なんとなく

荒俣凡三郎

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8月

感情粒子

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 人間が自然に笑わなくなって百年の時が過ぎた。かつて人間は自然に喜怒哀楽を自分の力で表現することができていたそうだが、現在はすべて『感情粒子』によってコントロールされている。

 人間の感情はすべて人工的な粒子にパッケージ化され、感じたい感情に合わせて、その粒子を頭の頂点から噴射するように蒔くことで感情を感じることができるようになっている。

 ある男が電気屋さんにきていた。家電を購入したようだが、店員の計らいによって価格がずいぶん安くなったようで、頭から幸せの粒子を噴射させている。噴射される量は十段階で区別され、男の場合七の出力で幸せの粒子が男を包んでいる。

 だが、それからすぐに別に店員が安くしたわけではないことを男は知る。家電は実は定価で、安くされてなく、定価通り購入していたのだった。

 男の頭頂からはさらに増量された幸せの粒子が空気中に飛び散った。

「こんなに安くしてもらえるなんて、幸せだなぁ」

 感情粒子が効果を発揮して男は大いに満足そうにうなずくのだった。

「定価だったら痛い出費だったな。安くしてもらえて本当によかった」

 男はうんうん、と頷いている。

 電気屋さんのカウンターの上、卓上カレンダーの数字は2020となっていた。
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