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第3章謎の少女とダンジョン革命

外伝・神様談義

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一人の女が廊下を歩いていた。
肩まで伸ばされた紫色の髪に扇情的な服を着ていた。
彼女の名前は堕天神カミラ。
冥府の七王の一人で地獄神アビスの部下だ。

カミラが談話室に入ると、
そこにはすでに一人の男が居た霊導神クリストファー。
カミラと同じ七王で、
死者を生前の罪によって裁く役目を持つ。

「あらクリスちゃんじゃない」
「ああ、ちょうど良かったです。
紅茶を入れようと思っていたんですよ」

そう言うとクリストファーは紅茶を入れる。
それをソファに座り込んだカミラが飲む。

「うん、美味しい。これ最高級茶葉でしょ」
「よく分かりましたね。
ベアトリクス様が買ってきたんですよ」
「ああ、ベアトリクスちゃんね。
あの子も地上に出て好き勝手にやってるみたいね」

その時、カミラがテーブルに置かれている新聞に気づく、
新聞の見出しには「セツナ、『ゲート』に落ちる」と書かれていた。

「そういえばセツナ様に会ったみたいですが、どうでしたか?」
「思ったよりも面白い子ね。アビスちゃんが夢中になるのも分かるわ」

神は長命故にあらゆる事柄に飽きている。
アビスのように未来は見えなくとも、大体の事柄は経験済みである。
そのため大体の未来の予測はつく。
そんなカミラですら。セツナが『ゲート』に落ちるとは思わなかった。
運良く休憩していたアルシノエの体の上に落ちたみたいだが、
冥府で直接会うことになるとは思わなかった。
平静を装っていたが、実を言うと非常に驚いた。
魂状態のセツナは見たことはあるが、
生身のセツナは何というか変わっていた。
もう一人の男は怯えていたのに、セツナはわくわくしていたのだ。
普通なら『ゲート』に落ちてわくわくはしないだろう。
この好奇心の強さはタロウ=ヤマダを思い出すが、
彼とは根本的に異なるのがセツナの謙虚さだ。
普通あんな力を貰ったら、もっと傲慢になりそうなものだが、
セツナにはそれが無い。
どうやら傲慢故に地獄に落ちたヒョウム国の皇帝が、
相当な反面教師になっているらしい。

「セツナちゃんの純真さは、
地獄に落ちたクソ野郎共にも見習って欲しいわ」

吐き捨てるようにカミラは言った。
神ゆえに今まで数多くの悪人を見てきた。
裁きを下すためにはどうしても頭の中を覗く必要があるのだ。
分かっていても見れば胸くそ悪くなる。
だからこそ休憩時間のティータイムがカミラにとって癒やしだった。

「まぁそれは仕方がありませんよ。
いつの世も人間とは愚かなものです」
「そうね。それよりセツナちゃんは半神を仲間に入れたみたいじゃない」

半神とは半分神で半分人間の者を指す。
能力に優れた人間を見つけると、天上界の神はその者の魂を持ち帰り、
半神として生まれ変わらせることがある。
カミラもその半神だった。
といっても今現在はアビスに力を分けられているので、
フォルトゥーナとは比較にならないぐらい強いが、
かつては天上界で暮らし、そして追い出されたことは確かだ。

「そもそも天上界で問題をおかして、
今現在は天上界にも地獄にも属していないなんて、
地上にとってどれだけの災厄になるやら…」
「そうですね。セツナ様の周りには本当に色々なことが起こりますね」
「あの子は運が良いのか悪いのかよく分からないわ。
『ゲート』に落ちた時点で運が悪いのだけど、
アルシノエちゃんに拾われる時点で運が良いし、
一体どっちなのかはっきりしないわ」

『ゲート』に落ちた人間が居ればすみやかに地上に送り届ける。
それが地獄のルールだったが、『ゲート』の向こうは魔物だらけなので、
落ちたらまず助からないのが普通だ。
アルシノエの体の上に落ちて、セツナは幸運だった。

