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第5章波乱と激動の王都観光

266・王都へ

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「どういうことですか?」
「単刀直入に言うと、
私が今までやってきた妨害工作が嘘だと全部バレた」

そうだ。確か伯爵夫人は私が権力者に目をつけられないように、
妨害工作、つまり私が病気や怪我をしたと嘘をついて、
王都には行かなくてもいいようにしてくれた。

「バレたということは私が病気や怪我でも何でも無いということを、
向こうが知ってしまったということですか?」
「そうだ。お前を連れてくるようにと何度も言っているのに、
その日数を出来るだけ引き延ばそうと私は妨害工作をした。
しかしとうとう、
私の言ったことが全部嘘だとバレてしまった」
「それってかなりヤバイんじゃあ…」
「ああ、おかげで王は大激怒だ。
そのせいでフィールディング家は取り潰されるかもしれない」
「そんな…」
「まぁ今までの功績を考慮して、
お前達を素直に王都につれていけば、
取り潰しは無かったことにすると言われた。
で、どうする?」
「どうするって…言われても困りますよ」
「私個人としては絶対にお前達を差し出したくない。
王都に行けば政治利用されるのは目に見えている、
しかし私が領主で無くなれば、
私の次に領主になるのはぼんくらな奴かもしれん。
そうなると領民がかわいそうだ。
私は多くの領民を守るためにも決断しないといけないのだが、
今回ばかりは出来そうにない…。
だから決断するのはセツナ。お前に任せる」
「私にですか?」
「私のために王都に行くも、行かないのもお前が決めてくれ。
私にはお前達を見捨てることも出来ないが、
領民のことも守らないといけない。
どっちも大事だからこそ。
決断はお前達に任せる。
私では決断は無理だ」

普段は、バッサリいらない物は切り捨てる伯爵夫人でも、
今回の決断はまさに苦渋の選択なのだろう。
確かに私も同じ立場だったら選択出来ないだろう。

「うーん、確かにその気持ちは分かりますが、
でも王都ってどういう所なんですか」
「あまり良い噂は聞かないな。
王があまりにも政治に無関心で困っていると聞いている」
「王様って政治に無関心なんですか?」
「以前の王は国民のことを考えてくれる立派な王だったが、
王妃が死んでからは酒と道楽に逃避するようになってしまった」
「そうですか、みんなどうしたらいいと思います?」
「俺はどっちを選んでもセツナの意見に賛成だ」

そうガイが言った。

「私は反対よ。王都の貴族は本当にろくでもないからね。
行かない方がいいと思うわ」

エドナがそう言った。

「わたくしは行った方が良いと思います。
何故ならここで逃げても一生追いかけられると思うからです。
それに王都は商売を広げるには良い場所だと思います」

フォルトゥーナがそう言う。

「私はどっちでも良いのだ。
好きな方を選んだ方がいいのだ」

そうイオは言った。

「ふむ、妾は行く方に賛成じゃな。
お主が行かねば、伯爵家は取り潰されるかもしれん。
ここは今まで受けた恩を返すべき時なのではないか」

タツキがそう言った。

「アタシは個人的には反対だよ。
だって政治利用させることがもう決まっているようなものじゃん。
そういうのセツナは嫌なんでしょ?
だったら行くべきじゃないね」

そうリンが言った。
仲間達はそれぞれ自分の意見を言った。
どうするか…。
私がここで逃げれば伯爵夫人の立場は悪くなるどころの話ではない。
でも王都に行ったら、権力者に利用されて、軟禁コースだ。
それだけは絶対に嫌だ。
どうするべきか。私が選んだ決断は――――。

