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第3章謎の少女とダンジョン革命
168・秘めた想い
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その日俺、クライドはいつものように家の掃除をしていた。
「あ、クライド君一緒に買い出しに行ってくれませんか」
そうセツナ様が言った。
「買い出しか、分かった」
しかし男と女が買い出しって、
それデートと言えるんじゃないだろうかと思ったが、
言わないでおいた。
「あー俺は用事があるから二人で行ってこい」
いつもセツナ様の近くにいるガイがそう言った。
「頑張れよ、少年」
そう俺に耳打ちして、ガイはどこかに消えた。
頑張れって、デートのことを言っているんだろうか。
「実は調味料がもうあまり無いんです。
一緒に行きましょう」
いやセツナさんをみる限り、そんな雰囲気は一切無い。
俺が勝手に意識しているだけか。
まぁ操られていたとはいえ人殺しの俺とセツナ様じゃ釣り合わないからな。
「分かりました。セツナ様」
「あのー様付けなんてしなくていいですよ」
「そういうわけにはいかない。
俺はアンタの従者だから」
「そうですかじゃあ、買い出しに行きましょう」
そうして市場に向かって歩いていると、
屋台が道にたくさん並んでいた。
「おう、セツナさんじゃないか」
屋台でリンゴ飴を作っている男性がそう言った。
「あんたに教えてもらったリンゴ飴。
飛ぶように売れてウハウハだぜ」
「それは良かったですね」
「セツナさん達は特別にタダでいいぜ」
「わぁ、ありがとうございます」
リンゴ飴を頂いてそれを舐めてみるととてもおいしかった。
「ああ、セツナさんうちのも食べてください」
「セツナさんこれ差し上げますよ」
さっきの男性だけでなく、
多くの屋台を運営している人から、食べ物を貰う。
あっという間に両手に抱えきれない程、食べ物を貰った。
「ありがたいですね」
そう言うとセツナ様は食べ物を空間術でしまった。
「何でみんなくれたんだ?」
「私が異世界料理を教えたからですよ。
そのおかげで繁盛しているみたいです」
なるほどそういうことか、
だから屋台の人達はセツナ様に感謝しているわけか
「あれアヤさんじゃないですか」
「あ、セツナさん、こんにちは」
一人の少女が突然話しかけてきた。
「ジャンと同棲したって聞きましたが、どうですか?」
セツナ様がそう聞くと少女は真っ赤になった。
「うん、ジャンの両親もジャンも良い人で、毎日が幸せよ」
「それは良かった」
「この世界に来た時はとてもショックだったけど、
今は素敵な人と暮らせて幸せ。
日本にいたら絶対恋愛なんて出来なかったから」
「え、どうしてですか?」
「だってアイドルは恋愛禁止だから、
でも異世界に来たんだからもう関係ないけどね」
「そうですね」
「ところでその子は誰? セツナさんの恋人?」
「ち、違いますよ。私の従者です」
セツナ様が真っ赤になって否定する。
「そっかセツナさんも良い出会いがあると良いわね」
「そうですね」
それから10分ほど話して少女とは別れた。
「そういえばあいどるって何だ?」
「えーと、歌って踊る女の子みたいな?」
「なんで踊るんだ?」
「うーん、まぁ説明が難しいですね」
「あれ、セツナ様じゃないですか」
するとまた見知らぬ女性が話しかけてきた。
「ああ、サラさん、こんにちは」
サラ?
