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第4章起業しましょう。そうしましょう

206・マーシャの悩み

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「今日も良い天気ですね」

私はその日クライド君と一緒に洗濯物を干していた。
リンも仲間になったので、もう私の家で暮らしている
洗濯物だけでもかなりの数がある。

「ふぅこんなもんですかね」

洗濯機を全部干し終わると私はそう呟いた。

「いつもありがとうございます。
本当に助かります」

そう私は言う。
基本的に家の家事は私とクライド君がやっている。
料理は私がやっていて、
洗濯や掃除などはクライド君がやってくれている。
今日は大量の洗濯物が出来たので、私も手伝っていた。

「本当にクライド君を拾って良かったです」
「俺の方こそお礼を言いたいよ。
俺をあの咎の輪廻教から救ってくれたんだから」
「あーそういえば、あれから咎の輪廻教について聞きませんよね」

咎の輪廻教というのは人殺しを良しとする邪悪な宗教団体だ。
クライド君はその咎の輪廻教のメンバーに、
傀儡魔法を使われ操られてきた。
それを私が助けて、従者にしたのだ。

「まぁ組織は壊滅したから、
もう出てくることもないだろうな」

そうクライド君は言った。

「そうですね。ん?」

その時家に近づいてくる人がいた。
よく見たらそれはマーシャさんだった。
マーシャは以前、
ブラックな労働環境の冒険者チームに搾取され、働いてきた。
しかし私のすすめで独立し、
今はスカーレットパンサーという冒険者のチームリーダーをやっている。

「マーシャさんこんにちわ」
「セツナさん、助けてください!」

その時マーシャさんは私にすがりついてきた。

「え、どうしたんですか」
「ここでは話せません。
家の中に入れてください」

そう言われたので、マーシャさんを家の中に入れた。

「あれセツナ、その人は…」

家に入るとエドナがそう言った。

「何だか悩みがあるみたいです」

それから私はマーシャさんを椅子に座らせ、
魔法瓶から紅茶を取り出し、カップに注ぎ込む。

「マーシャさんどうしたんですか。
もしかしてエディ君が何かしたんですか?」

エディ君というのは私と同じ冒険者の男の子だ。
色々あって元いたチームを追放されたが、
今はマーシャさんのチームに入っている。

「いいえ、エディ君は関係ありません。
というかむしろ逆です。
エディ君のおかげで私は大助かりです。
うちは男所帯なので、料理が出来ない人も多くて、
いつも私がいつも仕方なく料理を作っていたんですが、
今はエディ君が手伝ってくれてとても助かってます。
それにエディ君が作る料理もとてもおいしいんです。
その上、戦闘では彼が攻撃を一手に引き受けてくれるので、
とても助かっていいます。
だから彼を追放したラザルスって、
相当にアホなんじゃないかと思うぐらいです」
「そうなんですか」
「あ、話が脱線しましたね。
実はとても困っていることがあって、
セツナさんに相談したいことがあるのです」
「相談したいこと?」
「実は私はオスカーという男にストーカーされているのです」
「え、オスカーに?」
「はい、毎日後をつけられたり、
行く先々でも会って、今日もついてきているんです」

そう言われたので窓の外を見ると1人の男が木の影からこちらを見ていた。

「本当についてきてますね」
「これはとんでもない男に目をつけられたものね」
「エドナ、知っている人なんですか?」
「オスカーはとんでもない極悪人の冒険者よ。
何でも道を歩いていた女性に暴力を振るって、
刑務所送りになったりとか、
盗賊50人を全員半殺しにしたりとか、
町を歩いていた男性にいきなり殴りかかったとか、
女遊びが好きで孕ました女は数多くいるとか、
とにかく悪い噂に事欠かない男よ」

そうエドナは言った。

「そ、そんなヤバイ男なんですか…」
「そうなんです。だからもう怖くて怖くて…」

マーシャさんは本気で怖がっているみたいだ。

「何でつきまとわれているんですか?」
「そんなの分かりませんよ。
もう怖くて怖くて仕方が無いんです。
でも警察に行ったら、
何も事件が起こっていない現段階では、
動けないって言われたんです」
「それは酷いですね。
つきまとわれる心当たりって何かあります」
「そんなの分かりません。
そもそも会話すらしたことないですし…」
「うーん、美人だから一方的に好かれたとかかしら」

うーん、確かにマーシャさんは美人だし、
それだけで狙われる理由はある。

「確かにマーシャさんは美人ですし、
付き合いたくてつきまとっているとかですかね」
「それは最悪です。
私、ああいう女性に暴力を振るう男性は絶対に無理です」
「うーん、何とかするのはどうしたらいいでしょうか」
「直接迷惑だって伝えたらどう?」
「え、それ危険過ぎませんか、逆恨みされたら面倒ですよ」

エドナの提案に私はそう返す。

「だってそれしか方法がないじゃない。
ここはビシッと言った方が本人のためよ」

うーん確かにそれしか方法はないかもしれない。
私は窓の外を見る。
相変わらずオスカーは木の影からこちらを見ている。

「みんなで行きましょう」

そうしてみんなで家の外を出て、木に近づく。

「あのー、つきまとうの迷惑なんで止めてくれませんか」

そう私は言った。
こうして見ると本当にオスカーは悪人面だなと思った。
顔にも傷があるし、
身長も190センチはあるし、体もかなりごっつい。
もしこいつが人を殺したと言われても普通に信じられるだろう。

「何だお前は?」

そうオスカーが言った。
おお、かなり顔が怖いな。
子供が見たら泣き出しそうだ。

「まぁ私のことはいいじゃないですか。
それよりつきまとうの本当に止めてくれませんか、
つきまとってもマーシャさんはあなたの物にはなりませんよ」
「何を勘違いしている。
俺が用があるのはそこの女じゃない」
「え、どういうことです?」
「マーシャといったな。
お前、頭の後ろの首元を見てみろ」
「え?」

そう言われて、マーシャさんの首元を見ると、
さっきは髪に隠れて分からなかったが、
カブトムシのようなでかい昆虫が首元についていた。

「え、何ですかこの虫?」
「え、虫!? と、取ってください!」

マーシャさんにそう言われたので、虫を掴んで取ろうとした。

「待て無理矢理剥がすとそいつは…」

オスカーがそう言った時、
虫がマーシャさんの首元から離れ、宙を飛んだ。

「ビビビ、ガガガ、戦闘モードに入ります」

そう虫が言うと何と3メートルの大きさに膨らんだのだった。

「え、ええええーー!!?」

あまりのことに大声を出した私だった。

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