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第3章謎の少女とダンジョン革命

162・地獄

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「とは言ったものの…」

こんなたくさんのゴミをどうにかする方法なんて私には思いつかない。
とりあえず当初の目的を果たすため、
コレーにある緑のダンジョンに向かった。

「緑ですね」

コレーの町の中に緑のダンジョンは存在していた。
壁も緑だった。
仲間は外に待機させ、私は中に入った。

「私はセツナです!!
話があって来ました!!」
「何?」

その時、目の前に褐色の肌をした赤髪の筋肉質な女性が現れた。

「ああ、アンタがラプラスの言っていたセツナかい。
数千年ぶりに仲間から連絡があったからびっくりしたよ」
「あなたは?」
「アタシはマクスウェル。
事情はラプラスの送ってきたメールに書いてあったから知ってるけど、
このダンジョンを生まれ変わらせて欲しいんだろう?」
「そうです」
「でもこのダンジョンには大したアイテムはないよ。
ラプラスのダンジョンと違って、
ここは初心者向けのダンジョンだから、
魔物も弱いし、大したアイテムは眠っていないんだ」
「えっとアイテムの種類を変えることって出来ますか?」
「出来るけど、ダンジョンの仕組みそのものを変えないといけないから、
とてつもない魔力が必要になるよ。
アンタが高い魔力を持っていても厳しいだろうね」
「そうですか。
あ、そうだ。例えば今この町にあるゴミ。
それを処理することは出来ますか?」
「出来るけど」

マクスウェルはあっさりとそう答えた。

「ダンジョンには発生したゴミを消滅させる機能は備わっているから、
出来ないことはないけど」
「え、消滅ですか? 燃やすんじゃなくて?」
「うん、跡形もなく消滅出来るよ。
ただ町一つ分のゴミとなるとダンジョンの構造をかなり変えないといけないから、
大量の魔力が必要になるね」
「それは問題ありません。
魔力なら大量にありますから」

今この町で求められているのは、
ダンジョンの経済効果よりもゴミの問題の方が大きいだろう。
それにゴミがたくさんある状態で、
冒険者達がたくさん来たらさらにゴミが増えて、
とんでもないことになるのは目に見えている。
ゴミ処理ということでダンジョンを有効活用出来るならそれにこしたことはない。

「じゃあ、決まりですね。
ダンジョンでゴミが処理出来るようになれば、
自然にも良いですし、ゴミを持って多くの人がダンジョンに来るはずです。
そしたらこのダンジョンも機能停止することはないと思います」
「なるほど、それなんだけど、その前に頼みたいことがあるんだけど、
ちょっといいかい?」

マクスウェルはそう言った。

「実はさ。ダンジョンを変える前にある男を捜して欲しいんだけど」
「え、どういうことですか?」
「実は3年前にこのダンジョンにバドっていう男が来てね。
本来であれば、
ダンジョンの管理人であるアタシとは出会わないはずだったんだけど、
そいつが通る道の壁に全てに印をつけていったもんだから、
警告のために姿を現したら、
お詫びに外の話をたくさん聞かせてくれてね。
まぁ要するに友達になったんだ」
「え、でもダンジョンって一度入ったらヌシを倒すまで出られませんよね」
「まぁこのダンジョンは初心者向けだから、
ボス自体はそんなに強くないからね。
で、バドは三ヶ月前にまた来るからって言って、
そのままずっと来なかったんだ。
約束を破るような奴じゃないと思うから、
何かあったのだろうけど、アタシはこのダンジョンの外には出られないし、
でも気になるしで、困っていたんだ。
アンタなら外に出られるだろう。だからバドを探してくれないかい?」
「良いですけど、その人の特徴を教えてください」
「写真はこれ、確かコレーの南区に住んでいると話していたよ」

