立たなかったのだ。
「何だと! 本当か!」
驚愕のあまり、ダグラスが叫んだ。神話に出てくる悪魔の強さは、S級魔獣を遥かに超えているのだ。それが事実であれば、アルフィたちがどれほどの危険に遭ったのかをダグラスは気づいたのだ。
「本当よ。だから、今回の悪魔討伐にはあんたの力が絶対に必要なの。あたしとティアだけでは多分不可能だわ。アンジェの話だと、今回は悪魔侯爵が相手らしいしね。前回の悪魔伯爵《デーモンアール》よりも格上の相手よ」
「ダグラス、私は一度悪魔伯爵に敗れて虜囚となったわ。そこで悪魔公爵アルヴィスに酷い辱めを受けたの。スカーレット姉さんがアルヴィスを倒してくれたおかげで、悪魔伯爵たちともう一度戦い、辛うじて勝てたわ。今回の悪魔侯爵はアルフィの言うとおり、悪魔伯爵よりも格上よ。たぶん、命がけの戦いになるわ。あなたの力を貸して欲しいの」
「ティア、そんな……」
ティアの話を聞いたアンジェが、蒼白になった。そこまでの相手だとは想像もしていなかったのだ。
「ティア、やっぱりあたし、依頼を取り消します。ティアをそれほどの危険な眼に遭わせることになるなんて、考えてもいませんでした。ごめんなさい」
アンジェがティアに縋り付くように抱きついた。その金色の瞳には後悔と不安で涙が溢れていた。
「アンジェ、私はあなたの剣になると言ったはずよ。あなたの親友が拉致され、あなたの故郷が襲われたのならば、私がその脅威を命に賭けても取り除くわ。仮にアルフィとダグラスが協力してくれなくても、私は一人でもあなたの力になる」
金碧異彩の瞳から強い意志の光を放ちながら、ティアはアンジェの体を抱きしめた。その様子を見ていたダグラスがティアに向かって告げた。
「ティア、ずいぶんと舐めた口を聞くようになったな。いつ、俺がお前に協力しないと言った? お前を護るのが盾士である俺の役目だ。忘れるな」
ニヤリと笑いながら、ダグラスが不敵な表情でティアに告げた。
「まったくね。『氷麗姫』も舐められたものだわ。たとえ相手があたしの数倍の魔力を持っていても、大事なあんたを見殺しに出来るはずないでしょう? アンジェリーナも同じよ。あんたはすでにあたしたちの大切な仲間なんだから、変な遠慮なんてしないでよね」
豊かな胸を持ち上げるように腕を組むと、アルフィもニッコリと笑いながら告げた。
「ダグラス、アルフィ、ありがとう。頼りにしているわ」
ティアがアンジェの体を離し、その腰に手を廻しながら告げた。
「アルフィさん、ダグラスさん、ありがとうございます。それから、ティア。何かあれば、あたしが絶対にあなたを護ります。これでも一応、古代エルフの障壁魔法を使えます。天龍のブレスも完全に防ぐと言われている障壁なので、悪魔侯爵の攻撃くらいは跳ね飛ばしちゃいます」
自信を込めてそう告げると、アンジェはティアたちの顔を見渡して笑顔を浮かべた。
「頼もしいわね。あたしのスノープリンセスとどっちが強力か試してみようか?」
「はい。負けませんよ」
アルフィとアンジェがお互いの顔を見つめて笑い合った。二人の様子を見つめながら、ティアは心に誓った。
(絶対にアンジェもアルフィも、そしてダグラスも殺させはしないわ。『紫音』の名に賭けて、三人を必ず護ってみせる)
内心で壮絶な決意をすると、ティアは優しい表情を浮かべてアンジェに笑いかけた。
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