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第5章波乱と激動の王都観光

281・封印の鎖

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タツキは民家の屋根の上を飛びながら、男を追いかけていた。

「逃げるな!」

そうタツキが言うと男が立ち止まる。

「ワタシはあなたに関わっている暇はないのですがね」

そう男が笑った。

「お主は何者じゃ?」
「ワタシは『小説家』という者です」
「ここ最近妾やセツナを監視していたのはお前じゃな?」
「まぁ監視していたのはワタシだけではありませんがね」
「目的はなんじゃ?」
「美しい、ああ、美しい悲劇を作り出すためですよ。
ハッピーエンドなどくそくらえです。
悲劇こそが何よりも美しいものです」
「そうか、その言動で分かったが、
お主は悲涙神ティアの『端末』じゃな。
確か天上界に住む神の1人で、
天空神スカイの右腕と呼ばれていると聞くが」

『端末』というのは神の分身のことだ。
時に神は人間に生まれ変わることがある。
それをタツキは神の『端末』と呼んでいる。

「おや? ワタシを知っているのですか?」
「ああ、知っておるよ。
主に悪名だけはな。
自分で悲劇を作り出すためなら、
人を不幸にすることも、いとわない。
歴史に残る悲劇はお主が全て関わっていると聞いたことがある」
「そうです。ワタシは美しい悲劇が好きなのです。
ですからあなたが邪魔なんですよね。
いつもいつも彗星のように脈絡も無く現れては、
強引に悲劇をハッピーエンドに変えてしまう。
しかも唐突にです。
良いですか。物語には伏線という物が必ず不可欠です。
だというのにあなたの場合突然現れて悪を全部なぎ倒してしまう。
そのせいで何度物語の結末が狂ったことか。
ワタシはあなたのことを絶対に許しませんよ」

小説家は瞳は黒い布で隠されているが、タツキを思いっきり睨み付けた。

「現実を物語だと言うな。
この世はお前のためにあるのではない。
人はお前の作る悲劇を彩るための道具ではないのじゃ」
「言いますね。神のくせに人間に肩入れするとは、
あなたは狂っています」
「狂っているのはお主じゃろう。
長く生きすぎたせいで、おかしくなったのか?
いっそ悲劇ではなく喜劇を作ってはどうじゃ?
そうすればみんな喜ぶじゃろう」
「そんなことはとっくの昔にやりましたよ。
でも人間というのはみんな与えれば与える程に、
感謝しなくなるんです。
むしろもっとよこせ。与えることは当然だ。
そんな奴らばっかりでしたよ」
「それは一体いつの話じゃ?」
「さぁ1万年ほど前のことでしょうか」
「お主は確かに人間の態度に傷ついたのかもしれない。
だが今の人間と昔の人間は違う。
人間は確かに神に比べれば脆弱で愚かじゃ、
だが人間は成長することが出来る。
確かに妾はアトランティスがやった非道を知っておる。
じゃがそれはもう終わったことじゃ。
アトランティスの時代の人間と今の人間は違うのじゃ」
「へぇ言いますね。
ですがあなたはワタシを止められますかね」
「止めるだとまさかこの王都で悲劇を作り出す気か?」
「ええ、そうです。それはそれは素敵な悲劇を作り出します」
「具体的にどうするつもりじゃ?」
「まず王都は地図の上から消滅することでしょう。
そしてバーン王国は戦乱となるでしょう」
「戦乱? まさかクロノ聖王国とか!?
ならばお前をここで葬る!」
「葬られるのはあなたですよ」

そう言うと『小説家』は指をパチンと鳴らす。
その瞬間黒い鎖のような物が現れ、タツキを拘束する。

「こ、これは一体!?」
「事前に罠を張っていて正解でした。
この魔法は封印の鎖と言いましてね。
対象を闇の中に閉じ込め、身動き出来なくなる強力な魔法です」
「これは力が抜けていく…」
「この魔法はあなたの全能力を封印します。
あなたの馬鹿力も同様に封印します。
おそらく全力のあなたであったなら逃げられたでしょうが、
あなたはさっきワイバーンと戦う時にかなり消耗したはずです。
今のあなたならば捕らえることは簡単です」
「しまった。油断した…」

タツキの体が暗闇の中に消えていく。

「じゃが『端末』なのは妾も同じ。
すぐに本体と連絡して……!?」

その時タツキはおかしなことに気がついた。
本体と連絡が取れないのだ。
今この場にいるタツキは『端末』だ。
神の分身であるので、
本体であるタツキは分身がどこで何をしているのか分かっている。
当然連絡もいつでも取れるが、
何故かこの時は連絡が出来なかった。

「ワタシが何の対策もしていないと思いですか?
この鎖に取り付けられると、もう本体とは連絡が取れません。
そして本体には何事もなく生活しているように、
偽情報を送りつけます。
だから連絡を取ろうとしても無駄ですよ」
「何ということを…」
「そうそう、人間を暗闇の中に長時間閉じ込めると、
精神崩壊するそうです。
まぁあなたは半分神なので、
精神力は普通の人間より高いと思いますが、
一体闇の中で何時間耐えられるでしょうか?」
「くっ、携帯紋起動! セツナに電話せよ!」

タツキは携帯紋を使い、セツナに電話する。

「あれどうし――」
「セツナ、き――」

タツキが気を付けろと言いかけた瞬間、
そこで通話が途切れた。
何故ならタツキが闇の中に吸い込まれてしまったからだ。

「ああ、そうそう闇の中に吸い込まれたら、
もう携帯紋は使えませんよ。
ってもう遅かったですね」

そうして闇が消えると、
地面にカツンとテニスボール程の黒い玉のような物が落ちる。
そこには黒い玉には鎖に体をがんじがらめにされたタツキが映っていた。
それを『小説家』は笑みを浮かべて拾い上げた。

「さてと悲劇を作り出すためにもう一工夫しなければ」

そう言うと『小説家』は姿を消したのだった。





私セツナは客室に居た。
すると急にタツキから携帯紋を使って電話がかかってきた。

「あれどうし――」
「セツナ、き――」

そう言うとプツっと電話が切れた。

「あれどうしたんだろう」
「何かあったんじゃないの?
かけ直してみたら」
「そうですね」

そうしてかけ直してみたが応答が無かった。

「うーんかかりませんねぇ…。
さっき何を言いたかったんでしょう」
「きって言ったわよね」
「木がどうかしたのかな」
「フォルトゥーナ、心読めなかった?」
「タツキは神なのでそもそもわたくしでは心が読めませんよ。
それにそもそも携帯紋ごしでは心は読めません」
「そっか、うーんタツキに何かあったのかな」
「まぁあれだけ強いのだし、
放って置いても大丈夫じゃない?
タツキがピンチになる程の状況ってそうそう無いわよ」
「それもそうか」
「まぁきっとまたひょっこり顔を出してくるわよ」
「そうそうタツキだってたまには1人になりたいだろうしね。
それにもう何百年と生きてる人なんだし、
自分のことは自分で何とか出来るでしょ」
「そうだですね。まぁ放っておきましょうか」

しかし私は後でこの時タツキを、
すぐに探さなかったことを後で激しく後悔することになる。

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感想 2

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みんなの感想(2件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

鐘雪アスマ
2021.08.29 鐘雪アスマ

ありがとうございます

解除
花雨
2021.08.15 花雨

作品お気に入りしときますね(^^)これからゆっくり読ませてもらいます♪

鐘雪アスマ
2021.08.28 鐘雪アスマ

コメントありがとうございます

解除

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