「まぁ助かって良かったけど、
このトラブル体質だとまた何か起こりそうね」

出来れば今度はもっと予測の付かないことをして欲しい。
カミラは…いや地獄の神々はそう期待していた。

「まぁ天上界の奴らがセツナちゃんのことを知れば、
面倒くさいことになるでしょうね」

吐き捨てるようにカミラは言った。
正直天上界に居た時のことは思い出したくない。
天上界では持っている能力や神格などで、
厳格に神々はランク付けされる。
半分人間である半神は最下位のランクに位置する。
そのため扱いはほとんど奴隷と同じで、
召使いも同然。
カミラは天上界に居た時は、
その美しさから天空神スカイの愛人になっていた。
だがスカイとの関係が彼の妻であるヘレンに知れると、
カミラは地上に落とされてしまった。
天上界に帰ろうとしてもヘレンの妨害に遭い出来なかった。
そして何百年もあてもなく地上をさまよい、
神ゆえに老化することもないので、
人間に溶け込むことも出来なかった。
そんな時、たまたま地上に来ていたベアトリクスと出会い、
地獄で働かないかと誘われた。
そしてどうせ地上に居ても仕方が無いので、
地獄に行くことにした。

最初は来た時は驚いた。
天上界では神々はランク付けされ、
結婚するのもそのランク内でしか出来ないが、
地獄はそんな階級制度自体無かった。
ただ実力と才能さえあれば、その神が何者でも受け入れる。
地獄はどこまでも自由なのだ。
天上界では厳格にルールが定められているが、
地獄にはそもそも最低限のルールしかない。
まぁ上に居る地獄神アビスがそもそも放任主義なので、
文句も言われることもない
自分のやり方で自由にやっていいのだ。
カミラにとって地獄は地獄というよりも天国のような場所だった。
そのせいか元はかなり大人しい性格だったカミラは、
地獄に来てから天上界に居た時の反動か自由奔放な性格になった。

「確かに天上界の神が面倒なことになりそうですね」
「そうなる前に、
アビスちゃんがセツナちゃんをお嫁さんにすればいいのに」

実をいうとセツナとアビスがくっつくのではないのと、
地獄の神々の一部は期待していた。

その証拠にアビスは地上に地獄級の魔物が現れ、
それでセツナがピンチになった時、
後で地獄の神を呼び出し、何をしているんだと怒った。
アビスが怒るなど滅多にない。
ここ数千年はカミラもアビスが怒ったところは見たことがない。
このアビスの態度から、
アビスはセツナに好意を抱いているのではないのかと、
カミラは思っていた。

アビスは女性にあまり興味が無い。
これは地獄の神々の悩みの種だった。
セツナが聞けば意外に感じるかもしれないが、
アビスに好意を持つ女神は多い。
だが本人が女に興味がない上に、あらゆる魅了にも引っかからない。
浮気ばかりしている天上界の長の天空神スカイとは対象的である。
スカイまでとはいかなくても、
女性に興味を持って欲しいと地獄の神々は思っていた。
もしアビスに子供が出来ればアビスの力が増す。
そうなれば地獄は今以上に繁栄する。
そう思いアビスの寝室に入り込んで、追い出された女神は多かった。
あまりにもそれが多いので、
アビスは溶岩の中で寝泊まりするようになってしまったぐらいだ。

そういう経緯を持つので、もうぶっちゃけもう相手が人間でも良い。
セツナは人間だが、アビスの力で神に出来ないこともない。
二人には絶対くっついてほしい。
それにアビスの隣にトラブル体質のセツナが居れば、
絶対に面白いことになるとカミラは思っていた。

「いやそれはないと思いますよ」
「何でよ。アビスちゃんは絶対にセツナちゃんのことが好きよ」

その好きは面白いおもちゃを見る目かもしれないが、
それがいつ愛に変わってもおかしくないとカミラは思っていた。

「本人が聞いたら苦笑しそうですね」

セツナが聞いても苦笑しそうな話だが、
こんな風に地獄の神々は、
セツナの居ない所で勝手に盛り上がっているのだった。
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