「うーん、私にも決断は難しいので神頼みをすることにします」
「神頼み?」

私は硬貨を1枚アイテムボックスから取り出した。

「これが表だったら王都に行こうと思います」

そう言ってピンっと硬貨を上に飛ばして、手の甲で受け止める。

「これは…」
「表ね」
「じゃあ王都に行くってことにしましょうか」
「待ってさっき一瞬だけ見えたけど、
それ両方とも表じゃないの?」
「あー、分かりました?」

実はこの硬貨は制作ミスなのか両方とも表で裏は無い。
珍しいので取っておいたのだ。

「みんなを納得させるには、
神頼みってことにした方が良いかなって思いまして」
「何馬鹿なことを言っているのよ。
行こうが行かなくても私はついて行くわよ」
「当然だな」
「全く困った人ですね。
でもそういうあなただからついて行きたいと思うんです」
「そうなのだ。地獄の果てまでついていくのだ」
「妾も行くぞ。一緒に王都まで行こう」
「ああ、やっぱりこうなるのか。
でもアタシもついていくよ。
アンタの近くに居た方が楽しいし」

そう仲間達はそれぞれそう言ってくれて、
胸が熱くなった。

「それでいいのか?」

伯爵夫人は私にそう聞いた。

「はい、伯爵夫人には本当にお世話になりました。
だから今度は私が助ける番です」

そう言うと伯爵夫人の顔に、
安堵とも不安ともつかない表情が生まれる。

「セツナ、本当にそれでいいか?」

伯爵夫人が心配そうな顔をしてそう言った。

「ここで逃げてもこの国を出ない限り、
しつこく追いかけてくると思うんです。
それに王都に行っても行かなくても、
きっとどちらを選んでも後悔すると思うんです。
だったら行く方を選んだ方がマシです」
「そうか、では明日の朝に出発してくれ」

そうして私は領主邸から出て家に帰ったのだった。





「ただ王都に行くと問題が起きますね」

その日の晩みんなを集めて話をしていた。

「そう、コンビニをどうするかってことよね」

私が作ったコンビニは今順調なぐらいに儲けているが、
王都には移動に時間がかかるので、
しばらく留守にしないといけない。
でも1ヶ月も留守にしたら客が離れるのは、
商売に詳しくない私でも分かる。

「それなら大丈夫です。
仕事に慣れてきたので私達だけで対応出来ると思います」

そうノーマが言った。

「そうですか、
とにかく商品をいっぱい作って倉庫に置いておきますね。
何かあったら携帯紋で連絡してください」
「了解です」

そうして私達は入念な準備をして、
王都に行くことになった。
そして翌朝、私達『金色の黎明』は、
たくさんの人に見送られて出発した。

「寂しくなるね」

そう涙ぐんで冒険者ギルドの受付嬢のイザベラがそう言った。
他の人達も同様に涙ぐんでいた。
これが今生の別れになるかもしれないからだ。
王都に行けば権力者に幽閉されるかもしれない。
それをみんな分かっているから、
引き留めようとする人も少なくなかった。

「必ず戻っていっぱいお土産を渡しますからね」

そう私は安心させるために笑顔で言った。

「あ、間に合った!」

その時プロムが走ってきた。
実はプロムは明日出発すると言うと、姿を消したのだった。
だからどうしたのかと思っていた。

「これ、使って」

そう言うとプロムは木箱に入ったたくさんの薬を見せる。

「この薬は…」
「これ徹夜して作ったんだ。
これは失った手足も失った血も復元する回復薬で、
これが魔力を全回復させる薬、
それでこれが自白薬だよ」
「こんなにたくさんありがとうございます!」
「良いんだよ。ボクに出来る恩返しはこれぐらいしか無いからね。
君には感謝しているから」
「はい」
「それとクライド君を王都に一緒に連れていって欲しい」
「え、クライド君を?」
「え?」
「クライド君、セツナのことが好きなんでしょう?」

プロムはそう言った。

「え?」
「ちょっと!」
「これが今生の別れになるかもしれないんだ。
後悔しないようについて行った方が良い。
セツナ、クライド君を頼んだよ」
「プロムは残るんですか」
「うん、ボクはここに残るよ。
君達が帰って来た時に迎えてくれる人が必要でしょ?」
「そうですね。
一応家とコンビニと研究所の家賃は一年分は先に払っておきましたが、
何かあったら携帯紋で連絡してください」
「うん、じゃあ行ってらっしゃい。
絶対に帰ってきてね」

そうプロムは手を振った。

「行くわよ。セツナ」
「はい!」

そうして馬車に乗り込むと、私達は王都に出発したのだった。

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