なんとなく

荒俣凡三郎

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8月

子置き旅行

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 土が乾いていた。おそらくこの土地は最後の時を迎えるだろう。
 私は膝を屈めて、靴の脇に転がる小さな石ころを手に取った。紅く日に焼けたような色をしているのは、おそらく粘り気の強い粘土質の土だからだ。見れば至る所で、小さな緑の芽がどこかしこから頭を出しているのが見える。
 私は後ろを振り返り、小さく目配せをした。その先にいたのは、私の家族の一人であり、第三十五子である男子であった。

「お前はここへ残り、この土地を見事栄えさせて見せなさい。オアシスを作り、人を呼び、そして草花を植え、文明を形成するーーそれがおまえの使命だ」
 男子は「御意」と右の拳を左の掌で受け止める構えで小さく会釈した。見渡す先に人はいない。けれど、足下には小さな草花が新芽を芽吹かせている。辺り一面紅い色をしているが、死んではいないのかもしれない。それにしてもそんな辺鄙なところの再生を任されたこの男はひどく不幸なように思えた。

 男はすぐに作業を開始し、すぐに自分が暮らす程度にキャンプを用意していた。たくましいことは私にとって希望だった。きっと意味がある。そこでまた新たな形を作れるのであれば、置いていくことに罪悪感は感じずにすむ。私は旅先でひとり、またひとりとこうして家族をおいていくが、別に彼らが嫌いだったわけではない。家族となった以上、彼らはそれ以上でもそれ以下でもない、特別な存在となったのだ。
 そんな家族をおいていくのだから私はきっとさぞかしつらいのかもしれない。けれど私にはどうすることもできなかった。増え続ける家族よりも、私は旅を優先する。風がある限り、私は旅をし続ける。そのために家族を置いていくのだ。そうしなければ、旅ができない。

 旅する先で家族を置いていった。そして出会うたびに子供は増えた。そしてまた置いていく。それを永遠と繰り返す。みんな、置いていけば私はそれだけ軽くなり、空を自由に旅をする。今日もまた、大きな空を歩き出す。
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