写真には50代程の男性が映っていた。

「この人を探したらダンジョンを変えてくれますね?」
「ああ、バドさえ探してくれれば、何でもするよ」
「じゃあ決まりね。この男性を探しましてみます」

そうしてバドさんを探すことになった。





「バドさんか、確かここから右に曲がった郊外に家があるよ」

町の人に聞くとバドさんの家を教えてくれた。
すぐにその家に行くと、ドアをノックした。

「おや、誰ですか?」

ドアを開けて一人の青年が現れた。

「すみません、バドさんは居ますか?」
「父なら、今は居ません。
今は施設に入っています」
「施設?」
「ここで話すのも何ですから、中に入ってください」

そう言われ家の中に案内される。

「実は…」

私は事情を青年に説明した。

「そうだったんですか、
父がダンジョンの管理人と仲が良かったとは知りませんでした」
「それでバドさんは施設に入っているんですか?」
「はい、実は不治の病になってしまって…。
感染を防ぐために今は同じ病気の人が集まる施設に入っています」
「会うことは出来ますか?」
「いいえ、残念ながら感染する恐れがあるので、
面会は出来ないんです。
その代わり手紙ならいいんですが、
実は返信が一度しか来なくて…。
もしかしたら手紙を書くのもしんどいのかもしれません」
「おかしいですね。普通息子から手紙が来たら、
返信ぐらいするでしょうに」

フォルトゥーナの言うことは最もだった。
何かおかしい。そう私の勘が告げていた。

「その施設ってどんな所ですか?」
「病気になった人が最後の余生を過ごす場所です。
スタッフはみんな献身的で、いつも笑顔の絶えない場所だと聞いています。
その代わり施設に入るお金は高額なんですがね。
まぁ父が冒険者時代に貯めたお金で何とかなりましたが」
「その施設を出た人はいるんですか?」
「いいえ、居ないと聞いています」

………変だ。普通病気になっても、
奇跡的に回復する人も居そうなのに誰も居ないなんて、
私の中で嫌な予感が膨れる。

「…その一度だけ返ってきた手紙を読んでもいいですか?」
「いいですよ」

そう言って青年が一通の手紙を引き出しから取り出す。

「うっ」

それを見た時フォルトゥーナが口を押さえた。

「どうしたの」
「この手紙にはとてつもない感情が込められています」
「え?」
「何かを伝えたい。そんな感情を感じます」
「とにかく読んで見よう」

私は早速手紙を読むことにした。

ここはまるで天国のような場所だ。
ここの職員はみんな優しい。
はるがそろそろ近づいてくるな。
じっとしていられなくなりそうだ。
ごめんな。あまり返信出来なくて。
くるしい病だが乗り越えていきたいと思う。
だからあまり心配しないでくれ。
たつのも苦しいが、
すこし痛みもある。
けどがんばろうと思う。
てきとうに書いた手紙だが、何度でも読み返してくれ。

「普通の手紙ですね」

おかしいところは特にない。
でも何度でも読み返してくれってどういうことだ。

「あ!!」

その時ガイが叫び声を上げた。

「どうしたんですか?」
「この手紙、縦から読んでみろよ!」

そう言われ私は手紙を縦から読んだ。
あまりの言葉に手紙を一度落としかけた。

「ここはじごくだ、たすけて…?」
「え!?」

その言葉を聞いた時青年は明らかに動揺した。

「そんな馬鹿な! 施設は天国のような場所だと!」
「でも現にその施設は面会を拒絶しています。
それに施設に入って出てきた人は居ないんですよね。
もしかしたら実はとてつもない地獄のような場所なんじゃ…」

すばらしい施設だと宣伝しておいて、
本当は地獄のような場所なんじゃないだろうか。
じゃなかったらこんな手紙は出さないだろう。

「すぐに助けないと!」

そう家を出て行こうとする青年を私は止める。

「待ってください!
ここは私達に任せてくれませんか?」
「え、でも…」
「残念ですが、手紙一つでは警察は動いてくれないと思います。
この施設長を捕まえるにはもっと決定的な証拠が必要です」
「フォルトゥーナの言葉に私も同感です。
ここは私達に任せてください」
「分かりました。あなた達を信じます…」

しかしただの人捜しだと思っていたが、
とんでもないことに巻き込まれてしまった。
絶対にこの施設を潰して、バドさんを助けて見せる。
そう決意した。
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