ああ、セツナ様がよく寄付している孤児院の経営者の一人か。
「最近はどうですか?」
「ええ、屋根も直ったので、参拝客も増えてきました」
「そ、そうですか」
何故か気まずそうに目をそらしてセツナ様は言った。
「セツナ様も元気そうで良かったです。
聞きましたが、屋台の料理を広めたのはセツナ様なんですよね」
「はい、そうです」
「孤児院の子供もみんな喜んでいます。
特にハンバーガーは私も作ってみたんですよ。
そしたらみんな喜んでくれました」
「そうですか、良かったですね」
「ええ、セツナ様とフォルトゥーナ様のおかげで、
最近は金銭的余裕が出てきました。
一時は経営がヤバくて、
食事がずっともやしだったこともあります…」
確かにもやしは安いのが魅力だが、
それを毎日はさすがにヤバいなと思った。
「そうですか、大変ですね」
「まぁ今は農家の方に畑のやり方も教わりましたけど、
今年は雪のせいで農作物が全滅してしまって…。
今はフォルトゥーナ様も働いてくれているので、
何とかもっている方です」
孤児院の経営って想像以上に大変なんだなと思った。
それからまた10分ほど彼女と話して、別れた。
そうしてまた歩いていると、話しかけてくる者があった。
「ああ、セツナさんじゃないですか」
冒険者をぞろぞろと連れた女性がそう言った。
「ああマーシャさんこんにちわ」
マーシャ?
ああ、確か悪い冒険者に搾取されていて、
セツナ様が独立を促した冒険者だった気がする。
「これからみんなで魔物退治に行くんですよ」
「そうですか、大変ですね」
「いや本当に独立して良かったですよ。
おかげでお金が稼げて幸せです。
あの時セツナさんに会っていなかったらって考えるだけで恐ろしいです」
「良かったですね」
「でもさすが禍福の女王ですね。
セツナさんのチームの傘下に入ってからは良いこと尽くめですよ」
「いやそれはデマですって、私にそんな力はありません」
「またまた~。
関わるだけで悪人なら不幸に、
善人なら幸せになるって、評判ですよ」
「いやそれは無いですから」
「では先を急いでいるので、また会いましょう」
そうしてマーシャとは別れた。
「はぁやっぱ有名人になると変な噂が身に付くんでしょうか…」
「さぁそれは分からないが、買い出しに行こう」
「そうですね」
そうしてしばらく歩いているとまた話しかけてくる人があった。
「おい」
「あー、そういえば塩も切れてたはずですよねー。
買わないといけません」
「おい」
「念のために砂糖も買っておきましょう」
「無視するな!」
そう言われたので振り返ると、一人の男性が立っていた。
「おや、ハニートラップ引っかかって殺されかけたハンクさんじゃないですかー」
「うっ、だからアレは誤解だと何度も言っただろう!」
「ま、どうでもいいですね。
では、私は急いでいるのでこれで」
「だから何で逃げるんだ!!」
「はぁ本当にしつこい…。
クライド君、ああいう大人になったらダメですからね」
「あ、ああ」
セツナ様がこうも露骨に嫌悪感を出すのは本当に珍しい。
こんなに嫌われるなんてこの男は何をしたんだ?
「おい、今から話を…ていうかそいつは誰なんだ?」
「私の従者ですよ。あなたには関係のないことです」
「だから何でそこまで冷たくするんだ!」
「自分の胸に手を当てて考えたらどうですか」
「だからそれは謝っただろう!」
あー、このハンクという男はセツナ様のことが好きなんだな。
でも伝え方が不器用過ぎて、セツナ様に全く伝わっていないんだ。
何か気の毒になってきた。
「じゃあ、私達はもう行きます」
「おい、待てよ!」
「《飛翔!》」
セツナ様は俺の腕を掴むと、飛翔魔法で空を飛んだ。
そして離れた所に着地する。
「全くあの男はしつこくて嫌になりますッ」
吐き捨てるようにセツナ様は言った。
それを見てハンクが可哀想に思えた。
好きな人にここまで嫌われるなんて、
本当にあの男は何をしたんだ?
