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第3章謎の少女とダンジョン革命

149・孤独の機械人形

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「えっと何者かって言われても私はセツナですとしか言いようがないです」
「そう、私の名はラプラスよ。
このダンジョンを管理する学習型AIが搭載されたアンドロイドよ」
「ところで1万年も前からここに居ると言っていましたね。
ひょっとしてアトランティス人があなたを作ったんですか?」
「アトランティス?」

ラプラスはぽかんとした顔をした。

「ああ、セツナ。
アトランティスっていうのは学者が勝手に付けた名前だから、
当時はそう呼ばれていないと思うわ」
「ああ、仮の名前ってことですか?」
「そうよ。でも本当に1万年も前から動いているなんて信じられないわ」
「まぁそう思うのも無理はないわ。
私でもこれだけ長い年月が経っているのに動いてるなんて、
当時私を作った人間も予想出来なかったでしょうね」

ラプラスは悲しそうにそう言った。

「それで私の友達になってくれますか?」
「悪いけれどそれは無理だわ。
私はまもなく起動停止を迎えるのだから」
「起動停止…?
一体どうして?」
「このダンジョンは入った人間から少しずつ魔力を貰って稼働しているの。
そして貰った魔力で発電したり動力に変えているの。
でも最近では入ってくる人間は減り、
ダンジョンもう最低限の運営しか出来なくなっているの。
後50年もすれば私は起動停止するでしょう」
「そんな…どうにか出来ないんですか?」
「1万年前であれば、
外の太陽の光で魔力を補給することも出来たけど、
1万年も経った今、その機能は壊れてしまったわ。
だからダンジョンに入る人間を頼るしかないけれど、
わざわざ死にに行く酔狂な人間は居ないと思うわ…」
「確かにそうですね…」

1万年も一人ぼっちだったのに、
さらに起動停止してしまうなんて、救いがない。
何とかして助けたい。
ラプラスがこのまま死ぬなんて…かわいそうだ。

「心配しなくても私には感情は無いから、
死ぬことは怖くないわ」
「それは嘘ですよ」
「いいえ、私は―――」
「だったらどうして泣きそうな顔をしているんですか!」
「ッ!?」

そう言うとラプラスは驚いた顔をした。

「本当は死ぬのは嫌なんでしょう!?
でも我慢して、自分には感情が無いって言い聞かせて…!
本当はあんたは生きたいんでしょう!?」
「でも私は機械で…」
「機械でも心を持っていたら人間と同じですよ!」
「ッ!?」

私の言葉にラプラスは大きく目を見開く。

「本当は生きたいんでしょう!?」
「生きたい…、でも仕方が無いのよ。
私は1万年も稼働していたの…。
もういつ死んでもいい。でもそれ以上に死ぬのが怖いの…」

そうラプラスは涙を流して言った。

「死ぬのが怖いのはみんな同じですよ…。
誰だって死ぬのは怖いです。
だから私はあなたを助けたい…。絶対に助けたい」

あの牢獄の中、助けてくれたアーウィンのように、
私はラプラスのことを助けたい。
このまま見殺しになんて出来ない。

「助けると言っても方法はあるのですか?」

フォルトゥーナが冷たい目でそう言ってきた。

「無い。でも助ける方法はきっとあるよ」
「はぁ、あなたは本当に救いようのないお人好しですね。
で、その方法は?」
「分からない。でも図書館にいけば何か方法が載っているかもしれない」
「アトランティスの言語は簡単な単語しか分かっていないんですよ。
図書館になんてあるわけないでしょう」
「それはそうだけどまだ50年はあるんです。
きっと何とかなるよ」
「全くあなたはアホですね。
分からないんですか?」
「何が?」
「問題はこのダンジョンに人がたくさん来たら良いんでしょう?
来させる方法ならあるじゃないですか」
「え? でもダンジョンは入ったらそうそう出られないし…」
「はぁ、アホアホきのこに脳みそやられたんですか?
こんな簡単なことに気が付かないとは」

やれやれといったようにフォルトゥーナは肩をすくめた。
アホアホきのこって、そんなきのこあるの?

