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第3章謎の少女とダンジョン革命

154・恋のキューピット大作戦

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「うーん、また失敗か」

私は失敗した茶色い物体を見てそう言った。
スマホの電子書籍に味噌の作り方が載っていたので、
実際に味噌を作ってみたがこれが上手くいかなかった。
魔法で発酵速度を速くしても、
上手く味噌の味にならない。
まぁ味噌の作り方が書いてある本は、
ざっくりとしか書かれていないので、
やはり何か間違っている気がする。
それとも魔法で発酵させるのがダメなのだろうか。

「あー、何で味噌は出来ないんだろう。
あー味噌汁飲みたい」

そう私はため息を吐いたのだった。





そして私はいつものようにみんなでギルドに入ると、
受付嬢のイザベラに挨拶する。

「はぁ…」
「こんにちわ」
「はぁ…セツナか、…はぁ」
「何かあったんですか?」

イザベラは誰が見ても元気がないようだった。
普段どんなこともさらっと受け流す彼女らしくない
これ見よがしにため息なんてついて何かあったのか?

「別に…たしたことないからさ…」
「誰かに話したら元気が出るかもしれませんよ」
「うーん、じゃあ、今日の夜、仕事が終わってから、
セツナの家に行くから、話を聞いてくれるかい?」
「はい、待ってますね」

そうして仕事を早めに終わらせると、
イザベラが家にやってきた。
中に入ってもらうと、電気ケトルで温めたお茶を出した。

「あれ見たことない道具だね?」
「あー、お湯を沸かす魔道具なんですよ」
「どこで買ったんだい?」
「あー、どこでしたっけ…アハハハ」
「今はそんなことよりあなたの悩みが大事なのでは?」

説明に困っていると、フォルトゥーナがそう助け船を出した。

「実はさ。悩みって言うのがさ。
うちのギルドマスターは近いうちに、
ギルドマスターを辞めるかもしれないんだ」
「え!?」

ギルドマスターには本当にお世話になった。
その人がいきなり辞めるなんて何でだ?

「実はフォルトゥーナが原因なんだ」
「え? フォルトゥーナが?」
「わたくしがですか?」
「フォルトゥーナがさ。
ギルドマスターの失った片足と目を元通りにしただろ。
その時に病気も治ったみたいでさ。
すごく元気になったんだよ」
「え、ギルドマスターって病気だったんですか?」
「そうだよ。医者も原因が分からない病気でさ。
こう心臓がきゅーとなるんだ。
でもフォルトゥーナの回復魔法を受けたら治ったみたいで、
元気になったんだよ」

それって狭心症か何かか?
そうかフォルトゥーナは病気も癒やせるから、
足と目が元通りになった時についでに病気も治ったということか。

「でも治ったんなら良かったんじゃないですか」
「それがさ、ギルドマスターは怪我も病気も治ったから、
冒険者に復職したいって言い出したんだ」
「え? 冒険者に?」
「怪我が原因で辞めたけど、ギルドマスターは元は冒険者だからね。
体も治ったし、また冒険者に戻りたいって言っててさ。
もちろんみんな止めたけど、夢をまた追いかけたいなんて言われたら、
止めるのも悪い気がして…」
「イザベラはギルドマスターに冒険者になって欲しくないんですか?」
「当たり前だよ。
冒険者なんていつ死んでもおかしくない職業だし、危険が多すぎる。
あたしはあの人に死んでほしくないんだよ…」
「つまり好きってことですね」
「え?」

フォルトゥーナの言葉にイザベラは真っ赤になった。

「い、いや別にそういうわけじゃ…」
「好きな人に危険なことをしてほしくない。
まさに愛ですね」
「そ、そっそそそそんなんじゃないよ…」

フォルトゥーナの言葉にイザベラは真っ赤になってそう言った。
おいおい否定しているけど、恋愛ごとに鈍い私でも気が付いたよ。
しかしイザベラがギルドマスターを好きだとは…意外だ。

「好きなんですよね。ギルドマスターのことが」
「いやだから……あーもう認めるよ。
そうだよ。好きだよ。もう10年以上ずっと好きだよ」
「そんな前から好きなのに告白しないんですか?」
「だって無理だよ」

何かを諦めたようにイザベラはそう言った。

「あたし処女じゃないし、娘も居るし…。
こんなあたしを好きになんてならないよ…」

ああ、そういえばイザベラは子持ちだったな。

「でも無理だなんて、そんなこと分からないですよ」
「分かるよ。だってあたし一度結婚に失敗しているから…」

溜まっていた何かを何かを吐き出すようにイザベラはそう言った。

「あたしさ、金持ちの家に嫁に行ったことがあって…。
まぁその時結婚した旦那は商人でさ。
商売に成功して金持ちになった。いわゆる成金でさ。
向こうがあたしを気に入ったみたいで結婚しないかって誘ってきて、
あたしも金持ちの家なら幸せになれるかなって思って、
よく考えないまま結婚してさ…。本当に地獄を見たよ。
毎日嫁に来たのなら働けって、朝から晩まで家事料理掃除洗濯…。
その上姑は毎日孫産めって言ってくるし、旦那も姑に味方するし…。
居場所なんてどこにもなかったよ…。
ようやく子供が出来て、これなら認めてくれるかなと思っていたら、
生まれたのが女の子でさ。もう毎日が針のむしろだったよ」
「…そんな過去があったんですね」

