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優しい小川
しおりを挟むあなたは死に場所を求め
ある河原に辿り着きました。
小さな小さな川でした。
優しい流れの川でした。
あなたは靴を揃えて
白い封筒を添えて
少し震えながら
川の中に入りました。
そこで、命を
終わりにしようと思ったのです。
流れが早く深い場所を求めて
あなたは川の中心へ向かい
1歩、1歩歩んでいきます。
この人生
いいことなんて
何一つなかった
そんな事を思いました。
水の中は1歩がとても重かった。
まるで、命のようでした。
死のう
死にたい
苦しい
そんな気持ちばかりが
心の中にあったのに
1歩川の中で歩む度に
悲しみが
苦しみが
怨みが
辛みが
恐怖が
哀愁が
寂しさが
怒りが
憤りが
悔しみが
憎しみが
後悔が1つ、1つ
ゆっくりと
消えていきました。
ふと、見ると
川がキラキラと
輝いています。
たくさんの石ころでした。
歪だけど角のない丸い石が
河底にはたくさんありました。
あなたは思わず
川の中の石を1つ手にとりました。
拾い上げた瞬間のことです。
悲しみの代わりに
「愉しい」が心の隙間にぴったりと
納まったような気がしました。
2つ、3つ、あなたは愉しくなって
たくさんの石ころを
せっせと拾い集めました。
すると、どうでしょう。
苦しみは、安らぎに
怨みは、喜びに
辛みは楽に
恐怖は愛に
哀愁は笑いに
寂しさは愛しさに
怒りは落ち着きに
憤りは糧に
諦めは粘りに
悔しみは頑張りに
憎しみは安楽に
後悔は希望に
真っ暗だったあなたの心は
彩られていったのです。
「生きたい」
あなたはやっと本音を
ぽつっと口にしました。
あと一歩踏み出せば
流れの早い深みです。
じっとひととき
その川の流れを見つめると
あなたはくるんと
体の向きを変えました。
川辺を目指して歩く最中
やっぱり水の中での1歩は重かった。
まるで今まで
捨てようとしていた命の様でした。
やっと河原につくと
あなたは足を乾かして
ゆっくりと靴を履き
白い封筒を川に流すと
スキップで帰っていきました。
小さな小さな川がありました。
優しい優しい川でした。
人間、という名の川でした。
友達、という名の川でした。
家族、という名の川でした。
恋人、という名の川でした。
優しい優しい川の中で
あなたが書いた
「死にたい」「ごめんなさい」の
お手紙は
すっと溶けて消えたのでした。
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