それから市場に行き、必要な物をある程度買った。
「あ、ポールさんですね」
そうしてパン屋、ポールベーカリーに行くとそこは人だかりが出来ていた。
「ラララ~、あれセツナさんじゃないですか」
歌を歌うのを止めて、パン屋の店主ポールがそう言った。
「繁盛してますか?」
「ええ、おかげさまで毎日が楽しいです。
本当にあの時自殺してなくて良かったと思いました」
「頑張ってくださいね。あなたは一家の大黒柱なんですから」
「ええ! 任せてください」
それからポールさんとも別れた。
「あ、そうだ。クライド君に紹介したい人が居るんです」
「え?」
「白のダンジョンに行きましょう。《転移》」
すると白のダンジョンと呼ばれる場所に転移する。
そして中に入った。
「セツナ、来てくれたのね!」
そう笑顔の少女が突然目の前に現れた。
「セツナは最近来てくれないから心配していたのよ」
「あ、色々忙しかったからです。
ダンジョンをまた変えたり、泥棒に入られたりしたから」
「泥棒? え、泥棒に入られたの!?」
「うん、びっくりしました」
「そいつ殺してもいい?」
黒い笑みを浮かべて少女が言った。
「え、ラプラス?」
「私のセツナに…、
私の大切な人の家に泥棒に入るなんて、万死値するわ…」
「え、いや、殺したらダメですし、
そもそも泥棒がどこにいるのか分からないんですよ」
「これがあるわ」
そうラプラスが言うと目の前に小型の羽虫が現れる。
「超小型ドローンよ。
外の様子が気になって作ったの。
外見は虫だけど高性能カメラが付いているわ。
これを100体作って町に放つわ。
そうすれば泥棒もすぐに見つかるでしょう」
「カメラって何だ?」
「ああ、遠く離れた映像が見える機械です」
「ふふふ、私のセツナに手を出した報いは受けてもらうわ」
クククと含み笑いを浮かべてラプラスは言った。
それを見て怖いと俺は思った。
でもセツナ様はそうは思ってないみたいだ。
そういえばエドナさんが、
セツナ様は異常に恋愛ごとに鈍いと言っていたが、
そのせいか、ラプラスの気持ちにも気が付いていないようだ。
「ところで、その子は誰? 見ない顔だけど」
「ああ、この子はクライド君。
最近私の従者になった子です」
「まさかセツナと恋愛関係にはなってないわよね?」
じっとラプラスは俺のことを睨んだ。
「まっさかー、そんな関係ではないですよ」
「そうなら良かった。
とりあえずその泥棒は私が見つけるから待っていてね」
「ところで何で小型カメラなんて作ったんですか?」
「…セツナの安全を確かめたかったから」
ぼそりとラプラスはそう言った。
え、安全を確かめる?
それってストーカーなんじゃ…。
「え、何て言ったんですか?」
「ああ、何でもないわ」
セツナ様にはさっきの言葉は聞こえなかったらしい。
これ言った方がいいのか?
いや黙っておこう。
自分が密かに監視されているって分かったら、怖いからな。
それからラプラスとしばらく話して、
ダンジョンを後にした。
「何かセツナ様って人気だな」
「まぁみんな困っているところを私が助けたんですよ」
「助けて貰ったからみんなあんな笑顔だったんだな」
「そうだと思います。
まぁ困っている人を助けるのは当然のことですから」
セツナ様は本当に凄い。
何が凄いって本人は助けたことで、
相手に感謝を押しつけたりしていないからだ。
俺は咎の輪廻教に居た時、本当に色々な人を見た。
相手を押しのけてまで自分が幸せになろうとする者。
相手にこうすれば幸せになれると生き方を押しつける者。
相手が使えなくなるとあっさり見捨てる者。
本当に色々な人間を見てきた。
でもセツナ様はそのどれも違う。
相手を助けてもそれが当然だとセツナ様は言う。
でもそんなことが出来る人間は本当に少ないのだ。
いやごくまれと言ってもいい。
みんな自分が幸せになるために生きている。
他人のことなどどうでもいいと思う人間ばかりだ。
俺は自分の部屋に戻ると、密かに付けている日記を開く。
結論、セツナ様は愛されている。
それはセツナ様が多くの人間を見返り無しで助けてきたからだ。
でも本人は全くそのことを気が付いていない。
セツナ様のおかげで多くの人が救われてきた。
俺もその一人だ。
俺もセツナ様のことは好きだ。
暗闇しかなかった俺の人生を救ってくれた。
でもこの感情は今は隠しておこう。
人殺しの俺がセツナ様と結ばれるなんて許されることではないからだ。
だからこの想いは胸の奥にしまっておこう。
そう書くと俺は本を閉じたのだった。