いつも明るく、
何でも言いたいことを言うイザベラにそういう過去があったなんて…。
皇帝は必要以上子供を作らないと決めていたので、
私はそういう行為を強要されることはなかったが、
もし何かが違っていたら、
イザベラのように子供を産むように強要されていたかもしれない。

「それでしまいには、
旦那が余所で女作って向こうが妊娠したと分かったら、
女しか産めない女はいらないって一方的に離婚されて、
着の身着のまま家を追い出されてさ…。
本当に娘と一緒にどうしたらいいのか途方に暮れていた時に、
拾ってくれたのが今のギルドマスターなんだよ」
「そうだったんですか」

あまりに重い過去だが、残念ながら男尊女卑のこの世界では、
わりとよくある話しでもある。
悲しいが本当にこんなことが当たり前のようにある。

「でもイザベラの性格ならそんな旦那殴り飛ばしそうですけど…」
「ああ、あの時のあたしはかなり大人しい性格だったんだよ。
でもギルドに入って冒険者の相手を相手にするうちに、
大人しかった反動で今の性格になったんだよ」

意外だ。相手が誰であろうと言いたいことを言うイザベラが、
元は大人しい性格だったなんて想像出来ない。

「それでさ、助けてくれたギルドマスターには本当に感謝してるし、
尊敬もしている。
今更あの人以外の人間の元で働きたくないし、
本当にどうしたらいいのか困っていてさ…」
「迷うぐらいなら告白したらどうですか?」
「いや、あたしはキズモノだから、
子持ちだし、告白したって重いって言われるだけだよ」

ああ、そうかこの国ではバツイチの女性は基本的に再婚しづらいんだった。
一回ヤッただけでもキズモノだって言われるからな。
出戻りだって冷たい目で見られることもある。
しかもイザベラは一回結婚に失敗している。
慎重になるのも当たり前だろう。

「でも、そんなことないですよ。
ギルドマスターはそういうことを言う人じゃないと思います」
「でも…」
「どうせギルドマスターは仕事を辞めるのよ
そのうちどこか遠い所に行ってしまうかもしれないわよ」
「うっ」

エドナの言葉にイザベラは言葉を失った。
これは本人も感じていることだったのかもしれない。

「後で後悔するより、ダメでも告白したらどうですか」
「いやでも今更何を言ったらいいのか…」
「自分の思ったことをそのまま伝えたらどうです?
このままギルドマスターがどこかに行ったら、
絶対に後悔すると思いますよ。
人間ってやったことよりやらなかったことの方が、
後悔するように出来てますからね」
「…うーん、分かった。明日告白してみるよ」

そうイザベラは決意したように言った。

「じゃあ、私も手伝います。
名付けて恋のキューピット大作戦です」
「キューピットって何?」

イザベラの恋が叶うように私も出来る限りのことをやろう。
そう決意した。





翌朝、人気のない郊外にイザベラは一人で立っていた。
私達、『金色の黎明』のメンバーは木の陰に隠れていた。
覗いているのは冷やかしじゃない。
イザベラ本人が近くに居て欲しいと頼んだからだ。
もう少ししたらギルドマスターが来る頃だ。

「はぁ…心臓が破裂しそうだよ…」

イザベラはそう言った。
今日の彼女はバッチリメイクして、おめかししている。
しばらく待っているとギルドマスターがやってきた。

「どうしたこんな所に呼び出して?」
「あ、ああ、今日は良い天気デスネ…」

棒読みでイザベラはそう言った。

「声が裏返っているわね」
「イザベラ頑張れー」

そう私達は小声でエールを送った。

「ん? 何か言いたいことがあるんじゃないのか?」
「えーと、えーと、あー、今日は本当に良い天気で…」
「お前なんか変だぞ?」

ギルドマスターはイザベラの額に触れる。

「はわわ…」
「熱いから熱でもあるんじゃないのか?」

イザベラがトマトみたいに真っ赤になった。

「うわ…。あれだけ赤くなっているのに、
気が付いてません…」
「鈍いですね」

ギルドマスターって恋愛ごとには鈍いのかな。
うん、鈍そうだな。このままだと気づかないんじゃないのか。

「あ、あのあのあの」
「何だ?」
「あの好きです。付き合ってください!!」

おおー、ついに言った。
だがギルドマスターの反応は素っ気ないものだった。

「付き合うって無理だろ」
「え…?」

イザベラの顔が絶望に染まる。
私は気が付いたら飛び出していた。

「無理って何でですか!?」
「じょ、嬢ちゃんいたのか…。
ていうか無理なものは無理だろ」
「無理って何でですか!
イザベラは確かに気が強いし、ズケズケ言うし…、
でも一生懸命なんです!
ギルドマスターには正直見損ないましたよ!」
「いや、俺と付き合うと旦那はどうなるんだ?」
「「旦那…?」」

私とイザベラの声が重なった。

「旦那がいるのに俺と付き合うと浮気になるだろ」
「あのイザベラは独身ですよ」
「は? 子供が居るだろ」
「イザベラは旦那とはとっくの昔に離婚していますよ。
だから独身です」
「あー、そんな話を聞いたような気もするが忘れてたな。
てっきり結婚してるものかと」
「ギルドマスターはイザベラのことはどう思っているんですか?」
「いや、普通に好みだなとは思っていたが…」
「じゃあ、付き合えるんですか!?」
「ん? 別にいいぞ。俺でよければだが」
「やったー!!!」

イザベラは喜びのあまり私に抱きついてきた。

「セツナありがとう!
本当にありがとう!
今すごく幸せだよ!!」

そうイザベラは涙を流して言った。
そうしてアアルに一組のカップルが出来たのだった。

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