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第4章起業しましょう。そうしましょう

192・聖女サーシャ

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「止めなさい」

その凜とした声と共に馬車から1人の女性が現れる。
髪は深い青色で、目は琥珀色だった。
髪は腰まで伸びていて、
修道女が着るような白い修道服を着ていた。
顔立ちはかなりの美人だった。

「あなたその瞳は…」
「ええ、あなたと同じ聖眼持ちで、
聖女サーシャと言います」
「あなたは保護されたくないようですね。
それは何故ですか?」
「私は長い間監禁されていたことがありましてね。
だから保護されたくないのです」
「そうですか、無理を言ってすみません。
ボブ、帰りましょう」
「聖女様、しかし…!」
「本人が嫌がっているのに、
無理矢理連れていって何になるというのですか、
そんなことを神様が望んでいると?」
「………」

聖女の言葉に大神官は黙り込む。

「諦めましょう。
保護されることが必ず幸せになれるとは限りません。
そのうち彼女も自分から保護されたいと言うかもしれません。
それまで待ちましょう」
「しかし…」
「ご迷惑をかけました…うっ」

その時聖女が胸を押さえた。

「また発作が…」

そう言って聖女は倒れた。

「これは一体?」
「聖女様は病気なのです」

そう大神官は言った。

「それならフォルトゥーナを呼ばないと」
「わたくしがどうかしましたか?」

その時フォルトゥーナがやってくる。
後ろにはイオも居た。

「あれ居たの?」
「はい、イオから神殿の使者が来たと聞きましてね。
で、この人を治療すればいいんですか」
「はい、そうです」
「じゃあ治療します。《完全治癒《パーフェクトヒール》」

そうフォルトゥーナが魔法をかけると、
聖女はみるみる顔色が良くなる。

「あれ、私は?」

聖女が目を開けた。

「大丈夫ですか?」
「はい、胸が痛いのが収まりました。
何をしたんですか?」
「回復魔法で病気を癒やしたんですよ」
「え、これでもう治ったのですか?」
「はい、治しました。
わたくしの聖眼持ちとしての能力は病気が癒やせることですから」
「ありがとうございます。
何とお礼を言ったらいいのか…」
「それはいいですけど、聖女様は何でここに?」
「本来外に出ることは許されないのですが、
病気を治してもらうために特別にここまで来ました」
「ああ、フォルトゥーナはどんな病気でも癒やせますからね」
「それに同じ聖眼持ちである、
あなた方となら友達になれるかもしれないと思って…。
まぁそれは無理な話だと思いますが」
「何で無理なんですか?」
「私は聖眼持ちですから、
その生涯は神に捧げて生きるべきなのです。
だから対等な友人など不要なのです」
「はぁ? 友人が不要?」
「はい、そういうものだと教わってきました」
「あの聖女様、今まで外に出たことは?」
「今回が初めてです。
今回来たのはかなり無理を言って来ました。
きっと病気でなければ外には出られなかったでしょう」
「ということはやっぱり保護されたら外には出られないんですね」
「はい、そうです。
この町はずいぶんと屋台が多いのですね。
本当は町を探索して屋台で買い物がしたいのですが、
それは出来ません」
「何でですか?」
「危険だからに決まっているでしょう。
町を探索などとんでもない!」

そう大神官は言った。

「そういうわけです。
私が外に出たいと言えば多くの人に迷惑がかかります」
「何で諦めるんですか」

私はそう言った。

「え?」
「自分がやりたいと思っていることはやればいいじゃないですか。
何で諦めるんですか!」
「でも私がわがままを言えば多くの人に迷惑が…」
「何言っているんですか、
人は迷惑をかけないと生きられないないんです」
「え?」
「人は生まれる前に母親に、
これでもかと言うほどの苦痛を与えます。
そして大苦痛の上に出産させておいて、
他人の介助無しでは生きられません。
夜には大声で泣き、
しかもおむつを替えたりしないといけません。
それを考えるとどれだけ人は、
生まれてきた時に迷惑をかけていることか。
だから人は迷惑をかけないと生きられないんです」
「でも私がわがままを言えば多くの人が困って…」
「聖女様、あなたの人生の主役は誰ですか?」
「え? …私でしょうか?」
「そうです。その主役が周りを気にするあまり、
自分の本当の声を無視していいんですか?
本当は屋台を見たり、町を探索したいんでしょう?
やりたいならやればいいじゃないですか」
「で、でも…」
「とんでもない!」

その時大神官が叫んだ。

「ただでさえここまで来るのにどれだけ大変だったと思っているのです!
それが町を探索したい?
屋台で買い物がしたい?
食べ物に毒が入っていたらどうするのです!
危険過ぎる!」

そう大神官は言った。

「そうやって彼女をかごの鳥扱いしていいんですか?
一生外に出さないつもりですか」
「当然にございましょう。
外は危険が多すぎますからね。
今回の旅に聖女様を同行させたのは彼女が病気だからです。
その病気をフォルトゥーナ様に治させるために、
特別につれてきたのです。
そうでなければ一生外には出しませんよ」

吐き捨てるように大神官は言った。

「そうですかあなたの考えは分かりました。
あなたがそう来るなら私にも考えがあります」
「考えですか、安全かつ、誰にも迷惑がかからない方法で、
町を探索が出来るなら話は別ですがね。
そんな方法があれば私も考えましょう」

どうだ絶対無理だろう。
というようなしたり顔で大神官は言った。

「それでは今日の所は帰ります。
我々は領主邸に居るので何かあったらどうぞ」

そう言って大神官と聖女は馬車に乗って去っていった。

「…何か寂しそうでしたね」
「馬鹿なこと考えないでくださいね。
彼女を助けることは簡単ですが、
今更自由になったところで、
神殿の庇護がなければ生きていけないでしょう」
「フォルトゥーナ、どうしたらいいかな。
せめて町を探索させてあげたいけど」
「待つのだ。町を探索するなら護衛の数がすごく居ると思うのだ」
「イオの言う通りですよ。
町を探索するとなると、聖女を護衛する護衛が必要です。
それに屋台で飲み食いするとなると毒味役も必要ですし、
町の人にも聖女が来たことをあらかじめ伝えないといけません。
でないと大騒ぎになりますからね」
「うん、そうですね。
諦めるしかないのかな…」
「あなたらしくないわね」

その時エドナがそう言った。

「こういう時あなたなら戒律や掟なんて無視して、
ガーンと突き進むじゃない」
「でも私は…安全な方法で町を探索する方法なんて分からないです」
「じゃあ馬車の外から町を見るのはどう?
これでも一応探索にはなるんじゃないの」
「待ってください。
馬車の外から?
…行けるかもしれないです」
「え、何か思いついたのか」
「ガイ、良い方法を思いつきました」
「どんな方法なのだ?」
「実はごにょごにょ…」

私が自分のアイデアを伝えるとみんなの表情が明るくなる。

「いけるわ。その方法なら、
あの大神官も納得するに決まっているわ」
「ふむ、ではさっそく伯爵夫人の所に行きましょう」

そうして私の考えた作戦が人知れず行われることとなった。

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