「あ、クライド君一緒に買い出しに行ってくれませんか」
そうセツナ様が言った。
「買い出しか、分かった」
しかし男と女が買い出しって、
それデートと言えるんじゃないだろうかと思ったが、
言わないでおいた。
「あー俺は用事があるから二人で行ってこい」
いつもセツナ様の近くにいるガイがそう言った。
「頑張れよ、少年」
そう俺に耳打ちして、ガイはどこかに消えた。
頑張れって、デートのことを言っているんだろうか。
「実は調味料がもうあまり無いんです。
一緒に行きましょう」
いやセツナさんをみる限り、そんな雰囲気は一切無い。
俺が勝手に意識しているだけか。
まぁ操られていたとはいえ人殺しの俺とセツナ様じゃ釣り合わないからな。
「分かりました。セツナ様」
「あのー様付けなんてしなくていいですよ」
「そういうわけにはいかない。
俺はアンタの従者だから」
「そうですかじゃあ、買い出しに行きましょう」
そうして市場に向かって歩いていると、
屋台が道にたくさん並んでいた。
「おう、セツナさんじゃないか」
屋台でリンゴ飴を作っている男性がそう言った。
「あんたに教えてもらったリンゴ飴。
飛ぶように売れてウハウハだぜ」
「それは良かったですね」
「セツナさん達は特別にタダでいいぜ」
「わぁ、ありがとうございます」
リンゴ飴を頂いてそれを舐めてみるととてもおいしかった。
「ああ、セツナさんうちのも食べてください」
「セツナさんこれ差し上げますよ」
さっきの男性だけでなく、
多くの屋台を運営している人から、食べ物を貰う。
あっという間に両手に抱えきれない程、食べ物を貰った。
「ありがたいですね」
そう言うとセツナ様は食べ物を空間術でしまった。
「何でみんなくれたんだ?」
「私が異世界料理を教えたからですよ。
そのおかげで繁盛しているみたいです」
なるほどそういうことか、
だから屋台の人達はセツナ様に感謝しているわけか
「あれアヤさんじゃないですか」
「あ、セツナさん、こんにちは」
一人の少女が突然話しかけてきた。
「ジャンと同棲したって聞きましたが、どうですか?」
セツナ様がそう聞くと少女は真っ赤になった。
「うん、ジャンの両親もジャンも良い人で、毎日が幸せよ」
「それは良かった」
「この世界に来た時はとてもショックだったけど、
今は素敵な人と暮らせて幸せ。
日本にいたら絶対恋愛なんて出来なかったから」
「え、どうしてですか?」
「だってアイドルは恋愛禁止だから、
でも異世界に来たんだからもう関係ないけどね」
「そうですね」
「ところでその子は誰? セツナさんの恋人?」
「ち、違いますよ。私の従者です」
セツナ様が真っ赤になって否定する。
「そっかセツナさんも良い出会いがあると良いわね」
「そうですね」
それから10分ほど話して少女とは別れた。
「そういえばあいどるって何だ?」
「えーと、歌って踊る女の子みたいな?」
「なんで踊るんだ?」
「うーん、まぁ説明が難しいですね」
「あれ、セツナ様じゃないですか」
するとまた見知らぬ女性が話しかけてきた。
「ああ、サラさん、こんにちは」
サラ?
ああ、セツナ様がよく寄付している孤児院の経営者の一人か。
「最近はどうですか?」
「ええ、屋根も直ったので、参拝客も増えてきました」
「そ、そうですか」
何故か気まずそうに目をそらしてセツナ様は言った。
「セツナ様も元気そうで良かったです。
聞きましたが、屋台の料理を広めたのはセツナ様なんですよね」
「はい、そうです」
「孤児院の子供もみんな喜んでいます。
特にハンバーガーは私も作ってみたんですよ。
そしたらみんな喜んでくれました」
「そうですか、良かったですね」
「ええ、セツナ様とフォルトゥーナ様のおかげで、
最近は金銭的余裕が出てきました。
一時は経営がヤバくて、
食事がずっともやしだったこともあります…」
確かにもやしは安いのが魅力だが、
それを毎日はさすがにヤバいなと思った。
「そうですか、大変ですね」
「まぁ今は農家の方に畑のやり方も教わりましたけど、
今年は雪のせいで農作物が全滅してしまって…。
今はフォルトゥーナ様も働いてくれているので、
何とかもっている方です」
孤児院の経営って想像以上に大変なんだなと思った。
それからまた10分ほど彼女と話して、別れた。
そうしてまた歩いていると、話しかけてくる者があった。
「ああ、セツナさんじゃないですか」
冒険者をぞろぞろと連れた女性がそう言った。
「ああマーシャさんこんにちわ」
マーシャ?
