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第三章 妖精の資質

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「ユーストベルクに着いたら、すぐにイーサンに連絡を取ってアンジェリーナを昇格してもらうわ」
「イーサンさんって?」
 初めて聞く名前に、アンジェがアルフィに訊ねた。

「冒険者ギルドのグランド・ギルドマスターよ。皇都本部のギルマスでもあるわ」
「ユーストベルクのギルマスではだめなの? イーサンさんに手紙を出しても、往復で二十日以上かかるわよ」
 昇格を急ぐのであれば、ユーストベルクのギルマスに昇格申請をした方が早いと思い、ティアが訊いた。

「あたし、ユーストベルクのギルマスって面識がないのよね。それに、ギルド支部には皇都本部と直接話が出来る魔道通信機があるから、イーサンが本部にいればそれで会話できるわよ」
「魔道通信機?」
「ティアもクラスSなんだから、覚えておきなさい。各ギルド支部には皇都本部とだけ繋がっていて遠距離でも話が出来るのよ。これを使えるのはクラスS以上の冒険者だけだけどね」

 魔道通信機の存在を初めて知ったティアは、興味を持った。それがあれば、皇都本部限定にしろユピテル皇国中のギルドと話が出来る。緊急連絡が必要な場合、これほど便利なものはないとティアは考えた。

「アンジェリーナを術士クラスSに昇格させてから、テッドに移籍を持ちかけた方が話が早いからね」
 そう告げると、アルフィは荷物から毛布を取り出して床に敷き始めた。今晩もアンジェを可愛がるつもりでいることが、ティアたちにも伝わった。

「ま、待ってください、アルフィさん。あたし、二人に大事な相談があるんです」
 アルフィの考えを悟ると、慌ててアンジェが告げた。
「相談?」
「はい。ユーストベルクのギルドに着いたら依頼を出そうと思っていたんですが、正直なところどうしたらいいか分からなくて……」
 金色の瞳に困惑を浮かべながら、アンジェがアルフィとティアの顔を交互に見つめた。

「アンジェ、私たちで出来ることなら何でもするから言ってみて」
 ティアが横に座っているアンジェの手を握りしめながら告げた。
「はい、ありがとう、ティア。実は先日、エルフの里にいる母から手紙が来たんです。それによると、里が襲われて数名のエルフが拉致されたそうです」
「お母様から手紙……」
 アンジェの母がエルフの女王だと聞いていたティアは、その言葉に驚いた。エルフを率いる女王が里の外にいる娘に危機を知らせると言うことは、エルフだけでは解決できない重大事だと判断したという意味だった。

「はい。攫われたのはあたしの親友オリヴィアを含めて四人です。いずれもあたしと同じ年くらいの若いエルフの女性です」
「犯人は分かっているの?」
 黒曜石の瞳に真剣な光を浮かべながら、アルフィが訊ねた。

「エルフの里を襲い、オリヴィアたちを攫ったのは、悪魔だそうです」
「悪魔……!」
 思わず驚きの声を上げて、ティアはアルフィと顔を見合わせた。ケラヴノス大聖堂での悪魔との戦いが、ティアたちの脳裏に蘇ってきた。

「その悪魔の爵位は?」
「侯爵だそうです。悪魔と聞いて信じてくれるんですか?」
 アルフィの問いに答えると、アンジェは疑問をぶつけた。エルフと同様に、悪魔も建国神話にしか登場しない伝説の種族だという認識が一般的だったからだ。
「信じるも何も、あたしたちは先日悪魔と戦ったわよ。悪魔が実在することぐらい、身をもって知っているわ」

「悪魔と戦った……?」
 アルフィの言葉に、アンジェが愕然として目を見開いた。まさか、実際に悪魔と戦った者がいたなど予想すらしていなかったのだ。それも、目の前にいる若い女性がその人であることは、アンジェの想像を遥かに超えていた。

「あの時は、悪魔公爵デーモンデューク一柱と悪魔伯爵デーモンアール二柱だったわ。今回の悪魔侯爵デーモンマークゥィスは一柱だけ?」
「は、はい……。里を襲ったのは悪魔侯爵一柱だけだそうです。他に仲間がいるかどうかまでは不明ですが……」

「私、アンジェの力になりたい。アルフィ、アンジェの依頼を受けて」
 金碧異彩ヘテロクロミアの瞳を真っ直ぐにアルフィに向けると、ティアが言った。
「今のままでは受けられないわ。少なくても、ダグラスと合流してからじゃないと危険すぎる」
「アルフィ……」

 ティアにもアルフィの懸念は十分に伝わった。ケラヴノス大聖堂で悪魔公爵を倒したのはスカーレットであり、ティアは手も足も出なかったのだ。その部下である悪魔伯爵二柱は何とか倒したものの、一度は敗北を喫して虜囚とされたのだ。

「ユーストベルクに着いたら、ダグラスと連絡を取りましょう。これも魔道通信機でウェストヴォルドのギルド支部に連絡すれば、遅くても十日くらいでダグラスはユーストベルクに来られるわ」
「分かった。アンジェ、少し時間がかかるけど、それでいい?」
「はい。ありがとうございます。さすがに<夜想曲>では悪魔に対抗できないと思っていたんです。アルフィさん、ティア、本当にありがとうございます」
 笑顔でそう告げると、アンジェは二人に対して頭を下げた。

「でも、アンジェリーナ。依頼料はきちんと払ってもらうわよ」
「え……あ、はい。いくらでしょうか?」
 悪魔討伐となれば、間違いなくS級依頼のはずだった。アンジェは恐る恐るアルフィに報酬の金額を訊ねた。
「アルフィ……」
 アルフィが口元に浮かべた笑みを見ると、ティアは彼女が言う依頼料が何だか分かってしまった。呆れたように、アルフィの顔を見つめて笑いを浮かべた。

「白金貨三百枚ね」
「さ、三百……」
 アルフィの告げた金額に、アンジェは言葉を失った。
「それが払えないなら、体で払いなさい」
「え……。それって……」
 その言葉で、アルフィの言う依頼料が何を指しているのか気づき、アンジェは真っ赤になって俯いた。

「それじゃ、アンジェリーナ、服を脱ぎなさい。早速、依頼料を払ってもらうわ」
 アルフィは立ち上がると、ニッコリと笑みを浮かべながらアンジェリーナを見つめた。
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