「ただの冗談ですよ。
で、ダンジョンに人が来ないのは、
恐ろしく強いヌシを倒さないと出られないからです。
でももしもっと気軽にダンジョンに入れるようになったらどうでしょう。
人が殺到すると思いませんか?」
「あ…確かにそうよね」
「各階層に触れたら外に出られるワープポイントを作るのです。
それとダンジョンに入ったら仲間とはぐれるのは止めて、
チームで攻略出来るようにするんです。
そして入る度に構造が変わるのは止めて、
ダンジョンで気絶したら、
自動的に外に出られるようにするのです。
これが実装されれば、人が押しかけるでしょう」
「ということは起動停止しなくていいんですね!!」

さすがフォルトゥーナ。こんなこと私だったら思いつかなかっただろう。
ラプラスも一瞬笑顔になるが、その顔が曇った。

「でもそれを実装するとなると、かなりの魔力は必要だわ。
最低でも1625人分の魔力が必要になるわ」
「魔力ならありますよ。
セツナの魔力は無限ですから」
「なんでそれを知っているの?
って、まぁ今はそれはいいか。
でも気軽に入れるようになったらそれはそれで困らないかな」
「そうですね。何かしらのデメリットがないと拍車がかかりすぎるかと」
「じゃあダンジョンの中で気絶したら、
所持金の半分と、ダンジョンで得たアイテムを全て失うとかどうかな」
「それならついでに魔物と戦っても命を落とさないようにもしましょう。
このままだと死者が増えると思います。
私達でも苦戦したんですから、普通の冒険者には厳しいかと。
魔物が人を殺さないように指示することは出来ますか?」
「出来るわよ」
「じゃあ決まりですね。それで魔力はどこに入れればいいの?」
「ついてきて」

ラプラスがそう言うと周囲の景色が変わった。
その部屋は見るからにSFって感じで、
たくさんの機械があった。
壁には数多くのモニターが設置されていて、
ダンジョンの中が映し出されていた。

「このモニターは何ですか?」
「監視カメラよ。ダンジョン内なら、
どこで何が起こっているのかすぐに分かるようになっているわ」
「へぇ便利ですね」
「セツナ、かんしかめらって何?」
「エドナ、その説明は長くなるので、今は言えません。
ただまぁラプラスにはダンジョンのことは何でも分かるってことですよ」

しかしこのカメラって軽く300台ぐらいはあるが、
これだけのカメラの映像は人間だったら処理出来ないだろうが、
そこは機械のラプラスだから出来るのだろう。

「それでどこに魔力を注げばいいんですか」
「ここよ」

そう言ってラプラスが一つの宝石を指さす。
そこには1メートルほどの大きさの赤い宝石があった。
きっとこれがダンジョンの動力炉だろう。

「行きますよ」

私は宝石に手を触れ、そこにありったけの魔力を注ぎ込む。
最初はくすんだ色をしていた宝石に、
赤みがどんどん増していく。宝石が赤く輝いていく。

「はぁ、こんなもんですかね」
「まだ足りないわ」
「うりゃー!!」

魔力を注いで注いで注ぎまくる。
ちょっとふらふらしてきた。
魔力切れが近いのかもしれない。
そういえばステータス上は魔力は無限だけど、
それは地獄神が魔力を供給してくれるおかげであって、
一度に急激に魔力を消耗すると、体に負担がかかるのだ。

「はい、もういいわ」
「ふえー」

ラプラスにそう言われ、私は座り込んだ。
もうダメだ。めまいと吐き気がする。

「これで変わったんですか?」
「いいえ、ダンジョンの構造自体を変えるから、
あなたの言ったダンジョンにするには丸一日かかるわ。
それまでは誰も入れないから気を付けてね」
「そうですか、はぁ…。疲れた…」
「今日はとにかく休んだ方がいいわ。
ダンジョンの外に出すから、もう休んで
それと………ありがとう」

そうラプラスは笑った。
疲れたが1人の少女を救えて良かったと思った1日だった。
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