ああ、確か悪い冒険者に搾取されていて、
セツナ様が独立を促した冒険者だった気がする。
「これからみんなで魔物退治に行くんですよ」
「そうですか、大変ですね」
「いや本当に独立して良かったですよ。
おかげでお金が稼げて幸せです。
あの時セツナさんに会っていなかったらって考えるだけで恐ろしいです」
「良かったですね」
「でもさすが禍福の女王ですね。
セツナさんのチームの傘下に入ってからは良いこと尽くめですよ」
「いやそれはデマですって、私にそんな力はありません」
「またまた~。
関わるだけで悪人なら不幸に、
善人なら幸せになるって、評判ですよ」
「いやそれは無いですから」
「では先を急いでいるので、また会いましょう」
そうしてマーシャとは別れた。
「はぁやっぱ有名人になると変な噂が身に付くんでしょうか…」
「さぁそれは分からないが、買い出しに行こう」
「そうですね」
そうしてしばらく歩いているとまた話しかけてくる人があった。
「おい」
「あー、そういえば塩も切れてたはずですよねー。
買わないといけません」
「おい」
「念のために砂糖も買っておきましょう」
「無視するな!」
そう言われたので振り返ると、一人の男性が立っていた。
「おや、ハニートラップ引っかかって殺されかけたハンクさんじゃないですかー」
「うっ、だからアレは誤解だと何度も言っただろう!」
「ま、どうでもいいですね。
では、私は急いでいるのでこれで」
「だから何で逃げるんだ!!」
「はぁ本当にしつこい…。
クライド君、ああいう大人になったらダメですからね」
「あ、ああ」
セツナ様がこうも露骨に嫌悪感を出すのは本当に珍しい。
こんなに嫌われるなんてこの男は何をしたんだ?
「おい、今から話を…ていうかそいつは誰なんだ?」
「私の従者ですよ。あなたには関係のないことです」
「だから何でそこまで冷たくするんだ!」
「自分の胸に手を当てて考えたらどうですか」
「だからそれは謝っただろう!」
あー、このハンクという男はセツナ様のことが好きなんだな。
でも伝え方が不器用過ぎて、セツナ様に全く伝わっていないんだ。
何か気の毒になってきた。
「じゃあ、私達はもう行きます」
「おい、待てよ!」
「《飛翔!》」
セツナ様は俺の腕を掴むと、飛翔魔法で空を飛んだ。
そして離れた所に着地する。
「全くあの男はしつこくて嫌になりますッ」
吐き捨てるようにセツナ様は言った。
それを見てハンクが可哀想に思えた。
好きな人にここまで嫌われるなんて、
本当にあの男は何をしたんだ?
