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第4章起業しましょう。そうしましょう

196・ゼロ

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「もう1つの人格だと!?」
「ああ、今までずっと俺達は別れかけていたが、
お前がセツナを精神的に拷問したことで、
完全に別れることが出来たわ。ありがとな。
というわけで、死ね。《暴風》」

そう言うと突風が起こり、キーガンは吹き飛ばされる。

「ぐが、げほ!」

壁を突き破り、修道院の礼拝堂にぶち当たる。

「な、何だこれは!?」

キーガンは状況が今ひとつ理解出来ない。
何で夢から覚めたのだ。
そもそももう1つの人格とはどういうことなのか。
疑問が頭を支配する。
そうしているとゼロが現れる。

「お前は何なんだ!」
「だから言っただろう。
セツナのもう1つの人格だって」
「だったら何故、悪夢から覚めることが出来たんだ!?」
「あーそれな。俺とセツナは別人格だからな。
セツナが後悔していることを見せられても、
俺には全く関係のないことだからなぁ。
お前の精神攻撃なんて効かなかったわけだ」
「全く意味が分からん!」
「まぁ分からなくても無理ないか、俺も正直よく分からん。
《身体強化!》」

そう言うとゼロが消えた。

「一体どこに…」
「ここだよ。ばーか」

そう言うといつの間にかキーガンの腕が切られていた。

「うっ…」

慌ててキーガンは身を隠そうとしたが、
隠れられそうな場所はない。

「さぁて、どうするかな」
「ま、待て見逃せ、金ならいくらでもやる!」
「へー、お前を見逃せば大金が手に入った俺は美女と豪遊出来るわけか」
「は?」

少女にしか見えないセツナの姿で言うと違和感極まりなかったが、
ゼロの人格は成人男性なのでこの場合の違和感は仕方なかった。

「そ、そうだ。見逃せ」
「嫌だね。お前は殺す」
「待て、わ、私は夢の中でなら無敵に近いが、
現実では戦闘能力は無いんだ…」

魔族には基本的に万能的にあらゆる能力に特化したタイプも居れば、
1つの能力に特化したタイプもいる。
レイラのように戦闘能力に特化したタイプも居れば、
キーガンのように1つの能力に特化したタイプも居るのだ。
キーガンの能力は夢を操る力だ。
夢の中では最強と言ってもいいが、
現実世界の彼女の能力はそれほど高くない。
普通の成人女性より少し強い程度の力しかないのだ。
だから夢を打ち破られれば逃げるか隠れるかしか選択肢がない。
夢を操るという1つの能力に特化した代償だった。

「私なら幸せな夢を見せることも出来る!
もう人を苦しめません…!
だからお許しを…!」
「許す許さないじゃねぇんだよ。
お前はセツナを苦しめた。
それだけの理由だ。それだけの理由でお前を殺す」
「は、ハハハハ…!」

その時キーガンが笑い声を上げる。

「どうした気が変になったか?」
「忘れたのか、私は魔族だ。
だから『ゲート』開き魔物を呼び寄せることが出来る!」

ゼロが礼拝堂の天井を見ると特大の『ゲート』が出来ていた。

そこから一体の魔物が現れる。

「ハハハ! 私の勝ちだ!」

そうキーガンが高笑いを上げる。
出てきた魔物はデススパイダー。
3メートルはある蜘蛛の魔物だった。

「蜘蛛か」
「さぁ無様に命乞いしろ!
私を苦しめた代償を支払うといい!」
「…ここは創造するか」

そうゼロが言うとその手に一本の剣が生まれる。
剣はレイピアのように細く、周囲に風をまとっていた。

「これは風神剣シルフィードだ。
まぁセツナなら疾風君とでも名付けそうだな」
「ハハハ! 何だその剣は!
それで私に勝てるつもりか!」

勝利を確信したのかキーガンが高笑いを上げる。

「人間風情が私に勝て…」

その瞬間、キーガンとデススパイダーの体は細切れになっていた。

「よっとこんなもんか。
しかし『ゲート』を閉じるのは面倒だな。
よし、セツナに押しつけよう」

そう言うとゼロは剣をアイテムボックスにしまい、
目を閉じたのだった。





「あれ?」

神殿の礼拝堂に私は立っていた。

「何でこんな所に?
って『ゲート』!?
早く塞がないと!」

私は急いで『ゲート』を封鎖した。

「しかし何で私こんな所に?
寝ていたはずですよね」

【カルマ値が5000減りました。善行・魔族の討伐】

そんな画面がいきなり表示された。

「え、魔族を討伐?」

しかし私は魔族を討伐した記憶はない。
もしかして寝ている間に勝手に死んだとかそういうのか?

「とりあえずみんなを起こそう」

そうしてベッドが置いてある部屋に戻ると、
寝ているエドナ達を起こした。

「あれ、セツナ?」
「大丈夫ですか?」
「うーん、酷い夢を見たのだ」
「わたくしもです」

そして話を聞くとみんな共通して、
悪夢を見ていたらしいということが分かった。

「もしかしてあの修道女の女性は魔族だったんでしょうか?」
「確かに目を隠していたからね」
「でも何で倒したことになっているんでしょうか?
私、倒した覚えがないんですけど」
「うーん、寝ている間に、
覚醒したあなたが反撃して倒したんじゃないの?」
「まさかー、そんなわけないですよー」
「いや、あなたの場合は時々記憶にないことをするからね」

そうエドナが言ったが、どうにも信じられない。

「しかし相手が魔族なら納得ですね。
わたくしの心を読む力は魔族には通用しませんから」
「そうなんですか?」
「ええ、わたくしは魔族の心を読むことは出来ないのです。
魔族は負の感情で肉体を作っているので、
それが阻害して心が読めないんですよ」
「だったら魔族だって分かりそうじゃないですか」
「まぁわたくしと同じ神の場合も心を読むことが出来ないので、
この場合は判断は難しいのです。
ごくまれにですが地上に遊びに行く神も居るので、
それかと思ったんです」
「それはいいけど、とりあえずこの修道院を調べてみましょう」

それから寝ていた人を全て起こして、
修道院を調べるとあの修道女の日記が出てきた。
日記によるとやはりあの修道女は魔族で、
来た人に悪夢を見せて負の感情を頂いていたということが分かった。
名前はキーガンというらしく。
念のためエリアマップで検索してみたが反応はなかった。

「ということはやっぱり寝ている間に倒したのかな」

そういうわけで結局何が何だか分からないまま、
この事件は幕を閉じたのだった。
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