それから市場に行き、必要な物をある程度買った。
「あ、ポールさんですね」
そうしてパン屋、ポールベーカリーに行くとそこは人だかりが出来ていた。
「ラララ~、あれセツナさんじゃないですか」
歌を歌うのを止めて、パン屋の店主ポールがそう言った。
「繁盛してますか?」
「ええ、おかげさまで毎日が楽しいです。
本当にあの時自殺してなくて良かったと思いました」
「頑張ってくださいね。あなたは一家の大黒柱なんですから」
「ええ! 任せてください」
それからポールさんとも別れた。
「あ、そうだ。クライド君に紹介したい人が居るんです」
「え?」
「白のダンジョンに行きましょう。《転移》」
すると白のダンジョンと呼ばれる場所に転移する。
そして中に入った。
「セツナ、来てくれたのね!」
そう笑顔の少女が突然目の前に現れた。
「セツナは最近来てくれないから心配していたのよ」
「あ、色々忙しかったからです。
ダンジョンをまた変えたり、泥棒に入られたりしたから」
「泥棒? え、泥棒に入られたの!?」
「うん、びっくりしました」
「そいつ殺してもいい?」
黒い笑みを浮かべて少女が言った。
「え、ラプラス?」
「私のセツナに…、
私の大切な人の家に泥棒に入るなんて、万死値するわ…」
「え、いや、殺したらダメですし、
そもそも泥棒がどこにいるのか分からないんですよ」
「これがあるわ」
そうラプラスが言うと目の前に小型の羽虫が現れる。
「超小型ドローンよ。
外の様子が気になって作ったの。
外見は虫だけど高性能カメラが付いているわ。
これを100体作って町に放つわ。
そうすれば泥棒もすぐに見つかるでしょう」
「カメラって何だ?」
「ああ、遠く離れた映像が見える機械です」
「ふふふ、私のセツナに手を出した報いは受けてもらうわ」
クククと含み笑いを浮かべてラプラスは言った。
それを見て怖いと俺は思った。
でもセツナ様はそうは思ってないみたいだ。
そういえばエドナさんが、
セツナ様は異常に恋愛ごとに鈍いと言っていたが、
そのせいか、ラプラスの気持ちにも気が付いていないようだ。
「ところで、その子は誰? 見ない顔だけど」
「ああ、この子はクライド君。
最近私の従者になった子です」
「まさかセツナと恋愛関係にはなってないわよね?」
じっとラプラスは俺のことを睨んだ。
「まっさかー、そんな関係ではないですよ」
「そうなら良かった。
とりあえずその泥棒は私が見つけるから待っていてね」
「ところで何で小型カメラなんて作ったんですか?」
「…セツナの安全を確かめたかったから」
ぼそりとラプラスはそう言った。
え、安全を確かめる?
それってストーカーなんじゃ…。
「え、何て言ったんですか?」
「ああ、何でもないわ」
セツナ様にはさっきの言葉は聞こえなかったらしい。
これ言った方がいいのか?
いや黙っておこう。
自分が密かに監視されているって分かったら、怖いからな。
それからラプラスとしばらく話して、
ダンジョンを後にした。
「何かセツナ様って人気だな」
「まぁみんな困っているところを私が助けたんですよ」
「助けて貰ったからみんなあんな笑顔だったんだな」
「そうだと思います。
まぁ困っている人を助けるのは当然のことですから」
セツナ様は本当に凄い。
何が凄いって本人は助けたことで、
相手に感謝を押しつけたりしていないからだ。
俺は咎の輪廻教に居た時、本当に色々な人を見た。
相手を押しのけてまで自分が幸せになろうとする者。
相手にこうすれば幸せになれると生き方を押しつける者。
相手が使えなくなるとあっさり見捨てる者。
本当に色々な人間を見てきた。
でもセツナ様はそのどれも違う。
相手を助けてもそれが当然だとセツナ様は言う。
でもそんなことが出来る人間は本当に少ないのだ。
いやごくまれと言ってもいい。
みんな自分が幸せになるために生きている。
他人のことなどどうでもいいと思う人間ばかりだ。
俺は自分の部屋に戻ると、密かに付けている日記を開く。
結論、セツナ様は愛されている。
それはセツナ様が多くの人間を見返り無しで助けてきたからだ。
でも本人は全くそのことを気が付いていない。
セツナ様のおかげで多くの人が救われてきた。
俺もその一人だ。
俺もセツナ様のことは好きだ。
暗闇しかなかった俺の人生を救ってくれた。
でもこの感情は今は隠しておこう。
人殺しの俺がセツナ様と結ばれるなんて許されることではないからだ。
だからこの想いは胸の奥にしまっておこう。
そう書くと俺は本を閉じたのだった。
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現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。
神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。
それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。
あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。
そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。
そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。
ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。
この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。
さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。
そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。
チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。
しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。
もちろん、攻略スキルを使って。
もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。
下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。
これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
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